無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「貴族らしいことがしたい!!!」
「どうしたのよ、突然」
仕事が12時間位に減って、余裕が出来た俺は、驚きの事実に気づいてしまった。
「だって、貴族になったメリット0なんですよ?フィリップ様しか得してないじゃないですか」
「貴族らしいことは今だってやってるじゃないの」
「書類仕事なんて貴族じゃなくたって出来るんですよ!新入りだってやってるじゃねえか」
「あ、うぃす」
自分は貴族になって、なんの得もしてないのだ。
フィリップに政治利用されて、贅沢出来るような時間もなく……ただ仕事と面倒事を、押し付けられただけである。
「とは言っても、貴族らしいことって何なのよ?普通、書類仕事くらいしかしないんじゃないの?」
"ボ"から始まり"ス"で終わるグレイラット家の獣人集めとかは正にそれだと思うのだが、知らないのだろうか。
「例えば、ボレアスの獣人集めとかそう言うのじゃないですか。ああいう感じの奴ですよ」
「使用人を雇ってるだけじゃないの。使用人が欲しいならお父様に頼めば良いじゃない」
「いや、そういう訳でも…」
「どういうことなのよ」
エリスの機嫌が、微妙に悪くなった気がする。俺が適当なことを言ってるように感じたのだろう。
とは言えども、俺も異世界転生系にありがちな貴族のやってる行為を、なんて説明したら良いのか分からない。
「えーっと、例えば…その……なんか凄い提案してチヤホヤされたりとか、食道楽の道に走ったりとか、奴隷でハーレム作ったりとか…みたいな?」
「……ハーレム?」
「あっ!いえいえ!言葉の綾です!言葉の綾!」
「……………でも、ルーデウスのやりたいことって、全然バラバラじゃない。本当にしたいように思えないわよ」
(あっぶねー…)
貴族あるあるを引っくるめてしたいのだが、そういう話を知らなきゃ、そりゃ意味の分からないことを言ってるように思われるに決まってる。
「横から失礼するぜ、先輩。良く分からんが、取りあえずやってみりゃ良いんじゃないか?」
そういうことになった。
ーーー
「てな訳で、フィリップ様!何か問題は起きてないでしょうか!」
「ああ、じゃあ……この資料を見てくれ。ギースが作ってくれた各文官の特徴のレポートなんだが、ピレモンの間者を見つける為に、何か共通点は無いかと考えているんだ」
そういって、分厚いレポートを手渡された。相変わらず、ギースは色々とやってるらしい。
十人程の情報が書かれていて、事細かに行動や言動が書かれている。
(これ、ストーカーなんじゃ…)
というか、まさか俺のレポートもあったりしないだろうな。…別に他意はないが、今度からギースの前では、少し行動に気を付けよう。
で、レポートに軽く目を通して見たのだが、此処から何かを見つけ出すのは、正直無理な気がする。行動心理学とか、そんな感じのプロがやるべき仕事だろう。
「なるほど、なるほど………」
「何か分かったかい?」
「これに関しては何も分からない、ということが分かりました」
「随分と哲学的だね」
「ならば次です!何か、領民の人気取りだとか改革みたいなことをしましょう」
権謀術数の類いは難しそうなので、正攻法で行くことにしよう。
幾らフィリップの頭が良いとは言え、俺には過去の天才たちが知識として付いてる。流石に、暗闘なんかのやり方は知らないが…それでも、織田信長やナポレオンなんかのやり方は、十分に通用する筈だ。
「というと?」
「例えばじゃあ……商業税を免除する、とか」
「メリットは?」
「領の商業が活性化します」
「それは、他の領から引き抜いてるだけなんじゃないかい?」
「何か、問題でも?」
「大迷惑で、格好の攻撃材料としか…」
た、確かに言われて見ればそうだ。織田信長は周りが敵だらけだったが、一応、アスラ王国は曲がりなりにも一つの国だ。その1領邦が勝手にやって良いことではないだろう。
「書式の統一とかはされているのですか?」
「…されてなかったら、どれだけ仕事量が多かったことか……考えたくもないね」
されているらしい。てか、統一されていてあの量だったのか……意図せぬところからトラウマが抉られてしまう。というか予想以上に思い付かねえ。現代知識で何やってたっけか……権利の保証とか?
