無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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第二話「嫁舅戦争?」

「…………」

 

「……………」

 

 

き、気まずい…

 

ひとまず俺の取りなしで落ち着いたが、お互いに会話がない。そりゃそうだ。初対面があれじゃあな。

 

パウロもパウロで大人げない。こういうときは普通、大人の方から歩み寄る物だろう。少なくとも、本気で警戒するのはやりすぎだ。目が盗賊と相対したギレーヌより鋭いぞ。

 

ただ、エリスはオーラが凄まじいからな。覇気ってやつ?強者って感じがビシビシとするから、気持ちは分からんでもない。

でもね、エリスさん。普段よりちょっと…いやかなり覇気が強いのは気のせいだよね?

 

 

まあ、お互いに警戒してるだけで害意がある訳じゃないから、一線を越える大きな問題になりゃしないだろう。

とは言えども、間に挟まれる俺の身にもなってほしい。何が悲しくて嫁姑戦争ならぬ、嫁舅戦争を見なきゃならんのだ。

 

 

「ルディのお嫁さんはここね!」

 

ナイスタイミング!ゼニスとリーリャがやってきた。

ゼニスはニコニコニコニコ、不気味な位にニコニコしている。

親孝行すると親ってのはこんなになるのか。やってみると案外良いもんだな、こんなに喜ばれるなんて。…パウロ?妹に任せた。

 

 

「あら~、可愛い子じゃない!エリスちゃんだっけ?宜しくね!」

 

「お、おいゼニス…」

 

「あら、どうしちゃったの?そんな険しい顔して」

 

ゼニスのテンションが可笑しい。

 

「あの、母様、どうしたのですか?」

 

「久しぶりにあった息子が可愛らしいお嫁さん連れてきたのよ!嬉しいに決まってるでしょ!」

 

ふむ、分からん。禁欲後のオ◯ニーみたいなもんか?

 

ま、そんなことはどうでも良い。

 

重要なのは、空気が軽くなったことだ。

これを利用して、一気にパウロとエリスの仲をくっ付けよう。題して、恋のキューピッド作戦だ。

義父と嫁の良好な仲をなんて言うのか知らないからこんな名前にしたが、パウロのことを考えると、ちょっぴし不安というか、嫌な気持ちになる。

 

まあ、パウロも息子の嫁に手を出すほど落ちぶれてはないだろうし、エリスは多分、ギリギリパウロの対象外だろうから問題はない。

 

…大丈夫だよね?

……深く考えるのは止めよう。考えを戻そう。

えっと、空気を元に戻す作戦だっけか。

 

「それじゃあ、折角の機会ですし、エリスになんか質問してみませんか?まずはお互いのことを知ることから始めましょう!」

 

「あら、良いわね!何訊いちゃおうかしら!」

 

「僭越ながら、私も宜しいでしょうか」

 

ゼニスとリーリャが乗ってきた。

第一フェーズ、成功。

エリスの反応は…悪くない!どうやら、母二人の方の印象は良かったらしい。

この感じなら、なんとかなるだろう。

…頼む!

 

「じゃあじゃあ~、ルディとのアレ、どうだった?」

 

「!!」

 

ゼニスさん?!?!

ゼニスに背後から刺された。

前世は関わりが少なくて、俺は忘れてたんだ。母親と言う生物は、息子の恥ずかしい話がだーいすきだと言うことを。

 

エリスの顔を見るのが怖い。なんやかんや、本番に至るまでも何回か殴られたもんだ。エッチな話をしたら怒るに決まってる。

 

「その…結構、良かったですワ…」

 

エリスさん?!?!なんで満更でもなさそうなの?!

エリスの不意打ちが俺に炸裂!

ルーデウスに100のダメージ!

 

「ルーデウス坊っちゃんなら、当然でしょう」

 

リーリャさん?!?!俺のことなんだと思ってるの?!

リーリャの会心の一撃!ルーデウスに1万のダメージ!

 

ルーデウスの心は折れてしまった!

 

 

---

 

あれから、俺の恥ずかしいアレやコレを根掘り葉掘り聞かれてしまった。

まさか、母親に痴話を聞かれるのがこんなにキツいなんて…

 

まあ、それでも当初の目的は果たせたからヨシ!そうとでも考えないと居たたまれなくて逃げだしちゃいそうだ。

 

パウロもエリスも、心なしか表情が和らいでる。泥被った甲斐があったぜ。

 

「そういえば、ギレーヌからエリスちゃんと息子に剣教えてるって聞いてたんだけどさ、今はどっちの方が強いんだ?」

 

気分の戻ったパウロが、俺の痴話から話を転換してくれた。まあでも、あんま成長してないって思われるとそれはそれで恥ずいんだけどもね。

 

「あら、私も気になるわ!」

 

「あんまり期待されても、剣の方はあんましですよ?」

 

「良いんだ。元の剣の師匠として知っときたいしな」

 

「とはいっても、エリスの方が強いですよ。いっつも剣では押し負けちゃうんです」

 

「へー、そうなのか。…なら、ルディ。久々に父さんと、打ち合いしようぜ」

 

ん?唐突にどうした?

