【本編完結】Take me to paradise.─Scenario of Manhattancafe(prototype).   作:春華ゆが

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Scene09:Countdown to the end.

 夢を見た。マンハッタンカフェは春の天皇賞で勝利する。それは驚くべき偉業でありながら驚くことはかけらもなく、私と君はその先へと準備を進める。それが運命。それが定められた道。そういう夢。

 運命。春の朝がもたらす柔らかな陽射しで夢から目覚めた私の頭をよぎったワードは、季節に反して冷徹で普遍的で。そして残酷。

 今まで全てのレース結果。マンハッタンカフェというウマ娘が通るレースと、その結末。それは順位どころか一挙一動のレース展開までずっと運命によって定められていた。そんな物語が頭に浮かぶのだ。

 だから、私の中身が私でなくても。トレーナーさんと私が出会わなくても。運命に従い、マンハッタンカフェは春の天皇賞まで駒を進める。私たちの出会いは運命などではなく、我が名が背負うものだけに運命があった。

 そして。

 満を辞して参戦した凱旋門賞でマンハッタンカフェは惨敗し、その後に脚の不調でターフを去る。

 そこまで。これが、私に見えた夢の話。

 

 あまりにも、惨い。許しがたい。こんな夢は正夢にしてたまるか。だって、私が私でなくても。トレーナーさんがトレーナーさんでなくても。

 必要なのはマンハッタンカフェとそのトレーナー。彼女たちが必要な努力をすれば、全ての勝利と敗北は運命付けられる。あの日の出会いも、あの日の勝利も、あの日の涙も。必要性も絶対性も存在しない、なんて。

 そんな、そんなのは。

 神による、ヒトへの冒涜だ。

 だから私は楽園へ向かおう。夢の先に見たものが、破滅の未来だとしても。あの灼熱の太陽が、私の身を焼くとしても。

 神がいるなら、運命を定めた存在がいるなら。その存在はきっと楽園に居て、全てを見下ろす傲慢たる。そして私は、その神へと叛逆するために楽園へ向かうのだ。だから。

「ねえ、早く」

『君』が、連れて行って。

 

 ※

 

 今日はファン感謝祭。他のウマ娘からは慣れないことかもしれないが、私からしたらファンサービスは慣れたものだ。

 勝負服を着てファンと握手をし、すらすらとサインを書いてファンに手渡す。

 気が気でなかった夢の痕は、心温まる交流でだんだんと薄れていく。まるで私の狩場から逃げるように。不安を追い立てる根拠のない夢など忘れるに限る。

 そんな常識があるはずなのに、私は夢への恐怖を捨てきれない。夢への憎悪を捨てたくない。

「大丈夫か?」

「……トレーナー、さん」

 ごった返す人混みをわざわざ割って入ってきたのは、私のトレーナーさんだった。ずっと私が、私の運命だと信じている人。私は君とでなければ楽園へと行けないと、そう確信している人。

「……すみません、ちょっとうちのマンハッタンカフェは体調が優れないみたいなので、休憩を貰います」

 そう言って、トレーナーさんは。

「……あっ」

「しっかり掴まっててくれ」

 ぎゅっ、と私の手を掴んで。引いて、引いて。私は惹かれて。二人だけの逃避行。そんなフレーズが、頭の中で揺蕩う。

 

 ※

 

「……ふう、ここなら人も来ないだろ」

「どうしたんですか、急に」

 建物で出来た日陰、祭の熱気から離れた場所へ辿り着く。

 平然なフリをして、私は聞くけれど。

「そんな思い詰めた表情をしてる君を、ほっとけるわけないだろ」

「……さすが、トレーナーさんですね」

 私の表情変化など、誰も。私さえ気づいていなかったのに。私のことを全て知られているような気がして、ゾクゾクする。

 

 ※

 

