Dolls' Frontline STAND ALONE COMPLEX 作:へなころ
文中に素子とモトコで表記が揺らいでいますが、一応誰目線かで意図的に変えております。読みづらかったらすみません。
埃が溜まった廃墟の階段を登る二つの影。
行政庁舎の階段を登るのは、えんじ色の軍服調の制服を着た若い男と、大柄なバトルライフルを持つ美女の二人だった。
そう、グリフィンのS09地区の前線基地指揮官コータ・ヤシマと、所属戦術人形のFALの二人である。
「ちょっと、指揮官?何ゆっくりしているのかしら?」
護衛でついてきたのにゆっくりと階段を登る指揮官に苦言を述べるFAL。
どうも非効率な状況にイライラしているようだがそれもそうだろう。普段はエリート戦術人形達だけと行動しているわけで。若い指揮官と雖もFALの希望に叶う動きは難しい。
「・・・うん。ああ、流石に28階分登るのはキツいよね」
足を止めて少し苦笑いで答えるコータ。
「もう!指揮官ったら、しょうがないわね。しっかりやってくださいね」
FALが上階で足を止めて振り向き腰に手を当てて呆れ顔で話してくる。そんなFALを見て、自分に姉がいたらきっとこんな感じだったんだろうな、と思わず笑ってしまう。
「指揮官?真面目にやってるのかしら?」
「ああ、ごめんごめん。急ごうか」
FALが呆れ顔を通り越して怒り顔に変わりかけていたので、コータは足を動かして登り始める。
FALと二人で28階を目指して歩みを進める。
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しかし、コータがFALに言った『階段を登るのがキツイ』と言うのは嘘だった。
というのも57からの報告を受けてコータはどうするか考えていた。
まず、相手の情報だ。
日本国政府直轄の警察組織の秘密部隊『
真偽を調べる術は無いが、あの装備にベクターを完封した強さを考えれば、一般の者達ではないことは確実だろう。確実に特殊部隊クラスの何かだ。
ただ、どこかの特殊部隊だったとしてもやっていることが間抜けすぎる。やっている事はグリフィンの大規模作戦に対してなんの意味もない行動としか言えない。
仮に誰かを釣り出すのが目的だったとしても、その相手が社長などの経営幹部ならともかくいち前線指揮官の僕などあり得ないだろう。費用対効果から考えても無駄そのものだ。僕を釣るなら隙をついて拉致する方がよっぽど安く簡単だ。
総合すると、特殊部隊級であることは確かだが、行動がそれに伴っていない。
ただ、その結果だけを考えると、彼らの言う『並行世界から来た』というのも筋が通る。
しかし、筋は通ってもそんな漫画や小説のような荒唐無稽な事が起こるわけがない。アホ臭い。それこそ意味の無い推論だ。
しかも、仮に本当に並行世界から来たとして、僕が信じたとしても、我々は組織だ。社長以下幹部の者が信じなければどうしようもない。むしろその様なことを信じた僕も処分される。とても説明できるものではない。
・・・・無理だ。
一番簡単なこと、すべて
ベクターを完封したとは言え、被害は出るだろうがやれないことはない。
一応会話はしてみるが、十中八九その方向になるだろう。出たとこ勝負にはなるがほぼ答えは決まったな。
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「指揮官、28階よ。このまま市長室へ進むけど。聞いてる?」
考えながら階段を登ってきていたが、28階に着いていたらしい。FALが心配そうに聞いてくるけど、大丈夫だ。
「うん。行こうか」
そう答えるとそのまま廊下を進み市長室へと入っていく。
部屋に入ると、ベクターと57の他に9課を名乗る連中が待っていた。
さあ、ここからが勝負だ。
「指揮官、待ってたわ。こちらが伝えたセクションナインの隊長のモトコ・クサナギさん。ね」
