無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「ふぅ……」
シーローン王国で家庭教師の任期を全うした私は、足早に首都ラタキアを出ていた。
本当はもう暫く、進路を考えてから行くつもりだったのだが、パックス王子が意外にごねたのだ。
流石に三人程度に遅れを取るとは思わないが、あまり長居したいとも思えなかったので、こうしてロクに準備もせずに、出てきた訳だ。
……とはいえども、もう少し落ち着いて来るべきだったかも知れない。
一応、数年勤続して貰った給料と、軽くでは有るものの旅支度も出来ているが、行く場所によっては若干、心許ない。
もう一度ラタキアに戻るべきだろうか。
チラッと、自分の装備を見る。
薄いリュック、薄い服、薄いム……
…うん。ラタキアに戻ろう。
ーーー
結局、パックス王子が何かしてくることはなかった。
拍子抜けだ。
特に何事もなく旅支度を整えた私は、宿で進路を考えることにした。
しかし、どこに行こうか。候補としてはミリス方面、アスラ方面、ベガリット方面の三つが挙げられる。
取りあえず、一つずつ候補を考えて行こう。
まず、ミリス方面。
この場合、私は王竜王国→ミリス神聖国→大森林→魔大陸、というルートで旅をすることになるだろう。
つまり、里帰りという訳だ。
ルディ達と会って、親に会うのも悪くない気がしている。ノコパラ達とも久々に会いたい。
問題があるとすれば、二つだ。
まず、ミリス神聖国は魔族の扱いが悪い、という点。
ミリスで金を稼いでから魔大陸に行かないと、帰ってくるときが厳しいので暫く滞在するだろうが、わざわざ嫌な思いをしに行きたくはない。
そしてもう一つが、戦争の予兆があることだ。
なんでも、獣族の奴隷問題を発端に、獣族とミリス間での緊張が高まっているらしい。
奴隷問題だけなら、ミリスが謝れば済む問題なのだろうが、スペルド族が関わっていたという噂が、この話を拗らせた。
最初は殆んど眉唾物な噂だったのだが、しかし口伝てで伝えられてく内に尾ひれが着き、ついには一部の貴族さえも動かしてしまったらしい。
それが原因で、ミリス側も退くに退けなくなったそうだ。
魔族というだけでも当たりが強いのに、スペルド族とまでなると、ミリスの性質上、頭なんて下げられないのだろう。
もしかすると、通行出来るのは今が最後のチャンスかも知れない。
次に、アスラ方面。
この場合、アスラ王国→北方魔法大国 というルートで進んでいくことになるだろう。
ベガリット大陸にも行けるが、どちらかと言えば王竜王国から行った方が早いので、考えないこととする。
ルディや魔法大学に顔を出す、ということが旅の目的になるルートだ。
このルートだと、特に問題は無いと考えて良いだろう。強いて言うなら、赤龍山脈を越えるときにメンバーを集める必要がある位だろうか。
あと、ちょっと師匠に顔を出しづらい。それなら行かなければ良いだけなのだが、アスラ王国に長居するのは何だかなぁ、という感じだ。
弟子に負けたくないから、旅をしているという側面もあるので、アスラ王国という平和な国でまったり暮らしたくない。
あの国はかなり居心地が良い。一度住んだら、終生の地に成りかねないのだ。
まあ、総合的には悪くないルートである。
最後に、ベガリット方面。
此方に進めば、単に修行をすることだけが目的となるだろう。
だが、修行をするだけなら魔大陸の方が良い。
この三つの候補の内なら…アスラ方面が良いだろう。魔法大学に行けば、何か新しい発見があるかも知れない。
よし、方向も決まったことで、決意を新たにすると…!
「ロキシー・ミグルディアさん!」
突然、ドアが強くノックされた。
もしかして、パックス王子が何かしてきたのだろうか。
逃げるべきか、戦うべきか、それが問題だ。
いや、三人くらいなら倒せる。
後ろ背の窓を開け放しておき、机をバリケードにして魔術を放つ準備をする。
「いないんですか?」
反応的に、そろそろ蹴破ってくるだろう。
杖をギュっと握りしめる。よし、覚悟は決まった……!
すると、扉の下から何かが捩じ込まれた。なんだあれは。
もしや、何らかの魔方陣?
目を凝らして良く見てみると……ただの手紙だった。
完全に自意識過剰で、顔が真っ赤になる。
誰かが見ていたら、あまりに滑稽で抱腹絶倒されていたところだ。
えーっと、差出人は………ルディ?
忘れ去られていなかったことに、少しだけ安堵する。
「えー、なになに……」
『師匠へ。
お元気ですか?私は元気です。具体的には、毎日14時間労働する程には元気です。
何故、こんなことになったのか。
それは、私が貴族になってしまったからです。
誠に不本意ながら、ノトスという家を押し付けられてしまいました。
ですので、私はブエナ村に居ません。ミルボッツ領の領都か、近くの村に居ますので、用事か手紙がある際は領都の当主館までお願いします。
親愛なる弟子、ルーデウス・ノトス・グレイラットより』
「えっ?」
もう一度読んでみるが、結果は変わらない。ノトスといえば、アスラ王国の中でもトップ10を争うレベルで大きな家だ。
つまり、もう到底ルディには会えない訳で……これ見よがしにノトスを強調していて、世間話が少ないのも、もしかすると『社交辞令だから本当に来るなよ』という遠回しなメッセージかも知れない。
つまり、アスラの方に行っても、わざわざ師匠だけに会いに行くような物で…
よし、ミリスに行こう!
あと、ルディに手紙を一応書いておこう。
返信は返ってこないかも知れないが…。
ーーー
「よし、こんなもんかな」
師匠へ書く手紙は出来た。
師匠はドジっ子だ。詳しく強調して情報を書かないと、宛名にノトスを付けずに『ルーデウス・グレイラット』だけで手紙を送って俺に届かなかったり、ブエナ村に手紙を送ってきたりしかねない。
あるいは、訪ねてきても、必死に領都を探して見つからない、なんて事態になったら俺がとても困る。
なので、簡潔かつ、所在地と新名が分かるように手紙を書いておいた。
これなら、師匠も間違いようがないだろう。
なんの心配もなく、新婚旅行が楽しめる筈だ。
ロキシーの進行方向がまんま逆だよって書きたかっただけです。そんなに意味はありません。