【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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作者は人の心があるので、そろそろ陽灯くんの幸せ空間を描写しようと思います。
ところで陽灯くんも男なんですよね、しかし紡絆くんになってから勇者部とかいう美少女集団の中に居ても平気で過ごせた…その理由はこの話説あるかもないかもしれない。
東郷さんの水着姿? あれは時系列的に紡絆くんが既にウルトラマンになりつつあったからせーふ。
あと手に入らないので仕方なくネットで追憶の園子買ったんですよ、9000円くらいで。
CSMに比べたら安いね!!(感覚麻痺) ほんと、過去に戻れるなら先行上映だからって行かない選択するな、行けバカ!!と言ってやりたいです。お前数年後にはゆゆゆにハマってグッズ集めるどころか約12万もする特典にどんぶりが付くゲーム買うからな、と言ってやりたい。
ゆゆゆは知ってたけど、ちゃんと見て作者がハマったのは勇者の章がアニメ化された時ですからね…(2期始まる1週間前に見てハマった)





「呼称」

 

 

 

◆◆◆

 

 第 11 話 

 

呼称

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

流れる。

自身の体が落ちていくように、肉体が流れていく。

まるで優しい波に攫われているかのような緩やかさ。

オーロラのような神秘な光の奔流の中で身体を委ねる。

以前にも、似たような場所に来たことがあった。

 

(俺、死んだのかな……まぁあれは死んだかもしれないか。踏み潰されたし。みんな無事かな…それならいいかな…)

 

自身の最後の記憶を覚えている陽灯は今度こそ死んでしまって、あの世に続く道に行ってるのかもしれないと思っていたが、そんな彼が思うのは後悔よりも先に人の心配だった。

そんな彼の考えを否定するように、橙色の光がY字を描くように形成され、巨人の姿を象る。

 

(あれ、巨人さんだ。俺死んだんじゃ……ねえ、なんでそんな悲しそうなの? キミも神樹様も同じだ……なら別れを言いに来たのかな…)

 

巨人は顔の変化がない。

だからこそ、表情から読み取ることも出来ないし分かる訳では無い。

ただそう感じただけで、そう思うと陽灯も悲しくなる。

別れとはいずれ訪れるものだ。

だから陽灯もその事は否定しないし、自身だって継受紡絆という存在から遡月陽灯になる前に周りと別れを告げた。

それでも、陽灯は笑顔だった。

別れるのが嫌なのではなく、いずれ別れる日があってもその時は笑顔がいいという考えだからこそ、嫌なのだ。

でも悲しそうではあるが、そんな様子は感じない。

それどころか巨人は首を振って否定したので、死んだわけでも分離が目的では無いのだろう。

ならば余計に、陽灯は分からなかった。悲しい理由が分からない。

みんな無事ならいいのでは、と思ってしまう。

 

『……陽灯』

(巨人さん、ありがとう)

『………』

(よく分からないけど俺が生きてるなら巨人さんのお陰かなって。けどごめんね、あんまり役に立てなかったみたい。本当は巨人さんの分まで俺が終わらせてあげたかったんだけど……だけどね、巨人さんが無事なのはよかったよ!)

『………』

 

陽灯は申し訳なさげに謝って、巨人が無事なことに嬉しそうだった。

そんな陽灯に巨人は何も返すことなく、少し黙ってしまった。

結局、巨人は何も言わずに。

 

『……キミを待つものたちのところへ戻るんだ』

(…だね、帰ろう。一緒に!)

 

目を覚ますことを告げた巨人に対し、陽灯は巨人の元へと向かっていった。

眩い光が、二人の世界を明るく照らし出す---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い瞳が赤い双眸へ変革する。

ただそれも一瞬で、すぐさま黒へと戻ると陽灯は知っている天井を見た。

割と怪我をするので、よく世話になっている場所。

 

「保健室?」

 

それはもう見覚えがあった。

しかし前の記憶が無い。

水のような敵に踏み潰されたという事実とその時の激痛の記憶は残っているが、その後が分からない。

三人は無事なのか、敵はどうなったのか。

分からないことだらけだが、もう()()()()()()ため、とりあえず体を起こした。

 

「すう……すう……」

 

窓を見れば、気がつけば夕刻だった。夕陽が沈みかかっている。

もしかしてやらかしたのではと内心焦るが、もう授業は終わっている。

全授業無断欠席というとんでもないことをしてしまったことに気づいて考えるのをやめた。

それより誰か居ないのかと周りを見て、ふと視線が下を向く。

そこには腕を枕にして眠っているブロンドカラーの少女がいる。

陽灯にとっても見覚えのある人物。

よく分かっていないが、あの敵と戦っていた少女の一人。乃木園子だった。

 

「すぴー……」

 

そういえばあの服とか武器ってなんなんだろう、と今更ながら思いながら陽灯はいつものように傍で眠る園子の髪を優しく撫でる。

その時に気づいたが、腕に包帯が巻かれていた。

他にもあるのでは、と服を捲れば腹にも巻かれている。

横腹が削れてた記憶があるため、それが理由だということは陽灯でも分かった。

 

「えへぇ……」

「むー……ん?」

 

踏み潰されたあとの記憶が無いせいで全く分からず、緩やかな表情になった園子を見て少し優しげに微笑んでから悩ましげに唸る陽灯は人の気配が近づいてくるのを感じ取る。

 

「失礼します…」

「って誰も居ないな。出払ってるのかな」

 

聞き覚えのある声がふたつ。

 

「…!」

 

ここが保健室だとしたら何処か怪我したのではと心配になった陽灯は掛けられていた毛布を投げるように剥ぐと勢いよく立ち上がろうとして横腹が物凄い痛みを発したので、ベッドの上で両膝を着いてしまう。

体が痛くなかったので治ったと思っていたらしく、流石に勢いよくするのはダメだったらしい。

その際に衝撃が起きた影響か、園子は目が覚めたように顔を上げて目を擦る。

 

「……あ」

「……あ」

 

目が合った。

黒と灰色の目。似たようで似ていない色。

横腹が痛くて包帯越しに赤くなっているのは傷が開いた証拠だ。

そこを両手で抑えている陽灯と目を再び擦る園子。

そして。

 

「あそこって……!」

「まさか、遡月くんの身になにか……!?」

 

二度目の強い音が発生した。

音の発生源を見てみれば、眠っていたはずの陽灯が居た場所だ。

しかも彼は唯一勇者でなくとも男でありながら樹海に入り、バーテックスと戦った。

学校をわざわさ狙うものが居るとは思えないが、あれほどの大きな音が鳴ったということは何かあったのではないかと急いで二人が保健室のコントラクトカーテンを勢いよく開けて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽灯!」

「大丈……ぶ?」

 

そこには、ベッドに押し倒された陽灯と上に跨った状態で抱きつく園子の姿があった。

二回大きな音があったことから察するに二回目は園子が抱きついたのだろう。

 

「…あ。銀と…鷲尾さん?」

 

