無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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公式のパウロ過去編があることは知ってますが、色々あって見たことはありません。
今は取りあえずの形で書きますが、過去編を見た後で大幅に話を変える可能性があります。
御了承ください。


第六話「砂上の楼閣」

「おい、どうなってんだ…こりゃあ…」

 

「パウロ様…大きくなられて……」

 

「…ジェスター、か。久し振りだな…。取りあえず、拘束を解くから何があったか話してくれるか?」

 

死屍累々とした部屋の中で、半数程度の生存者の中で、特に年を取ったおじいさんとパウロが話していた。

おじいさんの名前はジェスターと言うらしい。エリスにとってのエドナかアルフォンスのような人なのだろう。

パウロの目の色にも、それなりに暖かみが感じられる。少なくとも、血を別けた弟に対する物よりも余程に。

 

「ありがとうございます。ですが、私以外の拘束を解くのは止めた方が宜しいかも知れませぬ…」

 

「どういうことだ?」

 

「それについては、今から説明致します……とと、すいませんな。如何せん、長時間縛られていた物で…」

 

ジェスターは腰を痛めたようで、中々話を切り出せないでいる。その間に、他の文官と思わしき生存者が喚きだした。

 

「あの!早く解放して頂けませんか!」

 

「パウロ様!助けてください!」

 

「ええい、うるさいぞ!少し待っておれ!」

 

ジェスターと文官たちが喧嘩をしだす。これじゃあ、話もロクに聞けやしない。

今度は、パウロが痺れを切らしたようだ。

 

「分かった、分かった。今、解放してやるから、少し静かにしていてくれないか?」

 

「パウロ様!」

 

ジェスターが悲痛な声を出す。自分の進言が無視されて驚いたって様子だ。

 

「ああ……いや、コイツらはこう見えても全員強いからな。文官に奇襲された位じゃ、なんともならない。だから大丈夫だ」

 

パウロはやりにくそうにしている。なんていうか、パウロがジェスターに向けている感情は、俺達に対する物とはちょっと違うのだ。

無下にする程に嫌っては居らず、しかし無条件に優先するほど好きって訳でもない。そんな感じがするのだ。

 

「そう、ですか……では、そのようになさってくださいませ……」

 

ジェスターはそれに気づいたのか、ちょっぴり落ち込んでるように見えた。

が、パウロはあまり気にしていないでエリスやギレーヌに拘束を解かせた。ジェスターとパウロの関係は分からないが、ジェスターの様子を見てるとちょっぴり物悲しい物がある。

 

文官達は解放されたら静かにしていた。ジェスターの懸念は杞憂だったのだろうか?

しかし、そのこと自体はそこまで気にしていないようで、ジェスターは直ぐに話し出した。

 

 

「あれは、数日前のことでした…」

 

 

ーーー

 

ジェスターはその日、普通に仕事をしていた。

 

暫く書類と格闘していると、数日前に王都に出向していたピレモンが帰ってきて、呼び出された。

 

何用だと思ったら、自分が失脚したとピレモンが伝えてきた。そして、「パウロと自分、どっちに着くか」ということを聞いてきたという。

ジェスターは直ぐに返事を返すことが出来ず、お茶を濁して立ち去ろうとしたが、ピレモンに強く引き留められた。

なので、パウロが来たら鞍替えすれば良いと考えて、一旦「ピレモンに着く」と答えた。

 

ピレモンは満足そうに頷き、それで話は終わりだった。

その後は、特に何かパウロ失脚の為の片棒を担がされるのでもなく、普通に仕事をしていた。

そしたら、唐突に拘束され、良く分からないままに半数位の人間が殺された。

 

ーーー

 

「その後暫くして、パウロ様がいらっしゃったのです」

 

「ふむ…」

 

と、言った感じのことを長々と語ってくれた。正直、感情や主観が多分に混ざっているのではないか?と疑うような語り口だった。

他の文官達が特に何も言ってこない辺り、そんなに大きく外れた内容ではないのだろうが。

てか、ピレモンあいつ、やっぱりパウロが新領主だって分かってたんじゃないか。

 

「私は、ピレモンに着くと言いました。恐らく、殺されてしまったのはパウロ様に着くと言った者でしょう。ですから、生き残っている者達は裏切り者の可能性が高いのです」

 

「なるほどな…」

 

話は分かった。そう考えると、コイツらは信用出来ないのだろう。早く解雇して、早く新しい人材を雇えば良いだろう。

そう考えたときだった。

 

「お待ちを!私はパウロ様に着くと申し上げました!」

 

一人の文官が声を上げたのは。

それを皮切りに、文官がわめき出す。

しかし、その主張は千差万別だった。

 

「パウロに着くと言った」と、主張する者。

「ピレモンに着くと取りあえず言った」と、主張する者。

「領主の立場に居る者に付き従うだけですと言った」と、主張する者。

 

パウロの味方だと明言する者も居れば、中立だったと言う者も居るし、コウモリをやっていたと堂々と言う者さえ居る。本当のことかは分からないが、これが本当にピレモンの部下なのか?

