無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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第十三話「シル村」

 

また馬車を走らせて一時間ほど。

 

「へぇ……」

 

「これは……」

 

シル村もまた、アスラ王国特有のジレンマに襲われた土地だった。ブエナ村と何も変わらない。

 

「おい、あれ、お貴族様じゃないか?」

 

「なんでぇ、いきなり押し掛けて来やがって…」

 

「ちょっと、代官様を呼んでこいよ」

 

遠目に農民達が騒いでるのが見える。

まあ、何しに来たんだって話だよな。これが最初の村だからあれだが、二・三個回る頃には名前が売れてると信じたい。

 

すると、呼ばれてきたらしい代官とやらが走ってきた。此方も、別に肥えてるなんてこともなく、若干身なりの良い農民と言った感じである。

こうして見ると、パウロのような貴族らしさのある代官は珍しいのかもだな。

 

「すいません、寡聞にして、どちらの方か存じ上げないのですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」

 

「ルーデウス・ノトス・グレイラットです。此方の二人は気にしないでください。新しく僕の父が領主になったので、それを周知させる為にこうして伺わせて貰いました」

 

「…領主はピレモン様じゃなくなったのですか?」

 

「ええ。つい一週間ほど前に変わりました」

 

「はあ……あ、いえ。失礼しました。では、翌日までに村の者にも広めておきます。周辺の村にも私の方で広めておきますので、此処からもう少し離れた村に行っては如何でしょうか?」

 

どうやらまだ、領主交代の話は広まってないらしい。

あまり農民は他所に移動しないので、そのせいかも知れない。

 

「いえ、そこでですね。噂によると、水不足で困っているのでしょう?僕は、魔術が使えるんですよ。そこで、一週間ほど滞在させて貰うので、何か入用なことがあればお申し付けください」

 

「そんな、高貴な方に雑用など滅相もない…。そういったことは、私どもの方で何とか致しますので…」

 

「僕たちは人気取りがしたいんですよ。此方からもお願いします」

 

「…分かりました。ですが、彼等が無礼を働くこともあるかも知れません。そのときは、どうかご寛恕頂きたく存じます……」

 

代官はやけに疲れたような表情でそう言った。

申し訳ない。

 

ーーー

 

「えー、では、どこにお泊まりになりますか?」

 

「僕たちはそこの馬車で結構ですよ」

 

「はあ…。で、魔術で何かしたいのであれば、そこらの農民に話し掛けてください。一応、最近はあまり雨が降ってなくて困っていますが、世帯によっては雨に降られても困る場所があるかも知れないので」

 

代官はそう言うと、足早に去っていってしまった。

仮にも上級貴族に対する物とは思えない対応だ。

まあ、俺達は気にするタイプじゃないが。

 

「あの男、此方を警戒していたようだ。一応、怪しい行動は慎んだ方が良い」

 

ギレーヌがそんなことを言ってくる。

"迷惑"とかじゃなくて"警戒"?

野盗の類いとでも思われているのだろうか。

そうならない為にも、わざわざ高級そうな馬車に乗ってきてるのだが。

 

因みに、貴族の身分を騙って窃盗をすると、死刑である。国からの指名手配になっても可笑しくない程重罪だそうだ。だからこそ、何故警戒されるのか分からない。

 

「まあ、考えてても仕方ないですね。早速、そこら辺の農家の人に聞きに行って見ましょうか」

 

「そうね」

 

農道をブラブラと歩く。

すると、一人の農家が農作業をしていた。

早速、聞き込み開始だ。

 

「すいません、何か困ってることとか無いですか?」

 

「うわっ、え……なんだ、突然。どちらさんだ?」

 

随分雑な口調で返事が返ってくる。貴族と分かっているのだろうか。

 

「新領主の息子、ルーデウス・ノトス・グレイラットです。領主交代を周知してもらう為に、領内を回っているんです。魔術が使えるので、人気取りをしている最中なので、何かお困りのことがあれば、手伝えるかもですよ」

 

「領主交代……?えー、あー…………そ、そうだな。じゃあ、どの位のレベルのもんが使えるんだ?」

 

「一応一式、召喚魔術と治癒魔術以外は上級以上に使えますよ。水魔術に関しては聖級まで使えますね」

 

