無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
「慌ただしいなぁ…」
パウロとエリスが和解した翌日。
俺達は早々に、ロアから出ていた。
なんでも、領主が居ない状況が長続きすると不味いらしい。
そりゃそうだ。
超大急ぎでミルボッツ領の方に行かなきゃいけない。全く、上級貴族も楽じゃないぜ。
馬車に乗ってるのは、まず俺達一家は当然として、何故かフィリップとギレーヌも居る。
ギレーヌはまだ分かるが、フィリップはなんで居るんだ?
とは言えども、そんなことを訊いてフィリップに舐められては困る。というのがパウロに昨日の夜言われたことだ。
『フィリップは娘を政治に使える奴だ。舐められたら簡単に使い潰されちゃうだろ。俺はもう手遅れかもだが…ルディがフィリップに睨みを効かせるんだ。良いな?』
パウロにとって、フィリップはあまり信頼出来る手合いではないらしい。お互いに嫌い合ってる訳じゃないんだけどね。
何をやられるか分かったもんじゃないから、俺を賢くて有能と思わせて、フィリップが簡単に手出し出来ないようにしたいそうだ。
っていうか俺は、鈍感系の次は勘違い系をやらなきゃいけないのか。ご都合主人公の欲張りセットだな。
てな訳で、俺は全くもってフィリップが乗っている理由が分からないが、訊くわけにはいかないのだ。
パウロも同様だ。賢いとは思われずとも、付け入る隙があると思われて、本当に気づけないような凄い陰謀に巻き込まれたりしたら、どうしようもないからな。妥当だろう。
リーリャとゼニスは二人でブエナ村の方に荷物を取りに行っている。
ギレーヌは忠犬だから、わざわざ意図を問いただしたりしないだろう。てかギレーヌって何の獣人だっけ?犬?狼?
「ルーデウス!見て!魔物よ!」
エリスは…ダメだ、全く疑問なんて持ってなさそうだ。俺達との旅を純粋な気持ちで楽しんでやがる。
「ほーん、最近はめっきり減ってたのになぁ…って、なんか数多くないか?」
「こっちに向かって来てるな」
「魔物?!だ、大丈夫なのかい…?」
お、魔物か。昨日はパウロとエリスに良いところ持ってかれたし、ちょっとは良いところを見せたい。
「僕がアウトレンジから魔術を打ち込みます。打ち漏らしがあったら、ギレーヌがお願いします」
「分かった」
早速、
周囲への被害も考えると…土魔法だな。
飛んで行った魔術が、魔物どもに直撃する。
それと同時に…爆発!
よし、打ち漏らしは無しだ。
「私もやりたかったのに…」
エリスがちょっと不満げだ。
「可愛い可愛いエリスを前に出すわけにはいかないですよ」
満更でもなさそうな顔になった。パウロはニヤけ面になった。殴りたい、この顔。
(っていうか、フィリップだよフィリップ)
考えても分からないし、直接訊くことにしよう。なんで居るのか分からない方が怖いからな。
「そういえば、フィリップ様はなんでいらっしゃるのですか?」
「…いや、その……ノトスとの関係が良好で、重用されてるってことを見せつけるのと、後はピレモンに当主に戻られても困るので、領地経営のお手伝いを…」
何故だかフィリップは敬語だった。
どしたん?
ーーーフィリップ視点ーーー
不味い。もしかすると私は、とんでもない死地に足を突っ込んでしまったのかも知れない。
最初は、パウロやルーデウス達を使って色々とやろうと思っていた。パウロやルーデウスは少し前まで片田舎に居たような連中だ。
貴族のことなんて、分かりゃしないだろう、と。
馬車の中では、ルーデウスがしきりに何か聞きたそうな顔をしていた。
一見すれば普通の顔だが、ポーカーフェイスとしてはまだまだ甘い。
恐らく、なんで私が居るのか訊きたいだとか、その辺りのことだろう。
何故、直接訊かないのかは…多分、警戒されてるから?
