【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】   作:絆蛙

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風邪引いて熱出てたのでしばらく執筆出来てませんでした。熱あると想像力が上手く働いてくれなかったです。

本編ですが、日常編スタートです。終わったらもう章の終わりに一気に行きます。予定はわすゆの一部回収したい日常編→銀→園子→須美の予定。
それはそうと陽灯くんってなんだかんだラッキースケベ体質あるんですよね、紡絆くんの時も発揮してたけど。やっぱりラノベ主人公じゃないか…リト先輩には全く敵いませんが。






「共有」

 

 

 

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 第 18 話 

 

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陽灯たちがバーテックスを討伐し、ザ・ワンを追い返した次の日の朝。

色んな書類が積み重なり、難しい顔をしている男性が一人。

黒い髪に黒い目、その目にはボストン型のメガネが掛けられている。

書類とパソコンをにらめっこし、かと思えば何らかの写真と思わしきものを見ている。

何らかの調べ物をしていると思わしき姿だが、突如ノック音が響く。

 

「入ってきてくれ」

「ん」

 

入ってきたのは腰にまで伸ばされた青みがかかった黒色の髪を持ち、ボサボサとなっている女性だった。

猫背で歩くという行動すら面倒そうな人物。

 

「ゆかりか…」

「はるはるじゃなくて残念だったねえ、夜っち」

「……」

 

入ってきたのは世話係の一人であるゆかりで、そんな彼女に不満気な顔を浮かべているのは陽灯の養父である夜霧だった。

 

「あっははは。表情モロに出てんじゃん、まあはるはるあまり寄りそうにないもんね。澪っちの方には行ってるみたいだけど」

「たまには来てくれるからいいんだよ。それに今はいいんだ。それよりも」

「はいはーいこれが言ってたやつ。どうする気なのさ、はるはるの血液だけじゃなくレントゲンまで撮らせて」

 

本題に入った途端揶揄う様子は消え失せ、パラパラと撮ったレントゲンと思わしき紙と採血管見せるように動かしながらゆかりの眠そうな目はスっと細められる。

それこそ警戒するように。

 

「心配しなくとも、調べるだけだよ。俺が望むのは陽灯が子供らしく育つ未来だ。けど澪の予感と俺の考えが正しいなら…いつか来る未来のために陽灯に残せるものは残さないといけない。何も知らないより知っている方がいつかの未来、力になれるかもしれないしね」

「これを見る限り……陽灯は普通じゃないからな」

 

悲しそうな目でモニターを見つめる夜霧の姿を見て、ゆかりは目を閉じる。

その意味がなんなのか知っているのだろう。

 

「…そ。聞くまでもなく、覚悟が出来てるみたいじゃん」

「ザ・ネクストを宿す陽灯を引き取ったんだ。それくらいの覚悟最初からあるさ。例え大赦だろうと神樹様や全員が敵に回ろうと陽灯を守り育てる覚悟だ」

「それもそっか。じゃなきゃ引き取るなんて悪手。

それにはるはるはヒーローだからね。いつだってヒーローの物語には起きてしまう出来事がある…何が起きるかなんて私にも分からない。神樹にも。

でも分かってるならいっか。危害を加えるつもりないみたいだし。

ただ私も警戒はしてるけど心構えはしときなよー? 夜っちも澪っちも武力はあまり強くなくて護身程度なんだし」

「分かってる。そういうキミは本当に陽灯を買っているんだな」

「言ったでしょ、彼はヒーローだって。私のヒーロー、私たちのヒーロー。そんなはるはるが私は一番好きなのさ」

 

いつも通りの眠そうな目に戻ると、ゆかりはへらへらと笑う。

ただ言葉に載せられた思いだけは本物で、陽灯のことを思っているのは夜霧にも伝わっていた。

それはまた逆も然り。

 

「さて、これは置いとくけど、何か分かったら教えてよ。はるはるのことなら興味は尽きないからね」

 

警戒心を解いたのかゆかりは紙と採血管を目の前に置く。

映し出されているのは骨とその中。

臓器の形など様々だ。

 

「そういう約束だからね、もちろんだとも。ただ…ゆかり。君にひとつお願いがあるんだ」

「お願い?」

 

要件は終わりだと言わんばかりに帰ろうとしていたゆかりは、足を止めて振り返る。

今までの中で一番真剣な表情を浮かべていて、興味が出たのだろう。

足を動かさず耳を傾けていた。

 

「何があるか分からないんだ、離れ離れになる可能性もあるからね。もし俺たちの身に何かあったら陽灯を頼みたい。ほら陽灯はよく無茶をするから。誰かが見ないと不安だしゆかりなら任せても問題ないだろう?」

「………」

 

ザ・ワンとザ・ネクストの関連性。

少なくとも調べた限り、青い発光体を追うように赤い発光体が()()()に地球へやってきて多くの人が死んだという事件があったことまで調べはついていた。

その中に、陽灯が居たことも。

大赦は知っており、その情報を手に入れている。しかも重要機密として扱うほどに。

その情報を得るだけで十分危険な橋を渡っているものだ。

 

「言われなくとも、はるはるには死んで欲しくないから。そのもしもがなければ、きっと良いんだろうけど」

「そうだな…それが一番だ。でも陽灯の秘密は多分簡単に片付けられるほど軽い秘密じゃなさそうだから」

「ま。任された。じゃ私はそろそろすーちゃんが帰ってくる頃だから愛でてくるよ〜」

「…ありがとう」

「へーい。ああ、そうだ」

「ん?」

 

扉のノブを掴んだところで、思い出したかのように止まる。

作業に戻ろうとしていた夜霧は顔を挙げた。

首だけ振り返るゆかりの表情は無表情で。

 

「生きてよ。はるはるやすーちゃんは大好きだけどこんな私に居場所をくれた澪っちと夜っちには感謝してるんだから。だからこんな危ないことだってしてること、忘れないで」

「…ああ。陽灯を一人に出来ないからね。あのまま育つのは危うい。誰かが導いてあげないといけない。守ってあげないといけない。それは子供じゃなくて俺たち大人の役目だ」

「…んふふ、はるはるにそれは難しいんじゃないかなー。はるはるは死んでも治らないよ、あれは一種の病気なのだよ。どうしようもなく、生まれた瞬間から。あのヒーローはね」

「…そうかも、しれないな」

 

