「ここまで来れば、もう大丈夫です。 追っ手が来る事は無い筈です」
鬱蒼な程木々の茂る森の中を進み、道無き道を進みつつ、ネプテューヌ一行はフィナンシェの案内の下、目的地へとたどり着いた。 視界に入ってきた複数の住居らしき物を見て、疲労困憊していたコンパの表情が目に見えて変わった。
「やったです! 街についたです!」
コンパはここまで来た疲労も忘れ、達成感で喜ぶように言う。 厳密に言うとここは街ではないのだが、そんななかをベールは辺りをぐるりと見回して警戒し、安全を確認した。
「周りにも追手らしき人たちはいないようですし……どうやら完全に撒いたようですわね」
ベールのその言葉通り、この場所に来るまでに時々小さく聞こえた追手の兵士の叫び声などは一切無かった。 ここが安全であると言う証拠なのだろう。 ベールの呟きに対し、どう言う訳か現在女神化し、パープルハートの姿となっているネプテューヌは静かに言った。
「ほらね、やっぱり信じて正解だったでしょ? ……それにしても、やはりこの寒さは堪えるわね……。 早く暖かい室内で何か温かい飲み物が飲みたいわ」
普段見ることの殆どない女神化し、大人びた雰囲気を持つネプテューヌが呟いた言葉を、ネプテューヌたちを案内するように目の前を歩いていた双子の兄弟の兄が聞き入れて提案した。
「では、我らの拠点にたどり着いた際に、私が紅茶でも淹れましょう。 何かリクエストは?」
「そうね……茶葉はダージリンのストレートティーがいいわ」
普段なら飲み物のリクエストを聞かれてもプリント答えそうなネプテューヌであるが、女神化して大人びているせいか、無難に紅茶を注文していた。 普段からこれであれば、アイエフの負担(ツッコミ的な要素で)が減るのだが、それは叶わぬ願いである。 隣でそのやり取りを聞いていた双子の弟は、同じ提案を後ろからついてくるコンパとベールへとした。
「では、ベール様とコンパさんにはこの僕が淹れましょう」
「私、ココアがいいですぅ」
「わたくしは、ミルクティーがいいですわ。 あ、茶葉はダージリンピュアブレンドでお願いしますわ」
「了解だよコンパさん、ベール様。 それじゃ、早くこの人たちを僕たちのアジトへと案内しよう」
「そうだな。 レディをエスコートするのは紳士の役目だ。 ベール様、ネプテューヌさん、コンパさん、すぐに目的地に着きますので、こちらへ」
コンパとベールのお願いを受け入れ、怪我をしないように雪道の滑りやすい場所などを気をつけるように指示するなど、エスコートをするその双子の兄弟。 その姿は、正に紳士そのものだ。
「……」
アイエフと言う名の少女をガン無視していなければ、だが。
何故ネプテューヌが女神化しているか、と言う事も含めて、このような状況に至っているか説明するには、少しばかり時を遡る必要がある。 それはネプテューヌたちがフィナンシェと合流し、フィナンシェに案内をされて数刻した後に、例の双子の変態兄弟がイツキに言われて指定した地点へと向かい、ネプテューヌたちと合流した時の事だ。
この後の展開をあまり説明する必要はない気がするが、一応説明すると、合流した際に双子の視線に入ったのは、当初はコンパとベールだけであった。 2人はコンパとベールには名前を聞いたのにも関わらず、ネプテューヌとアイエフが自己紹介をしても、まるで眼中に無いなのようにガン無視する始末。
フィナンシェからその兄弟の性癖について説明を受け、ネプテューヌとアイエフは憤慨するのだが、アイエフの女神化してこの変態兄弟をボコれと言う命令に、ネプテューヌは何かに気づいたかのように声を漏らした後、何に気づいたのかさっぱり分からないアイエフを置いておいてネプテューヌは女神化をし、コンパとベールだけを連れてさっさと行こうとする兄弟を呼び止め、今の自分の姿を見せつけるように強調した。 ……主に胸を。
突然のネプテューヌの(胸の)急成長に驚愕する兄弟2人に、ネプテューヌはこれが自分の真の姿だと言い、巨乳同盟の仲間入りを果たした。
