【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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今年最後の投稿となります。メリークリスマスです。
そろそろ陽灯くんを曇らせたい今日この頃。微程度には曇ってるけど、なんというかこう、最初の過去編みたいな。
結局紡絆くんあんま曇らなかったからな…なお周り。
アンケートお願いします。




「心境」

 

◆◆◆

 

 第 15 話 

 

心境

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この合宿中は基本、四人一緒に行動する事

1+1+1+1を4ではなく10にするのよ』

 

なんやかんやあって、訓練後に安芸にそう言われ、今日の訓練は終わりとなった。

その言葉の理由は四人で行動することで互いを理解し、深く相手を知ることを目的としているのだろう。仲の良さ悪さは戦いにおいても表に出てしまう場合がある。

無論、流石に男1女3で行動するわけで風呂などそういった常識の範囲では別行動することになるから『基本』という言葉があったわけだが。

ちなみに訓練といっても学生であるため、勉強会も当然あるわけで。陽灯は頭が情報量に限界を迎えて力尽きていたが、園子は寝ているにも関わらず問題をあっさり答えてみせるという対極な状態が出来ていた。

まあ元々頭がアレな陽灯は問題を出されても起きてようが寝てようが変わらず、星座や宇宙の天文学系じゃなければ悲惨な状態だったりするのだが。

須美に関しては問題なく、銀は頑張っていた。

そうして訓練と勉強も終えて、一日の終わりに陽灯は露天風呂に浸かっていた。

陽灯以外が異性というのもあり、貸切状態だ。

流石に小学6年生ともなれば一緒に入る訳にもいかず混浴でもないため一人だが、仕切りの反対側には須美と園子と銀がいる。

だからなんだという話で、陽灯の頭の中には覗くという考えすらない。

 

「園ちゃんに誘われた時はびっくりしたなあ…」

 

こっちに入る前、園子は一緒に入ろうと誘ってきたのだ。

いくら普段は邪な考えがない陽灯でも一緒に入るとなれば別だ。ただ混浴風呂というのもあるのは知っているので、タオルを巻いてくれるのであれば陽灯も問題ないのだが。

だからこそ申し訳なく思いつつ断ったら、今度はこっちに入ると言って行動に移そうとしたため、流石に須美と銀に止められていた。

 

「うーん…やっぱり染みる…。訓練どうやったらクリア出来るのかな」

 

ボールの威力が威力なだけあって打撲が出来ているため摩りつつ独り言を呟く。

独り言といっても貸切状態というのとこの場は陽灯だけでなく傍で浮く桶にはタオルが敷かれ、そこには赤い輝石が置かれているからだ。

それは巨人がくれたもので、陽灯は伝えているのだろう。

 

「うん、うん…何となく分かる気がする。頑張るしかないよね」

 

残念ながら巨人は喋れないため何を言っているかは分からないが、赤い輝石がうっすらと光ったのを見て陽灯は意思を感じ取った。

 

「俺はやっとスタートラインに立てた。この前自分の意志で変身して、0を1にしただけ…巨人さんの力を引き出すには俺が頑張らないと。今度は1を10に、10を100にしていかないとだよね。俺だけの命ならまだしも、巨人さんの命もかかってるから」

 

今まではどう変身するのかどう戦うのかすら分からなかった。

一回目の時、陽灯は記憶が無いのだから。

しかし前回自分の意志で変身し、自分の力で戦った。そのお陰で分かっていた。

まだ巨人さんの力を、十全に発揮出来てないと。

 

「それにこのままだと勝てないもんね。力は多分同等だけど大きさで負けてる……多分バーテックスは能力に特化してるから何とかなるかもしれないけど、ザ・ワンを相手にするなら同じくらい大きくならないと……」

 

現状陽灯が変身した際の体長は15m。しかし陽灯は過去に見たことがある。

初めて見た時の、夢の中の巨人はもっと強くて、もっと大きくもっともっと強い光だったと。

 

「うー……頭痛くなってきた。やっぱり考えるのは苦手だな…」

 

頭が痛くなってきた陽灯はぷくぷく、と湯の中に口まで浸かる。

陽灯は自分でも考えるのは得意ではないと自覚している。

まあ周りに園子や須美のような考えるのに向いている者が居るというのもあるが、昔から考えるよりも動いていたのだ。

考えたって分からないものは分からないのである。

 

(だけどもし、もしザ・ワンが次に現れたなら……やることは決まってる。だって俺はザ・ワンと話したことがあるんだ。今度だって---)

 

まるで警告をするように点滅をする輝石に気づかず、陽灯は回収して上がることにした。

陽灯は知らないのだ。自分自身が殺されたあと、どうなったのかを。そしてそれを知る者は身近には一人しかおらず、その一人は今喋ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から上がって合流したのち、部屋に戻ると既に布団が四つ並べて敷かれていた。

本来ならば男女は分けるべきだろう。

 

「俺もいいのかなぁ」

「一緒に寝よ〜?」

「まぁ陽灯だし」

「そうね。陽灯くんなら変なことしないって信じられるもの」

「変なことって?」

「そういうところよ、陽灯くん」

「へ?」

 

良くないこと程度ではわかっているものの、残念ながら知識をさほど持たない陽灯はどういうことか分からずに首を傾げていた。

男女が一緒に風呂や寝るのは良くないくらいにしか認識してないのもあるだろう。残念ながら教えてくれる者はおらず、誰からも文句は出ないのでまぁいっかと楽観的な彼は思考を投げ捨てた。

 

とりあえず陽灯は一番遠い1つの布団の上に胡座をかいて座る。

布団は頭同士を向かい合わせにしたものを2セット。陽灯が座ると素早くその隣を確保する園子が居た。

思わず目をぱちくりと瞬きするも、あまりの速さに驚いただけで何かあるわけじゃないので、何も言わない。

陽灯の向かいには須美が、斜め向かいには銀が座り込む。

あとは布団に潜り込んで寝るだけといったところで、銀が話しかけてきた。

 

「お前ら合宿初日に簡単に寝られると思ってる?」

「自分の枕持ってきてるし、簡単に寝られるよ〜」

「それ、名前タコスだっけ?」

「サンチョだよ〜」

「俺も持ってるよ!」

 

そう言うや否や陽灯も園子と同じ猫のキャラクターであるサンチョを取り出して見せていた。

 

「なんで持ってんの!?」

「園ちゃんにもらったんだよね。これでお揃いだねーって」

「いつの間に……」

「去年!」

「私だけ枕使うのは嫌だったからね〜。一緒に使ってもよかったけど」

「よく頬とかに型がついちゃってたんだよな」

 

園子の小さな呟きは誰にも聞こえなかったようだが、お揃いの枕を使うなんて普通はないだろう。

偶然被ることは可能性にはあるが、基本的には普通の枕のはず。

客観的に見て、お揃いの枕を使っていたら普通の友人に見えるかと言われればだいたいの人はカップルか夫婦をイメージするだろう。

陽灯本人は一切気にしてないみたいだが。

 

「いやもう色々と聞きたいことはあるんだが……ずっと気になってたこと言わせてもらうわ。園子さんその服は?」

「鳥さーん!!私、焼き鳥好きなんよ〜!!」

「園ちゃん似合ってるよ、すごく可愛い!」

「えへへ〜」

「焼き鳥ってところは突っ込まないんだな……美味しいのはわかるけどさあ」

 

袖の、羽の部分に当たる場所をバサバサとさせる。

園子のパジャマは、ニワトリの見た目の所謂着ぐるみパジャマと呼ばれるモノだった。その着ぐるみパジャマを選んだ理由に思わず須美と銀が口元をヒクつかせるが、陽灯は彼女の服装を褒めていた。

尚、須美は浴衣で銀はTシャツにショートパンツとそれぞれの個性が出ている服装であった。

そんな中で銀は陽灯の服装を意外そうに見ていた。

 

「須美は予想通りだけど……陽灯も浴衣なんだな」

「俺は別に服はなんでもいいからね。ただ両親の普段着が和服だから、こういう時くらいはって渡されて……うん、結構着せられたなぁ……」

 

疲れたような遠い目で何処かを見る陽灯は苦労人のような雰囲気を纏っていた。

一体陽灯の身に何があったのか。しかし聞いて欲しくなさそうで、話を終わらせるように手を叩く音が響く。

 

「とにかくダメよ!夜更かしなんて! 言う事を聞かない子は夜中迎えにくるのよ……!」

「む……迎えに来るぅ!?」

「誰か来るの!?」

「なんだろう、全員思い浮かべてることが一致してない気がするのは……」

 

それもその筈。須美は妖怪を、園子はゾンビを連想していた。

ちなみに陽灯は夜中に誰か人が来るのかなとか思ってたので、見事食い違いが発生していた。

 

「そんなホラーな話よりさ、好きな人の言い合いっこしようよ!」

「す、好きな人って……銀はどうなの?」

「ん〜」

 

