対魔忍ユキカゼ2 〜藍空風歌〜   作:茶玄

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奴隷斬姫 〜月華無辺〜 第3話

【2082年10月11日(日)22:48 聖修学園 普通科校舎・屋上】

 

標的(ターゲット)まで、う〜ん…二キロ弱ってところかしら」

 

 任務中にも関わらずいつも通りの声色で、ゆきかぜは遠くの鷲津マテリアル社の研究施設に目を向けていた。

 

 ゆきかぜが立っているのは、 聖修学園 普通科校舎の屋上。予め達郎から指示されていた狙撃ポジション。狙撃に邪魔だった森林は、達郎の風遁によって既に荒地と化していた。

 

 ゆきかぜは屋上のネットフェンスを雷遁で破壊すると、手持ちのアタッシュケースから取り出した観測用のスコープを覗き込み、達郎と凜子の姿を探した。

 

「達郎、相手が凜子先輩だからって、入れ込み過ぎてなければ良いけれど…ま、無理な相談か」

 

 こと対人戦において、達郎は凜子の“胡蝶獄門“やゆきかぜの“雷鎚(トールハンマー)”のような、決め手となる技を持ち合わせてはいなかった。

 

 偵察・諜報を専門とする達郎にとって、必殺技の(たぐい)など二の次だったのだ。無事帰還を果たし有用な情報を持ち帰ることが最優先。それが困難なら救援が来るまで可能な限り生き延びねばならない。

 

 ゆえに達郎は紫との稽古においても、膂力より風遁(風圧)に耐えうる身体強度を、瞬発力よりも持久力をひたすらに追い求めた。

 

 継戦能力のみを磨き上げた対魔忍、それこそが今の達郎だった。それでも、異能系忍法“不死覚醒”を扱う紫に比べれば数段見劣りするのだが…

 

 「達郎との鍛錬って、こっちが根を上げるまで終わらないのよね…全くねちっこくて嫌になるわ」

 

 しばらくして、ゆきかぜの観測用スコープが達郎と凜子の影を捉えた。

 

「あー、やってるやってる。あの調子だと凜子先輩も今頃、驚いているに違いないわね…うわっ、あれは辛いわー」

 

「…って、いけない。私もそろそろ準備しないと」

 

 ゆきかぜは、伏せ撃ちをするのに適当な場所を探し腰を下ろした。右腰のホルスターから雷銃(ライトニングシューター)を引き抜くと、アタッシュケースに仕舞われていたパーツを、手際良く銃に取付け始めた。

 

 銃身をロングバレルに交換し、下からフォアエンドとバイポッドを挟み込む。銃上部のレールに暗視スコープをマウントし、銃後端にはストックを接続する…

 

 元々は雷遁制御の覚束(おぼつか)ないないゆきかぜの補助触媒に過ぎなかった雷銃だが、多様化する任務に対処するべく、より実用的な銃器として扱えるよう改修が施されていた。

 

 フリントロック式の古式銃のような見た目だった雷銃は、ゆきかぜの換装作業によって、今や近代的なスナイパーライフルへと変貌を遂げていた。

 

 ゆきかぜが新たに体得した雷遁 “雷閃槍(ライトニングランス)”用の長距離狙撃形態(ロングスナイピングフォーム)。右手持ち用の雷銃にのみ用意されたアタッチメントと、専用パーツによって構成された遁術と銃科学の複合技術兵装(ハイブリッドアーム)だ。

 

 風や重力の影響を一切受けず、極集束状態で撃ち出される雷撃は、秒速三万キロ弱の速度と対物ライフルを遥かに凌ぐ超長距離射程を以て、標的(ターゲット)を穿通する。

 

 ゆきかぜはバイポッドを展開すると、ストックを抱え俯せになった。肩の付け根にストックを押し付けるようにして銃を固定。姿勢に問題ないことを確認したら、ストック内蔵のモノポッドを引き出して、床との高さを調整する。

 

「よし、大体こんなもんね」

 

 欲を言えば護衛に観測手(スポッター)がいれば安心なのだが、校舎内に人の気配はなく、主戦場の研究施設は遥か遠くだ。任務の遂行自体に影響はないだろう。

 

 ゆきかぜはスコープのキャップを外すと、レンズの奥の十字線(レティクル)を覗き見る。

 

 実弾ではなく雷撃による狙撃である以上、その命中精度と出力調整は、ゆきかぜ自身の繊細な雷遁制御に依るところが大きい。

 

「凜子先輩…悪いけれど達郎を苦しめた罰、きっちり受けて貰いますからね」

 

 ゆきかぜはスコープの十字線(レティクル)標的(ターゲット)の影を捉えると、己の集中力を徐々に研ぎ澄ませ、やがて訪れる刹那の瞬間に備えるのだった。




 お読みになられてお分かりかと思いますが、今話の主役は雷銃(ライトニングシューター)です。つい、悪乗りしてしまいました。

 ゆきかぜの性格を考えると、狙撃手(スナイパー)って地味なので嫌がりそうな気もしたのですが…1年半経って精神的に成長したということで、飲み込んでいただければと思います。
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