確かに、私は曖昧な言葉でルーデウスを騙してピレモンを失脚させた。それが原因で言葉に注意してるのかも知れない。
そんなに警戒せずとも、騙すときは此方から行くのにね。
なんてことを考える余裕さえあった。
どう見ても素人丸出しの態度だからね。まだ11歳なのに騙されることに警戒がある辺り、磨けば光るかも知れないけど。
そんな私の余裕が崩されたのは、魔物が現れたときだった。
魔物が出た。それ自体は警戒していたことだ。
多少、恐れる気持ちがあったが、ギレーヌやパウロが居る。死の危険は感じていなかった。
ギレーヌやパウロに指示を出そうと思い、声を出そうとする。しかし、その直前、
「僕がアウトレンジから魔術を打ち込みます。打ち漏らしがあったら、ギレーヌがお願いします」
ルーデウスが指示を出してしまった。
魔術は昔見たことがあるが、この数の群相手だと、かえって恐慌状態にさせて危険だろう。判断ミスだ、そう言おうと思った。
だが、ルーデウスが詠唱無しで魔法を打ったせいで、それも失敗してしまう。
(もうダメだ、ギレーヌ、パウロ、神様…助けてください、お願いします!)
そう思ったときだった。
ルーデウスの魔法が着弾した。
とんでもない爆発音が耳をつんざく。
私が恐る恐る、魔物の居た方向を見ると…
そこには、ただ爆発痕があるばかりだった。
まるで、何もそこには居なかったと言わんばかりに、跡形もなく魔物は消しとんでいた。
なんだこれは。こんな魔術は見たことがない。
ルーデウスの表情は全然余裕そうだ。少なくとも、これより強い物が打てるということだろう。
極めつけは…
それを見た他の奴等の反応だ。
エリスは、自分がやりたかったとむくれている。
自分でも出来たという自信の現れだろう。しかし、子供であるが故の虚勢には見えない。
あれは、本気でそう思ってる顔だ。
そして、それに対するルーデウスの反応も、エリスの発言に対しては疑問を持っていない様子で、エリスの強さに信憑性が出てきてしまった。
ギレーヌも特に表情を崩さないし、パウロに至ってはニヤニヤしている。どれだけ余裕なのだろうか。
私も貴族だ。魔術は見たことがあるし、ああいうことが出来るってことも知っている。
だが、なんでもないことのようにやる程の者は見たことがない。
少なくとも、普通の人間ならルーデウスの態度を見て驚くだろう。
私は、ある結論に辿り着いてしまった。
私は……魔物以上にモンスターな奴等と、これから生活していくことになるのかもしれない。
パウロやルーデウスを何かに利用する気は失せてしまった。こんなもの、怒らせたら絶対に勝てないだろう。
ギレーヌが居ても、余波だけで死にかねない。
そんな私の態度を見て、ルーデウスはキョトン、とした感じの顔を向けてくる。
あの顔を私は知っている。昔、何かの本で見たことがある。
あれは……『俺、また何かやっちゃいました?』って顔だ。
恐ろしい。絶対に怒らせてはいけない。僕はそう、強く心に刻んだのだった。
ーーールーデウス視点ーーー
「ミルボッツ領ってどんなところなんですかね?」
「俺は家から飛び出すまで、親父に館でずっと勉強させられてたから町の方はあんまり分からないなぁ。ギレーヌはどうだ?」
「さあな。少なくとも、田舎の方はフィットア領と特に変わらない筈だ。すまんが、領都までは行ったことがないから、なんとも言えない」
あれから、俺達は世間話に花を咲かせていた。
俺も、訊きたいことが訊けて心の荷が降りたおかげで、素直に旅を楽しむことが出来ていた。
しかし、肝心のフィリップだけがなんだか青ざめている。馬車酔いしたのだろうか?
「それにしても僕達、ミルボッツ領のことなんてなんも分からないのに良く行こうとしてましたよね。本当、フィリップ様が居て助かりましたよ」
そういうと、フィリップの顔が結構元気になった。
なんなのさ?