「あー、そりゃすげえな。……じゃあ、ちょっと雨を降らしちゃくれねえか。此処んとこ全く降らなくて困ってんだ」

 

分かっても尚、この口調らしい。

まあ、平民はそこまで敬語を使える訳でも無いそうだからな。

 

「分かりました。行きますよ。ちょっと離れて下さい」

 

「えっ?……ああ…」

 

そっちから頼んだんだろうに。

ちょっと無詠唱で魔術使って脅かしてやろうか。

 

手に魔力を込めて、雨雲をかき集める。ウォーターボールを打っても畑をグチャグチャにするだけなので、若干大変な作業だ。

 

それにしても、雲自体が少ないな。結構カラッとしている。

 

だが、頑張れば集められないこともない。空中から集めて…行ける!

 

「え、うわっ!」

 

農家のおっちゃんが驚きの声をあげた。

もしかすると、本気で出来るとは思ってなかったのかも知れない。

眼前には、四角状に雨が降ってる畑がある。大成功だ。

 

「雨が降ったのか?!って……え?」

 

音を聞きつけ、周辺の家からも人が出てくる。

そして一様に、一区画だけに降っている雨を見て驚いていた。

 

(中々に気持ち良いな、これ!)

 

久々に自分に自信が出ました。

 

 

ーーー

 

 

「あんちゃん、納屋の壁がボロいんだ。治してくれねえか」

 

「ウチも雨が降らなくて困ってるのよ。お願い出来るかしら」

 

あのあと、農家達に畏敬の目で見られて一通り気持ち良くなった俺は、大人気になっていた。

ロキシーは魔族だが、俺は人間だ。その分、受け入れられるのが早かったのかも知れない。

 

俺は農家の頼みに答えて、あっちに行っては壁を直し、此方に行っては雨を降らせ…兎に角、魔術で大活躍をしている。

 

俺の心に細やかな全能感が出てきた。

ショボいとか言っちゃいけない。これでも、かなり大切なことだ。

 

隣のエリスはひたすらに自慢気な表情をしていた。

何もしてないとか言っちゃいけない。夫の功績は嫁の功績だ。

 

しかしそれにしても、なんていうか便利グッズみたいな扱いだな。これ、領主の人気取りとして正しく機能してるのだろうか。

 

「おおっ、すげえ!かなり金掛かると覚悟してた修繕作業が一瞬で…!」

 

「お兄ちゃん、これ美味しいね!凍らせるだけで果物ってこんなに美味しくなるんだ!」

 

まあ、受け入れられないよりはマシか!

 

ーーー

 

「有り難うね。これはお礼よ。是非夕飯に食べて!」

 

一通り手伝いを終えた俺は、人の良さそうなオバチャン達から食材を貰った。保存食生活を覚悟していたので、かなり嬉しい贈り物である。

 

「なんなら、ウチに泊まって行っても良いのよ?」

 

「いえ、色々と騒がしくしてしまうかも知れないので…」

 

「そう?泊まりたくなったら何時でも言ってね?」

 

そんなことを言いながら、オバチャンが去ってく。

そう、こう言うのだよ。異世界は斯くあるべきなんだ。

幼馴染みと一緒に学校に行こうと思ったら親父にぶん殴られて、仕事先の主もとんでもなく凶暴で、やっと落としたかと思えば義父に政治利用される。

 

あまりにも可笑しい生き様だ。

魔術師ってのは、こうあるべきだろう。ほのぼのスローライフ生活でチヤホヤされて然るべきなのだ。

 

「流石はルーデウスね!やるじゃない!」

 

エリスは凄くハイテンションだった。

何故か今日は、凄く順調だ。

…反動が来たりしないよね?