興味はあるのか少し恥ずかしそうにしながら須美が銀に聞くと、彼女は考えるように唸る。

浮かぶのは、やはり唯一の異性である陽灯のこと。付き合いが一番ある男子は彼くらいだ。他の男子と話すこともあるが、一番は似てるし行動も同じ彼のこと。

好きか嫌いかで言われれば好きと答えるだろう。しかし銀にとっては友達的な意味で、頼りになるのが誰かと言われれば他の誰かではなく陽灯だと答える。

第一小学生の身で考えるのはまだ早いというのもあるかもしれない。

銀は答えを出したのか口を開いた。

 

「弟とか?」

「家族はずるいよ〜」

「はいはい! はーい! 俺、いる! いるよー!」

 

家族が好きなのはよほど家族仲が悪くない限りは普通だろう。

須美と園子は苦笑していたが、陽灯が挙手していた。

 

「何故かしら、もう分かる気がするわ…」

「同じく。まぁ、じゃあ陽灯は?」

「みんな!」

「はい次。須美は?」

「あれ!?」

 

そもそも陽灯の好きは誰もがこういう場でイメージするものではない。

彼の場合は好きは好きでも特定の誰かを示すものではなく、不特定多数だ。

誰であろうと平等に接する彼の性格は好ましいものだが、それ故に陽灯は特定の誰かを好きになったことなどない。

家族は好きで、友達は好きで、家の人達は好きで、先生であろうと知らない人であろうと好きなのだ。

言うならば、陽灯は全人類に向けた愛情と言うべきか。ぶっちゃけ一人だけスケールが違うので、全然意味が無い。

無論異性としての認識はあるので、マシと言えばマシだろう。

 

「私は……うん、私も居ないわね」

「むぅ……」

 

一瞬頭によぎったのは守ってくれて、励ましてくれた陽灯のことではあるが、真面目な須美は首を横に振って答える。

そもそも須美には恋というのがよく分からないし、男子で付き合いがあるのも陽灯くらいだ。

何より今は大事なお役目の最中で、そんな浮わついたことは二の次にするべきだろうと思っている。

もし恋愛事にうつつを抜かしてお役目に集中出来なければ意味が無い、と真面目な彼女らしい答えを自分で出していた。

ただその答えは銀にとっては望んだものでは無いらしく、自分のことを棚にあげつつ不満そうにしていた。

最後に園子はニコニコとしながら自ら口を開く。

 

「私はね〜ちゃんと居るよ〜?」

「えっ、マジ?」

「誰? クラスの人!?」

「うん、はるるんと〜わっしーと〜ミノさん!」

「俺も園ちゃんのこと好きだよ!」

「えへへ、同じ〜」

「だねー同じ!」

「なんか……予想通りだな」

「まぁ…そんなことだと思ったわ…」

 

すかさず同じことを返す陽灯は一緒だと園子と喜んでいるが、銀と須美はおおよそ予想していたようで答えが似たような二人に何とも言えない顔を浮かべる。

 

「はぁ…あたしらこんなんでいいのかねぇ…」

「い、いいのよ。私たちにはお役目があるんだから!」

 

二名は好きのベクトルが異なり、銀は家族愛。須美は意味は分かってはいるがいないと見事恋バナの恋という一文字すらなかった。

果たしてこれでいいのかとは思うが、フォローするような須美の発言にそれもそうかと銀は納得する。

 

「とにかく明日も早いんだから寝ましょう。消灯!」

 

話を終わらせるように須美は電気を消す。

仮にこのまま話が続いても妙な空気になるか変な墓穴を掘りかねないというのもあるかもしれない。

というか天然二人が居る時点で恋愛話など意味を成さないだろう。

 

「そういえば私いいものを持ってきてるんだ〜」

「おー!あれは夏の大三角形だね!はくちょう座α星のデネブ、わし座α星のアルタイル、こと座α星のベガの3つの星を結んで描かれる細長い大きな三角形をしたアステリズム!3星のうちベガとアルタイルは、七夕の伝説における『織姫(おりひめ)』と『彦星(ひこぼし)』と言われてるね! 条件が合えば空を縦断する天の川も見ることができるし、昔は違ったみたいだけど今は---」

「もういい、もういいから落ち着いて陽灯くん! そのっちもここでプラネタリウムは消しなさい!」

 

家庭用プラネタリウムの電源をつけた影響で陽灯に火がついたのか夏の大三角形について持つ知識を全部披露しかねない状況になりそうだったが須美が止め、園子は渋々と消していた。

 

「陽灯がめっちゃ賢そうなことを話してた…!!」

「星は好きだからね! ただ地球からは見れるけど宇宙からは違うらしいからなぁ。だけど一度自分の目で宇宙を見たいという思いも……」

「この話は終わり! ほら、早く寝ないと明日に差し障るわ」

 

このまま話が続いて明日に響いては元も子もないため、強引に切るような須美の言葉に大人しく従う。

ちなみに疲れから割とすぐに眠りについたのだが、この中で一番寝るのが早かったのは陽灯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が寝静まった頃、園子は目を開いて起きた。

構造上月明かりが窓から入るようになっており、真っ暗な部屋でも内装を確認出来るほどの明るさは確保出来ている。

寝返りを打てば、少し先にすやすやと気持ちよさそうに眠る陽灯の姿があった。

手を伸ばせば届く距離。

 

(はるるん……)

 

左腕に触れた。

訓練を始めて園子も筋肉は少し付いてきたが、目の前の男の子に比べれば全然だ。

今も触れた右手から感じる感触は柔らかい自身の手と違って同年代に比べてゴツゴツとして頼りがいのある力強さを感じさせる。

しかし四日前のお役目で陽灯の左腕は折れ、全身に深い傷を負ったはずだった。今はそんなことがなかったかのように完全に回復してはいるとはいえ回復速度が異常すぎる。

このまま続けばいつの日かふっと忽然と消えてしまうんじゃないかと、もしくは何か彼の身に異変が起きるのではと園子は時折不安になる時がある。

 

(三人が好きだということに嘘はないけど……)

 

思い出すのは好きな人の言い合いっこをしようと語った銀の言葉。

園子自身、陽灯に抱く感情は他の誰よりも、それこそ家族に向けるものよりも強いものだと自覚はしている。

なぜなら時々ドキッとさせられることも、触れ合ったり傍に居るとドキドキすることもあるから。

ただそれが果たして”そういう好き“なのかどうか断言するにはまだまだ経験が足りず心身共に幼い。

元々幼少の頃より普通の子供とは違い、ぼーっとしていたり変わった行動や言動から不思議な子と扱われ、親からも友人が出来にくいのではないかと心配されていた身。

実際そうなっていたからこそ、親の心配は正解だった訳だが園子にとって世界が一変したのは間違いなく目の前にいる遡月陽灯という人間のお陰だった。

初めての友達。初めて乃木家の園子ではなくただの乃木園子を見てくれた相手。初めて乃木園子を肯定してくれた男の子。初めて乃木園子を理解してくれた子。同じことをして、傍に居てくれて、胸がぽかぽかするような満足感と温もりをくれて。

彼が繋がってくれて、そこから園子の世界は次々と繋がり、広がり、彩っていった。

果たして彼が居なくなれば、どうなるだろうか。

怒るか、悲しむか、憎むか、嫌になるか、絶望するか。

きっと、全部だろうと思った。

思い出すのは最初のお役目。死んだんじゃないかと思ったとき、今まで感じたことの無いどす黒い感情が湧き上がってきた記憶がある。

その時と同じく奪った相手を憎み、復讐し、その果てに遡月陽灯という煌めく光を失えば正常を保てるとは思えなかった。

それでも彼を止めることは出来ない。

園子は誰より見てきた。

いつだって誰かのために行動し、他人の幸せを喜んで、嬉しそうにして、どれだけ自身が傷ついたって人のために何かをしようとする姿を。

そもそも陽灯が園子に手を伸ばしたのは乃木園子という女の子が特別だからというわけではない。

そこにちょっと、本人に伝えたことは無いものの”もやっとしたもの“を感じてはいるが、乃木家の令嬢だからと特別視せずただの女の子として見てくれること、それこそが陽灯の魅力でもあって……と複雑な気持ちを抱いている自分を客観視して苦笑する。

 

(だけど……)

 

陽灯が園子に向ける信頼は、実の所須美や銀に比べれば大きい。

それは陽灯自身が関わり、園子の才能を知っているからだ。

元々頭が良くない彼と頭が良いというよりは天才と言うべき彼女は相性が良く、お役目の作戦や隊長を決めるとき、砂浜から抜け出す時など本人は無意識だろうが真面目で勤勉であろう須美よりも園子を頼っている節がある。

その心からの信頼を思えば、わっしーには申し訳ないけど頬が緩む、と園子は思っていた。

 

(今だけは独り占めしても……いいよね。はるるん)

 

学校でも外でもそうだが、陽灯には人を魅力する力がある。

基本的に嘘を付かず、付いてもバレバレな嘘で本音でしか語らない。その上向ける感情は全部好意的なもので行動はその人のためになること。しかも体付きも程よく引き締まっていて頼りがいがあるしルックスもいいと来た。今も目の前に見える寝顔は愛らしく見える。ある程度メイクは必要だろうが、女装しても通用するだろう。

