【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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お気に入り登録者1000人超えないことに嘆いていたら超えていました、ありがとうございます!
これもひとえに貴重な時間を使ってまでお付き合いしていただいている皆様のお陰です。そもそも最初は500人行くかなあ程度でした。始めたては確か今ほどネクサスも再評価されてませんでしたし…ゆゆゆも大満開の時でしたので。
それが今となっては私が小説を書く際に決めた目標が達成されて…お礼を申し上げることと今回みたいに急いで書くくらいしか私には返せるものはありません。
とりあえず、ここから先は赤バー維持しつつお気に入り登録者やUAをちょっとでも多く伸ばすことを目標にして完結目指して頑張ります。
ただ平均文字数減らす言っといて過去一長くなった件についてはお許しください()





「心目」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 17 話 

 

心目

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の話をただ黙って聞いていた陽灯は、二人の人生というのを垣間見たような気がしていた。

陽灯にとって澪も裕香も大人で、いつも前を向いている姿ばかりしか見たことがない。

だからこそ彼女たちも同じく悩んで、悲しんで、悔やんで、色んな経験をして今の彼女たちが居ることを知ったのだ。

話を要約すると、学生時代から先輩後輩の関係であり、裕香は澪を尊敬して澪は可愛がっていたらしい。

特にその中でも一際才色兼備だった澪はとても人気で優秀で、どんなトラブルにも冷静に対処し、解決していたとか。

本人の性格が誰にも優しく丁寧なのもあったらしい。

そんな二人は卒業後も同じ仕事に就き、その仕事こそ大赦だった。

大赦でも敏腕に成し遂げて出世街道まっしぐらだった澪に裕香は変わらず尊敬の念を抱いて一種の憧れを抱いていた。

しかしある日を境に澪は仕事の量を減らし、本来の能力を発揮すれば出来ることも隠して他の人が出来る範囲で仕事を割り当てるようになり始めた。つまるところ、必要な最低限の仕事だけをして地位を上げられないよう目をつけられないようにしていたと言えば分かりやすいか。

その原因が、陽灯の今の義父である夜霧との出会いが原因らしい。

地位が上がれば色んな意味で時間が無くなってしまう。

だから人としての幸せを選んだ澪とどんなことにも全力でなんでも熟す姿に憧れていた裕香と食い違いが発生してしまった。

本当ならその時点で話すべきだった。

人としての幸せを選んだ澪を裕香は否定することをせず、本音を隠してしまったから。

一方で澪は裕香の気持ちを知っていながら、幸せを選んだから。

どちらが悪いだとかそういうのは一切なく、ただ互いに本音で話せば拗らせることはなかった。

ただ互いに、互いのことを想っていたから勇気が出なかっただけ。

”嫌われたくない“という想いが、二人の中にあったから。

 

陽灯に言った会わせること顔がないという澪の言葉は彼女を裏切ってしまったという思いと、仕事量を減らしたのは本当は自分が全て成すのではなく他の人達の成長を促すという思いがあったこと。なにより、裕香に追いついて欲しかったという思いを伝えられてなかったから。

裕香は憧憬を抱き、身勝手な理想像を押し付けて思い入れ、目標だっただけに失ったことで膨大な喪失感によって虚しさが残り、身勝手なそんな自分に自己嫌悪をした。

そして過去に囚われたままというのは、そこから何か話すわけでもなく大赦をやめて関わりがなくなってしまったため。

幸せな姿に喜ばしい反面、自分の知る憧れの人が居なくなってしまったという喪失感。

その前に、腹を割って話せば変わったはずなのに。

 

それからずっと見守りはしていたが何も行動を移せず、澪はそんな裕香のことに気づいていたものの罪悪感から何かを言う資格はないと話せず、今に至るまで関係性が拗れたままだった---ということ。

あくまで要約しただけで、本来ならばもっとドラマがあるのだろう。

結論だけを出すなら、互いのことを思い続けて嫌われたくなくて、好きだったから、過去から抜け出せずに居た。

向き合うこと事が怖かったから、今まで話せなかったということ。

 

「私が…私が悪いんです…自分の理想を押し付けて…勝手に幻滅して、失望して…本当は澪先輩は何も変わってなかったのに……っ! 何も間違えたことをしてないのに…!」

「ううん、私も。本当は分かってた、裕香ちゃんが私のことをどう思ってたのか…どんなときも私の後ろにずっとついてきてくれて、追ってくれて、大人になっても見守ってくれてて……そんな貴女に辛い時も悲しい時も本当は救われてたのに……」

 

ただ勇気がなかった。

それだけのことだったのだろう。

一歩さえ踏み出せたなら、とても単純で簡単で、分かりやすいことだったのに。

 

「もっと早くに話せてたら、苦しませずに済んでた…ごめんなさい、ごめんね裕香ちゃん」

「私の方こそ…ちゃんと聞くべきだったんです…歩み寄ろうとしてくれた澪先輩を私が拒絶したから……ごめんなさい…ごめんなさい……っ」

「もういいの…。こうやって本当のことが分かったから、もうそれだけで…それだけで十分。ありがとう…私をひとりにしないでくれて。これからも私と居てくれる?」

「みお…せん…ぱい……。はい……っ私でよければこれからも……」

「うん…ありがとう」

「う…あ……ああぁっ!」

 

澪が裕香を優しく抱擁すると、色んな想いが溢れたのか抱きつきながら涙を流していた。

今は二人っきりにするべきだとそそくさと陽灯は退出すると、一瞬だけ澪と視線が交差する。

真っ直ぐな強い瞳と揺れている赤い瞳。

言葉には乗せられていないが、それが感謝を示してるように見えて陽灯は頷いて扉を閉めて、家から出ていく。

玄関を背中で閉め、もたれ掛かるようにして空を眺める。

 

「よかった……ちゃんと仲直り出来て。これが正解だったのか間違いだったのか、余計なお世話なのか…それは分からないけれど、俺は自分のやりたいことを貫いて…上手くいった。だから次は俺の番だ。戦いを終わらせるためにも、みんなを守れるヒーローにならなきゃ…そのために絶対に負ける訳にはいかないよね。せっかく関係を取り戻せたんだから終わりになんてさせられない」

 

もし陽灯たちが敗北すれば、ようやく本音で語り合えた二人の覚悟も勇気も水の泡になってしまう。

そんな悲しい結末を迎えさせないためにも、改めて覚悟を決める。

 

(問題は訓練……先生にも言ったけど、なんでかやる必要がある気がする。ただ午後までは休むように言われてるから、何も出来ないんだよね。見なければいい……見ないと避けられない……うーん……)

 

軽くイメージする。

目を閉じて避けられるかシミュレーションをして、偶然避けられる可能性は出てきても確実に避けられる場面は一切浮かばない。

観の目とやらも分からず、頭を悩ませる。

しかし、シミュレーションで頭を使いすぎた影響で思考が霧散する。

脳内でシミュレーションできるほどの想像力は持っていても、残念ながら肝心の考える頭はダメだった。

ああ、もう夏だし暑いけどいい天気だな、なんて現実逃避を始める始末。

 

(園ちゃんたちは訓練中なのかな…どうせなら泳ぎたいよね。でもこの怪我じゃ海に入ったらすごく痛いだろうし… )

 

両腕を擦る。

怪我した時よりかは痛みはないが、ちょっと触れたり動かすだけで痛みはあった。

さっきまではゆかりの治療のお陰でかなりマシになっていたから動かせていたが、安心した影響か痛みを感じるようになってきていた。

それらを気合いで押し殺しながら、やることがないので玄関のドアが開いても背中に当たらない程度には離れて筋トレを始めていた。

普通に不審者である。

そうして数分過ごしているうちに、玄関が開く音が聞こえた。

すぐに起き上がって振り向く。

 

「陽灯さん」

「あ、澪さん。もうお話いいの?」

「はい、たくさん話せましたから」

「そっか」

 

少し目元が赤くなっているような気はしたものの、そこを指摘することはなく、よかったと安心したような笑顔を浮かべる。

本当に無事に仲直り出来たということだろう。

 

「それと……」

「陽灯くん」

「裕香さん?」

 

続くように出てきた裕香は目元が腫れているが、表情は何処かすっきりとしていた。

近づいて来たということから何か話しでもあるのかと首を傾げる。

 

「ありがとう」

「え? そんな、いいよ。頭を上げて。俺だって裕香さんに相談乗ってもらったし…」

「これは私の気持ちみたいなものなの。陽灯くんのお陰で、こうして澪先輩と話すことが出来たから」

「だけど話したのは二人の意志でしょ?」

「いいえ、陽灯さん。私からもお礼申し上げます」

「澪さんまで…」

 

自分が何かをやったと思ってはいない陽灯はお礼を素直に受け取れず、困惑する。

陽灯がやったことと言えば二人を引き合せることをしただけで、話自体は二人が進めたもの。特に仲介する必要もなかったからこそ、受け取れなかった。

 

「陽灯さんは自分が何もしてないと思っていると思ってませんか? それは違いますよ」

「え……!? どうしてそれを…?」

「それは陽灯くんがそう言いたげな様子だから、かな」

 

思ってたことを当てられて驚く陽灯に二人して顔を見合わせると苦笑しながらわかった理由を伝えられる。

とても分かりやすくポーカーフェイスを苦手とする陽灯だからこそ、分かりやすかったのだろう。

 

「でも…実際に俺は何も……」

「ううん陽灯くんが居なければ私は今も澪先輩と話すことは出来なかった」

「確かに陽灯さんは直接会話に入っていた訳ではありませんが、陽灯さんが私を連れてきて、説得して、話すきっかけをくれたから私たちは話せました。ただ話すだけじゃなく、心の底から本音を言い合えたんですよ。そのきっかけというたった一つのことを与えてくれた陽灯さんのお陰で、こうしてまた一緒に居られるんです」

「そのきっかけのひとつがとても大事でね、私も澪先輩も踏み出すことを出来なかったからずっと止まったままだった。向き合う勇気をくれて、引っ張ってくれて…だから話せた。陽灯くんが居なければ私たちは今までと同じだったと思うの」

 

話し合えば解決するような問題だったとはいえ、長く解決しなかったことから踏み出せなかったということは容易に予想出来ること。

その一歩を、たったの一歩でも動かしたのは陽灯だ。

会うだけじゃ話せなかっただろう。

陽灯の行動が澪を動かし、陽灯の言葉が裕香を動かした。

だからこそ、二人は陽灯に感謝をしている。

ここまで言わせて、自分は関係ないだの何もしてないだのは流石に言えず。

 

「……じゃあ、どういたしまして……かな?」

「はい、ありがとうございます陽灯さん」

「うん……えへへ」

 

お礼を受け取り、澪に抱き寄せられて頭を撫でられた陽灯は、ただはにかむように笑った。

その姿を裕香は微笑ましそうに眺めて、少しして陽灯に近づく。

 

「陽灯くん。それでひとつ相談…というよりお願いがあるの」

「俺に出来ること?」

「陽灯くん自身になにかしてもらうことではないわ。澪先輩からさっき、粗方のことは聞いてね…バーテックスは知ってたけど、ザ・ワンとザ・ネクストのこと。そのことであいつ…夜霧に話があるから陽灯くんも澪先輩も含めて、全員が居る時に話がしたいからその時間を貰えないかなって」

「えっと……」

 

果たして勝手に返事していいものかと澪に視線を向けると、何が言いたいのか理解したらしく口を開く。

 

「私は既に了承してますよ。ただ陽灯さんにも都合というものがあるのではと…」

「あ…うん。それならいつでも大丈夫だけど、あっ、ただごめんなさい。今日の午後からまた訓練があって…だから何も無ければ明後日の夜なら訓練も終わってこっちに帰ってきてる…と思う…」

