×××はバ主になるようです ~ダイスで生き抜く未来のウマ娘世界~ 作:今峰鏡
滴る汗が乾いた土に染み込んでいく。
息がうるさい。
心臓が早鐘を打っている。
これは誰の鼓動だ? 私の?
未だ呼吸は落ち着かない。
震えている?
こんなに体は熱いのに?
否、この震えは寒さのせいじゃない。
レース前に感じた畏れだってもうない。
ならば。
あぁ――悔しいんだ、私は。
腑に落ちた瞬間、ドッと後悔が押し寄せる。
スタートで出遅れなければ。
序盤の逃げを許さなければ。
領域に踏み込もうと無理に追いかけなければ。
最後に脚を残しておければ。
悔しい。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!
でも、悔しさよりも。
そんな
俯いたまま、思わず自分の腿を殴りつけると、濡れた地面に影が差した。
2人分の人の形をした影。
前髪の隙間から伺えば、そこに立っていたのは白石とキミノワルツだった。
「ええ顔やな」
「は?」
何を言っているんだとハッピーシュートは思った。
自分の顔は今、種々の感情が交差して醜く歪んでいるだろうにと。
「その顔が見たかった」
白石はそう言うと、シュートの前にしゃがみこんで目線を合わせてくる。
その表情は楽しげにニヤついていて、縁無し眼鏡の奥の細まった瞳は爛々と輝いていた。
どこか狂気を感じる瞳から逃げるように視線を上げれば、キミノは嬉しそうに微笑んでいる。
だがその微笑みは、自分に勝利した喜びによるものではない。
好きな人が嬉しそうだと自分も嬉しい。
そういった単純な感情の発露だった。
それがシュートには分かった。
まるで二頭の恐ろしい怪物に睨まれているようだった。
「なぁシュート」
ドキリとシュートの心臓が跳ねた。
「は、はいセンセ」
「お前は『領域』の一端に触れるだけやなく、それに食らいついた。そんで
「せ、センセ……?」
「お前を必ず『最強』にしたる。そのために『領域』の習得は不可欠や、息を整えたらもう一本ヤるで、ええな?」
「は、い……はいセンセ!」
正直な所、シュートは別に最強になんか興味はなかった。
それでも。
それでも、この悔しさを二度と味わわないで済むのなら――『最強』になるのも吝かではない。
そう思えた。
それから数日間、シュートは
負けることもあれば勝つこともあった。
その中で、ひとつひとつ勝利の感覚を噛み締め、咀嚼していった。
だけれど、初日に為す術もなく負けた悔しさを一度も忘れたことはなかった。
あの時の不出来な自分の情けない走り、その中でも特に彼女の心を刺激したのは――
1.スタートでの出遅れ。(スタートダッシュスキル)
2.序盤で加速がつかなかった事。(序盤加速スキル)
3.中盤で燃え上がった闘志。(序中盤位置取りスキル)
4.『領域』へと食らいついた底力。(カウンタースキル)
5.最終コーナーで脚を残せなかった後悔。(回復スキル)
6.白 石 最 強
【1D6:3】
――出遅れた動揺から立ち直れず、先手を取られて大きく引き離された事だ。
シュートの脚質は『先行』、それも豊富なスタミナを武器に先行し、好位置から差し切り突き放す、謂わば『横綱相撲』。
それさえ出来れば勝てるという予感があったからこそ、シュートは最終直線で脚を使い切る程に前を行くキミノを追いかけたのだ。
そしてその予感は幾度となく行われるキミノワルツとの一騎打ちの中で磨かれ、確信へと変わる。
序中盤の位置取りこそが勝利の鍵であると。
好スタートを切り、ハナを取って往くキミノワルツの靡く尾を追ってシュートは駆ける。
キックバックにより顔を体を叩く砂を浴びながら、1バ身程後ろを付かず離れず着いていく。
第1コーナーから第2コーナーへと向かう直線で、キミノの雰囲気が変わる。『領域』に入ったのだ。
シュートは置いていかれないように加速した。
前のようにこんな所で脚を使い切る愚は犯さない。
自身のスタミナを計算しながら慎重に、されど全力で後を追う。
キミノを追いかける中で、ゆっくりと視界がスローモーションになっていく。
靡く尻尾の毛並み一本一本が、爆ぜる砂の一粒一粒が、驚くほどハッキリと認識できる感覚。
第2コーナーへと入った所で、ほんの僅か、キミノの進路が外側に膨らむのが見えた。
――そこ!