困ったような顔はしているが、割と平気そうな様子で銀と須美を見る陽灯。

しかし傍から見れば女子小学生に押し倒されている男子小学生という極めて危険な状態。

反対じゃないのが救いだが、普通は逆ではないだろうか。

ただ左腕を園子の背中に回して右手で頭を撫でているのは彼なりの気遣いだったりするのかもしれない。

今はそれが逆に事案にしか見えなくなっているわけだが。

 

「な、な…ななな…なにをしてるの!? いくら友達でも、そそそういうのは早いというか健全な付き合いというものが……!」

「あれ!? 鷲尾さんがなんか見たことの無いような反応をしてる!?」

「あ〜すみすけとミノさんだ〜」

「陽灯は…無事そうだな、うん」

 

耐性がないのか顔を真っ赤にしていつものような鋭さがない須美とそんな彼女の珍しい姿に驚く陽灯、今さら気づいて呑気に名を呼ぶ園子と無事だということだけは理解した銀というなかなかにカオスな現場が出来上がってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ特にそういった疚しいことをしてたわけでもなく。

騒ぎを聞きつけて担任でありながら監督役を務めている安芸がやってくるまで続いてしまっていた。

詳しいことは安芸は須美から聞いており、陽灯は安芸からお役目について聞かされた。

そして今は検査中なので、三人は保健室に居ない。

 

 

「これは……」

「先生?」

「あれほどの怪我をしてたのに、ほとんど治っている…? それに鷲尾さんの報告を見る限り……神樹様はこれを見越して…」

「???」

 

なんだか納得している様子だが、残念ながら陽灯は全く分かっていない。

そんな彼の様子に気づいたのか我に返った安芸は首を小さく振る。

 

「いえ、なんでもないわ。治ってない箇所もあるけれど、安静にしていたら大丈夫よ。あんなに重傷だったのに…遡月くんは覚えてないのよね」

「はい! 全く分かりません!」

「………」

 

何故か得意げに胸を張って言う陽灯に安芸は困ったような呆れたような、どっちとも取れない表情で額に手を置いてため息を吐いた。

肝心の本人が分からないなら誰が分かるというのか。それこそ神樹様しか分からない。

その神樹様とも、こちらから言葉を伝える手段はない。

 

「先生。事情は聞いたけど、鷲尾さんも銀も園ちゃんも、お役目についてるんだよね。あの戦いが、そうなんだよね?」

「…ええ、本当は関係の無い一般人に話していいことじゃないのだけれど、貴方は別ね。その通りよ。ただまさか、こうして樹海化に巻き込まれるなんて予想外だったわ」

 

大赦は神樹様を疑っていたわけじゃない。

むしろ神樹様が希望になるとまで言った時点で陽灯---正確には継受紡絆という者を監視下に置くのは当然だ。

勇者よりも優先してする程に、大赦は神樹様を信仰している。

だからこそ勇者でもない彼がどうやって樹海化した世界へ入り込めるのか。どうやって戦うのか。仮に樹海へ行っても、何が出来るのか。

それらを調べた結果、大赦でも突き止めることは出来なかった。()()()()()()()()に”巨大隕石“などという違和感は残されていたが、そこから先は安芸では知る術はなく。

だけど上は知っていたのだろう。

故に『可能性』のひとつとして留めることにした。

勇者たちに伝えなかったのは大赦ですら事実を確認出来ていない案件を伝えて、混乱を招いてしまってお役目に集中出来なくなれば困るからだ。

そもそも誰が、()()()()()()()()()()()()ということを信じられるのだろうか。予想出来るのだろうか。

普段の行いが真面目で品行方正だった須美の言葉と神樹様が予め陽灯を指名する言葉がなければ信じられなかっただろう。

 

「もしかして……俺っておかしい?」

「適切ではない言葉で良いなら、『異常』ね。その治癒力も樹海に入れることも、その力も。ただバーテックスの他に怪獣が現れたというのなら…きっと神樹様はそのために貴方を指名したんじゃないかしら」

「難しい話は分からないよ、先生」

「……つまるところ、遡月陽灯くん。貴方にはこれから正式に鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子の三名の勇者とともにお役目に就いてもらいます。無論、訓練もね。

これは上からも認められているわ。ただし、これは人類史上初の出来事。何より、勇者に選ばれた訳では無い貴方にも選択権はある。だから貴方次第---」

「やるよ! だって三人が危険な目に遭うかもしれないのに、見て見ぬふりなんて出来ないから! 大丈夫、俺がみんなを守ってみせるよ!」

 

教師としてではなく、一人の大赦の者として告げた安芸に陽灯は一瞬すら悩むことなく答えて見せた。

考える時間を与えるつもりが即決した姿には流石に呆気に取られてしまう。

 

「それに俺に選択なんてないでしょ?」

「---」

 

安芸は心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。

そう、選択などない。

こればかりは世界のために陽灯は必ずやらなければならない。もし断ったとしても、何かと手を尽くして必ずお役目に就かせる。

子供だからって、関係ないのだ。

大人たちは栄誉あるものだと言って、強制させる。

選択を与えているようで、本当は与えていない。

そもそも何も出来ないなら無駄な犠牲が増えるだけでやらせる意味がなかったが対抗出来ることが分かってしまった今は神樹様の言葉は大赦が思っていたよりも大きな意味があるということを理解させられたのだ。

故に、絶対にさせられる。

例え安芸がやめさせようとしても、無理なことでもある。

しかし---

 

「そこに誰かいるなら、そこに守らなくちゃいけないのがあるなら俺に逃げるなんて選択は絶対ない。例え力がなかったとしても答えは同じだったと思うんだ」

 

それは陽灯も同様だった。

思惑に気づいてるわけでも裏の意味に気づいてるわけでもない。

陽灯は陽灯である限り、死ぬ可能性があろうとも『誰かを助けるため』なら逃げる選択肢は彼の中から消える。

少なくとも樹海化した世界に勇者という存在が居る限り、彼は何があっても戦うだろう。

いや、何があっても参加するだろう。

勇者の他にも神樹様が居るのだから。

そう、そもそも彼は迷う選択肢なんて放っから持っていないのである。

やるか・やるかの二択しかない。

 

「だから安心してね、先生! 俺、頑張る! この世界もみんなも守る。園ちゃんたちがいつも通り過ごせるためにも! 絶対みんな、俺が守ってみせるから!」

 