あまり詳しいことは分からないが、ここで団結してジェスターを非難する方が、残りの文官が残留する可能性があるように思える。

いや、逆に統一性を出さないことでピレモンの思惑を分かりにくくする作戦か?

 

正直、幾らでも可能性が考えられる。喚いていることが本当かも知れないし、嘘かも知れない。

ただ、それを裏打ちする証拠もない訳で。

ジェスターを信じるにしても、ジェスターの言ってることは推測だ。状況証拠だけではどうしようもない。

 

「…取りあえず、いきなり全員解雇とはいかないんじゃないかな?一旦、試用してみて様子を見てみよう」

 

フィリップも似たような結論に落ち着いたようで、そうすることになった。

 

ーーー

 

 

問題が噴出するのは早かった。

問題は二つあった。

 

一つ目は、まず絶対数が足らないということ。

業務を行う人間が足りないという意味ではない。

元々、回ってきた業務を裁可・執行する立場に居た文官は、60人ほど居たらしい。

下で色々とする立場の文官は特に減っていなかったのだが、最終的な決定権を持つ立場の物が消えてしまったせいで、連絡が混錯しているのだ。

 

パウロのところに持っていったり、フィリップのところに持っていったり、はたまた関係のない上司の元に持ってったり……

ノトス家の指揮系統が丸々崩壊したことで、大混乱となって仕事が遅々として進まなくなっていた。

 

因みにだが、あのとき転がされていた四十人ほど以外に居た筈の二十人の所在は全く分からないらしい。不気味だ。

 

話を戻そう。この問題一つだけなら時間と共に解決出来たのだ。

 

 

 

そこで、二つ目の問題が出てくる。

 

それは……

 

「おい、お前!お前はピレモンに着いていただろう!お前が部屋から出てくるとき、様子が可笑しかったのを見たぞ!」

 

「なんだと!貴様こそ裏切っているのだろう!不和の種を持ち込みやがって!」

 

「ちょ、落ち着いて落ち着いて!」

 

文官同士が、疑心暗鬼になっていることだ。

中には、口論が発展して殴り合いの喧嘩になっていたことさえある。

因みにそのときはエリスとおうちデート中だったのだが、ぶちギレたエリスにボコボコにされてた。

その後、ちょっとだけ文官同士の喧嘩は落ち着いていた。エリスは偉大だった。

 

しかし、結局根本的な解決にはならない。やはり、一度仲が拗れると修復は容易ではないのだろう。

死人が出た後だと特に。

 

中世の官僚組織なんてのは、基本的に馴れ合いで成り立っていると言っても過言ではない。

このファンタジーな世界も、例に漏れずだ。

文官同士の関係が破綻した、というのは業務の遂行に予想以上の障害をもたらしていた。

 

元々は、文官の裏切りを見極める為に用意してた時間が、却って裏切り者の隠れ蓑になってしまったのだ。

 

ーーー

 

「てな訳で、第一回、グレイラット家当主会議を始めます。パチパチ~」

 

「あの、私は当主ではないんだけど…」

 

「ルディもな」

 

細けえこたあ良いんだよ!

 

「ノリが悪いですね。では、本題に入りましょう。文官たちの問題をどうするのか、ということです」

 

「新しく雇えば良いんじゃないか?」

 

「それはもうやったさ。だけどね…」

 

フィリップは、ジェスターを連れて領都に新しい文官を探しに行ったそうだ。

条件は、身分がハッキリとしていて実務能力のある者。

その条件で探したところ、応募者が二十人居たらしい。

 

丁度、消えた文官の数だね。お察しの良い方ならもう分かっただろう。

 

そう。ジェスター曰く、面接に来た文官というのは元々働いていた奴等らしい。

明らかに怪しいし、実際に面接をしたらピレモンの味方だと匂わせることを言ったそうだ。

 

「これで、在野の文官は信じられなくなってしまった訳だ。そもそも、あの条件に合致するだけならもっと数は居ても可笑しくなかった。つまり、どこかでピレモンの息が掛かった者以外の応募は握り潰されてると思って間違いないだろう」

 

「そうか…」

 

それっきりパウロは黙ってしまう。特に思いつくことがないらしい。俺は一応、何個か候補を思い付いたんだが、パウロに伝える手段がない。

 

どうしたもんかと悩んでいると…

 