だからこそ放っておけるはずもなく、園子が常に一緒に居るように心掛けている理由でもある。

純粋に一緒に居たいからという想いもあるが。

当の本人は園子が今もそんな考えを持っていることに気づくことなく穏やかな寝顔を晒してはいるが、園子は誰も起きてないことをいいことにもぞもぞと動いて陽灯の布団の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基本朝は早い陽灯は目を覚ますと、何故か目の前には園子の顔があった。

陽灯はこれでもちゃんと男なので、相手が異性なら異性としての認識はある。

それにお世辞ではなく心から園子のことを可愛いと思っているので二重の意味でドキッとした。

そしてもう1つ。体が密着している。正確には抱きつかれている。

ある意味この行為は慣れてはいるが、邪な感情は抱かないというか陽灯はそこに気づかない。

なので寂しかったのかな、とか思いつつ眠気の残る頭で妙に懐かしい気持ちを抱く。

何故だろうか。

そもそも陽灯は自分は寝相は悪いとは思っていない。

遡月陽灯になる前だって自分の部屋で寝ていて毛布がどっかに行くということもなく普通に布団の中で体も収まっていた。

ただよく、こういったように抱きつかれていたことがあるような…と考えたところで自身の妹がよく知らぬ間に布団の中に入ってきていたことはあったからだとすぐに理解した。

理解したからなんだという話ではあるが、”別に嫌なわけでもないし、まあ園ちゃんならいいか“と陽灯は普通に気にせず園子を優しく抱きしめて綺麗な二度寝を決め込む。

なお、この後起きた須美に起こされてめっちゃ怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日間という短い期間しかなく、余裕はない。

一日目が終わり、二日目。

やることは昨日とあまり変わらない。

難関はやはり、目の見えない状態でボールを避けるという訓練だった。

他の訓練は身についてるかどうかは分からないが、三日程度で達人レベルの域に達せるはずもない。あくまで素人から毛が生えた程度にでも上手くなったらいいといった感じだろう。

しかしこのボールを避ける訓練に関しては聴力と視力は役に立たない。

ならば両手を前に突き出せば、という話になるがバーテックスの攻撃と考えるなら何も分からない状態で受けるべきでは無い。

例えばアクエリアスが使ってきた超高圧水流がいい例だろう。あれをイメージしてみると、仮にボールを受け止めようと両手を突き出していたどちらかの手か胸が貫かれる。

手ならば滅茶苦茶痛いだけで命はすぐには尽きないが、胸となれば別だ。当たり所が悪く心臓を貫けば即死。

まだ見ぬバーテックスだってそういった即死する攻撃があるかもしれない。

そう考えれば避けるしかなく、ボールの位置を特定しようにも陽灯は吹っ飛ばされていた。

普通のボールですら硬ければ痛いのに普通の威力ではないため、凄く痛い。

治癒速度が早いお陰で既に昨日の打撲は治っているが、治っていても痛いし結局また同じことになるので変わらないのだ。

しかも吹っ飛んで立ち上がるまでにも次々と撃ってくる。

陽灯は即座に転がって起き上がるが、また吹っ飛んでいた。

目隠しの上からじゃ、いくら見続けたって見えない。そもそも見て避ける特訓じゃないため、見えたとしても反則だろう。

基本的に陽灯が一番頼っていたのは視力だ。

反応速度を活かすにも目視で捉えて反射的に行動を移す、という動作が普通の人は必要となる。

陽灯の場合は見ながら反射的に行動しているため、他の人より動くのが早いのだ。

だからこそ陽灯はアクエリアスの超高圧水流に初見で対応し、風の砲撃でも銀を庇うことができた。

しかしもし視界が悪い状態なら、頼りにはならないだろう。だからこそ、そこを伸ばすための特訓。

見えない状況でどうすればいいのか、その答えを出さなければこれは突破出来ないものだ。

ひとまず考えるために諦めてぶっ飛ばされながら陽灯は思考する。

どうすればいいのか、と。

 

(見えないもの…風? 風の音じゃ正確には分からないし発射音も分からない。目は使い物にならないに鼻は潮の匂いしか感じられない。ボールを特定するには他の何かで代用しないと。でも見えないと避けれないし適当に動いたり勘で動くのは一度避けることが出来てもそれだけ……というから痛い!めっちゃ痛い!)

 

吹っ飛ばないように足で踏ん張っていたが、その間容赦なく打ち付けてきたボールに我慢出来ず痛みを感じ、思考が霧散する。

 

(こんなのどうやっても見えもしないし聞こえもしないのにどうしたら…せめて見ることが出来たら、でも見えない……見えない……見え、無い?)

 

「そうだ! 見えないなら見なかったらいいんだ! 見えないものを見ようとしても見えない! だから見なきゃよkぐふっ!?」

 

聞くものによっては何言ってんだこいつと思うような発言だが、何かを掴んだらしい陽灯は実践するよりも早く鳩尾に直撃したボールに腹を抑え、追撃に飛んできた頭部を狙ったボールによって鼻血を出しながら吹っ飛んだ。

 

「しゃ、喋るまで待って…ほし、かった……」

 

機械に言っても無駄なことを言った後、またしてもオーバーキルをしてきたボールによって陽灯は今度こそ力尽きた。

そんなふうに陽灯がボコボコにされていると、三人の方はいいところまでは行くようになったようだ。

ボールに打ちのめされていると急に止まり、陽灯は目隠しをずらす。

 

「三人の方は良くなってきたけど……遡月くんはまだダメそうね」

「先生。これ、本当に出来るの?」

「出来るかどうかは遡月くん次第だけど……答えを見つければ、絶対に出来るわ。なぜなら遡月くんは既にやっているからよ」

「……? それってどういう……?」

「そうね、ヒントを出すなら…観の目。貴方自身を思い返すこと。そうすれば自ずと答えは出てくるわ。もう自分の中で近いものは出ているでしょうし……と少し席を外すわ」

「あ、うん…観の目ってなんだろ。それに俺自身、かあ」

 

携帯が鳴ったからか、離れていく安芸を見送りながら陽灯はボールをもう一度やるために戻していく。

既にやっていると言われても、陽灯には自覚は無い。あったらクリアしている。

近いもの、と言えば間違いなく見えないなら見なかったらいいという答えというのは分かっていた。

しかし見なければいいとはいっても、どう見るべきなのか。

言われた観の目とやらもなんの事だかさっぱりだ。

考えても答えが出ない陽灯は続きをしようと起動した。

 

「四人とも! 訓練はそこまでにして集まって!」

「へっ? ぐぼぉ!?」

 

やけに焦るたような声音が耳に届き、目を離した陽灯は目の前だったのもあって避けることも出来ず吹っ飛んでいた。

訓練をやめた須美と銀が急いで機械を止めに行き、園子は陽灯を拾う。

起き上がらせてもらった陽灯は鼻血を腕で拭きつつ園子と一緒に安芸の元へ向かい、須美と銀も辿り着いていた。

 

「鼻血出てるけど、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。止めてくれてありがとう銀、須美ちゃん。危うくまたボコボコにされるところだったよ」

「いえ、そこはいいのだけど…ほら、これ使って」

「結構赤くなってるね、はるるん。痛くない?」

「おーありがとう。大丈夫! 俺のことよりも今は……」

「そうね、先生何かあったんですか?」

 

陽灯はもらったティッシュで鼻を抑えると、話が逸れる前に須美が本題を聞いていた。

突如訓練を中止にしたということは、それ相応のことがあったということだ。

 

「いい? 今さっき神樹様から神託を授かったみたいなの。本当はまだ時間があるはずだったのだけれど、あと数分もせずして来る、と」

「それって……」

「お役目がもう…?」

「とにかくいつ来るか分からない以上、訓練を続けるのは得策では無いわ。襲来に備えてひとまず---」

「…ぁぁあつっ!? あつ、熱い!」

「急に何!?」

「なんだ、どうした!?」

 

安芸の言葉を遮るように突然叫んだ陽灯にこの場の全員が視線を向けるが、陽灯はぴょんぴょん跳ねながら慌てて胸の中に手を突っ込んで輝石を取り出した。

熱を持つように赤く発光している。

 

「赤く光ってる……?」

「……! 違う、もう来てる!」

 

陽灯の耳に鈴の音が聴こえる。

それと同時に世界が停止していた。

さっきまで話していた安芸も、渡り鳥も、海も機械すらも全部。

世界の時間停止の次に起きる現象、樹海化。

無事に動ける勇者である須美と銀と園子。そして巨人の力を持つ陽灯だけが現実から隔離され、神樹様によって作られる結界内へと飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来襲撃はまだのはずだったが、何かが原因で早まったのだろう。

三度目というのもあり、特に慌てることも戸惑うこともない。

とにかく大橋へと向かうべく四人は移動を---

 

「!? みんな……くっ、避けろ!」

 

しようとしたところで、陽灯の目が何かを捉えた。

咄嗟に近くに居た園子を引っ張り、同じく遅れて気づいた須美が銀を引っ張ると、ちょうどさっきまでいた位置の中央をビリビリ、と雷のような高エネルギーが地面に直撃し、爆風を撒き散らす。

 

「今の……攻撃!?」

「いきなりかよ!?」

「危なかったぁ……」

「あれは……」

 

あまりの威力に地面が見る形もなくなっており、直撃していたなら死んでいたかもしれない。

今まで大橋に辿り着くまで攻撃されることもなかった。しかも来てそうそういきなりだ。

今の一撃に心当たりがある陽灯は一人立ち上がると、強化された目で攻撃してきた場所を見つめると、ある存在が目に入る。

するとその存在に反応するように、赤い輝石は点滅していた。

 

「見つけた……ッ!」

「何を…陽灯くん!?」

「あ、おい!? 待てって!」

「二人とも行こう!」

 

認識した途端、陽灯はすぐさま駆け出す。

咄嗟に反応した須美の手をすり抜け、銀の声が聞こえてないように一人で突っ込んで行く。

相手がどんな能力があるのかすら分からない。一人で行かせるわけにはいかないと園子の指示で三人も追い始める。

 

(やはり居たのか、ザ・ワン……!!)

