ミスターシービーが尊すぎて書きました。ゲーム本編の出番が少ないため皆さまのイメージが壊れるかもしれません、ゆるふわでお楽しみいただけると幸いです。実装はよ。
オリトレ×ウマ娘メインです。ガールズラブは念のため。
特にシービーさんは独自設定の塊です、よろしくお願いします。
トレセン学園近くの商店街。
威勢のいい八百屋や魚屋から、ウマ娘御用達のオシャレグッズ専門店まで幅広く軒を連ねる。
ウマ娘やトレセン学園の関係者が往来する、明るいメインストリート――から、一本離れた裏道。
商店街の片隅、薄暗いその一角に、知る人ぞ知るバーがあった。
そこは、マスターの気まぐれで開いたり開かなかったり。……最近は、開いているほうが珍しかったりする。
そのバーの名は――
◇
日も落ちかかって、真っ赤な夕焼けが商店街を照らす夕下がり。
「うん、いい時間になってきたね」
ここはBAR“トリプルクラウン”。
三冠triple crownとバーで三冠バだよ、わかりやすいでしょ。
前のオーナーが引退することになって、アタシがここを使いたいって言ったら格安で譲ってくれた。なんでも、アタシの菊花賞を見てファンになってくれたんだって。照れるなぁ。
おかげでちょっと手直しするだけでほとんどお金を掛けずにリニューアルオープンできたってわけ。
店名はアタシが2秒で考えた。
なんでそんな急いでたかって?
開店の準備を手伝ってくれた友達が、とんでもない名前と看板を付けそうだったからだよ。
『うん、看板にはこのきゅうりを飾るのはどうだろうか』
『きゅうり……?? なんで?』
『ウマ娘が目指して止まないトゥインクル八大レースに、URAファイナルズを加えて九冠』
『すなわち――“キューカンバー”だ!』
『…………』
『これなら一目瞭然、ウマ娘とその関係者向けのバーだとすぐにわかるだろう?』
『あのさぁ……』
これを本気で言ってるんだものな。
アタシは丁重に却下して、もう一人の達筆な友達にオシャレな看板を作ってもらった。その子は(´・ω・`)となってたけど。
で、アタシは趣味でここのマスターをやってる。カクテル作るのは楽しいし、誰かとおしゃべりするのも楽しいしね。
お客さんはトレセン学園の生徒や関係者がほとんど。
っていうか、商店街ではほとんど宣伝してないんだ。せいぜい、見かけたウマ娘の子にこの日に営業するよーってウワサを流すくらい。店員はアタシだけだから、一度にたくさん来られても困っちゃう。
ん、なに、未成年?
もちろん未成年のウマ娘にはアルコールは出さないよ、せいぜいカフェインとかガラナとかマムシパウダー入りとか、その程度。線引きはしっかりしないとね。
アタシだってお酒はまだ飲めないし、そういうお客さんにはノンアルのメニューをどうぞってね。
「さーて、今日はひさびさに開店しようか」
ひさびさに、と言ったのは誇張ではない。前に開けたのは3か月前くらいだったかな?
アタシはトレセン学園をちょくちょく休学して、全国の楽しそうなところを見て回ったり、地方のオープンレースに出てみたり……時には海外に飛び出してみたり。
要するにこの街にいるほうが珍しいってこと。
これのおかげか知らないけど、アタシは「天衣無縫」だの「天真爛漫」だの、いろんなあだ名で呼ばれてる。
まあ、一応トレセン学園に在籍してる学生がお店をやるなんて前代未聞なのは間違いないよね。
あ、学業やレースに専念しろって言われることもしょっちゅうだよ。URA理事会のお偉いさんに呼び出されたことも何回かある。
……その時は、アタシが獲得した優勝レイを全部首に掛けて行ってやったら黙ったけどね!せめてこれを超える実績を持った子の説得なら聞こうと思うよ。アタシは今のところ1人しか知らないし、その子はアタシの味方なんだけど。
閑話休題。
バーではちょっとした飲み物と料理を出して、アタシとおしゃべりしたり、お客さんどうしで話したり出来るよ。
おっと、あっち系のお店と思われるのは心外だな!
お金を儲けるのが目的じゃないし、アタシは誰かの居場所を作れればそれでいい。そもそも毎日開いてない時点で儲けなんて出ないしね。
ここのマスターをやってるのはアタシの完全な趣味、楽しいからやってるだけなんだ。
おや、さっそく今日のお客さん第一号だ。
って言っても一晩のお客さんがひとりだけってこともザラなんだけどね。
「いらっしゃいませ。キミは運がいいね、営業日にお店の前を通るなんてさ」
――ああ、自己紹介が遅くなったね。
とはいえアタシはミスターシービー。それで十分でしょ?