 

既に決まってたわけではないことに安堵し、色々あって忘れかけてた訓練の日程を何とか思い出すと、それを伝える。

本来なら午後も訓練はなしにさせられていただろうが、陽灯自身が望んだものだ。

ただ正確では無いのは昨日みたいにいつ来るか分からないということで、曖昧になってしまっていたが。

 

「分かったわ。じゃあ明後日の夜伺わせてもらうからね。澪先輩もいいですか?」

「うん、大丈夫」

 

話は片付いたようで、頭の中で明後日の予定に入れ込んでおきながら陽灯は澪と裕香に視線を往復させていた。

その視線に気づいたのか二人して不思議そうにしていた。

 

「いかがなさいました?」

「あ…えっと……ずっと気になったことがあって」

「気になったこと?」

「うん…澪さんって裕香さんに対してだけは砕けた口調なんだなあって。呼び方もそうだし…」

 

流石に言える空気ではなかったから今まで黙っていたが、陽灯が気になったのはそこだった。

夫である夜霧にすら丁寧語で話していて、使用人や陽灯も含めて全員に同じ話し方をしているのが澪だ。

ただ裕香にだけは明らかに違う。

呼び方も『さん』ではなく『ちゃん』を付けて呼んでいる。

 

「なるほど…それはですね、陽灯さん。ここから先は私の出自から来るものでして。少々難しい話になってしまいますけど…聞きますか?」

「澪さんのこと? そういえば俺あんまり知らないかも…教えて、もっと知りたいから!」

「分かりました。ただ外で話す内容ではありませんした長話になってしまいますね…」

「でしたらまた入ってください。気を遣って出ていってくれたみたいですけど、陽灯くんも暑かったと思うので…」

「ここはお言葉に甘えるとしましょうか」

「ありがとう裕香さん! だけど俺は大丈夫だったから、気に病まないでね」

「…澪先輩。本当にいい子すぎませんか?」

「ふふふ、そうでしょ? 陽灯さんはとても素敵な方なんです」

「へ?」

 

自分のものだと言うように陽灯の背中から抱きしめるようにして連れていく澪は誇らしげで、親バカと言われてもおかしくはない。

陽灯としては普通のことを言っただけなため、よく分かってなかった。

裕香を先頭に抱きしめられながら歩くと、冷房がつけられた部屋のソファーに座らされる。

裕香は新しく飲み物を持ってきてくれて、結局手をつけてなかったクッキーのラップを外して着席する。

 

「揃ったことですし、話しましょうか。陽灯さん、私の苗字は分かりますよね?」

「遡月、だよね?」

「はい、よく出来ました」

 

自分自身で名乗ってるのもあってすぐに答えると、正解した陽灯を褒めながらぽんぽんと頭を軽く撫でると、澪は過去に思い馳せるように目を閉じた。

 

「そうですね……」

 

自分の中で整理したのか、澪は次第に語っていく。

要約すると、こうだ。

そもそも遡月家というのは、西暦の時代から今に至るまで長く続くほどの名家ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。噂では様々な憶測が飛び散っており、誰にも真似出来ないような凄いことを成した。過去に勇者が居たとか言われているようだが、真実は不明。

そのように遡月家の始まりは不明で、しかし分かっているのは代々遡月家に生まれる者は必ずといっていいほどに優秀な人間が生まれ、奇跡の家系とも呼ばれているとか。簡単に言えば、天才の集まり。

過去の功績はなくとも、次々と功績を挙げて残していくのだから成り上がったのもおかしくはないだろう。

そして家が300年以上続いているのもあり、代も何度か変わっていたが澪の前の代、つまり澪の母親と父親の間で出来た子供が澪だけで跡継ぎ問題が出てしまった。

そこで婿を得るためにも様々な英才教育を成され、歴代の者たちと同じく才溢れる澪はつつがなくこなしたが、口調が砕けたものではないのは子供の時に受けた教育の影響を受けているから、らしい。

ちなみに跡継ぎ問題に関しては夜霧が婿養子となっているため解決している。

そしてここで裕香にだけは違う理由となるが、学校自体がかなり厳しいところだったのもあって学校のトップとも言えるのは生徒会だった。

それこそ生徒会長には学校の規則を一定の条件さえ満たせば変えられるほどに。

そんな学校で一年にして生徒会長になり、そこで何も問題なく一年間続けていたとき二年目の時に新しく入ってきたのが裕香だった。

先輩後輩の関係だったのはそういうことだ。

今は全然そうは見えないが、昔はもっと刺々しかったらしく生徒会長としての威厳を示すようにと何度も言われて、一向に改善せず何ヶ月も経ち、先に折れた裕香が自分の前だけは禁止で手を打ったとのこと。

幼少の頃から躾られてたのもあって四苦八苦したとは澪の談。

これに関しては陽灯のことになるが、陽灯を養子にすることが出来たのも一定の権力を持てるほどに出世した歴代の当主や澪の功績のお陰らしく、裏面では絶大な権力があるらしい。

ちなみにもし遡月家がなければ、一番可能性のあったのは上里家だった。

なんでも神樹様直々の指名なのもあって、権力の高い家でしか引き取れなかったとか。

 

「簡単に言えばこんなところですね。私が陽灯さんや夜霧さんにもこのように話すのは、昔からずっと続いた影響でして。話せなくはないのですが、なんというか…私が落ち着かないといいますか。裕香ちゃんに対しては学生の頃からだったので、慣れてしまったので問題ないだけです」

「………」

「澪先輩、陽灯くんに聞こえてないですよ…」

「あら…少し難しすぎたでしょうか。陽灯さんに分かりやすく言うならば、私と裕香ちゃんはずっと前から続く親友でそのお陰で砕けた口調で話せているというわけです」

「な、なるほど……!」

 

完全にキャパオーバーを迎えていた陽灯だったが、最後の最後で簡単に言ってくれたお陰で何となくだが理解したらしい。

はっきり言ってあまりよく分かってない。

 

「陽灯さんを引き取れたのは私たちに子がいないのもあったかもしれませんね。あの人たちのことですし、これを機に陽灯さんを遡月家の人間にしてしまおうと思っていたのかもしれません。私は別にそこまで家に拘ってないので、陽灯さんさえ元気よく無事に育ってお役目を成し遂げられたらいいのですけど……」

「澪さん……だから前、家を捨ててもいいって、味方だと言ってくれたんだ」

 

思い返されるのは初めてのお役目が終わったときだ。

あの時澪は家を捨てたって構わないと言っていた。

それは遡月家に生まれた人間だからこそ言えること。

 

「預かってる身としてもちろんのこと、子の幸せが一番です。陽灯さんには好きに生きて好きにして欲しい…例えこの世界がどうなろうと、陽灯さんには自由がありますから。これが親心というものでしょうか」

「そこまで行くと親バカに分類されると思いますけど…でも陽灯くんが厄介払いされている可能性は高そうだと思うわ。その巨人という力は何も知らない人からすれば脅威でしかないから」

「それは…うん、そうだよね。俺澪さんに会えてよかったよ。だけど俺にとってはこの世界も大切で、ここに来て大切な人が増えたから頑張れるんだ」

 

今の両親である澪や夜霧はもちろんのこと、自分の世話をしてくれる那由や鈴、ゆかりに他の使用人。

先生や裕香、その子供である紹夢。

学校の人たちや友人、友達で同じ仲間である須美や銀、園子。

ここに来る前にはなかった人たち。

もちろんここに来る前にいた幼馴染や両親や妹、近所のおばあちゃんやら知り合いや友達など大切な人々はたくさんいる。

例え他の人や大赦が自身をバケモノだと思っていたとしても、頑張れる理由なんて陽灯にとってはそれだけなのだ。

 

「だから澪さんや夜霧さんが良いって言うなら…遡月家の人間になって生きていきたいと思ってるよ!」

「陽灯さん……そう言って貰えて嬉しいです。私は幸せ者です。でしたらいつの日か、陽灯さんが大きくなった時には遡月家の権力も財力も全部受け渡せるように準備だけはしておきましょうか。前の家として生きても、今の家で生きても、いいように。欲をかいて双方取ってもいいかもしれませんが……ええ、我ながらいい案ですね、次期当主の完成ですっ!」

「あ、わわ…そっ、そんな簡単にいくものなの?」

 

あまりに嬉しいことだったのか、普段の冷静さを失って興奮した様子で陽灯の手を両手で包む澪の勢いに珍しく押されながら聞くと、裕香は驚いたように見ながら答える。

 

「陽灯くんは養子だから簡単にいくようなものではないけど……澪先輩だから。この人は難しいことや不可能だと思われることを本当にやってのけるのよ。ただここまで興奮して語る澪先輩は初めて見たかも……陽灯くんって何者?」

「え、ええ…? 俺は俺だよ…?」

 

そう言ったことを聞きたい訳ではないはずなのだが、仮に意味を分かっていても陽灯に答えられることなんてないし、第一小学生が答えられるようなものではない。

 

「でも俺に出来るかなぁ」

「一人でやる必要なんてありませんよ。陽灯さんならば色んな人が集まってくるでしょうから」

「そっか……うん、だったら俺は今の名前も前の名前も大事にしなくちゃ。どっちも俺だもんね!」

「はい、ぜひそうしてください。そうしていただけるなら私はもちろん、貴方のご両親だってきっと嬉しいと思いますから」

「うん!」

 

その重みというのは、恐らくまだ解っていない。

それでも陽灯は遡月家の者としても生きていく決意をした。

もしお役目が終わって、いつか別れが来たとしても、自分が遡月陽灯という名で生きてきて、帰るべき場所がもうひとつあるということを決して忘れないためにも。

前の家も今の家も、陽灯にとって大切な場所で大切な人たちがいるのだから。

片方を選ぶのではなく、両方を選ぶ。

なんともまぁ、陽灯らしい答えと言えよう。

 

「話はまとまったみたいですね…陽灯くん、安心して。何かあったら私もフォローするから。澪先輩がそう選んだなら、私はただ支えるだけ。だから大丈夫よ」

「うん、裕香さんもありがとう。それなら安心だね」

「とても素敵な未来図が出来上がりました。これは早くお仕事を終わらせて準備に入らないといけません」

 

両手を合わせて、嬉しそうに笑顔を浮かべる澪に陽灯はハッと思い出した。

色々あって忘れていたが、そもそも陽灯は本人の了承があったとはいえ無理矢理連れてきてしまったのだ。

後悔はないが、今更ながら罪悪感がやってくる。

 

「そうだ! 早く帰らないとだよね…ごめんね、澪さん」

「全然大丈夫ですよ。それに私はもう少し居てもいいのですけれど…」

「陽灯くんと過ごしたい気持ちは分かりますけど、仕事は仕事なんですから早く戻ってください。澪先輩が来てくれたのは嬉しいですけど」

「前の裕香ちゃんに戻っちゃった……私が居たいのは裕香ちゃんとも---」

「…今の私は大赦の人間じゃないですから手伝えませんよ」

 

そっぽ向きながら現実的な言葉を投げかける裕香に、澪も諦めたのかあからさまに残念そうに息を吐いた。

 

「…仕方がありません…。陽灯さん、戻りましょう。私が癒される時間は終わりみたいです」

「だ、大丈夫だよ。また会えるし俺だって午後になって迎えの人が来るまでは澪さんと居られるから!」

「陽灯さん…! 裕香ちゃんには渡さないからね?」

「別に陽灯くんなら引き取ってもいいですけど……嘘です。それよりも陽灯くん」

 

