私の前世が原案マンハッタンカフェだった件 作:■■■■
──目が覚めたら自分の前世に気付いてしまった件について。
前古未曽有の衝撃の真実にもはやハハッと乾いた笑いしか出てこない。傍から見れば目覚めて開口一番何言ってんだって思われるだろう。だが待って欲しい。これほんと私悪くない。
静まっているせいで無駄に反響する保健室が最早恨めしい。ちょうど訳あって私が横になっているベッドの隣に現れた彼女──マンハッタンカフェにも困惑させてしまっただろう。
「あの、大丈夫そうで何よりです……。まさか、いきなり階段から……転げ落ちるなんて……」
「あ、うん、ホント心配かけてごめんね」
「本当に……よかった。……
カフェに『トレーナーさん』と呼ばれて、またハハと笑いが零れてしまった。カフェの眉を下げさせてしまった。ごめんほんと急に不審者になって。
でも明かされた真理がね、目の前の君に密っっっっ接に関係しててこっちも大困惑なんだよ……
まず言っていい?
(どうして! 私の! 前世が! 原案マンハッタンカフェなんだ!!?)
そう、私は転んで頭を打った拍子に前世があった事を思い出してしまったのだ。
頭もイってんじゃねえかって思ったよね。分かってる。ちょっと自分でも意味不明なの分かってるから整理させて欲しい。
何を隠そう私はマンハッタンカフェ担当のしがない一般トレーナーだ。そこは間違いない。ただそこに、よく分からない同姓同名の肩書きが増えただけだ。まじで何なんだよ。
ああ、私前は
(何なんだろコレ……根拠は勿論、納得もないのに常識みたいに刷り込まれてんな)
別に私が何か特別な出で立ちなわけでは無い。この中央トレセン学園にトレーナーとして就職する為それなりに頑張ってきたが、割とどこにでもいるような人間だ。
というか情報も何も、一行で片がつく自分が薄っぺらくて笑えてくるな。唯一、人生の中で普通と違うと言えるのは、このマンハッタンカフェの担当になれたことだ。
マンハッタンカフェ。
自分にしか見えない不思議な『お友達』を追い越す為に、自分やライバル達と共に三年間走り続けてきた大切な相棒だ。
彼女とそれを取り巻くすべての事象が複雑怪奇極まりないが、彼女の優しさに触れればみんな慣れてくる。
最近の彼女は後輩たちに慕われ、彼女もまたそれに応えてコーヒーのように心温まる助言を授けている。ついでにコーヒーも淹れてた。その姿はまるで、慈愛に満ちた母親のようだった。
タキオン曰く、『繁栄』を目指している、とか。
カフェ曰く、いつの日かウマ娘みんなを支える私に……、とか。
そんな優しい世界の真実を垣間見た、その直後だった。
(まさか彼女といて散々怪奇現象に見舞われたといえ、自分がホラーそのものとは思わなかったなぁ……)
どうやら私に前世があり、それは
そもそも原案ってなんだ? 垣間見た『種』の声とベクトルが違いすぎてわけわかめだ。
「うーん。ちょっと今日は、早退させてもらうね。怪我は軽いみたいだし、安静にしてるから、大丈夫。メニューは渡してたよね?」
「はい……。確かにここに……新しい走り方を試したい要望を聞いてくれて、ありがとうございます。
……ホントに安静にしてて下さいね?」
「うん。…………ははは……」
私が得た未知の情報では、『その』マンハッタンカフェは目の前の子と姿以外似ても似つかない。……ダメだ。後で思い起こそう。
混乱が抜け切る気がしないので、今日のトレーニングは自主練でお開きにさせてもらった。幸いメニューは彼女と後輩の為に走り方を考える軽めのものだった。
三年間を走り抜けて、少し余裕がある。この子が後輩のアドバイスの為にフォームやスパートを練習するなんて、昔は考えもしなかったなぁ……。
視点を変えて考えてみる。
世の中には怪異もびっくりな想像力豊かな人々がたくさんいる。先人たちの作り上げた世界と概念にあやかろう。
調べていくうちに、私の症状はいわゆる転生や憑依に近いと分かったが、なんか違う。
こういうのは前世の自分が今世に意識を持ち越すパターンが多いが、別に私は私のままだ。前はそうだったんだなって謎の確信があるだけで、前世に引っ張られてる訳じゃない。
──それが分かった途端、もうなんか慣れた。
……やっぱ納得はもうちょっと後にすべきかな!? いやでも違うんだ。別に今生に影響がなさそうだし。だったら『へぇ〜そっかあ、アナタ前世は凄かったのに、今はただただ平凡で何の取り柄もない』……ってやかましいわ!