言いたいことはそれだけだったのか、ゆかりは去っていく。

残された夜霧はモニターに映る、二つの高エネルギー体に紛れるように隠れていた()()()()()()()()()()()、そのエネルギー体である()()()()()()()()()()()が地球へ降ってきていた画像を見てメガネをずらすと目の間をつまむ。

傍にある三つの写真立てを見ると、太陽のような笑顔を浮かべる陽灯と澪と自身、陽灯が映る写真。全員が映る写真を見て、また調べに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---火薬のような音が響く。

ダミー音だが、勇者の動体視力を持ってしても目視するのがやっとなくらいの速度でボールが数十個も射出された。

その先にいるのは目隠しされた陽灯。

そんな陽灯は何も見えていないはずなのに、ボールが見えているかのように最小限の体捌きで少しの間隔しかないボールを全て避ける。

避けられたボールは壁に窪みを作り、空気が抜ける音だけが静寂な空間に響いた。

 

「……ふう」

 

残心。

隙も油断もない姿は、もう戦いを知らない子供の姿ではなかった。

離れたところにいる三人は、監督責任者である安芸の顔色を窺うように見つめると、安芸は一度視線を向け、組んでいた腕を降ろすと声を出す。

 

「そこまで」

 

終わりを知らせる声に陽灯は目隠しを取った。

機械は止められ、もうボールは来ない。目視出来る今なら不意をついても避けれるが。

 

「陽灯くん。貴方は自分の中で答えをちゃんと見つけたようね。私から言えることはただひとつ……合格よ」

「先生。ということは……」

「全員合格ね。訓練を終わりとします」

「っ…しゃー!」

「やった〜!」

「おめでとう、陽灯くん。お疲れ様」

 

最後だった陽灯が無事にクリアというのもあり、喜んでいると陽灯が歩いて帰ってきた。

すぐに須美が労いの言葉をかける。

 

「うん。でも俺一人の力じゃないんだ。みんなの言葉があって、居てくれたから身につけることが出来た。戦いだって三人が居てくれたから勝てた。みんなが居てくれなければ俺は勝てなかった」

 

昨日の戦いを思い出しながら陽灯は確信を持った表情で右手を見つめるとぎゅっと強く握りしめる。

力不足なのは自覚していた。昨日の戦いにおいて、陽灯は前々回と同じ力しか引き出せていない。

心眼に関しても、誰か一人の言葉でも欠けていたならば会得していたかどうか。

力を入れすぎず、目に見えるものだけを見ず、それの意味を知って、技術を知って、訓練の成果を発揮した結果会得したもの。

だから、と陽灯は区切ると、顔を挙げる。

 

「ありがとう」

 

そして今も燦々と輝く太陽にも負けないくらい笑顔を浮かべた。

須美も園子も銀も、そんな陽灯を見て顔を見合わせると一斉に頷く。

 

「困った時はお互い様だろ?」

「私たちもはるるんに助けられてばかりじゃ居られないからね〜」

「二人の言う通りよ、陽灯くん。私たちは…その……友達だから」

「…うん。そうだね、友達だ」

 

笑顔で返す銀と園子と、照れながら笑いかける須美に陽灯は表情を和らげさせると、銀がによによしながら口を開く。

 

「いやはや、しかし照れながらって須美は可愛いなあ」

「も、もう。からかわないで」

「いやいや。陽灯もそう思うだろ?」

「須美ちゃんのこと? うんすごく可愛いと思うよ?」

「へっ!?」

「む〜私は〜?」

 

話を振られたので、視線を向けながら空白を開けず答えると迷いが一切なかったのもあって須美は顔を真っ赤にする。

間に割り込むように園子は聞くと、陽灯は微笑ましげにしながら答える。

 

「園ちゃんも可愛いよー。というより、銀も含めてみんな可愛いと思うけどなあ。俺からするとみんな魅力的な女の子だよ!」

「えへへ〜」

「ぬおぉ……そ、そうだ。こういうやつだった……」

「銀、自分から自爆してどうするの…?」

 

ただ嬉しそうに抱きつく園子と違って、不意打ちを受けて顔を赤める銀だが、そんな彼女を見たお陰でちょっと冷静になれた須美は疑問に思ったことを口にしていた。

 

「そうだわ、そのっち」

「ん〜?」

 

そうこうしているうちに毒による影響はないのかとか新しく怪我してないかと心配する園子に大丈夫だと何度も答えている陽灯たちを見て、須美は言わなければならないことを思い出した。

 

「私、そのっちが隊長に選ばれたとき、私自身が選ばれなかったのは家柄のせいだと決めつけていたの」

「…うん」

 

合宿前の話のことだ。

おおよそ予想していたのか園子は驚きはなかった。

ただ陽灯は園子が家柄のことを気にしているのではと思わず声を出そうとして、銀が首を振ってるのを見て黙る。

 

「でも一昨日と昨日の戦闘で誤ちだと分かったわ。そのっちは観察力があって、ここぞというときの決断力と判断力。なにより閃きは誰よりも一番だって」

「私はここぞという時に迷いがあるし想定外のことが起きたら焦ってしまう時もある…特に陽灯くんが危ないって思ったときも感情に任せて動こうとしてしまったもの。そのっちだって、ううんもしかしたらそのっちの方が強く思ってたかもしれないのに自分の感情をコントロールして戦況を冷静に見極めていた」

 

陽灯とザ・ネクストの戦闘力は間違いなく誰よりも上だ。

どの戦いでも陽灯が居なければ厳しい戦いで、その陽灯を支えることが出来たのは間違いなく園子の閃きだった。

もちろん火力の高い銀や遠くから観察出来る須美が居なければダメだった。

 

「だからこそ思ったの。そのっち、貴女こそがこの部隊の隊長に相応しいと!」

 

家柄だと思っていたが、本人の素質によって選ばれたことを理解した須美は己を恥じ、彼女のことを心の底から認めることが出来た。

 

「わっしー…」

「実際いざって時はやってくれるんだよな」

「うーん? よく分からないけど喧嘩してたの?」

「いやどう見たってそういうわけじゃないだろ」

 

話についていけてない陽灯に苦笑いしながら答える銀。

そんな中で、須美は園子をじっと見つめていた。

 

(普段は私がしっかりとサポートしていけばいい話。そのっちの器量ならいずれ立派な隊長に…そう、私の役目は立派に支えることなのだわ)