内に切り込むように一歩を踏み出す。
シュートに何かを感じたのか、キミノが後ろを振り向くのが分かった。
――そこだッ!
加速したキミノとの差を詰める位置取り、相手の僅かなロスを突いて速度差を埋める。
その道標がシュートには光り輝いて見えた。
――これが私の『最強へと至る道』!
光り輝く道をなぞるように駆ければ、シュートの体はするりとキミノの半バ身後ろへと滑り込む。
進路をブロックする間も無い滑らかな動きにキミノが目を見張った。
バックストレッチの直線でキミノが速度を上げる。
1バ身、2バ身と引き離され内ラチ沿いのポジションを取られるが、シュートに焦りはなかった。
先程の半バ身の攻防によって僅かに温存した体力と、この直線で無理な加速をしたキミノが消費した体力、その差こそが勝利につながるのだとシュートには確信できた。
第3コーナーへと差し掛かる。
今度は内側のポジションを取られないようにと、キミノワルツは足に力を込め遠心力に耐える。
そのまま第4コーナーへと向かうまでこの位置取りを維持すれば、ハナを取ったまま最終直線へと向かえる――はずだった。
「――ッ!?」
最終コーナーを周りきった時、すぐ目の前にはシュートの姿があった。
内ラチ沿いの最短距離を駆けていたはずのキミノを外側から追い抜いたのだ。
遠心力に耐えるためにパワーをロスした事で生じた加速の遅れを突いて、光る道標の通りに絶妙なタイミングでスパートをかけたシュートの『領域』による差だった。
そしてここで、序盤の僅かなスタミナの差が効いてくる。
先頭を走り続けた事で既にいっぱいになっているキミノワルツに対して、ハッピーシュートの脚は十分に残っていた。
加速する。
ぐんぐんと加速するシュートの離れていく背を見送りながら、キミノは満足げに笑んだ。
「至りましたか」
師の指導により『領域』へと至った後輩に祝福を送る。
もうこの模擬レースの目的は果たしたと言っていいだろう。
何ならここで走るのを止めても構わなかった。
それでも、
「最後まで、付き合ってもらいましょう」
キミノワルツはこれまで、本気で走ってこそいたが全力では無かった。
何せ既に引退したとは言え重賞勝利ウマ娘だ、未だデビュー前のジュニア級ウマ娘にそう易々と負けたりはしない。
加速する。
『領域』へと至り勝利を確信したシュートを重圧が襲った。
背筋に悪寒が駆け抜け、本能は全力で逃げろと警鐘を鳴らす。
振り返らなくても分かる。
近づいてくる。
1完歩ごとに足音が大きくなるのが分かった。
「っ……あぁぁぁぁぁ!」
真後ろまで迫ったその恐怖に抗うように叫び、全力で踏み込んだそこがゴールだった。
【 R E S U L T 】
[固有スキルを獲得しました]
『最強へと至る道』:1ターン目の『ピックアップステータス』を自分の最も『ステータス値』の高いステータスにする。この対決に勝利した場合、『最終ターン』の補正値に『+10』する。
【イベント 9月】
【1D6:6】
1.向日葵 ◇◇◇
2.シュート ◇◇◇
-.リヒト ◆◆◆ MAX!
