無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「すいません!」
平謝りだ。申し訳のしようもない。
あろうことか、師匠の生家を燃やしてしまったのだ。
「ま、まあ勘違いなら…そこまで立派な物でも無いですし…」
「いや、まあ許さないとは言わんが…うちも余裕がある訳じゃないから、ちょっとは補填して貰いたいんだが…」
師匠の両親は、歯切れが悪そうにそう言った。
怒ってるという程じゃないけど、迷惑だとは思ったんだろう。くそう、いつか挨拶に行こうと思ってたのに、こんな形になってしまうなんて。
「賠償ですか?此方でどうかお許し頂ければ…」
服についてるボタンを取り外す。
王城に滞在してるときは、無駄に高そうな服を着せられていたのだ。
服自体は魔大陸でボロボロになってしまったが、金無垢で真ん中に宝石のあしらわれた物なら、多少の賠償にはなるかもしれない。
汚れてたので、魔術でさっと洗う。中から深紅に輝く宝石のボタンが出てきた。
「「ちょっ?!」」
ロカリーさんとロインさんがそんな反応をする。少なすぎたか。
「此方もお付けしますので」
懐から財布を取り出す。いざという時の為に、常に懐に忍ばせていたのだ。俺の頑張って働いた給料が入ってる。月給銀貨二枚で、勤続三年だったので72枚。
更に、貴族になってからは小遣いとして月1枚渡されていたので、今はなんやかんや言って100万位持ってるのだ。
とは言えども、家の相場は安くても1000万はする。修繕すれば直ってくれることを願うしかない。
「ア、アスラ金貨……?!」
「………」
親御さんを絶句させてしまった。合わせても500万位だろうから、流石に失礼すぎたか。
「ルディ!高すぎです!」
ロキシーがそんなことを言ってくる。
そんなバカな。師匠のコネを使うような真似はしたくない。
「すいません、後はこれしか持っていないんですが…」
魔石を取り出す。杖を常に携帯してる訳にもいかないので、粒の状態で持っていたのだ。最高純度だが、これでも精々700万に届くかと言うところだ。
あとは、誠意しかない。
「どうか、お許しください!!!」
「「ちょっ!!」」
そう言って土下座をすると、ロキシーの両親が慌てたように駆け寄ってきた。
ーーー
「屋根だけで済んだので、大王陸亀を狩って甲羅を持ってきてくれればそれで良いんです!」
「あれだけあれば、スペルド族だって海を渡れるんだぞ!」
あのあと、俺はロキシー達に必死に貨幣価値を説かれていた。まるで、貴族のボンボンに対する扱いである。アスラ王国の貨幣価値なら、それなりに分かっていたんだけどな。
どうやら、魔大陸は物価がとんでもなく安いらしい。
良く良く考えれば前世でも、東南アジアに行けば、日本人なら早期リタイアしても暮らして行ける、みたいなことが言われていた。
それが、更に極端になった土地らしい。
だから、アスラ金貨一枚でも豪遊出来るそうだ。
で、俺はすっかりロキシーの両親に萎縮されてしまっていた。札束で殴ったみたいになってしまったのだ。
車を傷付けられて、ちょっと補償してくれと言っただけで一億出された上で土下座されたら、俺だってビビる。そう言う感じだ。
「大王陸亀?」
「知らないんですの?今まで、何を食べてたんですの?」
エリナリーゼがそんなことを聞いてくる。答えは魔物だ。それ以外に何か居ただろうか。
「魔物の肉を味が分からない位に焦がして食べてました」
「ルディ……」
ロキシーが未開人を見るような目で見てくる。いや、いつものジト目だった。
「大王陸亀は、この魔大陸では最もマシな食材ですわ。焼くだけでそれなりに食べれるんですわよ」
先輩風を吹かして、エリナリーゼがそんなことを言ってくる。そうか、俺が食べたのが偶然不味かっただけなのか。試行錯誤しなかったことが悔やまれる。
「へえ、どんな味なんです?」
「ちょっと待っててくれ、確かまだ備蓄があった筈だ」
ロインが奥の方へと行く。あんなことをしといて至れり尽くせりとは、中々に懐が広いな。
ロインとロカリーには固辞されたが、一応無理を言ってアスラ金貨五枚を渡したお陰かも知れない。
暫くして、ロインが帰ってきた。
何も持っていない。これはつまり…
「すまん、全焼してた」
「す、すいません…」
気まずい。思ったより被害は甚大だったみたいだ。
というか、屋根の建材は大王陸亀だったか?
