NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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そんなのありえへん

 ゆん視点

 

 「どうした? 飯島、おごりだ。遠慮なんてするな」

 

 「・・・・・・」

 

 私は今、職場の同じチームで古株の先輩、敦さんとなぜか高そうな雰囲気の中華料理のお店におる。私の実家の近くにはこういう雰囲気のお店がなかったのもあって、居心地が悪い。テーブルに置かれてる料理も手を付けてええんかもわからん。

 

 「おっちゃん! ほんとに食べてええん?」

 

 「おう、食べ放題だから好きなだけ食え」

 

 「「わーい!」」

 

 連れてきた妹のみうと弟のれんも、すっかり敦さんに懐いとるし。

 ・・・・・・なんでや、なんでこないなことになったんや。

 

 思えば二時間ほど前、けんかして泣いているみうとれんをあやすために遊びに連れ出したときやった。

 

 ●

 

 「こら二人とも、あんまり遠くいかんといてや~」

 

 「「はーい」」

 

 遊びに行こうゆうてようやく泣き止んだ二人は、デパートの仲をはしゃぎ回っとる。

 それにしても、勘弁してほしいわ。

 ここ最近忙しぃなってきたし、何よりもうすぐ検診があるからダイエットしとるけん食事も控えとるワケやし。

 

 「……っ」

 

 今朝も朝食は抜いとったけんか、丁度夏の日差しが強うなってきたけんか、めまいがした。視界が揺れて、頭の中ぁクラクラするわ。

 やっとめまいが収まったと思うたら、みうとれんがどこにもおらん。

 しもた──

 

 うちは周りを見回すけど、どこにも見当たらん。辺りは休日やからか人がいっぱいおって、背の低い二人は隠れてもうとる。どこにおるんや。

 

 「みう! れん! どこや!」

 

 うちは人混みの中を走り出すけど、元々体力はないし、めまいのせいかすぐ息が上がってまう。

 

 「はぁ……はぁ……あかん、息が……」

 

 頭もよう働かん。

 どうすればええかもわからん。このまま二人に何かあったら──

 

 「──うおっ!? なんだこのガキども! やめろぉ!!」

 

 どこからか、聞いたことのある声が聞こえた。

 男の人の声や。でも知り合いに男の人なんておとん以外にだれがおるんやろ?

 声がしたほうへ向いてみると、人ごみに紛れて、小さな子供二人が男の人の頭に捕まって髪をおもちゃのように引っ張って遊んどるのが見える。

 

 「怪人やー!」

 

 「お化けやー!」

 

 「痛い! 髪引っ張るな! 痛い! 痛い痛い!!」

 

 あ……この人知っとる。敦さんや。

 青葉ちゃんが入社したときと同じタイミングにキャラ班に映ってきた先輩、宮本敦さんや。

 うちは正直この人あまり好きやない。だらしないし、ヤニ臭いし、顔は……まあ目のクマが無ければイケメンゆうよりハンサムってほうなんやけど。目のクマのせいでお化けに見える。

 ってよう見たら、敦さんの髪の毛引っ張っとんみうとれんやんか!

 

 「……なんであんなところおるんや」

 

 見失った二人を見つけれたので安心するけど、そんなことしとる場合ちゃう。

 えっと、とりあえず敦さんを二人から助けへんと。

 

 うちは人混みの中を掻き分けて、なんとか二人がおる場所までくる。敦さんがもがいとるところが見えたから見失わずにすんだ。そしてできる限り大きな声で声をかける。

 

 「みう! れん! 何しよん!」

 

 「あ、ねーちゃん!」

 

 「怪人やっつけとったー!」

 

 「だから怪人じゃねぇって……」

 

 みうとれんはやっと敦さんの頭から降りてうちのところに戻ってくる。二人を降ろすために腰を下ろしてた敦さんはよろめきながら立ち上がる。

 

 「……って、飯島じゃねぇか。何やってんだよ」

 

