無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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第二十話「茶番」

 

 

「着きました。王都アルスです」

 

騎士がそんなことを告げてくる。アルスといえば、世界で一番デカイ街だ。

王城のシルバーパレスや貴族街の壮麗な偉容や、周辺の街に轟く喧騒。

どれを取っても飽きない街だと聞いていた。

流石、王都というだけあって、アスラ王国特有のジレンマも解消されていたのだ。

 

そんな訳で、地味に楽しみにしていたのだが……

 

「あの、すいません、王都アルスを見てみたいんですが」

 

「すいません、これも職務ですので」

 

窓は防犯上の観点から締め切られていた。

いや、分かるけども。なんとも融通が効かない奴等だな。

 

ガッカリだ。もっと緩急のある旅がしたい物だね。

 

 

ーーー

 

あのあと、結局寸分も街を見ることが叶わなかった俺達だったが、幸いなことに城を見ることは出来た。

超大国というだけあって、中々に常軌を逸した豪華さの城だ。

工芸品なんかの目端が効く訳じゃないが、パッと見ただけで中々の物だと分かる。

が、目を牽かれる物があっても騎士は待ってくれないのだが。

 

「どうぞ」

 

騎士がそういって、一つの部屋を指した。

勿論、窓と逆側の扉だ。ムチャクチャやってたピレモンの取り締まりはしなかった癖に、こういうところだけ職務意識が高いのはどうなのだろうか。

 

「おお、ルーデウス!エリス!」

 

中に入ると、物凄くデカイ声がしてきた。サウロスの爺さんだ。

 

「お祖父様!」

 

「お久しぶりです」

 

地味にフィリップが無視されてる。哀れだ。

まあ、二十越えた息子と孫世代の俺達なら、後者の方が可愛いだけだと思うがね。

 

「フィリップも久方ぶりだな。して、同じくピレモンの野郎に嵌められたみたいだが」

 

「そのようですね。さて、どうします?」

 

「何、ワシもフィットア領主だし、パウロもミルボッツ領主だ。陛下も二つのグレイラットを敵に回す真似はしまい。家格で勝てる者など、そう居ないだろう」

 

サウロスは、いつの日かの如く静かだった。以外にTPOは弁えてるのかも知れない。

…いや、若干臭うな。

なるほど。暇だろうしな。スッキリしたんだろう。

 

一瞬、隣に立ってる獣族のメイドさんと、サウロスの行為を想像してしまった。なんて恐ろしい光景なんだ。どっちが獣か分かった物じゃない。

 

「でしょうね。心配しなくても問題は無さそうです。不審な態度は取らないようにお互い気をつけましょう」

 

「うむ」

 

フィリップとサウロスは落ち着いているが、もし国王が本当に潔白な人間だったりしたら、どうするつもりなのだろうか?冤罪じゃないということを理解しているのだろうか。

 

見てみろ、パウロを。

キョドキョドし過ぎて、若干ピレモンみたいな顔になってるぞ。実行犯ならあの位の態度を取るべきじゃないのか。

 

「な、なあルディ…間違いなら良いんだが……言われてるの、ミニトーナとテルセナって獣族のことだよな。大丈夫なのか?」

 

パウロが小声で耳打ちしてきた。

そういやパウロとの話し合いは出来てなかったね。

 

「全くもって大丈夫じゃないですよ。というか、なんであの二人はあんなに堂々としているんでしょうか」

 

「え、いや、どうにかする方法は無いのか?フィリップと何か考えてたんだろ?」

 

「フィリップ様は、場の流れに任せると」

 

そういうと、今まで焦った様子で、小刻みに体を動かしてたパウロがピタッ、と動きを止めた。

 

 

息を一つ、スーッと吸う。

そして、深々とため息をつき…

 

「後で土で棒を作ってくれ。ピレモンを血祭りにすれば、なんとかなる筈だ」

 

 

ダメだコイツ、諦めてやがる……!

パウロの顔は穏やかだった。静かに、ただそこに見える終わりを受け入れている者の顔だった。

 

でも、やっぱり持つべき物は頼れる親父だ。今は、フィリップやサウロスの数億倍頼りになる。

 

そう思った矢先だった。

パウロの顔がみるみる内に蒼くなって…

 

「うっぷ、ごへっ………オロロロロロ…」

 

土魔術!

