【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】 作:絆蛙
ウルトラマンアークいい最終回でした。今年でこの作品も完結させます頑張ろう。
お気に入り登録もう少しで1000人行きそうで行かない…なんともまあ焦れったいものです。私に出来るのは投稿だけなので投稿して稼ぐしかなさそうですが。やっぱり平均文字数が長すぎるからかなあ…減らしたいんだけど、戦闘の時は長くなるせいで減らないんですよね。次の章からは15000文字目指します。
でも鷲尾須美の章は実は半分切ってます、なんかプロットになかった話が今回出来上がりましたが…お陰でどう繋げるか悩んでいた次の章の部分が解決しました、まだ先なのにね。でも後々のことを考えるとこの話があるからこそ味が生まれるかも。
ただウルトラマンネクサス知ってる人は察する人居そうで怖いな……。
消毒剤のような匂いが鼻をくすぐる。
陽灯が目を覚ましたのは病院に運ばれて治療が終わった二時間後のことだった。
気がついた途端、直ぐに起き上がった陽灯は感じる痛みよりも先に胸に触れる。
輝石がなく、慌てたように周囲を見ると近くの机に所持していた携帯と財布、飲料ゼリーと輝石が置いてあった。
ひとまず無事にあったことに安堵の息を吐くと、包帯まみれになっている手に今更気づきながら輝石を首に掛ける。
「病院……そうか、俺倒れたんだっけ」
ここが何処なのか見覚えのある部屋から導き出し、思い出す。
敵が居なくなって安心したら突然意識が遠のいたこと。
肉体的なダメージもそうだが、疲労が強かったのもあるのだろう。
「……ごめんね、無理させた」
自身のことを棚に上げて、陽灯は胸の輝石を握りながら自身の中にいるもう一人の存在に謝る。
輝石がうっすらと輝き、沈静する。
ゆっくり休んで、と心の中で伝えると手を離して自身の両手を見る。
包帯のせいで分からないが、戦い前は激痛が走っていた。今は多少痛い程度でしかない。
変身したあとも戦っていたため、恐らく変身前より酷くなっていたはずだろう。
両腕なんて裂傷していてもおかしくは無い。
だというのに痛みが多少しかない。
確認のために左腕の包帯だけ外して傷跡を見てみる。
(わあ……見なかったことにしよう)
完全に中の肉が見えてしまっていたので、すぐさま巻き直して忘れることにした。
しかし裂傷の後は何一つなく、火傷自体は治っている。
まだ完全に回復しきってないだけだろう。
腕がこれなら、と上半身の服を脱ぐと胸と足の包帯を勝手に解く。
お陰で見えるようになったが、胸は完治しており、足に関しても同様。
酷すぎた腕と手だけが回復出来てないだけで、それでも驚異的な回復力をしている。
ただ陽灯は疑問が浮かぶ。
(やっぱり回復が速くなってる…? 少なくとも変身解除後は足に痛みはなかったから、足は俺じゃなくて…きっと、巨人さんのお陰だよね…。助けられてばかりだ、ごめん……ううん、ごめんじゃないか。ありがとう、巨人さん)
変身解除後の自身の状態を思い出しつつ、お礼を告げる。
瞬くように輝石が輝き、ある程度の回復は巨人がしてくれたことを確信する。
しかし、それでも回復能力が高まっている謎は解けない。
元々自然治癒能力が異常な程に高いとは言われていたが、さすがにここまでの怪我はしたことはないし普通ならば数日どころか数ヶ月は必要だろう。
陽灯は昔からずっと怪我していたが、回復力が高いお陰で治っては怪我を繰り返してたため、そうなっていたに過ぎない。
前回もそうだったが、昔---遡月陽灯になる前よりも、それこそ格段に上がっている。
悪いことでは無いしいいか、と納得半分バケモノと思われても仕方がないと嫌な納得の半々の思いを抱きながら、お腹が空いたので陽灯は飲料ゼリー、パウチタイプのものを口に含んで吸い始めた。
(うん、こういう時でも食べれるしめっちゃ楽。栄養も取れるからいいよね。誰かに見られたら怒られるかもしれないけど…手軽だし美味しい、栄養取れる、持ち歩ける。俺ゼリーは好きだしこれでいいなあ)
いわゆる栄養補助食品を腹に入れることへの言い訳をしながら勝手に納得していたが、そもそも誰も止める相手が居ない。
こんなんだから体重が平均を下回って脂肪じゃなく筋肉ばかりになるのだが、知っているのは前の家族くらいだろう。今の家族の前ではやっていない。
ただ一人の時はこれで済ませてたりはするので、結局何も変わっていない。
それはそうと、相も変わらず病院に運ばれてしまったが、気を取り直してさっきまでの戦いを思い返す。
(少なくとも倒した訳じゃないから、また来るかもしれない。ひとまずバーテックスを倒すことに集中しないと…。けどバーテックスを倒すにもあの能力はどう突破すれば……)
そう、相手は一時撤退しただけだ。
いずれまた来る。
だが、陽灯にはまだザ・ワンを殺す覚悟はなく、どうするべきか分からない。
何より問題はバーテックスだった。
防御にも攻撃にも使える岩の形成。紫色の煙。本来持つ地震。光弾。それからドリル。
分かっている能力はこれらであり、どれも組み合わせ次第では厄介だ。
ザ・ネクストが使える技はフィンで斬りつけるかエネルギーを貯めて光刃を放つだけ。
知らないだけでまだあるかもしれないが、無いものをある前提で動くのは愚の骨頂だろう。
さすがに陽灯も不明瞭なものを数には入れてなく、しかし突破出来るかと言われると難しい。
岩の形成に関しては光刃が通用せず、近接に行こうにもバーテックスは浮くことが出来る。せめて近接攻撃さえ出来れば話は変わるが、そもそもの問題として陽灯はザ・ネクストの姿を長時間維持することが出来ない。
何もしなければ長く持つかもしれないが、さっきの戦いでもエネルギーの消費とダメージ量によって限界が近くなっていたのを自覚している。
(どうしたらいいんだろう。あの煙がまたやられたら無理だし…)
例え追い詰めても、煙で姿を消されたら倒し切る前に撤退されるかもしれない。
強化型バーテックスがもう一段階強化されないなんて保証もないのだ。
出来るなら敵を再起不能にして鎮花の儀を起こさなければならない。
うーん、んー、と無い頭で考えていたが、ボンッと爆発したように陽灯はベッドに体を預けた。
なんなら体温が上がってきたような気もした。
陽灯がそうやって考えることに限界を迎えていると、ノック音が聞こえてきた。
何か返事するよりも早く扉が開かれ、陽灯は視線を向けた。
「……! 目を覚ましてたのね、遡月くん」
「あ、せんせ---」
入ってきた人物が担任であり、勇者たちの監督役の安芸だ。
陽灯が呼びかけようとすると、足音が聞こえて一気に入ってくる。
「はるるん!」
「陽灯!」
「陽灯くん……って…っ!」
当然、入ってきたのは園子と銀と須美。
陽灯の声が聞こえたからか、元々入ってくるつもりだったからかどちらにせよ急に入ってきたことに驚き半分、無事な姿に安堵半分といった感じだった。
「ど、どうして裸なの!?」
「…あ。ごめんね、ちょっと傷の具合が気になっちゃって。でもほら、腕以外は治ってるから!」
正確には上半身しか脱いでないので半裸だが、顔を赤くした須美は目を背けていた。
陽灯は見られても気にしないというか、プールやら海やらで上だけは見られるのだから気にしないのだろう。
ただ背けた割にはチラチラと見ているので、背けている意味はなさそうだが。
「さすがの回復速度と言うべきなのか異常というべきなのか…」
「本当に? 痩せ我慢じゃないよね、痛くない〜?」
「ふふん、全然大丈夫!」
布団に座る陽灯ににじり寄る園子は、陽灯の胸に触れたりつんつんと突いたりするが、痛そうにすることはない。
つまり本当に治っているのだろう。器用に嘘をつけるものじゃないし、陽灯の性格上か、彼特有なバレバレな誤魔化し方もない。
もし誤魔化そうものなら指摘された瞬間に動揺するはずなのだから。
「まあ本人が無事そうならいいんじゃないかしら……」
「ぶっちゃけ陽灯、人間やめてるよな」
「そうかな、巨人さんのお陰でもあるよ!」
陽灯自身も自分の自然治癒能力が上昇しているのはさっき自覚したが、回復が早いということはその分早く動けるということなので問題ないと判断した。
身体能力に関しては元々高いのもあったが、こっちもこっちで巨人さんに出会ってから比べ物にならないくらいに強くなっている。
それでも”あの日の夜“よりかは全て劣っていたりするが。
ただ普通の人間はバーテックスやザ・ワンの一撃を受けて無事で済まないし避けることなんて出来ない。その上勇者と共に戦えて、動体視力で上回る存在なんているはずもないだろう。