 「敦さんこそ、何やっとんですか」

 

 「買い物だよ。タバコの税金上がるからな」

 

 敦さんは足元にあるレジ袋を持ち上げてうちに見えるように掲げとる。中には大量のタバコと日用品が詰まっとる。

 

 「てかソイツら、お前のガキか?」

 

 「……妹と弟です」

 

 なんとか二人を見つけることができて安堵のため息をつく。えらい心配したわ。

 

 「……!」

 

 また視界が揺らぐ。

 目は開いてるはずなのに、目に映る背景が砂嵐に見える。

 足がふらついてその場に倒れそうになる。すると、身体が大きな壁にぶつかって倒れることはなかった。

 ふと鼻にヤニの臭いが通るのを感じた。

 もしかして敦さん?

 

 「おい、大丈夫か?」

 

 「!?……」

 

 え? どゆことや?

 今うち、敦さんによりかかっとるんか?

 あかん、前がよう見えへんし考えもおぼつかん。

 

 「とりあえずあっちに座れ」

 

 うちは敦さんにされるがまま、近くのベンチに座らされる。しばらくすると落ち着いて、視界もはっきりしてくる。

 すると、みうもれんも心配そうな顔で寄り添ってくる。

 

 「ねーちゃん大丈夫?」

 

 「……大丈夫やよ」

 

 二人も心配させとうないけん、できる限り気を張りつめて笑顔を作る。ホントは少しキツいけど。

 あぁどうしよ。明日、仕事やのに。

 

 「……飯島、お前朝飯食ってきたか?」

 

 「……」

 

 うちは答えんかったけど、敦さんには多分気づかれたと思う。

 この人、だらしないクセに勘だけは鋭いもんなぁ。

 

 「ったく、ちょっと待ってろ」

 

 そう言うと、敦さんはポケットからスマホ取り出して、耳にあてがう。誰かに電話する気なんやろか。

 病院?

 病院に行くほどやないのに。

 

 「……おう、俺だ。予約の件なんだが、あれ3人くらい増えてもいいか?」

 

 「?」

 

 敦さんはうちらを一度見ると、もう一度通話に戻る。予約ってなんや?

 

 「……そうか、サンキュー」

 

 通話の相手との交渉にうまく行ったのか、どこか安心しとる様子で電話を切った。

 

 「立てるか?」

 

 「……なんとか」

 

 「……ちょっと待ってろ。タクシー捕まえてくる」

 

 ●

 

 敦さんが一度その場を離れてから戻ってきて、みうとれんも連れてタクシーに乗せられて連れてこられた場所がこの中華料理のお店やった。

 

 「とにかく食え。ロクに食ってないんだろ?」

 

 「……いただきます」

 

 ここままやと埒があかん。

 うちは目の前に置かれたスープをレンゲで掬って口に入れる。これ、変なもん入っとらんよな?

 

 「……!」

 

 おいしい。

 高そうな雰囲気のお店やからか、少なくともそこらのお店のとはちゃうのはすぐにわかった。

 

 「「おいしー!」」

 

 「そうか、それならよかったよ」

 

 敦さんはよほどこのお店で顔が知れとるのか、メニューにはないような子供用の料理も、みうとれんに合わせて頼んでくれた。せやけど、そこまでしてくれることに違和感を覚える。

 なんや、なんなんやこの人は。まるで親切な親戚のおっちゃんみたいやんか!

 この人、うちに嫌われてるのわかっとるやろ。なのになんでこんな高そうなお店連れてくるんや!