感動して抱きしめていた澪だったが、裕香の言葉を聞いて陽灯をさらに強く抱き締めていた。

苦笑しながら嘘だということを伝えられて少し緩まったが離す様子はなく、顔だけ抜け出した陽灯に裕香は声を掛ける。

 

「ぷは…どうしたの?」

「陽灯くんの悩みについてもう必要ないかもしれないけど、陽灯くん自身がやりたいことを貫けばきっと大丈夫よ。私と澪さんの関係を戻してくれたように、陽灯くんならもっと多くの人を救えるはずだから」

「うん、手が届く範囲で頑張ってみる。改めて大切な人たちの存在を確認出来たから、例え悩んだって俺らしくやってみるよ」

 

そういう陽灯の目には迷いはなく、いつもの前向きな陽灯に戻っている。

それを見て安心したのか陽灯に背を合わせて頭を一度撫でると、裕香は立ち上がる。

 

「じゃあ澪先輩。また会えますから今日はここで」

「うん、待ってる。陽灯さん、行きましょう」

「またね、裕香さん!」

 

澪に手を繋がれ、陽灯はもう一方の手で手を振ると裕香は控えめに手を振り返し、陽灯たちは自分たちの家へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから澪の膝上に座らされて、何をやっているのかよく分からない仕事見ながらじっとすることしか出来なかったが、午後になると名残惜しそうな表情をされても少し心が痛んだものの、 陽灯は戻ってきた。

戻ってくると須美も銀も園子も三人で喜んでいるところで、ようやくクリア出来たのだと陽灯でも察することが出来た。

 

「喜ぶのはそこまで。一度クリアしたからと言って安心出来るものじゃないわ。練度を上げるためにもまだまだやっていくわよ」

『はい!』

 

気のせいか、昨日よりも気合いが入っているようにも見える。

こうしてはいられないと陽灯は両手でほっぺたを勢いよく叩き、すぐに駆け出していく。

 

「せんせー!」

「…ん? 戻ってきたのね、遡月くん」

「今ね。それより俺も早くやるよ。俺はまだクリア出来てないし!」

「分かったわ。じゃあ早速始めましょう」

「うん!」

 

立ち位置に着き、目隠しをする。

視界が全て奪われ、普段見ている世界は何も映らない真っ黒なものへと変化する。

もうすぐボールは放たれるだろう。

深呼吸して心を落ち着かせ、未だ訓練をクリアする答えは見つかってないものの、陽灯は挑戦する。

三人がクリアしたのは、努力の成果だ。次の戦いに備えて努力してクリアした。

ならば、陽灯も次の戦いのために乗り越えなければならない。

内にはもうやるべきことは定まっている。

 

「見ない……見えないなら見ない……!」

 

大切な人たちを守るために。

自分の信念を貫くために。

もう一度チャンスを得るために。

陽灯は今、訓練をクリアするべく---

 

 

 

「ぶべっ!?」

 

やっぱり吹っ飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、陽灯の成果は芳しくなかった。

ぶくぶく、と温泉に口元まで浸かりながら今日のことを思い出して悩んでしまう。

須美、園子、銀の三人は徐々に連携の幅を増やしていって成功率が上がっていたが陽灯だけは最初の時から一歩も進めていなかった。

 

(見えないなら結局むりなんじゃ…?)

 

行き着く先はそこになってしまう。

出した答えは見えないなら見なければいいというものだったが、矛盾しているのだ。

見て避けるのに、見ずしてどう避けたらいいのか。

正解を教えてくれる者は居なくて、残念ながら巨人が教えてくれることもない。

 

「うーん……」

 

気がつけばそのまんま完全に潜っていた。

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

出たあとも陽灯は答えが出ないまま考えながら歩いていた。

何となく必要になる予感があって、だけど避ける方法は分からなくて、ずっと詰まったままだ。

何か惜しいところまでは来ていて、そこから進めない。

 

「あでっ」

 

そして考えながら歩いていたら、普通に壁に顔面をぶつけた。

不意に受けたのもあって痛みで顔を覆いながらしゃがみこんでしまう。

 

「おーい、なにやってんの?」

「ん…ああ、銀。ちょっと考えごとをしてたらぶつかっちゃって」

「考えごと?」

 

普通に話しながら手を差し伸べてくる銀の手を取って起きると、後ろには須美と園子が話しながら歩いてきているのが見える。

どうやら先に銀だけが来ただけらしい。

 

「ほら訓練のことで。どうやったら避けられるんだろうって…まだ全然出来てないから」

「あー…それか」

「どうしたの?」

「陽灯が自分がやってる訓練で未だに成功してないからずっと考えてるんだってさ」

「私たちでも目で追うのがやっとの速度のボールを目隠ししながら避けるやつね……」

「はるるんは何か掴めてないの?」

「うん、全然。ただ見えないなら見なければいいんだって思ってるんだけど…」

 

合流してきた須美や園子も会話に参加すると、銀と須美は混乱した様子を見せる。

 

「それってどういうこと…?」

「俺も自分で言ってて分からないんだよねー」

「確かに分かってたら悩まないか…」

「でも見えないものは見えないでしょ? 見ようとしても無理なんだし…」

「そりゃそうだろうけど…でもそうなると思いつかないなあ。あたしらが指示出すとか? ほら、スイカ割りみたいに」

「戦闘中となると難しいし、私たちの視界が塞がれば無理だから名案とは言えないわね…」

「あー確かに煙の中とかだと無理だもんな」

 

確かに陽灯ならば疑ったりせず信じて動くだろう。

ただ戦闘なんて一秒一秒で変わるもので、スイカ割りみたいに指示を出しても拙い動きになってしまう。

そもそもの前提として、それができるのは陽灯だけの視界が奪われて、三人が無事の場合。

煙などで覆われれば、何も見えなくなって意味を無くす。

 

「あっ、もしかしてはるるんの出した答えって、心の目で観るってことじゃないの?」

「なるほど、水月移写…だったかしら。達人となると少しの意識の揺らぎや気配、空気といった様々な要因から感じ取れると聞いたことがあるわ。心眼というものね」

「心の目…心眼……そうか、そうだったんだ。目で見ようとしたからダメだったんだ。目で見るんじゃなくて別の部分で感じればいいってことだよね?」

 

気づいてみると、答えは案外簡単に出てきた。

相談したお陰で、陽灯はずっと止まって真っ暗だった道に光が射し込んだような、道が開いたような感覚を感じる。

 

「それって出来るもんなの? 確かに陽灯は身体能力や反応速度は早いけど」

「そんなはるるんだからこそ、絶対出来ると思うよ〜確か…感覚を研ぎ澄ませるとかだったかな〜?」

「ええ、過去の偉人たちにも出来ていた者は居たらしいし、巨人の力を宿す陽灯くんなら出来るんじゃないかしら」

「感覚を研ぎ澄ませるかあ……うん、でも今までよりも近づいたかもしれない。出来るかどうかよりもやって見ないと分からないよね。やれるだけやってみる! それが一番!」

「まあ、それが陽灯らしいか。なんだかんだやってのけそうだしな」

「陽灯くんのここぞという時の底力は測りしれるものではないものね……」

 

日常生活では何も知らない者からすればお人好しだけど抜けていて、バカみたいな言動をしているようにしか見えないが、何かを守ろうとする時や誰かを助けようとするとき、陽灯は途方もない力を引き出す。

それは陽灯自身が文字通り命を懸けて行動しているからだ。自分のことではなく、他人のために本気になれる。

それが陽灯なのだ。

 

「よーし、そうと決まれば銀! 機械は使えないから力貸してくれ!」

「へ? お、おう…?」

「さんきゅー!」

「おわあっ!?ちょ、ちょっと待てって陽灯!」

 

勇者の中でも運動能力に優れた銀を指定し、陽灯は腕を掴んで走っていく。

突然のことで驚きながらもよろけることなくすぐに足を合わせた銀は流石というべきか。

あっという間に居なくなった二人を呆然と見送ることしか出来なかった須美と園子。

漫画であるならば足の残像でも見えるかというくらい足をぐるぐるさせながら土埃を撒き散らして走り去るような速度だった。

 

「何かを決断したら一直線なのは流石というべきかしら」

「ふっふっふっ、それがはるるんだからね〜」

「どうしてそのっちが威張るの!?」

 

ちなみに二人も遅れて合流し、陽灯はひたすら目隠ししながら勇者に変身した銀が投げるボールを避ける特訓をしていたらしい。

ただ達人が到達する域ということを考えれば、一朝一夕で出来るものでもなく、天才でも才能があるわけでもない陽灯の成功率は言うまでもないだろう。

ザ・ネクストで戦えている時点で戦いに関してのセンスは悪くないのだろうが、それとこれとは別である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

訓練が終わり、結局感覚が掴めない陽灯が座禅をしている時の事だった。

襲来の合図のあとに時間の停止が起き、前回の反省を活かすため不意打ちを受けないようすぐに移動したからか攻撃はなく、陽灯たちは樹海化した世界で普段通り大橋の中央に陣取っていると現れたのはやはり同じ敵。

四本の鋭利な足を持ち、三角木馬を思わせる外見のバーテックスと3()5()m()級のザ・ワン。

 

「前より少し大きくなってる?」

「もう成長したってことか? まだ二日しか経ってないぞ?」

「でもバーテックスがいるからわかりやすいけど、大きくなってるのは事実だ」

「それほど成長速度が早いのかも…とにかく前回よりも強くなっていると思って油断せず行きましょう!」

 

空中にいるバーテックスよりかは小さく見えるが、5mも違えば大きくなっているということはすぐに分かる。

それにバーテックスだって強化型バーテックスのままだ。

合宿の訓練があるからといって油断できる相手ではない。

それは両者共に分かっているのか誰も動くことなく、時間が経つのが遅く感じる。

1秒1秒が長く感じられ、先に動くのは---

 

「ッ!」

『---!』

 

陽灯とザ・ワンが同時に動いた。

地面を蹴って跳躍する陽灯とそんな陽灯に水球が放たれていた。

未知の攻撃に目を見開く陽灯だが、背後から風を切る音が聞こえる。

矢が水球の中へと入り、落下していく。

バーテックスが陽灯を突き刺そうと足を向かわせ、すぐさま銀が同じくらい跳んで弾いた。

回転し、二本目を弾く。

三本目の足を使い、陽灯がもう一度跳躍。

四本目の足が回避され、そのままバーテックスの頭上を取った陽灯が勢いよくバーテックスに向かっていく。

迎撃するようにザ・ワンが口に光を集め、死角から背後へ回っていた園子が人間でいうアキレス腱の部分に槍を薙ぐが、小さく斬れただけ。刃程度の傷しか残せず、大したダメージになっていない。

 

「硬い…けど」

 

元々この攻撃だけで体勢を崩せるなどと思ってもいなかった園子はすぐさま離脱する。

その瞬間尻尾が通り過ぎ、あの場にいたら間違いなく戦闘不能になっていた。

だが目的は果たせた。

未だに変身してない陽灯より邪魔だと判断したのかザ・ワンは園子の方へ向き、園子を援護するように須美が移動しながら矢を放っていく。

突き刺さりはするが、あくまで表皮に刺さっただけで傷にはなっていない。

しかし注意を惹き付けることに成功した。

 

「陽灯来るぞ!」

 