「とにかく話を聞く限りバーテックスもザ・ワンも撤退したみたいだから、次に備える必要があるわ。遡月くんは体を休めて、三人は訓練の続きを---」
「ううん先生。俺もやるよ」
「だ、ダメよ陽灯くん! いくら貴方の回復速度が早くてもあれほどの傷を負って休まないなんて…」
「そうだよ、陽灯は体を休めとけって!」
「そうね、そこは私も考えていたわ。確かにザ・ネクストの影響で治りが早いとしても、万全を期して挑まなければ今度こそ命を落とす危険性だってあるのよ?」
そもそも両腕と手は治りきってないというのもあるのだろう。
園子を除いて休むように言っていたが、陽灯の目は一切折れていない。
それに一人気づいていた園子は心配と不安が入り交じりながらもどこか安心していた。
「違うんだ、先生。俺はまだあの訓練をクリアしていない。今回の敵に対して、あの訓練は必ず必要になる…確信はないけど不思議とそんな予感がするんだ。だから休んでる時間なんてないんだ…ザ・ワンと戦えるのは俺なんだから」
「遡月くん、あなたは……っ。それでも、これでも私は貴方たちの命を預かるような立場よ…許可できない」
続く言葉を口にしようとして、安芸は口を噤むと、言おうとした言葉を飲み込んだようにすぐに別の言葉を口にした。
譲らない陽灯と、認められない安芸。
どちらも正しく、正解はないと言えるだろう。
「……じゃあ、先生。少しの間はるるんは休んで、それから続きをするってどうですか? はるるんはこうなったら絶対曲げないと思うんよ〜」
「それは……いえ。そうね、直接戦った遡月くんや乃木さんがそこまで言うなら、仕方がないわ。ただし、絶対に無理はしないことが条件よ。もし訓練で少しでも傷が広がるようであるならば、訓練は治るまでさせられない。その条件を呑めるなら、許可します」
「先生……うん、分かった。つまり怪我することなく訓練をクリアすればいいってことだよね。よし、絶対にやってみせる!」
安芸は直接戦ったわけではなく、話を聞いただけだ。
陽灯だけならまだしも、園子までが肩を持つなら必要なのだろうと渋々ながら許可すると陽灯は持ち前のポジティブさを発揮しながら頷き、気合を入れていた。
「それじゃあ…三人とも遡月くんを任せるわ。私は少し、電話をしてくるから。一人にさせて動かれても困るしね」
「分かりました」
「実際やりかねないしな……」
「はーい」
それぞれ違う反応をするのを聞いて、安芸は退出する。
すると陽灯は服を着てからベッドに背中を預け、息を吐くと園子に顔を向ける。
気づいたのか、園子は首を傾げた。
「ありがとう、園ちゃん」
「ん〜?」
「正直、園ちゃんにも止められるかなって思ってたから。だから頑張って説得しようと思ってたんだけど、味方してくれたから許可をもらえた。それが嬉しかったんだ」
「だと思ったからね〜分かってるよ、私。はるるんのことずっと見てきて、近くに居たもん」
「それでも、ありがとう。俺も園ちゃんのこと見てきたから、頼りになること知ってる。これからも頼りにしてるよ!」
「うんっ、えへへ〜」
「あたしらのこと忘れられてない?」
「完全に2人の世界ね……」
治ってない腕を伸ばして園子の頭を撫でる陽灯と心地よさそうに撫でられる姿を銀と須美は忘れられてることに苦笑しながら見守っていた。
「だけどあの二体を相手するのは厄介なのは間違いないわ。地震による攻撃も、地面から生み出す岩のような攻撃も。それにザ・ワンの純粋な力…」
「あれに関して、まだ突破出来る気がしないんだよね。岩はどこから来るか分からなかったし地震は動けなくなるし……」
防御にも攻撃にも優れる能力。
ただ今回は今までの中では攻撃力に関してはあまりなく、特殊能力に特化したバーテックスと見るべきだろう
問題はそれでザ・ワンが攻撃してくるところなのだが。
「今回はたまたま相手が撤退してくれただけだしなー」
「対策を考えないとね〜」
「ひとまず私たちに出来ることは次に敵が襲来するまでに修練を積むことかしら」
「うん…俺ももっと動けるようにならないと。今のままだと巨人さんの力を引き出せない、引き出せてる気がしないんだ」
包帯巻きにされている右手を見つめ、光を掴むように握る。
実際のところ、陽灯が現実で見た時よりかは既に出力も出るようにはなっているのだが、変身者である陽灯だからこそ奥底にはもっと力があることを理解していた。
陽灯の肉体は年齢の割にはほぼ完成されており、引き出せる力の量も多いが許容範囲が広いだけだ。
20mの巨大化を可能とし、それを維持出来る能力。しかし体長ではない、もっと別のナニカがあるように思えて、巨人の力が出せず足を引っ張っているのは陽灯自身だった。
けれど陽灯には分からない。力を引き出せる根本的な部分を察するには、彼にはまだ巨人の力は早すぎた。
誰かを失う悲しみを、辛さを知って、恐怖を知って、厄災と巡り会い、■の使徒の存在を知っても、戦って経験を積もうとも、彼は本当の戦いというのを知らないのだから。
「陽灯くん……」
「みんな同じだよ」
「だな。もっと連携できるようになってもっと動けるようになってもっと戦えるようになる!」
「そうだね……うん、そうだ。あっ、そういえばザ・ワンが気になること言ってたんだけど……」
「気になることって?」
色々あって忘れてしまっていたが、話している間にふと陽灯はザ・ワンと会話した時のことを思い出す。
「そうそう、なんか俺の事を適能者、デュナミストって呼んでたんだ」
「デュナミストかぁ、聞いたことあるか?」
「適能者……さあ、何かの単語かしら……」
「う〜ん。適能ってことは適合に近い意味があると思うから、もしかして巨人に変身できる人のことを指すのかな? ということは、はるるん以外にもいる……なら、ここに居ないのがおかしいよね〜?」
「どうだろう…けど不思議としっくりくるから、間違ってないのかも」
「とにかく先生にも伝えるべきね」
「だよね、言ってくる!」
「いやいや待て待て!」
「ちょ、ちょっと。まだ動いたらダメよ!」
迅速果断なのは確かに陽灯の良いところではあるのだが、数分前に言われたことを忘れたかのように動こうとした陽灯を銀と須美が慌てて動きを抑えると、暴れたら危ないからか陽灯は大人しく動くのをやめていた。
「油断も隙もあったものじゃないわね…」
「てか、待ってたら戻ってくるっしょ」
「あ、それもそうか」
わざわざ行かずとも、ここを出る前の発言から戻ってくることは明白だ。
特に陽灯たちとは違って安芸は大人なのだ。怪我人を動かすほど鬼畜でもない。
「思ったんだけど、ザ・ワンも巨人も前より大きかったよね?」
「え? 言われてみれば、ザ・ワンの方は特にそうだったかも。前はバーテックスより小さかったのに」
最初に戦ったザ・ワンは25mであり、今回は30m。
対する陽灯は一回目の戦闘で10m、二回目で15m、三回目で20m。
まさしく
無論、その強さまでも。
「あーそういや。それがどうかしたのか?」
「適能者、この場合はるるんだけど。はるるんが力に適応していく度に巨人も大きくなって強くなってるなら、ザ・ワンはどうやってはるるん以上に強くなったのかなって」
「? 確かにザ・ワンは俺より大きいけど、生物だと思うから成長したとか?」
「でもはるるんはザ・ワンよりも戦闘の経験があるんだよ? 訓練だってしてるし…何処に居て何処から現れてるのかも分からないから言い切ることは出来ないけど何もせずに成長するのはおかしいと思う。特に生物なら捕食したり鍛えたりする必要性が出てくるから」
何もせず唐突な急成長を遂げるのは生物であるならもっと異常なのだ。
人だって動物だって成長するには鍛えて、勉強して、何かを食べて生きる糧にしなければならない。
陽灯が厳しい訓練をして、やっと巨人の力をほんの少しさらに解放したというのに、あっさり上回るとなると何かあると見るべきというのは、間違ってないのかもしれない。
「なるほど…確かに前回はザ・ワンは居なかったのに、今回出てきたら陽灯くんと同じじゃなくて上回ってたわね。常識的に考えるならそのっちの言うようなことがなければおかしいわ。仮に違ったとしても似たように変化していってるから、陽灯くんが戦う度に強くなってるのと同じか似たことが起きる可能性の方が高いはず……」
「じゃあ、どういうことなんだ? 陽灯と同じくザ・ワンに変身してるやつでもいるのか? そいつが訓練して強くなったとか」
「それは無いよ」
「なんで分かるんだ?」
「分かるわけじゃないけど……だって、それじゃあこの世界を壊そうとしてる人が、俺たちを殺そうとしている人がいるってことになるから。それに…もし人だったら……戦えるのかな」
