無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
また馬車を走らせて一時間ほど。
「へぇ……」
「これは……」
シル村もまた、アスラ王国特有のジレンマに襲われた土地だった。ブエナ村と何も変わらない。
「おい、あれ、お貴族様じゃないか?」
「なんでぇ、いきなり押し掛けて来やがって…」
「ちょっと、代官様を呼んでこいよ」
遠目に農民達が騒いでるのが見える。
まあ、何しに来たんだって話だよな。これが最初の村だからあれだが、二・三個回る頃には名前が売れてると信じたい。
すると、呼ばれてきたらしい代官とやらが走ってきた。此方も、別に肥えてるなんてこともなく、若干身なりの良い農民と言った感じである。
こうして見ると、パウロのような貴族らしさのある代官は珍しいのかもだな。
「すいません、寡聞にして、どちらの方か存じ上げないのですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「ルーデウス・ノトス・グレイラットです。此方の二人は気にしないでください。新しく僕の父が領主になったので、それを周知させる為にこうして伺わせて貰いました」
「…領主はピレモン様じゃなくなったのですか?」
「ええ。つい一週間ほど前に変わりました」
「はあ……あ、いえ。失礼しました。では、翌日までに村の者にも広めておきます。周辺の村にも私の方で広めておきますので、此処からもう少し離れた村に行っては如何でしょうか?」
どうやらまだ、領主交代の話は広まってないらしい。
あまり農民は他所に移動しないので、そのせいかも知れない。
「いえ、そこでですね。噂によると、水不足で困っているのでしょう?僕は、魔術が使えるんですよ。そこで、一週間ほど滞在させて貰うので、何か入用なことがあればお申し付けください」
「そんな、高貴な方に雑用など滅相もない…。そういったことは、私どもの方で何とか致しますので…」
「僕たちは人気取りがしたいんですよ。此方からもお願いします」
「…分かりました。ですが、彼等が無礼を働くこともあるかも知れません。そのときは、どうかご寛恕頂きたく存じます……」
代官はやけに疲れたような表情でそう言った。
申し訳ない。
ーーー
「えー、では、どこにお泊まりになりますか?」
「僕たちはそこの馬車で結構ですよ」
「はあ…。で、魔術で何かしたいのであれば、そこらの農民に話し掛けてください。一応、最近はあまり雨が降ってなくて困っていますが、世帯によっては雨に降られても困る場所があるかも知れないので」
代官はそう言うと、足早に去っていってしまった。
仮にも上級貴族に対する物とは思えない対応だ。
まあ、俺達は気にするタイプじゃないが。
「あの男、此方を警戒していたようだ。一応、怪しい行動は慎んだ方が良い」
ギレーヌがそんなことを言ってくる。
"迷惑"とかじゃなくて"警戒"?
野盗の類いとでも思われているのだろうか。
そうならない為にも、わざわざ高級そうな馬車に乗ってきてるのだが。
因みに、貴族の身分を騙って窃盗をすると、死刑である。国からの指名手配になっても可笑しくない程重罪だそうだ。だからこそ、何故警戒されるのか分からない。
「まあ、考えてても仕方ないですね。早速、そこら辺の農家の人に聞きに行って見ましょうか」
「そうね」
農道をブラブラと歩く。
すると、一人の農家が農作業をしていた。
早速、聞き込み開始だ。
「すいません、何か困ってることとか無いですか?」
「うわっ、え……なんだ、突然。どちらさんだ?」
随分雑な口調で返事が返ってくる。貴族と分かっているのだろうか。
「新領主の息子、ルーデウス・ノトス・グレイラットです。領主交代を周知してもらう為に、領内を回っているんです。魔術が使えるので、人気取りをしている最中なので、何かお困りのことがあれば、手伝えるかもですよ」
「領主交代……?えー、あー…………そ、そうだな。じゃあ、どの位のレベルのもんが使えるんだ?」
「一応一式、召喚魔術と治癒魔術以外は上級以上に使えますよ。水魔術に関しては聖級まで使えますね」
「あー、そりゃすげえな。……じゃあ、ちょっと雨を降らしちゃくれねえか。此処んとこ全く降らなくて困ってんだ」
分かっても尚、この口調らしい。
まあ、平民はそこまで敬語を使える訳でも無いそうだからな。
「分かりました。行きますよ。ちょっと離れて下さい」
「えっ?……ああ…」
そっちから頼んだんだろうに。
ちょっと無詠唱で魔術使って脅かしてやろうか。
手に魔力を込めて、雨雲をかき集める。ウォーターボールを打っても畑をグチャグチャにするだけなので、若干大変な作業だ。
それにしても、雲自体が少ないな。結構カラッとしている。
だが、頑張れば集められないこともない。空中から集めて…行ける!