あ、あぶねえ。

 

どうやら、現実に今ようやく追い付いたらしい。

 

 

というわけで、ここに居る面子は堂々としてる犯罪者三人に、憔悴しきった犯罪者(被害者)一人。

 

…俺も吐いて良いかな?

 

 

ーーー

 

 

「…………」

 

「ふぅ………」

 

「…………」

 

 

そしていよいよ、呼び出しのときだ。

王の裁定の前に、一部の貴族の内で判断は下してしまうらしい。特に裁判官が居る訳でもなく、実質的に王は、『コイツら敵に回すと厄介だな』と思う貴族の量が集まると、追認機関と化すらしい。

余程酷いリンチのようなでっち上げの場合は、署名が多くても王が拒否するらしいが、今回の一件は思いっきり、頭からケツまで事実だ。

 

つまり、多少は情状酌量の余地が思わせないと最悪詰んでしまう。

ボレアスとノトスの力を合わせれば、余程の者を連れて来なければ問題ないと言っていたが…

どうにも、フラグのように思えてならない気がする。

 

そして、そんな背水の陣な状況に挑むのは三人の賢者だ。

 

純粋に頭が良い(筈だった)フィリップ。

下半身的に賢者なサウロス。

涅槃寂静へと至ったパウロ。

 

……

 

うっ、ヤバイ。

面子を考えたら一瞬走馬灯が見えた。

こりゃ、どう逃げるか考えないといけないな…

 

(エリスは自力でなんとかなるとして…問題はフィリップか…サウロスの爺さんは一体どんなもんなんだ?……

 

 

ーーー

 

ふと、ムカつく声で思考が戻る。

 

「おお、遅かったですね!待ちわびましたよ」

 

そんなことを言ってくるのはピレモンだ。

若干、前よりは卑屈な感じが抜けて、それなりのイケメンになっている。相変わらず小物感は拭えないが。

 

「おい、ピレ…

 

「では、始めましょうか!早速、開始させて頂きますね!」

 

パウロが何かを言おうとしてたが、ピレモンは完全に無視していた。

もしかすると、ピレモンの命に関わるかも知れない話だと気づいているのだろうか?

 

「えー、パウロ・ノトス・グレイラット殿!フィリップ・ボレアス・グレイラット殿!フィリップ・ボレアス・グレイラット殿!彼等は、重大な罪を侵して…

 

「すいません、遅れましたかな?」

 

今度はピレモンが何かを言おうとしてたところを、誰かに遮られていた。

遮ったのは、ハゲたデブの狸みたいな爺さんだ。明らかに悪徳大臣って感じの風体だが、誰なのだろうか。

そして後ろから、パウロをちっちゃくした見たいなイケメンと美少女が入ってくる。いや、本当に誰だ?

 

「「なっ!ダリウス!」」

 

「はぁ?」

 

お互いに余裕綽々だったピレモンとフィリップの顔色が一瞬で変わる。

『やりやがったな、こいつ!』って感じの表情だ。

そしてピレモンとフィリップの視線が交差して…

 

お互いに全く同じ疑問を抱いてることに気づいたようで、両者共に顔が困惑に染まる。

 

ダリウス、マジで何者なんだろうか。

 

 

「えっ………いや、え……ダリウス殿が何故ここに…」

 

「…突然呼び捨てとは、少々失礼ではないのですかな?というか、貴殿が呼んだのでは?」

 

「そんなことはないと思いますが…」

 

そういって、ピレモンがフィリップの方を見る。尋問するようにまじまじと、隠す気0の視線だ。

 

が、フィリップもポーカーフェイスすら出来ないようで、全く訳の分からなそうな顔をするばかりだ。

 

 

「そこに居られるお三方の、事前裁定ですよ。ダリウス殿も是非ご参加ください」

 

が、一人落ち着き払った少年が居た。

名前が分からないので、仮にリトルパウロと呼ぶことにしよう。

 

「ル、ルーク?あの…?」

 

おや、そんなことをするまでも無かったようだ。

後ろの美少女が名前を呼んだ。ルーク…あっ、最近話題のピレモンの次男か。

コイツが仕組んだのか?親父に事前説明くらいすれば良いのに。

 

「アリエル様も…何故……」

 

ピレモンが本気で哀れなくらい狼狽してる。

いや、ルーク少年が連れてきたってことは味方だろうに。

フィリップとピレモン、お互いに困惑が暫く続いたが…先に平静を取り戻したのはピレモンだった。

ルークが連れてきたから、味方だと思ったのだろう。

水を得た魚…という程ではないが、多少は落ち着いたようだ。

 