エリスと俺のどっちが強いかって話だったろ。俺は騙されんぞ。レスバ厨を舐めてはいけない。

 

「え、今からですか?父様もお疲れでしょうし、明日にしません?」

 

明日からはフィリップがパウロに色々教えるって言ってたから、明日に持ち越させることで回避しようと思う。

幾ら俺が魔術師だからって、父親にボコボコにされてるところを嫁に見られたくないってのは当然の心理だ。

 

「良いから良いから。ほらっ、行くぞ!」

 

「あっ、ちょっと!」

 

無理矢理手を引っ張られる。

なんでえ、偉く強引じゃねえか。どうしたんだ?

 

俺が理由が分からず悩んでいると、パウロがエリスの方をチラッと見た。

 

(あっ、パウロてめえ!俺を利用してエリスの強さを測る気だな!)

 

真意に気づいたときにはもう遅く、俺はズルズルと引っ張られてしまったのだった。

 

---

 

結果から言えば、惨敗だった。

流石はパウロという感じで、俺のフェイントなんかにも全く反応せずに、的確に隙を付かれて負けてしまった。

魔法ありじゃまた違うのかも知れないけど、それでも敗けてた気がする。父親は偉大だった。

 

「中々やるじゃねえか」

 

パウロがニヤニヤしながら言ってくる。

クッソ、うぜぇ……挑発スキルをここぞとばかりに発動してくる。分かってるんだからな!お世辞だって!

 

まあ、ここまでは自分を卑下してきたが、ちょっと弁護させて欲しい。

俺がパウロに気絶させられたときよりかは、パウロの動きが鋭かったのだ。つまり、昔の魔法アリの俺よりかは本気を引き出せてるってことだろう。

それとも、パウロもパウロで鍛え直してた可能性だってある。両方ですらあるかも知れない。

 

 

だから俺は成長してるんだ。…多分、きっと、メイビー。

 

 

「エリスちゃんもやってみるか?」

 

パウロ、ちょっと調子乗ってないか?

俺に勝てたことに気を良くしたのか、パウロがエリスに喧嘩を売ってる。

喧嘩っぽいエリスのことだ。断る訳がない。

 

「上等よ!……ゴホン、受けて立ちまスわ」

 

ほらあ、やっぱり!

エリスが勝ちゃ良いが、さっきの感じだと多分、パウロの方が強い。

俺の脳裏に過るは過去のエリスの家庭教師らの末路。

新婚早々、嫁が義父の部屋に夜な夜な訪れる(意味深)だとか、義父と朝チュン(意味深)なんて、嫌すぎる。

 

「どうどう、落ち着いて落ち着いて…」

 

「良いじゃないの!エリスちゃん、やっちゃって!」

 

またもゼニスが囃し立てる。顔立ちは気品に溢れる清楚系なのに、喧嘩っぱや過ぎないか。

 

でも、良く考えたらゼニスは冒険者。リーリャは元王女の護衛だ。エリスだって山猿なんてアダ名が付くような女だ。可愛い顔に似合わず、全員超武闘派なのである。

 

武闘派っていえば、前世の弟も空手黒帯だったよな…うっ、頭が…

 

俺が意外にも前世の家庭環境と似通ってることに気づいてショックを受けてる間に、パウロとエリスは相対してしまった。

 

 

「準備は良いか?」

 

「いつでもオッケーよ!」

 

お互いにオーラが立ち上る。エリスは化けの皮が剥がれてた。おいおい、俺とやってたときはこんなオーラなんて出てなかったぞ。

 

「では両者位置について…始め!」

 

審判リーリャの合図で戦いが始まる。

パウロの表情は余裕そうだ。

何処からでも掛かってこい!って感じの構えを取ってる。

 

対してエリスは真剣な表情だ。

一秒、二秒、三秒……その位の時間が経ったときに、エリスが踏み込んだ。

 

パウロに向かって全力で剣を振るう。パウロは余裕で受け流そうとして…

 

瞬間、パウロの表情が真剣な物に切り替わった。見ると、パウロの剣が微妙に傾いてエリスの剣と競り合っていた。

受け流すつもりが思った以上にエリスの力が強くて流しきれなかったのだろう。

 

だが、パウロも歴戦の戦士だ。流しきれないことを悟った瞬間、足に力を入れて後ろに飛び退く。

そして続けざまにエリスに追撃を入れる。

 

二合、三合と打ち合う。良くパウロの剣を注視すると、時折僅かに力を抜くタイミングがある。

相手のバランスを崩すための技だろう。

綱引きなんかをしてるときに、一瞬手を話して相手のバランスを崩させる奴と似ている。

 

それを受けてエリスは…パウロのペースに乗せられ切ってはいなかった。

それを見たパウロが俄に殺気立つ。昔、俺も当てられたことのあるアレだ。

 