「え、うわっ!」
農家のおっちゃんが驚きの声をあげた。
もしかすると、本気で出来るとは思ってなかったのかも知れない。
眼前には、四角状に雨が降ってる畑がある。大成功だ。
「雨が降ったのか?!って……え?」
音を聞きつけ、周辺の家からも人が出てくる。
そして一様に、一区画だけに降っている雨を見て驚いていた。
(中々に気持ち良いな、これ!)
久々に自分に自信が出ました。
ーーー
「あんちゃん、納屋の壁がボロいんだ。治してくれねえか」
「ウチも雨が降らなくて困ってるのよ。お願い出来るかしら」
あのあと、農家達に畏敬の目で見られて一通り気持ち良くなった俺は、大人気になっていた。
ロキシーは魔族だが、俺は人間だ。その分、受け入れられるのが早かったのかも知れない。
俺は農家の頼みに答えて、あっちに行っては壁を直し、此方に行っては雨を降らせ…兎に角、魔術で大活躍をしている。
俺の心に細やかな全能感が出てきた。
ショボいとか言っちゃいけない。これでも、かなり大切なことだ。
隣のエリスはひたすらに自慢気な表情をしていた。
何もしてないとか言っちゃいけない。夫の功績は嫁の功績だ。
しかしそれにしても、なんていうか便利グッズみたいな扱いだな。これ、領主の人気取りとして正しく機能してるのだろうか。
「おおっ、すげえ!かなり金掛かると覚悟してた修繕作業が一瞬で…!」
「お兄ちゃん、これ美味しいね!凍らせるだけで果物ってこんなに美味しくなるんだ!」
まあ、受け入れられないよりはマシか!
ーーー
「有り難うね。これはお礼よ。是非夕飯に食べて!」
一通り手伝いを終えた俺は、人の良さそうなオバチャン達から食材を貰った。保存食生活を覚悟していたので、かなり嬉しい贈り物である。
「なんなら、ウチに泊まって行っても良いのよ?」
「いえ、色々と騒がしくしてしまうかも知れないので…」
「そう?泊まりたくなったら何時でも言ってね?」
そんなことを言いながら、オバチャンが去ってく。
そう、こう言うのだよ。異世界は斯くあるべきなんだ。
幼馴染みと一緒に学校に行こうと思ったら親父にぶん殴られて、仕事先の主もとんでもなく凶暴で、やっと落としたかと思えば義父に政治利用される。
あまりにも可笑しい生き様だ。
魔術師ってのは、こうあるべきだろう。ほのぼのスローライフ生活でチヤホヤされて然るべきなのだ。
「流石はルーデウスね!やるじゃない!」
エリスは凄くハイテンションだった。
何故か今日は、凄く順調だ。
…反動が来たりしないよね?