「何かあったんだろ」

 でも、ここは。

「夢を見たんですよ」

 この夢の話は。

「天皇賞の春。その夢です。流石に緊張して、何度も負けるイメージを見てしまいました」

 運命の車輪を、君には背負わせたくない。

「……そうか。カフェなら勝てるよ」

「私なら、ですか」

 "マンハッタンカフェなら"、勝てる。それを私は直感してしまった。

「トレーナーさん……」

「どうしても不安なことはあると思う。天皇賞だけに限らない。今までだってあった。……でも、君は生き残ってるんだ。それに、俺がついてる」

 そうだ、そうだ。君がいる。君となら、私は楽園に行ける。そこに間違いがあるはずがない。私は私たちの正しさを証明するために走っている。断じて運命を回すために走っているのではない。

 想いは昂り、激情は恋情と混ざり合う。

「……って……! いや……わかった。俺でよければ、いくらでも使ってくれ」

 言葉もなく、思い切り。君の胸に飛び込む。ボタンが引きちぎれるほどに強くシャツを掴み、露出した胸板に顔を埋める。涙だけは出せない。芝居で培った小手先の技術で、感情の発露をギリギリで抑え込む。

「このまま。今日はファン感謝祭ですから。……一番のファンの、トレーナーさんに」

 感謝を込めて。君を離したくない。与える愛と求める愛、アガペとエロスが混じり合った抱擁。

 互いが死ぬまで、互いの肉を貪りたいとさえ願う。楽園への道筋はまだ続いていて、運命によって唐突に閉ざされることはないと信じる。

 

 楽園に辿り着く目的が、漸く明確になった。私が私の運命を超える。君の手を借りることで、届かない場所へと届く。

 そういうことだ。

 だから。

 

 ※

 

「────マンハッタンカフェ、春の天皇賞を制しました!!」

 決まった結果。それを目の当たりにしても、まだ私たちは止まれない。

 ここは天。なら、楽園は天の先にあるのだから。太陽が我が身を焼く前に、君と私が離れ離れになる前に。全てのウマ娘へ、運命を超えられることを実証してみせよう。

 失楽園の漆黒は、自ずから闇の底へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 天皇賞を終え、夏合宿までの僅かの間にある何もない日のこと。トレーナー室でトレーナーさんと私が二人でいると、唐突にアグネスタキオンが扉を開けた。

「久しぶりだね、カフェとそのトレーナー君。……いや君にはカフェのトレーニングについてよく電話をさせてもらっていたか……」

 その言葉を聞いて少し腹の中に煮えるものがあったのは否定しない。まさか目の前の女性が横から君を掠め取ってしまわないか──なんてことを考えてしまい、すぐさまその強欲さを恥じる。

「……それで? なんの御用でしょうか、タキオンさん」

 努めて冷静に。仮面を被るのは私の日常であり、己を無に変換することはなんの苦痛もない。

「いやなに……たまには我がBプランへの賛辞を送らねばならないと思ってね……

 此度の春の天皇賞、勝利おめでとう。そして……その先」

「ご存知とは、流石ですね。……そう、私のゴールはここにはない。私たちは凱旋門を獲ります。難攻不落の頂点へ、必ず」

「君のトレーナーから聞いたんだけどね」

 また、心が熱く熱く。熱で焼けた仮面をもう一度付け直す。努めて、私は冷静に。

「……そうですか」

「いつもありがとう、タキオン。カフェがここまで来れたのは、君の助力も大きい」

「私の全てを託すつもりだった存在だからね。開始前によく吟味する代わりに、一度開始したプランは必ず成功に導く。それが私のモットーなのさ」

 ……二人は私をよそに、談笑する。私と君のための空間に、違和感なく滑り込んだ異物。

「タキオンさん。どうもありがとうございました。では、そろそろ」

 ここから。

「……む。私はまだ肝心な用を済ませていないけど」

「……は?」

 するとアグネスタキオンは、一つの小瓶を取り出した。一歩、引かざるを得ない。

「また怪しげな薬品ですか? 私にもトレーナーさんにも、そんなものを飲ませるつもりはありませんよ」

 警戒を発すると、彼女はクックッと笑い声を上げる。

「……ああ、違う違う。これはボトルメッセージさ。海の向こうのマンハッタンカフェというウマ娘に届けてやってほしい」

「やれやれ。相変わらずあなたは持って回った言い回しをしますね。……要はあっちに行ってから開けろ、と」

 タキオンはこちらに返答する代わりに、続けて一つの注意を述べる。

「……それともう一つ。"開けたくなるまで、開けてはいけないよ"」

 また煙に巻くような発言。この人は本気で何かを伝えようとしているのだろうか?