そう言って彼はいつもの笑顔を作り出した。

彼としては、安心させたかったのかもしれないが---これがまだ何も知らされてないなら理解出来た。

敵と命を懸けて戦うだなんてイメージ出来る人の方が少ない。

だが、陽灯は死ぬかもしれない思いをしたのに迷いがない。

遥か昔、人類同士で戦争をしていたことがあった。

大人であっても戦争に行く時は誰しも恐怖というものがあったし迷いもあった。

それが、ただ普通に生きていただけの子供が即決したのだ。

そんなこと出来るだろうか? 直接強制したわけじゃない。彼が絶対にやらないといけないということは、彼は知らない。

だからその姿は頼もしいと感じるかもしれない。その姿は勇気があるように見えたかもしれない。

なのに安芸はその姿にただただ、不安だけを覚えた。危うさを感じ取った。

例えるならそう、彼は()()している。狂気の沙汰じゃない、と。

正してあげるのが大人の役目で。

それを出来ないのが大赦の人間という立場で。

出来ないのが、世界のためだった。

人の気も知らず気楽な様子でニコニコしている陽灯に安芸は手に力が籠る。

陽灯にではなく、任せるしかない事実への怒りだ。止めてあげられない、先生だというのに導いてやれない自分に対してだ。

しかしこの任を担う大人として抑え込んで、大赦の人間として彼にちゃんと言葉として告げる。

 

「……サポートはするから、これからよろしくね」

「はい! よろしくお願いします! あっ!」

 

日常を過ごす時と変わらず明るくて元気一杯。

普段と変わらない笑みはどこか安心させるものもあったが、そんな彼は何かを思い出したような声を挙げると申し訳なさそうな顔を作った。

 

「せ、先生…もういい? 犬置いてきたままだったから大変! 早く行ってあげないと!」

「そうね…検査も終わったし伝えることも今は無いから---」

「失礼しまーす!」

 

話を最後まで聞くことなく終わったと見れば速攻でドアを開けて駆け出した陽灯。

ドアの向こう側で強い音が鳴り響き、思わず廊下を見れば陽灯が派手に転んでいた。

その姿を驚いて見ている三人の姿があって、陽灯は横腹を抑えながら走っていくと、三人は保健室と陽灯を何度か見て、また慌てて追っていく。

あまりに騒がしい姿に呆れ返り、口元を緩めた。

願わくば、こんな日常の日々が続くようにと。

いつ死ぬか分からない戦いに赴くことになってしまった彼が、彼女たちが子供らしく健やかに生きられるような、そんな願いを---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬を回収した陽灯は帰り道を歩く。

皆とは既に別れてしまい、今は一人と一匹である。

ぐてーとナマケモノのような体勢で陽灯の頭の上に乗って脱力しているチワワ。陽灯は少し慎重に歩いてはいるが、チワワの方は気楽そのものである。

 

「巨人さん」

 

内の存在に呼びかけるも、反応が返ってこない。

いつもなら返ってくるのに、陽灯は不思議そうにした。

独り言でしかない、そんな言葉を述べる。

 

「俺を助けてくれたのは、巨人さんだったんだね。ありがとう、みんなを助けてくれて。それに怪獣の存在……あの時の怪獣、なんだよね」

 

陽灯には記憶がない。

それはバーテックスに踏み潰された際の激痛で意識ごと持っていかれたからだ。

体から嫌な音が響いていたのは記憶に新しい。

少なくともバーテックスの質量を考えるならば骨が折れるどころか砕けていたかもしれない。

つまり、肉体を動かせる者は居なかった。

陽灯の中に、もうひとつの存在が居なければ。

 

「頑張るよ。俺がやることでみんなを守れるならきっと、俺にしか出来ないことなんだ」

 

返事は無い。

それでも陽灯は言葉に出すことで本音を伝えたかった。

返事がないならそれはそれで構わなかった。

苦笑して、頬を叩く。

既に暗くなってしまった夜空には、星々は何も無く。これからの未来を暗喩するかのようにその先には暗闇しか広がっていない。

ただ陽灯の目には何も無いはずの夜空の星を写すかの如く、一筋の光が輝いていた。

どんな星々よりも先に輝かんとする、一番星の光。

瞬きすれば、その光は既に無く。

陽灯は少し急ぎ気味に家へと帰って行く。

 

「ただいま〜!」

 

玄関を開けたら、大きな声で帰ってきたことを伝える。

複数の足音が聞こえる。

時間的に朝居た使用人たちは居らず、陽灯は別の人たちを思い浮かべて声をかけようとした。

 

「ごめんね、おくれ---」

「陽灯様!?」

「いっっっ!?」

『ワンッ!?』

 

がばっ、と勢いよく抱きしめられた。

陽灯は横腹に激痛が走り、声にならない声が出てしまったが、何より何処がとは言わないが位置的に顔が埋まって息苦しい。

声から誰かを察する。

 

「く、苦しいよ…(すず)さん」

「はっ!? す、すみません。いつもより帰ってくるのが遅くてつい…あれ? さっき違う声が…ってえぇ!?」

「あ、ごめんね。犬連れて帰ってきちゃった。大丈夫かな」

 

慌てて離れては謝るのは、短めの明るい茶髪の女性。

ただ外見的に使用人の中では一際若く、陽灯との年齢も近いだろう。

そんな彼女は陽灯が抱えた犬に驚きの声を挙げる。

 

「お、恐らく大丈夫かと思いますが…」

「そっか…あれ? でももう帰ってる時間だよね。どうして? 明日も学校あるんじゃ…」

「奥様方に無理を言って残らしてもらったんです。心配でしたので……」

 

それもそうであった。

陽灯は小学生だが、学生で働いているということは高校生か大学生。

大人たちの中では比較的歳が近いのも頷ける。

心配させてしまったことには、陽灯は謝ることしか出来ない。

そう思っていたら、さっき聞こえてきた複数の足音がようやく近くなってきた。

 

「鈴さんあまり走るのは感心しませんよ」

「怪我したら大変だからな」

「お、奥様、旦那様…申し訳ありません!」

 

現れたのは養子として迎えてくれ、今はもう義理の親となった澪と夜霧。

その後ろには二人に着くように数人の使用人。

走ってきたであろう鈴に注意をしていたが、そこには思いやりしかなく、鈴は頭を下げて謝罪していた。

 

「分かれば良いのですよ。……おかえりなさい、陽灯さん」

「おかえり、陽灯」

「…ただいま、澪さん。夜霧さん」

 

それはともかく、陽灯に目を向けた二人は迎える言葉を。

陽灯は笑顔で帰宅したことへの挨拶の言葉を告げる。

とりあえず靴を脱いで上がるとランドセルを肩から外すと、ランドセルを取られてしまった。

 

「とりあえず…犬、預かろうか」

「あ。犬はその…大丈夫?」

「経緯は聞きたいけど、捨てて来るようにだなんて言えないからね。可哀想だ。頼めるか?」

「仰せの通りに」

 

そう告げて夜霧が指示を出すと後ろから出てきた白髪白髭の古典的老執事に陽灯は犬を差し出すと、彼は丁寧な所作で受け取っていた。

素人目からでも分かるほどに、洗練されている。

陽灯はひとまず大丈夫そうなことに感謝の言葉を述べた。

そしてここで話すことでもないため、ひとまずリビングに移動することにした。

いつもと同じ席---に座るはずが。

 

「…へ?」

 

