無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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間話「魔大陸へ」

 

 

ーーーロキシー視点ーーー

 

 

「いや、わたくし何もしていませんの!ちょ、辞めてくださいまし!」

 

路地裏から、そんな声が聞こえてきた。

此処はミリシオン。ミリス神聖国の首都だ。

 

覗いてみると、長耳族で縦ロールの綺麗な女性が、数人の男に囲まれて腕を引っ張られていた。

 

最近は、大森林の諸部族との間で緊張間が高まっていて、時々、一部の市民が暴走したりするのだ。

今回も、例に漏れずそう言うことだろうと思い、助けに入る。

 

殺してしまっては不味いので、初級魔術で追い散らしておいた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああっ、貴女、何するんですの?!」

 

「え、あ…お知り合いでしたか?」

 

ロキシーは、自分でも自覚があるドジっ子だ。

即断即決は美徳でもあるが、同時に勘違いを誘発しやすい。だから、今回も別に何でもないところに割り込んでしまったのではと思ったのだが…

 

「いや、別に知り合いでは無いですわよ?」

 

「はい?…あ、抵抗したら不味いタイプの手合いでしたか?」

 

どうやらそうではないらしい。ミリシオンはそれなりに治安が良いと思っていたが、組織化されたチンピラが居たりするのだろうか。

 

「いえ、別にそう言う訳でもないですわ。というか、なんで分からないんですの?」

 

「ええ?すいません、分かりません」

 

もしかして、何かイチャモンを付けられてるのだろうか。身ぐるみを剥がれて、奴隷にされてしまったりするのだろうか。

『通報されたく無ければ、金を寄越せ』……だなんて言われるのかも知れない。

 

思考がそんなところまで突入していた。

直ぐに魔術の用意をしないだけ、多少は早とちりも直ってきたが、それでもかなり早い結論である。

 

そんなロキシーを見かねて、長耳族の女はため息をつきながら正解を言ってくれた。

 

「はあ…数人の男が、わたくしを怒りの捌け口にしようと必死に侵してくるんですわよ?そんなの、乗らない訳にはいかないじゃないですの」

 

(あ、早とちりました)

 

ロキシーはそう思った。

全く以て、その通りであった。

これが、長耳族の女…エリナリーゼとロキシーの出会いである。

 

ーーー

 

 

「なんであんな紛らわしい声を出してたんですか?」

 

「今のミリシオンならイケると思いましたの」

 

繰り返して言うが、今のミリシオンはピリピリしている。なので、一般人は火中に飛び込むような真似はしないのが普通だった。

ロキシーは来たばかりなので、そこまで考えが至らなかったが。

 

「で、エリナリーゼさんは冒険者なんでしたっけ」

 

「そうですわよ」

 

「なら、魔大陸の方に行きたいんですが、同行して貰えないですか?」

 

「うーん、ちょっと待ってくださいまし」

 

女の名前は、エリナリーゼと言った。

何処かで聞いたことがあるような気がするが、あと一歩のところで出てこなくなってしまう。

 

エリナリーゼは美人で背も高く、胸こそ無いがスレンダーな良い体をしていた。

どうせなら、その体を私にくれれば良いのに。

ロキシーは、この世の不条理を呪った。

 

「あの、どこに向かってるんですか?」

 

「仲間……いや、しけたジジイのところですわよ。わたくしとは同行するのですけど、一応聞いておこうと思いましたの」

 

どうやら、仲間が居るらしい。

先程、あまり身なりの良く無さそうな男に囲まれて、発情してたエリナリーゼが、『しけたジジイ』とまで評すとは、一体どこまで酷いんだと身構えてしまう。

それなりに強そうだったので声を掛けたが、判断ミスだったかと思わざるを得ない。

 

しかし、それを面と向かって言う訳にもいかないし…

そんなことを考えている間に、ズンズンと女は進んでいってしまう。

 

やがて、一件の酒場の前でエリナリーゼは立ち止まった。

ロキシーはこの場から離れたかったが、遅かった。

肝心な場面で即断即決さが活かせず、悲しい気持ちになってきた。

 

「タルハンド!用事ですわよ!」

 

大声を上げてエリナリーゼがドアを開けた。

ん?タルハンド……?

中に居たのは、思ったよりかは普通な炭鉱族だった。

 

「なんじゃ、うるさいわい!大声を出すでないわ!」

 

タルハンド…エリナリーゼ…………

ロキシーの頭の中をグルグルと名前が回る。

やがてそれはロキシーの頭の中で一つの言葉になって…

 

(黒狼の牙!)

 

ロキシーが、何事も結果を待ってみよう、と思った瞬間だった。

安易な結論である。

 

ーーー

 

「へー、あのパウロの息子がですの」

 

黒狼の牙というだけでも驚きだったのに、更にはパウロ達の知り合いだった。そう聞いたロキシーは、すっかり驚いてしまった。

 

あのパウロがパーティリーダーだったとか、衝撃の新事実が多すぎて軽くショート気味であった。

 

 

驚いたのは、二人も同様だ。

ロキシー・ミグルディアと言えば、最近有名になってきた冒険者であり、魔術師だ。

時の人なのである。

 

迷宮をソロで突破し、あっという間にA級になり、

その後に取った弟子の少年は、アスラの超上級貴族にまで成り上がった。

噂によれば、その少年に知識を教え込んだのは、あの青髪の魔術師であると言う。

そして、今もまだ関係が続いているとか。

 

個人の武勇に優れ、更にはアスラ貴族を出し抜く程の知恵もある。それが、今のロキシーへの評価だった。

 