「……それなら永遠に開けませんが、悪しからず」

「構わないさ。では、邪魔したね」

 そう残して、アグネスタキオンは嵐のように去っていった。……全く。いつのまにか私の抱えた嫉妬を冷ましてしまったのだから、つくづく侮れない。

「トレーナーさん、この瓶は預けます。今は夏合宿のことを考えたいので」

「ああ、わかった。……そうだな、海外に向かうための最後の夏合宿。君を、ようやくどこかに連れて行ける」

 どこか。おそらく君のいうそれはあの門を潜ること。私の見るそれは、そこにある運命を超えること。

 夢に見たあるはずのない未来。マンハッタンカフェは凱旋門賞で惨敗し、その競争生命を終える。

 そのイメージは日に日に鮮明になる。まるでカウントダウンするかのように。まるで、最後に現実になるかのように。

「……ええ、お任せを」

 運命を越えなければならない。楽園はその先にあるのだから、私たちのやることは変わらない。

「血に飢えた猟犬のように、最期まであなたの命に従いましょう────」

 たとえ私が愛という罪を孕むとしても。

 たとえ私が楽園を終点とすることを望んでいなくても。

 たとえ私が破滅の運命の輪に逆らうドン・キホーテだとしても。

 君が私との楽園を望むのなら、私は征かねばならない。

 失楽園の漆黒は、断頭台へとまた一歩。

 

 

 ※

 

 

 電車に乗ると、周囲の目線がこちらに集まってきた。これは動物として自然な反応で、それなりにリラックスした空間に入り込む余所者を誰しも警戒してしまう。やはり、人は獣の一種に過ぎないのだ。

 それでも理性は目を逸らさせ、すぐに全ての人は自分の空間に戻るのだが……。

 おや。どうにもこちらを見る視線は収まらない。職業柄目線には敏感になっているが、それでなくてもこれだけの視線は誰でも気にしてしまうのではないだろうか?

 ……確かに今の自分の格好は、少し目のやり場に困るかもしれないが。それでいい。

 今日から二度目の夏合宿。君のためにおめかししたいというのが乙女心だ。

 君と私の運命を超えるため。最後の追い込み。あるいは最後の夏。

 

 ※

 

「……おっ、あれはカフェだな」

 バスを待ちながら、遠くに黒い長髪を湛えた彼女の姿を見る。今日からマンハッタンカフェとの夏合宿が始まる。去年の夏合宿を思い出すと、なかなか波乱があったような……。白いワンピース姿で現れ、私物の水着を着たカフェに日焼け止めを塗り……。

 一見静かで大人しそうでいて、意外とカフェは有無を言わせない行動を取ることがある。とはいえその力強さが彼女をここまで連れてきた。今ならわかる。

「凱旋門賞、か……」

 これから俺と彼女が挑むのは、難攻不落の凱旋門。誰一人として日本のウマ娘はその頂を獲れていない。前代未聞の偉業へ向けて。その呪いを、彼女なら。

 ……と、ゆっくり歩いてくるマンハッタンカフェの姿が徐々に近づいていた。制服ではなく、今年も少しお洒落をしてきているような──。

「あれ……カフェか……?」

 近づくにつれて、その人影がよく知る少女であると信じられなくなる。あまりにも、普段のイメージと違う。今までもそんなことは何度かあったが、今回は特別違う。

 一言で言えば、快活で、扇情的な服装だった。上はノースリーブのトップスで、胸のすぐ下で布は途切れている。下はミニスカートだけで、透き通るような色白の肢体が惜しげもなく曝け出されている。