「須美が熱い瞳で見つめているぞ園子」

「な、なんだか視線を逸らしちゃダメな気がする…。よ〜し見つめ返すぞ〜」

「???」

 

新たな使命に燃える須美と何故か見つめ返す園子は傍から見れば熱心に見つめ合っている。

未だに疑問符を量産している陽灯は放っておいて、突如がしっと園子の手を握った。

 

「はう〜っ?」

「そのっちは私が育てるわ」

「そ、育てる〜?」

「何があってそうなった!?」

「それと陽灯くん!」

「へ?」

 

蚊帳の外だった陽灯に矛先が向き、目をぱちくりさせる。

一体何を言われるのだろうと身構えていると。

 

「私頑張るから!」

「え? う、うん…須美ちゃんはいつも頑張ってると思うけど…?」

 

自己完結したようで満足気に笑みを浮かべる須美に対し、やっぱりよく分からないことを言われて首を傾げる陽灯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。

無事に家に帰って来れた陽灯は昨日少し居たのもあって、普通に部屋に戻ってきていた。

包帯を少し解くと、昨日よりかはマシになっているが回復はしていない。

流石に治癒能力が上昇していても、昨日負った怪我もあるため回復しきれなかったのだろう。

ひとまずやることもないため、部屋から出る。

 

「---です」

「まぁまぁ」

「?」

 

晩飯時まで暇潰すために適当に歩きながら誰か手伝える人いないかなと探しているとこの家の中でもよく喋る二人の声が聞こえた。

好奇心に従って、その扉を開けた。

 

「なにしてるの?」

「ひゃあああ!? 申し訳ありません! すぐに仕事を---」

「ぷっ、ふふふすーちゃん慌てすぎ〜って、ありゃ?」

 

誰かと誤解したらしき鈴が慌てて頭を下げながら謝罪するところを全く反省していないゆかりは笑っていた。

---下着姿で。

 

「おーいはるはるー? あれ?」

「…へ? 陽灯様?」

 

石像みたいに固まっている陽灯に近づいたゆかりが顔を手で扇ぐが、反応がない。

ただ名前を呼んだお陰で入ってきた人物が誰か分かった鈴は顔を挙げると、ちょうど陽灯が再起動した。

 

「ご、ごめん……」

 

やけに部屋の服が散らかっているが、着替えでもしていたのだろう。

罪悪感に苛まれながらすーっと消えようとした陽灯に、ゆかりがニヤリと笑うとその腕を掴んだ。

 

「ちょっ!?」

「まぁまぁ」

「何が!? ゆ、ゆかりさん引っ張らないで!」

「まぁまぁ」

「無視!?」

 

部屋に引き込もうとするゆかりに陽灯は抵抗するが、全然力は出せない。

当たり前だ、陽灯の力なら全力で引っ張れば人間なんて吹っ飛ぶ。力の調整は出来るが、残念ながら陽灯は人間を超えないギリギリの力といった細かい調整なんて出来ないのだ。

やれるとするなら自身の元の力のみ。

人間を超える力なら100⇔1000だったり100⇔500といった具合というべきか。

そしてまあ、いくら鍛えようとも力をあまり入れてなく、体重もあまりない子供である陽灯じゃ勝てるはずもなく。

 

「えいやー」

「うわあぁぁぁぁ!?」

 

全く抑揚のない声で勢いよく引っ張られ、陽灯はそのまんまゆかりに抱きしめられた。

顔面に布1枚越しに柔らかい感触が伝わる。

一瞬思考が停止したが、何をされたか理解した陽灯は離れようとする。

陽灯自身としては抱きしめられるのは別にいいが、状況が問題だった。

 

「おーくすぐったいよー」

「う……」

 

動くのは悪手だったみたいで、陽灯は動くという行動をやめた。

頭の中は混乱に満ちてどうすべきか分からない。力づくは選択肢からないのは陽灯らしいが、思春期真っ只中の子供より色々関心が薄い陽灯でも一応思春期の子供だ。これはこれで色々とまずかった。

無になろうとするが、柔らかい感触、濁す必要もなく胸に顔を埋めることになっているせいで出来ない。

とりあえず救難を出すように両腕をぱたぱた動かす。

 

「も、もう…ゆかりさんそこまでですっ。陽灯様はこちらへっ」

「ありゃ」

 

アイコンタクトは出来なかったが、その動作で助けを求めていると分かったようで鈴がゆかりから陽灯を守るように引っ手繰る。

すると、ゆかりはちょっと残念そうにしていた。

 

「いいですか、ゆかりさんっ。陽灯様は男の子なんです。いくら小学生でもあと半年ほどもすれば中学生。多感な時期ですからこういう刺激することはよくないと私は思うんです。確かに陽灯様はかっこよくて優しくて、可愛いだけでなく最近ますますと男らしさに磨きがかかってきて魅力なのは当然のことですから気持ちは分からなくもないですけど、陽灯様だって何も思わないわけじゃないんですよ。それはもう同年代の方々や他の男性よりかは色々と関心が薄いとは思いますけど、ちゃんと異性に意識する関心はありますからもっと節度を持ってですね…って聞いてます?」

「やっぱ胸の差かあ。私も澪っちくらいはあるんだけど、すーちゃんは別格だねーうんうん」

「聞いてませんよね!?」

 

長々と陽灯のことを語ろうとしていたが、全く聞いてなさそうな様子に気づいて聞くと、ゆかりは自身の胸を寄せながら納得したように頷いている。

ゆかりの視界に映るのは豊満な胸。自身は平坦ではなく少し出ている程度だが、初めて見た時に年上としてのプライドがちょっぴりダメージを受けた記憶が思い起こされる。それほどコンプレックスでもないので、本当に対して気にとめてないが。

そのことを考えているなど露知らず、話を聞いてない彼女の姿に鈴が不満そうな表情を浮かべると、ゆかりは苦笑しながら指差した。

 

「いやほら、はるはるの意識落ちてるし」

「……え?」

 

指差された方を見れば、鈴の胸の中で意識を完全に落としている陽灯が居て、呼吸が出来なくなっていたのが原因だろう。

それだけではないとは思うが、引っ手繰ったときにそのまま抱きしめてしまったままだった。

 

「陽灯様? 陽灯様! 陽灯様ぁぁぁぁ!!」

「すーちゃんも私のこと言えないね〜」

 

