不思議なもんですね。
今回、暴力表現はありません。その代わりに説明がちょっと長めになっております。
それでは本編をお楽しみくださいませ。
2064年 フェンリル極東支部 地下二階 ベテラン区画 207号室
「―――――ッ!」
「どうした沙夜華。 大丈夫か?」
「あ、あぁ……大丈夫、平気」
彼女はそう言うが、私の目には全然平気そうには見えない。
室温十度の決して暑くはないこの部屋の中、びっしょりと寝汗をかき体全体で荒い呼吸を繰り返す人間を見て平気だと思う人間はいないはずだ。よくよく見れば、唇も真っ青で微かに震えている。加えて顔色も相当悪い。
「とりあえず、着替えなさい。 そのままでは風邪を引く。
今着替えを持ってくるからその間にそれを脱いでおくように」
彼女は一言も発さず、ただ頷き返すと服を脱ぎ始めた。
私はベッドから出て、部屋の奥にあるクローゼットから彼女の寝間着を取り出し、そのまま洗面台へと向かった。
寝間着を取り出すときに一緒に持ってきたタオルを、少し熱い程度のお湯を張った桶に浸し、それをもってベッドへと戻る。彼女は裸でこちらに背を向け正座していた。脱いだ服は隣に纏めてある。私は桶の中のタオルを適度に絞り、それで彼女の背中を拭いてやった。私はそれを再び桶の中に入れ、再度水気を含ませて絞ってから彼女に手渡す。
私はそれで身体を拭くように指示しそれが終わるのを待ってから傍に放られている服と共に桶を洗面所へと持って行った。
洗面所から戻ってくると、彼女はもう着替えを済ませ今度はこちらに向き直り座っていた。
先程のふるえも収まっており、顔色もだいぶ良くなっている。
「何か飲むかい? あれだけ汗をかいた。きっと喉も乾いているだろう」
「うん」
「椅子に座って待っていて。すぐに用意するから」
私は部屋の明かりをつけ、リビングダイニングに向かう。
まずティーケトルでお湯を沸かし、そのお湯でポットとカップ全体を温めておく。
30種ほどのティーキャニスターの中から一つ選んで、二人分の茶葉を取り出す。
茶葉を入れる前にポットの中を、スプーンで軽くひとまぜ。茶こしで茶ガラをこしながら、濃さが均一になるようにまわしつつカップに注ぐ。"ベスト・ドロップ"と呼ばれる最後の一滴まで、しっかりと。それから沸騰したてのお湯を注ぎ、すぐにフタをして蒸らす。数分後、フタを外して椅子に座って待つ彼女へとカップを手渡す。
「おまたせ」
彼女はカップを受け取るとすぐに飲まないで、まずはその香りを嗅いでいた。
「レモンバームティー。 飲んだことはある?」
「……レモンバーム?」
「そう。 シソ科の植物の一種でセイヨウヤマハッカともいう植物の葉から作るお茶だ。
ヨーロッパでは古くから長寿のハーブとして知られている。スッキリとした味わいで飲みやすいよ」
「ふーん。 レモンっていうから酸っぱいかと思ったけど、そうでもないね。
ケンの言った通り、すっきりしていて飲みやすいから好きだな」
「お気に召してもらえたようで何より。 また今度ご馳走しよう」
「約束、ですよ?」
「ああ。さぁ、飲み終わったのなら寝なさい。 明日は君の初任務だからね、しっかりとお休み」
「ん、わかった」
紅茶を飲み終えた彼女はベッドに入り、何時も通りの胎児のような姿勢で横になる。
彼女がベッドに入ってから暫くすると規則正しい静かな寝息が聞こえてきた。
今のところは大丈夫なようで、先程の様に起きそうな気配もない。
私のベッドで眠る彼女は一月ほど前に極東支部に配属された神機使いだ。
年齢は十と六つ、神機使いとしてはずいぶんと若い部類に入る。
陶磁器に近い白色の肌色で、髪の色は薄い蒼みのかかった髪色をしている。目の色はやや濃い目のブルーで、非常に整った顔立ちだ。身長は160㎝弱と言ったところで、全体的なラインはほっそりとしており起伏はあまり激しい方ではない。俗にスレンダー体系と呼ばれる体系がもっとも近いだろう。
