無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
第二十一話「遭遇」
「なあ、あんちゃん知ってるか?例の天才少年」
「おー、知ってるぜ。最近有名だよな」
王都の一角にて、男達は雑談をしていた。なんてことはない、とりとめのない話だ。
「すげえ経歴だよな。全員揃って」
その内容というのは、新たなミルボッツ領主一行のことだった。
まず、父親─パウロ。
サウロスや先々代ノトス家当主(=パウロの父親)と言った、庶民の間で評判が高い貴族らからの信頼厚く、更に本人は剣術を三種上級まで納めてる上に、元S級冒険者といった経歴の持ち主。
S級冒険者というのは、言わば超有名なアスリートだとか、一流の芸能人と言ったような立場の人間である。一般人の憧れなのだ。
今のパウロは、サクセスストーリーの代表のような扱いとなっていた。
妻─ゼニスもまた、同様である。
良き配偶者を貰うには、それ相応の努力が必要だ。
よって、パウロの株が上がる程、ゼニスの株も上がっていった。特に、ゼニス自身もS級冒険者で、内実が伴って居たのも大きい。
─ギレーヌ。
この二人の元パーティメンバーであり、剣王の立場にある女だ。剣神の直弟子で、剣の腕は剣神流で4番目。剣神流がこの世界で最もポピュラーで、世界的に普及してると考えるとその凄さが分かるだろう。
─ギース。
彼もまた、元黒狼の牙の一員だ。
何をしているのかは分からないが、フィリップに重用されていることは有名な話だ。きっと、それに応じただけの知謀の持ち主なのだろう。
─フィリップ。
ボレアス家の家督争いに負けた物の、尽きぬ向上心に突き動かされ、遂にはノトスを乗っ取った男。ダリウスでさえも駒として使い、対抗派閥を瓦解せしめた。彼の名は第一王子派の中で轟き、現在最も影響力がある人物の一人に名を連ねたという。
「とんでもねえな、こう考えると」
「武力も知力も完璧って訳だろ?…今の内に、ミルボッツ領の土地買っておこうかな」
「そんな金持ってないだろうが。でも、そんな中でもやっぱり、天才少年はヤバイよな」
今まで挙げた者は、何か特定の能力に特化してる者ばかりだ。
が、その中で唯一、両方の特性を兼ね備えた人物がいるらしい。
曰く、魔術の天才。
曰く、調教の天才。
曰く、算術の天才。
曰く、暗闘の天才。
そう。彼こそが、天才少年─ルーデウス・ノトス・グレイラットだ。
彼は齢七歳のとき、著名な王都の学者でさえもその前に破れた山猿を、見事立派なレディーに仕立て上げ、最後は嫁にまでしたという。
更に、嫁と父親を隠れ蓑にノトスを乗っ取った陰の立役者であり、政務をさせても文官達の数倍の働きをしてみせ、暗闘の腕には一家言あるピレモンの不正の証拠を見つけたのも彼と言う話だ。
が、そんな知謀も然ることながら、彼は武の面でも目を見張る物がある。
ロキシー・ミグルディアを御存じだろうか?
今をときめく水王級魔術師だ。その名は、明るい未来を夢見る若い少年少女たちの憧れだ。
そんな彼女の弟子であり、なんと無詠唱で魔術が使えると言う。五歳の時には水聖級魔術が使えるようになったらしい。
彼の飲み込みが早いのか、それとも彼女の教育が良かったのか…それは、経歴を見れば一目瞭然。両方だ。
そして、ロキシー・ミグルディアは気難しい人物だと言う話だ。すげなく少年達の冒険者としての誘いを断り、ある国の王子や宮廷魔術師の地位でさえ、彼女のお眼鏡には叶わなかったという。
そんな中で、当時は豪農程度の者でしかなかった彼は、あのロキシー・ミグルディアを感心してみせたのだ。
ポテンシャルで言えば、まだかなりの伸び代がある。
つまり、ロキシーをも越えうる人物になる可能性がある訳だ。水帝級も、このアスラ王国なら夢ではないかも知れない。
更に、それほどの能力を持っていながら謙虚な人物だと言う。領主の息子だと名乗ったのに嘘だと決めつけられ、失礼な扱いをされても決して怒らなかったそうだ。
「間違いないね。こいつぁ歴史に名を残す人物になるぜ」
そんなルーデウスの名は、王都中に畏怖と尊敬、親しみを持って轟いていた。
「…なんか、寒くねえか?」
「空気が淀んでるみたいな…晴れてるよな?」
「………」
…どんな者に対しても、等しく。
ーーー
俺だよ。俺。ルーデウスだよ。
あの良く分からない茶番の後、どうせ暇なので俺達は王都を観光することにした。
ゼニスやリーリャは心配してるだろうが、それについてはフィリップが報告してくれるらしい。
というわけで、今日も1日遊び歩いて来た訳だ。サウロスはエリスと遊びたかったみたいで『ぐぬぬ』って感じの表情をしてた。フッ、勝った。
で、俺としては夜も遊びたかったのだが…エリスはあまりそういう気分じゃなかったみたいだ。
強く迫るのもどうかと思うので、一人寂しく寝ることにする。
おやすみなさい。スヤァ……
ーーー
「んう……」
なんだ、うるさいな。
外が騒がしい。意識が若干現実に引き戻されてしまった。でも、抗いがたいほどに眠い。
(……………)
頑張って意識を夢の世界に戻そうとする。
が、定期的にコツ、コツとなる音が気になって寝付けない。ダメだ、起きるしかないな。
ガバッ、と起きる。
すると目の前には…
(えっ、誰?)
謎の男が居た。暗くて良く見えないが、男が居る。
まずい、暗殺者でも送り込まれたか……?
