おおよその状況確認は終わり話は本題に移り変わる。具体的に言うとこれからの旅路についてだ。持ち歩いている地図を開き、これから向かう先を再確認する。
「タソガシマには四つの村があるというのは前も話したな。北方の私が住んでいるのがドンテンの村、そして南方の先程まで居たのがオウセの村。他に東側にシンシンの村があり、西側にはワタラズの村がある。
私たちはこれからウパーに仲間になってもらい、村を巡る必要がある」
「オウセの村以外の三つの村に行くんだな」
地図を見た限りではライリュウの湖に一番近いのがドンテンの村だ。そのまま巡るのであればドンテンの村、ワタラズの村、シンシンの村の順に向かうのが一番良いだろう。確認がてらトウキの考えを話してみると、カゲツは聞きながら少し嫌そうな顔をした。
「なんか嫌そうな顔してるけど」
「ん、ああ、いや……」
「懸念事項があんなら言ってよ、俺よりカゲツさんの方が詳しいんだからさ」
はぐらかそうとしているのはわかるが、明らかに表情が変われば心配になる。追及するとカゲツは言うか言うまいか悩んだ末、言うことを選んだらしい。苦々しいと表情に出しながら彼女は地図を指でなぞる。
「順番としては、トウキが考えたものが順当ではあるんだが……私が一人だけだった場合、シンシンの村、ワタラズの村、ドンテンの村の順に行く」
「理由は?」
カゲツが言っている順になると一番遠回りをすることになる。また一人だけだった場合と銘打っているのは、ドンテンの村に向かって連絡をするのが遅くなるため今回は適さないからだろう。採用しない可能性はあるが、参考情報としてその理由を尋ねた。
「まず、ライリュウの湖でウパーを仲間にする必要があるんだが、今回は恐らく全部で九匹必要になる」
「多くない?」
「いや、一つの村に三匹となると少ないくらいだ。ただそれが村で養え、かつ群れから連れ出せる上限だと見積もっている」
オウセの村でウパーと共存出来ているのは適した環境を整え、食料を用意し、コミュニケーションを取り合っているからだ。つまりその村に住む人がウパーの面倒を見られない限り、一緒に住むことは不可能だ。元々野生であることを考えると、数が多ければ多いだけ苦労するに違いない。
納得できる理由にトウキが頷いていると、未だカゲツの表情が強張っていることに気づく。無言で指し指摘すると、カゲツは溜め息を吐いた。
「いや……本当に、シンシンの村が嫌で嫌で仕方ないんだ」
「だいぶ言うじゃん」
「出来るなら二度と近寄りたくなかった」
「さらに程度が上がってる……」
カゲツがそこまで言う村とは。結構な拒否反応を示しているが、行くしかないのであきらめてほしい。ただそんなに嫌がる村になぜ最初に向かおうとしているのだろう。
「ほら。他に行くところがあれば引き止められないだろう」
「なにそのご近所付き合いみたいな考え方」
他に行くべきところがある、それはオウセの村の長の指示だ。そう言えば長くは引き止められないと見込んでいるらしい。よっぽど嫌がっていることがわかる。
「そんなに嫌なんだ」
「シンシンの村は厄介なんだ。私はあの村だけは住みたくない」
住みたくないと思うような厄介さか。環境の問題かと思ったが、それにしてはなんだか違和感がある。実際シンシンの村に向かうためには彼女が危険だと言っていたミバリ海岸を通る必要があるのだが……それが理由だとは思えなかった。
「シンシンの村って、何がある村なの」
「信仰心が」
問うとすぐに返ってくるが、あまり明るい声ではなかった。
タソガシマの信仰というと、これまでに聞いた土着信仰――カミナリ信仰――が浮かぶ。タソガシマ全体で信仰されているものだと思っていたのだが、なにが問題なのだろう。彼女の顔を見ると、やはり追及する前に首を振られた。
「詳細は伏せる。実際に見て理解してもらうべきだ」
「はぁ……まあ、わかったよ」
何故シンシンの村がそんなにも嫌なのかは不明のままだが行けばわかることだろう。あまりいい予感はしないが、彼女がそれほど言うのであれば先に済ませた方が良いんじゃないか。
「あんたが言う順に行こう。その方がいいんでしょ」
