残酷な描写に耐性がない方は気分を害される恐れがあるので注意してください。
また、本作(ゲーム)と大きくかけ離れてしまうような設定もあります。
オリジナルキャラも多めですので、お気に召さない方は閲覧しないことをお勧めします。
第1話 -ouverture-
随所にひび割れや陥落がみられ、鉄骨が見える程荒れ果てたコンクリートで囲まれた部屋の中で私は目を覚ました。息を吸い込んだ瞬間、錆びた鉄と腐敗した生肉の臭いが混ざった様な悪臭が鼻腔を刺激した。この悪臭は二度寝をしてしまいそうな微睡みの中に沈む意識を覚醒させるには十分すぎた。あまりに不快な臭いのため、鼻をつまもうとしたが、それは叶わなかった。腕を曲げようとしても、腕は動かず手首の辺りに抵抗を感じるだけだった。取り敢えず、首は動くようなので、首だけを動かして自分の腕先の辺りを見てみる。思った通り、手首の辺りに薄汚れた鋼鉄製の拘束具が嵌められていた。両足にも同じような違和感を感じるあたり、手首に嵌められているものと同じ拘束具が足首辺りに嵌められているのだろう。
「おはようございます、小野塚 沙夜華サン。」
「なんで私の名前……」
「そんな細かいことどうでもいいです。
えと、私は今から貴方に酷いことします。何をされるかわからないのは嫌でしょうから依頼の内容言いますね。
まず貴方の右目焼き鏝で焼きつぶします。 その後、潰した目玉抉り出します。
あっ、義眼用意してあります。だから見た目を気にする心配ないです。
目玉潰した後、死なない程度に痛めつけます。多分ものすごく痛いです。
声は我慢しなくていいです。 頑張って耐えてください。」
「…は?」
「それじゃ、いきます。」
貼り付けに近い形で四肢を拘束されほとんど動けない状態の彼女に男がゆっくりと近付いてくる。男の右手には熱せられて真っ赤になった焼き鏝が握られている。彼女はどうにか拘束具を解除しようともがくが、当然外れるわけもなく拘束具がガチャガチャと音を立てるだけであった。
男は焼き鏝を待たないほうの腕で彼女の顎のあたりを掴み、抵抗できない様にしてから彼女の右目に焼き鏝を当てた。
ジュッという水気を多分に含んだゲル状の物体が焼かれる不快な音と彼女の悲鳴が室内に木霊した。
眼球の水分が蒸発し、レンズ核やその他の眼球組織を焼きつぶされる痛みは想像を絶するものらしく、焼き鏝が当てられている間中ずっと幼さ残る痛々しい彼女の悲鳴が響いた。
焼きつぶされていく組織の一つ一つから伝えられる信号に、彼女の身体はまるで電気ショックを受けたかのように跳ね痙攣を繰り返す。彼女の小柄な体が痛みから逃れようと暴れるその度に、拘束具が耳障りな音を立て悲鳴と共に室内に響き渡る。
何分ほど経っただろうか、ようやく彼女の右目から焼き鏝が外された。焼きつぶされた右目からは未だに煙が出ていたが、それもすぐに収まった。
普段はふわふわとボリュームのある彼女の髪は、脂汗で濡れてべっとりと額に貼り付いている。
喉から竹笛を吹いている様なひゅーひゅーと言う音を立てながらも彼女は必死に歯を食いしばり、自身の目を焼きつぶした男を睨み上げる。
「あん、た……絶対……絶対許さない……」
「あれだけの激痛味わって、まだそれだけ元気なのはすごいです。」
どぼんっ! という湿っぽい音が細身な沙夜華の体に響く。沙夜華は自分の腹部の感触に、恐る恐る視線を下におろす。若干前かがみの体勢になった彼女の華奢な腹部に男の拳が手首のあたりまで埋まっていた。
「っは……ぁ……?」
沙夜華の腹は今までにないほど深くえぐられていた。
「ぐぅっ?!」
一瞬の間隔を挟み、拳が埋め込まれた腹部を中心にぞわぞわと不快感がせり上がる。
徐々にそれらが鈍痛から苦痛に変わり始めると、普通に生きていたら経験することのない苦痛が体中を駆け巡る。普通なら崩れ落ちているはずの体を、拘束具と腹に刺さったままの拳が辛うじて支えていた。
「ゔぐっ……かふっ……」
「流石に効きますか。」