げらげらと楽しそうに笑うゆかりと意識が完全に落ちている陽灯を慌てながら心配する鈴と、ちょっとしたカオスな現場になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

陽灯が意識を取り戻したのは数分後で、その前にはゆかりも鈴も既に服を着ていた。

 

「うう……本当に申し訳ありません…お見苦しいものを見せてしまっただけでなく陽灯様の意識を奪ってしまうなんて……」

「い、いいよ……ほら! 元々悪いのはノックせず入った俺だし。それにその、全然…うん鈴さんは素敵だから……ごめん……」

「どっちもどっちだねー」

「「ゆかりさんには言われたくありません!(ないよ!?)」」

「あは、相変わらず仲良しなことでよかったよー」

 

見事ハモった陽灯と鈴に対し、ゆかりはただ笑うだけだ。

反省の色は何一つ見られない。

 

「いやーはるはるが恥じらう姿ってレアだからねぇ。思わずからかいたくなっちゃった」

「そ、そりゃ……いくら俺でも意識する時は意識するよ…ゆかりさんも鈴さんも素敵な人だし…」

 

忘れたわけではなく、言っていてさっきのことを思い出したのか陽灯の顔が珍しく赤くなる。

普段園子にくっつかれておいて平気そうにしているが、あれはただ単に何も考えてないのと嬉しそうにする彼女を見て嬉しい気持ちの方が強いからである。もし意識させられるような行動をされたら無になるしかない。

今回は事故とはいえ下着姿を見てしまったわけで、刺激が強すぎたのもあるだろう。それも同年代ではなく、明らかに成長した女性らしい体つきをしている二人のを見たのだから。

 

「そかそか、かわいいなー襲いたくなる」

「おそっ…!? た、食べても美味しくないよ…?」

「そっちじゃないんだけどねぇ、相変わらず純粋だ」

「仮に陽灯様が理解しててもダメです。小学生は流石に犯罪ですよ」

「ちぇー中学生まで待つかなー」

「それもダメですからね!?」

 

意味は通じていなかったが、鈴は高校生なのもあって理解しているようで注意するとゆかりはわざとらしく唇を尖らせる。

そんな二人を見て、陽灯は疑問を口にする。

 

「ゆかりさんは…ううん鈴さんも全然平気そうだね。その、嫌じゃなかった? あまりよく分からないけど、異性に見られるのは嫌って人も中にはいるらしいし…」

「私は全然? はるはるだし、見たいなら見せてもいいよーはるはるが成長するかそういった目で見られたなら、恥じらいが出るかもだけど」

「そうですね…私も陽灯様になら見られても問題ありません。陽灯様って無害というか…分かりやすく言うならば女の子って視線には敏感でして、邪な気持ちを感じませんからね」

「これが大人の余裕…?」

 

わざとじゃないにせよ、事故でも見たなら邪な感情を抱いてもおかしくないのに先に抱いた感情が罪悪感という時点で陽灯は少しズレている。

その後に意識したのでズレているだけなのだが、濁す必要もないので言うと性的な目を向けなかったのが大きいかもしれない。

ただ全く気にしてない二人を見て陽灯はちょっぴり”年月の差“を羨ましく感じた。

 

「そうそう、よゆよゆー。まだまだ子供だからねー」

「同年代の方々に比べれば大人びている部分は大人びていると思いますが、今の陽灯様に手を出そうものなら世間体的にも色んな意味でダメですしね。高校生か、もしくはそれ以上に大きくなった時は私たちも意識してしまうかもしれません」

「子供か…大人になりたいなぁ…。そうしたらもっと手が届いてたくさんの人を笑顔に出来ると思うんだ。ゆかりさんの言う通り、子供だから…出来ること限られちゃう」

「はるはるらしい理由。ままゆっくりと大きくなっていけばいーよ。大人って色々面倒臭くて大変だから」

「大人になるって何かを押し殺すことって亡くなった両親も言ってましたし大変だと思います。しかし大人ですか…むむ…陽灯様が大きくなったら素敵な殿方になることは間違いないでしょうけど…まだ子供の姿も見ていたい…でも成長した姿もみたい…わ、私はどうすれば…!?」

「お、落ち着いて鈴さん。そんなすぐに大きくはなれないから!」

 

大きくなりたい理由が誰かのため、と彼らしい言葉だったが、鈴が今日一番冷静さを失って苦悩していた。

そんな彼女に至極最もなことを口にする陽灯だが、鈴は陽灯の両肩を掴む。

 

「陽灯様!」

「は、はい…?」

 

勢いに押し負け、思わず丁寧語で返事してしまう。

それほど鬼気迫る何かがあった。

 

「私は陽灯様が大きくなろうともずっと、いえ一生陽灯様のお傍に居ますからね! そして成長を一番お傍で見守らせてください!」

「う、うん…あの、鈴さんも自分の幸せはちゃんと掴んでね…?」

「大丈夫です、私の幸せは陽灯様の存在ですので」

 

一緒に居るという発言に関しては純粋に嬉しく思うが、陽灯としては幸せをちゃんと掴んで欲しいと思っていた。

そう思って発言すれば、真顔ですぐさま返ってきたが。

 

「いやいやふつーに重いよ、すーちゃん。けどまあ、別にいーんじゃない?」

「いいのかなぁ…」

「すーちゃんがそうしたいみたいだし、いざとなったらはるはるが幸せにすりゃいーの。あ、その時は私も養ってね」

「ゆかりさん…流石に小学生に養って宣言はどうかと」

「告白紛いのことをしたすーちゃんに言われたくないよ!?」

「あ、あはは……うん、頑張るね。鈴さんやゆかりさん、みんなが幸せでみんなが笑顔で生きていけるように。そのためにも俺は戦ってるんだから」

 

将来は、未来なんてどうなるか分からない。

だからこそ幸せにするだとか、約束だとか、責任の取れない発言はせず頑張るとしかいえなかった。

そう言ったところはピンポイント気遣える陽灯に二人は顔を見合わせると、笑顔を浮かべる。

 

「期待してますね、陽灯様。代わりに陽灯様のお世話は私精一杯頑張りますので!」

「うんうん、ただ無理はしちゃいけないぞー言っても無駄だろうけど」

 