トウキが言うとカゲツは少しばかり安心したような顔をした。だがすぐに首を振り「いや」とトウキの同意を跳ね除けようとする。散々嫌がっていたくせに意志が強い人だ。
「最初にドンテンの村に言って連絡をするべきだろう」
確かに正論だ。最初に連絡をしておけば、運が良ければ村を巡った後に何らかの情報が得られるかもしれない。
「や、そんな慌てなくていいって」
だが、それくらいの時間じゃ得られない可能性もある。
確かにトウキは早く帰りたい。泣き言を言うくらいには既に家が恋しくて、家族が懐かしい。でも、トウキは最初に提示された自分の肉体の保証、もといパートナーを得た。もうただの保護が必要な人間じゃない。
「迷子なのは間違いないけど……同時に正式にカゲツさんの助手になったんだよ。優先してくれるのは助かるけどさ、あんたが困らないほうがいい」
トウキはこれまでカゲツに助けられ続けている。こんなことは恩返しにならないし含めないで欲しいけど、それでも互いに尊重していたいと確かに思っているのだ。一方的に配慮して気を使ってなんて、窮屈で苦痛で仕方ない。
「一月くらいは誤差だよ、誤差。どうせ年単位でかかるんでしょ」
「誤差、になるのか……?」
うーん、とカゲツは苦笑いして。それから少し悩んでから受け入れた。
「すまない、正直に言うと助かる。では、最初の目的地はシンシンの村にさせてくれ」
「了解」
ではまずはライリュウの湖に行ってウパーを仲間に、と思ったのだが。カゲツは否定した。
「いや、ライリュウの湖には行かない。あの村にはウパーを捕まえずに向かうべきだ」
「なんでぇ……?」
ウパーを届けに行くのではなかったのか。届け物無しに何故向かうのか。色々と思いながらカゲツを見ると、彼女は目を逸らしながら話す。
「シンシンの村は、その。本当に色々おかしいというか、相容れないというか……。とにかく、あの村の中でポケモンを出すのは止めるべきだ。
だからきみのミミッキュにも一度潜んでもらう必要がある。何かの跡地に封印石の予備があるからそれを取りに行こう。その後にシンシンの村へ向かう」
「あんたが言うなら従うけどさ……」
どうも釈然としない感覚を覚えてしまう。納得しきれないが、何とか呑み込むしかない。
ともかく、ミミッキュを匿う為の道具が必要なのは事実だ。何かの跡地に向かいそのための道具を回収するそうだが、トウキはまだ封印石がどういったものなのか把握できていない。
「封印石ってのが、ミミッキュ用のモンスターボールみたいなもんになるんだっけか」
タソガシマでは一般的なモンスターボールは故障してしまうため使用できない。陶器で作られたボールもあったはずだが、なぜそれを使っていないのだろうか。
「ゴーストタイプは他のポケモンよりも扱いが悪い。陶器のボールは希少で数を管理されているから、申告できない中身を持っていたら村八分になりかねないぞ」
「村八分」
日本でも聞いたことがある単語だ。村ぐるみで行われる集団いじめで、火事が起きた時か葬式の時にしか助けてもらえなくなるというものだ。ただでさえ危険が多いタソガシマで村八分となると、かなり生きにくくなるだろう。
「だから私はドンテンの村に住むようになったんだが」
「え?」
「話が逸れたな」
逸れた話題が気になるところだが、いま彼女に話すつもりがないのなら仕方がない。それに本題の封印石のことも重要なのだから。
「封印石はゴーストタイプを封じ込める石だ。わかりやすいポケモンと言えば、別の地方に居るミカルゲというポケモンなんだが……知らないよな」
「うん」
おそらくゴーストタイプなのだろうがトウキは全く知らない。少なくともガラルには居ないポケモンだ。
「ゴーストは他のポケモンと違い血は巡らず、三大欲求も無く、生存に必要なものは他者の魂だ。彼らはポケモンという枠の中には居るが、生き物と言う枠の中から外れている」
人の生まれ変わりだと噂されるように彼らは生き物とは定義されていない。食事も睡眠も出来るが真似事であり、必須ではないのだという。
