無職転生 ~領主になったら本気だす~ 作:華氏使うな
アマゾンプライムの二倍の値段の量とは思えなくて、驚きました。
この前、ギースはエリスに何発殴られるかなぁ、なんて考えていた俺。
1が大穴、2が穴、3が対抗で4が本命かなぁ、なんて勝手に思っていたのだが、なんと、彼は一発も殴られなかったのだ。
驚くべきことに、ギースは一発も殴られることなくエリスの懐に潜りこんだのだ。パウロと言い、ギースと言い、天性のコミュ力には感服せざるを得ない。いや、そうとでも思わないと、俺の苦労が偲ばれない……
ギースは、聞き上手だとでも言うのだろうか。相手の話を少し聞いただけで、相手がどんな反応を求めてるのかを、的確に感じとる能力に長けていた。
俺のダル絡みにノリ良く返してきたところからも、それは分かる。空気が読める男なのだ。
これはエリスに対しても発揮された。
剣の腕前を褒め、勉強が出来れば褒め、たまには俺のことを褒め、テーブルマナーも…………とにかく、褒めに褒めて褒めまくっていた。
エリスは、そこまで難しく物事を考えるタイプじゃない。相手が、嫌味を感じさせない賛辞を送ってくれれば素直に………喜ぶタイプ………あれ?
俺は普通に褒めても、割と酷い扱いを受けていた気がする。
…ツンデレだよな?うん。そうだと言ってよ、バァニー……
やめだやめ。もうエリスは恋人なのだ。それが何よりじゃないか。
他のことを考えよう。
このギースの能力は、文官達にも有効だった。
見下される程無能でもなく、かと言って嫉妬を覚えるほど有能でもない…
『あ、見所があるな』と、そう思われる位の能力をアピールして見せたのだ。
加えて、文官達と言うのは、おしなべて自尊心が高い。そしてギースは腰が低い。この二つが、自らがエリートだという自認がある文官達の態度を軟化させたのだ。
自分よりは劣るが、かといって全くの無能でもない…そんな奴が、自分のことを慕ってくるのだ。
嫌な気分がする筈もない。
こうして、ギースは文官達に気に入られた。
そして、その立場を利用して伝書鳩をやり始めた。
ギースというワンクッションを挟むことで、互いのヘイトを軽減しよう、という試みだった。
これもまた、成功を収めたと言っておこう。
かくして、ギースが入ったことで、統治機構はようやく正常に動き出した。
いやぁ、もう新入りには足を向けて寝られないね。
ーーー
ある日の昼下がり。労働時間が12時間ほどまで減って、かなり余裕が出来てきた頃。
「おう、新入り。また連絡か?大変だな」
「んにゃ、先輩。違うよ。フィリップ様に伝えたいことがあるんだ。丁度良い、ちょっと付き合ってくれや」
「伝えたいこと?」
一体どうしたんだろうか。ギースは基本的に、重要な物事はパウロの方に報告する。
理由は分からないが、まあ、彼なりの何かがあるのだろう。
だから、わざわざ俺を連れてフィリップのところに行く、なんて行動には僅かに違和感を感じてしまう。
「いやぁ、先輩には何も知らない状態で来て欲しいんだよ」
まあ、断る理由もないし着いて行くが。
「それにしても、一体どうしたんだ?せめて、俺がついてくことの意味くらい教えてくれよ」
「気にしなさんな。ほら、あれだ。証人って奴だよ。俺のやることに対するさ」
「ほーん」
妙に気になる言い方である。
まだまだ問い質したいが、フィリップの部屋に着いてしまった。
ギースがノックを二回する。便所のノックじゃねえか。
「どうぞ」
中からフィリップの声がした。礼儀にはうるさそうなタイプだと思ってたので意外だ。
「失礼します……それで、用意しましたよ。例のヤツ」
「仕事が早いね。早速、見せて貰おうか」
おいおいおい、またなんか、変な陰謀に巻き込まれるのか?