3.キミノ ◆◇◇
4.帯金 ◆◇◇
5.奥さん ◇◇◇
6:新たな出会い
6しか出さないじゃんこの最強……]
ハッピーシュートが『領域』に踏み込んでから数日。
あれ以来、シュートはひたすらに基礎トレーニングをやらされていた。
『領域』をいつでも発動できるように訓練する事になるのかと思っていたので、拍子抜けした気分だったシュートは白石に意図を訊ねた所こう帰ってきた。
「『領域』は確かに強力な武器やけどな、あんな限定的な状況でしか発動しないオカルトに頼っとっては勝てるモンも勝てんくなる。結局モノを言うんはフィジカルや」
あの模擬レースで『領域』だけでなく、走る技術やメンタル面での急成長も実感できていたシュートにとっては若干不満の貯まる答えではあったが、数年ぶりに本気を出したことで全身筋肉痛になり、子鹿のように震えるキミノワルツに出会ったことで今は納得している。
「な、なにか年寄り扱いされていませんか? 私まだ23ですよ!?」
「じゃあヒカリとちょうど一回り違うんですね! 干支がおそろいなのです!」
「ゴフッ……!」
などといった一幕もあったがそれはそれとして、シュートは今日、トレセン学園のウェイトルームで筋トレに励んでいた。
「――……997……998……1000!」
数人のウマ娘が思い思いのトレーニングを熟す中、その一角でスクワットをしていたシュートが担いでいたバーベルを降ろして膝をついた。
着衣水泳を試みたのではないかと思えるほどに汗で濡れたジャージからは、湯気が立ち上っているようにさえ見える有り様だ。
「よし、それじゃあ30分休憩や、休憩もトレーニングや思って真剣に休むように」
「はい……センセ」
それだけ告げて席を外す白石を見送り、ほうほうの体でベンチへと這い上がったシュートは、濡れそぼったジャージを脱ぎ捨てガブガブとリヒト特製ドリンクを飲む。
各種栄養素や塩分などを効率よく摂取できる上に、甘く飲みやすく調整されたドリンクが、疲労した体に染み渡る。
シュートが数リットルを一気に飲み干して人心地つくと、見計らったように彼女へ話しかける人物が居た。
|シュートに話しかけた人物は?|
1.合宿で一緒だった織田さんの支援バ
2.クラスメイト
3.ライバルウマ娘
4.ライバルトレーナー
5.深瀬理事長
6. 白 石 最 強
【1D6:3】
○ライバルウマ娘の設定
学年【1.中等部 2.高等部】 [1.中等部]
身長 120+【6D10:39】 [159cm]
バスト【1.無 2.微 3.普 4.巨 5.爆】 [2.微乳]
耳飾りの位置【1.右 2.左】 [2.左(元ネタが牝馬)]
毛色【1.白毛 2.栗毛 3.鹿毛 4.青鹿毛 5.黒鹿毛 6.青毛 7.栃栗毛 8.芦毛】[5.黒鹿毛]
長所【1.スピード 2.スタミナ 3.パワー 4.根性 5.賢さ】[1.スピード]
短所【1.スピード 2.スタミナ 3.パワー 4.根性 5.賢さ】[5.賢さ]
脚質【1.逃げ 2.先行 3.差し 4.追い込み】 [1.逃げ]
「ね……」
「……はい?」
そう声をかけてきたのは、眠たげな目をした長い黒鹿毛のウマ娘だった。
身長こそ平均的なウマ娘のそれだったが、スレンダーな体型からひょろりとして見える。
年齢は分かりづらいが、怜悧で整った容貌に残る
「真剣に休むって……どういう事?」
「えっ、あー……なん、だろ。よくわかんないけど、センセがよくそう言うし……多分『しっかり休め』……的な?」
平坦な口調でいきなり問いかけてくる少女に挙動不審になりながら(※コミュ力:19)シュートは答えた。
「ふうん……」
「てかアンタ……誰?」
「カイノクロコマ。貴女は?」
「ハッピーシュート、だけど」
「髪、きれいだね」
「そ、そう? ありがと」
「私は黒鹿毛だけど、黒すぎて、生まれた時は青鹿毛と間違われたんだって」
「そうなんだ……?」
「でも、変だよね。ヒトはみんな、黒っぽかったら黒髪なのに、なんでウマ娘は青鹿毛とか黒鹿毛とか、言うんだろうね」