その間にバーテックスは近接では無理だと判断したのか地面から次々と岩を形成していく。

銀の言葉で背後を見た陽灯は空中にいるため動けない。

だからこそ両手を跳び箱を飛ぶように着き、一気に体を持ち上げて回転しながら再び跳び、冷静に岩の位置を見ると空中で向きを変え、岩を次々と蹴って空中を移動していく。

普通に向かわせる程度では変身してないために小さい陽灯は捉えきれない。

斜め、上、下、横、と陽灯を取り囲むように次々と岩を形成していくと、さらに一気に岩を増やし、大きく曲線を描きながら囲みに入る。

さっきまでのように蹴って避けていたら岩を避けている間に完全に囲まれてしまうだろう。

陽灯は目を大きく開きながら視線を素早く動かし、斜め下に分岐していた岩に両足を着き、上下反転した状態で岩を全力で蹴る。

陽灯の脚力を持ってしても粉砕することは叶わないが、次々と形成されていく岩に対し、トライアングルを描くように跳びながら少しずつ距離を詰め、バーテックスの体を登っていくと顔らしき部分を思い切り蹴り飛ばす。

ドゴォ!と普通ではない衝撃音が辺りに響き渡り、バーテックスが押し出される。

しかし尋常じゃないほどの脚力でもバーテックスにダメージが入ったような様子は何一つなかった。

 

「やっぱり俺じゃ無理か……!」

 

せめて叩き落とすために陽灯が行動したわけだが、実際にあの形成能力を見極めて避けながら接近出来るのは陽灯だけだ。

ザ・ネクストでは体の大きさから避けるのは難しく、近接特化の銀ですら不可能。

であるならば、園子や須美でも無理だろう。

ただ勇者の力、もしくはザ・ネクストの力でしか倒せないだけあって、あくまで身体能力が人間ではないだけの陽灯ではちょっと距離を稼げる程度でしかない。

そして当然、大したダメージにならなかったということはバーテックスが動く。

足場を失った陽灯にわざわざ形成する必要などなく、バーテックスの頭部らしき部分が光る。

それがなんなのか理解した陽灯は下を見て、まだ地面が遠いことを確認すると回避が不可能だということを悟る。

同時に放たれるのは無数の光弾。一発一発は大した威力はないだろうが、増えれば話は別だ。

以前の戦いで光弾を受け止めて無効化したことから、一つに威力を絞ると仕留めきれないと判断したのか。

どちらにせよ、バーテックスの判断は正しかった。

あっさりと右腕を犠牲にする選択をした陽灯が右手を握りしめ、力を貯める。

ここから避ける手はひとつ、全力で殴って爆風を利用するということ。

それを何の迷いもなく実行しようとした陽灯だが---

 

「おっと陽灯に対してそうするしないよな! そう来ると思ってた!」

「銀!?」

 

先に行動していた銀が素早く陽灯を掴んで掻っ攫うとスピードを殺さずに突き抜ける。

わかった理由など簡単な話だ。

まず足による攻撃。

これは陽灯に先程利用されたことから、やっても同じようになる可能性が高い。

次に岩の形成能力。

これも先程同様利用されてチャンスを無に還してしまう。

残る突進攻撃。

足による攻撃が無理なら、これも攻略する危険性は高い。何より溜めが長い。

選択肢から排除していけば、残るは光弾しかないのだ。煙の能力もあるだろうが、確実にダメージを与えるなら光弾だろう。

実際に銀が居なければ陽灯は右手を犠牲にしてたのだから。

 

無事に予想が当たっていた銀は地面を滑るように着地し、勢いを無くすと

すぐさまバーテックスに振り返る。

特に怪我もなく済んだ陽灯もバーテックスを警戒しながら声を掛けた。

 

「ありがとう、助かった」

「たまたまだよ。それより……どうだった?」

「ああ…岩の形成能力は瞬時に判断しないとこっちがやられる。ただ俺の足でも攻撃は出来たから、肉薄さえ出来れば防御力は大したことないみたい」

「問題はどう近づくか、だよな…」

 

能力の把握は出来ても問題の近づく方法が見つからない。

陽灯の回避方法は裏技みたいなもので、生身だからこそ出来る方法。

そして彼の足でも砕けなかったのだから砕いていくなんてゴリ押しも出来ない。

時間を掛ければかけるほど不利になるのは此方の方で、バーテックスを警戒していると轟音が響く。

すぐに土煙の中から陽灯たちの元へ下がってきた園子と須美は埃が付着してるだけで怪我らしき怪我はなく、合流する。

 

「あっちも全然ダメージが入らないみたいだね〜装甲は攻撃しても弾かれるし、合間なら通るけど…責めすぎるとこっちがやられると思う」

「それになんだか以前よりも全体的に強くなってるわ。矢も効いている様子は無いし、さっき陽灯くんに放った水球は以前のバーテックスの能力に酷似していたし…」

「だけど諦める選択肢はないよ。ないなら作ればいいんだ! 前もその前だって力を合わせたら勝てたんだ。今回だってひとりじゃないから、皆と一緒なら勝てる。絶対に勝ってみせる!」

 

陽灯は服越しに輝石を握りしめる。

その目には一切の恐れはなく、内に宿すのは光。はっきり言って相手は格上だ。

陽灯自身はバーテックス相手には無力で、ザ・ワンに対しても無力。

ザ・ネクストに変身しなければ身体能力が異常に高いだけで、攻撃力はない。自然治癒力は高いものの、意識がシャットダウン、つまるところ眠らなければ稼働しない。

一方で勇者の三人は身体能力は陽灯を超え、バーテックスにもザ・ワンにも攻撃が通り、回復力も強化されている。

それなのに作戦も何もないと言っているものだ。しかし。

 

「まぁあたしらが負けると神樹様の元に辿り着くもんな」

「そうだね〜それにはるるんの言う通りだと思うんよ。一人なら勝てない相手だけど、私たちは五人いるもんね」

「不思議ね…陽灯くんがそう言うなら、本当にそう思えるわ」

 

諦めないその姿が、周りにそう思わせてくれる不思議な力があった。

光のように強く、明るく、眩く、誰かを照らしてきたのが陽灯という存在。一日二日ではなく年単位で見てきて、月単位で付き合いのある彼女たちは他の者よりも影響を受けている。

彼が立ち止まらない限り、彼女たちもまた折れることはない。

 

「守りたいものを守るために、今度こそ勝つんだ。この戦いは必ず勝たなくちゃならないものだから…!」

「だから俺は守りたいものを守れるように、みんなが変わらず過ごせる日常を守るために、そのために戦う…!」

 

覚悟を口にする陽灯に呼応するかのように、服越しに光が灯る。

輝石から発せられているであろう赤い光。

その光は点滅し、陽灯はただ頷いた。

 

「っし、だったら全員でやらないとな。陽灯も言ってた通り、みんなでやれば勝てるさ。ああ、もちろん陽灯の中の巨人もな」

「ひとまずバーテックスはミノさんとわっしーが攻撃した方がいいかも。引きつける役は私とはるるんかな」

「そうね…異論はないわ。銀が近づいて、私が遠くから。そのっちは防御が出来るし、陽灯くんは攻撃が通らなくとも高い身体能力があるから銀が攻撃に集中出来るでしょうしね」

「うん、はるるんの変身能力は私たちにとって切り札みたいなものだから。限界があるみたいだし」

 

つい昨日予想したことだが、あからさまに限界を迎えたように膝を着いたりするし間違ってはないだろう。

ザ・ネクストの力は強力だが、その分の負担もかかるということ。

最初から変身しなかった理由のひとつが、まさにこれだ。

それを全員分かってるからこそ、役割分担が成された。

ザ・ワンに関しては臨機応変に対処していくしかない。

 

「行こう!」

 

掛け声ひとつで、同時に動く。

陽灯と銀は並走して動き、園子はワンテンポだけズラして、須美は弓を引き絞る。

当然、相手も動く。

バーテックスとザ・ワンが光弾と雷光を放ち、まだ橋内なのもあって左右に分かれて避け、バーテックスの方に銀が向かい、ザ・ワンの方には陽灯が走り込む。

園子は銀の方へ行き、矢が光弾を撃ち落としていく。

ザ・ワンは爪を振り下ろし、陽灯はギリギリのところでカーブする。

土煙に紛れ込み、進行方向はバーテックス。

 

「銀!」

「陽灯?…そういうことか!」

 

突き刺そうとしてくるバーテックスの攻撃を捌いていた銀は陽灯が駆けて来るのを見て理解し、強く弾く。

生まれるのは隙。

弾いた際の動きで足が浮かび、体勢を崩す銀を仕留めようとバーテックスが残る足を全て向かわせる。

そこに割り込んだ陽灯が真正面から迎撃---すると突き刺さるので、側面を蹴り飛ばし、残る二本は片方の足を全力で側面から殴ることで足同士をぶつけ、阻止する。

全力で振り抜いた勢いを強引に殺し、背を曲げると銀が陽灯の背を踏み台にして跳躍。

衝撃で倒れる陽灯は両手を地面について回転し、全力で跳躍。

光弾をチャージし始めたバーテックスに対し、園子が攻撃を仕掛ける。

 

「こっちがお留守だよ〜!」

 

陽灯のパンチによって重なっていた足に矢が数本突き刺さり、園子が槍を振り下ろすと一本の足が切断される。

ようやく目に見えて分かるダメージにチャージが中断され、咄嗟に岩の形成が成される。

銀に追いついた陽灯が手を取り、投げ飛ばすことで乗り越えさせる。

 

「これで…届くッ!」

 

急落下。

肉薄した銀は双斧を振り下ろし、落下速度が加わった一撃はバーテックス本体を---

 

「なっ!?」

 

斬り裂くよりも早く、ザ・ワンの爪が弾いていた。

さっきまで居なかったはずで、どこからともなく現れたことに驚いているとザ・ワンの歯が迫る。

 

「そう簡単にはいかないよな…!」

 

岩を足場にしていた陽灯が追いつき、銀を引っ張るとザ・ワンの噛みつきは空を切り、もうひとつの爪を振り下ろすザ・ワンに陽灯はバーテックスを蹴り飛ばして勢いを利用しながら上下反回転すると地面に着地する。

相変わらず陽灯ではダメージはないが、多少後ろへ飛ばすことには成功している。

 

「助かった!」

「いや本当は距離を稼ぐために居たんだけど……なんでザ・ワンが…。追いついた?」

 

陽灯は虚をつくように自分を囮にしたわけだが、それにしては何の音もなかったのだ。

陽灯の聴力にも視力にも存在は確認出来てなく、銀の攻撃は通るはずだった。

 

「……やっぱり。最初のバーテックスの能力を持ってる…?」

「最初の? もしかして…水か!?」

 

咄嗟に振り向いた先は、さっきまであったはずのザ・ワンの姿はない。

そして最初に放たれた見覚えのある水球。

音もなく出現し、居たはずの場所には何も無かった。

陽灯はよく知っている。自分自身が踏み潰されることになった原因の能力。

つまり、ザ・ワンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれないということ。

 

「そんなのありか!?」

「とにかくあるならあるで今は…っ!」

 

せっかくのチャンスを逃す手はないと陽灯はすぐに駆け出すと銀も少し遅れて駆け出す。

指で数えられる程度の秒数があれば辿り着く距離だ。

もしこれ以上離れたら接近が難しくなる。

ある前提で動くしかないという判断は間違っていなかった。

それが()()であるならば。

 

『---!!』

「ぐあ…っ!?」

「ぐう……っ!?」

 

ザ・ワンの口から放たれた音によって身動きが取れなくなり、陽灯や銀だけではなく、二人よりも距離のある園子やより遠くにいた須美すら両耳を抑えて膝を着いた。

 

「っ、なに、これ…耳が……」

「こ、この距離でも……三人とも……!」

「う…がぁああああ!?」

 