本人からしてみれば良い迷惑である。

自らが功績を求めなくなると、却って功績が積み上がっていくのは皮肉な話だった。

 

 

 

と、そんな有名人である三人だが、あっという間に意気投合…とは行かなかったが、それなりに仲良くなった。

 

それは、共通の話題があったからだ。

パウロらグレイラット家のことである。

どうやら、ロキシーが会った頃のパウロ夫妻と、黒狼の牙だったころのパウロとゼニスは、結構性格が違うらしい。

なので、知ってる人物のことでありながら、お互いに新鮮だったのだ。

因みに、ロキシーのパウロへの株は結構下がった。

 

あまり話を続けると、ブエナ村の日々が濁りそうだったので、今は、二人の息子であるルーデウスの話をしてる所である。

 

 

「そうなんですよ。私には過ぎる程に優秀で…あげくの果てには成り上がり?ちょっと、私には荷が重すぎましたね…」

 

「あのパウロの息子がのう…にわかには信じられんの」

 

「いや、ゼニスの血じゃありませんの?」

 

「ゼニスとて、成り上がり願望など無かったじゃろうて」

 

「あの子は、多分誰かの教えとか関係なしに成長する子だと思いますよ。はあ…我ながら、自分が情けないです」

 

パウロに対して、ルーデウスの株はストップ高を記録していた。

エリナリーゼ達の中で、ルーデウスは伝説の賢者か何かみたいな存在と化していた。

が、そのルーデウスはロキシーを褒めるので、ロキシーは墓穴を掘っているのだが…そんなことは、預かり知らぬロキシーであった。

 

「じゃあ、本題に入りましょうか」

 

「なんじゃ?」

 

「わたくしたちは、魔大陸の方に行きますの。タルハンドも付いて来ます?」

 

「いや、わしは一回、帰郷しようと思っとる。その後は行くやも知れんが…今回は、パスじゃな」

 

「あら、そう」

 

さして残念でも無さそうにエリナリーゼは言った。

元から、そこまで期待してなかったのかも知れない。

 

「でしたら、わたくしたち二人ですわね。若干、心許ないですけど…まあ、いざとなったら魔大陸で考えたら良いですわ」

 

こうして、ロキシーの旅は進んで行く。

共通の話題が少なかったので、ずっとパウロの話ばかりだったが…

エリナリーゼの罵倒のネタは尽きなかったので、ロキシーはエリナリーゼが意外にもパウロが好きだったのだと思った。

 

魔大陸に行った後は、なんとか二人を会わせたい。

ゼニス、パウロ、エリナリーゼ、タルハンド。

きっと、感動の再会になるだろう。

旅の道中、ロキシーはそんなことを考えていた。

 

まだ、平和な頃だったから。

 

 

 

ーーールーデウス視点ーーー

 

 

「そうか。分かった。じゃあ、俺の分の仕事を領都でやっといてくれ……ベックショイ!」

 

「分かりました…ックシュン…」

 

風邪でもひいたかな。クシャミがさっきから止まらない。パウロも同じようだった。

 

それはさておき、今回の端末をパウロに報告すると、そう言われた。

直接言われては居ないが、多分「代わりに俺が探索するから」と先頭に付くのだろう。

 

「しっかしまあ、全然連絡が取れやしねえ…」

 

パウロはそんなことを独りごちていた。

最近はあまり、パウロと喋る機会も無かったので、世間話がてら少し話そう。

 

「どうしたんです?」

 

「あ、いや…昔のパーティメンバーに声を掛けたりしてるんだが、全然返信が返って来ねえんだよ。それどころか、ギースですらあんま連絡が返ってないんだ」

 

「何処かで握り潰されてるんじゃないですか?」

 

「いや、別れ方が別れ方だったからな……ギースの野郎も大概適当だしな。アイツ、良く金をくすねてギャンブルをやってたもんだ」

 

「へー…」

 

パウロの方は特に何も違和感を感じてないようだが、俺の方は若干、違和感を感じていた。

ロキシーからの手紙が返って来ないのだ。

別にロキシーは筆まめという程でも無いだろうが、あんな手紙を送ったからには、一通位返すと思う。

 

「シーローン王国から此処まで手紙を送ると、何ヵ月位掛かると思います?」

 

「大体一ヶ月位じゃないか?大体、普通に旅をするのの半分位で届くと思うぜ」

 

「なるほど」

 

「ロキシーちゃんか?」

 

「ええ」

 

「なら、もう届いてても可笑しくないんじゃないか?」

 

「だと思うんですが…」

 

パウロも同意見らしい。丁度、ロキシーに手紙を送ってから今日で2ヶ月だ。

 

何かあって書き出しが遅くても、そろそろ返って来ないと可笑しい気がする。

他の手紙は、逆算したら割と直ぐに返って来た計算になるからな。

ロキシー辞典だって、量的に直ぐ書き出さないとあのスピードでは返せなかっただろう。

だから、今までの行動を考えると、手紙が返って来ないのは可笑しい気がする。

 

と、此処まで考えていたら、まるで自分がLINEで即レス要求する奴みたいに思えて嫌な気持ちになった。

 

「ま、なんかあったのかもな。一年以上返って来なければ、初めて気にすれば良いと思うぞ。それにまあ…随分俺もお前も、相手に会ってないからな。そういう可能性だってある訳だ」

 

「ですね」

 

良く良く考えたら、パウロや俺だって、手紙の送り主と別れて随分経つのだ。

悲しいが、忘れられてることも覚悟しとかないとな。

 






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