「いや、知らないわよ。――でも私は、ヒトみたいに白髪とか言われるよりはいいかな……なんかおばあちゃんみたいだし」
「そうかな? そうかもね。でも、この前のレースでピンクの髪の子を見たよ。ああいうのって何て言うのかな」
「あー、なんだっけ、栗毛の一種じゃなかった?」
「そっか、桃も栗も3年だもんね」
「……? まあそうなんじゃない?」
「ねえ、髪さわって、いい?」
「え、嫌だけど……」
「そっか、そうだね。じゃあやめる」
「そうして頂戴」
「…………」
「…………」
沈黙。
カイノクロコマ――クロコはじっとシュートを見つめながら。
シュートはキョロキョロと視線を彷徨わせながら、お互いに口を噤んで会話は終わった。
(シュートにとって)気まずい沈黙が続く中、最初に口を開いたのはウェイトルームに戻ってきた白石だった。
「なんや、武田さん所の娘やないか」
「……おじさまを知ってるヒト?」
小首をかしげたのはクロコだ。
彼女が『おじさま』と呼ぶ【武田】は中央でも名の知られたバ主であり、数々の名ウマ娘を支援してきたバ主界の『最強』の1人でもあり、クロコの
「この前飯富トレーナーん所で挨拶させてもろたわ。お嬢ちゃんの事もそん時に遠目やけど見たで、ええ走りするなぁ」
「ありがと」
半目をさらに細めて弓なりにしたドヤ顔で、クロコはむふんと鼻息を鳴らす。
平坦な口調とは裏腹に、意外と表情は豊かなのだなと思いつつ、シュートが問う。
「有名な娘?」
「せやな、先月もメイクデビューで勝って、次はどっかのOPで一回叩くか、それともサウジアラビアロイヤルカップで重賞に直行か言われとる。今年の最優秀ジュニア筆頭候補やろ」
「マジ? この娘が?」
シュートが再びぼんやりした表情に戻ったクロコを見て目を剥いた。
クロコは「ぴーす」と半眼ダブルピースで答える。
「次は重賞だって、トレーナーが言ってたよ」
「なるほど、そいつはええ事聞いたわ。所で、トレーニングはもうええんか?」
「……そうだった。次はプールだって、トレーナーが言ってた。プールは冷たいから、すき」
「そかそか、頑張ってな」
「うん。じゃあね、ハッピーシュート。あと、知らないおじさん」
「ん、うん。じゃあね」
あっさりと踵を返し、ウェイトルームから出ていったクロコを呆然と見送ったシュートがポツリと零した。
「…………なんか不思議な娘だったわ」
「ま、武田さん好みのちょっと変わった娘やな。飯富トレーナーも苦労しとるやろうが、アレでもお前のライバル候補や」
白石の言葉にシュートの視線が険しくなる。
僅かに剣呑な空気を帯び始めたシュートの気配に、白石の口角が嬉しそうに上がる。
「てことは、あの娘も私のライバルになるって事?」
「ま、今の所互角やな。『領域』の分ちょいとだけお前が有利って所や……負けんなよ?」
「負けるもんですか、あんなボーっとした娘」
「ナハハ! せやったら練習せなな! 休憩終了や」
「……ハイセンセ」
眉を下げて耳を引き絞ると、観念したようにシュートが答えた。
[パワーのトレーニング進行度が1アップ!]
[カイノクロコマと知り合った!]
【 R E S U L T 】
スピード ■■■□□[C]
スタミナ □□□□□[C+]
パワー ■■□□□[C]
根性 ■■□□□[E]
賢さ ■□□□□[E]
【 R E S U L T 】
1.向日葵 ◇◇◇
2.シュート ◇◇◇
-.リヒト ◆◆◆ MAX!
3.キミノ ◆◇◇
4.帯金 ◆◇◇
5.奥さん ◇◇◇
6:クロコ ◆◇◇
【(ダイスによってはもう出てこないかもしれない)オリキャラ紹介】
◯カイノクロコマ(14)
不思議系ジト目ウマ娘。
作者のウイポデータで黒っぽい毛色の『流星』または『暁』幼駒が襲名する馬名のひとつ。
活躍距離なんかは様々だが、何故か種牡馬入りすると産駒はパッとしない事が多い。
名前の由来は日本書紀などに記される『甲斐の黒駒』から。