「おはようございます、トレーナーさん」

 彼女は確かにそう言ったのだけど。

「……ああ! おはよう、カフェ」

 目が泳ぎ、答えに躊躇ってしまう。……やはり彼女は人気女優なのだと、久しぶりに思い出す。このような服でさえ着こなしてしまうのだから。

「……ふふ。見惚れてしまっていましたか? ここに来るまでもそうでしたので、隠さなくてもいいですよ」

 そう、妖しく笑う少女は。少女と言い切るには余りにも艶やかで。

「……いや、その……目のやり場に困るかもだが。似合ってるよ、すごく素敵だと思う」

「それなら良かったです」

 けれど薄く浮かべた笑みは、今度こそ少女のそれで。危ういバランスの上に成り立つ美しさというものを、初めて目の当たりにした気がした。

 

 

 ※

 

 

 そうして、夏は過ぎていき。海外のレースは全てが未知の領域。相対する者も、走るべきターフも。だけど、見えない目標に向かって走るのには慣れている。私はまだ、君に連れて行かれる最中なのだから。

 今日の夜はトレーナーさんと祭りに行くことになっている。ミニスカートと薄手のトップスに身を包む。

 学園指定の水着よりよっぽど露出が多いかもしれないな。

 だけど、君の目は捕らえられたから。これはきっと間違いじゃない。

 トレーナー寮に向かうと、示し合わせたようにトレーナーさんが出てきた。こんなタイミングの一致すら運命を感じさせて、心がときめいてしまう。

「……おお、カフェ。……夏とはいえ、それ寒くないか?」

「……そうですね、少し寒いかも」

 そう言って、私は。

 ぎゅっ、と。

「……俺の腕はそんなに暖かいかな」

「ええ、もちろん」

 だって君に抱きついていれば、それだけで私の身体は灼かれるように熱くなるのだから。

 

 

 祭囃子が鳴り響く屋台通り。ずっと、身体で君の腕を包んでいる。

「そこのお熱いカップルさん、こっちはどうだい!」

「ああいや、俺たちは……」

 そんなふうに否定したって、人の見る目は変わらないのに。顔を赤くして必死に説明する君を見て、さらに身体を擦り付けてやる。

「……人が多いと目立つな」

「目立つのには慣れていますが」

「俺は慣れてないよ……」

 そういうことなら仕方ない。人気の無い所で二人きりというのもいいものではあるし。

 

 ※

 

 祭りの中心から少し離れた高台に行く。……人は少ないけれど、其処にいたのはカップルばかりだった。おやおや。

「ここなら目立ちませんね、トレーナーさん?」

「そ、そうだな……」

 周りに倣うように、手すりに二人並んで腰掛ける。啄むような口付けさえ、今の私達には叶わないけれど。

「そういえば、今年は女優の仕事はどうなんだ?」

 ふと、トレーナーさんが口を開く。今年か。確かに去年は心配をかけてしまった。周りにも、君にも。

「マネージャーが色々と配慮したスケジュールを組んでくれたので。それなりに両立できていますよ」

「マネージャー、か。そういえばカフェのマネージャーさんの話、ちゃんと聞いたことないかもな」

 マネージャーの話。彼女は誠心誠意、私のことを考えてくれているのだと思う。時に厄介な案件を持ってくるけど……例えば。

「トゥインクル・シリーズなんかは、マネージャーの指図でしたね。女優としてのキャリアのために……と。女優のための副業のはずだったこちらにかまけている今は、彼女の本心からすれば怒られてしまうかもしれませんね」

 全く難儀なのは私の元来の性格で、それに怒る気力など残っているだろうか。

「なるほど……ならマネージャーさんには感謝しないとな」

 はて。君は意外なことを口にする。

「だって、それならマネージャーさんのおかげじゃないか。君と俺が合えたのは。こうして、一緒にいられるのは」

 ……それは。

 

「私と会えて、よかったでしょうか」

 誰かのおかげというのなら、君はそのことを貴んでくれている。自暴に引き篭もる私は君の言葉さえ信じられない。光り輝く空に影を作られるように、黒に塗れる心があって。

「私は、どうしようもなく怖い。目指す場所が近づくのが怖い。すべての過程が終わるのが怖い。終わりが見えるのが怖い。トレーナーさんが、私を理解できなくなるのが怖い」

 トレーナーさんは、私の全て。抜き出せば私はたちまち死に至る。

 その逆はどうなのだろう。私は君にとってどれほど大切なのだろう。限りなく縛り続けたいと言う気持ちと、そんな自分を赦せない気持ち。私が君を愛するのは罪に等しい。私のような心無い獣に人を愛する権利はない。