 

 「飯島、医食同源って言葉知ってるか?」

 

 「?」

 

 「中国医学の基礎を日本風にアレンジした概念だ。健康な身体は、まずは日頃から食べるものに気を付けなくちゃいけない」

 

 「どうゆうことですか?」

 

 いきなりようわからん講釈たれてきた敦さんに、うちは顔をしかめる。

 

 「ダイエットをするなとは言わないが、まずはちゃんと自分の身体の管理をするところから始めろ」

 

 「……敦さんには、関係あらへんやん」

 

 「あるよ。少なくとも、同じチームなんだ。ヘタに身体を酷使して倒れたら困る」

 

 「敦さんには、女の子の気持ちなんかわからへんよ!」

 

 まるで見透かされてる感じがして、うちはついキツい言い方で答えてしもうた。みうとれんも驚いてしもうたことに気づいて、少し縮こまってまう。

 うちは、実家におったときはそれはもうダサい格好でおったから、そう言うのが嫌で家族みんなで東京に来た。流行りのものとかも必死で覚えた。

 もう昔みたいな自分に戻りとうなかったから。

 

 「……っ」

 

 「……あのな飯島」

 

 せやけど、敦さんは眉一つ動かすことなかった。

 

 「そういうのか空回りってくらいわかるだろ?」

 

 「それは……」

 

 「自分を変えようとする努力は必要だ。その姿勢は買う。だけどな飯島、それはかつての自分を全部否定するのとは違うよ──いや、そういう生き方もあるんだろうけどな」

 

 敦さんは言った。

 

 「それは辛いだろう」

 

 「……」

 

 何も言えなくなる。

 この人は真っ向から否定しとるわけちゃう。ただ単に無理するなと言っとるだけ。

 ほんまイヤや。

 こない親切にしてくるくらいなら、もっと嫌なことをしてほしい。

 まるで、うちが嫌ってる方が間違うとるみたいや。

 

 「ここある飯はみんな滋養や貧血、美容にもいいらしい。あと、腹八分目は医食同源の基本だ。食い過ぎるなよ。でもガキどもは腹一杯食え」

 

 「「はーいっ」」

 

 敦さんは自分の分の料理を食べ終わって、席を立つとお店の店員に何か話してから、店を出ようとする。その前に一度うちの方に振り返った。

 

 「それと、今日は早めに寝ろよ。寝る前に軽くストレッチするのも忘れるな。あと夕食は抜いても良いけど朝飯はちゃんと食え。そんじゃあな」

 

 そのまま、敦さんはお店を出て行った。

 なんやねんあの人。散々言いたいこと言って帰りよった。

 

 そのまま、みうとれんと一緒に食事を終えて家に帰った。お金は敦さんがもう払ったみたいで、うちらはすんなりお店を出れた。

 

 夕食のあと、みうとれんをお風呂に入れてあげてから寝かす。

 洗濯や夕食の片づけは、お母さんがやってくれた。さすがに体調が悪そうなのを気づかれてもうたようやった。

 そんで今、自分の寝室で寝る支度をしとる。

 

 「……」

 

 今日は疲れたからか、やたら眠かった。はよ寝ようとすると、ふと敦さんに言われたことを思い出してまう。

 ほんまに寝る前にストレッチするだけでなにか変わるんやろか。

 ただ、このまま何もせず明日、また敦さんに嫌みなこと言われるのも癪やったから、うちが知っとるようなストレッチだけでもすることにする。

 

 「痛たた……」

 

 うち身体固いなぁ。

 運動なんてロクにせぇへんから仕方ないんやけど。

 

 一通りのストレッチをしたあと、布団に潜り込む。

 瞼を閉じれば、強かったり眠気が一層強うなるのを感じる。

 うちはそのまま、溺れるように眠りに落ちた。

 

 あぁ……今日は、ほんまに……つか……れ……た。

 

 ●

 

 目が覚めた。

 あかん。ほんまに熟睡しょった。今日朝ご飯うちが作らんといけんのに。下手したら遅刻するかもしれへん。

 慌てて布団から飛び起きて目覚まし時計を確認すると──

 

 「あれ?」

 

 時計の針は6時を指していた。普段目覚ましを設定してる時間よりも早い。

 普段この時間はみうもれんも起きてない。

 今から朝ご飯作っても、会社にはそこまで急ぐ必要もない。

 あと、やたら身体が軽い。寝起きなのに頭がスーッとしとる。とても昨日あんなにふらついとったとは思えんほど。

 

 「……朝ご飯作らへんと」

 

 みうとれんを起こして朝ご飯を食べさせる。

 朝ご飯を作るんも、やたらスムーズにできた。

 昨日食べた中華料理のせい?