ザ・ワンの成長には何かあるとしても陽灯に近いとなると答えはそれが最もなものなのだが、陽灯の言葉に沈黙が流れる。
仮にザ・ワンが人だったとしよう。悪意ある人間がそうだったとして、ならば戦えるかと言われれば即答出来るはずもない。
いくらバーテックスと戦おうが、ザ・ワンと戦おうが、人殺しの経験などないのだから。
異形であるからこそ、戦えるともいえる。
「変身…人…デュナミスト…あっ。そういえば以前、ザ・ワンが完全な融合…とか言ってたよね〜?あれがはるるんとの違いとか?」
「確かに、あの時は分からなかったけど…そのようなこと言ってたわね」
「融合……?」
改めて整理してたのか、思い返されるのは初めて樹海でザ・ワンと出会った時のこと。
残念ながら陽灯にはその時の記憶が無いため、首を傾げていた。
「そういやそんなこと言ってたような…」
「あの時は…胸の部分が点滅してドクドクって心臓みたいな音してる時だった。それに二度目も三度目も同じく鳴ってたよね? はるるんは覚えてる?」
「あ、うん。あれはね、なんかこう…グッと、ググっと締め付けられる感じがして、体からも力が抜けていくんだよね」
「もしかしてそれが陽灯くんが変身できる限界時間で…危険信号みたいな役割を果たしてるのかしら?」
「あーああなったら苦しそうだったもんな」
変身した直後は毎回何も無いが、追い詰められると計三回とも全て同じ現象が起きている。
偶然にしては状況が重なりすぎているだろう。
何より力が抜けていくという言葉から、須美の答えは何も知らない身からすれば正解と思えるもの。
「じゃあ、ああなったら警告ってことだね。あの音が止まったらどうなるかまでは分からないけど……」
「…うん。それは俺も分からないかな。とにかく分からないことを考えても仕方がないよね! 俺も自分のこと分かってないし、ザ・ワンのことも全然分からないし、巨人さんなら分かるかもしれないけど…今は話せないから」
「まぁ…そうか」
「そうだね〜調べようがないもん。ただあの音が鳴ったら注意した方がいいってことでいいかな〜」
「その通りね…ってちょっと待って」
実際これ以上は何も分からないからか、そう締め括った園子に全員が同意し、須美は待ったをかけた。
視線が陽灯に向けられ、彼は不思議そうに見つめ返す。
「? うん」
「陽灯くん、もしかして前まではその、巨人と話せてたの?」
「そうだよ? 今だって、話せはしないけど俺たちの会話聴いてると思うし、これ、巨人さんと話した時に貰ったんだけど意思くらいなら伝わるから」
すると胸元から紐のかかった輝石を取り出した陽灯は皆に見せる。
好奇心からか三人とも覗き込むと、宝石のような輝きがあってただの石ではないことが見て取れる。
「これ、アクセサリーかと思ってた〜」
「何かに似てるような……」
「これ、巨人の胸の部分とそっくりだわ。別に疑ってるわけじゃないけれど…今はどうして話せないの?」
「うーん、そこまでは分からないんだ。たまに声は聞こえるけど…それくらい」
「そうなのね…分からないことばかりだわ」
「だけど大事な仲間ってことだよね。よろしくね〜巨人さん」
輝石を見ていた園子が話しかけると、彼女の声に反応するかのように輝石がうっすらと赤い輝きを放つ。
「わあ!?」
「なんだ!?」
「光った…?」
「”よろしく“って言いたいみたい」
突然のことで驚く三人に対し、これでも長い付き合いなのもあって、何が言いたいのか理解した陽灯が代弁する。
「本当に分かるんだな。こっちこそよろしくな」
「えっと、よろしくお願いします…でいいのかしら」
「うん、いいみたいだよ」
「いつか話せるかな?」
「話せるといいね〜園ちゃんやみんななら、きっと巨人さんとも仲良くなれるよ!」
「楽しみ〜」
「あまり想像は出来ないわね……」
「あの見た目で話せるって普通は考えられないもんな…でも明らかに人間とは違うし普通じゃないか」
話すというよりは、脳内に直接伝わってくるような感覚なのだが、経験したことがあるのは陽灯のみ。
彼は普通にそれが喋っているという感覚でしかないのでちゃんとした意味で話すということが伝わることはなかったが、園子はいつかを心待ちにして、須美はイメージ出来ず、銀は須美に近い感想だった。
そのような会話をしていると、ノック音が響いたあとに安芸が入ってくる。
「とりあえずこれからのことを伝えるわ。まず今日はもう遅いから四人とも休むこと。明日からまた訓練に入るけど、より本格的にやっていきます。ただ遡月くんだけは午前中の間一度家へと戻ってもらうわ」
「家に?」
「遡月家の方々には通達がいってるのよ。顔を見せるくらいしないと心配させてしまうでしょう」
「あ、そうなんだ…そうだよね、うん分かった」
初めて耳にすることだったが、最もなことだったので陽灯は納得したように頷くと、三人も同じく納得していた。
先の戦いは遡月家以外にも届いているだろうが、皆微怪我レベルでしかない。
しかし陽灯は今は治っているとはいえほぼ全身火傷だったし、今も両腕は中の肉が見えている。
心配するのも無理は無いだろう。
「そういうことだから、そろそろ私たちは戻りましょうか。休もうにも休めないでしょうし」
「はい」
「ほら行くよ園子」
「え〜」
「ごめんね、園ちゃん。また明日すぐに会えるから」
自主的に退出する須美と銀に引っ張られて渋々出ていく園子を見送ると、出る前に安芸は陽灯の方を見る。
「遡月くんも何かあったら呼びなさい。いくら回復速度が早くても完治したわけじゃないのだから、何かあってからでは遅いわ」
「はーい」
「はいは伸ばさない」
「はい…」
それだけは念押しに伝えたかったようで、ちゃんとするかどうかはさておき安芸も病室から出ていく。
一人になると先程の騒がしさも静かなもので、陽灯は輝石を握りながら天井を見つめる。
(どうして戦うんだろう……次に来た時、俺は戦えるのかな……もし、もし園ちゃんの言葉が正しいなら銀の言ってたようにザ・ワンも俺みたいに変身してて、人間が戦ってるならどうすればいいんだろう。ザ・ワンがただ意思がなくて本能で暴れるだけの凶暴な怪獣だったなら、バーテックスみたいだったら、こんな迷うことも無く戦えたのに…)
誰にも話せてない陽灯の本音。
巨人の力だけでなく、様々な場面で必要な力の引き出し方は戦意や覚悟だ。例えば物を持ち上げようとするとき、持ち上げるために力が必要だから入れるように、陽灯にはそれがなかった。
動物であろうと人であろうと優しく接する陽灯には、何かを殺そうとすることは苦手で、ザ・ワンが明確な意思と思考能力を持ってるが故に陽灯は迷い続けていた。
戦えるのかどうか、考えているうちに陽灯は眠りに着いてしまい、その姿を心配するかのように輝石がひとりでにうっすらと輝いた。
「ねぇ、はるるん大丈夫かな…?」
「そうね、何か悩んでる様子だったけど……」
「まぁ…陽灯にだって悩みくらいあるよ。頼りたいなら話してくれるだろうしさ、もしそれでも解決せず黙ってるようだったら聞こうよ」
「一人で考える時間、必要だものね」
「そうそう、力になりたい気持ちは同じだけどさ。だからあたしらは強くなってやろう、な? 園子」
「……うん」
部屋が出たあとに、そんな会話が成されていたことを知っているのは、三人とこの世界の神たる神樹様のみだろう。
次の日になると、陽灯は車に乗っていた。
何故一日で退院出来てるかと言うと、大赦の傘下である病院だったからと言えば、あとは何も言う必要はないだろう。
朝なのもあり、学生はいるが人はさほど多くは無い。本来であれば陽灯たちもみんなと同じように登校していたはずだが、そもそもとしてお役目がなければ陽灯は今の学校に来ることもなければ須美や銀、園子たちに会うこともなかっただろう。
「そういえば、先生」
「なにかしら?」
今も訓練している三人のことを考えて、陽灯は聞こうとしていたことを今更思い出した。
ちなみに安芸には既に三人に共有した巨人のことも話しており、適能者と呼ばれたことも話していたりする。
「あのボールを発射する機械、誰が作ったの?」
「急ね…どうして知りたいの?」
「深い理由はないんだけど、勇者の三人でもやっとで、俺も不意を突かれたり距離によっては避けられないくらい速いから銃弾より速そうだし、よく作れたなぁって。だから気になったんだ」
銃弾を避ける経験は流石にないので、言い切ることは出来ない。
しかしバーテックスやザ・ワンの攻撃を避けられる時点で、実際にやれば避けられるだろう。