そんなことが心配になったが、結局何事も無く馬車に戻っておせっせして寝た。
そこら辺で立って寝てたギレーヌは流石だと思う。
ーーー
翌日。そしてその次の日も、俺は魔術を使って様々なお悩みを解決していた。
「いや~、ホントに助かる。でも、そろそろ雨を降らして貰うくらいしかやって貰うことは無いな!」
上機嫌で農家のおっちゃんが話し掛けてくる。最初の低テンションとは大違いだ。
「そうなんですか。そうなってくると暇ですし、そろそろ次の村に行きましょうかね?」
「いや、あと四日位は降らしてくれると有難い。どうしてもって言うなら止めないが…」
でも、やることが無くなるんだよな。雲を集めて雨を降らせるだけだし、そんなにやることもない。
「じゃあお兄ちゃん、俺に魔術を教えてくれよ!」
「僕も僕も!」
すると、遠目に見ていた少年達が俺に教えを乞いてきた。
あと四日位だが、初級魔術くらいなら教えれるかもしれない。
一丁、やってみるか!
ーーー
一人称が"俺"の子供がベン。"僕"の子供がサッチャーというらしい。
シルフィと違って、ちゃんと男だと分かる見た目をしている。どちらかと言えば、ソマル坊とかそういう系統の少年だ。
「じゃあ、魔力を手に集めてみようか」
やることはシルフィへの授業の焼き直しである。
かなり時間が掛かったが、二人の少年は軽く魔術を使うことが出来た。
こうして見ると、シルフィの飲み込みの良さが分かる。
元気にしてるかな、シルフィ。
「おおっ!」
「出来た!」
かなりはしゃぐ二人。いやあ、喜んでくれたようで何よりだ。
「それじゃあ、魔力が切れる直前まで打ってみようか。そうすると、若い内なら魔力が増える可能性が高いはずだ」
流石に無詠唱では出来ないみたいだったが、それでも若さは偉大だ。こうして若い内に沢山使っておけば、ある程度は出来るようになるだろう。
「はぁ…はぁ……」
疲れ切ったように、二人の少年は肩に息を付く。
「よし、なら、今日は終わりにしよう。また明日もやってみて、もう少し魔力が増えたら、出来るか分からないけど、中級魔術の練習もしてみようか」
「「はい!」」
そう言って、少年達が駆け出そうとした所で…
「ちょっと待ちなさい!」
エリスが声を上げた。
何をする気だろうか。
「な、なに?俺達、疲れたから帰りたいんだけど…」
「ねえ、貴方達、剣術も学んでみない?剣術なら教えてあげられるわよ」
俺に触発されたのか、エリスがそんなことを言った。
「え~、魔術の方がカッコ良くない?」
「だよね」
二人の少年はそんな生意気なことを言う。
だが、エリスは全然余裕そうだ。成長した物である。
「まあ、見てなさい!ルーデウス、やりましょ?」
「えっ、今からですか?」
不味い。この流れは、俺が当て馬にされる流れだ。パウロに始まり、フィリップと続き…基本的にこの家に攻撃魔術の使い手は居ないので、他のことで比べられると俺が噛ませ犬になってしまうのだ。
「やるわよ!」
しかし、エリスはそんなことで止まるような女じゃない。
近くの柵を抜いて、一本を俺に投げ渡して来る。
「負けちゃうと思うんですが…」
「でも、全く出来ない訳じゃないでしょ!良いから!」
仕方ない、嫁さんの為に一肌脱ぐか。
「では、見ていて下さいね」
「あ、うん…」
危ないかも知れないので、子供達を下がらせる。
「では……始め!」
「ガアッ!」
始まった瞬間、エリスが吶喊しながら突撃してくる。
が、それは慣れた物だ。顎先を殴られる可能性もあるので、若干距離を取りながら警戒する。
すると、思いっきり真正面からエリスが振りかぶってきた。
危ない、そう思い目を瞑りそうになるが、気合いで目を開き受け止める。しかし……
「うわ!?」
思ったよりエリスの力が強くて押し切られてしまった。
「と、まあこんな物よ。どう?」
「「す、すげー!」」
やっぱり、予想通り当て馬にされてしまった。
物凄くキラキラした目でエリスの方を見ている。