『麗しの女帝は“素直”になりたい』
『なぜ貴様はいつもそうなんだ? 見られている自覚を持てと言ったのを忘れたか? たわけ』
『後輩は私たちの背中を追って走るんだぞ、貴様がそのような態度で、誰がついていきたいと思う? このたわけが』
『――ただ1回の勝利になにを浮かれている、この勝利に慢心するな。すぐ次のレースの準備をしろ、たわけ』
『たわけ』
『たわけ』
『たわけが!!』
「ちがう!! グスッ、違うんです!! 本当はそんなこと言いたくないのです……!!」
「よしよし」
アタシが作ったのはレモン、リンゴ、ハチミツと軽くカフェインを混ぜたノンアルコールのカクテル。
これが思った以上にはまってしまったらしくて、2杯3杯とぐいぐい呑んでいき――気付いたらこうなってた。
「あやつはよくやっています。褒めるべきだとわかっているのにっ……!」
「素直になれないんだね、つらいよね」
「わかっていただけますか!」
「わかるわかる、そういう子たくさん見てきたからね」
って、思い出した。この子は前に天皇賞・秋の盾を獲得したエアグルーヴだね。確か生徒会副会長も務めてたはず。
最初の1杯を勧めた時はものすごく警戒されてたけど、今はこの通りよく口が回る回る。固い印象が強かったけど、気を抜くと泣き上戸になるのかな?
――なんだこの子、めちゃくちゃ可愛いね。
「模擬レースで手本を見せることや、後輩の指導の依頼も増えてきました。これは私が望んだことです」
「私のトレーナーはその望みを叶えるべく、各所へ調整に走り回ってくれました」
「しかし、最近はたまたまその仕事が重なって、日々の疲れが癒えないままに次の指導を行うことが多かったのです」
「トレーナーは……あやつは私を気遣って、仕事を減らそうかと提案してくれていたのに。少しでも早く理想に近づくためにと、提案を蹴ったのは私です! すべて私が悪いのです……!!」
「そのせいで生徒会活動でも疲れを見せてしまい、生徒会長にも心配される始末……!!」
ルドルフはこういう子放っておけないだろうなぁ。なまじお互い優秀なウマ娘だから、小さいことでも見逃さずフォローできるんだろうけど。
「これまでのトゥインクルシリーズ、あやつには何度も助けられました。的確な助言をしてくれたのも、1度や2度ではありません」
「トレーナーには私がウマ娘の理想を目指していることを伝えています。しかし――私は理想のウマ娘を目指すあまり、トレーナーに私の理想を押し付けすぎているのでしょうか」
「私自身の性格もあって、面と向かって普段の礼を伝える事すら、ほとんど出来ていません……私はいったいどうしたら……」
――ふーむ。
「もしキミが、彼に会わないまま3年間過ごして来たらどうなってたと思う?」
「……想像すらできません」
「それじゃ、キミは彼に感謝している」
「もちろんです」
聞いた感じ、今までそれで上手くやれてこれたことがすでにスゴイと思うんだよね。
本当に担当と上手くいってないウマ娘が勝てるほど、秋の盾は甘くない。
「さっきキミは、ミスター・トレーナーのことを褒めるべきと言ってたよね」
「はい……」
「実は褒めるべき、って言葉には、どうしても上から目線のニュアンスが入っちゃうんだ」
「!!」
「トレーナーとウマ娘は二人三脚。大事なトゥインクルシリーズの3年間ではなおさら」
「…………」
「もちろん、どちらかが管理されることで実力を発揮できるウマ娘もいるけど、キミはそれを望まないでしょ?」
「……くっ……」
どうしても昔、アタシにトレーナーが付いていたころを思い出して口を出したくなっちゃう。
ここは本当にアタシの悪いクセかも。お説教なんかじゃなくて、楽しくお話がしたいんだけどな。
「偉そうなこと言っちゃってごめんね」
「いえ――いえ、その通りです。私がトレーナーに求めるのは杖。お互いがお互いを支えあう関係です」
文字通り理想の関係だね。それが変わらず芯になってるなら、きっと大丈夫だよ。
「されど私は頑固で、この性格は生来のものです。そう簡単に変えるのは……」
「じゃあね、どんな小さいことでもいいから、とにかく行動に移してみようか」
「行動……?」
「なんでもいいんだよ。日頃の感謝を伝えるとか、言葉遣いを柔らかくするのを心掛けるとか」
この子は典型的な、行動する前によく思考するタイプってところだよね。
こういう子の場合、頭で考えれば考えるほどドツボなんだよね。答えがない問題に対して、同じところを思考が行ったり来たりしちゃう。
だから少しずつでも現状を変えてくのが良いと思うな。
「いいのでしょうか、そのような小さなことで……」
「小さな事なら積み重ねればいいんだよ」
「――!!」
「お互いがお互いを見放さない限り関係は続くよ。いくつもの思い出を積み重ねていったら、今見るはずの無い光景だって瞼に浮かぶさ」