 

しかし陽灯の速度は異常だった。

彼女たちは訓練していたのもあり、勇者の力を纏ったままだ。変身による空白の時間はないにもかかわらず、陽灯の方が速い。

 

「なんか前より速くないか!?」

「それにはるるんの様子が変……」

「一体何が……とにかく足を進めないと!」

 

一回目は存分に身体能力を発揮していたが、勇者の力より下回っていた。二回目も同じく勇者より劣る力しかなかったのに、今は上回る速度だ。

ただ全部が上というよりは、直線距離に優れているというべきか。どちらにせよ二回目よりも彼の身体能力は上昇しているのが分かる。

それに普段の陽灯ならば、彼女たちから離れることは無い。何が来るか分からない以上、守るために傍にいるはずが今は一人で向かっているのだ。

そうして陽灯はさらに加速し、木々を超えて一気にザ・ワンの元へ落下した。

砂埃が舞い、風に流されていく。

見上げる陽灯は、ついにかつて自身を殺し、災害を巻き、多くの命を奪った元凶と対峙する。

 

「ザ・ワン……」

 

白い肉体に獰猛なトカゲという風貌。

鎧のような甲殻があり、獲物を突き刺せるほどの鋭利な爪に背中一面にはトゲ。何処か爬虫類を思わせる人型の存在。人型の怪獣。

互いに存在を認識しているのか、ザ・ワンが陽灯を見ていた。

3()0()m()にも及ぶ巨体。顔を近づけてくるだけで威圧感は凄まじく、その奥にある殺意だけで人を恐怖させ、錯乱させ、冷静な思考を奪うだろう。

だというのに、陽灯に恐怖は見られない。真正面から見つめ返し、その瞳は強い眼差しだ。

 

『おマエは……あのトキの…ナゼ、イキテル?』

「なんでだ……なんで、どうしてこんなことをする!? 約束したはずだ、もう誰も傷つけるなって言ったはずだろ!?」

 

ザ・ワンも覚えているのか、自身で殺したはずの少年が生きていることに理解出来ないでいると陽灯は最初に交渉したはずのことを掘り返す。

そう、あの時陽灯は陽灯でないときに約束したのだ。

自身の命を引き換えに。

 

『破っタのハ…オマエだ』

「何を…俺は約束を守って……!!」

『ナら、ナゼイキテル?』

「………!?」

『オマエ、死ぬ。オレハ、ナニもシない。オマエ、イキテル』

 

あの時の約束というのは、陽灯が死ぬ代わりに何しないというモノ。

それを指摘され、陽灯は言葉に詰まった。

そう、破ったのは陽灯だ。反故にしておいて約束を果たせなんて虫のいい話だろう。

---何も知らず、この状況を客観的に見ればだが。

 

『しん---じて、なら---なら、ない』

(巨人さん!?)

 

話せないはずが、見逃せるものではなかったのか。

手に握られた輝石が点滅し、陽灯の脳裏に声が響く。

まるで怒っているように、うっすら聞こえる巨人の声も感情的だった。

そう、巨人は知っている。

約束を破ったのは、ザ・ワンからだと。陽灯を殺したのち、彼の死体とある少女を完全に消し去ろうとした。

人を傷つけないという約束を破り、巨人を傷つけるなという約束を破り、戦いを辞めるという約束を破った。

それどころか一回目のお役目、アクエリアス戦で勇者共々消し去ろうとしてきたのだ。

その真実を知れば、果たして悪いのはどちらか。

 

「だとしたら……だとしたって!俺たちは話し合える! お前にも感情があって、考えることが出来て……! 何も思わないのか、何も感じないのか!? お前が暴れて、人を傷つけたらその分、誰かが傷つく!悲しむ! 世界に災いが起きて、大変なことになるかもしれない! さっきの一撃で俺たちの誰かが死んでいたかもしれない……!!」

「反対にお前も傷ついて死ぬかもしれない。争うってことはどちらかが痛みを感じるってことだ! 喧嘩でも戦争でも、どんな小さなものでも大きなものでもどちらかが体か心か、傷つく! お前に心があるってなら、何か思うことだって……!?」

 

言葉を遮るように、爪が振り下ろされた。

咄嗟に反応した陽灯は後ろへ大きく下がり、すぐさま後方宙返りをする。

足元を尻尾が通り過ぎ、着地した陽灯は距離を置いた。

 

「何を…!?」

『ソウカ、よう、やくワカった…。オマエ、適能者、デュナミストカ…』

「……てきのうしゃ? でゅなみすと? なんのことを……さっきから会話をする気がないのか……?」

『イマイマしい…ジャマだ……! ソノ、ニオイ…ケハイ……ソレも、ソイツも、オレのジャマをする……コロス、キエロ!』

 

もう終わりだというように爪が横薙ぎされる。

30mの体長を持つ怪獣は相応に爪も大きく、振り下ろしならばまだしも薙がれると避けきれない。

 

(なんで、なんで……っ! 話せるなら分かり合えるはずじゃないか…! 俺は嫌なんだ、誰も傷ついて欲しくない!誰も辛い思いをして欲しくない!意思があるなら互いを尊重しあって、使い方を変えるだけでザ・ワンも巨人さんも誰かを救えるはずの力で…どうして争うんだ……)

 

分からなかった。

あまりに幼すぎて、あまりに子供過ぎて、あまりに夢見すぎて、あまりに優しくて、純粋で、甘くて、決して戦いには、戦場には向かない本質を持つ陽灯には理解出来なかった。

陽灯は知らなかった。

世界は彼が思っているよりも汚く、惨たらしく、全てが綺麗な色に覆われているわけはない。

明るく見えても本当の意味では薄暗く、闇が多く潜んでいることを。

例えば巨人のように正しいことに使えば、誰かを救えるだろう。悪いことに使えば怪獣のように人を殺し、思うがままに出来るだろう。

表と裏、力なんてものはどう扱うかによって簡単にひっくり返ってしまう。

 

(俺は……戦いたくなんて、ないのに……本当は誰も傷つけたく、ないのに……)

 

警告するように輝石は何度も光る。

変身すれば避けられる。耐えられる。

それでも陽灯は何も動かなかった。目の前に死がやってきていても。

誰かを守る覚悟はあっても、元来遡月陽灯という存在は戦うだなんて考えは持たない。そうするしかなければするが、話せるなら話して和解したいと願う。

例え殴られても受けるだけで抵抗しないタイプだ。

人を殴らない、傷つけない。それは人でなくたって。

それでも世界には、宇宙には、もっと大きく広い場所には、何をどうしたって、分かり合うことが出来ない存在がいるのだ。

それでも陽灯はまだ、子供で経験が足りなくて、現実を知らないのだ---。

 

「陽灯!」

「はるるん!」

「……!?」

 

ザ・ワンの一撃に割り込むように追いついた銀と園子が攻撃を受け止める。

バーテックスの一撃にも対抗出来る勇者の力だ。それは似た存在たる怪獣にも同様。

二人がかりで受け止め、速度と勢いが衰えるも巨人以上の力を持つ怪獣の攻撃は殺し切れない。

 

「絶対にやらせない……!」

 

攻撃を受け止めるだけでは無理だろう。

しかし遠距離攻撃を持つ須美が貯めた矢を放ち、神の力を纏う矢がミサイルの如く怪獣へ迫る。

いくら超常の存在でも神の力が少しでも込められているものは警戒に値するのか、ザ・ワンは攻撃をやめて軽快に下がっていく。

 

「大丈夫か!?」

「怪我は無い!?」

「無事? 何もされてないよね? 傷つけられたところとかあるなら今すぐにでも〜…」

「だ、大丈夫。大丈夫だよ! そ、それよりありがとう。助かったよ」

 

駆けつけてくれた三人にお礼を言いつつ、無事だと分かると安堵の息を吐いていた。

一方で陽灯は何処か申し訳なさを感じていた。

一人で動いた結果、もしかしたら最悪なケースが起きていたかもしれないからだ。まず三人が助けに来なかったら今の一撃で死ぬことはなくとも重傷は負っただろう。

 

(戦うしか、ないのか……)

『…………』

「はるるん…?」

 