「あの~、僕、子供なんで……失礼します!」
「先輩、そんなこと言わずにさぁ」
しかしギースに行く手を阻まれてしまった!
ギースの実力は未知数だ。しかし、パウロの仲間ならパウロ程には強いと思った方が良いだろう。
くっ、かくなる上は!
「………」
「なぁ、先輩…それ、意味あるのか?」
日光の三猿だ。俺は何も聞いてない。見てもない。言わない!
我ながら完璧な手だ。ギースの呆れるような声も聞こえない。
「ま、耳が聞こえてりゃ問題ない」
「えっ!」
「聞こえてんじゃねえか」
またもやギースに嵌められてしまった。ギース、恐るべし。
「ま、耳塞ぐなりなんなりしててくれや……
フィリップ様、此方を。直ぐに俺に絆された奴等をリストアップしときました。コイツらは、白でしょう」
(ん?白?)
思ってた話とは、かなり色の違う話であった。
もっと、悪代官と銭ゲバ商人の会話みたいなのを想像していたのだが。
「ですよね?先輩。ほら」
そう言ってギースがリストを見せてきた。
書いてあるのは……確かに、俺がギースのお手前拝見しているときに、「ちょろ!」と思っていた連中である。
「ルーデウスの反応を見るに…本当みたいだね。ありがとう。これで相当、間者探しが楽になる」
「あの…一体どういう?」
フィリップが、俺の理解の範疇から外れたことをするのは、良くあることだ。慣れているから、エリスのときほどの取り乱しはしなかった。
「僕はね、ピレモンの間者は妨害工作をしてくると踏んでいたんだ。そして、タイミング良く文官間での不和が広まった。これが工作で間違いない、と思った矢先に、ギース君が来たのさ。そして、次々に文官の不和を解消していった。直ぐに絆されたと言うことは、妨害工作をしていなかったということだろう?だから、リスト化を頼んでいたんだよ」
「なるほど…」
ギースが凄まじい有能さである。
直接は言わないけど……心の中で、先輩と呼ぶことにしよう。うん。
てか、最近当て馬の役割多くない?
ーーー
ゼニスとリーリャは、妹たちを連れてその二日後に着いた。
ゆっくりと来たからか、そこまで疲れの色も見えない。
「お兄ちゃん!」
「……」
アイシャとノルンは、五~六歳と言ったところだ。アイシャの方は認識してくれたが、ノルンには無視されてしまった。
兄として認識していないのかも知れない。地味にショックだ。
いや、アイシャの方が異常なのか?どっちなんだろうか。
「ほら、お兄ちゃんですよ~」
「お母さんからいつも言われて、お兄ちゃんに仕える為に頑張って来ました!今日から宜しくお願いします!」
「赤ちゃん扱いしないで!」
おや、思った以上に両方大人だった。見た目は小さいが、案外ハッキリと喋る。舌足らずと言った口調ではない。
しかし、一番可愛くて洗脳しやすい……もとい、尊敬されやすい時期に会えなかったことが残念だな。
くそぅ、パウロの奴、良いところだけ一人占めしやがって…
遠巻きに見てくるノルンと、じゃれついてくるアイシャ。いやぁ、幸せって感じだね。
ゼニス達の方に目を向ける。パウロとゼニス、ギースの三人で何やら話し込んでいるらしい。
「いやぁ、でも……そうか。良かった」
丁度、話の終わりだったようで、肝心な内容は聞き取れなかったが、三人とも穏やかな顔をしている。
冒険者時代の思い出にでも浸っているのだろう。
これで、パウロのグレイラット家は全員集合だ。
仕事の量も減ってきたし、家族仲も良好で、ピレモンの間者も除ける目処が立ってきた。
ようやく、日常が戻ってきただろう。
このまま平和なら、
ノルンの性格は結構変わります。
アイシャはそんなに変わらないでしょう。
多分。