「なるほど…そうね、二年前…くらいだった気がするわ。大赦の中で技術力が急に上がってね、最初はもっと台数は少なかったのだけど対バーテックスを想定した勇者たちの訓練になる機械を制作する…となって作られたものなのよ」
「へー…でも急に量産なんて出来るものなの?」
「神世紀よりもずっと前だって一人の天才から生まれたものは多くはあるわ。ないとは言い切れないものね。ただそれでも乃木さんや三ノ輪さん、鷲尾さんがやっていた速度と同じくらい。遡月くんがやっていた速度は改造したいと意見を言った人が数週間前に居たからよ」
「数週間前?それって凄いね…大赦の中でも凄い人?」
「いえ二年前に入ってきたばかりの新人…だったはず」
大赦の内情を知らない陽灯は詳しくないため次々と質問していくと答えられる範囲だからか教えてくれるが、記憶に深くないということはあまり関わったことはないのかもしれない。
しかし新人であれほどならば、期待の新人というやつか。
「あまり知らない?」
「組織が同じだからといって関わりが必ずあるってわけじゃないのよ。部署が違ったり担当が違えば、話す相手も変わる。これは大赦だけでなく、社会に出たら当然のことね」
「そか、そんなものか……名前くらいは分かるの?」
「名前……」
思い出そうとしているのか会話が途切れると、陽灯は大人しく待っていた。
「確か……そう、
「
「それは難しいんじゃないかしらね。勇者はともかく、遡月くんのことを知っているのは上層部や強い権力を持つ人たち、担当だった私くらいなの。ただその山岡って人に実証実験の結果は要求されているから遡月くんの存在を隠しながら提出するわ。それ経由で新しく改造されたものが来る可能性は高いと思うけれど…開発チーム次第ね」
「残念…あれ、そもそも俺ってそんな隠されてるの? もっとこう、学校のみんなみたいに明かされてるんじゃないかって思ってた」
神樹館の生徒たちにはお役目に着くことを明かしており、巨人になれるということは明かされていない。
お役目自体も隠されているため、陽灯は勇者の三人と何かをするということしか明かされてないのだ。
ただし大赦では巨人に変身出来ることは知られており、それの違いだろう。
「遡月くんはもう少し自分の特異性を理解すべきよ。あのね、勇者は以前にも居たけれど巨人に変身できる人間なんて298年間も確認されていない。神世紀以前は分からないけれど、そんな存在が今現れた…怪獣とともに。一般人には勿論のこと、大事に出来ることじゃないの」
「ふーん…」
「……分かってなさそうだけど、とにかく遡月くんは存在そのものが機密ということ」
「なんか難しいね」
興味が無いのか純粋に理解出来てないのか、間違いなく両方な彼は思考を投げ捨てた。
知りたいことは知れたというのもあるだろうが、自分のことはどう思われていても巨人さんのことじゃないならいいや、という思考をしているのが彼だ。
もとより自分のことになった時点で興味は無い。
それを理解したのか安芸はため息を零すと、運転に戻る。
陽灯の在り方は危うく、大赦からすれば彼が巨人に変身できたことは僥倖といえよう。
味方か敵か目的も何もよく分からない存在がよく分からない脅威やバーテックスと戦ってくれ、大赦を何かしようだとか大赦のことを調べようだとか考えるタイプでもなく動いてくれる都合のいい存在なのだから。
「…そうこう話してる間に着いたわ。午後、13時には迎えが来るよう手配するから、それまでに準備はしておいて」
「うん、わかった。ありがとう先生」
降りる前に要件を伝えられ、陽灯は連れてきてくれた安芸にお礼を言いながら車から降りると、来た道を戻っていく車を見送る。
三人の元へ向かったのだろう。手間になってしまっていることに申し訳なく思いつつ、陽灯は二日ぶりの家のインターホンを鳴らす。
「はいはーい…お?」
「あ」
誰か一人は必ずいることは分かってはいたものの、ドアから出てきた懐かしい姿に陽灯は思わず声を出していた。
眠そうな目に気怠そうな佇い。腰にまで伸ばされた青みがかかった黒色。
「ゆかりさん。元気だった?」
「うんうん元気元気。はるはるは聞くまでもないかー」
「とーぜん、元気! 俺はいつもずっと元気だよ!」
「変わってないねぇ。ほれ早く入りな〜包帯緩くなってるから直してあげよう」
「え? ほんとだ、気づかなかった!」
「はるはるは自分のことになると抜けてるからねえ」
大人しくしている方が苦手な性格なのもあり、包帯が緩くなっていることに指摘されて気付くと、ゆかりに従って家に入る。
他の人達にも迎えられ、戻ってきたという実感が湧きつつ不思議な安心感を感じる。
本来の自分自身の家では無い。だが陽灯にとっては第二の家みたいなので、特別な場所になっているからだろう。
同僚に態度を叱られて全く反省しないゆかりの姿にも懐かしく思いながら、解放されたのか手招きされる。
「変わらないねーゆかりさんも」
「まぁねー硬っ苦しいのはやだやだ。力を入れすぎてもねぇ、たまには肩の力抜かなきゃ。ここくらい息抜きしなきゃ私が死んじゃうよ」
「俺は全然素のゆかりさんの方が好きだよ」
「おー私もはるはるが好きだぞ〜久しぶりに会ったけど、やっぱ癒されるわ」
「あはは、俺何もしてないけどね」
まるで慣れた手付きで陽灯の包帯を解くと、うげ、と不快感を隠しきれない表情を浮かべる。
中の肉が思い切り見えてるので仕方がないといえば仕方がないのだが、彼女の口から出たのはそういう意味ではない。
「まーた無茶してるじゃん」
「え、ええと…これは」
「聞いてる聞いてる、お役目でしょ。けどさー前から怪我してるのを見てきたこっちの身からすれば以前より酷くなってる怪我を見りゃ心配になるもんよ」
「いつもごめんね……」
「私は慣れたからいいけど、澪っちやすーちゃんが心配するぞー?」
「うっ……」
「まま、はるはるのいいところでもあるんだけどね。どうせ誰かを守るためでしょ?」
「まぁ……」
「だと思った」
ため息をひとつ。
軟膏で傷を塗り、創傷被覆材で覆われて包帯を巻かれる。
全てにおいて何度もやってきたかのような動き。
実は彼女こそ、陽灯に宛てがわれた世話係の三人目。
普段の陽灯から分かる通り、怪我しかしない陽灯を見て危ういと感じた澪と夜霧によって用意された人物でもある。
実は本人は陽灯の前だと堅苦しくなる必要もないため、この立場を気に入っていたりする。
「すーちゃんをあんまり心配させないようにね。ただでさえあの子、心配症なんだし。あと那由さん」
「わ、わかってる。努力はするよ! ありがとう、助かったよ」
「どーいたしまして。で、今澪っちはもう少しかかるみたいだけど、呼んでこようか?飛んでくると思うけど」
「ううん、大丈夫。それよりゆかりさんのこと聞かせてよ。勉強大丈夫?」
「全然。疲れた。癒し欲しい。今癒された。に至る」
「そ、そうなんだ…医学…系だっけ」
「このままだと取り返しのつかない怪我をしそうなはるはるの将来も心配だし昔からの目標だからねぇ、ほらほらはるはるも勉強見てみる? こーんなの出てくるんだよ」
そう言うや否や小学生どころか中学生でも高校生でも分からなそうな問題が書かれてる文を見せると、陽灯の頭には一瞬にして疑問符で埋まった。
しかしある部分で電球のマークが浮かぶ。
「なるなる、仕方がない」
「あれ、でもここ間違ってない?」
「ん? どれどれ……うえ、マジか。はるはるさては天才か」
「えへへ、天文学に関しては任せてよ!」
「天才的だねー他が壊滅的なこと以外は」
「え、褒められてる?」
「褒めてる褒めてる」
「絶対嘘だ! これは分かるよ!」
あまりに適当な言い方にこればかりは騙されなく、ゆかりはバレたか、とげらげらと笑っていた。
少し不満そうに見上げると、ぽふんと頭に手を置かれた。
「だけど前者は本当本当。はるはるなら立派な天文学者になれるよ」
「む……ゆかりさんそういうところちょっとズルいな」
「はるはるにだけは言われたくないねぇ」
「???」
「そーゆとこだよ、ふーむ…」
何かを見透してるかのように眠そうな目を真剣なものを変えたゆかりは思案するように片手で口を覆い、陽灯を見つめていた。
たまにある突然の変化に陽灯は戸惑う。
「私が出ても解決しそうにないし、澪っちも逆効果かな。うん、はるはるに助言してあげよう」
「じょ、助言? 急に何を…」
「はるはるの悩み、あの人に相談してみたら?」
「……!」
一ヶ月近くも会ってなく、久しぶりというのにたったの数分話した程度で悩みを抱えている、ということを看破したことへ陽灯は驚きを隠せず動揺してしまう。
それだけで相手には正解だということは伝わっていた。