…………なんて事はどうでもいいが。自分なんかより十分ミステリアスな子とずっといたんだからな。これしきで動じるようじゃ、カフェのトレーナー失格だ。
そうやって、なーんも通じてない理屈をこね上げて冷静になってしまった。本当は理解し難いファクターに無理やり納得したいだけかもしれないが、大切なのは信じる事だ。決して掛かってないったらない。
よし、なんか魂で通じてるってだけで親近感湧いてきたぞ。姿もカフェと同じだし世界が違うと言うやつなのかもな。いい線いってるだろこれ。
何か頭が回ってきた気がしたので、もう少し追及してみる。
「…………いややっぱ作為的なんじゃ。カフェのトレーナーである私がカフェって。でも巡り会えた事の理由にしたくはないなぁ」
ゆっくり飲み込もうとする。原案カフェなる人物がどのような実態なのか。ただ、これだけは言いたい。
私たちが出会ったのは偶然であり、運命。そう思いたい。
彼女が継承者であるとはいえ、私なんかがそれに関係する可能性がある事を否定したかった。
私、なんも出来てないからな。三年の節目を迎えて過去を省みた時、嫌でも思い知った。導かれる彼女をサポートしてはきたが、二年目は殆どタキオンに仕切られてたし。凄いのはカフェ達自身だ。トレーナーとしては嬉しいから複雑なところだ。
もし自分にも理外の要素があったなら今、ちょっと平凡過ぎて、彼女の為に出来てる事が少ない自分なのは可笑しいだろ……と。
……まあ、流石に情けない物言いだったな。カフェと共に選び、歩んできた摩天楼だ。責任がない訳ないし、自分で望んだ道だ。前世を言い訳にはしない。
だが、そんな弱音すら見逃さなかったのか。脆くなった心の隙間に入り込むように、原案なる者の情報が急に流れ込んできた。
(なになになになに!?)
情報量に耐えきれず、私は床に倒れ込んでしまう。私今日ずっと気絶してんな。
えー、夜。とりあえず11時半。
なんかヤバい事になってる。いやなってたらしい。
寝て起きたら前世のカフェさんの記憶……みたいなものが濃くなってた。とりあえず塗りつぶされるとかはなかった。
何かきっかけがあったら堰を切ったようになだれ込んでくるらしい。といってもライフサイクルで見れば欠片ほどしかない。まだまだ全容を知ったわけではなさそうだ。
ヤバいのはその欠片の威圧感。つまり原案カフェなる者の一側面だ。
「えーっと、日常が退屈で仕方なくてレースだけが己を満たし、
はーーーッ、なるほどヤバいッすね!!?
おいおいおいおい、私死んだわ。誰だよ親近感湧いたとか言ってたの。お前の頭がお気楽に沸いてんだよ。フラグ回収じゃん爆速の。いやもち、落ち着け。別に影響無いんだから受け入れてやるぜェ〜〜! って決めたじゃないか。
しかしまあ何とも強烈な性格をしてらっしゃる。タダの勝利欲求では無いし、ウマ娘に生まれてなかったら……とか愉快な事をピンポイントで思ってらっしゃられる(二重)
ちょっと胃がキリキリしてきた。こんなん仕事だけであって欲しかった。
ホントに影響無いんだよね? 私の手が血で染まることはないんだよな? いや、そも自分がそう思い込みたかっただけ……ダメだ、やっぱ頭回ってないじゃん。
ホントまじで夢であってくれ。怪奇現象と違って直接襲ってくる訳じゃないのに怖すぎる。もし牙を剥かれたりしたら私なんか対抗出来ねーよ。蛇に睨まれたカエル。水に囲まれたグラードン。
結局深夜まで夢か幻覚を願って唸り、見えない自分と勇猛に戦った。だが、当然光明が見える事もなく。年甲斐もなくじたばたし始めたところに響いた『お友達』らしき音にビビって失神するまで、私の孤独な戦いは続いた───
マンハッタンカフェが刺さって見切り発車してしまいました。遅延更新になりますがよろしくお願いします。