気がつけば抱き上げられ、いつもの席ではあるが椅子にではなく、澪の膝の上に座らされた。

流石の陽灯もポカーンとしている。

陽灯は小学六年生の割には身長も体重も平均を下回っているから軽いとはいえ、まさか膝上に座らされるのは予想外だった。

思わず視線を後ろへ向ければ、優しげに微笑まれる。

 

「えっと…?」

「どうかしましたか?」

「な、なんでもないよ」

 

どうしてこうなったのか分からないといった様子の紡絆に夜霧が困ったように眉を下げながら首を横に振った。

諦めて欲しいということだろう。

後ろから抱きしめられ、陽灯の顔が珍しく赤く染まっている。

 

「…うーん本題に入りたいんだけど、いいかな」

 

陽灯は身を縮ませながら大人しくなっている。

普段からは考えられないギャップに何人か悶えているのを見て、ちょっと申し訳なさそうに切り出す。

 

「構いませんよ」

「お、俺も…ダイジョウブ…」

 

ちょっとご機嫌な澪と恥ずかしそうな陽灯だが、本人たちがそう言ってるからだろう。

夜霧は今度こそ話し出す。

 

「ひとまず、お疲れ陽灯。君の活躍は大赦から送られてきた報告書で知ったよ」

「ん…俺はあんまり、何もしてないよ? その、途中から記憶がないし……」

「そんなことは無い。陽灯が勇者と同じように樹海へ入れることは想定外だったからね。正直俺達も半信半疑だった」

 

神樹様はこの世界にとって全てであり、信仰の対象だ。

しかし全員が神樹様の言葉を鵜呑みしているわけではない。

陽灯は神樹様から指名をされたが、勇者としては選ばれていない。

であるならば、何故指名されたのか。

今となっては理由が明白であり、戦力として途方もなく大きな力を持っていたからだ。

陽灯本人が無自覚でも、結果が全てを理解させてしまった。

 

「だから報告書を見た時はびっくりしたよ。椅子から転げ落ちるくらいには」

「そ、それは大丈夫だったの?」

「はは、痛かったけど陽灯に比べればマシだ。陽灯の方こそ、怪我はどうなんだ?」

「俺は大丈夫だけど……」

「本当ですか? 痩せ我慢していませんか?」

「横腹がまだ痛いけど、それだけだよ」

「そうですか……後で見せてくださいね」

「う、うん…ありがとう」

 

怪我のことも報告書でバレていることから、知り得るものは全て知られていると見ていい。

それも情報は既に共有されているようで、驚きはなかったが素直に答えた陽灯の頭を澪は撫でていた。

いつもと違ってスキンシップが多いのは、心配させてしまったからかもしれないと陽灯は少し思った。

 

「しかし光の巨人、か……陽灯が変身したんだろう?」

「だと思う。さっきも言ったけど、意識がなかったから……」

「そうか…他に分かることはないか?」

「うーん…さっぱり。気がつけばみんな止まって、樹海に居て…鷲尾さんや銀、園ちゃんが戦ってたから行かなきゃって思ったんだ」

「ふむ……」

 

何かを考えるような仕草を夜霧はしている。

理由を探ろうとしているのだろう。知っているのと知らないことでは大きく違う。

 

「ダメだな、分からない」

「仕方がないかと。どんな理由であれ、陽灯さんは樹海化した世界でも動けるみたいです。それだけ分かれば、今は良いかと思います」

「そうだね…分からないものは仕方ない。本当に聞きたいのはこんなことじゃないんだ」

「?」

 

名目上聞いただけで、本題はそこじゃなかったらしい。

キョトンとする陽灯に夜霧は真剣な顔を作った。

さっきとは全く違う様子に、陽灯もまた顔が引き締まる。

 

「本当に聞きたかったことだが、陽灯はもう経験しただろう。勇者のお役目がどんなことなのか。何をするのか。お役目につくとは敵と、バーテックスと戦うこと。神樹様を守るために、世界を守るためにその身を投じるということだ。その覚悟があるのかどうか、ただ聞きたい」

「……」

「死ぬかもしれない。実際、陽灯は死にかけた。その光の巨人が居なければ、間違いなく死んでいただろう。

俺は別に陽灯に戦えとお役目につけ、と強制はしない。嫌なら何とかするつもりだし、逃げたっていい。俺にとって陽灯は血が繋がってなくとも、息子のようなものだ」

「ええ、私も同意見です。陽灯さんが望むなら、私はこの家を捨てたって構いません。例え誰が敵に回ろうとも、あらゆる手段を用いって阻止しましょう。私たちは陽灯さんの味方ですから。それが……親というものでしょう?」

 

二人から感じられるのは、純粋な愛情だった。

血は繋がっていない。それどころか、一緒に暮らしてまだ一年も経っていない。

それでも夜霧も澪も陽灯を本当の息子だと思ってくれて、心から心配してくれている。

もし陽灯が望めば、本当にするだろう。家を捨て、あらゆる手段を使って守ろうとしてくれるはずだ。

だからこそ、陽灯は---。

 

「ありがとう。だけどね、俺はやるよ。これは俺にしか出来ないことで、俺がやるべきことで……何より、こんなふうに俺を思ってくれる夜霧さんや澪さん…ううん。みんなのことを守りたいんだ。俺にはそれをできる力がある。俺が戦うことで、みんなを守れる。

それにさ、鷲尾さんや銀、園ちゃん…女の子が戦って命を懸けてるのを見てるだけなんて出来ないよ。勇者が世界を守るなら、そんな彼女たちを守る誰かが居るべきなんだ。みんなの未来を守るためにも、俺は絶対に逃げない。ワガママかもしれないけれど……俺は今の日常も、これからの日常も…守りたいから」

 

その全てを守りたいと逆に思ってしまう。

強く願ってしまう。

逃げるのではなく、立ち向かうことを。

陽灯が救いたいと願うのは、ここに居るみんなだけでは無い。文字通り、全ての人々。

人が思い描くにはあまりに理想でしかなくて、夢物語でしかなくて、烏滸がましいかもしれない。

事実として陽灯は神でもない。救えない命の方が多く、それこそ、病気なんて治せない。怪我なんて治せない。失った命を救えない。

だけど手を伸ばすことくらいはできる。そんな人達が生きていけるような明日を守ることは出来る。

その覚悟はとっくの昔に、出来上がってしまっていた。

 

「……」

 

何処までも真っ直ぐで、嘘を一切吐いていない。

迷いがある人間ならば、口ではそう言っていても仕草や顔、瞳を見れば分かる。

陽灯の目は揺らがず、真剣で、ただ思ったことをそのまま言ったかのようだった。

 

「…分かった。陽灯は一度決めたことはやり遂げる子だ。俺が、俺たちが何を言ってもやるだろうしな」

「あはは…俺、深く考えるの苦手だから…思いついたことや直感で動くことが多いから。自分がそうしたいと思ったから、そうするんだ。それはお役目も同じ」

「分かってる。澪もいいか?」

「他人が決めたならまだしも、陽灯さんが決めたことなら口を挟む気はありません。ただ約束して欲しいことはありますが」

「約束?」

「はい、必ず帰ってきてください。こうして触れ合えるだけで、私はとても幸せな気持ちになれますから」

 