「ああ、ルーデウス。君とパウロで何やら役割分担をしているようだけど、そもそもエリスを抱いた時点で貴族としての能力は察してるからね。気になることがあれば言ってくれて構わない」

 

「「えっ!」」

 

フィリップが衝撃的なことを言ってきた。気づかれてたのかよ!割と上手くやってた自信があったんだけどな…

 

「ど、どこで気づいたんですか?」

 

「確信を持ったのは、今だね」

 

チクショウ、ここまで鮮やかな鎌かけをされるとは…

あまりに綺麗な形で、我ながらショックだ。

 

「で、何か案があるんじゃないのかい?」

 

こうなったら面子もクソも知ったもんか。めんどくさい仕事は全部フィリップに任せてやる。良いだろう、どんなバカな案でも言ってやろうじゃないか!

 

「あの、ボレアス家の方から幾らかお借りするのはダメなんでしょうか?」

 

「それはダメだね。そうなると、周囲からノトスがボレアスの傀儡になったと思われてしまう。今でもギリギリの綱渡りだけど、流石にそこまでやると完全にアウトだ」

 

「何がダメなんでしょうか?別に、本当に傀儡になるわけでもないので問題がない気が…」

 

「ボレアスとノトスがくっつくと強力になりすぎるんだ。王家と拮抗する勢力になりかねない。そうなると、ノトスの方がガタガタな内に、全力で中央が妨害してくる可能性が高いんだ」

 

完全に論破されてしまった。だが、まだ案はある!目指せ、俺の内政チート!

 

「では、第一王子派に頼むのはどうでしょう?これなら、中央の貴族も味方になるのではないかと思うのですが」

 

「それもダメだね。王が決まった後か、それとも勝利が決定的になった瞬間に徹底的な中抜きが始まる。地方領主と中央貴族ってのは、基本的に相容れないんだ」

 

「じゃ、じゃあ、エウロスやゼピュロスを頼るのは…」

 

「彼らもダメだ。今は第二王子派を名乗ってるが、それは対立構造を演出するための物に過ぎない。実質的には、第一王子派だ」

 

フィリップに口論で勝てる訳が無かったですね。分かってたよ、チクショウ。

というか、こういうのは主人公の提案した案が「これだ!」って感じになるもんじゃないのか。こういうところはテンプレじゃないんだな。

俺は貴族になるって聞いて、少しばかし内政チートに期待していたのだが、この感じだと俺の浅知恵くらい、フィリップなら直ぐに思い付きそうだ。

餅は餅屋。貴族は貴族だ。

あれ、じゃあ、無職の俺って一体…

 

「他に何か案はないかい?」

 

「いえ、何も…」

 

フィリップと話していて、俺は自信を失っていた。

生前では政治のレスバをしたこともあったが、結局は誰かの意見の焼き増しをしてるに過ぎない、ということに気づいてしまったのだ。

それと同時に、俺の無職だった時間がとんでもなく虚無な物に感じられてしまう。

 

「じゃあ、オレは冒険者だった時代のツテを当たってみるよ。そいつらなら、信用出来るしな」

 

「文官が冒険者に従うのかい?」

 

「直接会わせなきゃ良いだけだ。適当に偉い奴ってことにしておけば、特に問題ないだろ」

 

「じゃあ、それは採用にしとこうか」

 

それに、心の底でコッソリ頭脳では勝ってると思ってたパウロにも、もっと良い案を出されてしまった。

ますます、俺は落ち込んでしまう。

そんな俺に、フィリップが声を掛けてきた。

 

「なに、そんなに落ち込むことはないさ。君はまだ子供だ。これから、経験を積んでいけば良い」

 

そうだ。俺は年だけ食ってても、経験では彼等には勝てない。

なら、これから経験を積んでけば良いのだ。そうフィリップの言葉で気づかされた。

 

「確かにそうですね…では、明日から時間を取ってくれないでしょうか」

 

フィリップに対してなら、圧倒的な格の違いを思い知ったお陰で、素直に師事を仰ぐことが出来た。

 

「言われずとも、そうするつもりだったよ」

 

フィリップは快諾してくれた。忙しいだろうに、俺の将来性に期待してくれてるってことだ。思わず胸が熱くなる。

 

「あ、ありがとうご…」

 

「じゃ、これが君の分だね。明日から宜しく頼むよ」

 

「えっ………」

 

目の前に、ドンと置かれた紙の束。

 

ニコニコしながらフィリップが言ってくる。

エリスと言い、ノトスと言い、面倒な仕事を押し付けるのが上手すぎないか?

 

まあ、なんだ。

フィリップに勝つことは諦めることにしました。




パウロが連れてくるのは一体誰なんだ………?!
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