なら、丁度良いな。
「あっ、なら大王陸亀を狩ってきますよ。それで、屋根にもして貰えたら」
「いや、こんな大金も貰ってしまいましたから…」
ロカリーには遠慮されてしまった。
だが、そんなことで止まる俺じゃない!
「良いんです、良いんです!さっ、師匠、エリナリーゼさん!行きましょう!」
ロカリー達が止めて来る前に、勢いで行く。
え?ロキシーと狩りをしたいだけじゃないかって?
大正解だよ。
ーーー
「聞いてた通り、無詠唱魔術が使えるんですわね!」
「焦げたる剣を持ちて敵を切り裂かん!『火断』!…ほんと、私には過ぎた弟子ですよ」
やっべ、すげえ快適。
ロキシーとエリナリーゼの有能さが留まるところを知らない。道中に居た魔物なども、エリナリーゼがタゲを取ってエリナリーゼが切って捨てていた。
ロキシーの何が有能かと言えば、精度の凄さだ。
魔術は小さい方が難しい。そんな中、ロキシーは初級魔術+詠唱短縮を的確に使うことで、殆んど魔物に傷を付けずに殺していた。
俺がやると、こうはいかない。力でゴリ押すことは出来るが、食事にするには不適格な肉塊が出来るだけだ。初級魔術を使うと、ロキシーみたいに殺しきることが出来ない。
俺が大砲を大雑把な照準で打って殺してる中、ロキシーは同じ数をヘッドショットで殺してる。
どちらが凄いかは一目瞭然だ。
しかも、俺の魔術はこの前効かなかったのだから、完全にロキシーに負けているだろう。
流石はロキシーだ。
エリナリーゼもエリナリーゼで、ロキシーの反応速度を越えて魔物に群がられたりしないよう、事前にタゲを取ることで、ロキシーが快適に魔術を使える環境を作っていた。
一見するとロキシーより活躍してないように見えるが、そもそも数を殺すだけが技能ではない。
むしろ、エリナリーゼの能力振りが力などに偏っていたら、こうは行かなかっただろう。
二人はまさに息ピッタリで、完璧なチームワークだと言えた。
というか、俺の割り込む余地がない。
時折、魔術などで援護してるが、あの二人なら対処し切っていたと思う。
「凄い威力ですわね!」
「いえ、威力だって、この前完封されてしまいましたのでね!」
「なんですか、その化け物は」
なんなら、世間話をする余裕だってある。
油断大敵だが、ここまで安定感が凄いと何も心配要らないような気がしてくる。
「いよいよお出ましですわよ」
と、魔物の数も減ってきたところで、大王陸亀が出てきた。ボスっぽい登場の仕方だが、全くの偶然だ。
大王陸亀の後に魔物が出てきたら楽だったろうが、ロキシー達の活躍が見れたので良しとする。
「まずは一体ですね」
ロキシーがそう言って、魔術を使う。綺麗に大王陸亀の首だけを切り落した。
「じゃあ、次はルディがやってみせて下さい。私達は周囲の邪魔になりそうな魔物を狩っているので」
「はい、師匠!」
気合いを入れよう。
ロキシーを失望させるようなことは出来ない。
まず、威力が強すぎてはダメだ。初級魔術を絞るつもりでやろう。
ドリルのような小型の魔術を練る。脳天をブチ抜いてやる。
そう考え、魔術を打つ!
「ギャ!」
だが、一撃で殺すことは出来なかった。眉間の浅いところで止まってしまったみたいだ。
ダメか、もうちょっと強く打たないとか?
今度はサイズを大きく、更に弾速も早くして打つ。
よし、直撃!
と、思った矢先に、亀が半分位消し飛んだ。中身が抉れている。
…正直、食べたいとは思えない見た目だった。
「ほ、本当に凄い威力ですね。流石はルディです」
「あ、いえ…僕、まだ威力調節も上手く出来ないんですよ。出来れば、また教えて欲しいです」
「私ごときに出来ることがあるか分かりませんが、ルディがそう言うなら…」
ロキシーは謙遜しながらも、ちょっと嬉しそうだった。はにかんでる姿も素晴らしい。
「はい、宜しくお願いします!師匠!」
「だから、師匠ではなく先生だとあれほど…」
ロキシーの師匠論が暫く続いたが、俺にとっては師匠だ。
こうして、俺はロキシーに再び師事をして貰うことになった。
やったぜ。
期待してた大王陸亀は、不味かった。
でも、今まで食べてた物よりはマシだった。
マトモな旅がやっと出来る。
最高のスタートだ。
光源氏ロキシーのルーデウス育成計画編始動