ぎゅっ、と強く抱きしめられる。

約束。

陽灯にとってそれは、強い鎖のような言葉だ。

その理由は約束を破ってしまえば、悲しむから。傷つけるから。

『みんな』が幸せに過ごして欲しいと願う陽灯だからこそ、大きな意味を持つ。

 

「もちろんだよ。だって今の俺は、ここが帰ってくる場所だから」

「そうですか…いえ、そうですね。私はお待ちしてますから」

「うん、ありがとう」

 

澪の表情が和らぎ、いつものようにお淑やかに微笑むと、陽灯もまた笑顔を浮かべた。

そんな陽灯の頭を撫でると、陽灯は少し照れ臭そうな笑顔に変化する。

 

「……で、あとひとつ伝えておきたいことがあるんだ。と言っても、大したことじゃないんだけどね」

「うーん…あっ、怪獣のこと?」

 

唯一触れられていなかった存在を口にすると、夜霧はゆっくりと頷く。

 

「そう、全く情報が得られなかったというのが成果でしかないんだけどな。ただ神樹様も重く受け止めているのか宇宙から飛来した存在と教えてくれたようだ。それが全ての情報かどうかは…上のことだから分からないけどね。

それでも大赦は怪獣を敵と認識し、こう呼ぶことにしたらしい。

異生獣---スペースビーストと」

「スペースビースト……」

「そしてコードネームは、『ザ・ワン』。始まりのスペースビーストという意味…だろうね」

「………!」

 

それ聞いた瞬間、陽灯の中でドクン、と反応するように脈打つ。

いや陽灯ではなく、正確にはあれ以降まるっきり反応を見せなかったうちに宿る存在が反応した。

始まりの怪獣。スペースビースト第一号といったところか。

おそらくまだ他にもいるかもしれないと見ているのだろう。

陽灯はその辺はよく分かってなかったが、巨人が反応したことから関係あるんだろう、と曖昧な考えしかない。

 

「あとは、そうだな…大赦は陽灯が変身したという巨人のことをザ・ワンに続く未確認存在として『ザ・ネクスト』と呼称したようだ。神樹様が巨人を味方と伝えてくれたらしいが……それでも全く皮肉が効いてるな」

「未確認……そう、だよね…」

 

嘯くようには言っているが、表情は苦々しくなっている。

他の人間なら気にしないかもしれないが、ある意味これは陽灯を未確認存在として、スペースビーストのような存在として扱っているようなものだ。簡単に言えば、化け物。

もし神樹様が味方だと伝えなければ、人体実験を受けたり敵だと認識されたり拷問などもされていたかもしれない。

 

「へぇ……」

「み、澪さん?」

「そうですか。そうでしたか。そういう事ですか。それはつまり、陽灯さんをそう思ってると認識して…良いのですか? あの人たちは、そう思ってると?」

 

抱きしめられている陽灯は様子がおかしいことに気づいて呼びかけるが、途端にぶるっと鳥肌が立つ。

過去に恐怖を感じたことはあったが、巨人を宿す陽灯ですら怯えるくらいには今の澪には言えない何かがあった。

 

---『ザ・ネクスト』。

それはザ・ワンと同じような名前の付けられ方であり、同種として扱っているようにも見える。

いや、事実そうなのだろう。言外にされてないだけだ。

あくまで神樹様のお陰で味方だと思われているが、神樹様の言葉があってこそだ。

その言葉が無ければ、陽灯は意識を取り戻す頃には学校に居ない。

 

「と、とにかく大赦も陽灯のことは一応…だけど味方だと判断してくれたんだ。今はそれでいいだろう?」

「お、俺そこまで気にしてないから……あの…大丈夫!」

「……お二人がそう仰るなら、不承不承ながら納得しておきます。一度お説教くらいはするべきだと思うのですが」

 

呆れたようなため息を吐いて、澪の纏う雰囲気が霧散する。

夜霧もそのことに安堵の息を吐いており、不満そうな表情の彼女に苦笑するだけだ。

そして陽灯は絶対に怒らせないようにしよう、と心の中で誓った。

よく優しい人が怒ると怖いと言われるが、その言葉が正しかったことを12年の人生で初めて知った。

過去に妹に怒られたことはあったが、それよりも怖い何かがある。

 

「とにかく、この話は終わろう。まとめると大赦は陽灯も勇者たちと同じ対応にするということだから。もちろん俺たちにも変わらず悩みや困ったことがあったら言ってくれていい。陽灯は陽灯の好きなように過ごしてくれ」

「う、うん……」

 

あまり長引かせるべき話題ではないと判断したようで、お役目に関するお話やザ・ネクストとザ・ワンの話を切った。

もちろん、ただ伝えられる情報がもうあまりないというのもあるが。

 

「…って、そうだ! あの、お役目の時に靴ダメにしちゃって…」

「ああ、確認してる。新しいの手配しておくから気にしなくていいよ」

「ごめんなさい…」

「陽灯が気にすることじゃない。靴なんて消耗品だしね。そもそも陽灯は全然頼ってくれないからね。こういう時はむしろ嬉しいというか…」

「それはそうです。私も少し寂しいのですよ。もっと頼ってくれても良いのですけれど…」

「別に頼りにならないってわけじゃなくて! なんて言えばいいか分からないけど…」

 

陽灯が遡月家に来て、頼った回数なんてほぼない。

これは頼りにならないというわけではなく、一人で抱えようとしがちなだけだ。

陽灯は無自覚でしかないからこそ、説明が出来なくて無言になってしまった。

 

「その時が来たら、今みたいに言えばいいんだ。難しいことなんて考える必要はないよ。ちょっとしたことでもいい、自分だけじゃ無理になったら言えば、ね」

「……!」

 

それを夜霧は諭すように告げながら陽灯の頭を撫でていた。

歪なのだ。

遡月陽灯となる前から、歯車が狂ったように歪んでしまった。

普通の子供じゃ考えられない思考。覚悟。

純粋すぎる性格に思い切った行動力を持つ。

陽灯自身は分からなくても、周りは分かってしまう。分かっている。

だからこそ、周りが教えるしかない。

そうすればいつかの未来、陽灯が誰かを頼ることを覚え、一人で抱えることも自分の身を犠牲にするような行動を取ることもなくなるだろう、と。

これ以上、酷くなるようなことはないと。

大人たちではなく、『家族』は望む。この場にいる、多くの家族が。

 

「では、陽灯さん。そろそろ行きましょうか」

「?」

「鈴さんはお手伝いして貰えますか? 時間も時間ですし、泊まって頂いて構いませんから」

「お、お手伝いに関しては当然です。でも、泊まるだなんて、そのようなことよろしいのでしょうか……?」

「えぇ、鈴さんが良ければ。それに女の子一人で帰らせるだなんて危険でしょう? 鈴さんの身に何か及ぶかもしれませんから。絶対なんてありません」

 