男は沙夜華の髪の毛を乱暴に掴み無理矢理顔を上げさせ、身体をくの字に折りながら口の端から唾液を溢れさせている彼女の顔を見た。瞬間、一瞬腹圧が軽くなる。拳を三分の二ほど抜かれ、彼女が安堵して息を吸おうとした瞬間、先程よりも深く拳が埋められる。
「ぐうっ?!」
「まだいけますよね?」
「こ、のっ……」
沙夜華の強気な姿勢とは裏腹に、彼女の身体はがくがくと震えていた。 男はその様子をなんとも思っていないような顔で見下ろしている。男は沙夜華の下腹部から拳を引き抜くとその代りに、容赦のない膝蹴りを打ち込んだ。本来なら行くはずのない場所に内臓が押しやられ、それらの臓器が出鱈目なエマージェンシーコールを脳へと送り始める。
「ぐッ?! ぅぁ……」
下腹部周辺にある肝臓や腸、子宮といった臓器を潰されることによって沸き上がる鈍痛や嘔吐感を押さえる為に両手で口を押さえようとするが、拘束されたままの四肢でそれを行うことは叶わなかった。歯を食いしばることで何とかそれらを抑えることができたが、目からは涙がこぼれ顔色は徐々に青くなっていった。男は彼女の身体から一旦膝を引き抜くと、更に勢いを付けて腹部へと膝蹴りを打ち込む。
「あぐっ! ぅあ……えぇぇぇぇ……」
今度の膝は的確に彼女の小さな胃を捉えていた。男の膝蹴りは彼女の胃を内壁同士が密着するほど潰し、その内容物を食道へ逆流させた。彼女の胃は殆ど空っぽだったようで、口からは透明な粘液が逆流して吐き出されるだけであった。
「まだでませんか。 貴方気持ち悪いほどタフです。」
「うえぇ……ごぷっ……ごふっ!?」
男が沙夜華の鳩尾をピンポイントに突き上げる。拳骨と胸骨がぶつかるミシミシという嫌な音が、骨を伝ってはっきりと沙夜華の鼓膜に届く。それとほぼ同時に心臓へと異常な振動が伝わる。
「がはっ?!……あっ?……あぁ……ぁ……!?」
心臓をシェイクされた衝撃で呼吸が出来なくなった沙夜華の顔は既に、涙と脂汗でぐちゃぐちゃになっていた。呼吸すらままならない状態で飲み込めなくなった唾液は口から床に落ちて染みを作る。
「ゔっ……かっ……」
「どれだけタフですか……今ので墜ちないの貴女が初めてです。」
「……仕方ありません、覚悟してください」
男は手を限界まで外側に開くと、掌底を沙夜華の腹全体を押し潰すように突き込んだ。
拳とは違う重い衝撃が腹部全体に響き渡り、沙夜華の意識は急激に遠退き始めた。
「衝撃が皮膚や筋肉に吸収されない打撃です。 直接内臓に響くから相当つらいはずです。」
「あ…………ぐぷっ?!」
内臓全体が沸騰したかと錯覚するような不快感の後、全てを吐き出したいほどの衝撃が沙夜華の身体全体を駆け巡る。直後、各々の臓器が脳に対してバラバラにエマージェンシーコールを訴え始める。
「ッ?! おうえぇぇぇぇッ!!」
びちゃびちゃと汚い音を立てて床に粘液が広がってゆく。今の一撃でどこかの内蔵を損傷したのだろうか、僅かにどす黒い血が透明な液体の中にぽつぽつと混じっていた。
ひとしきり吐き終わると沙夜華は小刻みに肩を上下させながら短い呼吸を繰り返す。
だが乱れた呼吸が収まる前に再び掌底を鳩尾に撃ち込まれた。
まるで空気の塊を身体の中にねじ込まれたかのような感触。本能がそれを吐き出そうと、必死に嘔吐させる。
「ごひゅっ?! ……っあ……はっ…………」
再び心臓をシェイクされた衝撃で呼吸が出来なくなる。沙夜華は必死に空気を求めるようにぱくぱくと口を動かした後、瞳がぐりんと瞼の裏に隠れ支えを失ったようにガクリと全身を弛緩させた。
沙夜華の意識混濁を確認した男は自らが焼き潰した右の目を抉りだし、消毒などの手当てを施した後に懐から取り出した義眼をはめ込んだ。男はえぐり出した目玉を義眼ケースに仕舞い、血液や体液を採取する。採取し終えた男は沙夜華の拘束具をすべて外し地面に横たえた。
「えと、生きてますよね。それでは、聞こえてないかもしれないけど一応教えます。
今回の依頼者、北の賢者と称されるあの方です。貴女のお父さんが作ったBBの遺産。
3つある遺産の内、その一つを持っている貴女のDNA情報を奪う事が目的でした。