眠気が覚めきらないのがイライラする。
意識が薄いがやっとの思いで、魔術を打った。
威力としては申し分なかったと思う。
当たった。俺は勝利を確信した。モンスターだって一撃だったのだ。人間が耐えれる訳がない。心の中で言語化すれば多分そう感じていた。
が…
「む?」
効いていない!
な、何者だ?どうすれば良い、属性を変えるか?それとも自爆覚悟で上級魔術を打つか?
そんな思考は、一秒もしてなかったと思う。
だが、俺が判断を下す前に男が手を振り上げて…
だめだ、どうす
「がっ…………」
ーーー
意識が戻った。
俺は、辺り一面が白い空間に居た。
それ以外には、何もない。そして体が重い。
「っ……ああ…」
それは、十二年前の俺の体だった。
そして理解してしまった。俺は…死んだのだと。
意識が途絶える最後の瞬間、俺は男に殴られた。恐らく、あの後殺されてしまったのだろう。
つまり、ここは死後の世界。
ここに神が来て転生出来るのか、それとも意識の終着点なのかは分からないが…そんなことはどうだって良い。
終わってしまったのだ。
ロキシー、パウロ、エリス、ゼニス、リーリャ、シルフィ…
大切な人が、やっと出来たのに。
立ち直ったのに。
そんなことは知らないとばかりに、運命は残酷だ。
何もかもどうでも良くなってしまった。
俺ごときに、あんな幸せは過ぎたる物だったのだろう。
家族だ。家族を失ったのだ。
もう俺は、あれ以上の幸せなど、どう転んでも得れない。じゃあ、もうどうにでもなれば良い。
ーーー
ふと気づくと、変な奴が居た。
のっぺりとした白い顔をしている。浮かべる笑みはなんとも胡散臭い。
…
「やあ、こんにちは。ルーデウス君。初めまして」
返事をする気があまり起きなかった。
転生だかなんだか知らないが、興味が湧かない。
逆行でもさせてくれるなら、喜ぶがな。
「逆行?ってのは分からないけど、君に朗報がある」
はいはい、手短に済ましてくれ。
転生よりかは消滅したい。俺からの要望はそれだけだ!さあ、後は勝手にしろ。
「つれないねぇ。君はどうやら死んだと思ってるみたいだけど、キチンと生きてるよ」
えっ、本当か?!
「本当だよ?完全に無事さ。じゃ、まずは僕の自己紹介を聞いてくれよ。僕は人神。神様だ」
神様だかなんだか知らないが、そんなことはどうでも良いんだ。
で、何の用だ?無事なら早く起こして欲しいんだが。一刻も早くこんな体から離れたいね。
「良いのかい?君は今魔大陸に居るんだよ?状況の把握位はしといたほうが良いんじゃないのかな?」
魔大陸だ?んなバカな。っていうと何だ、俺は数年間眠ってたことか?
「いや、1日も経ってないよ」
じゃあ、そんな場所に居るわけないだろ。アホか。
「失礼だねぇ。ま、起きれば分かるさ。だから取りあえず助言を聞いてほしい。僕はね、君の味方さ。最初の一回さえ聞けば、それが分かると思うよ」
はいはい。サッさと言ってくれ。で、とっとと目を覚まさせてくれよ。
俺は信じないし、一瞬で忘れる。言うだけ言ってくれ。
無事ならそれで良い。自力で帰ってやる。
「魔大陸ってのは過酷な土地だからね。何の指標も無しに帰れるのかい?」
うるせえ、早く言えよ。長引かせる度に俺の信用は下がってくぞ。
「はいはい。ルーデウスよ、良くお聞きなさい。起きると、貴方の目の前には道があるでしょう。そこを、左側に進むのです」
人神とかいう胡散臭い奴は、そういうとエコーを残しながら消えていった。
ーーー
目が覚める。
手、顔、足……良かった。
キチンと、力強いルーデウスの体に戻っている。
嫌な感覚だった。わざわざあんな体にするなんて、アイツは絶対性格が悪い。
で……目の前を見ると、辺り一面の荒野だった。
……マジなのか。
本で読んだことがある、魔大陸の特徴に一致していたし、少なくともアスラ王国にこんな場所はない。
つまり、人神とやらの言う通りなのだろう。
で、肝心の道とやらだが……道?
それらしい物は見つかったが、道と言って良いのだろうか。
うっすらと踏み固められたような跡があったり、岩を押し退けたような跡があるところがある。
上手く、何もない土地とそれ以外を脳内で分離してみると、若干人の手が入ってるように見える線があった。
これのことか。道自体は見つけることが出来た。
で…助言だと左側に進めって話だったが…
俺は、ああいう手合いに心当たりがある。
どうとでも取れることを良い、他人を誘導し、自分の利益に誘導する輩。そう、フィリップとピレモンだ。
ああいう手合いに何度も掌で踊らされた身からすると…正直言って、従いたくない。
ああいう奴は、大抵騙そうとしてるんだ。本気で助ける気があるなら、スパッと事実を言えば良いだけなのに。
いや、でも俺が途中で話を切らなきゃ詳しく説明してくれてたのか?
でも、空気感というか、キャラはあの二人みたいな感じだったよな…
それに、道があるってことは、右にも左にも何かあるってことだよな?
いや、でもこの程度の物だと気のせいかも…
そんな葛藤が、俺の中で渦巻く。
そして、決定的な何かがあった訳ではないが…
フィリップとピレモンが強く心に浮かんだ俺は、助言とは逆─右側へ進むことにした。
評価してくれると嬉しいです。
あと、これは最初の話と間話と章末に書きます。なので、暫く書きません。しつこくてすいません。