そんな彼女に関する情報は少なく、両親や親戚に関する記録に至っては一切見つからなかった。
榊博士から渡されたプロファイリングによると民間の孤児院で育てられたとあるのだが、当時の事を本人に尋ねてもあまり多くを語ろうとはしない。知能や運動能力に関しては一切問題もなく、一般人よりも高い部類に入るとの評価を受けている。特に対人格闘を初めとした近接格闘の評価は目を見張るものがあり、偏食因子を投与する前にも拘わらず一般神機使いとも十分に渡り合える程の実力を兼ね備えているとの報告があった。
そんな彼女に対し、周りの人間は科学者でもゴッドイーターでも十二分にやっていけるだろうといっていた。
嘘か真かはわからないが、あの榊博士が本気で弟子にしようとしていたらしい。
だが、彼女が学者になる事はなかった。
ある事件でフェンリルの病院にお世話になった際、神機への適性がある事がわかったのだ。
適合したのは第零世代神機と呼ばれる骨董品で、現在主流となっている第一世代神機の基礎となったプロトタイプともいうべき神機である。
現在開発中の可変型神機、通称第二世代神機並みかそれ以上に適合条件が厳しいために今まで適合するモノがおらず、長い間誰にも整備されず神機倉庫の奥で埃を被っていた。そんなレアものに適合した彼女は、他の科学者から観察対象とされてしまった。第零世代の神機に使われているコア(正式名称 アーティフィシャルCNS)は第一世代に使用されるものとは違い、既存のアラガミ以外のコアが用いられている。それは極めて純粋なアラガミ、アラガミの祖ともいうべき未知種のコアを人為的に調整、再構成された特殊なコアで不明な点だらけだった。始めのころ、科学者たちはコアを抜きだし研究しようとしたのだが終にコアを抜き出すことは叶わず、研究の結果分かったことはあまり多くなかった。
結局、この第零世代神機は名前すら付けられる事もなく、研究対象として扱われることもなくなった。
未知数の部分が多すぎたブラックボックスともいえる神機。当然、運用における人体への影響も分からない。
適合者が実験台として扱われる事になるのは誰の目にも分かりきった事。
それを知ってか知らずか、彼女も科学者になることを望まず自ら神機使いになる事を望んだ。
適合後、様々な診断を受け一通りの訓練を済ませた後に、彼女は私が隊長を務める第7部隊に配属された。
そして私と同じ部屋で過ごす様、榊博士からの通達を受けた。
初めはなぜかと疑問に思っていたが、彼女と同棲し始めて間もなく理由はわかった。
私にしか、彼女を止められないからだ。
彼女はほぼ毎晩のように先程同様うなされては飛び起きる。
しかもただうなされて起きるだけならまだ可愛いもので、酷い時には泣きながら大暴れすることもあるのだ。
他の適合者に比べて彼女は偏食因子との適合率が高く、その分身体能力は底上げされている。
それ故に彼女を抑えるのは難しく、下手に押さえつけようとすればこちらが押さえつけられ危害を加えられてしまう。
ゴッドイーターを抑えられるとすれば、同じゴッドイーターだけなのだ。
うなされ飛び起きて錯乱し暴れまわる度に、彼女は鎮静剤を打たれ強制的に眠らされていた。
泣きながら大暴れしたあの日から、彼女に鎮静剤を打ち眠らせるのも私の役目の一つとなった。
今では何時暴れ回られても迅速に対応できるよう、この部屋の各所に鎮静剤が隠されている。
私の枕の下、目覚ましの底、額縁の裏など隠し場所は様々だ。
最悪の場合、彼女の右腕にはめられた青い腕輪から直接鎮静剤を打たれることになっている。
腕輪からの直接注入は、腕輪から常時発せられるバイタルサインを感知する専用の機器による判断と人間が判断し遠隔操作によって注入する場合の二種類がある。遠隔操作による注射権限は私にはなく、榊博士にある。
