×××はバ主になるようです ~ダイスで生き抜く未来のウマ娘世界~ 作:今峰鏡
主人公のキャラメイクは次回からなので、読み飛ばしても多分なんとかなります。
ウマ娘――彼女たちは走るために生まれてきた。
時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る――それが、彼女たちの運命……
この世界に生きる彼女たちの未来のレース結果は、未だ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。
瞳の先にある、ゴールだけを目指して――
西暦20XX年――ウマ娘レースは衰退した。
そのきっかけは世界的な恐慌であったり、人口の増加による飢饉であったり、レース本場である欧米における難民の増加とテロの多発であったり、近未来に訪れるであろうエネルギー危機に対する不安であったり、世界的な感染症のパンデミックであったり……様々な要因が挙げられるが、要するに――人々はレースを楽しむほどの余裕を失っていたのだった。
その中でも、日本でのレース人気の後退の原因は、とある地方レース場における違法賭博に端を発する。
御存知の通り、ウマ娘レースを対象とする賭博は(人権問題に対して非常にナイーブな現代の価値観に於いて)特に重い罪として厳しく取り締まられている。レース賭博はウマ娘に関わる人間にとって(ウマ娘本人達に於いても)決して犯さざるタブーとして存在したにも関わらず、某地方レース場での闇レース賭博ではローカルシリーズ運営の末端から中枢に至るまで、多くの関係者が摘発された。さらにNAU(『地方ウマ娘全国協会』National Association of Umamusume の略。いわゆる地方競馬)主導の追加調査で多くの地方競馬場(中には中央関係者も居た)で同様の違法賭博が行われていた事が発覚、これにより各地方レースどころか、運営母体を異にするURA(『ウマ娘中央レース会』Umamusume Racing Association の略。いわゆる中央)にまでも世論は不信感を抱くようになり(これには、メディアや人権団体による過剰なレース叩きに要因の一端があった事を、私は主張する)先に述べた様々な要因に加え、ウマ娘レース全体の衰退へと拍車をかける事となった。
国営団体であるURAに、世論を無視することは難しい。レース場へ足を運ぶファンが減ったことで赤字が出たとしても、世論で叩かれているウマ娘レースに、政府が国税たる資金を注入することは躊躇われた。結果、URA上層部は資金繰りに悩む事となる。
まず最初に削減されたのはトレセン学園内の設備への投資であった。ウマ娘を鍛えるべく、常に最新の機材を導入されていた各種トレーニング施設はそれ以降更新されることなく老朽化の一途を辿り、それがレース自体の質の低下――ひいてはファンのレース離れを更に助長し、次に学園生徒であるウマ娘には無料で提供されていた食事の質が下がり、ついには有料化。終いにはトレーナーへの給与支払いの滞納まで引き起こす事となった。衰退以前は少数派であったフリーのトレーナー(ウマ娘本人からトレーニング料を受け取り、指導を行うトレーナーの事)がこれ以降爆発的に増加した背景にはこの給与未払い問題が絡んでくる。
こうして学園所属のトレーナーが減少した影響でフリーのトレーナーに頼らざるを得なくなったウマ娘は、指導料のために学園に所属しながら働かざるを得ず、まともに指導を受けることができないウマ娘が増加、さらにレースの質が下がる……と、まさに負のスパイラルが発生したのであった。その段になってもレース賞金を下げようとしなかったURAの見栄張り体質には誠に頭が下がる思いであるが(もちろん皮肉だ)、結果としてレースとライブだけでまともに稼げるウマ娘は、重賞に勝てるごく一握りとなったのである。ウマ娘の人権を守る(笑)団体がマスコミを巻き込み過剰に騒いだ結果、当のウマ娘たちが困窮する結果となったのは、これこそ皮肉であろう。
NAU? そんなもんは闇賭博事件の時点で再起不能になっている。
(この際に引退したオグリキャップやイナリワン、ハルウララ等、地方と関わりの深いウマ娘達が奮闘したエピソードは、それだけで小説が一本書けるほどに困難かつドラマティックな物であったが、今回は中央主題の話であるため割愛させていただく)