陽灯が遡月家へ来て、約一年。
関係性としては一年どころか数十年一緒に過ごしたのではと錯覚させるほどに仲睦まじく、評判もいい。
傍から見れば約一年の関係とは見えないだろう。
しかし陽灯が分かりやすい分類とはいえ、悩みを抱えているだなんてここに来るまでは誰にも指摘されなかった。そもそも過ごしてきた期間は短いのだ。濃さはまだしも、何も知らない人達からすれば浅い関係でしかないのだから。
---まぁ実は勇者の三人にはバレてたりはするが、陽灯だけが気づかれてないと思っているだけである。
「誰だっけ、名前名前。えー近所の、ゆ…ゆう、あ、そうそう裕香さん。それに…そろそろ時期もいいころだと思うし、はるはるなら解決出来るでしょ。がんばれーヒーロー」
「え、えぇっ、急に投げやり!? ちょっと、色々どういうことか説明して欲しいんだけどー!」
「大丈夫大丈夫。私もはるはるに助けられたしはるはるならいけるってー」
「何の説明にもなってない!?」
「じゃ、がんば☆」
「え゛っ゛!?」
背中を押されていたら、気がつけば陽灯は外に戻されてポツーンと玄関前で突っ立っていた。
正直言っていたことへの理解が全く追い付いていない。
『ゆかりさん陽灯様はどちらへ?』
『外。放り出した』
『は? ………はあぁああああ!?』
『那由さん声でかー』
『ゆかりさん!!』
『わー怒った! たすけてぇー!』
「………うん」
何か色々よく分からないが、今戻るべきではないと察した陽灯は大人しく渡されていた靴を履いて外に戻る。
空は変わらず太陽が出ている。季節的にも既に暑い。
結局どうするべきか分からず、陽灯は頭を捻る。
(巨人さん、どうしよう?)
ひとりじゃ考えることが出来ず頼ってしまうと、暖かいものを胸の中から感じる。
言葉は返ってこないが、どう言いたいのかは宿してる陽灯には伝わっていた。
「そうだね、ゆかりさんの言う通りにしてみよう。俺の悩み……力って、なんだろう…。戦って勝って、それで何もかも解決するものなのかな……話し合えるなら、それに越したことはないと俺は思うんだ」
『…………』
陽灯が零した悩みについて、巨人からは何も返ってこなかった。
それは陽灯自身が見つけることに意味があるとでも言いたいように。
実際、答えることは出来るのだろう。巨人は陽灯よりも生きて世界を知って、人を知っている。だからこそ、導くだけではダメだということも。
強大な闇に打ち勝つには、陽灯という光のピースだけでは足りない。100の値で現在の闇が50とすれば、陽灯なんてせいぜい20程度。
精神がまだ成熟しきってない彼が、もし言われるがままに成長すれば未熟なままになってしまうのだから。
家の場所を知っているため、そこへ向かうと遡月家ほどではないが普通の民家よりは大きな家へと辿り着く。
セキリュティもしっかりされていそうで、インターホンを鳴らす。
数秒待っても返事も何もなかった。
「あれ…留守かな」
絶対に居るというわけではないので当然と言えば当然の話。
ただそうなると、会おうにも場所が分からない。
どうしようかとその場で悩んでいると。
「…陽灯くん?」
呼ぶ声が聞こえた方へ向くと、黒紫の女性が居た。
知り合いであるため、すぐに誰か分かった陽灯は女性の名前を呼ぶ。
「裕香さん……」
八雲裕香。
遡月家の近所に住んでいて、彼女のフルネーム。
詳しくは知らないものの、陽灯にとって義父と義母である遡月家の二人と関わりがあるような節がある人物。
「あの……えと……」
「…話があるなら、家に入って。怪我してるし、疲労はあるでしょうから」
「あ…ありがとう」
陽灯の両手が怪我してるのを見てほんの僅かで察したのか家の鍵を開けた裕香は陽灯を家にあげると、リビングで座るように言ってからキッチンへと向かっていた。
陽灯は大人しく従いながら、写真立てに目が向かう。
ご存命ではあるが会ったことのない主人らしき人と裕香、紹夢の写真。
まだ元気らしい姿から察するに、かなり前だろう。
今はだいぶマシにはなっているらしいが、一時期はかなり悪くなっていてそこから元気がなかったと聞いたことがある。
陽灯が紹夢と出会ったのは、その時だ。
---気が付かないまま、拳を握っていた。
(この世界を守るためには、俺がやるしかないのに……紹夢くんにはどれだけ時間が残されてるか分からない…俺には、救えない……)
何度も力不足を自覚する。
陽灯にとって誰かを救うことが一番なのだ。救いたいと願って、突き進んで、未だに本当の意味で守れたとは思えなかった。
あの日の夜だって、多くの命を守れなかったから。
ただ踏み込めない。手に入れた力は多くの人を守れる力。
そのために戦ってきたのに、ザ・ワンと話し合えるんじゃないかという考えも倒すべきなのかという迷いも消えなくて。
ある程度ダメージを与えて撤退させるということも考えたが、余裕がなければ出来ないこと。
そんな余裕は、はっきり言ってない。相手を殺す気で倒そうとしなければ負けるのはこちらだと分かる。
特に相手は厄介な能力を持つバーテックスと連携してくるのだから。
「はい。オレンジジュースで大丈夫?」
「あ…うん」
オレンジジュースが入ったコップとクッキーの入れられたお椀が机に置かれると、裕香は陽灯の対面になる方へ座っていた。
どう切り出すか、そもそもどう口にするべきか分からなくて。
「あの…紹夢くんは? 今日はその、体調…」
「今日も大丈夫よ。さっき保育園に預けてきたから、きっと陽灯くんが来てたって知るとあの子拗ねちゃうでしょうね」
「あはは…そうかな」
「きっと。陽灯くんのこと大好きみたいだから」
「ならまた会わないと、ですね」
「いつ来てくれても歓迎するわ」
「…はい」
こうやって歓迎してくれていることに嬉しく思いながら、悩みを打ち明けるか、と迷いが生まれる。
この悩みはお役目に関することで、話すべきかどうかも分からないのもあるだろう。
追い出されてしまったから言っていたとおりに来ただけ。巻き込んでしまっていいのか、と自問する。
「…何か、悩みでもあるの?」
「…え?」
そんな折りに心でも読んだのかと思ってしまうほど図星を突く言葉にあからさまな反応をしてしまう。
どんな状態であれ、本質は変わらない。嘘が下手な彼はとても分かりやすい。
「ど、どうして…」
「自覚してないみたいだけど、陽灯くんは分かりやすいから。いつもの明るさもなりを潜めてるしこれでも一児の母だから。私でよければ話を聞くことくらい出来るわ」
「でも……」
「それなら、こうしない? 普段お世話になってるお礼ってことで。私なんかじゃ役不足かもしれないけど、貰ってばかりじゃ立つ瀬がないの」
「裕香さん……」
鈍感な陽灯でも、裕香が陽灯にとって話しやすいように土台作りをしてくれているということは分かった。
ここまで気を遣わせてしまって頼ることもせず断るなんてことは流石に出来ない。
だからこそ、覚悟を決めて口にすることにした。
「実は……分からなくなってきたんだ」
「………」
邪魔をしないためだろう。
うん、と相槌だけを打って陽灯の言葉を待ってくれる。
言葉を選びながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「きっと……力で解決することが正しいはずで、そうする方が簡単で楽な道なんだと思う……けど、本当にそれでいいのかなって」
実際に武力だけで解決するなら、悩む必要なんてない。
いつもの自分らしく愚直に突き進むだけでいいから。
考えることに向かない彼にとって、シンプルで分かりやすい答え。
そこに迷いが生じているから、今こうして立ち止まってしまっている。
「言葉が通じるのに力で解決しても…それって結局根本的なら解決にならないような、やってることが同じような気がして……どうして争うんだろう。どうして手と手を取り合えないのだろう。どうしてちゃんと、互いに腹を割って話そうとしないのかなって…そうしたらみんな分かり合えるんじゃないかって」
「陽灯くん……」
「自分の力が何のためにあるか分からなくなってきて……守ること、救うこと、そこに迷いはないのにそれ以外で俺は悩んで考えて、分からなくなって、答えが…出なくなったんだ。ねぇ、なんでなのかな。誰かを思いやれるのに他の誰かと争って…認められなくて…なんでそうなるんだろう?」
”誰とだって分かり合える“
陽灯の言いたいことは、結局のところそこだ。
既にみんなを守るヒーローになるという誓いを立てた。誰かの幸せを守りたいと願った。誰もが笑顔になれるように守りたいと思った。
なら、その『誰もが』に他の生命体は入らないのか?
