……この教室に入ってから少しの間が経った。
煉獄先生はそれではよろしく頼むと言って早々職員室に戻っていき、今一勝は入学式前に会った女子生徒。胡蝶しのぶと同じ教室で立ちすくむことになった。
「……そんな所に立っていないで早く座ったらどうかしら?」
「あ、ああ……」
「飲み物はその辺りのインスタントのスティックを使って自分で入れて頂戴。お湯はポットの中、コップはその辺りにころがっているから使ってください」
「ああ。……このコップは胡蝶のではないのか?」
「私のではありませんよ。煉獄先生が置いていったものです。一切私は口をつけていないのでお好きに使って下さい。あと、私は先輩なので呼び捨てはやめてください」
しのぶはそう早口にまくしたて、表情は笑みを保ちにこにこと笑っている。
表情だけを見れば彼女は一勝を歓迎しているように見える。
しかし、一勝からみるとどう見ても目の前の少女はどこか無理をしているようにしか見えなかった。
だが、それを指摘する気にもならず一勝は適当な椅子を選び腰掛ける。
「……」
「……」
しのぶはその様子をただ見ているだけだった。
「あの、えっと、胡蝶先輩」
「はい、何でしょう?」
「どうしてそんなに踏ん張っているんですか?」
「え?」
「それも、俺が動くたび……いや、煉獄先生が扉を開けた時も踏ん張っていましたが……どうしてそんなに体が飛びそうなのを止めるような仕草をいちいちするんですか?」
訳が分からない。というように首を傾げる一勝。
最初しのぶのその動作を見た時、彼は驚いたのだろうと思っていたが、どうにも違うような気がして我慢ならずそう尋ねた。
何故なら、椅子を持ち上げた時やすわる時、もっと言えば自身が身動きをするたびに彼女はそんな仕草を見せるのだ。
まるで本当に体が飛ばないように踏ん張り続けているような感じ。
「まるで、体に重さがなくて些細な事で飛ばされてしまうかのように見受けられましたが……」
「ええ、そうなんです。実は体の体重が全然なくて軽い風が吹いただけで飛ばされるような体になっているんです。だからここ数日ずっと学校に寝泊まりしているのです」
何でもない冗談ようにそう言った彼女はそう言った。普通なら信じられない言葉。
しかし、入学式前日にとある経験をしている彼、一勝からすればその言葉は十分に信じられる言葉だった。
「成程、納得しました。だから何時もそうやって力んで生活しているんですね。窓を開けないのは風で飛ばされるから、人が少ない場所にいるのはその事を知られるわけにはいかないから、いちいち俺が動作すれば力むのは力まないとぼろが出るから……成程理解しました」
「……信じるのですね。私は面白いジョークを飛ばしたつもりですが……ほら、笑いどころですよ」
「俺、そう言うのに詳しい人知ってますけど……どうします?」
「……」
「判断は胡蝶先輩に任せます。見ず知らずの俺が言っても怪しいだけですから。ただ、サポートはさせてもらいます。理由が理由ですから」
「あらあら、そうなると夜にこの教室で二人きり、それも授業があってもここに缶詰になりますがよろしいのですか?」
「構いませんよ。そんな体の人を一人にさせておく方が心配です」
「……なら、その詳しい人をここに呼んでもらっても構いませんか? 私は外に出たくありませんから」
「構いませんよ。胡蝶先輩」
下手すぎる……ような何というか……