そして何より、ザ・ネクストとひとつになっている影響は聴力にも出ている陽灯に関しては膝を着くことすら出来ずに倒れており、他の誰よりも苦しんでいた。

それは音による攻撃。超音波。

直接的な破壊力は持たないものの、行動を停止させるには十分過ぎるほどの声量だ。

唯一離れている須美は矢を構えようとしても、狙いが定まらない。

一方でバーテックスには効かないようで、僅かに震え始める。

ずっとすることは出来なかったのか音波による攻撃が止み、頭痛を感じる頭を抑えながら銀はすぐに陽灯に駆け寄る。

 

「は、陽灯…大丈夫か!?」

「う、あ…ぐ……い、意識が…あぶな…か…った……」

 

鼓膜が破れかねないほどのものだったが、強化されているのは文字通り全てだったお陰で意識が落ちかけていたが、耐えれた陽灯は銀に支えられる。

 

「とりあえず一度退くぞ!」

「ミノさん、はるるん! 何か来るよ! わっしー!」

 

行動が出来なかったが、すぐにバーテックスの様子に気づいた園子が二人に声を掛け、須美の方を向くと彼女は既に弓を構えてバーテックスに向かって何発も射っていた。

何かしようとしているからか岩の形成はされておらず、ザ・ワンが前に立つと尻尾を横に薙ぐことで矢をまとめて破壊していた。

しかしダメージが入れば御の字くらいで時間稼ぎのためのもの。

銀に支えられながら離れていく陽灯と近づいて助け出したくとも警戒する必要があるため近づけず敵から目を離さない園子は待つしか出来ず。

 

「………!」

 

陽灯の頭の中の警報と輝石が輝くのはほぼ同時だった。

何かは分からない。ただ次の一手を間違えれば大変なことになるような、いわゆる陽灯が感じた嫌な予感とザ・ネクストによる警告による点滅。

 

「そ…園ちゃん全力で後ろに跳んで! 銀は俺を置いていいから早く行ってくれ! 俺なら変身すればどうにかなる!」

「急に何言って…置いて行けるかよ!」

「俺もすぐ行く! 園ちゃん頼んだ!」

「おい……っ!?」

 

力の入らない手に残る全ての力を集中させ、陽灯は銀の支えを解くと投げ飛ばすように押し出す。

不意に押し出されれば咄嗟に踏み止まることは出来ず、前かがみになりながら銀は転びそうになりながら勢いよく前に進んだ。

他人を気遣う陽灯にしては余裕もなく強引な行動で、園子が抱きとめるとすぐに震えていたバーテックスから勢いよく()()が溢れる。

 

「はるるん!」

「陽灯!」

 

紫色の煙はザ・ワンを覆い尽くし、それだけでなく少しずつ迫ってくる。

振り向けば煙の中は全く見えないほどに濃く、自身も範囲から逃れるために足を動かせようとしたところで眩暈がして片膝を着いてしまった。

 

(やばい、まだ意識が……)

 

さっきまでは銀が居たため気合いで行動したが、誰もいない状態となったのもあって振り返してきたのだろう。

意識が朧気になりながら頭を振り、すぐに立ち上がって歩き出す。

歩幅があまりに小さく、迫る方が早い。

 

「まずい!」

「ダメだよミノさん! あの煙、なにかおかしい…!」

「だからってこのままじゃ……あ……」

 

止めようとする園子に言い返そうとしたところで銀は気づいた。

銀を行かせないために服を握り締めている手が力を入れすぎて震えていることに。

本当は今すぐにでも助けに行きたいのだろう。

だが園子はこの部隊の隊長であり、身勝手な行動は許されない立場だ。誰かがブレーキにならなければ、このチームはすぐに瓦解してピンチに陥るだろう。

それに誰よりも陽灯を信頼しているのは園子なのだ。

だからこそ今までもそうだったが、彼の勘はよく当たる。

後方行動を出したということはあの煙は危険と思うべきで、彼の思いを無駄にすることになる。

大丈夫だと言っていたから、園子に出来るのは陽灯を信じることのみ。信じてないなら園子はもう既に陽灯の元へ向かっているのだから。

 

(ダメだ! 巻き込まれっ)

 

そうこうしているうちに。

紫煙は陽灯すらも覆い隠し、姿が見えなくなる。煙はそこからさらに広がり、おおよそ半径200m。

園子と銀は5mほど離れていたお陰で煙の中に入ることはなかったが、陽灯は完全に巻き込まれてしまった。

 

「そのっち! 銀! 陽灯くんは!?」

 

ザ・ワンもバーテックスも見えなくなってしまった時には移動していたようで、近場に降り立った須美はすぐに二人に聞くと、二人は首を横に振っていた。

 

「中が見えないから分からないけど……」

「中にいることは分かる」

「そんな……」

「でもバーテックスから出てきたものって考えると私たちが突撃したら……」

「全滅ってことね……。陽灯くん…」

 

煙なんてそう簡単に消えるものでは無い。

この煙も色が紫と不穏なもので、能力が分からない以上は全滅の危険性もある。

陽灯はそれを望まないだろうし、全滅したら世界は終わりなのだ。

今はもう、煙が消えるのを待つか出てくるのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

その一方で。

煙の中にいる陽灯は吸い込んでしまっていたからか、何度か咳き込みながら両膝と両手を地面に着いていた。

 

(体が、動かない……まるで…痺れたような……)

「けほ…けほっ…ごふっ…!」

 

歩こうにも立ち上がることが出来ず、何かが喉から込み上げてくる感覚に思わず口に手をやれば、独特な生温い感触が手に付着する。

 

(こ、れ……ま、まさか…ど…く……?)

 

そこには血が付着しており、体が動かないことを考えるなら、ただの煙に出来るようなものではない。

経験したことはないが、存在だけは知っていた陽灯はこの煙の正体が毒霧だということに行き着いた。

体が痺れることから神経毒も混じっているのか、どちらにせよバーテックスを人間の技術力に当てはめるのは誤ちだ。

そういった毒の効果があると思うべきで、巻き込まれたのが自分だけだったことに安堵する半面、血を吐いてから次々と血が出てくることに焦りが生まれる。

体が蝕まれている証拠だろう。

 

(ま、ずい……)

 

抜け出さないといけないことはわかっている。

しかし体が動かず、力を入れようとしても入ってくれない。

それどころか段々と意識が朦朧とし、呼吸も乱れる。

前を見ても何処まで広がっているのか分からない。飛び込めば出れるのか走る必要があるのか、濃すぎて見えないのだ。バーテックスもザ・ワンも当然見えない。

 

(で…も……チャンス…は……ある……!)

 

ただそれは相手も同じだと陽灯は思った。

バーテックスもザ・ワンもこの濃い密度の霧の中から小さい陽灯を見つけるなんて難しいに決まっているし、なにより巻き込まれたのは自分だけでなく、ザ・ワンも同様だ。

ザ・ネクストに強化された陽灯がこれならばザ・ワンだってタダで済まないはず、と。

---それがただの怪獣だったならば。

 

「……!?」

 

何かを感じる。

咄嗟に振り向いてもやはり何も見えないが確かに”感じる“。

しかし体が動かず、必死に動かそうと力を入れ続けているとほんの少し動いた。

右に一回り、仰向けになるように転がった瞬間、風を切る音と共に陽灯の体が巻き込まれた。

 

「がっ……!?」

 

すぐに離れず、振り切ったあとと思われる衝撃で吹き飛び、至近距離だったのもあってザ・ワンの尻尾だったということは分かったが、意識が一瞬飛ぶ。

確かに見えないなら爪よりも尻尾で薙げば当たる可能性は高い。それをわかっているからこその攻撃であり、生身で受けた陽灯は意識がすぐに回復すると血を吐きながら煙の中から追い出され、一直線に高いところにあった枝に頭をぶつけて地面に落ちて倒れ伏す。

吹き飛ぶように出てきた陽灯の姿は三人も目視しており、すぐに跳んで寄ってくる。

 

「大丈夫!?」

「はるるんしっかりして…!」

 

一番近かった須美が抱き起こすと、口元が血だらけになっているが怪我らしき怪我は枝にぶつけたであろう頭くらいから血が流れているくらいだ。

あとは目が充血していることくらいだろうか。

普通の人なら十分重傷だが、普通に呼吸も脈もある。

 

「くそ! あいつらに仕返しをしないと---」

「ま…で…っ」

「陽灯…?」

「ちょ、ちょっと陽灯くん。無理は……」

 

すぐにでも煙の中に突っ込みかねない銀の腕を陽灯は掴むと、簡単に振りほどけそうなくらい弱々しい力ということに銀は気づく。

目も今にも閉じそうなくらいになっていて、腕は震えている。

その姿を見て須美は注意しようとするが、陽灯は余裕がない。

 

「め、だ……だ、め……ど、ど…く……げほっげほっ!」

 

絞り出すような声。

単語を告げた直後に噎せるように咳き込むと、一緒に血が吐き出される。三人はすぐに心配するが、陽灯の言った言葉を考える。

単語と陽灯の様子、それから分かるのは。

 

「毒……? それって……バーテックスのだよね。じゃあ…」

「まさか……あの煙は毒ガスってこと!?」

 

園子が足りない部分を補うと、須美が答えを告げた。

それならば陽灯が無理をしてでも銀を止めた理由も、納得がいく。

もしそのまま動いていたなら陽灯と同じ目に遭うところだったのだから。

 

「毒って…じゃあ陽灯がこうなったのはそれが理由か! けど……このままじゃお前が死ぬだろ!?」

「毒物を摂取した際の対処法は知識にあるけど、バーテックスとなると普通の方法じゃダメかもしれないわ。どうすれば……」

「ここじゃ何も出来ないから…毒に気をつけてザ・ワンを相手にしながらバーテックスを倒すしかないと思う」

「でも普通に戦って以前までのバーテックスならまだしも、今のバーテックスに勝つのは難しいんじゃないかしら…」

 

陽灯なしで戦うとなれば、少なくともバーテックスと一対一かザ・ワンと一対一になる。

強化型バーテックスは一人で突破出来るような能力はしていないし、毒のことを考えるなら巻き込まれたら終わりだ。

 

「やるしかない。一度は接近出来たんだ。実際接近さえ出来ればこっちのもんだった」

「…うんそうだね。私もはるるんが苦しんでる姿を見ていたくないし」

「仕方がないわね……陽灯くん休んでて。……いい? 今度こそ、今度こそは動いたらダメよ!」

 

言っておいて既視感を感じた須美は付け足すように注意すると、陽灯は頷く…ことはせず、力が抜けたのか掴んでいた手はずり落ちる。

明らかに顔色が悪い。血を吐きすぎた影響か、バーテックスの毒の影響か。

 

(意識が……ダメだ。ダメだ、こんなところで終われない……まだ何も、何も守れてない……!)