対して陽灯は笑顔から一転、ゆかりの言葉が聞こえた時にはすぐさま目を逸らした。

せめてその場凌ぎの嘘をつく努力すらないのは彼らしいと言うべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唯一確実に家族が揃う時間である夜。

晩御飯を食べ終え、少しの談笑をしていると来客を知らせる言伝があった。

 

「何か予定あったかな…」

「ふふ、すぐに分かりますよ」

「…?」

 

特にこれといったものがなかったはずと夜霧は不思議そうにすると、澪が含みのある言い方をして、知っているはずの陽灯は何故か疑問符を浮かべていた。

すると傍に控えていた鈴が小声で耳打ちする。

 

「陽灯様、一昨日裕香様が来ると仰っていたじゃないですか。その件かと」

「……あぁ! えへへ、色んなことあって忘れちゃってた」

「はう…そんな陽灯様もまた可愛らしくて……良いです」

「う、うん…?」

 

訓練だけでなくバーテックスやザ・ワンとの戦いといった濃い一日と半日を過ごしたのだ。

元から知能が低い陽灯なら忘れてしまうのも仕方ないだろう。

そうこうしているうちに影が見えていたドアが開かれる。

黒紫の長い髪を靡かせ、空色の綺麗な瞳を持つ女性。

その姿がはっきりと見えた瞬間、がたっ、と椅子が動く音が響いて陽灯が視線を向けると夜霧が驚いたように立ち上がっていた。

 

「いらっしゃい、裕香ちゃん」

「お邪魔します、澪先輩。陽灯くん。それと---」

 

来訪を歓迎する澪と陽灯に対して柔らかい笑みと優しい目を向けた裕香だが、次の刹那夜霧に対してだけは刺すような目を向けていた。

 

「久しぶりかしら、夜霧」

「ゆ……裕香……」

 

威圧感に押されてか、珍しく狼狽える夜霧の姿を見て陽灯は不思議そうに夜霧と裕香に幾度も視線を移し替えながら見ていた。

 

「ど、どうして君が……?」

「分からない? 言いたいことがあったから、澪先輩と陽灯くんに場を設けてもらったのよ」

「二人が…?」

 

視線だけでなく言葉も何処か刺々しく、夜霧は澪と陽灯に視線を向けると、澪は説明する。

 

「先日、陽灯さんのお陰で裕香ちゃんと仲直り出来ましたから。もしかして夜霧さんは嫌でしたか?」

「い、いやそんな。それは全然いい、いいのだが……」

「ぷ、くくく……!」

「ゆ、ゆかりさん…!」

 

悲しそうな表情を浮かべた澪に慌てる夜霧。

思わず口を抑えながら笑うゆかりを鈴が窘めようとしていて、陽灯はやっぱり不思議そうだった。

 

「ひ、ひとまず彼女が来た理由に関しては分かった。それで…要件は一体…?」

 

冷静さを取り戻した夜霧が話を進めると、裕香も口を開く。

 

「まず一つ文句を言わせてもらうわ。

もっと陽灯くんのことを見てあげなさい一昨日彼は養父のあんたではなく私に相談しにきたのよ」

「相談……そうなのか?」

 

今初めて知ったと言うように陽灯を見ると、陽灯は自分に聞いているのだと気づいたようで答える。

 

「あ、うん裕香さんにお話聞いてもらったんだ。お陰で自分なりの答えを出せたよ!」

「そうか……それはすまなかった」

「まったく…引き取ったなら今はあんたが親代わりでしょ。陽灯くんだってまだまだ子供なのよ。本当ならもっと甘えてもいい歳頃だし、もっと時間を作ってあげなさい。逆に子供に甘えてどうするの。距離感的にも澪先輩はかなり近いから接しているのは分かるけど、陽灯くんが引っ込み思案だったなら今頃コミュニケーションなんか取れてないでしょう」

「うぐ……」

「い、いいよ裕香さん。俺全然大丈夫。鈴さんやゆかりさん、那由さんに他にもたくさん相手してくれる人はいるし…」

「ごめんね、陽灯くん。これは一人の親として大人として言わなくちゃいけないの。陽灯くんが気にしてなくとも、客観的に見れば今のこいつはダメな親。子を放ったらかして仕事を優先する親がいい親と言えないでしょう。生活が苦しいならまだしもね」

 

大人という言葉を使われれば、子供である陽灯は何も言えなくなってしまい、庇うことは出来なくなる。

ただまあ、陽灯自身も夜霧がどんな、何の仕事をしてるか分からないのは事実だ。

仕事しているくらいしか知らないのだから。

 

「というか、あんたは昔からずっとそう! 他人の気持ちを全く考慮せず人の気持ちに鈍いくせに面倒事に突っ込むわ。無駄な勘違いをさせるわ、出来ないと分かってることをやろうとしたり今まで私がどれだけフォローしてきたと思ってるの?今回だって私が居たから良かったけどもし陽灯くんが悩みを抱えたままずっと黙っていたらどうするつもりだったの?陽灯くんは他の子供よりも分かりやすいんだから明らかに様子がおかしいことに気づけたはずよ。それに気づけなかったということはちゃんと時間を作れてないことに他ならないし---」

「そ、そこまで言わなくてもいいだろ。それに裕香だって自分の気持ちを押し殺して辛いことも嬉しいことも我慢して結局自分の中で押しとどめようとするじゃないか。一度決めたら全然曲げないし明らかに危なそうな人や腕っぷしの強い相手にも突っかかるし、それを止めたり頑固な部分をどう解して意見を通したらいいのか何度も考えさせられた俺の気持ちだって---」

 

一度話し出したら止まらないのか長々といつも以上に感情を表に出して、言い合いが始まった。

そんな二人の姿は喧嘩にしか見えず、アワアワ、と慌てる陽灯は鈴の裾を引っ張って耳打ちする。

 

「ね、ねぇ…あの二人って仲悪いの?」

「どうでしょう……?」

「あーべつにそういうんじゃないよー」

「え?」

 

鈴も分からないようで困惑した様子だったが、ゆかりが知っているような様子で答える。

明らかに喧嘩にしか見えないため、どういうことなのかと混乱する。

 

「ああ、陽灯さんと鈴さんは知りませんでしたね。裕香ちゃんと夜霧さん、二人は幼馴染なんです」

「えぇっ!?」

「おさっ…だからなんというか…気心が知れた関係なんですね」

「逆に幼馴染だったからこそ余計に拗れるんだよねぇ」

 

