レースだけでなく、トレーナーに対しても譲れないところがあるサイレンススズカが見たいと思って書きました。
 Pixivにも、「志木 有紀」の名義で、同じ作品を投稿しています。

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昇華できない欲望

 降り注ぐ熱い視線。瞼の降りかけた眼からは隠しきれない情念を感じます。生唾を飲み込む音まで聞こえましたよ?……それなのに。

 

「……うん。スズカ、今日はもう切り上げよう。クールダウンに入って」

 

 どうして、そこで欲望を抑え込んでしまうのかしら。欲望を認識しながら満たされないままにするなんて、トレーナーとしての自覚がありすぎるみたい。なんだかもどかしくなってしまいます。

 クールダウンが終わると、トレーナーさんはすっかりいつも通り……ではありませんね。ぶれる目線が言葉よりも雄弁に感情を伝えてきます。

 

「お疲れ様。今日のトレーニングも文句なし、素晴らしい走りだったよ。明日に備えてゆっくり休んで」

 

 精一杯普段通りにふるまっているつもりでも、私にはお見通しですよ?一歩、二歩。近づけばそれだけで顔が赤くなって……ふふっ、かわいいです。

 

「スズカ?どうしたんだ?」

「私に言わせるつもりですか?」

「な、なんのことかわからないな」

「知らんぷりはできませんよ?トレーニングの間から、視線に気づいていましたから」

 

 意地を張らなくてもいいのに。嫌われるとか、負担をかけると思っているのでしょうか?とはいえ、強引に聞き出すのは好ましくないですし、素直になれるようにお手伝いしましょう。

 身体を預けて、腰に手を回したら……もう、指導者のままではいられませんよね?

 

「うぁ……その、ごめん。どうしても、意識してしまって……」

「ようやく正直に教えてくれましたね。じゃあ、素直な言葉、伝えてください」

「スズカに……手伝ってほしい、です」

「はいっ。よく言えましたね」

 

 選手と指導者の時間はおしまいですね。二人でトレーナー室に戻りましょう。その間も、トレーナーさんを焦らしてあげます。腕を組んで歩いているだけでも鼓動が昂るのを感じますね……私も、ぼうっとしてきました。

 

「お辛いですよね、トレーナーさん?」

「分かっているなら、その……うう……」

「我慢したぶん、いっぱい気持ちよくなれますから。我慢ですよ、が・ま・ん……」

 

 帰りの道はずいぶん長く感じたけれど、ようやくトレーナー室に着きました。

 

「スズカ、もう限界だ……頼む」

「いいですよ……私が、トレーナーさんを満たしてあげます」

 

 鍵をかける時間ももどかしかったかのように、願望を発露させるトレーナーさん。ぶつけられた欲望が心に突き刺さり、震えてしまいます……感情を視界を呼吸を独り占めできる、誰にも譲れないこの感覚!

 

「すうっ……ふーっ、すうぅー……はぁぁ、汗臭いですね……でも、いいニオイです」

「スズカ、焦らさないでくれ……!」

「苦しいですか?すぐ、楽にしてあげますから……」

 

 しゅるしゅる、かちゃかちゃ。ぷちっ。じじーっ。

 ばさっ。ずるっ。

 

「ああっ、スズカっ!」

 

 お口をぽっかり空けて、大きな声ですね。そんなに声をあげちゃって、まるで女の子みたいですよ?蕩けた顔をして涎を垂らした情けない姿、私以外の人が見たら失望しちゃいますね。

 

「はーっ、はーっ、はーっ」

 

 呼吸が荒くなってきました。気持ちいいのが辛いんですね。感覚を逃がそうとしているのが分かります。でもダメですよ?私の与える感覚はすべて受け止めてもらいますから。

 

 身体が震えてきましたね。楽にして、私にすべてゆだねてください。太もものこわばりをなでなで、なでなで……

 

「スズカっ、もうだめ、離してっ」

 

 限界ですか?いいですよ、全部吐き出してください。私が全部、のこらず受け止めます……!

 

「ああっ!スズカ、スズカぁ!」

 

 情念をぶつけられる感覚が、私を夢中にさせるんです。トレーナーさんの肉体がわなないて、私に解き放たれた情念を打ち付ける瞬間が、どうしようもなく欲望を煽って、ますます身体が熱くなって、走っても走っても振り払えない感情に火を点ける。私はもう、あなたの虜になってしまったんです。

 

 解放されたトレーナーさんは、満足そうな表情をしていました。でも、身体はまだ続きを求めているみたいですね。

 

「もう一度、しましょうか。もっともっと、私に夢中になってもらうんですからね?」

 

 私に走るだけでは消えない欲望を教えてくれたのですから。責任をとってくださいね?トレーナーさん。


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