ともかく、そんな訳でウマ娘レースは衰退した。
――しかし、ウマ娘ファンは死滅しては居なかった。
ウマ娘レースやウマ娘本人のファンである著名人や経営者、富豪たちが、個人的に(時には企業として)ウマ娘のパトロンとなり、食費や各種消耗品、トレーナーへの指導料を負担するようになったのだ。
とは言え、金持ちたる彼らの財布にも限界がある。そこで彼らとウマ娘たちはある契約を交わすようになった。契約の内容は単純にして明快だ『レースに勝利した際の賞金の何割かをパトロンへと還元する事』。
こうして金が動けばそれはビジネスになる。ビジネスになれば自然と人は集まる。有力なウマ娘と契約を交わすことの出来たパトロンは、(一般人からしてみれば)莫大な利益を上げられるようになる――ある種(衰退の一因となった)ギャンブルに近い投資であるが、元来あったレース人気が再燃する形で、このビジネスは比較的に賞金総額の高い日本やアラブを中心に広まり、世界的なウマ娘レースの衰退に歯止めをかける事となったのである。レース賞金を下げなかったURAの見栄っ張りも、たまには役に立つものであるなぁ……
まぁそんなこんなでレースと切っては切れない関係となったウマ娘出資者だが、彼らの事を総称して、人々はこう呼ぶようになった。
『バ主』と。
これは『
「この度は、誠にありがとうございました。我々トレセン学園としても、バ主の方々のご協力が無ければこういったイベントは行えないものですから」
そう言って、白い帽子を被った鹿毛の女性は小柄な体を畳むようにして深々と腰を折った。
彼女が顔を上げると、それなりに年を重ねているはずにも関わらず未だ現役時代と変わらない衰え知らずの美貌に――否、それよりも、その吸い込まれそうになる程に深い何かを湛えた瞳に目が行く。その輝きはターフの上を駆けていた時と変わらない美しさで、武田の胸に得も知れぬ衝撃を与えるのであった。
女性が不思議そうに小首をかしげた所で、武田はその瞳に見惚れていた事に気づき、居住まいを正した。
「ディー……あー、深瀬さんにそう頭を下げられては、こちらが恐縮してしまいます。ファン感謝祭への『支援バ』の参加は、我々バ主としても利益がありますし、何より楽しみなのです。バ主業はビジネスとは言え、我々の殆どはウマ娘ファンとして出資している側面が強いのですから、断ろうはずもありません。勿論、形式としてこういった場を用意することは大事であると考えますが。まぁ、こうして貴女と会えるのだから、一種のバ主特権ですな、はっはっは!」
「重ね重ね、ありがとうございます」
彼女――トレセン学園現理事長である『深瀬やよい』は再び頭を下げると、傍らに控える秘書から受け取った資料の入った封筒を武田へと差し出す。
「では、詳細はこちらに」
「確かに頂きました。――ローラくん」
彼が後ろに控える女性に声を掛けると、深瀬の眉がピクリと動いた。指先に力が入ったのか、差し出した封筒の端が僅かに皺を寄せる。
ピリリとした空気を纏い始めた彼女を刺激しないよう、武田はそっと受け取った封筒を秘書兼使用人(本人はメイドと言って憚らないが)であるローラと呼ばれたウマ娘へと手渡すと、一礼してそそくさとソファから立ち上がった。
「では、今日はこの辺りで」
「学園内をご見学されるのでしたら案内をつけますが」
「いえいえ、この後は懇意にして頂いているトレーナーさんへ挨拶に伺わせて頂く予定ですので。それに彼女は元トレセン生ですから」
そう言って傍らに控えるメイド――元競争ウマ娘『ローラ』こと『メイドオーロラ』を示すと、深瀬理事長は「あら、そうでしたっけ」と薄く微笑み立ち上がる。細められた目は表情に反して笑っていない。深く深く吸い込まれるようなその奥で複雑な感情を燃料にした炎が静かに、しかし激しく燃えているのが分かった。
対するローラはダラダラと冷や汗を垂らし始めた武田とは対象的に、何も感じていないかのような無表情でその後ろに控えたままだ。
武田はベタついた汗をハンカチで拭うと、乾いて張り付いた喉から無理矢理「それでは」と一言を絞り出し、軽く会釈する。