フィリップも落ち着こうとしてるようだが、考えが纏まらないようで何やらブツブツと呟いてる。

 

これは本格的に不味そうだな。エリスとパウロにサッと目配せする。二人は深く頷いて…?眠そうにしてるだけだった。

 

 

「え、えー、では気を取り直して…お三方には、戦争幇助の罪が…」

 

ピレモンが説明を再開する。

イレギュラーがあって意表をつかれたようだが、話す内に徐々に饒舌になっていった。自分の優位を理解したからだろう。

 

 

「……という訳です。皆様も、お三方の罪は許されないように思われますよね?」

 

ピレモンが、正当性について是非を問い掛ける。

 

「そうだ、そうだ!」「領主失格だ!」「貴族の風上にも置けぬ!」

 

そんなヤジが飛んでくる。完全にサクラだな。…いや、元から敵しかいないのか。もうダメだな、これは。流れが完全に出来てしまった。

幸いなことに、武の方面に精通してないのか、後ろには窓がある。

今のうちに突っ込むシミュレートをしておくか。

 

 

「あ、いや…そういったことをするのは構わないのですがな、事前に一言位あっても宜しかったのでは…」

 

 

が、またしても流れをダリウスが壊した。

反応から明らかだが、どうにも乗り気じゃないらしい。もう何度目の疑問になるか分からないが、コイツはどういった立場の人間なんだ。

ルークの味方じゃないのか?

 

 

と、思ったら、先ほどと同様に、自信ありげにルークが行動した。

ダリウスに何かを耳打ちして…ダリウスの顔色が変わった!

 

誰も状況が分からない。

ハゲてデブなオッサンに、イケメンショタが耳打ちして、オッサンの顔が真っ赤に染まる。なんかそういう本とかありそうだな。

 

…しかし、俺には。

エリスの怒りを見てきた俺には分かる。

 

(あの赤さは…怒りだ!)

 

「ぶ、無礼な!このような屈辱は初めてだ!」

 

「「「えっ…?」」」

 

 

ピレモン・ルーク・フィリップの声が重なった。

が、そんな疑問も気にしないかのようにダリウスは鬼のような様相で出ていってしまう。

 

 

……え?

 

マジでなんなんだ、アイツ。何しに来たんだ?

 

 

ダリウス無き後の室内は酷い様相だった。

ヤジを飛ばしてた貴族は全員硬直しており、全く状況が飲み込めてないようだ。フィリップも似たような感じだ。

エリスとパウロ、サウロスは静かな物だ。何をしてるのか全く分かってないのかもしれない。

金髪の美少女は、顔を真っ青にしている。コイツも大概謎だ。

 

 

そして、ルーク、ピレモンの二人は特に酷い。

 

ルークは、何やら絶叫とも呟きとも取れない掠れた声を挙げている。

『バカな』とか『何が』だとか、意味の成さない呟きを延々と繰り返して絶望したような表情をしている。

 

 

ピレモンは、今にも死にそうな顔をしながら溢れるような涙を流していた。何か、大切な物が壊れてしまったような反応だ。

 

俺も、今まで散々煮え湯を飲まされてきたが、流石に可哀想に思えてしまう。

絶好のチャンスなのだろうが、これにトドメを刺さないだけの慈悲が俺にもあった。

 

 

誰もが動けない。そんな中。

 

 

「あれが人にモノを頼む態度か!!!」

 

サウロスの爺さんの声が大きく響いた。

 

 

後日、ルークとピレモンはダリウスに名誉毀損で、フィリップに横領で訴えられたらしい。そして、第二王女もろとも失脚したそうだ。

 

なんだったんだ、一体。

 




次回から次章、魔大陸編です。

評価してくれると嬉しいです。


<オマケ ピレモンの作戦>

ピレモンの作戦は、

空手形を切り、領主に戻ったときの報酬を確約する。
+
ミルボッツ領で妨害工作を行い、そっちに注目させ、フィットア領から確実な不正証拠を持ってくることで、空手形の信用を高める。

貴族を味方につけ、数でごり押す。

失脚させる。

という物でした。ダリウスが来なければ、成功していました。

原作でサウロスが処刑されていたので、数でごり押すのは有効なのでは?という想像です。
株式会社をイメージすると分かりやすいかも知れません。20パーの株を保有してる王家(経営者)は、株主(貴族)に結託されて10パーの勢力になると無視できない、的な感じです。
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