陽灯の危機が去ったからか輝石は静まり、陽灯の拳が強く握られる。

何のことかは分からないが、園子だけは血が出るんじゃないかというくらい力が籠っていることに気づいた。

 

「一人で突貫したからびっくりしたわ……」

「あれ、ザ・ワンだっけ? バーテックスはいないのか?」

「ごめん。バーテックスは…そういえば見えないかも」

 

見渡しても隠れているというわけではなさそうだった。

となれば、まだ範囲外に居ると見るべきか。

ザ・ワンも橋の向こうに戻ったため、ひとまず中央に位置を取る。

 

「多分だけど、あの速さからしてザ・ワンだけが早くに来て不意打ちしてきたんだね〜」

「陽灯がいなけりゃあぶなかったな……」

「あはは…たまたまだよ」

「ただ一人で行動しちゃダメよ。特に陽灯くんはすぐに無茶をするんだから! さっきだってそのっちや銀が居なかったら陽灯くんはまた大きな怪我をしていたかもしれないんだし下手をすれば命に関わるかもしれなかった。いくら巨人の力があるからといって無茶の限度というものが---」

「わああああ! ごめん、ごめんなさーい!」

「わ〜わっしーの説教だ〜」

「陽灯が悪いな、うん」

「いい? とにかくせめて一言くらいは言ってくれなきゃ---」

 

正座させられた陽灯に対し須美の長々と説教が始まってしまい、園子と銀は警戒することにした。

敵が来たらその時はちゃんとするだろう。

早くも陽灯が音を上げていたが。

 

「ほ、ほら、俺信じてたし! 須美ちゃんたちが助けてくれるって。だってそれくらい頼りがいがあるしさ!」

「……んんっ、そ、そうかしら…?」

「うん! さっきの矢だってかっこよかったよ! お陰で助かったし、流石須美ちゃん! やっぱりすごいなあ」

「ま、まぁ訓練はしてきたもの。陽灯くんの力になれたなら嬉しいわ」

「ちょっとチョロすぎませんかね、須美さんや」

「あはは、はるるん別に誤魔化すための嘘というわけでもなくて、素で言ってるからね〜あれ」

 

説教していたはずが、須美は照れたように頬を赤めていた。

それを見て銀が素直な感想を述べると、園子は苦笑していた。

陽灯の頭で煽てるという発想はまず浮かばないため、本人は至って本気で言っている。

それが誰にでも分かってしまうからこそ、ある意味では問題なのだが今は深掘りしている時間は無い。

 

「それより敵さん、来たみたいだよ」

「あれが今回のバーテックス? なんか尖っていて強そうだね〜」

「それとザ・ワンね……」

「………」

 

今度のバーテックスは前回のライブラよりも強そうに見える。

特徴を強いてあげるならタコやイカの足のようにも見える4本の足か腕かどちらかは分からないが、存在するモノだろう。その4本のナニカの中央に位置する細長い、恐らくは胴体。他には黒子のように常に舌のような頭巾を深く被っていることか。

浮いている分大きく見えるが、実際の身長は横にいるザ・ワンと同じく30m級。

三角木馬を思わせ、タコのようなイカのようなような足を無くせばそう見えなくは無い。もしくは四本の足を馬のように移動させれば、馬に見える。

後に山羊座、カプリコーン・バーテックスと呼ばれるモノである。

 

「ねぇねぇ、何の星座〜?」

「陽灯なら分かるか?」

「どうかしら…陽灯くん?」

「……え、あ、う、うん。えっと、多分山羊座?かな……? 山羊座は下が尖った三角形に星が並んでいるから、そうみえなくは……ない、かも…しれない……もっとこう、山羊らしい尻尾とかあれば……分かったんだけど……山羊座の尻尾と両腕がイカみたいなやつなのか……? うん…ごめん、今回ばかりは…ちょっと……自信ないや」

 

声を掛けられて、ぼうっとしていたせいで一瞬なんの事か分からなかったが内容は頭に入ってたようですぐに説明する。

しかし自信満々に言えず、今回のバーテックスは天秤座の時と違って見た目も全然違うせいで陽灯も合っているのかどうか曖昧だったが、実は正解なので問題ないだろう。

 

「ひとまずバーテックスの方は矢で攻撃してみる。問題は……」

「どう動くか、だな」

「仲間割れはしてくれなさそうだし、協力関係でも結んでるのかな?」

「……どうだろう」

 

須美が矢を引き絞る。

それを見て陽灯は深呼吸し、手の中にある輝石を握りしめた。

今はどうあれ、話す話さないではない。ここを突破されてしまえば現実世界に被害が出てしまう。話して撤退してくれるような相手ではないだろう。

短い会話だったが、ザ・ワンは陽灯と巨人を邪魔に思っているのだから。

そしてバーテックスは動く。橋に巨体を降ろし、足のような部分がめり込んでいる。

さらにザ・ワンがヤモリのようにバーテックスに張り付いたその瞬間、突如として地震が起きた。

 

「!?」

「体勢が……!」

「な、なんだ!? 地震!?」

「わ、わわわゆ、揺れる〜!?」

 

大きな揺れによって須美は狙いを定めることが出来ないため矢が打てず、陽灯たちも動けなくなってしまう。

姿勢を低くするか得物を杖代わりにしなければ倒れていただろう。

 

「私が……私がやらないと……っ!」

「落ち着けって須美」

 

このままではまずいことになるかもしれない。

唯一遠距離武器を持っているため揺れている中でどうにかしようと無理矢理狙いを定めようとするが、地震の影響で定まらないでいると銀が須美の肩に手を置いて声をかけた。

 

「…!銀……」

「私たちと一緒に倒そう?」

「そのっち……」

 

一人で抱え込もうとしていた須美はその言葉で落ち着きを取り戻す。

そして聞いていた陽灯は迷いを振り切るように頭を大きく横に振っていた。

 

「そうだ…そうだね。今やれることをしなくちゃならないんだ。みんなで守る! 一人で抱え込むなら、一緒に背負ってあげるのが友達でしょ、須美ちゃん!」

「陽灯くん……。

三人とも……そうね、そうだったわ。私には…一緒に戦ってくれる友達が居るもの!」

 

迷いが無くなった陽灯はいつもの笑顔を浮かべ、須美は理解したように、嬉しそうに紡いだ。

その返答に銀も園子も同意を示すように頷く。

 

「…! 園ちゃん!」

「うん!」

 

そうこうしているうちに、ザ・ワンが口から光弾を放つ。

地震による揺れで避けることは出来ず、陽灯は咄嗟に園子に目を向けると彼女は理解したように穂先を傘のように展開する。

しかし踏ん張れないこの状況では防御なんて出来ないだろう。

だからこそ、陽灯が後ろから園子を抱きしめるようにして槍の持ち手を掴む。

 

「こ、これでも……いや、そうか! あれだ! あの時同様!」

 

バーテックスの方を見て、陽灯は砂浜に埋まったことを思い出す。

バーテックスは足を橋の地面に突き刺すことで地震を引き起こしている。その一方で地震の影響で陽灯たちは体勢が維持出来ず上手く力が出し切れない。

ならば、と陽灯は片足に全力を込め、勢いよく爪先を地面に降ろして自身の足を大橋の地面に埋める。そしてもうひとつの足も同様。

驚異的な脚力を持つ陽灯だからこそ為せるゴリ押し技。

踏ん張る必要もなくなった陽灯は全力を出し、光弾を上空に向かって一気に槍を持ち上げて逸らす。

空で爆発し、突っ込んだ足を両手で必死に引っ張って抜け出すと、靴が犠牲になってしまったが攻撃は防げた。

 

「助かった!」

「収まった今なら……!」

 

無駄だと知ったからかバーテックスが上昇していく。

その際に地震による揺れがなくなり、速射するもザ・ワンの尻尾によって跳ね返される。

 

「跳ね返した!? それに届かない!」

「こっちは任せて〜!」

「オラー!降りてこーい!」

 

跳ね返ってきた矢を園子が落とし、矢の射程圏外にいったからか曲線を描いて落ちる。

矢が届かないほど上昇されれば跳んでも無理で、銀は無意味な文句を言っていた。

 

「俺が行く! 銀、上げてくれ!」

「どうやって……きゃっ!?」

「うおっ…陽灯!?」

 

靴が犠牲になったのもあり、破けないように靴下すら脱いだ陽灯はポケットに乱雑に入れると銀に向かっていく。

咄嗟に反応した銀は両斧を交差し、陽灯は斧を蹴って一気に上昇する。

 

「これならとど---」

「はるるん! なにか仕掛けてくる!」

「……!?」

 

バーテックスの頭部らしき部分が鈍く光ると、子供一人くらいなら呑み込めそうな大きさの光弾が幾つも飛んでくる。

さらにザ・ワンの口からは巨大な光弾が放たれ、ザ・ワンの狙いは陽灯一人のみ。バーテックスは全員をねらったものだ。

 

「やばい…! 避けろ!」

「ダメ、避けたら樹海が傷つくわ!」

「っ、俺の事はいいからそっちはお願い!」

「でも……」

「頼んだ! 考えはあるから!」

 

咄嗟に振り返れば、須美の言う通り樹海だ。

いつもは橋で戦うことは多いが、樹海が傷つけば世界に影響が出てしまう。

空中だと防ぐことは出来ない。

避ければ悪影響を及ぼす。

つまり避けるという選択肢はなくなったわけで、どうする気かおおよそ予想した園子は渋っていたが、迷う時間はなかった。

須美が光弾を撃ち落とし、銀が斧で打ち上げるように弾き、園子は槍で防ぐ。

そして陽灯はザ・ワンの光弾を両手で包み込むようにして受け止め、バーテックスからの攻撃を巨大な光弾を盾代わりにすることで防ぐ。

 

(おっ……おっもっっっ!?)