否。自身の中に宿る宇宙から飛来した生命体。
彼の力を借りて戦いに赴いている訳だが、それは陽灯が彼と分かり合えたから。ならば同じく宇宙から飛来した存在は?
同じだ。同じなはず。
故に戦うんじゃなくて話し合えば分かり合えるんじゃないかと考えてしまう。
「ただ力を振るうことで解決するのは正しく思えなくて…だけど俺がやらなくちゃ誰かが傷つく。力で勝つだけじゃ足りない気がして、でも何かを守れる力がある俺がやらなくちゃいけないのに、他に道があるんじゃないかって考えて、力ってなんなんだろうって、正義ってなんなんだろうって…」
もしも陽灯が誰かを悪と決めつけ、誰かを正義と決めつけられたらこんな悩みなんて生まれなかっただろう。
とてもシンプルになる。
人類の脅威になるザ・ワンは悪で排除すべき、と。
ただ生まれて此の方、人を憎んだことも恨んだことも悪と決めつけたことのない彼だからこそ、誰もが持ってるであろう『正義と悪の基準』が欠落している。
互いに話し合えば。意思を尊重し合えば。
傷つくことも無く解決する、と。
喧嘩を仲裁するように、陽灯は今までそうやって話し合いで解決してきた。
理想でしかなく、どこまでも泡沫の夢を見る。
「…難しい話ね」
「そう、だよね…」
「ううん、そうじゃないの」
「……?」
実際難しい話ではある。
少なくとも子供が抱えるような悩みでない。
「陽灯くんが何に対してそう考えたかは分からない。でも、人間だって同じなのよ」
「同じ…?」
「そう、同じ。人だって分かり合うことができない。互いに自分が持っている正義があって、観点があって、この人は悪だと決めつける人が居たとして、別の人からしたらそう決めつけた人が悪かもしれない」
「力だって、同じこと。力は武力でもあるし言葉でもあるの。そのどちらでも、人と人は争う……これは避けられないものなの」
今は昔ほど酷くは無い。
それでも西暦の頃には人と人が戦争し合っていた時期があったという文献は残っている。
歴史を遡れば、いつだって人は争ってきた。
拳や武器を握り、時には言語で。
「じゃあ、分かり合えないってこと……?」
「私は…正しい答えなんてないんじゃないかって思う。何が正解か何が間違えてるかだなんて…誰にも決めつける権利は無い。だから…だからこそ、自分自身が正しいと思った道を、答えを貫き通すのが一番なんじゃないかなって」
「自分自身が…正しいと思った道……」
世界のために戦う道は避けられない。
力で解決するんじゃなくてザ・ワンと分かり合えたら、なんて甘いだけだろう。
だけど、陽灯はまだちゃんと話せてない。
「…いいのよ。陽灯くんはいつも自分の理想を進んできたでしょう。なら最後の最後まで真っ直ぐに向かっていけば。例え一度は無理でも諦めずにチャレンジしたら、答えは出るかもしれないわ。陽灯くんの力はそれを押し通すためのもの。何も無ければ出来ないけど、そうすることが出来るものを持ってるなら、きっと大丈夫」
事情を知っているのか知らないのか、陽灯の手を取る裕香は包み込むように握る。
陽灯のことを否定せず、肯定する。
大丈夫だと言われただけなのに、不思議と胸が暖かくなっていた。
それは自分が本当はそうしたいと思っていたからなのか、安心したのか、それとも他の要因か。
ただ---答えが出たのか陽灯の目には、強い光が灯る。
「だけど、忘れちゃダメなのは一つ。例えどうしたって、分かり合えないこともあるの。その時は…迷っちゃダメ。相容れない存在は絶対どこかにはいる。見えているものだけが全てじゃないから。それでも分かり合おうとしたら、きっと陽灯くんは大きく傷つくことになるから。貫くことも大切だけど、引き際を見極めることを決して忘れないで」
「……うん」
我武者羅に理想を追い続けることになるかもしれない陽灯の危うさを感じ取ったのか、裕香は注意を加えていた。
果たしてそれが、陽灯にちゃんと伝わっているかはさておき。
「…なんて。かくいう私は…ずっと止まったまま。私が偉そうに言う資格なんてないのだけどね…」
深く感情が込められながら、自嘲するような薄笑いを浮かべて裕香は手を離しながら話題を切った。
何度も話すことがあって、たまに見せる陰りのある部分がいつも気になっていた。
結局踏み込むことなく、いつもそのまま話を終わらせてきたがゆかりの言葉が脳裏を過ぎる。
『そろそろ時期もいいころだと思うし、はるはるなら解決出来るでしょ。がんばれーヒーロー』
面倒臭いことを嫌う人ではあったが、嘘を言うような人ではないことを知っている。
これはそのことなのかもしれない、と陽灯は勇気を出して踏み込む決心をした。
何よりそれが抱えている悩みなら、答えを出すきっかけをくれた恩返しがしたくて。
「裕香さん…裕香さんでもそんな経験があったの? 何か、分かり合えなかったような」
「…ええ、今も腹を割って話しあえてない。陽灯くんにあんなこと言っておいて、私は何も進めてないの。今も過去に囚われて、納得が出来ていない。ちゃんと話すべきだって分かってても、勇気が出ないから。あの人みたいに…上手くやれないのが私」
「それって…澪さんのことだよね」
「……正解よ」
陽灯でも分かった理由は簡単。
澪に裕香のことを聞かれたことがあって、裕香に澪のことを聞かれたことがあって、直接会うようなことを二人とも一度だってしてなかったからだ。歩けばすぐに会える距離なのに、会おうとしていない。
いや、会えないのかもしれない。
ただ陽灯は両方とも互いを嫌ってないことは知ってて、むしろその逆ということも知っている。
なんで今みたいな関係になってしまって、話すこともしないようになったのかは分からない。
だけどそれは、寂しいものなんじゃないかと思った。
陽灯の目に映る裕香は、そう見えたから。元気だということにほっとしながらも寂しそうな目をしていた義母を知っているから。
「…そんなのダメだよ」
「陽灯くん…?」
「裕香さん! ちょっと待ってて!」
「え? ちょっと、陽灯くん…!」
引き止めるような声を無視して陽灯は一気に駆け出す。
残念ながら、そんな不思議な関係になる原因を陽灯は分からない。知ってても、理解できないだろう。
人一倍勇気がある陽灯ならそんなことなる前に必ず一歩を踏み出すから。
だから、そんな目をして欲しくなかった。
今までずっとそうだったなら、きっとこの先も同じで、いずれ話せる時間すらなくなってしまうかもしれない。これから先なんて、どうなるか分からないのだから。
そうなれば待つのは、間違いなくあの時やっていればという後悔。
なら無理にでもきっかけを与えればいいんだと、自分が二人の間を取り持てばいいんだと、そう決めた陽灯の行動は早かった。
外を出たらすぐさまターンして走り、インターホンを鳴らすと開けてくれたので、横を通ることに謝りながら家に駆け込む。
目的地は決まっている。
「ゆかりさんっ!」
ドアを勢いよく開けると、正座をさせられているゆかりと彼女の目の前には仁王立ちで立っている那由の姿があった。
ゆかりの姿を見つけ、すぐに近づく。
「…お? おーはるはる、もしかして私の助けに---」
「陽灯様、申し訳ありませんがゆかりさんはまだ説教が残ってまして…」「那由さんのけちぃー!たーすーけーてーはるはるー!」
「那由さん…ごめんね、すぐ終わるから!」
「はるはるなら助けてくれるって信じてたぜー」
やっと説教から解放されるとでも言いたげに安心しきった顔をするゆかりがいるが、陽灯は彼女の両肩を掴んで目的のことを聞く。
「ゆかりさん、澪さんどこにいるか分かる!?」
「澪っち? 澪っちなら今はリビングで---」
「そっか! ありがとう! 那由さん時間取っちゃってごめんね!」
「あれー!?」
「いえ、お気をつけて」
「うん!」
「はるはるの裏切り者ー!」
時間がないので、後ろから聞こえてくる謗言を無視して走り去っていく。
ほんのちょっぴり申し訳ないと思ったが、陽灯も止めて怒られたくないので戦力的撤退を選んだのだった。
「…あの調子なら問題なさそうかな。さっすがはるはる。はるはるなら絶対解決出来るって思ってる。なんだってヒーローだからね」
