無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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第五話「領主館の戦い」

中に入っても、相変わらず人の気配はしない。

 

「僕が土魔術でドアなどを塞ぎます。父様に前衛、ギレーヌに後衛、エリスに中衛とフィリップ様の護衛を頼みます」

 

 

領主館に入っても、人っ子一人も居ないのは明らかに異常だ。まず間違い無く、何らかの罠が仕掛けられてると思って良い。

そう考え、本格的に戦闘準備に入る。

パウロが知らなかった隊長も、グルだったのだろう。

恐らく、パウロ以外通すな、みたいな指示をされてたからあんなに態度が急変したんだろうな。

 

無論、こんなことを考えつつも警戒は絶やさない。

 

ピレモンの狙いはなんだろうか。継承権保持者が居なくなれば、自分が領主に居座れると思ってるのかも知れない。

その考えは間違っちゃ居ない。この世界はとにかく血が重い。俺が領主を押し付けられたのも、ゼニスとパウロの血筋がハッキリしてるのが大きいからな。

これで、ゼニスが平民だったりしてたら話は別だっただろう。

つまり、アイシャよりノルンの方が優先ってことだ。

 

 

「来るぞ!」

 

ドアがガン!っと大きな音を立てて鳴った。遅れて、三つほどのドアから同じ音がする。

しかし、俺の土魔術が原因でドアを開けれないようだ。数十秒もすれば蹴破られるかも知れないが、それだけの時間があれば充分だ。

 

「ギレーヌ」

 

そういって、俺は左手前のドアを指す。同様に、パウロには右手前のドアを、エリスには奥二つのドアの方を指した。

 

これは、各自配置に付けと言う合図だ。

そしたら、あえて大声で叫ぶ。

 

「ドアを開けたら、水魔術を僕が打ち込んで牽制します!突破口を作ったら、全員で突っ込んでください!」

 

勿論これは真っ赤な嘘だ。

俺が無詠唱で魔術を使えることを知ったフィリップに提案された作戦だ。

 

殆んど、無詠唱の魔術師が居ないことを利用して、嘘っぱちの詠唱をするのだ。

敵は詠唱を終わるタイミングを警戒してるだろうから、途中で切って別の魔術を打ち込んでやれば良い。

 

因みに、今回使うのはファイアーボールだ。人間ってのは、根源的に炎を恐れるからな。

火事になるかも知れないが、そこは俺も水聖級魔術師だ。その位なら簡単に鎮火できる。

 

 

「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なる!」

 

訳の分からないところで詠唱ストップだ。両手を広げて、横二つのドアにかなり魔力を込めたファイアーボールを打ち込む。

ファイアーボールはドアを焼き切り、中へと突っ込んで行った。ライトセーバー見たいな感じだ。

中から叫び声が上がる。

それを聞いた俺は、急いで土魔術のバリケードを消した。

そこに、ギレーヌとパウロが突撃していく。

 

前の方のドアの奴等は異変に気づいたようで、ガンガンとドアを蹴破ろうとしている。

これは、そろそろダメそうだな。

 

しかし、何かが可笑しいことに気づいてても魔術の種類にまでは気づいてないらしい。

ドアの前に集まって突き破ろうとしている。良いカモだ。

 

普段、俺は人を殺すことに本能的な忌避感がある。殺すことが生理的に無理とか、軽蔑するとかそういう訳じゃないが、体を動かすのに時間が掛かってしまうのだ。

 

しかし、今日はそんなことは無かった。ドアにファイアーボールを打ち込めば、恐らく何人かは死ぬだろう。しかし、直接人に当てる訳ではない、という意識が何故だか俺から抵抗感を消していた。

 

またファイアーボールを打ち込む。ドアが焼き切れ、中から叫び声が聞こえる。そこにエリスが突っ込んで行き、生き残りを殺した。逆側には、俺が魔術を打ち込み続けた。

 

同時に襲い掛かって殺す作戦も、同時にされなきゃなんてことはない。

俺達は無事、襲撃を乗り切ったのだった。

 

「おい、ルディ!燃えてるぞ!!」

「ルーデウス!不味いんじゃないの?!」

「おい、こっちも火事だ!」

 

思った以上に火力が強くて、部屋の中がかなり黒焦げになっていた。

ま、まあ、敵に抵抗させないって意味じゃ大正解だな。うん。

 

 

ーーー

 

 

あの後、俺達は土魔術を使う→中に傭兵が居ないことを確認する→中の確認 というローテーションを組んで進んで居た。因みに、二階に上がるところでもう一度襲撃があったが、此方も難なく撃破した。それ以降は全く何もない。

 

二回目の襲撃では、ギレーヌが一人捕虜を捕らえたようだ。そいつに尋問をした結果、「ピレモンに配置の指示をされ、侵入者に対処しろと言われていただけ」ということをゲロらせることに成功した。

ギレーヌの尋問は、ハッキリ言ってメチャクチャ怖かった。ちょっと漏らしそうになったのは、俺だけの秘密だ。

 

しかしまあ、これでピレモンは完全な黒だろう。

後はピレモンを引っ捕らえるだけだ。

 

 

ーーー

 

ピレモンは、パウロに良く似た男だった。二階の執務室で悠然と佇む姿は中々に様になっている。パウロの姿を見て一瞬、目付きが鋭くなったが直ぐに元に戻った。切り札を持ってるのかも知れない。俺は改めて警戒する。

 

「ああ、新領主殿!お早いお着きですね!」

 

ピレモンはやけに大げさで、蔑むような口振りでそう言った。

 

「なあ、お前…立場分かってんのか?」

 

