無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「アスラ王国ではね、基本的に、領主が変わると免税措置が取られるんだ」
一週間程前、俺はフィリップから授業を受けていた。
「そうなんですね。何か理由とかはあるんですか?」
「まあ、一番の目的は『新領主の就任』を無理矢理にでも良い印象にする為かな」
「というと?」
「ほら、税金が無くなれば嬉しいだろう?そうすれば、新領主も歓迎しやすくなるってものさ」
「ああ、なるほど」
つまり、どのような事情があっても、領主の交代を無理矢理グッドイベントにして、領民に受け入れやすくさせようって訳だ。
とは言っても…
「流石に、一年も取らないと悪影響が出てくるんじゃ?」
「一年?」
「え、違うんですか?」
「大昔は、そういう時代もあったみたいだけど…普通は、一ヶ月に一度だ」
「理由とかはあるんですか?」
「さあ、そこまでは別に知らないね。ただまあ、徴収するのは一ヶ月に一度で、領主が交代したときは免税される。それさえ覚えておけば良い」
この後も授業は続いてく…
後に気になって調べて見ると、色々なことが分かった。
例えば、この世界の人間はすぐ死ぬ。
山に芝刈りに行けば死ぬし、川に洗濯に行っても死ぬ。そうじゃなくても、なんちゃら大戦だとかで死ぬ。
特に、この法律が制定されたときは、一年単位だと戸籍が追えない程に酷い状況だったらしい。
だから、一ヶ月に一度の徴税になったのだとか。
領主が交代すると免税って言うのは、間違ってとんでもないバカに継承させてしまったときに、引きずり落としやすくする為ってのも有るらしい。
例外は戦時中だ。
とにかく、昔の人も色々考えて法律を作ったんだね、ということだ。
ーーー
「つまり、税金は徴収されたから新領主の交代は嘘だと思ったと?」
「ええ…」
どうやらこの代官は、そこの村人に領都の方に兵士を呼ばせに行ったらしい。
初めは自警団でなんとかしようとしてたけど、魔術の腕を見て考えを変えたそうだ。
だから、テンションが村人達と反比例してたんだね。
そこで、本当に領主がパウロに変わったことを知ったのだとか。
「徴税官は、どこの者だと?」
「特に名乗って居ませんでしたが…」
領主交代に乗じた特殊詐欺だとか、あるいは徴税官が知らなかっただとか、そういう可能性もあるにはある。
でも、十中八九…
「ピレモンにしてやられたわね」
エリスでも分かったようだ。
ピレモン。
俺達がちょっとでもイチャつこうとすると余計なことをしてくる野郎だ。
というか、もしかして俺達は今後、あいつが講じた策の数だけ、面倒ごとに巻き込まれるのか?
別に悪感情とかも無かったが、流石にこう何度も何度も面倒なことをされては腹も立つ。
帰ったら、フィリップに連絡してなんとかしよう。
「で、そのことは連絡したんですか?」
「はい。領主様に連絡した筈です…」
因みに、俺達は本物の貴族だとは思われてなかったそうだ。ただ、便利だしそれで良いか!位に思われてたらしい。
そんなんで良いのだろうか。
「じゃあ、僕達は観光を楽しみましょうか」
連絡が行ったなら問題ない!
ピレモンに掌の上で踊らされてたまるかってんだ。
「ダメよルーデウス!早く帰らないと!」
うぐっ、エリスが正論を言ってきた。
どちらかと言えばエリスの為なのに…。
「でも、まだあの二人にだって教えることとか有るんじゃないですか?」
「うぐっ……でも、仕方ないじゃない…」
そう。エリスだってたまには羽を伸ばすべきなのだ。
別に、帰ったらフィリップに何かやらされそうだなぁ、とか思ってる訳じゃない。
無いったら無い。
「ダメだ」
ポン、と俺の肩に手が置かれる。
ギ、ギレーヌ?!何故ここに?!馬車に居た筈じゃあ?!
「言っただろう。私は耳が良いと」
なんだこいつチートか?
しかし、形勢不利だ。どうにかしないと…お、あそこの道に農家のおっちゃんが歩いてる!おっちゃん!
「あの!すいま…」
「おお、坊主!ありがとうよ!これで作物も無事育つぜ。安心して次の村に行ってくれや」
(おっちゃーーーん!!!)