「ぅぐぅうううう……!!」

 

一気に地面へ落とされ、両足の踵で地面を削りながら必死に橋に着地し、樹海の方へいかないように維持していく。

日常で使うような火の温度を優に超える高エネルギー弾。

それは巨人によって強化されていようとも受け止めきれるものではなく、陽灯は胸で受けながら一気に強く締め付け、自ら爆発を引き起こした。

爆発音が響き、陽灯の体は投げ出される。

 

「陽灯!」

「う……た、助かった……」

「と、とんだ無茶を……! 大丈夫!?」

 

攻撃が収まった後だったお陰で銀が陽灯の体を受け止めたようで、地面に降ろされた陽灯は胸を抑えながら立ち上がる。

普通なら死んでいてもおかしくはないが、生きているのは流石だろう。

だからといって許容出来るかどうかは別だ。

 

「やっぱり考えってこんなことだったんだ」

「ご、ごめん。思いつかなかったんだ……そ、それより…どうにかしないと……」

「…うん、分かってる。バーテックスは多分行ける。倒せるかどうかまでは分からないけど……でもザ・ワンを何とかしないと通じないかも」

「大丈夫、あっちはなんとか出来るかもしれない…!」

「陽灯くん。その、何とかって…その怪我で?」

 

服は焼けたのか焦げたシャツが見えており、靴がないのもあって足は摩擦による擦り傷で傷だらけになっている。

両腕は火傷と血によってボロボロで指に関しては損傷が激しく、中の肉まで見えており普通にグロテスク。

あまりにもグロかったため陽灯は両手を後ろに隠したが、何かを握れば激痛待ったナシだろう。防御にも攻撃にも使えるか怪しい。

はっきりいってその他諸々を含めると誰がどう見たって病院に連れていくレベルの怪我。

巨人による肉体強化があった上でそれほどの負傷をしている。

例えザ・ワンの攻撃だろうとバーテックスの攻撃だろうと即死しない陽灯が、だ。

 

「ザ・ワンは俺を狙ってる。正確には恐らく、俺の中の巨人さん。だから俺なら、引きつけることが出来る…!」

 

実際バーテックスと違い、ザ・ワンだけは陽灯を狙った攻撃だった。

どうせ狙うならバーテックスのように全員に攻撃するべき場面だったのに。

そうすれば勇者の誰か一人くらいは動きに支障を来たすダメージを負っていただろう。

まぁ普通ならば陽灯はもう動けない傷なのだが、これでも前回よりマシなので動けるのだろう。

 

「だけどお前それじゃあ……!」

「このままじゃ樹海が傷ついて誰かが傷付くかもしれない! もしかしたら俺と違って誰かが亡くなるかもしれない! どうにかしてバーテックスに攻撃して落とさないと相手はあのまま攻撃してくる可能性が高いんだろ。大丈夫、俺はまだ死ねないから!」

「……仕方がないね〜。こうなったはるるんは止められないだろうし…」

「まぁそれはそうだけど」

「そうね…陽灯くん一応言っておくけど…無理はしないで」

「うん、そっちは任せる」

 

様子見をしているのか何もしてこないバーテックスとザ・ワン。

陽灯は軽く足を伸ばして準備体操をすると目を閉じて深呼吸をする。

焦る気持ちはあるが、ここで焦っては意味が無い。

陽灯には帰らなければならない理由がある。

これからの未来を守るため、家族の元へ帰るため、今の家族の元へ帰るため、勇者である三人を守るためにも。

息を深く吸い---

 

「俺はここだ! こっちに来いッ! ザ・ワンッッ!! 」

 

ザ・ワンに向かって叫ぶのと同時に一気に駆ける。

すぐに反応したバーテックスが一本の足を飛ばしてくるが、陽灯はサマーソルトで弾き、二本目を避ける。

すると遠距離からでは陽灯に致命打を与えられないと思ったのか引っ付いていたザ・ワンは釣られたように落下し、すぐさま尻尾を叩きつける。

跳躍して回避し、追撃が来るよりも早く尻尾にしがみついた陽灯は駆け上っていく。

 

「わっしー! ミノさん! 行くよ〜!!」

 

園子は自分が持つ槍の穂先、その周りに浮く幾つもの穂先を操り、階段のように間隔を開けて空中に設置する。

普段は盾としてしか使ってないが、園子の意思で飛び道具としても使用出来るということだろう。

それを見た須美と銀は理解したように頷き、一気に階段を須美が先に最長で跳躍する。

地上からでは届かなかったが、敵との差はかなり縮まった。

 

「これなら! 届けぇええ!」

 

迎撃するように放たれた光弾に対し、須美の放った矢は空中でも正確に光弾を避けながらバーテックス本体へと直撃する。

着弾した先から爆発し、バーテックスの体勢が崩れる。

 

「っ、流石……!」

 

尻尾を振り回されて投げ出された陽灯は着地し、ただザ・ワンの攻撃を避け続けながら爆発音に反応してバーテックスを見上げた。

しかし余所見してる余裕はないので、すぐに攻撃を避ける。

相手からすれば無駄に速い存在が足元で動き回ってるのだからウザったらしいだろう。

普通の人間ならまだしも、陽灯の身体能力であればある程度ならノーダメージで避けることは出来る。

ひたすら避ける陽灯だったが、ザ・ワンは突然攻撃を辞めるとフッ、と嘲笑する。

何かおかしいことに気づき、止まった陽灯は訝しげに見つめた。

 

『---バカなヤツ』

「……?」

 

何故今更攻撃をやめて悪口を言ってきたのか、全く理解出来ない陽灯は困惑し---輝石がうっすらと輝く。

同時に陽灯の顔は驚愕に染まった。

 

「まさか!?」

『遅イ!』

 

ザ・ワンと陽灯の行動は、静止状態から陽灯が若干遅れて動いた。

 

「須美! あとは任せろ!」

 

ちょっとずつ落ちてくるバーテックスに向かって一気に相手の頭上を取った銀。

 

「落ちっ……ろぉぉおおおお!!」

 

両斧を力一杯振り上げ、一気に振り下ろす。

重力の加わった斧はただ斬るよりも威力が増し、バーテックスは咄嗟に足でガードすることで防ぐが、空中から叩き落とされる。

 

「っし!」

「空中じゃなければ……!」

 

須美が矢を携え、銀が追撃するように自ら落ちていく。

堕ちていくバーテックスが抵抗したとしても空中でないのもあって攻撃は入る。

矢か、それとも両斧か。

どちらにせよ勝利は揺るがないだろう。

 

「! 二人ともダメ!」

「まて……待て! やめろッ!!」

 

それに気付いたのは、二人だった。

バーテックスに集中しつつも陽灯の様子が気になって見ていた園子。

そしてザ・ワンを相手にしていた陽灯。

二人が声を挙げたのは同じだった。

なぜなら須美と銀の二人が空中で同じ位置になったこのタイミング。そこへザ・ワンの光線とも言うべき雷光が放たれていた。

明らかに狙ったもの。陽灯を狙い続けるというのは、本能で戦うタイプならばだ。

戦闘力では勇者に劣るが、潜在能力的に脅威である陽灯を本能的に狙う。

だが、ザ・ワンは知性ある怪獣である。今までが陽灯を狙っていたものだったからこそ、抜けてしまっていた情報。

考えることが出来る存在であるならば、陽灯を狙うのをブラフにすれば一気に勇者を片付けることが出来る。

何より、陽灯は他人を優先するタイプだ。そんな彼が目の前で失う可能性があれば? 失わなくとも、間違いなく飛び込む。

”あの日のあの夜“の記憶があるザ・ワンは、確信を持っていた。

つまりザ・ワンにとっての最善とは陽灯自身を狙うのではなく、今この場にいる勇者を狙うのが得策なのである。

 

「なっ……!?」

「やばい!」

 

二人の声で攻撃が来ていることを察知したようだが、遅い。

空中にいる今回避をする方法はなく、さっき陽灯が受けた一撃よりも間違いなく高威力。

でなければザ・ワンの足元の地面が溶けている説明がつかない。

つまり、当たれば死。

 

(どうする、どうするどうするどうする!? 考えろ考えろ! ザ・ワンに攻撃?いや無理だ! 今やったところで止められない! 急いで変身して……変身しても止められない! この一撃は今までの巨人さんの力じゃ弾かれて二人に当たる! 時間が無い時間が…! 時間があれば、もう少しだけあれば……! このままじゃ、また……ッ!)