「トレーナーさんが怖い。夢に見るほどに、拒絶されるのが怖い。いなくなるのが怖い」

 あゝ、どうして私の心は、愛に目覚めてしまったのだろうか。わかっている。束縛し、独占し、捕食する。もうその段階は踏まえられ、君の心を捕らえてしまった自覚がある。

「トレーナーさんが、私の全てをわかってくれているのか。悍ましい執着心が私を包んでいます。……でも、止められない」

 どうして、どうしてなのだろう。無限輪廻に言葉は巡り、愛しか知らない獣は距離の詰め方さえわからない。止められない言葉を、絶叫するように震わせるしかない。

「思う時があります。私が目指しているものは、辿り着くべき場所なのか」

 

 矢継ぎ早に。責め立てるつもりも詰め寄るつもりもない。赦しを請うつもりさえ、ない。

「……ヤルダバオトの偽りの楽園が、私たちを誘っているのではないか」

 そうだ。私たちは進むべきではないかもしれない。だから、もう少しだけ止まっていられるのかもしれない。偽神の楽園。運命の車輪。どちらも私の過ちで、今ならまだ───。

 そんな希望を、私が持った瞬間。

 ぱぁん、と打ち上がり。ひゅるるる、と上り。

「それは、違うはずだよ」

 どかん、と花火が咲いて。同時に君の優しい言葉が、私を骨まで砕き切った。

「君が、君の行く道が。間違いであるはずがない。俺はずっと君を見てきた。だからわかるよ。君は正しい」

 優しい破裂音が、君と私を照らす。

「それ、じゃ」

 私には君を否定できない。だから己を否定してきた。それなのに、君が私を肯定してしまったら。

「私は今、罪を犯しています」

 君を愛する獣の罪を。

「私は今、違えています」

 あるかもわからない楽園へ、愛する人を導かんとする過ちを。

「私は今、冒涜しています」

 神が担う運命への叛逆。そんなことさえ企む愚者。

 光華爛漫の夜空へ向けて、星にもならない懺悔をこぼす。

「なら、約束する」

 振り払って、逃げ去ったのに。それでも君は、言葉を伸ばす。

「俺は、君と一緒にいるよ。……絶対に、君と一緒だ」

 そう、言われてしまえば。たとえ奈落に沈んでも、君はずっと一緒だと言われてしまえば。

 沈黙する。やはり私には、君の言葉を踏みにじる選択肢だけはない。

 空を見ればまだ、瑞々しく煌めきが燃えていた。

「……綺麗ですね」

 私の眼は、君の瞳に映る華を見遣り。

「……そうだな、すごく綺麗だよ」

 君の眼は、私の瞳に落ちる影を映して。

 二人の影は。生み出す闇は。一つに重なる。

 失楽園の漆黒は、夜の闇に咲き誇る。

 

 

 




Interlude:girls.
「ああ、こんにちは」
 テレビ局の通路、見知った顔を見て挨拶する。 
「……どうも。お互い苦労するね」
 彼女の名前はゴールドシチー。百年に一人の美少女と言われ、モデル業とレースの二足の草鞋を履いている。
 そして二足の草鞋を履いているのは、私マンハッタンカフェも同じこと。
「……苦労すると言っても、私たちにも差はあるでしょうね。この状況を呼び込んだ理由、この状況での行い」
 そう、告げる。譲れないものは互いにあるが、確かに分かり合える話題でもある。
「……まあね。あと一つ言っとくけど、ユキノに変なこと吹き込まないでよ。芸能界のくだらないところとか」
「ユキノさんと仲が良かったのですね。その件についてはこちらからもお願いいたします」
「……たく」



 噛み合わせようとすれば、お互い色々な仮面をつけるのは容易だろう。私たちはレースの他にそういう職業に就いているのだから。
だけど。
「どう?アンタは楽しい?レース」
「ええ、もちろん」
 私たちはターフを駆けるウマ娘。言葉をぶつけることに、遠慮は要らない。
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