まさかここで関係性が繋がっていたとは予想もしてなかった陽灯と鈴は驚くが、ゆかりは澪を見ながらやれやれと言いたげだった。

ゆかりの視線に澪は首を傾げていたため、ゆかりは伝わってないかとため息を一つ零すとちゃんと言葉で伝える。

 

「はるはるのお陰で解決したみたいだけど?」

「その件でしたか。その件に関しては不甲斐ないばかりです。陽灯さんが居てくださって本当に助かりました」

「そ、そのことは全然……。でも幼馴染、かぁ…思い出すな」

「陽灯様にも居るのですか?」

 

幼馴染と聞いて前の家に居た時のことを思い出した陽灯は目を瞑って記憶から引っ張り出しながら言葉を選んで話す。

 

「うん、とても綺麗な子だったよ。ちょっと引っ込み思案だけど…誰かを思える優しい子だった。今どうしているかは分からないけどね」

「はるはるの幼馴染ねぇ…ふふん、あやしいなー」

「え?なにが?」

「んーん乙女の勘。男、特にはるはるには言えないね、もうちょっと鋭くなろーね」

「あう」

 

何を言いたいか分からないでいると、ゆかりからデコピンを受けてますます理解不能になる。

が、どうやらその数秒だけで澪も鈴も察したようで苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

「はぁ、はぁ…分かった、分かった。このままでは終わりそうにない。もうやめよう」

「ふぅ…そうね話が進まないしこの辺りにしとくわ。ところで澪先輩。こいつとはただの腐れ縁ですからね」

「あら…聞こえちゃった?」

 

このままヒートアップしても意味が無いと悟ってやめたところは大人だが、言い合いをしながらも聞こえていた裕香は澪に鋭い目を向けると彼女は誤魔化すように笑った。

 

「可愛いですけど聞こえてます。陽灯くんも別に仲悪いんじゃなくて、私とこいつの関係がこんな感じなだけなの。心の底から憎いと思ったことは私から澪先輩を取ったことしかないわ」

「あるんだ……」

「………」

 

澪に呆れた目をしつつも、陽灯にはやっぱり優しい目を向ける。

ただ夜霧にだけは指差したりと再び睨んだりと雑に扱っていて、当の本人は困ったように眉を八の字にしていた。

 

「はい。そろそろ止めようかと思っていたところでしたが、収まったので本筋に戻りましょう。裕香ちゃんがここに来たのは他にも要件があるのよね?」

 

パン、と手のひらを合わせて視線を集めると逸れていた話題を修正する。

すぐに裕香や夜霧も真剣な顔に戻り、場の空気についていけてないのは陽灯と鈴だけだ。

ちなみにゆかりは普段通り眠そうにしている。

 

「ここに居る人たちにはお役目の件は?」

「一応全員に伝えている。何があるか分からない以上、到底話すべきでは無いこと以外は話すようにしているからね」

「だったら話は早いわね。まずザ・ネクストの件については陽灯くんになんの影響も与えてないことから対象から除外しましょう。味方だと断定した方が早いでしょうし」

「そうだな、陽灯はどうだ?」

「えっと…巨人さんは味方だよ。ずっと、ずっと俺のことを助けてくれたから。巨人さんがいたから今日まで戦ってこれたんだ」

「陽灯さんがそう言うのでしたら、信じましょう。それに…陽灯さんにとってお友達なのでしょう?」

「! うん! 大切な友達!」

「はるはるらしー」

 

一応一番知ってるであろう本人に聞いたようだが、言い切ってみせる陽灯に和やかな空気が流れる。

くしゃくしゃと髪をぼさぼさにされ、犯人であるゆかりが抱きしめるようにくっつく---いや楽にしたくてただもたれかかっただけだった。

 

「それで他に何か分かっていることは?」

「バーテックスは言うまでもないだろう。一番問題なのはザ・ワンだが…まだ分からないことばかりだ。ただ報告書を見た限り成長速度が突出しすぎている。ザ・ネクストや陽灯、勇者よりも進化が速い。

なおかつ陽灯が一番分かっているようだが、ザ・ワンはバーテックスの能力を使用出来る可能性が高い。最初は持っていなかったように思えるが…」

「バーテックスの能力を……?」

「取り込んだ…といったところでしょうか」

「そうだと思う。あとは三年前に飛来したこと。その時にザ・ネクストと交戦した記録が大赦の中に残っていた。俺たちも含め、事件になっていたり耳にしてもおかしくない出来事なのに何故か記憶にはないが…地球の生物とは思えない以上、現れた時期は必ずあるはずなのだから、間違いないだろう。

確か、夏の花火大会が終わったすぐのことだったようだな」

「……!」

 

出てくる情報は陽灯が知っているものばかりだが、ここまで知られているとは思ってなく少し驚いた表情を浮かべていた。

少なくとも陽灯の経験上、三年前のことは誰も覚えてなかったのだ。覚えていたのは自分とそのうちに宿る巨人、ザ・ワンと神樹様くらいだと思っていたのだから。

バーテックスのことは、報告に上がっていたのだろう。

 

「分かってることは少ない…か。夜霧がそれならこれ以上探るのは無駄ね」

「まぁ上層部はもしかしたら知っているかもしれないけどね…」

「…はるはる、言いたいことがあるなら言ったらー?」

「陽灯さん?」

「あ…えと……」

 

話に集中していたからか、ゆかりの言葉で澪も気づいたようで陽灯は僅かに悩むが、答えることにした。

 

「分からないけど…知ってる人は少ない…と思う。俺が初めてザ・ワンと会ったのは三年前だけど…何故か誰も覚えてなかったから。ザ・ワンのことは……たぶん。少なくとも…その人たちも真実までは分からないんじゃないかな…って」

「それって…陽灯くんも居たってこと?」

 

陽灯自身もザ・ワンのことはよく分かっていない。

しかしこの場の誰よりも知っているのは間違いなく彼だろう。現場に居合わせてなければ言えないことを言った陽灯だが、裕香の疑問に夜霧が頷く。

 

「…ああそこまでは調べられた。しかしやはりそうなのか。表向きでは巨大隕石の落下ということにされている。情報規制は間違いなくしただろうが……そうなると何者かの介入があったと見るべきか」

「きな臭いわね…決めた。やっぱり私がやることはひとつみたい」

 