「じゃあ、労働時間を制限して、児童労働を禁止にしましょう」
「ああ、これが本命か」
(ん?)
「安心したまえ、君は優秀な文官だよ。ルーデウス。だからほら、これからもよろしく頼むよ」
謎に納得されて謎に褒められた。いや、文官としての能力を褒められても、あまり嬉しくないんだが。
フィリップが「話は終わったな」的な顔をしてくるので、仕方なしに首を傾げながら部屋を出ていく。
自分の年齢を思い出したのは、エリスの居る自分の部屋に戻ったときだった。
内政チート……失敗!
ーーー
内政チートが失敗しても、他に出来ることはまだまだある。
いきなり、自分のまったく未経験な分野に触れようとするから失敗するのだ。次は無難に、料理チートでもしておこう。
「キャー!ルディが料理を教えてだって!」
「少々厨房をお借りしましょうか」
と思ったが、良く考えたら、俺は食うことは他者の追随を許さないが、こと作る方に関しては全くやったことが無かった。
仕方ないので、ゼニスとリーリャに教えを乞うことにする。
ゼニスとリーリャはそれなりの腕前だった。中世並みの世界で、俺が「和食が食べたいなぁ」位にしか思わなかったのだ。食材は地球のそれよりも数段劣る物の筈なので、少なくとも下手ということは無いだろう。
しかし、ここで問題が発生した。
この世界、というよりかはアスラ王国の料理は、ヨーロッパのフルコース料理を幾らか粗野にした、という感じの物である。
つまるところ、現代で食ったことが無かった。
完成品を知らないのだ。なので、ゼニスとリーリャの料理を越えれる筈もない。
この、ヨーロッパ的な調味料達を駆使して、和食チックなものを作ろうとも試みてみたが、系統が違いすぎて無理だった。どうしても、酢とレモン汁位の差がついてしまう。
和食は食えないのか…
うちひしがれてる俺に、リーリャが声を掛けてきた。
「ルーデウス坊っちゃん、こちらの調味料は使われないのですか?」
リーリャが何やら壺を持ってきた。ラベルには「豆腐」と書かれている。
(えっ、豆腐だよね?)
もしかして、この世界では豆腐は調味料なのだろうか。いや、この際豆腐でも文句は言うまい。ちょっとでも和食に近い物が食べたい…!
そう思い、蓋を開けると中に入っていたのは……味噌だった!
(紛らわしっ!)
有能メイド、リーリャ様々だ。こうして俺は、味噌を手に入れることに成功した。
ーーー
しかし、そうなってくると醤油が欲しい。
残念なことに、醤油は、こっちには影も形もないようだった。表記揺れとかでもない。
でも、醤油位だったら作れそうだ。前世に作り方を見た覚えがある。
確か、原材料は大豆だった筈だ。そこに塩麹……普通の塩だったっけ?を加えて、発酵させるのだ。
それを放置したら、完成!…だよね?
何はともあれ、やってみよう。
大豆は用意出来た。塩か塩麹かがハッキリしないので、両方で試してみることにする。
発酵させるのはどうやるんだっけか。
酵母とかを使うのだろうか。それなら、パン屋を尋ねれば良いのだろうか。
いや、でもこの世界のパンは、酵母が使われてるのか微妙だ。固い訳じゃないが、凄くふっくらしてる訳でもない。絶妙に判断に困るブツだ。
というか、パンを発酵させてるのはイースト菌じゃないのか?
深掘りしてみると、サッパリ分からない。
いや、悩んでても仕方がない!迷ったら、周りの頼れる大人に聞けば良いのだ。
「という訳です、父様」
「サッパリ分かんなかったが…なんだ、酵母が欲しいのか?」
「はい」
「それじゃあ、酒蔵が持ってるんじゃないか?ミルボッツ領はワインの名産地だし、領都にも居るはずだ。今度、貰ってきてやるよ」
「ありがとうございます!」
かっこいい!やっぱり、持つべき物は頼れる大人だな。
ーーー
翌日、パウロが酵母を貰ってきてくれた。
早速、大豆を砕いて、中に酵母の付いてるナニかと塩麹等と一緒にぶち込む。
一体どこに置いとけば良いんだ?……いや、天日干ししたって菌が死ぬだけか。
馬小屋にでも置いとくか。
ーーー
更に一週間後、俺は馬小屋に来ていた。
ワクワクを胸に馬小屋のドアを開けると……
「うわ、オエッ、ゴヘッ……オェッ……」
(くっさ!)