 

短期決戦を要求されていることを理解した三人が戦いの場へ向かおうとする。

その姿を見て、力を入れようとする。

 

(こんなところで死ぬ訳にはいかないんだ。帰らなきゃいけない、守らなくちゃいけない……みんなを…この世界を……俺は…諦めない……諦めるわけには…)

 

初見殺しを陽灯が受けることで今までの戦いで全滅することを避けられたとも言える。

そのお陰で何度も死にかけているが、勇者の力なしでよくやれた方だろう。

今は休んでいいというのは間違っていない。

間違ってはいないが、それを陽灯の感情はよしとしなかった。

 

「いか、ないんだ……」

「え…?陽灯くん…?」

 

最後尾に居た須美が気付くと、園子も銀も跳ぼうとした動作をやめて振り向く。

倒れ伏せていた陽灯の拳が握られ、彼は血を流しながらも起き上がろうとしていた。鼻血を出して吐血しながら。

気道確保のために回復体位で寝かされていた状態から四つん這いになっている。

それを、相変わらず無茶をする姿が止めることが出来ない。止められない気迫があった。

 

「陽灯……?」

「お…れ、は……ま…だ………!」

 

何が言いたいかなんてその目が全てを物語っていた。

諦めない。

たったひとつの意思。

体を蝕むバーテックスの毒に陽灯はそれだけで抗い---

 

「戦える……!!ま……だ……まだ、た゛だ゛が゛え゛る゛!!」

 

ついにはその場で立ってみせた。

治ったわけではなく、ただの気合いだ。

実際にすぐによろけ、それでも地面を踏み締めて顔を挙げて、見据える。

強固な強い意志---

 

「あ…ぐぅうう゛う゛う゛!?」

「はるるん!?」

 

そんな陽灯は突如と左胸を両手で抑えると、がくんと力を失ったかのように両膝を着いた。

苦しいのか蹲っていて力強く握っているようにも見える。

明らかな異変に園子が一瞬で近づくと覗き込むようにしながら心配して、どうすればいいか分からず行き場を失っている手だけが動いていた。

 

「悪化したの!?」

「ま、まてまて! なんか…光ってないか?」

「え? 銀、何の冗談を---」

 

同じく寄ろうとしていた須美と銀だったが、ふと銀が陽灯を指差してそんなことを言っていた。

変身する時ならまだしも、別にそんな様子がないなら人が光るはずもない。

困惑しながら指差ししている部分を見れば、光っていた。

 

「本当に光ってる…!?」

「…! ごめんね、はるるん。確かめるよ?」

「う…ぅ……」

 

まさか本当に光ってるとは思わず驚く須美は、な?と同意を求める銀にこくこくと頷いて同意を示し、心配で視野が狭まっていた園子は異変の正体かもしれないと申し訳なさそうにしつつも真剣な顔で強く握り締めている陽灯の手を取って見えるようにする。

すると、脱がす必要すらなく服の上からでも分かるほど()()()()が”左胸“から小さく発せられている。

ザ・ネクストの時のような赤と青、そして白光色でもなく、全身に浮かぶものでもない。

例えるなら。

 

「これ…蕾……?」

 

そう、まるで蕾だ。

蕾とは、あの蕾。

まだ開いていない状態の花を示す蕾だ。

小さな蕾の形をしながら、その色そのものがザ・ネクストの時には該当しない()()()()()()()

 

「ぁ…ぁぁ……あああああああ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁ!!」

「陽灯!?」

「陽灯くん!」

「はるるん……!!」

 

そして一際強く輝き、全員の視界が僅かに塞がれた時、唯一掴んでいた園子だけが手が離れた感覚に気づいて、視野がすぐに回復するとまた蹲っていた陽灯が居て---機械が熱を排熱するように()()()()が背中から空気に解けるように出てくる。

何より陽灯の瞳が()()()()()を繰り返し、完全に金色に染まった瞬間、放出されていた煙は()()()となって天を突く。

 

「なんだ!? 一体何が起きた!?」

「…! まずい、気付かれた…!」

 

ある程度離れていたが、すっかり煙が消えて索敵していたバーテックスもザ・ワンも光の柱が目印となって駆けてくる。

橋から追い出されているため、このまま近づいてくるということは、その分現実世界に影響が起きるということだ。

 

「とにかくはるるんを運んで迎撃をしないと……っ?」

 

時間が無く、敵が向かってくるなら巻き込まれないように遠くに移動させて迎撃すべきと安全のために移動させようと陽灯に肩を貸そうとした園子の手が陽灯によって掴まれた。

 

「はるるん……?」

 

さっきまで苦しんでいた時と違い、陽灯は僅かにふらつきながら立ち上がると、自分自身の手のひらを見て、握りしめたり離したりする。

瞳はもう黒色になっていて、変化が起きていたことには誰も気づいていなかった。

 

「お、おい陽灯。そんな立ち上がったら---」

「治ってる……」

「陽灯くんそんなはずは…」

「いや、大丈夫。なんか毒治った!」

「……嘘でしょ?」

「そんな簡単に治るもんなのか…!?」

 

信じられない目で見てくるみんなにぴょんぴょんと軽く跳んだり腕を回したりと体を動かすと、明らかにさっきと違うことが明白に理解出来る。

 

「知らないけど治った! さっきまで苦しかったのに今じゃなんともないよ。ちょっと頭は痛いけど、痺れもないし全然動く!」

「嘘は…言ってないみたいだね〜…。理由は分からないけど、よかったぁ……」

「ごめんね、俺のことはいいから急ごう! 俺が毒にやられてたせいでゆっくりしてる時間はない。もうタネは分かったんだ、同じ手は食らわない!」

「時間が無いのは確か……そうね、ザ・ネクストの力でも働いたのかもしれないわ」

「そう思うのが一番か、今はあいつらを止めるのが先だな!」

 

今でも味方であること以外正体不明でよく分かってない存在。

だからこそ変に考えるよりかは何かしらの力で治してくれたのだろうと思い込むことにしたようで、思考を切り替える。

 

「気をつけて、あの煙は吸ったら数秒程度なら持つかもしれないけど数十秒は無理だ。それに視界が悪くて何も見えない。すぐに離脱した方がいいと思うから」

「うん。はるるんも気をつけてね? ほんとうのほんとーに心配したんだよ?」

「うん!」

 

経験した陽灯が煙の力を正確に話すと、釘を刺すように言われた。

それに対し分かってるのか分かってないのか、いざとなったら同じことをするのだろうと園子は察すると、そうさせないように見ていることを密かに誓う。

敵はもう近い。

 

(毒治してくれたんだよね、ありがとう巨人さん)

 

迫ってくる敵を見ながら輝石を服越しに握り締めて思いを伝える。

---いつもなら礼はいらないと言うのに、何も返ってこない。

力を使って消費したのかな…と一瞬思ったが、すぐに『行こう』と声が響いた。

まるで()()()()()()()()()ような様子に訝しむが、目先のことを思い出して頭を振ると目を閉じる。

 

「行くよ、巨人さん!」

 

目を見開いた瞬間、陽灯の肉体から青白い光が発せられて胸の中心に赤い光がうっすらと映し出される。

そこを軸として全身や顔に血管のような赤い光の文様が浮かび上がり、眩い光とともに陽灯の身体が変化していく。

光が晴れると光の巨人とも呼べる存在。

2()0()m()()の巨人、ザ・ネクストへと変身を果たす。

 

『ハアッ!』

 

瞬時に駆け、全てを抜き去ると速度を殺さずに向かってくるザ・ワンをタックルで押し返す。

カラフルな根の部分へ到達するギリギリで押し戻し、バーテックスの足を一本掴むと両手で一気に投げ戻す。

神樹の影響が最も強い場所へ辿り着く前に戻せると、三人もザ・ネクストに追いついた。

ようやく現れたからか、ザ・ワンが雄叫びを挙げる。

キーンとするような鳴り響き。

それに対し、ザ・ネクストは学習したようにすぐさま左側のフィンから光の刃を飛ばした。

そうなれば避ける必要があるため、妨げることに成功する。

 

「地震来るわ! その前にッ!」

「ミノさん!」

「任せろ!」

 

ザ・ネクストの行動はザ・ワンの攻撃を防ぐ行動で遅れてしまう。

そのため、銀と園子が速攻を掛ける。

当然岩の形成能力で道を防ぎ、ザ・ネクストは攻撃するより早く須美を覆うように掴むと軽く投げ飛ばす。

すぐに振り向き、飛んできた水流レーザーを横に転がって避ける。

 

「南無八幡…大菩薩ッ!」

 

簡単に言うと大菩薩に願かけで放たれた矢は上から撃つことで岩を避け、地面に突き刺さりそうになっていた足に直撃。

爆発を引き起こし、体勢が崩れる。

 

『ヘェッ!アアァッ!』

 

ザ・ネクストが走り、ザ・ワンが雷光を放つ。

それをザ・ネクストは避けるのではなく、最小限のダメージに抑えながら吹っ飛ばされると、横向きに飛ばされながらバーテックスに()()()()()()()()()()のショルダータックルが直撃。

巻き込まれる形で互いに横に倒れてしまう。

 

「相変わらず無茶苦茶だ!」

「やっぱり分かってない…終わったら覚えててね〜はるるんっ!」

『…!?』

 

え、と驚いたように園子を見たが、思考を奪われたのは一瞬。

すぐに前転して起き上がると、ザ・ワンに掴みかかる。

前回と違って体格差が15mもあるため、あっさり反撃をもらって火花を散らしながら大きく仰け反る。

ただ銀と園子がバーテックスに辿り着くことには成功し、バーテックスは光弾を放つ。

それを読んでいた園子は銀の前に出て傘のように展開することで防ぎ、銀は跳躍して飛び越える。

 

「二本! もらったあぁあああ!!」

 

一本目と二本目の足を切り落とし、バーテックスの足がようやく二本に減る。ちなみに園子が削った足は陽灯がダウンしていた時に再生していたようだ。

すぐに岩が生み出され、二人は離脱する。

一方で須美は上空で見ていた。

 

『グッ…アアッ!?』

 

前回まで何とか互角まで戦えていたはずのザ・ネクストが、今ではザ・ワンに翻弄されていることに。

ただでさえ肉体的な差で負けていたのだ。

能力まで増えれば対処しなければならない攻撃が増え、選択肢の数も多くなる。

今も食らいついていけているのは陽灯のスペックによるもの。それでも覆せる実力差ではなく、ついにはザ・ワンの頭突きを胸に受けて吹っ飛ばされ、受け身を取れず背中から落ちていた。

攻撃のチャンスに次々と水球と雷光が放たれ、両腕をクロスして防御体勢を取るが、水に濡らされた体に雷が流れればどうなるか。

簡単な話、電気によって感電する。

それによって苦しむザ・ネクストを援護すべく、落下しながら矢を射る。

精度は落ちるが真っ直ぐに飛んでいく矢に気づいたザ・ワンが音波による振動で落とし、その一瞬でザ・ネクストが肉薄する。

 

『デ…アッ!』

 

すぐさま雷光を放つザ・ワンだが、ザ・ネクストは避けなかった。

体が痺れ、雷によって全身が発光している。

それでも突き進み、ザ・ネクストが腰部に組み付くと纏われていた電気がザ・ワンにも影響を与える。

 

『---!?』

『ぉ…オオオオッ…!』

 

両腕のフィンが光を纏い、両足を後ろに挙げて登るように上下反転すると両足でホールドしながら同時にフィンを振り下ろす。

ザ・ワンの両腕にエッジが直撃し、切り落とすことは出来ないが、ダメージが入った。

至近距離で水流を放とうとするザ・ワンに対し、すぐさま猿のようにぶら下がり、落下すると両手を地面に着いて次々とバク転。

追ってくる水流に側転で避けていき、また矢が放たれる。

ザ・ワンが横に薙ぐように振り回し、矢が切断され、ザ・ネクストはしゃがんで避けると一気に後ろへ跳んで着地。

 

『ハア…ハア……』

 

息を整えるように呼吸をしつつ、油断なく構えていると地上にようやく降りれた須美と離脱に成功した園子と銀が戻ってくる。

 

「あとちょっとでやれそうだけど、あの岩が邪魔すぎるぞ!」

「硬くて壊せそうにないし……はるるんの力でも壊せなかったからね〜やっぱり避けるしかないかな」

「陽灯くんは大丈夫?」

『……ン』

 