裕香が一つため息を吐くと、真剣な顔で澪を見つめる。

彼女はいつの間にか移動していて、陽灯の頭を撫でていた。

 

「…澪先輩」

「どうしたの?」

 

何故撫でられているのか分からずに混乱している陽灯とそんな陽灯に優しい笑顔を向けている澪。その横でやけにスマホの連射音が聞こえるが、色々とツッコミを入れそうになるのを抑えて真面目なことを伝える。

 

「澪先輩に頼みたいことがあって…大丈夫ですか?」

「ええ、何でもは無理だけど裕香ちゃんの頼みごとなら頑張るけど……」

「ならひとつ、私を大赦に推薦してくれませんか?」

「推薦?」

「一度辞めた身ですので、いきなり入るとなると元通りの地位に戻るまで流石に全力を注いでも1ヶ月ほどかかってしまいますし…仕事だけに専念は出来ませんから時間が足りません」

 

言うならば再就職するようなものだ。

いきなり相応の地位に付けられることなんてフィクションかよほどの特例くらいだろう。

例えるならそう、その身に強大な力を宿している、とか。

 

「いや普通は1ヶ月じゃ出来ないのだが……澪に努力だけでついていけていた裕香には関係ないか…」

「裕香さん、すごい人?」

「まぁ昔からこういうやつなんだ。裕香は達成するまで逃げずに努力をする。陽灯にも経験があるかは分からないが…普通の人は”才能の差“というのを感じてしまう。差はあれど生まれた才は誰にも備わっているものだ。陽灯なら運動神経に長けているようにね」

「どれだけ努力したって、天才が努力すればそうじゃないものは一生追いつけない。してなくとも、劣等感を感じて無理だと感じていずれ諦めてしまう。才能がないだなんて言葉は間違ってないだろう。努力も立派な才能で、彼女はその才能が人一倍あったってわけだ」

「そういうこいつも余裕ぶってるように見えるだけで本当は負けず嫌いなのよ」

「そうなんだ! うん、でもちょっと分かるな。俺は天才ってわけじゃないしダメダメな部分も多いと思うもん。みんなが居てくれるから俺は俺のまま生きていけるから」

 

才能の差、というのは陽灯は自覚したことはない。

それでも陽灯自身は自分が頭は良くないことは理解している。頭で考えるよりも動いてしまうし、まず集中が出来ない。

誰かのために動きたくて、自分のことは疎かになってしまってしまうから。

 

「なんだか視線が……少しこそばゆいかも」

「裕香ちゃんの凄さを知れたからじゃないかな。ふふふ、陽灯さんはとても純粋な方ですから、どう思ってるか分かりやすいです」

 

きらきら、と擬音が鳴ってそうな瞳で裕香を見ていて、目から凄いと言っていることが伝わってくる。

何より、その顔はとても嬉しそうだった。裕香もだが、夜霧のことも知れて嬉しいと言いたいような。

 

「でも裕香ちゃん。わざわざ推薦は必要ないと思うの」

「え?」

「こんなこともあろうかと、私が勝手に籍を残してたから。少し文を書く必要はあると思うけど、すぐに戻れるわ」

「…澪先輩」

「偉いでしょう?」

「いや何してるんですか。私ちゃんと退職手続きしたと思いますけど…」

「……えへへ」

「はるはるとすーちゃんはまだ聞かないようにねー。きたないよー澪っち。わるい大人だー」

「?」

「え?えっと……?」

 

意味が全く分かってない陽灯はともかく、鈴の両耳を抑えてゆかりは聞こえないようにしていた。

年齢的に理解出来ない陽灯と高校生の鈴は知るべきではないと、なんだかんだ面倒そうにしつつも行動している彼女は二人を思いやっているのが見て分かる。

 

「ちゃんと仕事は私がしてたからいいんですっ」

「そーいう問題じゃないと思うなあ」

「同感です。まぁ…今回に限ってはむしろありがたいですけど」

 

二人から呆れた目を向けられるが、澪は子供のように拗ねるだけだ。

でも今回に限ってはそれが正しい判断だったため、裕香はすぐにフォローを入れていた。

 

「復帰するのはいいのだが…その…子供は大丈夫なのか? そもそも何故大赦に…?」

「その辺はちゃんとするから大丈夫よ。緊急時には抜けるかもしれないけど…で、私が大赦に戻る理由だけど……簡単な話」

 

継夢のことは夜霧たちも知っているみたいで心配していたが、裕香もちゃんと考えていたらしく、大赦に戻る理由について話す前に陽灯に一度視線を向けると、すぐに夜霧を見る。

 

「大赦内部で陽灯くんのことをよく思ってない人たちが半分、いえそれ以上にいるでしょう」

「それは…まあ……ザ・ネクストが正体不明で…陽灯のことを知らない人の方が多いからな…」

「信託で神樹様のお言葉があったからこそで、巫女から伝えられただけですから。陽灯さん自身をよく思っている方は二割か三割ほどでしょうか。実際に会った人、見た人、友人から聞いた人、救われた人、そういった方たちくらいでしょうね」

 

ザ・ネクストを宿す存在は、なんの力もなく何も知らない人から見ればザ・ワンと同種の危険な存在。しかも身体能力が変身せず勇者に匹敵するのだ。

そもそも飛来したのが同時期なのもあって、地球人から見たら宇宙人と怪獣が身勝手に地球で暴れているようなものだ。

神樹様の言葉がある程度陽灯の立場を緩和しているとはいえ、それで全て解決するなら世の中甘くは無い。

いくら崇拝されている存在の言葉はあれど、巫女という立場の者でなければ聞けない。つまり、全員が直接聞いた訳ではないのだ。

 

「はい。これは”もしも“の話ですが、仮にザ・ワンを倒したとしたら次に危険な存在と扱われるのは陽灯くんです。バーテックスを倒すための当て馬にされるか、狙われるか、若しくは何者かが排斥しようとしたりするかもしれません。今はザ・ワンの対抗策として触れないようにされているだけでしょう」

「何も知らない人にとって陽灯くんは敵にも見えるし、ザ・ネクストは似た危険な存在。どうせ夜霧もやってはいたんでしょうけど陽灯くんの評判は悪いままだと思うから、誰かが少しでも変える必要がある。それに大赦に味方が居た方がいずれ陽灯くんの力になれる可能性もありますから、私は陽灯くんが大人たちの標的になったり辛い思いをしないようにしてあげたいので」

