無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
あれから二週間が経った。
ゼニスとリーリャは、まだ来ない。ノルンとアイシャはまだ小さいから、ゆっくり来ているのだろう。
「くあぁ~……」
「ルーデウス、お疲れ様」
疲れきったところに、エリスがお茶を汲んでくれる。
いやあ、気が効く嫁さんが居ると良いね。
俺はあれから、社畜のような生活を送っていた。
朝起きたらまず二時間の鍛練。そしてその後は書類と格闘。それが悠に14時間だ。
つまり、16時間労働。
8時間時間が空いてても、ニートの頃とは勝手が違う。とてもじゃないが、夜更かし出来る程の体力は残ってなかった。
そうなってくると、エリスに構ってやれる時間も相当少なくなってしまう。
パウロとフィリップに相当無理を言って、三日に一度、12時間程の空き時間を作って色々やってるが、正直、新婚とは思い難い生活だ。
エリスと一緒に書類仕事をしてみようかとも思ったが、エリスは書類特有の整備文という奴が、良く分からないみたいだった。
「なんで普通に書かないのよ!!」とは、エリスの言だ。理由は俺も全く分からない。
まあ、そんな訳でエリスは書類仕事が出来ない。
そこで、俺が思い付いたのが…
メイドさん!
ではなく、エリスを秘書にすることだった。
始めは、俺もエリスにメイドさんの格好をさせようと思ってたし、エリスも割とノリノリでやっていた。美少女の嫁がメイドの格好で奉仕してくれる。
生前の俺ならそれだけで三発は行けたし、今世の俺もそれで三発中に出した。
おっと、下世話な話になってしまった。童貞諸君には刺激は強かっただろう。
では、何故取り止めになってしまったのか。
ある日、フィリップが仕事を渡しに来たときに、エリスのメイド姿を見られたのだ。
獣人では分かり合えた仲間だ。フィリップもきっと、メイドさんエリスの素晴らしさを分かってくれると思ったのだが…
「ほう、メイドの格好……」
これだけなら、話に乗ってきたエロオヤジの言動に思えないでも無かったが、眼光がヤバかった。
何の戦闘力もない筈のフィリップに対して、本気で腰を抜かしてしまった程だ。
何をされるのか分かったもんじゃないので、平謝りして辞めることになった。
そしたら、メイドではなく秘書にしてほしい、と言われたのだ。差はいまいち分からないが、貴族的な価値観では違うらしい。
そういうわけで、不本意ながら俺は、エリスのメイドさん化計画を諦めることになってしまったのだ。
仕返しに、フィリップに回す仕事を遅くしてやったのだが、そしたら俺に回る仕事も遅くなって、デスマーチをする羽目になってしまった。
文官不足を如実に表すエピソードである。
だが、これはもうじき解決されるだろう。
フィリップはアルフォンスさんを持ってくるらしいし、ゼニスもリーリャも書類仕事は出来そうだ。
それに、今日の昼飯のときに、パウロが嬉しそうに「(助っ人が)やっと来る!」と叫んでいた。
目の下にはかなり濃い隈が出来ていて、ちょっと様子が可笑しかったので、もしかすると想像上の助っ人かも知れない、なんて考えたりもしたが、ちゃんと実在する人間のようだ。
パウロには申し訳ないことをした。でも、もう少しの辛抱だぞ!
パウロ曰く、その助っ人は冒険者でお調子者らしい。
第一印象は大切だ。
何か挨拶の仕方を考えとかないとな…
ーーー
助っ人が来た。
急ぎで来たらしく、冒険者らしい格好も合わさって、かなり汚い様相をしていた。
「ようこそ、人生の終着点へ」
始めから真実を伝えてやる。パウロから、なんて話を聞いてたのかは知らないが、この現実を知っていたら、わざわざ手伝いになんか来ない筈だ。
男は面食らったような顔で此方を見ていた。
揉み上げが長く、サルのような顔をした男だ。
パウロ曰く、それは種族的な物らしい。
彼は魔族なのだ。
「どうした?新入り。何か気になることでもあるのか?」
「い、いや、なんていうか」
男は狼狽した顔で、俺を見ていた。
ドス黒い隈。ボサボサの髪。死んだ目。
何も可笑しいところはない筈だ。
「…予想以上に、老けてるんだな?」
「おい新入り。口の聞き方に気を付けろ。俺はここにきてお前より長い。つまり老けてて当然だし、先輩だ。敬えよ」
「お、おう」
「返事はハイだろうが」
「はい」
なんで俺は初対面相手にこんな偉そうにしているのだろうか。
疲れて居るからだ。
「残念ながら休みは無い、適当な場所に座って、書類を手伝ってくれ」
「は、はい……」
「で、新入り。お前は業務内容を把握しているのか?」
ぞんざいな口調で訊いてみる。
新入りは年下に生意気な口を聞かれても怒ったりせず、俺の問いに答えてくれた。
「や、ちゃんと聞いてるよ」
「ほう、会計か。編纂かね?そんなことを想像してるなら覚悟が足りてないぞ」
「いや、全体的に手伝いをして欲しいって言われたんだよ」
「そうか」
パウロも上手いこと言うもんだな。きっと、軽い雑用を想像していたのだろう。
「パウロに完全に騙されたな」
「親父のことを呼び捨てにするのか?」
「聞いてりゃ分かるだろ。ロールプレイングだよ」
「なんだそりゃ」
「普段はキチンと、父様って呼んでいますよ」
男の俺を見る目が、気味の悪い物を見る目に変わった。
いや、最初から割と似たようなもんだったけど。
「で、新入り、名前は?」
「ギースだ」
「仕事は出来るか?」
「冒険者だけど、一応、それなりに」
まあ、事前にパウロから聞いてたから知ってるんだけどな。やりたかっただけだ。
そのときは大佐かよ!ってツッコミを心の中で入れてた。
「俺はルーデウスだ。お前より年下だが、ここでは先輩だ」
「へいへい」
ギースはそこら辺をウロウロして、何かに思い至ったようだ。
「っていうか、そもそも先輩である以前に貴族なんじゃねえのか?」
「確かに」
「なんだ先輩、大概変な野郎だな」
「ハッ、ちげえねえ」
コイツも大概、失礼な野郎だ。
まあ、平民に敬語を求める貴族なんて少ないんだけどな。
「おい新入り」
「なんだ先輩」
「早速、ここの書類をやってくれよ」
「あいよ」
ギースだって少しは休みたいだろうに、特に嫌な顔もせずに手伝ってくれた。パウロの手伝いに来る辺り、面倒見が良いタイプなのだろう。
「あ、どうもありがとうございます」
「…敬語は気持ち悪いから辞めてくれないか?」
「いえ、何日もデスマーチでしたからね。やっと人として復活出来ると思うと…」
「まあ、なんだ。大抵のことは出来るから、任せてくれや」
こうして、ギースが仲間になった。
暫く書類仕事を黙々とこなした後。
「ねえ、いつまで黙ってれば良いのよ!」
『雰囲気が壊れるから』って静かさせてたのに、完全に忘れていたエリスに一発良いのを入れられた。
改めて新入り。
ようこそ、人生の終着点へ。
元々ギースの登場はこんな感じにしようと思ってたのですが、ちょっと書き換えれば良いだけなので凄い楽でしたね。