無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「………」
あれから三時間位経ったが、何かが見つかる気配はない。
たまに、魔物が襲ってきたりするが、その位だ。
人・建造物と言った、安心出来るような物は出てこない。ただ、魔物と不毛な荒野だけが広がっていた。
「グガァァァァッ!」
ほら、また来た。シルエットはワンコロっぽいのだが、細部細部に人を不快にさせる意匠が凝らされている。一体全体、どういう目的があってこんな姿になったのだろうか。
魔術で適当にあしらう。ボッ、と火がついて魔物は焼け死んだ。中途半端に燃えながら突っ込まれたら困るので、ちゃんと強火だ。
「グウゥゥゥ……」
おっと、これは魔物の鳴き声じゃないぞ。
俺の腹の音だ。
さっきから、腹が鳴って仕方ない。俺が三時間位かな?と分かるのも腹時計のお陰だ。
普段から時計があまり無い生活をしてると、こういう体内時計ってのはかなりの精度になるみたいだ。
で、食料だ。
水の方は幸いにして、こんなカラカラした荒野でも魔術で幾らでも飲めるのだが、食料になりそうな物は全くない。
たまに枯れかけの雑草があったりする位だ。
まあ、昔は藁食ったりしてたらしいから食えるかも知れないが。とはいえども、腹を満たせる程の量はない。
魔物が居るじゃないかって?
いや、良く考えてほしい。
あれは、そう…五年前のことだ。
ギレーヌがエリスを諭してくれたとき、なんと言っていた?そう。「食う物がなくて、魔物の糞を食って死にかけた」と言っていたのだ。
が、ここで疑問が湧かないだろうか?
そう、糞があるなら当然、出した奴も居ると言うことである。
ギレーヌの腕前を考えると、魔物が食えるなら狩って食えば良いだけだ。なのに、そうしなかった。
つまり、魔物は人体に害なのではないか?ということだ。
で、進んでたが空腹に耐えかね、食えない物を食って死にかけた、と。
俺は、そのような仮説を立てた。
最初は魔物を食おうと思ってたが、見た目が毒々しいことに怖じ気づいた俺が、何か参考になりそうなことが無いか漁ったときに出てきた記憶だ。
どうせ襲ってくるなら何でも同じだと、あまり定義自体に興味を持ってなかったことが悔やまれる。
人間を襲うと魔物で、それ以外が動物?
いや、それは魔物と魔獣の違いだったか?
等と言ったような、超初歩のことですら良く覚えていない。
俺は魔物を食ったことがあったっけか。
例えば『毒のある魔物もいるし、無い奴もいる』みたいな可能性もある。
なら、食える魔物は食卓に出されたかもしれない。
…いや、それもないか。
パウロはたまに、森へ狩りに行っていた。趣味では無く、必要に応じてだ。
しかし、パウロが『俺が今日狩ってきた捕れたてだぞ~』とか言って、魔物を持って帰ってきたことなど無かった。
つまり、食える魔物など居ない可能性は高いのではないか?
魔物になる条件は、魔力だったか?
魔大陸は魔力溜まりが多いと言うし、理に叶った説明な気がする。
(じゃあ、魔力を抜き出せば食べれるのでは?!)
論理的な俺がそれに気づいた。
魔物に共通した点は魔力くらいだ。多分。
で、全部食えないなら魔力が原因な可能性が高い。
つまり、そこさえ抜けば只の肉……
(で、どう抜けば良いんだ?)
冷静な俺がそう囁いた。
食事はもう暫く我慢しようと思います。
ーーー
1日経った。
土魔術でドームを作って寝たので、襲撃は心配要らなかったのだが、如何せん空腹で寝付けなかった。
本格的に不味いな。
このまま行くと、ギレーヌ状態になりそうだ。
腹が減り、体力が磨り減り、更に魔物も出てこない。
確実なバッドエンドだ。
近接型で体力のあるギレーヌが"死にかけ"なら、魔術師の俺は、その状態に陥れば"死"あるのみだ。
…四の五の言ってる場合じゃないな。
仕方ない。──食うか!
ーーー
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!!」
出会い頭にさようなら!
魔物に炎をぶちこんで焼き払う。
って、ダメじゃん。消毒(消し炭)したら食えないじゃん。
ごめん、名も知らぬ魔物君。
日本人は良く食材に感謝すると言われてるけど、君は全くの無駄になってしまった。本当にごめんよ。
よし、次の魔物君!君は感謝しながら食ってあげるよ!じゃあ氏ね!
今度は焼いてしまっては仕方ないので、必殺の土魔術を食らわせてやる。
水聖級魔術師だから勘違いされがちだが、俺はどちらかと言えば土の方が得意だ。
魔術はバガン!と直撃して……
……魔物は粉々に砕け散った。
ご、ごめん。
ーーー
「おおっ!……おお?」
あのあと、三体目でやっと食える状態で仕留められた俺は、上手いこと上の方だけ切り離して、手のひらで焼いていた。
薪等も全く見当たらないので、仕方ない処置だ。
肉が焼ける匂いがする。非常に良い香り………?