いや、このままじゃ癪だ。
「ちょっと待ってください。僕の本領は魔術ですよ?魔術アリでもう一度やりませんか?」
魔術アリでもう一度しよう。このままエリスに良いところを持ってかれる訳にはいかないのだ。夫としてのプライドがある。
「分かったわ。そう来なくっちゃね」
戦闘民族のエリスは乗ってきた。自信のある目である。
ちょ、ちょっと不安になってきたな…。
だが、引くわけにはいかない。
俺は、そこの少年達の羨望を集めなくてはならないのだ。
「ではもう一回行きますよ…?いざ尋常に、開始!」
「……」
今度は無言でエリスが突っ込んで来る。
吶喊は二度目の効果は無いからな。
早速、エリスの進路に泥沼を出す。エリスが一瞬足を取られた好きに柵を振りかぶるが…
「フンッ!」
エリスは柵を杖のようにして、両足を嵌めたのに飛び出てきた。こうなると、ピンチになるのは俺の方だ。
慌てて、土で壁を作る。
良く見えないが、エリスは蹴りを入れて後ろに下がったようだ。
やばい、エリス、とんでもなく強くなってる。このままじゃ敗けかねない。手にファイアーボールを籠めると…
「まあ、こんな物ね」
エリスから漂ってたオーラが消えた。
隣には、唖然とした少年達が居る。
そうだよ、俺の実力も見せたかっただけじゃん。
何はともあれ、俺は威厳を保つことに成功した。
ーーー
「じゃあ、今日の授業はこんな物ね」
「「はい!!」」
あのエリスが人に物を教える立場になったと思うと、感慨深い物がある。
あれ以降、俺達は先に剣術を教えて、そのあと魔術を教えることになった。
エリスは『喧嘩のときはマウントを取れ』だとか『足は常に出せるようにしろ』だとか、何を産み出そうとしてるんだって感じのアドバイスをしていた。
信じて送り出した息子がエリスみたいなのになって帰ってきたら、俺が親父なら泣くね。
魔術の方は、中級魔術こそ使えなかったが、数は打てるようになった。
見た感じだと、どちらかと言えば剣の方が得意そうなので良しとする。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
エリスと少年を引き連れて凱旋する。僅か一週間だが、随分村に溶け込むことが出来た。
この調子なら、次の村も上手く行くだろう。
「あ、何か困ってることは有りませんか?」
どことなく焦燥した様子の村人に声を掛ける。
まだ見たことがない奴だな。
「い、いえ!失礼します!」
そう行って駆けて行ってしまった。
なんなんだ、一体。てか敬語が使えるのか?ふむ……怪しい。
「ちょっと、様子が変ですね。後を付けて見ましょうか」
「そうね」
「あの、彼らを見たことが有りますか?」
「え、近所のおじちゃんだよ。俺達が生まれたときからは居たよな」
「う、うん……」
ベンとサッチャーがそう返事する。
あれ?もしかして見当違い?
ーーー
少年達を家に帰して、彼らの後を追うことにする。
かなりなんでもなさそうな気がするが、一応、念には念を入れて、だ。
彼らが行った先は、代官の家だった。
最後まで態度が軟化しなかった奴である。
「レスターさん、どうやら、本当に領主が交代してたみたいですよ!」
「はあ?んなバカな!徴税官は来たんだぞ?それとも私が中抜きしてると言うのかね?」
「そ、そういう訳じゃないんですがね…」
何やら怪しい会話をしている。因みに、代官の名前がレスターだ。
俺とエリスは、もっと良く聞こうと窓際に耳を近づけて…
「こうしちゃいられない!あの方々に報告しないと!」
あ、ヤバイ。代官が走って家を出てきた。
近くに隠れる場所はない。どうするか迷ってる内に、代官が出てきてしまった。
「ルーデウスさん!ルーデウスさん!大至…きゅ……」
何やら俺の名前を叫んでいたが、窓際に居た俺達と目があってしまった。
「タイミングが良いですね!」
「え、あ、はぁ……」
話を付け足して二話に分けるかも知れません。