強化前なら間違いなく倒し切れたため悪態をつく銀と冷静に分析していた園子。

そしてダメージを負っていることを知っている須美は陽灯の身を心配し、大丈夫だというようにザ・ネクストが頷くと両手を拳の形にしながら腰を落とし、敵を見据える。

膠着状態となり、ザ・ネクストが僅かに視線をやると三人が頷く。

じり、と足が僅かに動いた際に石ころにでも当たったのか転がっていき、それが落ちた瞬間。

ザ・ネクストは回転しながら光刃を飛ばし、ザ・ワンが雷光を放つ。

二つの技が交差し、結果は---

 

『ウァッ!?』

 

ザ・ネクストの胸に雷光が直撃し、吹き飛ぶ。

光刃はギリギリのところで岩が形成されていて、当たらなかった。

 

『終ワりダ---っ!?』

 

トドメを刺すべく再び雷光を放とうとエネルギーを貯めていると、突如口が爆発。

あからさまに怯んでダメージを受けるザ・ワンをザ・ネクストは追撃するようにすぐさま走りながら跳躍する。

空中で右腕を振り、フィンから放たれた光刃がザ・ワンの胸に直撃。

すぐに迎撃しようとしたバーテックスが足で攻撃しようとして出来ないことに気づき、いつの間にか接近していた銀と園子が残る足を切り落としていた。

岩を形成したことによって視界が遮られ、そのせいで勇者たちを見失った結果だ。

ザ・ネクストは自らを囮にして接近させたのだろう。ザ・ワンの攻撃もバーテックスの能力も全て利用して。

ただその分ダメージがあるのか、着地と同時に片手と片膝を着いてしまっていた。

それでもバーテックスの無効化に成功すれば、あとはダメージを与えるのみで、危機感を感じ取ったバーテックスがザ・ネクストが立ち上がるのと同時に震え始める。

 

『……!』

 

二度も見ればその動作が何なのか理解出来ていた。

それよりも何かに気づいたようにザ・ネクストがダメージを押し殺してすぐに走り出す。

 

「陽灯くん何を…?」

 

その姿を不思議に思いながら、須美は警戒するしか出来なかった。

声を掛けるよりも早くに行ってしまったから。

 

「来るか!」

「離れるよ!」

「分かってる!」

 

次の攻撃がどれほどの脅威を持つか見て知った銀と園子が戦線から離脱し始める。

毒煙。

それによって再生する時間を与えてしまうかもしれないが、全快とまではいかないのは分かる。

そのためやられるよりも次に繋げるべく離れようとしていたが---

 

「二人とも!気をつけて!」

 

須美の声が聞こえ、銀と園子を覆う影があった。

まさかと見上げれば、逃げ道にザ・ワンがいる。

 

「あの水の力か…!?」

「逃がすつもりはない…って感じかな〜…」

 

牙をチラつかせ、唸り声が聞こえる。

そうだと言いたいかのようで、園子はすぐさま状況を把握して次の一手を考える。

バーテックスはもうじき煙を出すだろう。陽灯の速度でも逃げきれないということは、勇者の力でも無理に近い。

ザ・ワンを無視して突っ込むことは間違いなく不可能で、相手をしながら逃げるのも同様。倒すことだって同じで、援護があったとしても厳しいかもしれない。

()()()()確実に助かる策は浮かぶものの、絶対に認められない。

つまり唯一取れる方法はただ一つ。

 

「強行突破しかないよね、ミノさん!」

「そのつもりだった!」

 

そう、強引にでもやらねば間に合わない。

槍と双斧を手に、遥か巨大な相手に勇ましく立ち向かう。

そんな二人に容赦なく攻撃を仕掛けるザ・ワンだったが、突如として動きが止まった。

思わず攻撃をやめて訝しんでいると何かを振りほどくように暴れるザ・ワンとそんなザ・ワンを抑え込もうとするザ・ネクストの姿が映る。

彼は体格差による不利をものとせず必死に組み付きながらアイコンタクトを試みる。

 

「……! ミノさん!」

「え、ちょっ…!?」

 

流石と言うべきか意図を察した園子が前に出ながら銀の腕を掴んで引っ張り、一気に加速する。

そのまま行けばザ・ワンに突進することになってしまう。

しかし。

 

『グッ……ウァッ……! ァァ!』

 

尻尾による攻撃を後ろから受けても、爪甲に当たっても決して離さず暴れるザ・ワンを全力で抑え、強引に半身をズラさせる。

その間に園子と銀が突破した。

 

「そういうことか、陽灯! もういいぞ!」

「もう時間がないよ!」

「急いで、陽灯くん!」

『……! デ……ァ!?』

 

すぐに組み付くのをやめて離脱しようとしたザ・ネクストにザ・ワンは急加速。

離れようとする腕を掴んで走って行く先にいるのはバーテックスだった。

 

「まずいわ!」

「急いで救出をするしかねぇ!」

 

抵抗は無意味だと理解したザ・ネクストは首を後ろに向けて頷き、園子は唇を噛み締める。

 

「ダメ、もう来る!」

 

陽灯が頷いた意味を察して園子が二人を止めたその瞬間、一気に毒煙が広がり始め、ザ・ワンもザ・ネクストも覆われてしまう。

つまり、状況はさっきと同じになってしまった。

広がってしまえば突撃することはもう出来ない。助けたい気持ちはあっても、我武者羅に突撃して倒れたら逆に足を引っ張るだろう。

それは全員理解しているようで、悔しく思いながら待つしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてザ・ネクストは何も見えない中で振り落とされ、敵の姿を完全に見失っていた。

ドクン、ドクン、と心臓のような鼓動を鳴らしながら片膝を着き、息が乱れる。

毒の影響が少し出ているのだろう。ただ変身前に比べれば効力は薄いようで、普通に立ち上がって周りを見渡す。

やはり何も見えない。

 

『ウォッ…!? ガッ……アァ!?』

 

だというのに、相手はこちらを視認しているように胸に痛みが走り、火花が散る。

すぐに背中が爆発し、横腹に衝撃を受けると横に吹っ飛び、起き上がればまた攻撃を受けて倒れてしまう。

見えていないはずなのに、()()したように的確に攻撃してくる。

ザ・ネクストは転がるように立ち上がり、瞬時に構えながら首を左右に動かすが、やはり何も見えず。

前方が僅かに光ったような気がして無意識に両腕をクロスする。

 

『ウァァアアアア!?』

 

防御体勢に入っていたのが救いか、凄まじい威力を誇る雷光がザ・ネクストの体をあっさりと吹き飛ばす。

途切れて一息つけることもなく、体から次々と爆発が起き、何か複数のようなものを受けている感覚だけはあって、起き上がろうとしていた体は力が抜けたように背中が地面とひとつになる。

 

(力が……抜ける……)

 

毒による影響の消費もあるが、反撃することも出来ずに連続で攻撃を受けたのが大きく、陽灯の意識が薄らいでいく。

 

『陽灯……』

(俺が負けたら……どうなる……?)

 

途切れかけていた意識が飲み込まれ、ザ・ネクストの肉体が陽灯の目には映っていた。

見えないから避けられない。見えないから攻撃出来ない。見えないから防御も出来ない。

このままでは間違いなくやられることを自覚して、陽灯は揺らぐ目で見つめた。

その瞳は、君がどうなるのかと聞きたいような。

 

『…君だけは、なんとしても……』

(…ダメだよ。そんなの、ダメだ……俺はさっき…諦めないって決めた……だから、だからこの戦い、必ず勝つ……勝つんだ、絶対に!)

『だが……』

(大丈夫。俺は巨人さんを信じてる。だからさ、巨人さんも俺を信じて……力を貸してよ)

(二人なら、必ず成し遂げられる。俺はそう信じてるから!)

 

普通なら、実力差を自覚して勝てないと分かっていたら諦めるだろう。

けれど陽灯は分かっていてもなお諦めておらず、折れていなかった。

巨人から見てもその姿は眩しく見え、名前のように太陽の光のようで。

 

『---私はキミを信じている。初めて会った、その時から』

(……ありがとう。勝ちに行こう、巨人さん!)

 

力はもうなく、作戦も何も無い。

それでも互いを信じる力が、ザ・ネクストに光を灯す。

意識が現実世界へ引き戻され、ゆっくりと起き上がる。

 

『ハァ……ハァ……』

 

起き上がったザ・ネクストが初めに取った行動は、重心を下げて脇を締めて顎を引き、両腕をこめかみにくっつけるというもの。

キックボクシングやボクシングで使われる技のひとつ、基本の防御技であるブロッキング。

肩や腕、ひじなどで相手のパンチを受け止める防御方法。

これにより、守るべき部分をガードしながら攻撃を受けていた。

守れる部分は限られるため、全てを防ぐことは出来ない。最小限にする程度だが、ザ・ネクストは他の部分を守るという選択肢を捨てていた。

この状況を打開するにはもう、攻略するしかないのだ。

 

『ウッ……ッハァ! シェ……!』

(やるしかないんだ…思い出せ、見つけろ! 考えをやめるな、考えろ、考えて考えて頭が痛くなっても思考を停止するな!)

 

自分自身を鼓舞するようにしながら全身に来るダメージを気合いで堪え、状況を打開すべく自身がやってきた訓練のことを思い出し、次々と記憶が蘇ってくる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何も見えない状態でボールを避けて貰います』『ちなみに音でも聞こえないようにしているわ』『答えを見つければ絶対に出来るわ。なぜなら遡月くんは既にやっているからよ』『観の目。貴方自身を思い返すこと』

『力を入れすぎてもねぇ、たまには肩の力抜かなきゃ』

『見えているものだけが全てじゃないから』『貫くことも大切だけど、引き際を見極めることを決して忘れないで』

『ほら、スイカ割りみたいに』

『心の目で観るってことじゃないの?』『感覚を研ぎ澄ませるとかだったかな〜?』

『水月移写…だったかしら。達人となると少しの意識の揺らぎや気配、空気といった様々な要因から感じ取れると聞いたことがあるわ。心眼というものね』

『見えないなら見ない…!』『心の目…心眼……そうか、そうだったんだ。目で見ようとしたからダメだったんだ』

『そうだ! 見えないなら見なかったらいいんだ! 見えないものを見ようとしても見えない!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ハッ!?』

 

防御が崩され、引っ掻かれるような痛みに後退してしまうが胸を抑えながらも答えを見つけたようにザ・ネクストは顔を挙げる。

煙は晴れる様子はない。

 

『ハァァァァァ……』

 

その場を離れるように横に転がり、偶然にも攻撃の回避に成功したザ・ネクストは立ち上がると光を宿していた目は電気のように消灯し真っ暗になる。

訓練の成果もあり、視界が0になってもふらつくことがなく手をぶらつかせることもなく、その場で静止出来ていた。

すぐに力んでいた全身の力を抜いて脱力し、神経を研ぎ澄ますと流れる時間の1秒1秒が長く感じられる。

 

『………』

 

何も分からなかった。

訓練を続けて、何度も避けようとして、見えないから不可能だと判断していた。

それが間違いだったと、ようやく気づけたのだ。

陽灯は結局、見ようとしていた。癖、とでも言うべきか。人にとって相手を見るということは目で見るということが染み付いてしまっている。

でも見ることは見ることでも、見る場所が違った。

肉眼(見の目)で見るのではなく、(観の目)で見る。

 

『! デェアッ!』

 

何も見えてない状況だというのに、ザ・ネクストは前に進む。

するとビュン、と風切る音が聞こえ、体を横に逸らして次々と来る攻撃を避けていく。

それこそ()()()()()()()()