 

無いものを強請りながら、陽灯の脳裏には過去の記憶が蘇る。

何の力もなくて、何も出来なくて、自身の無力差を感じた時のこと。もっと早くに行動していれば一人でも多く救えたかもしれないのに大勢の命を救えず殺してしまったこと。

思い出すだけで悔しさがせり上がってきて歯ぎしりする。

全力で走っても相手の方が早くて、方法が無くて。

---ふと、光を感じた。

 

『---陽灯』

(---ああ。そうだ。違う、違うんだ)

 

世界がゆっくりと動く。

目に見える景色と体内の時間がズレを始め、現実と思考速度に差が出る。

ゆっくりと動く世界。色んなものが浮かんでくる脳内。

 

(そうだ、そうだよな。もう、違うんだ。あの時は俺は一人で、力がなくて……だけど、だけど今は。今はもう!)

「やら、せない…ッ!」

「園子!?」

「そのっち!」

「バーテックスを攻撃して!」

 

彼女の中で瞬時に状況を整理し、判断したのだろう。

咄嗟に割り込んだ園子が穂先を傘のようにして盾で防ぐ。ほんの少しは時間を稼げるが、この時危惧すべきは今の一瞬でバーテックスまで体勢を整えたというところ。

 

(バーテックスに攻撃するのが正解だった。だけど私は二人を見捨てるなんて絶対に出来ない。友達を守るんだ。でも、きっと……!)

 

普段はぼうっとしていても、園子の思考速度は陽灯よりも早い。

反応速度は陽灯の方が早くとも、思考という行動が入るなら園子の方が早くに動ける。

何より園子は誰よりも信じていた。

遡月陽灯という光を、ずっと見てきたから。

 

「そう…俺はひとりじゃなかった! いくよ、巨人さん!!」

 

その僅かな時間が、陽灯を動かす。

スローモーションとなっていた世界は徐々に速度を取り戻し、陽灯は服の中から紐をちぎるように輝石を取り出し、陽灯の眦に金色の光の筋が走る。

 

「ぉおおおおおおぉぉおおお!!」

 

輝石を掲げ、輝石を軸に腕に伝わり、顔や全身に赤い光のラインが浮かび上がる。

そして次の瞬間、輝石が眩く光ると全身を覆い尽くした赤い光が白く変わり、光が急激に大きくなっていく。

 

『シェアッ!』

 

光が空中へ移動し、雷光が天へと弾かれていく。

光が少しずつ晴れていくと、姿を現したのはY字型の赤い輝きを持ち、石像から目覚めたような石のような外見。仏のような顔立ちをする光を纏う巨人。

ザ・ネクスト。

2()0()m()()となったザ・ネクストがそこには居た。

すぐに手を空中に出し、落下する園子を受け止める。

さらに動こうとしたバーテックスの脳天に落下速度を加え足を振り下ろし、地面に完全に叩きつけてバウンドさせていた。

転ぶように受け身をとり、振り向く。

 

「…っし! 須美!」

「分かってる!」

 

驚いていた銀と須美だったが、すぐにやるべきことを思い出した二人はバーテックスに一気に攻撃を叩き込む。

矢を撃ち込み、動きを制限。

そこを斧に炎を纏い、銀が一気に斬りつけて。

 

「はるるん!」

『ハアッ!』

 

トドメを刺すべく、ザ・ネクストが理解したようにバーテックスに向かって園子を投げる。

無論全力ではなく、程よい威力。

 

「これで……終わり〜!!」

 

槍の穂先が輝きを纏い、巨大化するとバーテックスを一気に貫いた。

胴体らしき部分を失い、真っ二つになっている。

園子は警戒しながら着地すると、鎮花の儀が始まり、須美と銀も無事に着地してるのを見て安堵の息を吐く。

次に変身した陽灯に視線を向け、それを見たザ・ネクストは頷き、そして---

 

『!?』

 

ザ・ワンの尻尾に打ち上げられた。

地面へ落ちる前に着地すると、すぐさま腰を浅く落として構える。

30m級に対して、20m級しかない。たったの10mの差だが、その10mですら超常同士の戦いには大きな差が出るだろう。

 

『ヤハり……オマエ、ジャマだ……!!』

 

一直線に向かってくるザ・ワンは突進してくる。

頭部を抑え込み、ザ・ネクストは横に流すと背部に回し蹴りを放ち、ザ・ワンが蹴られた分、前進する。

が、すぐに放たれた尻尾による薙ぎ払いがザ・ネクストを襲い、左腕でガードするが遠心力のある一撃でガードは崩れ、半回転する。

純粋な体格差がダメージの威力に差を生み出してしまっている。

右爪の振り下ろし攻撃に対して右腕を左手で抑え、右手で腹部を連続で殴った後に右腕を打ち上げ、左手を解放すると軽く跳びながら手刀を肩にぶつける。

僅かに怯むザ・ワンだが、今度は頭を後ろに下げて勢いよく振り下ろし、ザ・ネクストが大きく怯む。

そこをザ・ワンが両爪で胸から腹部に掛けて引っ掻き、火花が散りながら後退するザ・ネクストの胸を蹴り飛ばす。

地面を背中で削りながら勢いを殺し、起き上がるために体を僅かに横にすると飛び込んで来たのが見えてすぐさま転がる。

勢いをそのままに起き上がり、尻尾を両手で掴むと引っ張るが、持ち上げることが出来ない。

それでも離さず、腰に力を入れながら両手に全力を込め、勢いよく捻りながら両腕を後ろへ回すと、何とか直線に投げ飛ばす。

うつ伏せで顔面から落ちたからか、僅かに悲鳴のような声を挙げるザ・ワンはピクリとも動かず、追撃しようと駆けてきた瞬間に尻尾を横に薙ぐ。

ザ・ネクストは咄嗟に後ろへ跳ぶことで直撃を避けたが、起き上がったザ・ワンと向かい合う形へなってしまい、互いに距離は一歩程度ではあるが互いに動かず隙を探るように位置を変えていく。

 

「私たちも援護を…!」

「そうだな! 園子…園子?」

 

今は戦況が動くほどではないが、劣勢か優勢かと言われるとやや劣勢だろう。

だからこそ少しでも援護をしようと考えていたら園子が動かずに何かを探すように空を見上げていた。

訝しげにしながら銀は声を掛けると、園子はただ一点を見つめる。

 

「やっぱり……来るよ!」

『……ハッ!?』

 

ザ・ワンを警戒していたザ・ネクストは胸騒ぎを感じて、何かを感じ取るように空を見上げた。

そこにあったのは、暗く昏く黒い、暗黒の闇そのものを思わせる穴。

樹海の世界に似つかわしくない闇の穴。

さっきまでなかったはずで、いつの間にか生成されていたモノ。

すぐさまザ・ネクストは相手を無視して振り向いて走る。

向かう先はバーテックス本体。

同時に黒い穴から紫色の高エネルギーが放たれ、ザ・ネクストはバーテックスの前に立つと阻止すべく両腕を交差して受け止めた。

 

『ぐァアアア!?』

 

しかしザ・ネクストの力ですら踏ん張ることも出来ずに一瞬で吹き飛ばされてしまい、エネルギーはバーテックスに落ちる。

凄まじい砂利の埃を撒き散らし、須美も銀も園子も目に埃が入らないように目を閉じて吹き飛ばされないだけで精一杯だった。

 

「陽灯!」

「これ……また……!」

「やっぱり…倒してからまた復活するんだ…ならまた、別の能力が……」

 

生き返るようにバーテックスが起き上がると、失った胴体も再生が済んでいる。

さらに、その身に変化が起きた。

四本の足は芯のような鋭利なモノへと変化し、見るからに危険だと分かるもの。

今度もまた何らかの能力が付与されたと見るべきだろう。

一回目は水、二回目は風。ならば三回目は何なのか。

 

『……!』

 

バーテックスが四本の足を束ね、ザ・ネクストに向かって飛来する。

咄嗟に両手で掴むと、螺旋状に回転する足は鋭利に変化したのもあって、完全にドリルだ。

受け止めるザ・ネクストの両手から摩擦による火花が起き、勢いが一気に増した瞬間ザ・ネクストの体が弾かれ、背中から倒れる。

受け身を取れず地面に衝突したのもあり、悶えながら横腹を抑えて立ち上がる

バーテックスは元の形態へ戻り、今度は地面に足を突き刺す。

 

「それはさせない!」

 

すぐさま須美が矢を放つ。

一度目の地震攻撃から察するに、条件は地面に突き刺すこと。

振動よりも早くに攻撃すればいいと射られた矢だが、突如としてバーテックスの目の前に岩の壁が生成された。

 

「矢が通らない…!?」

「何が起きた!?」

「あれが新しい能力……?厄介かも…」

『ハッ---』

 

地震は結局のところ、地面にさえ居なければ問題ない。

三人を自身の手にさえ乗せれば防げるとザ・ネクストは駆け出すが、ザ・ワンが組み付く。

 

『グゥ……ッ! デェ……アァアアア!?』

 