「ううっ……マスター……!」
それから少しずついろんな話をした。
彼女のトレーナーとの出会い、オークスの母娘制覇(素晴らしい!)、天皇賞のあと、ようやくトレーナーを認めるようなことが言えたこと。
こういう楽しいおしゃべりが出来るから、この趣味はやめられないんだよね。
……そろそろお開きかな? といったところで、こんな話になった。
「――実は、今日来たのはプライベートではなかったのです」
「というと?」
「もともとは生徒会に寄せられた投書に、このバーのことがありまして」
「あー、目安箱だっけ」
そういえばルドルフが設置してたような。まだあったんだ、アレ。
「普段は無人のはずのお店が、時々明かりが点いていて怖いと……」
「ありゃま」
そりゃ怖がらせて悪いことをしちゃった。事情を知ってる子のほうが少ないし、中等部の小さい子には確かに不気味かもね。
……あれぇ? でもルドルフは知ってるはずなんだけどな。
「それで会長――ご存じかと思いますが、トレセン学園の生徒会長が私に調査するようにと」
ははぁ、ルドルフがこの子を送りだしたわけが分かった気がする。たぶん、あまり休みを取りたがらないから、調査の名目で休憩を取らせたかったんだろうな。
「まさかここまで居心地のいいお店だったとは、つい長居してしまいました」
「いいねいいね! はじめは仕事で来たのが、プライベートなお話に変わったわけだ。これもまた小さな変化だね!」
「そ、そうでしょうか」
「そうとも、ミズ・エアグルーヴ! どんどん積み重ねていこう。またいつでも待っているよ!」
お店を開けてる日だけね!
「はい、ぜひとも。本日は本当に、ありがとうございました」
「こちらこそ」
「……良い店だったな。次はあやつを誘って来てみるとしようか」
「あ――そういえば、マスターの名前を聞き忘れたな……また来てお礼を伝えなければ」
◇
――数日後。
『それでは、本日の定例会議はここまで。みんなご苦労だったな』
『『『おつかれさまでしたー』』』
『おつかれさまでした、会長。私もこれにて』
『ああ、おつかれさま――どうしたんだエアグルーヴ、嬉しそうじゃないか。――もしや逢引の約束でも? なんてね、ふふ』
『……ふっ、ええ、まあそんなところです』
『えっ』
『それでは失礼いたします、残務は片付けておきましたので』
『えっあっ』
『もしもし――トレーナーか? ああ、こちらは終わった。植物園へ行くバスの時間は……ああ、調べてくれたのか、ありがとう。――楽しみだと? 浮かれて転んでケガをしても知らんぞ――ふふ、このたわけめ』
「――それで、生徒会室の窓から覗いていたら、手を取り合って歩くエアグルーヴとトレーナー君が見えた。あんなに仲の良い2人を見たのは初めてだ」
「ほうほう!」
おお、やるじゃないかミズ・エアグルーヴ! いや、彼女のトレーナーの方かな?
ここに来てから少ししか経ってないのにここまで進展できたとは、アタシも本当に嬉しいよ。レースでもっと強くなった彼女が見られるか、楽しみだね。
「エアグルーヴの言葉と笑顔が、頭から離れない。嬉しそうな笑顔が私以外に向けられていると思うと、もう堪らないんだ」
「うんうん」
「胸が苦しい……いったい私はどうしてしまったのだろうか」
「それは――愛、だね」
「そ、そうか……そうなのか。いや、私は君ほど色恋沙汰には詳しくない。君が言うならそうなのだろうな……これが愛か」
ふ、ふふっ。これだからアタシはルドルフが大好きでたまらないんだよね!
「この世には略奪愛なんて言葉もあるよ、ルドルフ。キミは一度躓いたくらいで、ミズ・エアグルーヴを諦めるのかな?」
「そんなことはない! 彼女は私の思い描く、すべてのウマ娘が幸福に過ごせる世界に不可欠な……大切な、ひとなんだ」
「うんうん、それじゃ、キミも諦めちゃいけない。負けずに彼女を逢引に誘うぐらいしないとね」
「あ、ああ! 勇往邁進、私もトレーナー君に引けを取ってはいられないからな」
あらら、間違った方へ誘導しちゃったかな?
でも、これでまたルドルフやミズ・エアグルーヴから楽しい話が聴けそうだね。
アタシはミスターシービー。
アタシはいつだって、楽しいことの味方だよ。
「――それで、この『24時間耐久・爆笑落語寄席』にエアグルーヴを誘おうと思うのだが」
「やめておこうかルドルフ」
ここはBAR"トリプルクラウン"。
幸運にも開いていたら、来てくれると嬉しいな。
シービー実装はよ(2回目)
それにしても自分はルドルフをションボリさせる趣味でもあるのだろうか……?
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
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