 

そんなことが心配になったが、結局何事も無く馬車に戻っておせっせして寝た。

そこら辺で立って寝てたギレーヌは流石だと思う。

 

ーーー

 

翌日。そしてその次の日も、俺は魔術を使って様々なお悩みを解決していた。

 

「いや~、ホントに助かる。でも、そろそろ雨を降らして貰うくらいしかやって貰うことは無いな!」

 

上機嫌で農家のおっちゃんが話し掛けてくる。最初の低テンションとは大違いだ。

 

「そうなんですか。そうなってくると暇ですし、そろそろ次の村に行きましょうかね?」

 

「いや、あと四日位は降らしてくれると有難い。どうしてもって言うなら止めないが…」

 

でも、やることが無くなるんだよな。雲を集めて雨を降らせるだけだし、そんなにやることもない。

 

「じゃあお兄ちゃん、俺に魔術を教えてくれよ!」

「僕も僕も!」

 

すると、遠目に見ていた少年達が俺に教えを乞いてきた。

あと四日位だが、初級魔術くらいなら教えれるかもしれない。

一丁、やってみるか!

 

ーーー

 

一人称が"俺"の子供がベン。"僕"の子供がサッチャーというらしい。

シルフィと違って、ちゃんと男だと分かる見た目をしている。どちらかと言えば、ソマル坊とかそういう系統の少年だ。

 

「じゃあ、魔力を手に集めてみようか」

 

やることはシルフィへの授業の焼き直しである。

かなり時間が掛かったが、二人の少年は軽く魔術を使うことが出来た。

こうして見ると、シルフィの飲み込みの良さが分かる。

元気にしてるかな、シルフィ。

 

「おおっ!」

「出来た!」

 

かなりはしゃぐ二人。いやあ、喜んでくれたようで何よりだ。

 

「それじゃあ、魔力が切れる直前まで打ってみようか。そうすると、若い内なら魔力が増える可能性が高いはずだ」

 

流石に無詠唱では出来ないみたいだったが、それでも若さは偉大だ。こうして若い内に沢山使っておけば、ある程度は出来るようになるだろう。

 

「はぁ…はぁ……」

 

疲れ切ったように、二人の少年は肩に息を付く。

 

「よし、なら、今日は終わりにしよう。また明日もやってみて、もう少し魔力が増えたら、出来るか分からないけど、中級魔術の練習もしてみようか」

 

「「はい!」」

 

そう言って、少年達が駆け出そうとした所で…

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

エリスが声を上げた。

何をする気だろうか。

 

「な、なに?俺達、疲れたから帰りたいんだけど…」

 

「ねえ、貴方達、剣術も学んでみない?剣術なら教えてあげられるわよ」

 

俺に触発されたのか、エリスがそんなことを言った。

 

「え~、魔術の方がカッコ良くない?」

「だよね」

 

二人の少年はそんな生意気なことを言う。

だが、エリスは全然余裕そうだ。成長した物である。

 

「まあ、見てなさい!ルーデウス、やりましょ?」

 

「えっ、今からですか?」

 

不味い。この流れは、俺が当て馬にされる流れだ。パウロに始まり、フィリップと続き…基本的にこの家に攻撃魔術の使い手は居ないので、他のことで比べられると俺が噛ませ犬になってしまうのだ。

 

「やるわよ!」

 

しかし、エリスはそんなことで止まるような女じゃない。

近くの柵を抜いて、一本を俺に投げ渡して来る。

 

「負けちゃうと思うんですが…」

 

「でも、全く出来ない訳じゃないでしょ!良いから!」

 

仕方ない、嫁さんの為に一肌脱ぐか。

 

「では、見ていて下さいね」

 

「あ、うん…」

 

危ないかも知れないので、子供達を下がらせる。

 

「では……始め!」

 

「ガアッ!」

 

始まった瞬間、エリスが吶喊しながら突撃してくる。

が、それは慣れた物だ。顎先を殴られる可能性もあるので、若干距離を取りながら警戒する。

 

すると、思いっきり真正面からエリスが振りかぶってきた。

危ない、そう思い目を瞑りそうになるが、気合いで目を開き受け止める。しかし……

 

「うわ!?」

 

思ったよりエリスの力が強くて押し切られてしまった。

 

「と、まあこんな物よ。どう?」

 

「「す、すげー!」」

 

やっぱり、予想通り当て馬にされてしまった。

物凄くキラキラした目でエリスの方を見ている。

いや、このままじゃ癪だ。

 

「ちょっと待ってください。僕の本領は魔術ですよ?魔術アリでもう一度やりませんか?」

 