邪魔だと言わんばかりに殴ろうとしたが、殴ろうと動かした右腕が噛みつかれる。

歯がくいこみ、左腕で引き離そうとするが引き剥がせず、何度か叩くとさらに咬合力が増す。

その間に固有能力であろう地震が起き、世界が揺れる。

地上にいるもの全員に影響を与え、世界にすら影響を与える力。

 

「きゃっ!?」

「お、おおおおっ!?」

「わ、わわわ!」

 

先ほどは立つのがやっとだったのに、今度は立つことすら出来ず須美も銀も園子も尻もちを着いた。

その力はかなりのもので、災害級と言えるだろう。

現に20m級のザ・ネクストですら立つのがやっと。30m級のザ・ワンで動けるレベルで、調整されたのだろう。

どうにかしてザ・ワンの顔面を殴り、右腕を引き抜くと左腕でのアッパーカット。

体格の影響もあり、あまり効いた様子は無い。

ならば、と腹にショルダータックルし、僅かに背を曲げさせると膝を踏んで跳躍する。

 

『ハアッ!』

 

地震の影響が消え、左腕のフィンに光を集めると横に一閃。

光の刃が放たれ、バーテックスは岩を形成。

防がれてしまうが、地震は収まった。

 

「つっ……やっと収まった!」

「今!」

 

すぐさま矢を射ると、やはり形成された岩で防がれる。

それを見たザ・ネクストが落下しながらもう一発放とうと光を集める。

 

「はるるん下!」

『ヘェ……グオッ……!?』

 

言われた通り地面を見れば、光の刃を防いだ岩から次々と形成されており、岩が伸びてきていた。

空中にいるザ・ネクストは咄嗟に体を下に向けて利用しようとすると一気に岩が加速した影響で腹部へ直撃し、打ち上げられる。

 

『ウワァッ!?』

 

そこへザ・ワンの光弾が放たれ、攻撃を受けた直後で反応出来ないザ・ネクストはまともに受けて落下が始まると、またしても足を螺旋状に束ねたバーテックスが突進。

空中に浮くことが出来るならば躱すことが出来る。また何か障害物や破片などあれば再度跳ぶことで避けられるが、残念ながら周辺に特に何も無ければザ・ネクストに飛行能力は備わっていなかった。

 

「おっ……りゃあああああ!!」

『!?』

 

当たる寸前。

凄まじい速度で投げられた物体がバーテックスに弾かれることなく突き刺さり、バーテックスが斜めに落ちていく。

ザ・ネクストが下降しながら視線を向けると、そこには投げた後の動作で止まっている銀が居て、片手の斧がなくなっている。

つまり、今の一撃は銀が投げたものということ。

普通の人間ならまだしも、勇者の力で投げられる物体は超速だ。そして武器は神の力が入った武器。

バーテックスに通用するのは当然といえよう。

さらに爆発音が聞こえ、今度はそちらに視線を向ければザ・ワンが貯めていたであろう雷光でも爆発させたのか爆風が舞っている。

その中へ何度も飛来する矢。

そこから推測するに、不意を突こうとしたザ・ワンに須美が逆にダメージを与えたと見るべきか。

最後に園子に目を向けたら頷いていて、彼女が指揮を執ることで成せたことなのだろう。

ようやく地面が見えると、橋を壊さないように衝撃を殺しながら着地する。

 

『………!』

 

だが着地してすぐにザ・ネクストは膝を着いてしまい、胸のY字型の器官が点滅を始めた。

心臓のような鼓動。

胸を抑えながら立ち上がっていたため、以前よりかはマシではあるのだろう。いや馴染んできていると言うべきか。

 

「陽灯くん!」

「陽灯……ってなんだ、この音?」

「陽灯くんから聞こえてくるみたいだけど……」

「前も、その前も鳴ってたよね〜?」

 

ひとまず敵の姿が見えなくなったからか駆け寄った三人は音に気づく。

話せない陽灯から何か聞こえてくるわけではない。ただ分かるのは()()()()だということだけで。

それでもザ・ネクストは両拳を握ったまま腰を下ろし、油断なくザ・ワンと落ちたバーテックスの方を見ていた。

 

『……? ハッ! シュア!』

「待って、はるるん!」

 

姿が見えるようになり、バーテックスが僅かに震えていた。

それに嫌な予感を感じてザ・ネクストは走り出す。

園子も何かを感じたのか制止する声を挙げていたが、止まらない。

するとザ・ワンが雷の光弾をザ・ネクストの走る先に放ち、これ以上ダメージを受けるわけにはいかず思わずバックステップするとバーテックスから突如何かが溢れ出す。

 

「うわっ!?」

「っ、煙!? 何も見えない……!」

「そんな能力まで……!」

『デェアアァ!』

 

バーテックスが出したのは”紫色の煙“。

咄嗟に振り向き、三人の位置を確認したザ・ネクストは向かってくる煙がこのままでは覆うと理解し、煙を払うべく右腕のフィンにエネルギーを集め、光の刃を十字に放つ。

十字に放たれた光の刃は煙を斬り裂くと真っ直ぐに飛んでいく。

一切音がなく、煙が晴れた先には。

 

『………?』

「消えた……?」

 

何も無かった。

思わず構えていた弓を須美が降ろすと、全員が周りを見渡す。

 

「勝った…わけじゃないよなあ」

「どこかにいる…わけでもなさそうだね〜。私たちが警戒するから、はるるんは戻って?」

『………』

 

しかし姿が一切見当たらず、限界が近いのも事実なのでザ・ネクストは頷くと、発光する。

 

「とりあえず遠距離から攻撃できる私が見てくるわ」

「うん」

「何かあったらすぐ言えよ!」

 

高いところから見るべく木を利用して跳躍していくのを園子と銀が見送ると、直後に発光したザ・ネクストの光が縮んでいき、両膝を着いて汗まみれになっている陽灯の姿に戻る。

乱れる息を整え、陽灯はどうにかして立ち上がると、若干ふらふらしていた。

 

「ば、バーテックス…と、ザ…ザ・ワン……は…?」

「うーん……」

「見た感じ居ないけど……須美ー!」

「ダメね、どこにもいない……撤退したとか…?」

「そう、なの…か……」

 

偵察に出て戻ってきた須美も見つけられなかったようで、その旨を共有すると陽灯の緊張の糸が切れたのか、その場で気を失って倒れてしまった。

 

「陽灯!?」

「大変! 早く病院に連れていかないと……」

「でもそのためにはここから……問題ないみたい」

 

変身前に於けるダメージに変身後のダメージ。

蓄積する疲労など様々な要因が重なった結果倒れてしまったが、バーテックスやザ・ワンが居なくなったことを証明するかのように樹海化した世界は元の世界へと戻っていく。

眩い光が世界を覆い尽くす寸前、いつの間にか千切れたはずの紐が元に戻って首から掛けられていた輝石が赤く輝いていた。

そして四人は元の現実世界へ戻り、病院からそう遠くない場所に神樹様が転移させてくれたようで先生に連絡と事情を説明、陽灯を連れていくと役割を即座に分担しながらそれぞれ動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇遡月陽灯/ザ・ネクスト
未来では(掲示板のお陰で共存不能と分かってて戦えてた)紡絆くんだが、ファウストやメフィストに対して悩んでいた時と同じで過去でも陽灯くんは対話を願うところは変わらず、こっちはザ・ワンに対して倒すという覚悟も決断も足りていないため、力を引き出せていない。
無茶するところは同じなので、やっぱりボロボロになりがち。
ちなみに中盤から後半にかけての紡絆くんと違い、異性に対する感覚はちゃんとあるので同年代でも意識する時はするし須美や銀、園子に対しても可愛いだとか綺麗だとか思う時は思う。ただ恋というのはよく分かってない。

〇ザ・ネクスト
喋れないが、輝石を通して無理矢理喋った。
輝石でバーテックス出現を知らせたり、変身を補助したり、最後に■■したりと、かなり過保護。

〇ザ・ワン
あの時の人間が生きていて、巨人を宿す者とここに来て初めて知った。
対話の意志は全く見られないが、本能だけで戦うタイプではないのでクソほど厄介。

〇乃木園子
実は一番長く居たこともあり、今回の戦いでもそうだったが陽灯が無意識に頼っている子。
彼女自身は気づいているが、陽灯はやっぱり気づいてない。
ただ自身の気持ちに関してはまだよく分かっていないらしく、恋なのかどうかは分かってないようだが…。
ちなみに抱きしめられてたことは陽灯が須美に怒られる前にふて寝してたので知ってる。

〇三ノ輪銀
恋愛話を投げかけて見たものの、残念ながら天然二人のせいで悲しい終わり方をしてしまった。
他の男子とつるむ割りには一番最初に浮かぶのが陽灯だったりと少なくとも友達以上の感情を抱いているのは間違いないだろう。
陽灯が全力前進突撃マンなのもあって、無茶することは少なく周りをちゃんと見れている方。

〇鷲尾須美
この頃は清楚…なのでちゃんとしてるし恋愛話となると唯一絡みのある陽灯しか浮かばないが、お役目優先と真面目らしい答えを出している。
それはそうとちょろいし、満更でもない様子。


〇余談
そういえばアレガ、デネブ、アルタイル、ベガってなんで四つなのに三角なんだろうね
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