無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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ミルボッツ領の領都の名前が分からないので仮置きで『領都』と呼んでいます。分かり次第、修正させて頂きますので、宜しくお願いします。


第四話「戦いの予兆」

「ほら、見えて来たぞ。あれが領都だ」

 

ほー、あれがミルボッツの領都か。ロアと同じく、中々に壮大な城壁が建っている。中にある幾つかのデカイ建物が見えるが、パット見だとあんまりロアと差を感じないな。

 

「久々に見ると、なんだか来る物があるなぁ…」

 

この頃になると、楽しそうなのはパウロだけになっていた。

アスラ王国は豊かな国で、辺り一帯に街道が張り巡らされてる程インフラが発達している国だ。

他の国で同じ距離を歩こうとすると、三倍位の時間が掛かる程らしい。

それ自体はとても素晴らしいことだが、一つだけ弊害があった。

 

それは、あのエリスが、初めての外だというのに詰まらなそうな表情をする位の問題だ。

 

そう…

 

(変わり映えしねえ……)

 

景色が全く変わらないのである。

他の土地なら、道行く途中で独特な町があったり、魔物の宝庫みたいな森があったり、異種族が住んでたりするのかも知れない。

 

しかし、そんな物はアスラ王国では邪魔なだけである。

文化が変わる程に他者との関わりも薄くないし、魔物の棲み家なんてのは開発の過程で少なくとも街道沿いからは駆逐され尽くしており、魔族は魔大陸に追い出されたし、他の種族も人族と交わって消えていった訳だ。シルフィとかが良い例だろう。

つまり、伊達に千年近くの歴史は無いって訳だ。

 

なので、何処を見ても畑、畑、畑、たまに村!と言った感じなのである。

特に、アスラ王国はもの凄く大きい平野を丸々領土とする国だ。つまり、中央部に行けば行くほど平野しかない訳で。

 

あれ以降魔物も全く来なかったし、そうなってくると本当に退屈だ。

特にエリスはあまり揺れに強くないようで、グロッキーな顔をしている。

1日2日は平気そうだったが、無理な長期行軍が体に堪えたようだ。俺は乗り物酔いをしないタイプだと思ってたが、若干気分が悪い。

そう考えると、アスラ王国が整備されてることに感謝しなくちゃかもな。つまんないけど。

 

 

ーーー

 

 

 

「おっ、着いたぞ!ここが領都だ!」

 

「んぅ…」

 

後少しだと思ってたが、思ったより時間が掛かった。

景色が変わらないと気づけないけど、意外に馬車の足は早くないらしい。

 

「ほら、エリス、起きてください。着きましたよ」

 

「くぁ……んぇ?着いたの?」

 

なんだこの可愛い生き物。俺の嫁なんだぜ?信じられるか?

 

「そろそろですけどね。ほら、門がすぐそこですよ」

 

「ホントね!」

 

エリスの目に光が戻った。随分と寝起きの良いことで。

外から見た感じだと良く分からなかったが、中は結構面白いかも知れない。

俺もちょっとワクワクしてきた。

門は二重なのだが、二つ目は閉じられてて、その前に検問が敷かれている。どうしたのだろうか。

 

「そこの馬車、止まれ!」

 

「はぁ?」

 

フィリップの機嫌がちょっと悪くなった。

もしかして、職質なんかでキレるタイプなのだろうか。冷静沈着なイメージがあったから、意外だ。

 

「この家紋が目に入らないのかい?」

 

水◯黄門かよ。

フィリップが言ってるのは、馬車に付いてる奴のことだろう。身分が一目で分かるように、馬車には紋章が付けられている。その他にも高そうな装飾なんかもされていて、いかにも貴族って感じの仕立てだ。

普通、貴族が乗る馬車を平民が止めてはいけないらしい。だからイラついているのだろう。

因みに、今乗ってる馬車にはボレアスの家紋が付いている。

フィリップ自身にはこれに乗る権利はないらしいが、サウロスの許可があればまた別らしい。

この辺りは良く分からないから要学習だ。ロアで見た『アスラ王国宮廷儀式』とやらが役に立つかも知れない。

 

「し、失礼しました…ですが、ピレモン様の指示でして、例え誰であっても通すなと…」

 

「ピレモンになんの権利があるんだい?ピレモンが失脚したことは伝わってないのか?」

 

「すみません…下っ端ですので、その辺りのことは…」

 

ピレモン?確か、フィリップに唐突に立場を追われた哀れな人だ。なんで名前が出てくるんだろうか。

 

「埒が開かないな…隊長か、それに準ずる者を連れてきてくれ」

 

「し、少々お待ちを…」

 

しかし下っ端の兵士も可哀想に。フィリップに凄まれてすっかりビビってしまっていた。

ピレモンとフィリップの板挟みになっているが、どちらに逆らうことも出来ない。やはり、間に挟まれる者が一番辛いのはどこの世界でも一緒なのかもな。

 

 

ーーー

 