そんなことを思い出しつつ、冷めきってしまったレモンバームティーを飲み干し眠ろうとした折、部屋の最奥にあるターミナルのディスプレイに光がともった。こんな時間に誰だろうか、私はターミナルを操作しメールボックスを開く。
メールの差出人は榊博士。内容は沙夜華を除いた第七部隊全員に対する出頭命令だった。
私は部屋着から制服に着替え、なるべく物音を立てない様にして自室を出る。
一言伝えてからいこうかと思ったがそれは止め、代わりに書置きを残すことにした。
眠ったばかりの彼女を起こすのは忍びない。
「よっ、今から行くとこかい?」
部屋を出たとたんに声をかけられた。振り向いた先に居たのは同じ第七部隊に所属する霧崎 涼子。
第一世代神機に適合した女性のゴッドイーターで、19歳と言う若さでありながらショートブレードの扱いに長けており他の支部からも一目を置かれている存在だ。かなりフランクな性格であり、男女問わず様々な場所に数多くの友人を持つ。
トレードマークは遠くからでもよくわかる緋色の髪である。また容姿も整っており身体能力、状況把握能力も高い優秀な隊員である。だが、如何せん私生活がだらしなく色々と心配な面が多い。チューブトップにホットパンツという露出度の高い私服もその悩みの一つだ。
「ああ。 ダグラスは?」
「んー? あいつなら先に行ったぽいぞ。
それにしてもこんな時間に緊急招集ってなんだろな?」
「おおよその見当はついているけどね」
「へー」
エレベーターに乗り込み、内部の格子戸を閉めてから地下四階のボタンを押す。
鋼鉄製の扉が閉まり、エレベーターが静かとは言えない駆動音を響かせゆっくりと降下していく。
「なぁ、鬼塚。 アイツ……沙夜華の様子はどうだ?
まだ、うなされたり泣きじゃくったりするのか」
「つい先ほど、うなされて起きたばかりだ」
「そっか……しかしまぁ、お前さんも大変だよな。色々と大変だろ?」
「まぁな。 けどまぁ、彼女と過ごすうちに色々と楽しみも増えた」
「ほー。 そりゃよかったな」
「しかし、意外だな。 お前が沙夜華の心配をするとは。
そんなに仲が良かったか?」
「まぁなー。 一緒に飯食ったり、風呂入ったりしてりゃ仲良くなるって。
この間取った休みにさ、一緒に買い物行ったんだぜ?」
「ほう。 最近つけているその髪留めはその時に買ったのか?
良く似合ってるじゃないか」
「ん? あぁ、沙夜華と一緒に色違いを一緒に買ったんだ。
しっかしよく気づくよな、お前さんも」
「部下の些細な変化に気付いてやるのも勤めの一つだと思っているからな」
「殊勝なこって。 ま、気づいてもらえるとこっちも嬉しいからいいけど」
ブザーと共に扉と格子が開く。地下4階榊博士のラボの前でダグラスは待っていた。
深夜遅くに起こされたからなのだろうか、若干気が立っているように見える。
「すまない、遅くなった」
私はドアを四度ノックし、返事が来るのを待ってから室内へと入った。
「第七部隊隊長 鬼塚ケン、以下隊員2名入ります」
「やぁ、こんな時間にすまないね。まずはそこに座ってほしい」
普段通り、榊博士はいくつもの大型ディスプレイが直結された椅子に座り、キーボードの上で指を躍らせていた。
私たち三人は博士に指示された通りの場所へと腰を掛ける。
「それで、要件とは?」
「うむ、この中にはもう気づいているものいるだろうけど――」
「沙夜華のことだろ?」
「涼子君の言うとおり、彼女についてだ」
「まさか今になって使いものにならない屑でしたとか言わねぇよな?」
「それは否定させてもらうよ、ダグラス君。 彼女はね、君や涼子君を軽く凌駕するくらいの素質はある」
「ほう」
「さて、話を元に戻していいかな?