「何か言いました?」
「なーんでも。……で、那由さん、そろそろ説教やめない?」
「まだ終わってませんので」
「いけず!」
場所を教えてもらった陽灯はリビングに着くとドアを開ける。
するとそこには飲み物をティーカップで飲んでいる澪の姿と使用人が三人ほど居て、絵になる光景に一瞬だけ立ち止まってしまう。
「あら……陽灯さん。そんなに急いで何かありましたか?」
「……っあ! そうだ、澪さん!」
声を掛けられたお陰で目的を思い出した陽灯が近付くと、休憩しているわけではなく、机には何らかの書類を多くあり、仕事をしているのだと分かる。
ただ難しい言葉ばかりで何が書かれているのかは分からないが、万が一書類に零すこともないようにティーカップは別の場所に置いて対策もしているようだった。
「はい」
「あの…ごめんね。仕事中だと思うんだけど…その来て欲しいところがあって……」
「分かりました。急ぎでもないですし、陽灯さんのお願いなら私にとって最優先事項になりますから」
「…へ?」
流石に陽灯でも仕事中となると勢いに任せることは出来ず、申し訳なさそうに眉を下げながら頼むと、澪はすぐに書類をまとめて片付けを始めていた。
事情を説明する必要もなくすんなりと事が運んだことに驚き、呆然とする陽灯に澪は不思議そうにする。
「どうかなさいました?」
「う、ううん本当にいいの? 途中なんじゃ……」
「いいんです。例え重要なものだったとしても私にとって大切なのは陽灯さんとの時間なんですから。ですから、行きましょう?」
「うん…ありがとう! こっち!」
「そんなに急くと転んでしまいますよ。では申し訳ありませんけれど、後はお願い致しますね」
「はい」
「お気をつけて」
早速と言わんばかりに澪の手を引く陽灯を、微笑ましそうにしながら澪は残っている使用人に後を任せ、陽灯は歩いて引っ張っていく。
といっても流石に加減はしているので無理矢理歩いているわけではなく、傍から見れば親の手を引く子供の姿そのものだ。
そのことに気づいているからか、澪は嬉しそうだった。
家を出てほんの少し歩いたところにある家。
その前に二人は居た。
「陽灯さん、ここは……」
「裕香さんの家だよ」
「なるほど……陽灯さんの望むことは出来る限り叶えてあげたいと思ってます」
「うん……」
陽灯の目的が分かったのか、澪は陽灯に背を合わせて言葉を掛ける。
養子として受け入れたのもあり、何一つ不自由なく過ごさせたいと願っていて、陽灯はここに来て不自由だと思ったことはない。
しかし澪は目を伏せると、困ったように眉尻を八の字にする。
「ですが、申し訳ありません。私には…彼女と会うことは出来ません」
「どうして…?」
思うところがあるのか家の方を見て、再び陽灯を見る。
子供らしい純粋な瞳。
理由もなく納得出来るものではないのだろうと、事情を説明する。
「会う資格がありませんから。私は彼女を裏切ってしまいましたから、きっと恨んでいると思います。あの子の気持ちを知っていながら、私は人としての幸せを選んで…今ここに居ます」
「そんなの、分からないよ。それは澪さんが思ってるだけでしょ? 大丈夫、大丈夫だよ。裕香さんは澪さんのことを嫌ってないし、いつも元気か俺に聞いてたもん」
「仮にそうだったとしても……会わせる顔がないんです」
言い聞かせるように声音は優しい。
だが陽灯には、自分自身に言い聞かせてるように聞こえた。何より、その顔がとても辛そうに見えて。
「なら余計に会わなくちゃ。俺、気づいてたよ。澪さんがいつも裕香さんの話をするとき、寂しそうな目をしてた。本当は会いたくて、話したくて、だけど出来なかっただけじゃないの?」
「それは……」
「嫌なんだ。俺は澪さんに心から笑って欲しい。まだ一年しか一緒に居ないし…本当の子供でも…本当の家族でもない俺が踏み込んでいいのか分からなくて…拒絶されるかもしれないって思ってた……そんなの嫌だなって…澪さんたちと過ごす日々は心地が良かったから。でも俺は今こうして勇気を出してこの話をしてる!」
「それはね、澪さんに心から笑って欲しかったから。辛い目を、寂しい目をして欲しくなかったから。こんなの俺の自己満足でしかないけど、それでも俺は自分のやりたい事を貫き通すよ。だからもしも澪さんが仲直りしたいって思ってるなら、会おうよ! いつまでも目を背けてたら何も進まないんだよ、いつ……いつ別れが来るかも、分からないんだよ……俺が、俺たちが負けたら世界が滅んじゃうんだ。そんなことにはさせないけど、そうなったらもう話せないんだよ……遠く離れたら、もう話せないんだよ……?」
陽灯自身の本音と、今まで行動に移せなかった本当の理由を捻り出した勇気で口にしながら今度は陽灯が自分に言い聞かせるように想いを告げていた。
遠く離れたら、もう話せない。別れはいつだって唐突だから。
---陽灯は今の家族とはいるが、前の家族との連絡は出来なくなっている。話すことも会うことも許されていない。
その家族との別れだって、唐突だった。
今も元気なのかどうかすら分からない。
それどころかもしあの時、光の巨人が存在してなければ陽灯はこの世にすら存在しない。
「陽灯さん……。私は…怖いのかもしれません。あの子に拒絶されたらもう話せなくなるんじゃないかと。それなら現状維持に努めるのが一番なのでは、と……」
「澪さん…それじゃあ何も…っ!」
「ですが」
「…!」
そこから先の言葉を言うよりも早く、人差し指をあてがわられる。
少し驚きながら見つめると、澪は小さく頷いた。
「陽灯さんにそこまで言わせて何も動かないようでは、母親としても大人としても失格…ですね。子供の陽灯さんの方が、よっぽど大人ではありませんか」
「澪さん…?」
澪はいつもの優しい表情を浮かべながら陽灯の頭を撫でると決心したように立ち上がった。
その姿を見上げると、手を差し伸べられる。
どういうことか分からずにいると、澪は不安そうな表情を浮かべながら口にした。
「陽灯さん。私一人では進めないかもしれません。ですから……もし良ければ一緒に来て、最後まで居てくださりませんか? 貴方の勇気を私に分けて欲しいのです」
「! うん…俺で良ければいくらでも!」
その意味を理解した陽灯は晴れやかな笑顔を浮かべ、即答しながらその手を取った。
体温とはまた別の暖かい温もり。
不思議と心が落ち着くような温かさを感じる澪はその手を優しく握る。
「ただこれだけは言わせてください」
「?」
「先ほどは本当の家族ではないと言いましたが…前に夜霧さんが言ったことを今度は私の口から言わせてもらいますね。私にとって、例え血が繋がってなくとも陽灯さんはもう大切な子供です。私たちの子供でもあるんです。例え偽りだったとしても、真になれないわけではありませんから」
「あ……ごめんなさい」
「謝る必要はないですよ。私としてはそちらよりも……」
「えっと…ありがとう……?」
「はい、流石陽灯さんです」
今度は褒めるように頭を撫でられて、陽灯は妙な気恥しさを覚える。
嫌ではないためされるがままになっているが、ほどほどに手を軽く二回引っ張る。
「澪さんが大丈夫なら…そろそろ行こう?」
「そうでしたね……大丈夫です、陽灯さんが居ますから」
「…えへへ、任せて!」
その会話を最後に陽灯と澪は八雲家に入っていく。
その一歩を踏み出したのは陽灯で、陽灯をきっかけに澪はずっと動かなかった足は踏み入れることが出来た。
リビングにいることを確認すると、いきなり入ってしまうと驚かせてしまうかもしれないため、陽灯が先に声を掛けることにした。
扉を半分だけ開け、顔と半身だけ出す。
「裕香さん!」
「陽灯くん? よかった、どこに行ったのかと…」
「ごめんなさい。どうしても動かないといけないような気がしたんだ。余計なお世話かもしれない。勝手なことをしてるって自覚はあるけど、それでも俺は……会って欲しかったから」
「? 一体何の話を---」
心配してくれたことに対して謝りながらも、説明をされてないため話についていけない裕香に答えることなく、体を戻して澪に向き直って頷くと、澪も理解したように頷いて、陽灯の横を通り抜けて扉をゆっくりと開いていた。