不味い不味い。3:1になってしまった。
此処から立て直すには…そうだ!遠目に見えるあの二人!
「ベン、サッチャー!初級魔術は覚えきれてないよな?」
「いや、お兄ちゃん達のお陰で良く分かったぜ!これで俺達も魔法剣士だ!」
(ガキども!!!)
クソッタレ!5:1だ。
これはもう、ダメなのか…
「さっ、帰るわよ」
サバサバ系女子も、問題かも知れないと思った瞬間だった。
ーーー
あの後、急いで馬車で領地まで帰った。
途中で何度か森に寄って狩りをしたりしたが、今度は普通に動物が居た。
最初の森に、何かとんでもない物が居たりしたんじゃないだろうな。
「おお、ルディ…早かったな…」
領都に帰った俺達は、早速パウロに迎えられていた。
ギースが来てマシになってた顔色が、また元に戻ったかのようにゲッソリとしている。
「それで、楽しんで来れたか?」
「やだなぁ、父様ってば白々しい…」
「はぁ?」
「え、もしかして知らないんですか?」
パウロと若干話が噛み合わない。
もしかしてこれは…
「ルディ、どういうこった。お前の為に頑張ってる父親をおちょくるってんなら、俺にも考えがあるぞ」
「父様……もしかして、僕達が帰ってきた理由について連絡が来ていない?」
最悪の形で、ピレモンの策略が噛み合った瞬間かも知れない。
ーーー
「てな訳で、第二回グレイラット家当主会議を始めます~パチパチ~」
「不味いな、ピレモンに実弾を渡しちまったか。こりゃ、どうなるか分かんねえぞ…」
「丁度、文官の雇用を始めた時期に……」
ちょっと空気が違いすぎやしませんかね。
因みに、パウロの言ってる実弾ってのは金のことだ。
「で、どうするんですか」
「同時平行でやらないといけないことが三つも出来てしまった。これは、覚悟が必要かもしれない…」
「僕も父様も分からないので、フィリップ先生、ご教授お願いします」
「ああ…まず一つ目だが、下の方の文官の裏切りを見つけることだ。上の方だけならギースの監視網でなんとかなっていたが、下の方となるとどうしようもない。全員入れ換える訳にもいかないからね…」
それだけでとんでもない業務になりそうだ。
そもそも、領政に携わる人間は下っ端も含めれば、千人も居るのだ。
それを数人で捜査する?それだけで、明らかにキャパシティーオーバーだろう。
「そして二つ目は、ピレモンが金を何に使っているのか調べることだね。賄賂なのか、傭兵を雇ってるのか…流石に、パウロが正式に就任したから後者はないと思うけど…それでも、探らないと対応が後手になってしまう」
此方も此方で大変そうだ。傭兵団だって、チンピラやヤクザみたいなのも含めれば、とんでもない数が居るしな。貴族も下級まで含めたら一万人近く居る。地方の代官職だって、貴族がやってることがマチマチだ。
「で、三つ目はピレモンがどこに潜伏してるのか探ることだ。身柄を押さえられなければ、また何か違う方法で妨害してくるだろう。しかし、抜かったな。金庫には手を付けられていないみたいだから油断していた…」
これもまた、気の遠くなるような作業だ。
一つ一つの領邦が、小国並みにデカイのだ。
一体どう探せば良いと言うのだろうか。
どこかにレーダーとか、万人を見渡せる神様みたいなのが居れば良いのだが。
「どれも、とんでもない作業になりそうですね。となると、僕もここで政務でしょうか?」
「ああ…しかし、それにしても本当に困った。只でさえ人材不足なのに、今度は武官まで必要になるとはね…」
俺が、デスマーチを覚悟した、その時だった。
パウロが口を開く。
「なあ、フィリップ…文官の採用自体は出来るんだよな?」
「あ、うん。そうだね。何か案があるのかい?」
「ここに居るじゃないか。武力に信頼が持てる奴が」
(とっつぁん?!)
俺の肩に手が置かれた瞬間、ドアがバン!と蹴り飛ばされる!
「話は聞いたわよ!!ルーデウス!!」
(かっつぁん?!)
どうやら、俺の新婚旅行は終わらないみたいです。
ゼニスじゃなくて、エリスです。