実は明日のミッションに少々問題があるみたいなんだ」
「問題?」
「今回は鎮魂の廃寺でコンゴウ種の群れを叩いてもらう予定だったんだけれど、どうもその群れの様子がおかしい。
妙に統率がとれているというか、規則的な動きを見せるんだよ。
それで調査隊に尋ねた所、群れの中心に見た事が無いアラガミが居るとの報告が帰ってきた。
送られた映像資料を見る限りコンゴウ種から発生したアラガミであるというのは間違いないのだけれど、細部が異なる。
調査隊の報告じゃあ、そいつは雷を操れるみたいなんだ」
「雷って……コンゴウの弱点属性のはずじゃ?」
「そう! 自身の弱点であった筈の雷を操れるコンゴウだ。私たちはイリーガルレアと呼んでいる。
君たちにぜひ、コイツのコアを回収してほしい。なんせ、一体しか確認されていないレアものだからね」
「それは構いませんが、たったそれだけのことであれば何も今話さなくてもよかったのでは?」
「まぁまぁ、話はこれからなんだ。もう少しだけ付き合ってもらえないかな?
鬼塚君を含めて全員に聞くけど、今までの彼女を見て何か気になることはなかったかい?」
「戦い方って言うか動きが新兵のソレじゃねぇ。
マニュアルを完全に無視したふざけた戦い方しやがる」
「だが、結果としては悪くない。 あの戦い方には学ぶものがある」
「なーんか違う気がするぜ、二人とも。
あ……そういえばアイツ、一回も捕食してないんじゃないか? プレデターフォームを見た事ないんだが」
「そのとおりだ、涼子君!! お察しのとおり彼女の神機はプレデターフォームを持たない!」
「「「はぁ!?」」」
「―――見事にそろったね。
まぁ、君たちが驚くのも無理もない。私も知った時は君たち以上に驚いたものさ。
先程私はプレデターフォームを持たないと言ったが、正確には存在する。
といっても君たちの様に形をもっているわけじゃないからね、捕喰形態にして周囲の組織ごとコアを抜き出すことができない。だから今回のミッションでは沙夜華君をイリーガルレアと戦わせないでほしい」
「アイツが抜き出せないのなら、殺した後に俺らが回収すればいいだけの話じゃないのか?」
「そうなんだけど、それが出来ないんだ。
まだ詳しく判っていないのだけれど、彼女の攻撃を受けたアラガミは身体を構成するオラクル細胞の結合が弱まってしまうみたいでね。それも、常識では考えられないほどの速さで結合が弱体化する」
「えーっと、つまり……どゆこと?」
流石は脳筋系。身体を動かす系の問題にはめっぽう強いのだが、座学となると全く役に立たない。
そんな事だから乳ナイフとか馬鹿にされるのだ、とでも言いたげな表情で見つめるダグラスが涼子の疑問に答える。
「万が一コアに攻撃がヒットした場合、一撃でパアってことだろ?
そうでなくとも、コアが活動停止した場合素材回収を行う前に霧散して消滅することもあり得るってことだ」
「そういうことになるね。
事実、訓練では対峙したアラガミの殆どを初撃で沈めている。
全てのターゲットのコアだけを的確に貫いていたんだ」
「アラガミのコアの位置は個体によってかなり異なる。これはダミーターゲットでも同じ。
それにも拘わらず、彼女は初撃で仕留めてきたと?」
「そう。だから、彼女にイリーガルレアをぶつけないでくれ」
「なぁ榊さん? 何でそれを沙夜華に言ってやらないんだ?