陽灯はなんの事か分からずに首を傾げていたが、鈴はおずおずと言った様子で聞くと澪はいつものような優しい眼差しを向けながら微笑む。

 

「わっ、分かりました。ありがとうございます」

「鈴さん、今日は一緒?」

「はい、陽灯様が寝るまでお世話させていただきます」

「お仕事じゃなく、ご自由に過ごしていいのですよ。きっと陽灯さんもそれを望んでますから。ね?」

「…! うん、俺特に気にしないし、鈴さんが過ごしやすいままで居て欲しいよ!」

「っ〜……!」

 

嬉しそうな、眩しい笑顔を陽灯は浮かべる。

思ったことを告げただけ。

純粋無垢な言葉をただ口にするだけの彼の言葉は嘘と誠など存在しない。

全部真実である。

 

「お、おふたりが眩しいです……」

「? 澪さんは確かに綺麗だよね」

「それはそうだな。陽灯も分かるようになったなぁ」

「まあ…夜霧さんまで恥ずかしいです。ですが鈴さんも可愛いらしいですよ」

「俺もそう思う!」

「うっ…!」

 

お腹いっぱいといった感じの空気が漂う。

血は繋がっていないはずなのだが、まるで本当の家族だ。

夫婦(めおと)である澪と夜霧はイチャついたり陽灯は陽灯でありのままのことしか言わなくて。

鈴一人だけが心を揺さぶられていた。

 

「ぴゅ…ピュア過ぎませんか…?」

「ぴゅあ?」

「陽灯さんは陽灯さんのまま居てくれれば良いということですよ」

「なるほど!」

「うんうん」

「うう…ですが…せ、せっかくのご厚意は有難いのですが…このままで居させて頂きます」

「そうですか。無理は言えませんからね」

「でも、今日一緒に居れるのは嬉しい!」

「ですね」

 

何か裏があるならまだしも、こうも表しかない言葉や感情をぶつけられることは中々ないだろう。

正直、鈴は今日一日無事に居られるかどうか分からなかった。

 

「それでは話も纏まったことですし…行きましょうか」

「そういえば、何処に行くの?」

 

膝上に座らされていた陽灯を澪が抱えると、鈴は慌てて近づく。

ゆっくりと降ろされる陽灯を鈴が支えて、澪は立ち上がる。

されるがままだった陽灯はそんな澪にさっきも気になっていたことを聞いた。

 

「ふふ、言ってませんでしたね。お風呂です。今夜は一緒に入りませんか?」

「うん、わかった---えっ?」

 

反射的な返事をしてしまって、遅れてどういう意味だったのか気づいた陽灯は完全にエンストした。

動かなくなった姿に、鈴が心配そうに眉間に皺を寄せる。

 

「風呂か。それじゃあ、俺は仕事に戻るかな。今日は特にないからみんなも好きにしてくれていいよ。帰る人は気をつけて帰ってくれ」

「あら。もう終わったとおっしゃってませんでしたか?」

「ちょっと軽い仕事がな」

「私は一緒に入っても良いのですけれど…」

「勘弁してくれ…耐えれる気がしない」

「なら、今日のところはそういうことにしておきます」

 

そんな二人を置いて夜霧と澪は話していたが、そっちも終わったらしく。

ようやく復活した陽灯は、殆どの人たちが居なくなってることに気づいた。

今居るのは夜霧とその背後に仕えている老執事。傍にいる鈴と澪のみだった。

全員が帰ったわけではないが、何人かは帰ったのだろう。

家庭というものがあるので、それは仕方がないことだ。

 

「あ、あのぉ……奥様?」

「はい?」

「もしかして…私もですか?」

 

鈴は恐る恐る、顔色を窺うように疑問をぶつける。

口にするタイミングがなかったが、最初の手伝いという言葉から考えれば簡単に行き着く。

そしてその答えだが。

 

「鈴さんが嫌でなければ、是非」

「そ、そそんなっ。恐れ多いと言いますか…い、嫌ではありませんがっ! あっ、その陽灯様と入るのが嫌というわけでもありませんから誤解しないでくださいね!?」

「あっうん…うん?」

「もしかしてダメ、でしょうか……」

 

何故か被せ気味に言われて、陽灯は困惑するが澪は鈴の言葉を無理なのではと捉えてしまったのか悲しそうに目を伏せる。

 

「わぁああ! 入ります一緒に入ります! 入らせていただきます!」

「本当ですか…?」

「はいっ!」

「そうですか…それはとても嬉しいです」

「…えっと……夜霧さん…?」

「………まぁ、ね?」

 

焦ったように食い気味に返答した鈴のお陰で、澪は一転して嬉しそうな表情を浮かべる。

一緒に入りたいという気持ちが確かにあったという証拠だった。

ただ陽灯はこの先のことを理解したようで、助けを求めるように夜霧に視線を向ければ彼は老執事と顔を見合せてから眉を下げて後ろめたい気持ちで諦めるように首を振っていた。

 

「陽灯さん?」

「…な、なんでもないよ! うん!」

「それならいいのですが…楽しみですね」

 

自分で了承したのもあるが、嬉しそうな姿を見ていると結局のところその方が良いという結論になった陽灯は澪に手を取られればそっと握り、優しく握り返される。

そしてそのまま、見送られながら陽灯は澪と鈴と共に連れられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学六年生ともなれば、何も知らなかった昔と違って性教育は既に受けているし理解出来ている。今の小学校は表立ってそういったことを考える人は少なく、前の学校ではたくさんの人が興味津々だったのを陽灯は覚えていた。

当然ながら陽灯も学んだわけで、あまりよく分からなかったのが彼だったが、今回ばかりはそんな自分に見事助けられた。

いくら歳が離れているとはいえ、相手は高校生と大人の女性。

同年代にはない魅力を兼ね備えており、相手は血が繋がっていないのだ。バスタオルがあったならまだマシだったものの、残念ながら着用はしなかったためはっきりいって思春期の男子には刺激が強すぎる。

陽灯は元々そういったことには疎く、なんなら恋愛感情にすら疎い。他人のことなら気づいたりするが、自分に関しては全く気づかないほどだ。

むしろ今日が生まれて初めて自分の中で生命とは別のピンチというものを経験したかもしれない。

途中で何も考えないようにぼうっとしたから良かったものの、あのままならば昂りに近い感情と熱が迫り上っていたに違いない。

ただそれとは別で、誰かとお風呂に入ったり誰かに洗われるのは久しぶりだった。

以前の家では家族と入ることも多く、幼馴染のような少女と入ることもあったからこそ、ちょっと懐かしさを覚えた。

恥ずかしくもあり、楽しくもあり、懐かしくもあり、胸が温かくなった。

そして今は、また別の意味で寝ることが出来ない。

目の前には普段も上品なのに眠ってる時ですら寝相が良く、端正な顔立ちで綺麗な長い黒髪が風呂に入ったのもあって、より綺麗な上に艶やかで、同じ洗髪剤を使ってるにも関わらず自分とは違うような気がして、心地がいいようないい香りを発している。