『ね、ネプ子の裏切り者ォォォオオオ!!』
同時に貧乳同盟の1人に裏切られ、同盟が崩壊し、アイエフの悲痛な叫びが辺りにこだました。
「何よ……なんでこんなところまで来て胸で差別されなきゃなんないのよ……別に好きで貧乳なわけじゃないわよ……」
俯いて小さくブツブツと呟きながら、ネプテューヌたちとは少し離れた位置からついてくるアイエフ。 時折自分の胸を両手で触っては落胆し、更に負のオーラを増して小声で何か呟くアイエフは、呪詛を唱えているようにしか見えなかった。それを見かねたフィナンシェは、アイエフをフォローした。
「あ、アイエフさん大丈夫です! あの2人が変態末期なだけですし、アイエフさんはとってもスレンダーでスタイルが良いですし、そんなに落ち込むことないですよ!」
先に説明すると、これはフィナンシェが素直に思った感想である。 仕える女神が他の女神と違い巨乳では無いためか、判断基準が胸にだけ行ってはいないのだ。
だがしかし、そのフィナンシェなりのフォローはアイエフの心の地雷を的確に踏み抜くだけの結果になる。
「……ふふ、スレンダー……そうよね……凹凸無くてスレンダーよね……起伏ないものね……ふふ、ふ、ふふふ……」
フィナンシェのフォロー虚しく、寧ろ何だか呪詛らしさが更に増した怪しい雰囲気になるアイエフ。 この胸に対するコンプレックスは、幾ら変態兄弟の出現と唯一の味方に裏切られた直後とはいえ、自分の仕える女神よりも重症であるとフィナンシェは感じた。 だが、そんなアイエフの病み具合などは微塵も気にしない変態兄弟は最早崇拝するような勢いで陶酔するように言う。
「それにしても、ベール様……あぁ、まるで女神のような素敵な名だ!」
「女神だけどな……」
「ネプテューヌと言う名も、まるで女神の名を冠しているような素晴らしい名前だよ」
「女神だけどな……」
「……あいちゃんがすっかりやさぐれてしまっているですぅ……」
「あ、あはは……」
双子が何か言うたびに負のオーラを全開させ、不機嫌であるとすぐに分かるような声色でツッコミを入れるアイエフに、さすがのフィナンシェも苦笑いを隠せなかった。
「ところで、あなたたちは一体何者なのでしょうか? イツキさんの事も含めて、そろそろ説明して欲しいのですが」
そんな中、この巨乳同盟の中で一番好待遇を受けているように見えるベールは、フィナンシェたちにそう質問した。 フィナンシェや双子の兄弟には、まだ正体などに関しては聞いていなかったのだ。 双子の兄の方はそれを聞き、一度ベールへと説明を忘れていた事を謝罪した。
「おおっと、これは失礼。 女神のような美しい女性たちに目を奪われ、すっかり忘れてしまってたよ」
「女神だけどな」
「大きい事は罪だね、兄者」
「小さくて悪かったな」
アイエフの負のオーラの出力を段々とあげ、イライラしながら呟いた言葉を全く気にも留めず、双子は説明を始めた。
「端的に説明すると、我々はレジスタンスだ。 無論、あのルウィー教会に居座る、ホワイトハートに対するレジスタンスさ」
「な、なんですって!?」
「あー……、わかるわー……、あのホワイトハート様も貧乳でしたもんねー……どうせ胸のない女神様を下ろして自分たち好みの胸の大きな女神様を祭り上げようって魂胆なんでしょ、はいはい」
兄の明かした、女神に対してレジスタンスを結成したと言う言葉に誰もが驚いたが、心へのダメージが残り続けているアイエフは、レジスタンス結成にしては酷くくだらない理由を呟く。 しかし、この変態の双子の兄弟は、本当にそれでレジスタンスを結成したとしても、疑問には思わない事がまた恐ろしい事だ。
「ねぷねぷ。 あいちゃんのやさぐれ具合がドンドン酷くなっていくですぅ……」
「ごめんなさい、あいちゃん……、わたしが裏切ってしまったせいで……」
さすがのネプテューヌも、と言うより変身して思考回路が変わったためか、アイエフの負のオーラ全開な様子に対し、自分も原因の1つであることを自覚してるためか、申し訳なさそうにしていた。