魔術アリでもう一度しよう。このままエリスに良いところを持ってかれる訳にはいかないのだ。夫としてのプライドがある。

 

「分かったわ。そう来なくっちゃね」

 

戦闘民族のエリスは乗ってきた。自信のある目である。

ちょ、ちょっと不安になってきたな…。

 

だが、引くわけにはいかない。

俺は、そこの少年達の羨望を集めなくてはならないのだ。

 

「ではもう一回行きますよ…?いざ尋常に、開始!」

 

「……」

 

今度は無言でエリスが突っ込んで来る。

吶喊は二度目の効果は無いからな。

 

早速、エリスの進路に泥沼を出す。エリスが一瞬足を取られた好きに柵を振りかぶるが…

 

「フンッ!」

 

エリスは柵を杖のようにして、両足を嵌めたのに飛び出てきた。こうなると、ピンチになるのは俺の方だ。

 

慌てて、土で壁を作る。

良く見えないが、エリスは蹴りを入れて後ろに下がったようだ。

 

やばい、エリス、とんでもなく強くなってる。このままじゃ敗けかねない。手にファイアーボールを籠めると…

 

「まあ、こんな物ね」

 

エリスから漂ってたオーラが消えた。

隣には、唖然とした少年達が居る。

 

そうだよ、俺の実力も見せたかっただけじゃん。

 

何はともあれ、俺は威厳を保つことに成功した。

 

ーーー

 

 

「じゃあ、今日の授業はこんな物ね」

 

「「はい!!」」

 

あのエリスが人に物を教える立場になったと思うと、感慨深い物がある。

 

あれ以降、俺達は先に剣術を教えて、そのあと魔術を教えることになった。

 

エリスは『喧嘩のときはマウントを取れ』だとか『足は常に出せるようにしろ』だとか、何を産み出そうとしてるんだって感じのアドバイスをしていた。

 

信じて送り出した息子がエリスみたいなのになって帰ってきたら、俺が親父なら泣くね。

 

魔術の方は、中級魔術こそ使えなかったが、数は打てるようになった。

見た感じだと、どちらかと言えば剣の方が得意そうなので良しとする。

 

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

 

エリスと少年を引き連れて凱旋する。僅か一週間だが、随分村に溶け込むことが出来た。

この調子なら、次の村も上手く行くだろう。

 

「あ、何か困ってることは有りませんか?」

 

どことなく焦燥した様子の村人に声を掛ける。

まだ見たことがない奴だな。

 

「い、いえ!失礼します!」

 

そう行って駆けて行ってしまった。

なんなんだ、一体。てか敬語が使えるのか?ふむ……怪しい。

 

「ちょっと、様子が変ですね。後を付けて見ましょうか」

 

「そうね」

 

「あの、彼らを見たことが有りますか?」

 

「え、近所のおじちゃんだよ。俺達が生まれたときからは居たよな」

 

「う、うん……」

 

ベンとサッチャーがそう返事する。

あれ?もしかして見当違い?

 

ーーー

 

少年達を家に帰して、彼らの後を追うことにする。

かなりなんでもなさそうな気がするが、一応、念には念を入れて、だ。

 

彼らが行った先は、代官の家だった。

最後まで態度が軟化しなかった奴である。

 

「レスターさん、どうやら、本当に領主が交代してたみたいですよ!」

 

「はあ?んなバカな!徴税官は来たんだぞ?それとも私が中抜きしてると言うのかね?」

 

「そ、そういう訳じゃないんですがね…」

 

何やら怪しい会話をしている。因みに、代官の名前がレスターだ。

 

俺とエリスは、もっと良く聞こうと窓際に耳を近づけて…

 

「こうしちゃいられない!あの方々に報告しないと!」

 

あ、ヤバイ。代官が走って家を出てきた。

 

近くに隠れる場所はない。どうするか迷ってる内に、代官が出てきてしまった。

 

「ルーデウスさん!ルーデウスさん!大至…きゅ……」

 

何やら俺の名前を叫んでいたが、窓際に居た俺達と目があってしまった。

 

「タイミングが良いですね!」

 

「え、あ、はぁ……」

 

 






話を付け足して二話に分けるかも知れません。
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