後ろから覗くように陽灯は続くと、裕香の表情は困惑した顔から見る見ると驚愕に染まる。
「みお…せん、ぱい……」
「久しぶり…裕香ちゃん」
果たしてその一言にはどれほどの想いが込められているだろうか。
二人の事情をよく知らない陽灯には分からないが、当事者たちは違うのだろう。
気まずそうに目を背ける裕香と陽灯の手を握って、さっきよりも強く握る澪。
こういう時に限っては、二人の思いを察した陽灯が二人の間を取り持つべく動く。
「ごめんね、裕香さん。俺が説得して連れてきたんだ」
「どうして……」
「詳しくは知らない。何があって、何で二人がこうなってるのか。だけど、だけどね。俺が来る前からもこうで、今も変わらないなら……何のきっかけもなければ進めることはないと思うんだ。裕香さん俺に言ったよね」
「自分自身の正しい道を、答えを貫き通すのが一番だって。きっと二人とも、それを通したからこうなったんだと思うよ。だからって過去に囚われたままじゃ互いに何もならないし、進めないよ……ねぇ、ちゃんと話そう? 話し合える機会ってね、ずっとあるようで、実はそんなにないんだ。話せる機会がなくなるなんて、唐突で何が起きるか分からなくて、終わったあとじゃ後悔しか残らないよ!」
言ってくれた言葉に陽灯は救われた。
それはきっと、本人たちがそうしたから。
だが、過去に囚われて今も抱えて、それは苦しいものだろう。
強引にでも向き合わせないと、陽灯が来る前からずっとこうだったのだから変わるはずもない。
陽灯の経験則に沿った説得は、間違いなく重みはある。
重みはあったが---
「…ごめんなさい。それでも、私には……」
「っ……」
簡単に話し合えるようであるなら、ここまで溝が出来るはずもない。
何かを反射的に言おうとして、言葉が喉から出てこない。
どう説得するかなんて、元々考えてなくて必死に考えを巡らせる。
このままでは結局同じことを続けるだけ。
後悔して欲しくない。悲しむ姿を見たくない。何か言わないと、勇気が出るような、前に進められるような言葉を言わないと、自分が持ってきた案件なこともあって、そう必死に考えて---冷静さを失いかけた陽灯の心が、急速に落ち着いていく。
ほわほわとした優しい温もり。一人ではなく、共に居てくれる光。
(……あ。そうか……)
巨人の意思が伝わり、何が言いたいのか理解した陽灯は自分が間違っていたことにすぐに気づけた。
今の陽灯は、気休め程度の言葉を投げかけようとしていた。その場しのぎで大した効力も見せない、想いが軽い言葉を。
---人助けのとき、自分は普段どうしていたか。
簡単な話だ。
陽灯の強み、陽灯だからこそ役に立つ人助けの秘訣。
単純明快で、他の人が見たら笑ってしまうかもしれないが、それは陽灯が陽灯らしさを忘れていないからだ。
本当のことを告げずして、他人の心に踏み込めるはずもない。
そんなの、俺らしくないと。
「……裕香さん。俺、負ける気も諦める気もないけど……この世界がいつまで持つか、分からないんだ。バーテックスやザ・ワンといった超常の存在がこの世界を危機にさらしてる。勇者のお役目って言えば…分かるのかな」
「陽灯さん、それは……」
本来言ってはならないものを話す陽灯に澪は止めようとして、陽灯の顔を見てやめていた。
「嘘みたいな話だと思うけど、この怪我はその敵にやられた怪我なんだ。俺の力が強くなるより早く、敵は強くなって、俺たちの力を超えていく……昨日もギリギリ撤退させられただけでもし完全に負けたら、世界が滅んで…本当に本音で話し合うことも顔を合わせることもなくなっちゃうんだ……。話せなくなる日だって…本当はかなりすぐ傍にあって……そんなの辛すぎるでしょ…?」
右手の包帯を解けば、痛々しい手のひらが晒される。
肉が見え、焼け、血が見えている手。指はボロボロになって皮が剥れている。
元々陽灯が嘘をつけないタイプであることは裕香も知っているが、陽灯の怪我が現実性を増している。
直ぐに包帯を巻き直しながら、裕香を真っ直ぐ見つめる。
「裕香さんはそれでもいいの? お互いに気にかけて、心配して、なのに話すことも会うこともしなくて…澪さんも裕香さんと同じだったんだよ。同じだったのに、勇気を出してここにいる! 怖いのは一緒だったはずなんだ! 今度は裕香さんの番じゃん! 打ち明けるのって難しいものだと思う…だけど今も裕香さんが後悔してなかったらあんなこと言わない…! 裕香さんの中にまだその後悔が残ってるなら…仲直りしたいって考えがあるなら、進もうよ! 裕香さんの答えを、本当にやりたいことを…貫き通そうよ!」
「……! わたしの、やりたいこと……後悔……。澪、先輩も……」
ただ想ったことだけを告げる。嘘ひとつない純粋な感情と言葉。
陽灯らしさしかないそれは、裕香の心にも届いたのか。
思うことがあったのか、ここに来て一番の手応えがあった。
二人に笑顔でいて欲しい。その想いだけを胸に、陽灯は動く。
「大丈夫だよ……こんなに互いを想ってたんだから、分かり合えないはずがない。ちゃんと話そう。ちゃんと、向き合おう? だって---」
「陽灯さん…?」
澪の手を引っ張って歩みを進めると、陽灯は裕香の手を取る。
感情が揺さぶられた影響か不安げに揺れる瞳が目に映り、陽灯はいつもの明るい太陽のような笑顔を浮かべる。
そして。
「ちょっとした勇気を出したら、今までのことが嘘のようにさ、こんな簡単に手が届くものなんだから!」
陽灯は両手を使って引き寄せ合うと、澪と裕香の手を繋げた。
手の届かない範囲でもなく、今からでも遅いわけでもなく、言葉で難しいなら互いの想いを伝える方法を言葉ではなく行動で示させて。
「…裕香ちゃん」
「澪…先輩……」
陽灯によって繋がれた手。
澪の手に力が入り、指が絡められる。
きっかけをくれて、そのチャンスを逃さないために。
今度はもう離さないように。逃げないように。
「本当はずっと、早くにこうしたかった。私を心配してくれてたことも、ずっと見守ってくれてたことも、全部知ってたから」
「……はい」
遡月家の近くに八雲家が存在している。
引っ越したら偶然、たまたま近くだったなんて可能性は低い。特に親しい関係だったと分かるくらいだったのだから、家の場所を知らないはずがないだろう。
裕香から一切否定の言葉がなかったのが、論より証拠というやつである。
「陽灯さんに言われて、ここまでされないと動けなかったことは、とても不甲斐ないって自分自身で反省してるけどね……それも今日で終わらせましょう? 話して欲しいの。裕香ちゃんが抱えてたこと、私に言いたかったこと、全部全部話して、感情をぶつけて、互いに本音で話して…仲直り、しましょう?」
不安がないわけではなく、表情にも出ている。
それでももう、澪は逃げなかった。
顔を近づけては額と額を合わせて、美の象徴である宝石のルビーのような赤い目が裕香に向けられていた。
「…はい……はい……っ!」
そこまで言われて、ここまでされて、望んでいた話せるタイミングを突っ放すことなんて出来なくて、裕香の目から涙が溢れる。
繋がれた手が、今度は裕香から握り返されていた。
二人を見てもう自分にやることはないと言うように、陽灯はそっと立ち上がると邪魔しないように数歩後ろへ下がる。
陽灯にとってはたったの一年。
しかし二人にとっては二年か、三年か、それとももっとか。
ずっと長いこと進まなかった二人の関係は、一つのきっかけからようやく進むことが出来た。
ぽつ、ぽつとゆっくりとだが本音を話し始める裕香と澪。
長い期間話せなかったことを考えるなら、急ぐ必要なんてない。今までの時間を、日を、年を、埋めるように話せばいいのだから。
ようやく分かり合える二人の姿に嬉しく思いながら陽灯は慈愛に満ちた目で見つめていた。
そして、もう一つ。
作った左手の握り拳を見つめ、守るだけではなく話し合うために何が必要なのか理解した陽灯は、密かに覚悟を決めた。
こんな時間を、このような空間を守るためにも。