霹靂の地を巡る旅   作:るぅもる

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そして

 

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 ハショウの森を進み四日目。変わらず海沿いの森の中を進むと、途中で木々の切れ目に辿り着いた。

「ハショウの森の平原帯だ。カガンの森ほど安全では無いから気を付けてくれ」

「凄く今更な警告だ」

 繰り広げられる縄張り争い、飛んでくる木や石礫に毒の粉。その殆どがトウキやカゲツを狙ったものでは無く、放たれたときに偶然にも通りがかっただけというものだ。油断すれば頭に当たる軌道で飛んできたものもある危険地帯でどうすれば気を抜けるのか。

 そうして森の中を出たわけだが、変わりなく危険な場所だった。絶え間なく技は飛び交い雷が落ち強風が吹き荒ぶ。視界が良好になった分、攻撃の精度や威力はより増している気さえした。

「……まだ、居るか」

 前を歩くカゲツが呟いた。

「なにが」

「ん、いや……そんな気にしなくていい。危害を加えてはこなさそうだから」

「なにが……」

 危害を加えてこないが何かが居るらしい。そう言えば昨日の夜に考え事をしていたが、もしやずっと追いかけてきているものが居るのではないか。危険は無いと言われても心配になる。

 カゲツが気が付くくらいだから見える位置にはいるのだろうが。そう思い軽く周囲を見るが、縄張り争いに精を出すポケモンたちの姿しか目に入らない。森の中と平原帯では生息しているポケモンが違うのか、昨日までに見かけたポケモンとは異なる彼らが争っているのが見える。

 その中で一体、目に止まるポケモンがいた。嘶きと共に雷を放ち、相手の攻撃を交わすときには鬣の炎を揺らす。トウキの知っている姿とは全く違うが、ギャロップでは無いだろうか。

「トウキ?」

 歩みが遅くなったのを不審がったのかカゲツが足を止めた。慌てて追いつくと、彼女はそのままどうかしたのか聞いてきた。

「いや、大したことじゃないし」

「ギャロップを見ていたようだが」

「あー……」

 誤魔化す必要もないのだが別に話す必要も、と思っていたら視線の先に気付かれていたらしい。そこまでバレているのなら話してしまったほうが早いだろう。

「や、カビゴンみたいに、全く違うものになってんだなと」

「と言うと」

「エスパーでもフェアリーでも無さそうだと思って」

 トウキの知るギャロップはガラルのギャロップだけだ。ソードしか遊んでいないため入手したこともなく、ただその存在を知るだけ。トウキが知る可愛らしい姿とは違う凛々しい様を見て、違いをまじまじ見ていたのだ。

 だから、カゲツがトウキの発言を聞いて目を丸くしたのを見ても、その理由がわからなかった。

「きみ」

 何かを言いかけたカゲツの真横に石礫が飛んできた。ここは安全地帯とは全く違う、ハショウの森の平原帯なのだ。長話しようものなら大怪我をするだろう。

「……後にしようか」

 言葉を控えた彼女はまた先を歩き出す。トウキもこれ以上余計な時間を取らせないように足を動かした。

 

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 その日の夜、落ち着いた頃になってカゲツはトウキの名前を呼んだ。かと思えば流暢に何かを喋る。明らかに日本語以外のそれは、日本生まれのトウキには全く聞き取れなかった。

「なんて?」

「む。違うのか」

「なにが……」

 説明を省略する癖をなんとかしていただきたいものだ。トウキが胡乱げにカゲツを見ると「いや」と何度か聞いた前置きが。

「きみ、ガラルで生活していたことがあるのかと」

 油断していたせいでトウキは息を呑む。カゲツは特に緊張も問い詰める気配も無く、いっそ呑気なくらいにいつも通りだ。

「……なんで」

「ギャロップがエスパー、フェアリータイプなのはガラルだけだよ。ルミナスメイズという森で生まれ育ったギャロップだけがあの姿、タイプになる」

 ここでガラル地方のポケモンしか知らない弊害が出るとは。今日見たギャロップの方がポケモンとして一般的だとは思っていなかったのだ。

「だから試しにガラル語で話しかけたんだが、全くわかってなさそうだな」

「ちなみになんて言ったんだ」

「学友に言われたことがあるこれ以上ない程の侮蔑」

「言葉を選べ」

 確かに意味が理解しているならば一瞬で反応するだろう。だがわざわざ売らなくてもいい喧嘩を売る必要はあったのか。そもそも何故カゲツは侮蔑を浴びせられたのか……については考えたらわかりそうだからそっとしておこう。