否、見えてなどいない。

見の目は動き自体を見るクローズアップの目。肉眼で近いところを見る。

観の目とはすなわち、表面上に見える現象ではなく、その奥に潜むものを観ること。敵の動きや状況を俯瞰して大局を見渡すロングショットの目。いわば相手の動きを見抜く力のことで、目で見るだけが全てじゃなかったということだ。

事実。

完全にものとしたように、ザ・ワンの攻撃は次々と避けられ、例え水球や雷光を放とうともザ・ネクストは分かっているように避け、相殺し、ザ・ワンに攻撃を加えていく。

 

これこそ会得しようと陽灯が努力し、その末に土壇場で完成させた遡月陽灯の武器。新しい技のひとつ。

その名は、心眼。

 

そんな彼に対し---ザ・ワンの足蹴りが迫る。

だが心眼を会得したザ・ネクストはどの攻撃がどこから来ているか気づいているようで瞬時に腰を捻りながらジャンプして避ける。

勢いをそのまんまに、背後を向き、右足を空中のボールを蹴る要領(ボレーキック)で動かすと柔らかい感触が足に伝わり、全力で蹴り飛ばす。

さらに着地と同時に空中後方回転すると尻尾が通り過ぎ、後方回転で体勢を戻し、すぐにショルダータックル。

硬い装甲に阻まれ、肩の痛みを無視してアッパーカットを放つと、ガキンと何かを閉じる音(口の閉じられる音)が響く。

数歩動くような足音が聞こえ、前転で横を抜けると尻尾を掴んだザ・ネクストは両手に全の力を入れると、15mもある体格差をものとせずその場で自身の体ごと錐揉み回転(ドラゴン・スクリュー)させる。

体が回転してうつ伏せに倒れ伏すザ・ワンに()()()()()()()()()()ことに気づかないままザ・ネクストは再び尻尾を掴むと、先程蹴り飛ばした方向へ投げ飛ばし、自身も追うように走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---煙のせいで近づけず、不安と心配の入り交じった表情で待つことしか出来なかった三人だが、決して警戒を解いていなかった。

だからこそ、煙の中に影が出来たことに気づくと、すぐさま煙の中から頭部らしき部分が粉砕され光弾を撃つことが出来なくなったであろうバーテックスがバウンドしていったのが見えた。

 

「バーテックス!? それにあの損害具合……!」

「ってことは……!」

 

バーテックスが出てきたことに驚く須美だったが、頭部らしき部分が壊れてることから可能性が頭に浮かぶ。

須美だけではない。

銀も気づいたように声を挙げて、園子は煙の中をじっと見ている。

そして答え合わせをするようにザ・ワンが煙の中から飛んできて、続くようにザ・ネクストが煙の中から走りながら出てくる。

ただY字型の胸の器官は点滅して心臓のような音を鳴らし、いつも光を宿しているはずの瞳は真っ暗に染まっている。

 

「はるるん!」

『……?』

 

声が聴こえて思わず首を動かして探すが、流石に心眼を会得したからといって何処までも見えるわけではない。

あ、と思い出したように頷き、ザ・ネクストの瞳が点灯していつもの白光色に戻った。

 

「陽灯!」

「陽灯くん!」

 

視界がクリアになると、園子も銀も須美も無事な姿が目に映る。

その事に安堵しながらもザ・ネクストはバーテックスに向かって両拳を握りしめながら体を向けると、右腕のフィンに全ての光を集める。

それでまだ終わってないと理解したようで、足もなければ頭部は粉砕されているがしぶとく起き上がったバーテックスが岩を地面から狙いを定めることなく乱雑に発生させる。

 

「道ずれにする気か!?」

「わっしー!」

「えぇ!」

 

すぐさま須美が矢を放つも、形成される岩は予測不可能な生み出され方をしており、矢が弾かれる。

須美が苦渋に満ちた表情を浮かべると、ザ・ネクストが動く。

 

『デェ……デェアアァァァッ!』

 

取った行動は正面突破。

左手を右腕に添え、フィンが岩にぶつかる。

振り抜くことが叶わず、それでもザ・ネクストは足に力を入れ、一歩、一歩と歩き、次第に走りながら岩を斬っていく。

 

『ヘェアッ! ゥオ……!?』

 

鉱石の形のように展開された最後の岩を振り抜いて光の刃が破壊するが、あと一歩のところで両膝を着いてしまう。

無理矢理にでも起き上がろうとしたところで、何かに気づいたように起き上がるのをやめた。

簡単な話だ。超人的な聴力を持つ彼は、背後から駆けてくる音と二つの気配を感じたから。

 

「ミノさん!」

「おう! 頼むぞ須美!」

(陽灯くんがここまで追い詰めてくれた……今度は私たちの番! 今なら不思議と絶対に外さない確信がある……!)

 

再生するために身を隠そうと少しずつ形成される岩。

展開されれば詰みに近いが、須美に焦りはなくその逆。

より深みへ集中した須美は全力の矢を解き放つ。

その矢は一直線に突き進み---形成途中の岩と岩の()()()()()を通り抜け、バーテックスへと直撃した。

その影響で形成途中の岩は砂となって地面に溶け、道が開く。

 

「よしナイス! これでッ!」

「終わり---!」

 

その隙を逃す彼女たちではなく、バーテックスに接近した園子と銀が同時にバーテックスを斬り裂く。

左右に切り込みが入り、トドメの矢が中央で爆発した。

途端に樹海の世界に桜が舞う---鎮花の儀。

倒したことを証明するようにバーテックスの姿は桜と共に消滅していた。

 

『ハァ……ッハァ……!』

 

終わった。

バーテックスは倒した。

しかしまだザ・ワンが存在していて、限界を迎えつつあるザ・ネクストはそれでも闘志を保っていた。

 

『…………』

 

対するザ・ワンはまだ余力を残しているように立ち上がると、無言で見つめてくる。

 

『………?』

『……ルルゥ…』

『…ア……』

 

唸り声を鳴らし、憎悪の感情を向けられるが、それだけでザ・ワンは追撃することなく素早く撤退していく。

ザ・ネクストは思わず手を伸ばしたが、一瞬にして橋の向こうまで行かれて姿が見えなくなり、行き場の失った手が降ろされると肉体が光に包まれ、小さくなっていく。

光が晴れると呼吸を整えようとしながらザ・ワンが逃げていった方を見つめる陽灯だけが残っていた。

 

(なんだろう……さっき今までと比べ物にならないくらい力が溢れてきた…お陰で勝てたけど、話せなかったな)

 

目を閉じてたため何があったのかまでは分からなかったが、勝てたという事を少しずつ実感しながら話せなかったことに残念がっていた。

 

「陽灯くん!」

 

呼び声が聴こえて振り返ると、一番近くに居た須美が飛び込んで来るのが見えた。

 

「わっ」

「怪我は? 体は大丈夫なの!? 毒の効果は!?」

 

慌てて受け止めると、体を弄るように触れてくる須美に苦笑すると、落ち着かせるようにぽんぽんと頭を撫でる。

 

「俺は大丈夫。それより擽ったいよ」

「あ……ご、ごめんなさい。私ったらはしたない真似を---」

「はーるーるーん!」

「ん?」

「きゃっ!?」

 

離れていた園子がいつの間にか近くに来ていて、離れようとしていた須美の上から抱きついた。

すると挟まれる形になるわけで、より陽灯と密着することになってしまったことに須美が顔を赤くした。

 

「ちょ、ちょっとそのっち…」

「ん〜?」

「えっと…その……」

 

ちら、と須美が陽灯を見ると、彼は苦笑したままで視線に気づいて見つめ返すと、須美は目を逸らすように園子を見て、彼女は不思議そうにしていた。

抱きついてしまったのは事故とはいえ、ここまでくっつくつもりはなかったのだ。

服越しからは分からなくとも胸板や腕から男の子らしさを肌で感じてしまえば、考えてなくとも意識してしまって須美は自身の鼓動が速くなるのを感じていた。

別に嫌では無い。けど恥ずかしい。そのことを言おうにも言いづらくて、言葉を間違えれば彼に嫌だと思われていると受け取られてしまうんじゃないかと思うと、何故だか無性に言えなくて、などと考えているうちに。

 

「ズルいぞ〜あたしも仲間に入れてくれ!」

「ぎ、銀まで!?」

「わあ〜!?」

「ぬ……ぉおおお!?」

 

参加するように飛び込んだ銀は一番後ろ。

勇者の力が込められた勢いもあって三人分の体重と力を耐えたのも束の間、耐えきれなくなった陽灯は背後へ倒れ、支えが失った三人は覆い被さるように倒れる。

 

「いててて……みんな怪我はない?」

「私は大丈夫〜…もーミノさんもう少し速度落として〜」

「園ちゃんも強かったような…」

「っはは、ごめんごめん。あとあたしも問題ない!」

 

陽灯が咄嗟に腕を伸ばして顔に地面がぶつかることを避けさせたのもあって特に痛みはなかったらしい。

自分のことを棚に上げてむすーとする園子に笑いながら大丈夫だと伝えると、全員が一人だけ何も言葉が返って来ないことに気づく。

 

「須美ちゃんは?」

「わ……」

「わ?」

「わ、わわわわわ…わた…わ、わたし…わ、わたしも……わたしは…へ、平気……」

 

陽灯が声を掛ければ普段の言葉遣いはなく、顔を真っ赤になっていてロボットのように震えながら返事する須美。

明らかに正常ではない。

 

「須美ちゃん!?」

「わっしー顔真っ赤だ〜」

「なんか湯気が見えるような……」

「ぷしゅー……」

「うわあああああ!? どうしたの!? 何があったの!?」

「須美ぃー!? 当たり所悪かったのか!?」

「はるるんが原因だと思うなぁ……」

 

目をぐるぐるさせてついには意識を手放す須美に陽灯と銀が慌てるが、園子は原因を察した。

一番陽灯に近いのは須美で、倒れた際にあと少しでも動けばキスしてしまうほどに近かったのだ。

心配第一で陽灯は自覚してなかったが、ただでさえ密着していた須美は限界を迎えたのだろう。

 

「俺!? 俺何かしたっけ!? ごめん、ごめんね須美ちゃん! 戻ってきてー!」

 

陽灯自身は何もしていないが、さっきまでの死闘が嘘のようで騒がしい日常へ戻すように樹海化が解けていった。

 

 

 





○継受紡絆/ザ・ネクスト
相変わらず無茶苦茶してるけど、みんなの言葉が答えを見つけるきっかけを与え、ついに心眼を会得して逆転までの道筋を作った。
”瞳の変化“が起きたようだが、その前に何らかの異常がその身に起きていたようで…?

○ザ・ネクスト
かつての”適能者“のように諦めない姿に心打たれ、共に立ち上がった。
陽灯が心眼を会得したので勝利したが、全く気にしなかった陽灯と違って一瞬とはいえ異常なほどの力が溢れたことに困惑してたりする。

○遡月家
原点は不明。
しかし突如頭角を現した”奇跡“とも言うべき家系であり、その血を引くものは誰一人例外なく才溢れている。
表面上は権力は低い方だが、裏では乃木家や上里家にも負けないくらいの権力があるとかないとか。
血を引いているのは澪であるため、最終的な決定権は彼女が握っている。
そのため、マジで陽灯のためなら放棄する気だった。
ちなみにあのあと、すぐに夜霧に報告、二つ返事で返ってきたため手続きを終えたらしい。

○ザ・ワン
またしても成長しており、ザ・ネクストと15mの差をつけている。
ザ・ネクストが土壇場で見せた力に危機感を感じて深追いせず一時撤退するほどに優秀な知能をしている。
今回は”アクエリアスの能力“に近いものを得ていたらしいが…?
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