部屋に入るなり僕を待っていた57に相手を紹介される。クサナギと言われる女性はベクターを屠ったあの戦術人形だった。
「初めまして、グリフィン&クルーガー社、S09地区の前線基地指揮官のコータ・ヤシマです」
一応、丁寧に挨拶はしておく。
「はじめまして、素子・草薙だ。57の紹介の通り9課の隊長をやっている。横の5人もは9課のメンバーよ」
そういうと、他のメンツが簡単に自己紹介していく。比較的好意的な反応でコータは面食らっていた。
(いや・・・想定外な反応だよな)
「事情は聞いたけど・・・俄には信じ難い話しだよね」
「何か聞きたいこととかあれば、話せる範囲で話すけど」
コータはそれとなくカマをかけてみる。こんなこと聞かれたらどんな反応を見せるだろうか。
「・・・では、この世界の歴史を教えてほしい」
モトコは真顔で歴史を教えてほしいと言ってきたのだ。流石にコータもこれには再び面食らった。
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素子がコータから説明を受けた歴史は1980年代までは概ね元の歴史と合致していた。
唯一違うのが、1900年代に発見された遺跡であった。遺跡に保管されていた
コーラップスは放射能のように振る舞い、影響を受けると分子のみならず原始レベルで破壊される事。
特に2030年に上海近郊の北蘭島での大量放出事故により世界が激変した事は大きい。
コーラップスはタチが悪い事に生物が中途半端に影響を受けた場合その体が変質してしまう。そうまるで仮想世界のゾンビのようになってしまうのである。
このコーラップスは研究が進み、逆に新たなものを創造する逆コーラップス技術や、核爆弾のような利用まで進んだ。進んだ結果、人間が生存できる世界が狭まってしまった訳だ。
しかしその様な結果があったこそ自律人形の技術が進みベクターや57の様な戦術人形が誕生した。
代表的なこの世界の歴史的事実は下記だ。
2030年 北蘭島事件
2035年 オーロラ事件
2045年 第三次世界大戦勃発
2051年 第三次世界大戦終結
2053年 PMC「GRIFON & KRYUGER」設立
2057年 16LAB 設立
2061年 胡蝶事件発生
2062年 国連が再編により復活する
2062年 現在
「2062年かよ。うちらの世界2030年の32年後だぜ。本当なら爺さんで余生を楽しんでいるのかねえ」バトーがボヤく。
「お前に楽しい余生なんてあるのかよ。今と変わらずピンピンしてるだろ」揶揄うボーマに、違いないと相うつパズ。
「ああ、この街の情報にもコーラップスは出ていたしな。情報とも整合するから間違いは無いだろう」情報収集担当のイシカワが追加する。
「我々の世界とは違い第三次大戦は2045年か。大分遅いな。よく大国が我慢できたものだ。私たちの世界では96年に核大戦で2000年前には東京消滅だからな」素子は冷静に分析している。
「しかし、核汚染か。こっちの世界には
(迂闊だぞバトー。こちらの情報は漏らすな)
(・・・すまない。少佐)
バトーのボヤきが終わったところで素子は改めてコータの方を向き、襟を正す。
「こちらの情報は包み隠さず話したつもりだが。協力いただけないだろうか」
「もちろんギブアンドテイクよ。こちらからも可能な限りの協力はするわ」
要求の最後にニッコリ笑顔をつける。
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正直、コータは悩んでいた。モトコからの協力の提案については、少し考える時間をもらった。
相手方の歴史を聞いても検証のしようはなく、そうかそんな歴史もあり得るか。くらいの感想で終わってしまう。
ただ、こちらの情報を聞いてワイワイ議論するさまはとても騙している態度には見えない。正直、変な陰謀は無さそうに感じる。
(本当にタイムトラベラー?事実は小説より奇なり、ってこと?)
