プロローグ
カメラのフラッシュが目を焚く。その眩しさにも既に慣れて一々閉じることは無くなったが、それでもあまり快いものではない。
こうして絶え間なく写真が撮られたり録画されたりしているのは記者会見の場にいるからだ。記者が一問をする度に一答を返す単調な作業を続け、どれほどの時間が経ったことだろう。緊張が振り切れて落ち着いて臨むことができたのは良かったものの、これまでずっと会話を続けていたからか喉が渇いている。
ああ、そろそろ終わりにして欲しい。取り繕った笑顔が崩れかけている自覚がある。うんざりした気持ちを上っ面で覆い隠して誤魔化して、回答を終えたときの補足でも書き残しているのだろう記者のペンの動きを見、熱心に書くものだと呆れに似た感想を抱いてしまう。
そう、うんざりしている。でも今日が終われば平和な日常に戻ることができる。きっとそうなのだと信じて、また一問の為に挙手した相手に発言を許した。
何処かの記者がマイクを通して声を掛けてくる。これまでに投げかけられた殆どの問いは予想通りでもう飽き飽きしているのが本音だ。この新たな問いも似通ったものだろうと待っていると、想定と少し異なる質問が掛けられた。
失礼な質問かとは思いますが、そう前置きがされた。
「これまでの間、人に知られることなく活動をされていたかと思います。今回受賞されることとなり多くの注目を集める結果となりましたが、その活動の転換には何らかの契機があったのでしょうか?」
一問一答、とするには難しい問い。契機……つまり切っ掛けを聞かれているわけだが。どうやって今回の話が多くの人に知られるに至ったのかを話せばいいのか。否、そうじゃないだろう。
乾いた喉に唾液を通す。先程よりも軽く開く口を動かし、浮かんだ答えを話し出す。
「そもそもの切っ掛け、を話すのであれば……ある出会いがあった、と言えば良いでしょうか」
「それは今回書かれた、あのポケモンのことでしょうか?」
「いえ。それも大きな要因ですが、それ以前の話です」
ざわつく会場。質問をしてきた記者が「では、その出会いとは?」と掘り下げてくる。こんな話を突かれるほどに有名になったことは誇らしいのだろうか。
でも、そうだ。きっと自分はどの話よりも、この出会いを話したかったのだと思う。今も鮮明に思い出せる、あの人と出会った日のことを。
時間がないから全ては話せない。そもそも全てを語る意味も無い。それでもあの日、あの出会いが今の自分を形作ったのだと言いたかったのだ。
「今回の舞台となったタソガシマ。カガンの森で、私はある人と出会いました」
それは間違いなく、運命だったのだと思う。