「あいちゃんの予想そのままでしたら、わたくしとしてはまんざらではありませんわよ?」
「おおっ!? それは本当ですか!?」
「あなたのためなら我ら兄弟は、地の底までお供いたします!」
ベールと言えば、アイエフの言葉に悪ノリなのか本気なのかは分からない事を言っていた。 それを真に受けて早速レジスタンスから離脱しようとしている変態の双子のテンションのスパークに対し、全く話が進まないのを見ておられず、フィナンシェが話に割って入った。
「あー、えと、この2人にこれ以上説明させると面倒なことになりそうなので、わたしが説明しますね」
無理矢理話を終わらせ、これ以上話を逸らさせないためにも、フィナンシェは1つ咳払いをして話を始めた。
「コホン……ルウィーは他の3つの大陸とも異なる独自な文化を持つ、子どもも老人もみんな笑顔の絶えない平和な大陸でした」
目を閉じ、平和だったときの事を思い返すように言うフィナンシェ。 その穏やかな光景を浮かばせるような声に、この場の全員がその光景を想像した。 しかし、その光景は長くは続く事はなく、フィナンシェの悲痛な声により終わりを告げる。
「しかし、ある日を境にその平和は終わってしまいました。 街ごとの徴税金額は前よりも遥かに高くなり、大量の警備ロボットが配備され、国民には異常なほどの束縛を強いられました。 ここ最近は他国侵略のためか、武力を強化するなど、かつての笑顔あふれる大陸とは、程遠い過激な軍事国家へとなってしまったのです」
「……まさか、ルウィーがそんなことになっていたなんて……」
ネプテューヌはこの時、ラステイションでノワールが言っていた忠告の事を思い出していた。 確かにノワールは、ラステイション以外でも他国は他国で問題を抱えているとは聞いていたが、まさか大陸を守護する女神が、大きな問題を引き起こすなどとは考えられなかったのだ。 ネプテューヌの呟きの後に、それの返答も踏まえて説明を続けた。
「もちろん、そんなのはわたしたち国民が望んだことではありません。 全ては……ホワイトハート様の独裁政治によるもの。 だから、わたしたちはかつてのルウィーを取り戻すために、レジスタンスを結成したんです」
「……! もしかして、そのレジスタンスのリーダーとは、イツキさんの事なのでしょうか?」
フィナンシェの説明に対し、そこで何かに気がついたベールはフィナンシェへとそう問う。 フィナンシェは少し言葉に間を空けて答えた。
「厳密に言うと違うのですが……、表向きはそれで合っています」
「ど、どういう事です?」
「そうよ。 お兄ちゃんは、教会ではテロリストのリーダーって言われていたじゃない」
ベールの質問の意味をよく理解出来ず、コンパとネプテューヌはベールへとそう聞く。 聞かれたベールは少し言葉を整えながら言った。
「お二人とも、よく考えてみてください。 確かにイツキさんはあの教会や街ではテロリストとして指名手配されてはいるようです。 ですが、それは教会と言う今のルウィーを支配している組織から見た話であり、全ての人がイツキさんをテロリストとしている訳では無いと言う事です。 実際、わたしたちを助けに来てくれた訳ですしね」
「「……???」」
「そうですわね……それじゃあいちゃん。 2人にも分かるように説明できますか?」
ベールの説明にピンと来ないのか、疑問符を浮かべるネプテューヌとコンパに対し、アイエフに簡潔に説明してもらおうと考え、アイエフの歩く方へと振り返ったのだが……
「なーんだ……レジスタンスのリーダーイツキなのか……つまりあいつも巨乳好きだったのかぁ……。 あーはいはい、そうよねぇ。 男の子はみんなおっぱい好きだものね……。 ふーんだ、どーせ小さいですよーだ。 まな板ですよーだ。 貧乳がステイタスですよーだ。 ……別に好きでこんなんじゃないわよ……」
「……まだダメージが残っているみないですわね」
「ねぷねぷ、あいちゃんがひどくなる一方ですぅ」
「思っていた以上に気にしていたのね、あいちゃん……」