しかし、気になったのはあのバトーとか言う大男が溢した言葉だ。
核汚染についで『
もしそんなことが可能ならば、人類が緩やかに滅亡するしかないこの世界を救えるじゃないか。
なぜ彼女達がその話題を止め隠したかは分からない。だが、彼女達を取り込む価値は十分あるだろう。本当に不要になったらそのときに始末すればいい。とりあえず当初予定の『ここで消す』は無しだ。
(僕の人生で最大のチャンスだ。このギャンブルに乗ってやるさ)
「わかった、協力しよう。とりあえず客人として基地へ迎えるよ」
「ありがとう。ヤシマ指揮官」
コータが差し出した手を素子取り握手をする。この場にいる面々からは安堵も含んだ笑顔が溢れる。約1名ベクターを除いては、であるが。
ベクターはモトコを睨みながら、強く舌打ちしてプイッとそっぽを向いてしまった。モトコとのタイマンがお預けになったのが気に入らないようだった。
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この後は基地へと戻るためにコータはヘリを庁舎屋上へ来るように手配する。ルイスやNTW-20も呼び寄せ第一部隊の全員が集まって来ていた。
周囲を警戒している第五部隊には鉄血の殲滅のフォローに向かってもらった。
そんな待ち時間に素子がふとある事に気づく。
「ベクター。前回貴女を倒して手に入れた
その申し出を聞いたベクターの眉がピクリと動く。
「・・・・・・いらないわ。貴女を壊して取り返す。その時まで大切に持っていなよ」
「こちらも一緒だ。私も必ず取り返してみせるさ」
ベクターに続いてNTW-20もサイトーを睨み実力で勝って取り返すと宣言するが、一応客人として迎え入れる以上私闘は不味いだろう。しかし、その辺りのことはあまり深く考えていないのかあるいは勝ったお前らにやると言っているのかよく分からないが、戦闘を専門とする戦術人形の矜持があるのだろう。ただ返してもらうのは我慢がならないらしい。
「ふっ。分かったわ。大切に使わせてもらうわ。消耗して廃棄する前に取り返してもらいたいわね」
やれやれと言った態度を見せつつも軽く挑発する。サイトーも似たような態度だ。
そんな感じで時間も潰しつつ一行は屋上へ向かう。程なくして2台のヘリが到着するがローターは回したまますぐに飛び立つアイドリング状態で待機している。
それを受けてか第一部隊にコータ指揮官、9課の6人が滞りなくヘリに乗り込み、ヘリは間を置かずに行政庁舎の屋上から飛び立つ。窓の下、眼下に見える庁舎がすぐに小さくなる。9課のあった高層ビルとは似ても似つかないし一週間程度しか住んでいなかったがなにか寂しさを覚える。素子は自身に湧いたその人間らしい感性に軽く微笑みこの世界の始まりの地に別れを告げた。
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それほどの時間もかからずにヘリはコータ指揮官の前線基地に到着した。
「うほ。立派な基地だねぇ」バトーが揶揄するように感想を述べるが、確かに立派な基地だった。
「ベクター、9課の皆さんを宿舎へ案内して差し上げてほしい。部屋割りはさっき伝えた通りでね」
「その後に打ち合わせしたいので君とモトコさんで司令室に来てくれ」ベクターと素子がうなづいたのを見てコータは先に席を外す。
「じゃ、私たちも行きましょうか」ベクターが9課の6人を連れて宿舎へ歩き出した。
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「おいおいおい・・・」
「こりゃまた・・・」
「ひどいもんだな」
バトー、パズ、ボーマが感想を述べる。サイトーとイシカワはそんな気はしてましたと言わんばかりだ。
それもそうだった。なにせ案内された宿舎はコンクリートの殺風景な部屋にパイプ製の簡易ベッドが5台置いてあるのみだったからだ。
「これじゃあ、今までの庁舎とどっこいどっこいだぜ。でもなんで5台?」
「ふん、貴方たちにはコンクリにダンボールで丁度いいわ。ベッドがあるだけありがたいと思いな」
「それとモトコは女性だから私たち第一部隊と同じ部屋よ」
バトーの疑問にベクターが答える。
「部屋にあるネットワーク端末は使っていいと指揮官から許可が出ている。外部のインターネットに接続可能よ」
ついでにもう一つ伝えてモトコと共に部屋を出て第一部隊の宿舎へと向かう。