貴女を嬲って情報奪ったのは、あなたの父親に原因があるからです。それでは、また。」
男はひらひらと手を振ると、部屋のドアを全開にしたままどこかへと消えていった。
「――――ッ!」
「どうした沙夜華。 大丈夫か?」
「あ、あぁ……大丈夫、平気」
さっきのユメはなんだ。いや、夢にしては嫌に現実的過ぎる気もする。
実際に体験でもしなければあそこまでリアルな夢を見ることはないだろうと思えるほどだ。
けれど、私はあんなことをされた覚えはない。私の右目が見えないのは、さっき見た夢と同じだ。
だがしかし、今見た夢のように誰かに焼き潰されたから右目を失った訳ではない。
外部居住区に出た際、破落戸に襲われ負傷したときにできた傷が原因だ。
負傷した右目の手術はフェンリルの総合病院で行ってもらったし、その時の記憶もちゃんとある。ならば先程の夢はなんだったのだろう? 全く身に覚えがないのにもかかわらず、異常な程のリアリティがあった。
「とりあえず、着替えなさい。 そのままでは風邪を引く。
今着替えを持ってくるからその間にそれを脱いでおくように」
ケンの言うとおりだ。偏食因子を投与されゴッドイーターになったとはいえ、所詮は人間。こんな寝汗でぬれた服を着たまま寝ていたら風邪を引いてしまう。彼の言うとおり、着替えよう。
彼に背を向けて、ワイシャツのボタンを外していく。丁度寝間着を脱ぎ終えたとき、ケンが私の着替えと湯の貼られた桶をもって戻ってきた。このようにして彼に背中を拭いてもらうのは何度目になるだろう。私のせいで起こしてしまっているのに、彼は嫌な顔一つせず世話をしてくれる。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もう背中は拭き終った様で、彼は私にタオルを手渡してきた。タオルを受け取り胸や脇、首筋や腹部などを拭いていく。私だって年頃の乙女だ。動けないような状態ならまだしも、これぐらいは自分でやらねばマズイ。拭き終えたタオルを彼にわたすと、彼はそれをもって洗面台の方へと戻っていった。彼が持ってきた寝間着と下着に着替えて彼が戻ってくるのを待った。程なくすると彼は戻ってきて、ダイニングの方へと向かっていく。
「何か飲むかい? あれだけ汗をかいた。きっと喉も乾いているだろう」
「うん」
「椅子に座って。すぐに用意するから」
本当に気が利く。私も彼のように気が利く人になれるだろうか。
私が椅子に座りながらそんなことを考えていると、目の前にティーカップがあった。私はそれを受け取って香りを嗅いでみる。微かに酸味のあるレモンに似た香りがした。レモンティーだろうか?
「レモンバームティー。 飲んだことはある?」
レモンバーム……聞いたことが無い。この間飲ませてもらったレモングラスティーに似た紅茶だろうか?全く味の想像がつかない。
「……レモンバーム?」
「そう。 シソ科の植物の一種でセイヨウヤマハッカともいう植物の葉から作るお茶だ。
ヨーロッパでは古くから長寿のハーブとして知られている。スッキリとした味わいで飲みやすいよ」
シソ科の植物から作るくせにレモンの名前を持つのか、紅茶のネーミングは本当によくわからん。
一口飲んでみると、ケンの言うとおりスッキリした味わいで確かに飲みやすい。
「ふーん。 レモンっていうから酸っぱいかと思ったけど、そうでもないね。
ケンの言った通り、すっきりしていて飲みやすいから好きだな」
「お気に召してもらえたようで何より。 また今度ご馳走しよう」
「約束、ですよ?」
「ああ。 さぁ、飲み終わったのなら寝なさい。 明日は君の初任務だからね、しっかりとお休み」
「ん、わかった」
明日は初めての実戦だ。鎮魂の廃寺と呼ばれる地区に巣食うコンゴウの群れを殲滅するだけの簡単の任務。ケンやみんなもいるんだし、きっと大丈夫。訓練でコンゴウ種は何度も倒してきたから、行動パターンや弱点は覚えている。絶対に負けるはずがない。ベッドに横になると、すぐに眠気が襲ってきた。これ以上起きていても、ケンに迷惑をかけるだけだ。私は睡魔に抗わずそのまま眠りにつくことにした。