「件の貴族とやらは此処か?」

 

「はい…」

 

暫くして、下っ端兵士が別の兵士を連れて戻ってきた。若干装備が上等な辺り、多分彼が隊長だ。

 

「すいませんね、幾ら貴族様と言っても、領主殿からの指示ですので。一応、急用でしたらお申し付けください。ピレモン様にお取り次しますので」

 

先程の下っ端君に比べて、随分とハッキリとした口調だ。多分、貴族を相手にするのも慣れているのだろう。

 

「領主が交代した。我々は、新領主一向だ。ピレモンにはもうなんの権限も無いので、通して頂こうか」

 

フィリップがかなり強めの口調で言う。交渉術なのか、それとも怒ってるのだけなのかは分からない。

 

「成る程。ですが、そのような話は此方に伝わっておりませんな。王国政府の権限を持っている方が居られれば、また別なのですが…幾らボレアスの方でも、証人無しではお請け致しかねます」

 

「我々の話は事実だ。ピレモンが隠蔽しているだけだろう。証拠は無いが…流石に今から王都に戻るのは厳しいな…」

 

これはフィリップが馬車の中で教えてくれたことだが、あまり時間を空けて、ピレモンに傭兵を雇われて抵抗したりされると、貴族が掌を返しかねないらしい。

アスラ貴族は、儲からないことはやらないそうで、内戦を起こしたりしても分けるパイが減るだけ、ということを良く理解しているそうだ。

その良くも悪くも保守的な思想が、アスラ王国が平和である理由だと言えるだろう。

 

一週間程なら大した数は雇えないが、ここから王都に戻ると1ヶ月程の準備期間を与えてしまう。

そうなると、フィリップの野望は潰えてしまうわけだ。

 

(ま、俺としちゃ、別にどっちでも良いんだけどね)

 

暗闘に巻き込まれる可能性の高いアスラには居づらくなるかも知れないが、それなら別の国に行けば良いだけだ。

エリスを父親から引き剥がして連れ回すのも気が引けるから流れに従ってるが、どうしようも無くなれば逃げれば良い。

 

そんなことを一人ごちてる間にも、フィリップと隊長はあーでもない、こうでもないと言い合っていた。

そんなことやってても、結論なんか出ないだろうに。

 

「おーい、どうしたんだ?」

 

痺れを切らしたらしいパウロが、車窓からひょっこり顔を出してきた。確かに、もう10分位経っているだろう。

 

すると、パウロの顔を見た隊長の顔が変わった。

 

「パ、パウロ様?!……お久しぶりです」

 

先程までの真面目な顔は何処へ行ったのやら。やけに下手に出る隊長。この感じだと、パウロの知り合いなんだろう。

 

「……お、久しぶりだな。なんか検問に引っ掛かってるみたいだけど、何が問題なんだ?」

 

「なんでも、ピレモン様が失脚なされて領主が交代されるとか……もしや?!」

 

「あ~、その『もしや』だ。俺が新しい領主になるらしい。顔パスで入れないか?」

 

「勿論ですとも!まさか、パウロ様が積極的に政治に関わりたがる筈も御座いませんからな。ピレモン様が失脚なされたというのも本当なのでしょう。どうぞ、お通り下さいませ」

 

パウロが顔を出した瞬間、隊長が打って変わって態度を変えた。男からの人気は凄いんだな、コイツ。

 

「早くお開けしろ!新領主殿のお通りだ!」

 

こうして俺達は、領都へと入ることが出来た。

ただただパウロの顔の広さに驚くばかりである。

 

ーーー

 

「しっかし、あんな奴居たっけなぁ…?」

 

馬車に戻ってきたパウロは、そんなことを呟いていた。俺の感心を返せよ。

 

 

俺達の入った領都は、やけに静かだった。パッと見はロアと変わらないが、それが却って不気味に思える。

 

「やっと入れたのね!……」

 

一瞬、ワクワクしたような表情になった顔のエリスが、直ぐに、むすっとした表情になる。

期待していた領都が、殆んどロアと変わらなかったからだろう。

 

ん?エリスがなにやらギレーヌに目配せしている。

 

「ねえ、ルーデウス…何か変な気配を感じるわ。注意して」

 

「お嬢様の言う通りだ。念のため、私は馬車の上で待機しておく」

 

どうやら、景色のことではなかったらしい。

しかし、変な気配か……何か、ピレモンとやらが企んでいるのかもな。

俺も警戒しておこう。念のため、魔力を手に込めておく。

 

しかし、そんな警戒とは裏腹に、俺達はいよいよ領主館まで着いてしまった。

 

「どうする?」

 

「あまり狭い空間で戦いたくはないが…入らない訳にも行かないしなぁ…」

 

「一応、剣を使える状態にしておいてください」

 

ここで立ち往生してる訳にも行かないので、軽くパウロたちとフォーメーションだけは相談した。

 

いよいよ、領主館だ。

 




因みに、御者は大人たちが交代でやってます。
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