「同じ言語でガラルの言葉はわからず。なのに此方の地方を知らずガラルのポケモンを知っている。……本当にきみはよく分からないな」

「そう言われても」

 日本はこの世界にとって異世界なのだろうか。それとも別の惑星か、過去か未来かそれとも全く別のものか。トウキにもわかっていないのだ。敢えて言葉を控えるとカゲツは諦めたように目を伏せた。

「明日の夕方にはオウセの村に着く見込みだ」

 そう、全く別の話を始める。お互いに核心に至る追求を避けているせいだ。トウキもカゲツも遠慮が無い割に、臆病なくらいに距離感を測り続けている。

「オウセの村って、なんでオウセ? ドンテンの村は曇り空だからだと思ってるけど」

「ドンテンの村はもう一つ意味があるが……あまり良い意味ではないから伏せておこう。

 オウセはそのまま、逢瀬。他の地方との唯一の交流の場であり、ポケモンとパートナーになる場所であり、年頃の男女が相手を探す村でもある」

「まんまだ」

「そんなものだよ、どこも」

 年頃の男女がということは、オウセの村が一番同年代が多いのかもしれない。この島の言う適齢期がどの程度かわからないし興味も無いが、年頃に含まれそうなカゲツはオウセの村には住んでいないのかとは考えた。

「カゲツさんはなんでオウセの村に住んでないの?」

「それを聞くか?」

 じとりとトウキを見るがそれも一瞬で、すぐにあっけらかんと「向いていないからだ」と答えられた。ただの振りで本人は何とも思っていなさそうに見える。

「向いてない、とは」

「……相手の名前を覚えられない上、純粋に相手を欲していない」

 不自然な間があったが理由はそれらしい。見え張りだとか負け惜しみとかは一切なく、そもそもそんな質にも見えないので真実そうなのだろう。確かに人間らしさとは掛け離れた人だから当たり前のことか。

「なんでこんな話をしてるんだか」

 はあと息を吐いて首を振るカゲツ。トウキが何も言わずに彼女を見ていると、その視線には呆れ眼が返ってきた。

「こういった話がしたいのならきみが語ればいい」

「いや結構です……」

 恋バナがしたいわけじゃないのだ。慌てて首を振り「そういえばなんだけど」と強引に話を逸らす。

「オウセの村にはポケモンを……パートナーを見つけるために来てるわけだけど。どんなポケモンがいんの」

 やはりトウキが思い浮かべるのはゲームのことだ。炎、水、草タイプのポケモンから選ばせてもらい、一緒にチャンピオンを目指して旅をしたことを覚えている。それと同じようにいくつかのポケモンから選ぶことになる、と思っていたのだが。

「ウパーだよ」

「……ウパー?」

 カゲツの足元に居るウパーが元気よく返事をした。カゲツはウパーの頭やら頬やらを撫でてやっている。

「そう、オウセの村で育てているのはウパーだけだ」

「なんか……イメージと違う……」

「きみがどんなイメージを抱いているのかは知らないが……タソガシマでポケモントレーナーになる人間の殆どはウパーを連れているぞ」

 名前を呼ばれる度にカゲツのウパーがウパウパ返事をする。その度にカゲツが撫でまわすものだから、近くを漂っていたムウマが不満げに近づいてきた。ウパーばかりが構われているから拗ねているのだろう。うろちょろと周囲を飛ぶが、カゲツは一切ムウマを見ない。

「なんでウパー?」

「地面と水タイプを持っているから、だな。地面タイプがあればカミナリの被害を抑えられるし、水タイプは」

 我関せずでウパーを撫で続けたカゲツの顔面についにムウマがへばり付いた。あれだけ主張していたのに無視されればそうもする。ムゥムゥ鳴いて不満を主張するムウマを引っぺがし、そのままカゲツは彼を構い出した。講義は終わりなようだ。

「何体か居る筈だから、その中でも気の合うものをパートナーに選ぶんだ。詳しいことはまた明日話すよ」

 肉体らしい肉体を持たないムウマに息を吹きかけたり、額を引っ付けたりとスキンシップを取りながら締めくくれば、彼女はトウキを置いてムウマに話しかける。一番会話をしているのは当たり前ながらトウキとだが、彼女はウパーやムウマとも毎日必ず何か話をした。それは親しい友人に対する態度そのもので、トウキと話すよりも気安かった。