パウロがそう返す。切り札も何も無ければ、ピレモンは新領主殺害未遂の容疑で処刑されるだけだ。

襲撃されたのは事実だし、第一王子派は確実に処刑してくれるだろう。

 

「さて、なんのことでしょうか?」

 

「………」

 

しかし、そんな事実を知ってか知らずかピレモンは余裕な態度を崩さなかった。

これは、切り札が居ると見て間違いないだろう。

そう思った矢先だった。

 

「警戒しなくても結構ですよ。なにせ、私は新領主殿に職務引き継ぎをするために残っていただけですからね」

 

まるで此方の考えを見透かしたかのような返答だ。

 

「ああ?」

 

「ですから、職務引き継ぎの為に残っていただけですよ。いきなり私が出ていっても、困るだけでしょう。ですから、新領主殿が来るまで私が代理で仕事を行って居たのですよ」

 

「お前…襲撃してきたのを、忘れたとは言わせねえぞ」

 

「襲撃……はて、なんのことですかな?」

 

「しらばっくれるな!検問で俺が来たことは伝わってる筈だぞ!」

 

パウロとピレモンの口論が続く。

怒っていても咄嗟にこういう反論が出来る辺り、パウロには結構貴族としての素養もあるのかもだ。

 

「恐らく、偶然、新領主殿の顔を知っていたのでしょう。申し訳ありませんが、私は新領主殿が誰なのか存じ上げ無かったのでね」

 

「じゃあ、屋敷での襲撃はなんだったんだ!」

 

「ああ。あれならば、領主不在と見て不届き者が来たら困るので、急いで臨時の護衛を用意したのですよ。連絡にミスがあったのでしょうね」

 

「はあ?職務怠慢じゃないか?」

 

「私はもう領主ではないのでね!新領主殿。これは有志としての活動ですよ。それに、私も如何せん記憶が怪しくて、新領主殿の顔どころか、名前すら覚えて居なかったのです。申し訳無かったですね。ですが、フィリップ殿の顔は良く覚えているので貴方方が本物だと今分かりましたよ。どうぞ、領主の座はお譲り致します」

 

すげえな、コイツ。今の会話だけで、五つ近くの皮肉を込めていやがる。

 

『お前らが突然領主交代とか言い出したけど、そんなこと出来る訳ないじゃん!現実見えてるか?てか、領主から引きずり落としたお前らが職務責任ってなんなの?お笑い?12歳で家を出てったお前が今更何しに来たんだ?もう顔も覚えてねえよ。でも、フィリップ。俺を引きずり落としたお前の顔は良く覚えてるし、お前らがフィリップに担ぎ上げられた御輿だってこともよーく分かってるからな』

 

ピレモンの話を要約すればこうだ。

自己弁護しながら此処まで相手をなじれるのは大したもんだ。貴族として暗闘する才能はピカ一だったのだろう。

 

「お前の指示で襲ったってのは分かってるんだぞ!」

 

「不幸な行き違いがあったか、それとも新領主殿を襲ってしまったことを恐れて、私の名前を出しているだけでしょう」

 

「………」

 

パウロもピレモンには弁舌で勝てないと察したらしい。

黙りこくってしまう。

実際、ピレモンはハッキリ「パウロを襲え」と指示した訳ではなく、どうとでも取れる曖昧なことを言って誘導したのだろう。そういう自信を感じられる口振りだった。

 

「ピレモン殿。パウロ殿が来たからには、もう貴方はお役御免だ。ご苦労だった。さっさと出ていって貰おうか」

 

そんな様子を見てフィリップが口を挟む。確かに、フィリップの言う通りだ。

これを受けてピレモンは……

 

「そうですな。では、邪魔者はおさらばさせて頂きます」

 

やけにアッサリと許諾した。ドアを開け放して

そして、ドアを開け放したまま歩いて行ってしまう。

パウロは怒りに満ちた目で、それ以外の連中は味わい深い顔でピレモンを見送った。

 

そして、階段を降りる辺りでピレモンがなにかを投げた。あれは…なんだ?

 

「あれは……鍵だな。なんの為の物なんだ?」

 

「奥の扉が開かないみたいだね」

 

ガチャガチャとドアをやっていたフィリップがギレーヌに返答する。ちょっと迂闊じゃないか?

 

「多分、奥の扉用の鍵だろう。取ってくる」

 

そういって、ギレーヌがダッシュする。

はやっ。結構長い廊下なのに、一瞬で戻ってきた。

 

「開けるぞ。一応、警戒しておいてくれ」

 

 

ドアをガチャリ、とギレーヌが開ける。

 

 

…そこに居たのは、決して襲撃者などではなかった。

四十人位だろうか。手錠と足に固定具を付けられ、床に人間が転がっている。

 

それだけなら、まだなんでも無かった。

しかし、辺りには血の臭いが立ち込めている。良く見ると……その内の半数近くの人間は、喉にナイフが刺されていた。

 

「ぱ、パウロ様……」

 

入ってきた俺達に気が付いたようで、一人がパウロに声を掛ける。隊長とやらに対する物と違って、パウロもハッキリと怒りが見て取れる反応を返す。

 

「どうか、お助けください…」

 

そう言いながら、数人の人間がパウロの方に這っていく。女は居ない。全員、男だ。

 

「ピレモンの奴……何を考えていやがる?」

 

どうやら、一筋縄で領主交代とはいかないらしい。




隊長がパウロが来た瞬間に態度を変えたのは、ピレモンがルーデウスだけ殺しても意味がないと考えてるからです。
ピレモンは『新領主』がパウロとルーデウスのどちらか分かっておらず、『新領主』ではパウロが来たのかルーデウスが来たのか分からないので隊長は遅延行為に勤しんでましたが、パウロが来たので通しました。
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