反対を向けば、これはまた短めの明るい茶髪が美しく艶やかで整った顔立ちの女性が気持ちよさそうな表情を浮かべていた。

上を向いて、思い出す。

どうしてこうなったのか、お風呂から上がって食事を取り、寝巻きに着替えて澪と鈴と一緒に寝ることになった。

それだけである。

見る者にとっては羨ましい限りの状況ではあるだろう。

澪には抱きしめられ、背後からは鈴に抱きつくように密着されてどこがとは言わないが柔らかい部分が背中に当たっている。

まさに両手に花だ。

しかしながら流石の陽灯も美人と言える二人に密着されて平然と寝ることは出来ない。

いや、本当は別の理由だ。

寝れないもうひとつの理由、今日の出来事が脳に焼き付いている。

バーテックスとの戦い。

横腹の傷は痛むが、包帯を巻き直して貰ったのでマシにはなっている。本来勝てる戦いだったバーテックスが突如妙な力を得たこと。

それを考えても、分からない。巨人が今まで以上に警戒したということだけ。

何よりその巨人についてずっと気になっていることがあり、一切反応しないことだ。

ずっと黙認している。気配は感じられるのに、中に居るとは分かるのに声はしない。

何か思うことがあるのかもしれないし考えているのかもしれない。陽灯には記憶が無いが戦ったらしいので純粋に疲れてるのか傷を癒してるのかもしれない。

結局のところ、陽灯は言葉にして言ってくれなければ分からないタイプだった。

ただでさえ今日は友達と久しぶりに会えて話せなかったのに、喋ってくれなかったのに。

自身と共に在ってくれる巨人まで話してくれないのは寂しい、と思ってしまう。

 

「…頼りない、かな」

 

ふと、口からそんな言葉から出てきた。

直接言われたわけではない。

悩みがあるなら、困ってることがあるなら力になりたいと思うのは陽灯にとって誰にだって思うことだった。普通で、当たり前のこと。陽灯にとってそれが当然なのだ。

誰かが喜ぶ顔が見たくて、誰かの笑顔が好きで、人助けをする理由に自分のためというものは存在しない。その人の幸せが一番、としか思わないからだ。

それが人であろうとも、宇宙からやってきた巨人だろうと、この世界の全てである神であろうとも。

だが、声は返ってくるのことは決してなく。

もう寝ようと目を閉じても、寝ることは出来なかった。

 

「……眠れませんか?」

「…!」

 

そんなとき、小さな声で話しかけられた。

陽灯が目を開けると、いつの間にか目を開いていた澪が居る。

 

「あ…ごめんなさい…。起こしちゃった…?」

「いえ…今起きたところです」

 

変わらず二人の声はひっそりしたものだ。

起こさないための気遣いだろう。

申し訳なさそうにする陽灯に澪は優しく微笑むと、その頭をそっと撫でる。

 

「澪さん…?」

「少し、気になる言葉が聞こえたものですから。ですからこれは、私の独り言です」

「…?」

 

最初に聞かせるものではないということを告げながら澪は愛おしいものを愛でるような優しい手つきで頭を撫で続けながら吐露していく。

 

「私は陽灯さんが頼りないだなんて思ったことはありません。いつもいつも前向きに頑張っていて、明るく過ごす陽灯さんに救われてる方も多いです。私は家での陽灯さんしか知りませんが、ここで働いてくださってる方々を見れば簡単に予想がつきます。

信頼とは積み重ねです。頼りのない人が信頼されて任されるだなんて、よほどのことがない限りないでしょう。陽灯さんならば信頼されて頼られすぎてる、と言ったところでしょうか。ですがその分、思うこともあると思うんです。陽灯さんは背負いすぎてるのでは、と。

誰に頼られたいのか、それは知りませんが…もしかしたらその人はそれを気にしてるのかもしれません。陽灯さんを巻き込むことを気にしてるのかもしれません。

でしたらもう、陽灯さんは陽灯さんらしく、自分がやりたいように思いを伝えれば、伝わるんじゃないでしょうか。

陽灯さんの一番の武器は、純粋さです。嘘偽りない言葉は相手に届きやすく、心によく響きますから。

少なくとも私は陽灯さんを頼り甲斐があると思ってますし、頼られたいとも思ってますよ」

 

独り言と言ったように、これは澪の本音だろう。

それを陽灯が、陽灯の無自覚な悩みをアドバイスするように入れ込んだだけの本心。

事実として陽灯が最も人に信用され、人を惹きつける部分は純粋なところだ。

嘘とは武器である。自身を守るものでもあり、相手を傷つけるものでもある。逆に相手を守るものでもあり、自身を傷つけるものでもある。

故に人は、嘘と本音を使い分ける。

陽灯はその脳がないだけだ。付く必要のない嘘など吐く必要もなければ、その嘘は本人の性質状下手だ。

だからこそ、陽灯は陽灯らしさである純粋な心、という武器を使えばいい。

簡単な話、思いのままに伝えればいいということ。

 

「素直な陽灯さんはとても素敵です。貴方の言葉も行動も、相手には全て真実だということが伝わってます。どう思っているのか、本当は? そういった懐疑心や猜疑心を抱かせないのは、凄いことですから。一種の才能でしょう。

それでもどうしようもない時は、頼ればいいのです。お願いすればいいのです。

頼って欲しい、と受動的ではなく、頼って欲しい、と能動的に。

そうすればきっと、相手も話してくれるでしょう。ただ注意として、どうしても言い出せないことを無理矢理聞くのは絶対にダメですけどね」

 

悩める子供に大人として諭すような言葉。

一つ一つが思いやりがあって、愛情という形が中に存在していて、陽灯の心に溶け合うような温もりが伝わってくる。

ダメなところはダメだと注意も加えて、長所を褒めて、優しく対応してくれる。

 

「澪さん……」

 

衝撃を受けたように目を見開いて、目を閉じて。

言葉を反芻するように時間が空く。

ちく、たくと時計の針が響いて、息遣いだけがあって、陽灯の顔にはもう、迷いも悩みも何一つがなかった。

 

「俺……っ?」

 

決意を固めたように、陽灯が口を開こうとしたところでその唇に人差し指が添えられた。

思わぬ行動に目を丸くさせる陽灯だが、澪は普段と変わらない笑顔を浮かべる。

 

「ふふ、ダメですよ。これはただの独り言ですから、ね?」

「---」

 

相談に乗ったわけではなく、悩みを受けたわけでもなく。

勝手に澪が喋って、陽灯が聴いて、頭の中で整理して考えた答えを出しただけ。

導いたのではなく、自分本位に話しただけだ。

だからこそ、陽灯はこう思った。

敵わないなぁ…と。

 