「うえっ、ゴホッ、ゴホッ……」
なんだこれは。
とんでもなく目に染みる匂いだ。
煙は出てないが、まるで煙に当てられたみたいに感じる刺激臭だ。
これ、味は大丈夫か?
味も臭いも、根本のところではそう変わらない。どちらも成分を感じているからだ。
そう考えると、臭いと味は相当な相関関係にある気がする。
いや、ご託はいらない。どうせ食わなきゃいけないんだ。頭で考えたって分かるものか。
「ええい、ままよ!頂きます!」
パクっ、と口の中に肉を放り込む。
口の中で味わいが広がる。
それはさながら、様々な美食をかき集めて、一つにしたような味わい。
それぞれの味が自分を強く主張しつつも、メインテイストである酸味が主役として引き立てられている。
つまり、これは…
(ゲロじゃねえか!)
「うっ、オロロロロロロロロロロ」
直後に昇ってきたそれと、味はまったくもって一緒だった。通りで誰も食わない訳だよ!
一通りだし終わった後に、冷静に状況を纏める。
つまりアレか。
俺は今……ゲロ味の肉を食うか、糞味の糞を食うかの選択を迫られてると……?
ヒトガミ様…どうか、どうか僕に助言を…!
つい、そう思ってしまった。思ってから、良く考えたら凄く嫌なので後悔した。
その日も結局断食した。が、吐いたせいで動く気も沸かなかったので、移動もしなかった。
ヒトガミは出てこなかった。
良かった。
ーーー
断食生活二日目。
魔物の肉が食えないなら、土を食おう。
俺はそう思い至った。
農家の人は土を食べる…というのは重大な偏見かもだが、食えない物じゃない筈だ。
あれよりはマシな味だと思いたい。
幸いなことに、周囲に土は沢山ある。
適当な場所の物を掬って食べる。
うーん、魔物の肉よりかはマシだが…
ボソボソとしてるし、飲み込むのにはかなりの抵抗感を感じる。
味自体にそこまで不愉快な要素は無いはずなのに、土の味ということが脳に強い抵抗感を与えてるみたいだ。
どうしたもんかな。
他に何か案はないかと考えると…
(ん…?)
良く目を凝らすと、あちらの方に黒土がある。
なんでこんなところに?
と思わないでも無かったが、今は気にしない。黒土の方が栄養がある筈だ。多少は食えるかも知れない。
黒土を掬う。
ボロボロとしてるし、固い。水が無いからからか?
口に含み、味を感じる。一体、どんな味なのか…
「ぶへっ、ぺっ!ぺっ!」
にっが!とんでもなく苦い。
反射的に口から吐いてしまった。
だが、不思議だ。苦いには苦いのだが…土のように本能的な抵抗感は薄かった。
味もなんていうか、焦げ肉のような…
まさかと思い、近くを見る。骨が転がっていた。
風化してるようだったので、古い物かと思ったが…若干熱を持っていた。
つまり、これは──消し炭肉だ。
焦げ肉。
炭化は偉大だ。どんな物でも炭の味に変えてくれる。
ゲロと炭。どちらかと言えば炭の方がマシなのは、言うまでもない。
かくして俺は、やっとの思いで食べれる物を手に入れることが出来た。
食は凄く細くなった。
成長に悪影響がないと良いんだが…
ーーー
あれから相変わらず、焦げ肉を食べ続け、進む日々。
一週間経った。
そろそろ、何も見えなくて不安になってくる時期だ。
この道らしきものは、どこにも繋がってないんじゃないか。そんな気がする。
あまりにも代わり映えがしないと、頭が可笑しくなりそうだ。魔物も最初は刺激になっていたのだが、慣れてルーティン的に処理出来るようになると、却って精神に悪影響になっていた。
水・食料はあるにはある。が、どれも喜びを感じられるような物じゃない。栄養補給自体は問題ないが、腹も満たせないし味も不味いのでは寧ろストレスだ。
そうして、鬱憤が溜まるばかりで何もない日々は唐突に終わりを告げた。
「ふっ……ぐっ………」
腎臓が痛い。
とんでもなく痛い。
毒って感じじゃないのだが、塩を取りすぎたみたいな痛みがする。
どうすれば良いんだ、これは。
このままでは進むこともままならない。
げ、解毒魔術とかなら効くか…?
解毒魔術を掛ける。すると、かなりマシになった。
ゼニスに解毒魔術を習っておいて本当に良かった。
でも、間違いなく原因は肉だよなぁ…
早くどうにかせねば。
ーーー
更に一週間経った。
発狂しそうだ。
マジで何もない。
魔物、荒野。それだけだ。
どうしよう、ヒトガミの助言に従うべきだったか?ただ、今から戻ると二週間のロスだ。
勿体ない気がする。だが、進んだところで何かあるのか?四週間以上経って何もなければより損だ。
損切りするべきか、否か。そんなことを悩むほど俺は追い詰められていた。
デカイ亀の魔物、ネズミの魔物、犬の魔物…
全部消し炭にした。
そして全部炭の味だ。辛くなったら解毒魔術。
このルーティンが続くばかりで、それ以外には何もない。
辛い。
ーーー
三週間経った。
亀の群れらしき物が遠目に見える。
燃やしに行くか。