 それとも寝る前にちょっとストレッチしたせい?

 ワケがわからないまま、二人が食事しとるのを見ながら、うちも朝ご飯を食べる。普段よりも食欲が湧いて自然と箸が進む。

 いつもなら朝ご飯はあんまり食欲湧かへんのに。

 

 「いってきます」

 

 「「いってらっしゃ~い!」」

 

 みうとれんに見送られて会社に向かう。と言っても、これから電車に乗っても早く着きすぎる。

 そこでふと、はじめちゃんが青葉ちゃんと話してたことを思い出す。

 ちょっと歩いてみよっか。

 

 うちはいつも乗ってる駅よりも一つ先の駅まで歩いていった。運動はそこまで得意やないし体力もない。

 せやけど、それくらいの距離を歩くくらいなら苦にならんかった。

 

 「あ、ゆん先輩、おはようございます」

 

 電車に乗ると、青葉ちゃんも同じ電車乗っとって、同じ席に座った。

 青葉ちゃん早いなぁ。若いってスゴいわ。なんかハツラツとしとる。

 

 「あれ? ゆん先輩、今日はいつもより顔色いいですね」

 

 「そ、そう?」

 

 「はい。最近、体調よくなさそうでしたし」

 

 うぅ……。まさか青葉ちゃんにもバレとったなんて。最近太りはじめてることはまだバレとらんけとこれは恥ずかしいわ。

 

 「別に、なんもしとらんよ。昨日はお休みやし、ゆっくり休んだだけや」

 

 敦さんにお昼ご飯をおごってもらった。なんてことはとても言えるわけあらへん。

 

 電車を降りて、青葉ちゃんと一緒に駅を出る。会社までは徒歩で行く。

 駅から会社までの距離は、うちが遅刻しそうになって必死で走ったとしても一分足らん距離。

 前は青葉ちゃんと一緒に走っとったなぁ。

 せやけど今日はその心配はあらへん。

 もしかして、これも敦さんの思惑通りなんか?

 

 「ゆん先輩、考え事ですか? ずっと上の空ですけど」

 

 「え!? そ、そないなことあらへんよ! 青葉ちゃんの気のせいやっ」

 

 うちは笑って誤魔化す。そして青葉ちゃんに怪しまれないように早足で会社に向かう。

 なんやろ、敦さんの事考えると変な気分になる。

 ……ちょっと待って、まさかうち、敦さんのこと……。

 いや、そんなんあり得へん!

 冷静に考えてみぃ! あんなだらしなくてヤニ臭い人になんの魅力があるんや!

 そうや! そうに決まっとる。

 たまたま休みの日に会って、少し体調を気遣われただけでそんなのあるわけない!

 

 「おはようございます」

 

 自分に言い聞かせながら会社の中に入る。キャラ班のブースにはまだはじめちゃんもひふみ先輩も来とらん。ただ──

 

 「おう、飯島か。どうした? 随分と顔色がいいな。何か良いことでもあったのか?」

 

 「……!」

 

 キャラ班のブースには、敦さんがいた。

 何か悪戯でも企んどるような笑みでこちらを向いてくる。

 うちはなぜか言葉を無くす。あと急に体温が上がるのを感じる。

 ちゃう! コレはちゃう!

 これは空調が利いてないのと、長袖で来たからや。

 そうや! そのはずや!

 

 うちがこないな人、気になるハズがないんやーー!!




敦さん:(嫌われてんなー俺)
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