第一部隊の宿舎は9課の男性陣の部屋と違い少女趣味の部屋だった。ベッドも立派で趣味性の高いものでまとめられている。第一部隊の凶暴さに似合わず思わずニヤけてしまう。
「ベッドが5台しかないけど」部屋の中の様子を見てモトコが疑問を口にする。
「昨日まで5人だったから仕方ないわ。ダブルベッドで私と同じところで寝るしかないわね」
「私と同じベッドでいいわけ?」素子がベクターへ話しかける。
「勘違いしないでほしいわね。私は御免よ。けど指揮官の指示だから仕方ないわ」
「ふふっ、分かったわ。では改めてお願いね。ベクター」
「ふん。どうでもいいわ。案内も終わったから司令室に向かうわよ」
そう言ってモトコを連れ出して忙しなく司令室へと向かう。
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「ああ、早かったね」司令室で仕事をしていたコータはプシューっとエアシリンダーの音共に開いたドアを潜って来た二人に話しかける。
不機嫌そうなベクターに、興味深々なモトコ。その対比を見てコータ指揮官は思わず笑ってしまう。
そんな指揮官の態度を見てベクターの機嫌はさらに悪くなるのだが、彼女のそんな態度はネガティブなものではないとコータは知っている。本当に嫌いならベクターは無視するからだ。
「都市の鉄血の掃除も無事完了したし、やっとオールクリアになったよ」
「さて、これからのことだが、クサナギさんは何か希望はありますか?」
「ああ、義体の整備先を確保したい。中長期的な部隊の運用を考えると確実に必要となる。どこかないだろうか」
その質問を聞いてコータとベクターが目を合わせるが・・・
「うん、正直できる確証はないが・・・・、ベクターとかを製造した人形会社に相談はどうだろうか」コータが答える。
「伝はあるのか?」
「研究開発部門の責任者とうちの社長は繋がりがある」
「分かったわ。一度話をしてみたい。紹介してほしいわ」
そんな話をしていた所、緊急通信が入った。すかさず相手を確認する。
「G36、誰からだ」
「お待ちを・・・アリス指揮官からです」
「そうか、繋いでくれ」
「了解しましたがよろしいですか?」モトコを見ていることからコイツの前で良いのか?と言外に伝えている。
「ああ、構わないよ」
その返事を聞いてG36は通信接続の操作を進める。
司令室の映像通信モニターにアリスが映し出されるが・・・・
「コ〜タ〜・・・作戦失敗しちゃった・・・・」
半ベソのアリスが映し出されるなり衝撃的な事実が告げられ、コータとG36が驚く。
「はあ?違法闇市の制圧だから簡単だって言ってたじゃないか」
「うん・・・簡単な筈だったんだけど・・・降伏勧告しても抵抗が頑強で・・・」
涙目で失敗の言い訳を話す姿を見てコータも少し同情して聴きに徹する。後で慰めるのもセットになるだろう。
「しかも謎の違法コピーのマンティコア型多脚戦車まで出てくるんだもん。想定外よ!」
途中から怒り出すアリスを見て思わず笑ってしまうが、聞き捨てならない言葉を発する。
「謎?違法コピー?」
どこかで聞いたフレーズを再び聞くとは・・・。思わずコータとベクターがモトコの方を向く。
「映像を見てみたいわね」モトコの呟きを聞いて、見たいならとアリスが映像を共有する。
そこに映っていたのは・・・・・
「タチコマ!」素子は驚きながら思わず強く呟いていた。
なんか、『成田山』のステッカーが貼られているが、間違いなくあのタチコマだった。
「やっぱり・・・知り合い?」コータがまさかと小声で聞き返すが、
「ああ、我々の世界に居た・・・部下、だな」
素子も小声で返す。
(これはこっちで始末しないと色々まずいな。一難去ってまた一難か。)
コータは額に手を当てて追加の仕事にうんざりする。三日連続で戦闘だなんて人形達にもストレスが貯まるだろう。あとの娯楽なども考える必要もあり、思った以上に業務は増える事となる。けどしょうがない話だ。
「あー、アリス君。その、なんならうちの基地でそこの始末しようか?」
「え?いいの??」
想定外の申し出に驚くアリスだが、失敗を帳消しに出来そうですぐに喜ぶのだった。
タチコマ登場です。
彼らの独特な明るさ再現のため、益々作者の負荷が増える事でしょう。笑
年表はドルフロwikiから引用させていただきました。
48サンチ三連装陽電子衝撃砲さん、誤字報告ありがとうございました。m(_ _)m