本当の戦いの火蓋が、ようやく切って落とされた。

 

 

---

 

 

ここから先の戦いは、熾烈を極めた。

パウロは受け流すことを止め、多種多様な技で相手のペースを崩すことに専念している。

エリスは、それに対して全力で突っ込んでく。パワーで押し切ろうという魂胆だ。

 

これは、ギレーヌの教えが良く出ていると思う。ギレーヌは大陸でも数本の指に入る剣の名手だ。

故に、素直な剣でも相手に十分通用する。無論、フェイントを使わない等と言う訳ではない。

ではどういうことか。簡潔に言えば、行動がある程度パターン化されてるのだ。

これは、パターンを読まれても問題が無いからこそ成せる技だろう。

 

では、エリスはどうか。

エリスはまだそのレベルに至っては居ないだろう。

持ち前のパワーで今はやり会えているが、パウロの方はまだまだ余裕がありそうだ。

パウロの方が防戦に徹してる以上、体力の消耗は相手の方が少ないし、そもそもの体力量だってパウロの方が勝ってる。

 

このまま行けば、エリスの敗けは固い。

 

 

…だが、パウロが圧倒しているとは言え、この戦いは美しかった。中二病乙!みたいにひねた見方をしがちな俺ですら、素直に感嘆することしか出来ない。

 

 

普段のギレーヌとエリスの模擬戦では見られないことだった。

お互いにタイプが違うからこそ、技量が出てると思う。

 

これはどういうことか、テニスか何かで例えよう。

ギレーヌは、言わばスマッシュを到底相手に打ち返させない速度で打てるタイプだ。

それを真似するエリスも、それに特化していると言って良い。

しかし、どうしてもギレーヌには劣ってしまう。なので、ギレーヌは練習へと落とし込むために手加減をしている。

そのせいか、普段の戦いはラリーじみた物で、どこかわざとらしく感じられる物だったのだ。

 

そこに、パウロの登場だ。

パウロは正攻法でも出来るし、ラインギリギリにボールを落としたりして勝ちを目指すこともタイプである。

 

そのため、ギレーヌ以上にパウロとの戦いは勝負らしい勝負になっているのだ。

 

剛のエリス、柔のパウロ。こう言ったところか。

 

まあ、パウロでは剛でも負けてないけどな。こんな戦い方をしてるのはエリスを傷物にしない為ってのもあるだろう。

 

 

そうこうしてる内に、エリスの動きが鈍って行く。

体力が切れたのだろう。

 

…おっと、パウロに剣を弾かれてしまった。

パウロの木剣がエリスの首に添えられて…

 

「勝負あり!」

 

 

試合が終わった。パウロの勝ちだ。

 

 

---

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

息も絶え絶えな様子のエリスに、水を出してやる。

ちょっぴりエッチだ。

 

「…ふぅ……中々やるじゃねえか…」

 

パウロもエリス程では無いが多少疲れた様子だ。

先ほど俺に掛けた言葉と全く同じ言葉をエリスに掛ける。しかし、何故だか煽りという感じを受けなかった。

 

それだけ、エリスが強かったということだろう。

てか、被害妄想じゃなくて本当に煽られてたのな、俺。イラッ!

 

 

しかし…エリスは大丈夫なのだろうか?

これから先、パウロとエリスにずっと喧嘩され続けたらたまったもんじゃない。

 

幽鬼のように立ち上がるエリス。

パウロの方にフラフラと歩いて行って…

あっ、あれは平手打ちの構えだ!

 

不味い、間に合わない…!

俺が手を伸ばすより先に、エリスの手が振りかざされて……

 

 

パウロの肩をパシッと小突いた。

 

「エリスよ!貴方の名前はなんて呼んだらいい?」

 

「おう、気軽にパウロって呼んでくれれば良いさ」

 

「宜しく!パウロさん!」

 

どうやら、エリスはパウロのことを受け入れたらしい。

パウロの方も、貴族のお嬢様に対してじゃなく、冒険者に対する態度で接することに決めたようだ。

 

一時はどうなることかと思ったけど、本当に良かった。

いやあ、めでたしめでたし。

 

 

---

 

 

あのあと、パウロとエリスは頻繁に一緒に訓練をするようになった。

タイプが違う相手と打ち合うことで、得るものがお互いにあったらしい。メキメキとお互いに腕を上げていて、パウロは剣聖も夢じゃないそうだ。

良く、昼頃に汗をかいた二人を見かける。

 

ギレーヌも満足そうだ。

 

 

 

 

…ってあれ?俺のスペースは?

 

パウロの女タラシの技能に完敗した、今日この頃でした。




ギレーヌとフィリップは着いてくるよ!やったねルディちゃん、役目が減ったよ!

パウロとエリスの勝敗は、エリスが剣神流のみ上級、パウロが三種上級だったので、パウロが剣神流を使わなければこんな感じになるんじゃないかなあって想像です。
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