「そうですか、お気をつけて」
「え、ええ……また機会があればお会いしましょう」
深瀬理事長の秘書が開けたドアをくぐり、整備したばかりのターフのように毛足の長い絨毯が敷かれた理事長室からリノリウムの廊下へと踏み出すと、革靴が無人の廊下をコツコツと叩く。後ろからローラの足音と扉の閉まる音が続いたのを確認して、武田は「ふぅ」と息を吐いた。
「御主人様、飯富先生との約束の時間はもう少し先ですが」
後ろに控えるローラが耳元で囁いた。
「あんな空気の中に長々と居られるか! 現役時代君たちがライバルだったのは分かるがね、もうお互いにいい年――「お言葉ですが」
普段は楚々として主人に追従する事を良しとする彼女の、珍しく強い言葉に武田は思わず怯む。
「私があの小娘と――失礼、深瀬理事長様とライバルだった事実は御座いません。あの方が一方的に私を敵視しているだけですので。大方引退レースで私に負けた事をいつまでも根に持っているのでしょうが、私のキャリアのたかが三分の一程度走るレースが被っていただけの小娘など私は眼中にありませんでしたし? なんならもっと手強い相手も……まぁ居なくはありませんでしたし? それをライバルなどと言ったら」
「分かった! 分かったから! あー、ローラくん。それよりも急にトレーニングを見に行っては、飯富先生のご迷惑にはならんかな」
「経験上、トレーニングに見学者が来るのはいつもの事ですし、然程気にはされないかと」
「そうか、では行き先は大型トラックかな? 案内を頼むよ」
「承知いたしました」
軽く腰を折ったローラが数歩前を歩き出す。髪と同じ栗毛の尻尾が足を踏み出すのに合わせてゆらりゆらりと揺れる。その尻尾の付け根たる臀部の丸みから、(いざという時走りやすいように)ミニスカートのメイド服から覗く腿、ガーターで釣られたソックスで陰影を濃くするふくらはぎまでをじっくり眺めていた武田の脳裏に、現役時代にターフの上を駆けていた頃の彼女の姿が思い返された。バ群中段から突き抜けるように飛び出してくる鋭い差し脚は、この発達したトモから繰り出されていたのだ。現役を引退して数年、若干むっちりと肉こそ付いてきたものの、その下にある筋肉は然程も衰えていないだろう事が分かる。武田は心中で頷いた。うむ、素晴らしい。彼女もまた、名バだった。
「御主人様、そういった不躾な視線のせいで支援バ達から嫌われているのでは?」
ローラが肩越しに、半眼でこちらを見ていた事に武田は気づいた。
「いかんいかん、美しいバ体を見るとつい我を忘れてしまってな。とは言えウマ娘好きが高じてバ主となったのだ。こればっかりは止められん」
「私は構いませんが、あまり後輩たちを怖がらせないようお願いいたします」
「うむ、気を付けよう……ところで私ってウマ娘からそんなに嫌われてるの?」
ローラは口を半分ほど開いて少しの間虚空へと視線をさまよわせると、主人の問に沈黙を選ぶことにしたのか、そそくさと先に行ってしまう。だがその態度こそが明確な答えであると理解した武田は、小さくため息をついて窓の外へと視線をやった。そこでは豊かなヒゲに比べ、側頭部にのみ毛を残した貧弱頭髪の中年親父がしょぼくれた顔でこちらを見返していた。
元競走バの一完歩について行ける程度にはガタイこそいいものの、大きく突き出た腹が如実に年齢を物語る中年体型のおっさん。
彼こそが最古参のバ主にして、多くの名バを見出してきた最大最強の
【(ダイスによってはもう出てこないかもしれない)オリキャラ紹介】
○武田典厩(63)
バ主おじさん。
ぶっちゃけラスボス(予定)。
名前の由来は武田信玄の弟の武田信繁から。
イメージはウイニングポストのプレイヤー。
○メイドオーロラ(3X)
完璧で瀟洒なメイドウマ娘。
元ラスボス(引退済み)
馬名は『冠名+母馬(メジロオーロラ)の名前の一部』。
作者がプレイしていたウイポスのデータの初代最強馬。ディーなんちゃらさんと死闘を繰り広げた。耳飾りは左側。
○深瀬やよい(3X)
いったい何インパクトなんだ……
作者のウイポス世界では、一つ年上のローラに2敗(3歳の有馬記念と引退レースの有馬記念)した以外は全勝している。
理事長に就任するに際し人間名を名乗る。由来は自分の名前の付いたGⅡレースから。