負のオーラが着実に増していく若干涙目なアイエフに、思ってきたよりもアイエフの病み具合が深刻である事に気付く一同。 特にネプテューヌ辺りはアイエフが病んでしまった原因の1つであるだけに、申し訳ないと思いつつ、早くアイエフを立ち直らせないとマズイと考えたのだが、何と言葉をかければ良いか分からずにいた。 そんな時、真っ先にアイエフへと話しかけたのはベールであった。
「あいちゃん。 いい加減にしないと、わたくしあいちゃんのこと嫌いになってしまいますわよ」
「……えっ!?」
自分の殻に閉じこもっていたアイエフは、今現在この世で最も恐れている事を指す言葉をベールから聞き、俯いていた顔を上げた。 ベールはそれを見て、言葉を続ける。
「クールでかっこよくて、そしてたまに見せる可愛らしい一面が好きでしたのに……腐った魚のような目をしたやさぐれたあいちゃんなんか、わたくしのあいちゃんなんかじゃありませんわ」
「つまり、教会側からすればイツキはこのルウィーの平和を脅かす悪たるテロリストだけど、今のホワイトハート様の独裁政治に反発している人たちから見れば、イツキは正義を掲げるレジスタンスって事よ。 全く、こんな事も分からないがなんて、アンタたちには本当に私がいなくちゃダメね!」
「さすがあいちゃんですわ」
間髪入れずに答えたアイエフにベールは嬉しそうにしてアイエフを褒めた。 今のアイエフの表情は、正にキリッとした顔であり、いつもの3割増しくらいクールであった。
「なんという変わり身の早さなの……」
さっきまでの陰鬱な雰囲気から一転して、ベールの言葉だけで、いつもよりも更にクールさに磨きが増したようなアイエフに、ネプテューヌは、アイエフのベールへの心酔っぷりに珍しく呆れ、そのうちアイエフは、自分たちの知らない領域にまで行ってしまわないかと心配になった。
と、そんなネプテューヌの呆れの中に含まれたアイエフの将来への不安の言葉なんて耳に入らないのか、アイエフはすっかりいつもの調子に戻り、ネプテューヌへと話しかける。
「と言うか、ネプ子そろそろ変身を解いたら? いざと言う時に疲れて変身できなくなっても知らないわよ」
「……それもそうね」
アイエフの変わり身に驚いてはいたネプテューヌだが、アイエフの忠告は全くその通りであったため、ネプテューヌは素直にそれに従って女神化を解いた。 瞬間、変態兄弟2人が物凄く残念そうな顔をした。
「いったい、ホワイトハート様に何があったんです、フィナンシェさん?」
「……それは、わたしたちの口から説明するより、これからあなた方に会わせる方に聞いた方が早いと思います。 さあ、ちょうど着きましたよ」
コンパの質問を受け流し、フィナンシェはたどり着いた自分たちのアジトの扉を開け、ネプテューヌたちを中へと招いた。
外から見てもそうだが、ネプテューヌたちの案内された建物はお世辞にも大きいとは言えない。 まあそもそも、レジスタンスが目立つような巨大な建物を拠点にするのはおかしな話であるのだが、先ほどルウィー教会を訪れたネプテューヌたちは今いる建物の広さと比べてそう感じた。
建物が小さいためか、フィナンシェがネプテューヌたちに会わせたいと言う人がいるのは入り口から入ってすぐの部屋にいたようだ。
「……失礼します、先ほど説明した、強力な助っ人の方々をお呼び致しました」
フィナンシェはノックをし、部屋の扉を開け、ネプテューヌたちに中に入るように促した。 中は割と広い空間が広がっており、その部屋の奥の方で寝そべる少女がいる事を確認したネプテューヌたちは、話しかけようとしたのだが、その前に少女が寝そべったまま此方へと顔を向け、その顔にネプテューヌたちは驚愕する。
「……今忙しいの。 悪いけど、帰ってもら……!」
言葉を詰まらせ、こちらを見て驚くその少女は、先ほど教会で出会ったホワイトハートその人そっくりであったのだから。
お気に入り件数300件突破……だと……
なんと言うか……嬉しすぎて言葉にできない……