 

その言葉の裏には恩返しという意味も確かにあった。

裕香にとって陽灯は子供だけでなく自身も救ってくれた存在。

陽灯は気にしないとしか言わなくとも、今度は力になりたいと思うのは自然だろう。

それに実際陽灯のことを”バケモノ“と思っている者は少なくない。

驚異の回復速度、身体能力、反射神経、五感、変身能力。

そんな存在が敵になったら、なる前に排除すべき、と過激な考えを持つ者が現れる可能性は0ではないのだから。

ただでさえ、バーテックスがいるのだ。

 

「裕香ちゃんが力を貸してくれるなら心強いし私は賛成ですね。芳しくないのは確かですし、色々と調べ事も多いですから。私は仕事の量的になかなか大赦に足を踏み入れることが出来ませんし…少しではなく長く居てくれる誰かが必要かと」

「そうだな…俺も俺で調べるものがあるから、どうにも疎かになるし俺は自分が苦手って自覚はあるから裕香の方が適任か…」

「何があるか分からない以上、未来のことを見据えながら動くしかないもの。私が居れば陽灯くんに何かあっても支援できるかもしれないし、陽灯くんの友達の力にもなれるかもしれない」

 

現在のことだけでなく、未来のことを考えながら取るべき行動を定めた。

それが大赦に復帰する必要性というやつなのだろう。

 

「勇者たちか。ふむ……なら任せてもいいか?」

「私からもお願い」

「はい」

 

話は着いたらしく、全く話に入れてなかった陽灯は首を傾げるしか出来ない。

ただまぁ、自分のために動いてくれるということだけは理解したようで嬉しさ半分、申し訳なさ半分といった表情を浮かべていた、

 

「話は終わり、ですね。では裕香ちゃん。今日はお泊まりを---」

「いきなり言われても無理です。継夢も待ってますし帰ります」

「じゃ、じゃあ連れてきて…」

「時間考えてください。今日は帰るので、また後日」

「むう……」

「まあまあ…」

 

不満そうにする澪を夜霧が落ち着かせる。

そんな澪に苦笑しつつも、裕香は立ち上がって帰る…のではなく陽灯の傍に寄ると背を合わせる。

 

「裕香さん?」

「陽灯くん。どれだけ力になれるかは分からないけれど精一杯頑張ってみるから、陽灯くんは自分のやりたいように動いてね。子供の尻拭いをするのは私たち大人の役目だから。失敗してもいい。間違えてもいい。その度に私が、私だけじゃなく澪先輩や夜霧、ここにいるみんなが貴方を支えるから」

「裕香さん……」

「ですよね、澪先輩。夜霧」

「はい、私たちは何があっても陽灯さんの味方ですから」

「全てを敵に回したとしても、守るよ」

「澪さん…夜霧さん……」

 

陽灯にとって人そのものが守りたい存在で、自分のことをどう思われていても気にしていない。

それでもこうやって味方してくれて、言葉をくれることに嬉しさを感じないわけではなかった。

ひとりじゃないとそう思えるから。

 

「ありがとう。俺も俺でみんなを守れるように頑張る!」

 

そう笑顔で告げた陽灯は飾り気のないもので、それが分かっているからか笑顔で返される。

もう何も言う必要はないと裕香は立ち上がると、澪たちに向き直る。

 

「それでは、私はここで」

「気をつけて帰ってね」

「近くですから大丈夫ですけど、そうします」

「後で裕香にも俺たちがわかっている限りの情報をまとめたものを送っておこう」

「ありがと。またね陽灯くん」

「うん、またね裕香さん。今度は継夢くんにも会いに行くよ」

「ふふ、あの子にも伝えておくわね」

 

最後に一言だけ会話をした裕香は頭を軽く下げ、踵を返して去っていく。

それを見届けると、ほんの少し話してから自然と解散となった。

 

 

 





遡月陽灯/ザ・ネクスト
陽灯くんは割と年上に弱い。多分このまま成長してたら年上がタイプになってたかもしれない。
ただ紡絆くん(現在)は前世が含まれて変化してるので、特にそういうのはない。
そもそも先に来る感情が罪悪感→女性に対しての意識→申し訳なさの時点で既におかしいとは言ってはいけない

○鈴
時折ポンコツではあるものの、暴走しなければ常識はかなりある。
陽灯に対して一生をかける発言したり告白紛いのことをしたりと本気で言っているので陽灯を大切に思ってるのは間違いない。
実は両親が他界しており、一人暮らし。ただ陽灯のお陰で人生楽しそうだし幸せそう

○ゆかり
普段の言動からは考えられないほど色々と知ってそうなのびのびとした謎の多い女性。時折真剣な時は鋭い目と真面目な顔をする。
何もかも面倒だし眠いと思っているし態度にも出しているが、澪と夜霧に対する感謝と陽灯と鈴を想う気持ちだけは本物。彼女にとって鈴と陽灯は何物にも代えがたい大切な存在。
ちなみに襲ううんぬんかんぬんは本気で言ってる。
彼女曰く、陽灯は『ヒーロー』であり、生まれながらのヒーローらしい。

○遡月夜霧
何かと色々調べている。
誰も覚えてないはずの三年前の事件の他、陽灯に関して調べたり赤と青の発光体以外の存在を知ったり…と澪の夫なだけあって無茶苦茶優秀。
何かを悟っているような様子はあるが、陽灯の未来をよく考えている大人であり、彼を子供として見ている人。
実は裕香とは幼なじみ。

○遡月澪
子供っぽい部分は子供っぽく、普段の誰にも優しい態度からは考えられないが割と自身が大切だと思う周りのためには権力を使うことは一切の躊躇いがないタイプ
怒らせたら怖い

○八雲裕香
澪が生まれながらの天才なら、彼女は人の何倍も努力して追いつく努力の天才。
夜霧に対してだけは口も悪く敵意は凄まじく、何もかも刺々しい。
その原因は主に澪を取られたことが原因らしい。澪と関係性が拗れた原因は夜霧が相手というのもあったようだ。
ただ幼なじみとして気心を知れた仲というのもあり、本音で言い合える関係性。
陽灯にだけは子と自身を救われた経緯から異常に優しく、澪に対しては厳しさはありつつも大切に思っている。
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