「さぁ、明日も早いですから、寝ましょう? 寝れないなら、こうしてあげます」

「へぁ…!? だ、大丈夫だから…その」

「なら私が寝るためにさせてください。たまにはスキンシップをたくさん取りたいのですよ」

「……ん、む…分かった…あ、ありがとう」

「はい」

 

気を取り直すように澪は両手を広げると陽灯を胸に抱き寄せ、陽灯は僅かに紅潮する。

しかしながら別の理由を述べられると、断ることが出来ずに。

おずおずと、控えめにぎゅっと抱きつく。

その姿はどこか不器用ながらに甘える子供のようで、慣れていないことを表しているようで、頭を撫でられる陽灯は少し気恥しさを覚えながら気が付けば眠っていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝になると陽灯は目が覚めた。

起き上がろうとすると動けないことに気づく。

ぼんやりとした視界の中で抱きしめられているのが分かった陽灯は起こさないようにそっと退けて体を動かす。

そして周囲を見渡すと、目が合った。

 

「……あ」

「鈴さん…?」

 

少しずつ視界が戻り、そこには学生服を着た茶髪の女性がスマホを手に固まっていた。

なぜか鼻血を出して。

 

「だ、大丈夫!? どこか怪我でもしたの!?」

 

眠気が一瞬で覚めてしまい、陽灯は慌てて近づくと心配といった顔を浮かべる。

鼻でも強く打ったのか血圧が上がった影響か、何はともあれ放っておくわけにはいかない。

 

「だ、大丈夫れふ…! す、すこひ刺激が…」

「わああああ!? だ、大丈夫じゃないよ、すごい出てるよ!?」

「んん……?」

 

幸せそうな顔をしてる割に鼻血がダラダラと流れており、ただでさえ知能の低い陽灯は冷静になれずおろおろと、どうして良いか分からなくなってしまっている。

そんな騒がしい中で目が覚めたのかゆっくりと体を起こした澪は、珍しく無防備な惚けた姿があった。眠そうに細い目で、ふわふわと擬音がついてそうな様子。

 

「どうかしましたかぁ…?」

「っー!?」

 

普段の姿からは考えられないギャップに陽灯は少し驚きながら目を奪われ、鈴は鼻血を噴き出した。

 

「ええっ!? なんでっ!?」

 

すぐに振り向けば背中から倒れそうになった鈴の姿があって、陽灯は咄嗟に支える。

しかし流石に頭の理解が追いつかなかった。

ほぼ無意識の行動でしかない。

 

「と、とにかく、はい! じっとして!」

「ず、ずびばべん…」

 

ある意味冷静になれた陽灯は近くにあったティッシュを抜き取り、服が汚れないように抑える。

そして顔を少し下に向かせていた。

鈴は申し訳なさそうにしていて、もはや立場が逆だ。

 

「どんだご迷惑ぼ……」

「気にしないで。起きたら鼻血出してたってのは驚いたけど、何かあった…?」

「お二人が……」

「…私と陽灯さんですか?」

 

気が付けば元通りとなっている澪がゴミ箱を近くに持ってきて不思議そうに首を傾げる。

目を覚まして、瞬時に目の前の状況を理解したようだ。

 

「ふぁい…ね、寝顔が…尊すぎて…そ、それと…ギャップ萌え…でひた」

「とおと…? ぎゃっぷもえ?」

「尊い…この場合は素晴らしいといった意味合いでしょうか? ギャップ萌えという言葉は認識のズレ、といったところかと思いますけど…私もそこまでは詳しくありませんね」

「あ……むり……」

「す、鈴さーん!?」

 

澪も意味は一応知っていたようだが、いわゆるオタク言語はそこまで知らないのだろう。

軽く説明はしてくれて陽灯もほんのちょっぴり分かったが、それよりも鈴の鼻血が止まらず、彼女は幸せそうな顔で気を失っていた。

傍に落ちたスマホの画面には、心地良さそうに抱き合いながら眠っている陽灯と澪の寝顔があったのだが、すぐに画面は暗くなってしまう。

それに気づかぬまま朝からちょっとした騒動があったが、この後普通に目を覚ました。

 

 





○遡月陽灯/ザ・ネクスト(?)
園ちゃんに押し倒されたり澪に抱きしめられたり風呂連れて行かれたり一緒に寝させられてたり、陽灯くん受け説。
血が繋がってない上にまだ一年も一緒に居ない義母と世話係の他人である年上の二人とお風呂に入った上に寝ることになってしまったら性欲が薄い陽灯くんも流石にやばそうと思った話。
それはそうとして、スペースビーストであるザ・ワンと『巨人さんが』敵として同一種されて辛い。自分をそう思われるのは別に気にしてない。
何より目覚めてから巨人さんが喋ってくれなくて寂しい。
踏み潰された後からの記憶は無い。

○ザ・ネクスト
陽灯に宿る光の巨人。
前回の戦いにおいて、踏み潰されて意識を失った陽灯の肉体使用権を一時的に奪って戦った張本人。
たまに反応はするが、以前ほど陽灯に声を掛けることが少なくなっており…

○安芸先生
陽灯の歪さに気づいた大人。
先生としての役目と大赦の人間としての立場に板挟みになったが、世界のために諭すことは出来ず…

○遡月夜霧
陽灯くんに対する想いは息子同然と思っており、やりたくないと言ったらマジで何かと対策するつもりだった。
無論陽灯の歪さには気づいており、独りで抱えようとする癖があるのも見抜いている。
だからこそ大人として今ではなく、いつかの未来で陽灯が独りにならないように、自身を犠牲にしないようになるよう教えていこうと思っているようだ。
その思いは使用人たち、家族も同様らしい。
余談となるが、実は婿入り

○遡月澪
普段は優しいからこそ、怒らせたら怖い人ナンバーワン。そして陽灯くんが敵わない人でもある。
大赦の深いところまで知っているような物言いだが、実際のところは不明。
陽灯に対して深く愛情を持って接しており、触れ合うことが多い。
心配になるとスキンシップが多くなるとか。一緒に風呂入ったり寝たりで本人は満足だが、何もかも完璧に見えて寝起きは弱いらしい。
ちなみに胸はあんまりない。
和装美人の胸が大きくないっていいよね

○鈴
陽灯の世話係。
高校生なので歳も近く、一番仲が良かったりする。
陽灯には恋愛感情ではなく、アイドルなどに向ける感情と同じ、つまるところ推し。
雇い主である澪にも弱く、二人の関係性を『尊い』と思ってたりするので、正確には箱推しというやつだろう。
ちなみにメイド服着用で、胸はかなり大きかったり。

黄金色のジュネッスの名称

  • ジュネッス・オーア(紋章学で金色)
  • ジュネッス・トリニティ
  • ジュネッス・ブリエ(輝き)
  • ジュネッス・ルフレ(光沢、反射)
  • ジュネッス・ルクス(光)
  • ジュネッス・ルミナス(光り輝く)
  • ジュネッス・ゴールド(金色)
  • ジュネッス・オール(金、全部)
  • ジュネッス・グロウ(発光)
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