本人に伝えたほうが楽だろ?」
「涼子君、君の意見は最もだ。
けどね、それは無駄なんだよ。 わかっているはずだろう?」
「まぁ……けどそりゃ最初の頃の話だろ?」
「いや、アレは今も変わらん」
「鬼塚君の言うとおり、彼女の戦い方はあれから変わらなかった。
餓狼とはよく言ったモノだよ」
「いや、私も治そうと出来る限りの努力はしたんだが……すまない」
「まぁ、その件については今此処で話しても仕様が無いさ。
最後にこれを渡しておくよ」
そう言うと榊博士は三本組の注射器を渡してきた。
緑色の液体が入ったものが二本、残りの一本は無色透明な液体が詰められている。
「これは?」
「緑色の方が強制解放剤。 疑似的な神機解放状態になれるんだけど、その分効果が発動する時間は短めだよ。
捕食をしないでもバースト状態になれる優れものだけど、その代りに体力を削る。
はっきり言って劇薬だから、過度の使用はお勧めしないよ。
今回はコンゴウ種の群れが相手だし、捕食する隙も少ないだろうから渡すけど、本心を言えば使ってほしくない」
「残りは?」
「それは鎮静剤だ。 カスタムルガーをつかえば射出することもできる。
有効射程は90m程とされているけど、過信しない様に。
細かい説明はいいよね、鬼塚君? 君なら使い方をよく知っているだろうから。
そこの引き出しに入れてあるから、後で各自持っていくように。
……もしもの時は、それで彼女を止めてほしい」
「……博士、安全装置の方では駄目なのですか?」
「アレは、本当にどうしようもなくなった際の強硬手段だ。
即効性は高く、大体三秒で効果が出る。
一度打てば三日は目を覚まさない程効果は強いし、記憶障害を引き起こす可能性がある程の劇薬だからね。
その、こちらとしてはなるべく使いたくないんだ。
三人とも、沙夜華君をよろしく頼むよ」
「了解しました。それでは、失礼します」
任務まであまり時間もないので、私たち三人は1階の出撃ロビー前のエントランスで時間をつぶすことにした。
こんな時間だ。予想通りと言うかなんというか、受付嬢以外に人は見当たらない。
ダグラスはジンライム風ノンアルコールジュース、涼子はカレードリンクを手にしている。二人とも何時も通りだ。
「それって……美味いのか?」
「美味いよ? なんなら飲んでみる?」
そう言いながら涼子は飲みかけのカレードリンクをずいっと出してくる。
せっかくだが、止めておくことにした。
彼女が差し出してきたのはカレードリンクの中でも群を抜いて辛いと噂される『カレードリンク~燃え上がれ俺の魂~』だからだ。とんでもない刺激物のくせにラベルがポップで可愛らしく、一見するとジュースに見えなくもないので手に取りやすい。そのためかラベルに騙され購入する者や、怖いもの見たさに飲む勇者も数多くいる。極稀な例だが涼子の様に愛飲する者も出てくる始末だ。しかし、愛飲者になる確率は非常に低く、飲んだ者の大多数は医務室に運びこまれ後日地獄を見る事になる。地獄を経験した者曰く、数日間お尻に悪魔が住み着くそうだ。悪魔は凄まじく凶悪で、トイレに行くことを躊躇う程。酷い場合は日常生活に支障が出ることもあるので、何度か販売中止を求めるデモや訴訟があったらしいが、何故か発売が中止になる事はない。余談ではあるが、FSDの後夜祭などで行われる罰ゲームにコイツが出席しない日を見た事はない。パーティーゲームなどでそこそこの需要があるため、発売当初からずっと並び続ける古強者だ。
そろそろ時間になるだろうか、私は懐の懐中時計を取り出し時間を確認する。時計の針は午前6時を指していた。
「ダグラス、涼子。 私は沙夜華を起こしてくるから、先に第二ヘリポートへ向かっていてくれ」
「おっけー」
「神機とかは運んどいておくぜ」
「ああ、すまないな」
二人が出撃ゲートをくぐっていくのを確認してから私は出撃ゲートの脇、区画移動用のエレベーターに乗ってベテラン区画へと移動する。自室の扉を開けて入ると、彼女はもう着替えを済ませ昨晩私が片づけ忘れたティーカップやティーケトルを洗っているところだった。
「おはようケン。 すぐ洗い終わるから、少しまっていて欲しい」
「おはよう、沙夜華。朝からすまないね」
「ううん、気にしないで……よし、これでおしまい」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
第二ヘリポートへの扉が開いた瞬間、強めの風が吹きつけてきた。ヘリのローターが回転する際に発生する風と騒音は中々に強烈でイヤホンをつかわねば耳元で大声を出さぬ限り声も聞こえない程だ。ヘリはもういつでも飛びたてる状態にある様で、機内には涼子とダグラスの姿が見えた。私たちもヘリの昇降用タラップを上って機内に入りドアを閉め、座席に座りオーバーヘッドタイプの大型イヤホンをはめる。
「離陸します!」
ヘッドセットを通し、パイロットが告げると同時にヘリのローターが甲高い唸りをあげ機体が離陸する。あっという間にだだっ広いヘリポートが小さくなってゆく。小一時間もすれば目的地にはつくだろう。私はシートの背に頭を預けて目を閉じた。