「そんな彼らは肉体らしい肉体が無く、縛られることがない。モンスターボールが出来るよりも遥か昔から生死は存在し、ゴーストタイプのポケモンは生まれ、人にポケモンに生者に害を成してきた。
その対策のために試行錯誤した末、ある石にゴーストタイプのポケモンを封じ込めることに成功した。それが封印石だ」
日本で言うお札みたいなものだろうか。なんとか噛み砕き、トウキにも起こりは理解できた。
「どういう原理なの」
「封印石に含まれる特定の成分がゴーストタイプの拘束と結びつけに作用し、一度封印石に取り込んだら破壊されるまではゴーストタイプのポケモンの魂を石に縛り付けることが出来る。ふわっとした説明でこうだが、詳細をすべて語ろうか?」
「ご遠慮します」
ふわっとした説明で十分だ。それ以上詳細に話されても全く理解できないだろう。
「ちなみに専門職の人間であればただの石に
「ああ、そう……」
どう反応したものか分からず何とも言えない応答をしたが、カゲツは特に気にせずに「さて」と話を変えた。
「最初に説明した方の封印石は、自宅と跡地それぞれに保管をしてある。
持ってきておけば良かったんだが……ゴーストタイプのポケモンと結び付いていない石は脆いから、あまり持ち運びたくなくてな……」
ウパーを仲間にする予定でオウセの村まで向かったのに、まさかミミッキュを仲間にすることなど予測出来ないだろう。念には念をというが、流石にこれを予期していたなら未来余地の域だ。
「まあ、仕方ないでしょ。突然ミミッキュが割って入って来たんだしさ」
今も呑気にトウキの上でミキュキュと鳴いているポケモンは、自分のしたことに反省も後悔もしていなそうだ。いつ説教しようかと考えていると、やけにカゲツが静かなことに気がついた。視線を向けると、なぜか彼女はえらく不自然に眼を逸らしている。
「カゲツさん?」
呼んでも無言でそっぽを向いたままだ。まるでやましいことがあると表現しているかのようである。
変な話をしただろうか。突然ミミッキュが割って入ってきて、想定外になったという話をしただけの筈だが。
「……想定していた?」
試しに一つ聞くと、彼女が少しだけこちらを見る。気まずそうに眼を泳がせて時折こちらを見るのだが、いったいこれは何の時間なのだろう。クイズでもしたいのだろうか。
話を切り上げる素振りが無いため何となく考えて、思い出していると。そう言えば判明していないことがあったと気がついた。
「そういや、ハショウの森でなんかついてきてるって話してたっけ」
もはや当てずっぽうだった、のだが。まるで正解だと示すように彼女の体が大きく揺れる。本当にこれは何をしているんだろう。
「……もしかしてさ、途中からミミッキュがついてきてた?」
「……うん」
勘で正当を導き出してしまった。というより何故かカゲツが言い当てられることを望んでいたようだが、何が目的なのだろう。そのまま彼女をじっと見つめると、目をうろつかせて、頭を抱えた。
「いや、な。私ときみのどっちが目当てかわからなかったんだよ。害を加えてくる気配もなくただついて来るだけで、放っておいても問題ないだろうと思っていたんだ。本当に見て来ていただけなんだよ。
なんできみ、そんなにミミッキュに惚れこまれているんだ」
「いや知んないけど」
それはトウキ自身がずっと気になっていたことだ。ゴーストタイプだというから魂を狙われているのかと思ったが、其れならウパーを仲間にする直前で割り込む理由がわからない。本当にここまで最初から懐かれているわけも、こんなにぴったり引っ付いてくる理由もわからないのだ。
「……あー……その、ミミッキュ?」
これまで敢えて関わらずにいたカゲツがミミッキュに話しかける。ミミッキュはカゲツを見、すぐさまトウキの腹部を掴み。
ミ゙ミミ゙ィィィ゙ィ゙ィィイイ゙イイ、と死にかけのミンミンゼミを思わせる勢いでカゲツを威嚇した。ミミッキュを抱えたままのトウキの耳は深刻なダメージを受ける。
「あー……駄目だ、本当にきみにしか懐いていないな。ますますわからん」
そう呑気に分析するカゲツを、少しだけ腹立たしく思った。
今後二日に一回くらいのペースで更新します。