 トウキとカゲツは出会っておおよそ二週間。そして彼女のポケモンたちはそれよりもよっぽど長い時間、カゲツと時間を共にしてきた。幾らトウキのことを後輩扱いしているといえど、独り占めされるのは不満なのだろう。

「……俺、人間の筈なんだけどなぁ」

 馴染み方がポケモンと同等なことに危機感を覚えつつ、でもまあ困ってはいないしいっか、と気にせず受け入れたところで。暇している様子の先輩(ウパー)の相手をすることにしよう。

 

 翌日は朝から森の中を歩き続けた。ポケモンを躱し、落雷に耳を塞ぎ、小川を飛び越えて。何度かムウマに守られたり注意されたりしながら先へ進めば、漸く。目的地が見えた。

 木々の厚みが減り、明るさが増し、足元は木々の根の土台から固い土の道に変わる。ポケモンたちの領域から人間の手が加わった場所に移動していることが身をもってわかるのだ。

 息を吸えば潮のにおい。肌に触れるのはべたついた風。これまでに聞こえていた破壊音やポケモンたちの争う音は、もう随分と遠くになった。

「ポケモンの生息地域から出たらまず何をする?」

「服に付いた胞子や粉を払う」

「正解」

 そんなやり取りを終えると二人はハショウの森を抜けた。暫くは何もない草地を歩き、それから堀や木の柵といった防衛のための設備を抜ける。ハショウの森と村との唯一の出入り口に辿り着けば、カゲツが一つ息を吐いた。

「到着だ。ここが、オウセの村だ」

 建物はドンテンの村と同じくらいに古風だ。低い平屋が幾つも並び、奥には船着場だろう場所が見える。ドンテンの村よりも活気があると感じたのは話し声や人通りの多さが要因だろう。

 入口には門番なのかさすまたを持つ人物がいる。カゲツと一緒に近付けば、その門番はこちらを不思議そうに見てきた。

「おや……ああ、カゲツか! 久しぶりだなぁ」

 声を聴く限りは中年くらいの男性か。親し気にカゲツに話しかけているが、カゲツは「ああ、どうも」とどうにも素っ気ない。

「お前は変わんないなぁ……で、何の用で来たんだ? 知らない奴を連れているが」

 門番のトウキを見る目は何処か冷ややかだ。そんな目で見られる理由は……と思ったが。冷静に考えると警戒されてもおかしくないことに気が付く。

 唯一他の地方と交易がある場所ということは人の出入りを管理している場所に等しい。トウキが最初に居たのはカガンの森であり、当たり前ながらオウセの村には初めて来た。門番が存在を知らないトウキは普通ではない。どうしようかと困っていると、カゲツはトウキを見ながら言った。

「カミナリ様の落とし物だ。余り警戒するのはやめてやってくれ。彼の身元は私が保証する」

 いままで聞いたことのない言葉だ。何のことかをカゲツに訊ねるよりも先に、門番が「ああ」と頷いた。

「人間を落とされるのは初めて聞いたが、カミナリ様か。なら仕方ないな」

 と。先ほどの警戒の一切が消えているのだ。その変化に目を丸くしているうちに、カゲツと門番は話を終えたらしい。カゲツに腕を引かれた状態で二人はオウセの村に入ることになった。

「大丈夫か、トウキ」

「……なにごとですか」

「きみはざっくりとした質問で答えを求める癖を直したらどうだ。

 オウセの村の門番は人間の出入りを見ているから警戒されたんだよ。実際私も最初は疑ったしな。それが解消されたのは、元々この島には存在しない筈のものが落ちていることがあるからだ。大きな落雷の後に落ちていることが多いから、カミナリ様の落とし物と呼ばれている」

 つまりトウキもカミナリ様が落としたものだと認識してもらえたのだ。よく信じてもらえたなと思ったが、カゲツの人となりを知っていればそうもなるか。軽口も聞くし冗談も言うが、過剰に庇うことも余計な嘘を吐くこともしない。約二週間の付き合いのトウキが知っているのだからそれ以前の付き合いであるならば。

「宿場があるから一室借りよう。これからの話をさせてくれ」

「わかった」

 オウセの村に着いたがこれからが本題になる。肉体的な保証、もとい身を守る術を手に入れるために来たのだ。少しだけ緊張しながらトウキはカゲツの後をついて行った。

 

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