とんでもない臭いが漂ってきた。納豆から臭さだけを残したって感じの臭いがする。
慌てて風魔術で臭いを鼻から遠ざける。
恐る恐る、箱の中を覗くと………
ここから先は、あまり描写したくない。
まあ、取りあえず…
料理チート、失敗!
ーーー
奴隷ハーレム……
「…………エリス?」
「…………」
失敗!
ーーー
後、俺に残されているのは魔術だけだ。
魔術で出来るチートと言うと……土魔術で、堤防とかを作ったりすることだろうか。
とは言えどもなぁ、フィリップに聞くまでも無く、これは出来なさそうだと分かる。
アスラ王国は歴史が長い。ブエナ村みたいなド田舎でも、それなりのインフラがある位には発展してる。
修繕とかの仕事なら有りそうだが、わざわざ、領主の息子にやらせる程の仕事でもないだろう。
「なんかないですかね…魔術で出来ること」
「あっ、ルディか……ちょっと失礼」
隣のパウロに愚痴ったら、何処かへ行ってしまった。失礼な野郎だ。
ーーーパウロ視点ーーー
「フィリップ、ギース……ルディは一体、どうしちゃったんだ?」
息子の様子が可笑しくなった。酵母を貰ってきたかと思えば豆を腐らせたり、薄ボンヤリしながらブツブツ言ってることが多くなったのだ。
ハッキリ言って、ちょっと可笑しい。マッドサイエンティスト的な雰囲気を感じざるを得ない。
そのことに危機感を抱いた俺は、こうしてフィリップとギースを集めていた。両方、頭脳労働に関しては非常に信頼を置ける二人だ。
「私のところに来て、労働時間を削ってくれだとか、児童労働を禁止にしろ、だとか言われたよ。もしかすると、あれがルーデウスなりのヘルプサインだったのかも知れないな…」
「エリスの嬢ちゃんにも、なんか変なこと言ってたな……貴族らしいことがしたいだの、なんだの」
なんていうことだ。俺の可愛い息子は、超過労働で、頭が少し可笑しくなってしまったのだ。
これは俺達の負担を増やしてでも、なんとかしてルーデウスに休みを取ってやるしかない。
「なあ、ルディに休みを作ってやりたいんだが…」
「私は構わないよ。そろそろ、直に文官の募集をする準備が整ってきたからね」
「なあ、先輩は何か、大それたことがしたいんだろ?それなら、こんなのはどうだ?」
…
ーーー
「なぁ、ルディ」
「なんです?父様」
突然、パウロが神妙な表情で話しかけてきた。パウロの真面目な顔には、あまり良い思い出がない。思わず、身構えてしまう。
「あのさ、お前……魔法で何か凄いことがしたいって言ってたよな?」
「はい」
「あと、フィリップにも領民の役に立ちたい、とか言ったんだよな?」
「ええ」
「それならさ…ロキシーちゃんみたいなこと、やって来てくれないか?色々な村を回ってさ。エリスちゃんとの新婚旅行がてらに良いだろ?」
なるほど、パウロ、天才か!
堤防の修復位なら、自治体で出来るかも知れないが、天候を操ったりするのは、流石に出来ないだろう。
どこかに困ってる村があれば、俺が駆けつけて天候を操る。俺は凄い魔術師気分が味わえるし、何より新婚旅行が出来るってのが素晴らしい。
「良いですね!分かりました!」
「おう、良かった」
こうして俺は、領都を離れて旅に出ることになったのだった……
あれ、最初何しようとしてたんだっけ?
次から章変わります。
書き貯めるのでちょっと滞ります。
あと、評価してくれると嬉しいです。