NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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恐怖! イーグルジャンプの負の連鎖

 青葉視点

 

 「お前は毎回毎回、同じ事で説教させんなよっ! 会社で服を脱ぐな!」

 

 今日も出社したら、佐藤さんは怒っていました。

 八神さんに。

 

 「服じゃなくてスカートだけじゃん!」

 

 「だからそれを言ってるんだよ」

 

 「泊まってるの私と敦さんぐらいだし」

 

 「残念だがな、朝とか皆気にしてるから遅れてくるんだよ」

 

 私もさっき来たばかりで状況がよくわからないのですが、多分佐藤さん、八神さんがスカート脱いで寝てるところに遭遇したみたいです。

 ラッキーすけべというものなのだろうけど、佐藤さんからしたら嬉しくないんだろうな。

 

 「会社を私物化すんな。働いてるのはお前だけじゃねぇんだぞ」

 

 佐藤さんは全くその通りと思う正論をぶつけてきます。

 私も八神さんのあの癖、少しは直しほしいです。

 でもこのままケンカが続けるわけにもいきません。他のみんなも出社してくるのに。

 

 「おはよー青葉ちゃん。あれ? どうしたの?」

 

 「あ、りんさん」 

 

 振り返ると、りんさんがやってきてくれたのがわかってん安心した。

 よかった。りんさんならなんとかしてくれそう。

 

 「えっと、八神さんと佐藤さんがケンカしてるみたいで」

 

 「えっ!? またぁ!?」

 

 「いつもやってるんですか?」

 

 「入社してからずっとよ。もう二人とも仲がいいのか悪いのか……」

 

 ため息を吐くりんさんを見て私は思う。多分このケンカの根本的な根元はりんさんにあると。

 佐藤さんには余計なこと言うなと口止めされてるので言えないんですけど。

 

 「ごめんね、青葉ちゃん。私、ちょっといってくるわ」

 

 「あ、はい」

 

 そういうとりんさんは八神さんと佐藤さんの所へ向かっていく。

 これでこのケンカが大事にならずに済みそう。

 

 「2人とも、どうしたのよ。またケンカしたりして!」

 

 「あ! ねぇりん聞いてよ! 佐藤にパンツ見られたー!」

 

 「それはコウちゃんがスカート脱いで寝るからでしょ!」

 

 りんさんは八神さんを叱っている。当然といえば当然なんですよね。

 あくまでみんなが行き来するスペースでスカート脱いで寝てた八神さんが悪いんですし。

 

 「りんまで佐藤の味方するのー!? 私被害者じゃん!」

 

 「どっちがだよ」

 

 佐藤さんもため息をつく。

 やっぱりグラフィックチームは女の人が多いから、敦さんや佐藤さんは肩身が狭いのだろう。

 そもそも、なんでここは女の人が多いんだろう。

 

 「佐藤君。コウちゃんには私がちゃんと言っておくから、佐藤君は仕事に行って」

 

 「……遠山。お前なぁ、穏便に済ますにしても、前に八神のパンツ見た敦さんは半殺しにして、俺はいいのかよ」

 

 えぇ!? 敦さん、りんさんになんてことされたんですか!?

 言われてみれば、敦さんも八神さんがスカート脱いで泊まってるの知ってたし、七年間も同じ会社にいたら、多分そうなるのかな?

 

 「それは……佐藤君は信用できるから……」

 

 「……」

 

 りんさん! それ地雷です!

 佐藤さんも嬉しいのか悲しいのかよくわからない複雑な顔になっています。

 信用されてるのに、なんて悲しいんだろう。

 

 「……チッ、次は気をつけろよ」

 

 りんさんに根負けした佐藤さんは罰が悪くなって自分の持ち場のあるところ、すなわち、私が覗いてるところに向かって歩いていく。

 えっ、こっち?

 

 「「あ……」」

 

 佐藤さんと目があった。

 私はハッとする。このままじゃ誤解させる!

 

 「あの……コレは盗み見してはわけじゃなくて……」

 

 「なぁ涼風」

 

 佐藤さんは片手を私の頭の上に置いた。

 

 「へ……?」

 

 それからしばらくして、キャラ班のところに敦さんが出社してきた。そして私を見て声をあげる。

 あぁ、恥ずかしい……。

 

 「うわっ! どうした涼風、髪がパイナップルみたいになってるぞ!?」

 

 「敦さん……佐藤さんにやられました」

 

 「お前、佐藤になにやったんだよ」

 

 佐藤さんに髪の毛を弄られた。最近、佐藤さんがりんさんのことを好きだという事を聞いたときからずっとだ。

 八神さんとりんさんが仲良くしてるところを見ると、私に八つ当たりしてくる。あと何故か最近アルバイトにやってきたねねっちにまで。

 

 それを敦さんに話してみると、どうやら敦さんも佐藤さんがりんさんのことを好きな事は知っていた。

 

 「なるほど、前々から思ってはいたが、遠山が甲斐甲斐しく八神に世話を焼いて、遠山の気持ちが八神に向いていることを思わせる度、佐藤はそこら辺にいる涼風や桜に八つ当たりしてると」

 

 「はい……」

 

 「世の中、循環してるな」

 

 「とてつもない悪循環ですよね!?」

 

 最初は佐藤さんの力になってあげたいとは思ってたけど、そのせいで変に目を付けられたような気がする。

 ていうか、りんさんもりんさんだけど、七年間もヘタレてる佐藤さんも悪いと思います。

 ていうか、そのしわ寄せが私に来てるんですよね!?

 あとそこら辺ってどういうことですか!?

 

 「あ、青葉ちゃん、宮本さん、少しいいですか──って、青葉ちゃんどうしたのその髪!?」

 

 「りんさ~ん」

 

 私と敦さんはりんさんに私の髪の毛について話した。後、さっきの八神さんと佐藤さんのケンカについても。

 話を聞いたりんさんは眉毛を八の字にする。

 

 「そう、佐藤君が……どうしてかしら?」

 

 主にりんさんが原因だったりするんですよね。

 りんさんに髪の毛を元に戻してもらっている私も、少し言葉に迷う。

 

 「佐藤君、背景班の子たちの仕事、肩代わりしてるところあるし、土日もよく来てくれるから、すごく助かってるんだけど……」

 

 りんさんって、ちゃんと私たちのこと見てくれるけど変なところで鈍いって言うか、八神さんしか見てないっていう雰囲気がある。

 私は無駄に事情を知ってるのもあるし。しかも話せないから余計に状況が拗れてるわけで。

 

 「でも、私がコウちゃんと話してたり、一緒にいたりするとなんか嫌そう……!?」

 

 りんさんは何かに気づく。私の髪を元に戻してからどこかへ向かおうとする。

 

 「りんさん?」

 

 「ごめん青葉ちゃん、私ちょっと行ってくる」

 

 「ちょっとりんさん!?」

 

 「なんか面白そうなことになってきたな」

 

 「敦さん、なんでそんなに楽しそうなんですか……?」

 

 「とりあえず見に行くぞ」

 

 敦さんと一緒にりんさんを追ってみると、りんさんは佐藤さんのデスクにいた。

 そこには当然佐藤さんが作業をしていて、タブレットの上をペンを走らせている。

 

 「佐藤君っ!」

 

 「どうした?」

 

 「あの、こんなこと聞いて、間違ってたら凄く恥ずかしいんだけど……」

 

 「何?」

 

 佐藤さんはペンを止めてりんさんの方を向くけど、りんさんはなぜかすごく慌ててる。

 もしかして、りんさん、佐藤さんが自分のことを好きだって事に気づいたの?!

 

 「佐藤君、もしかしてコウちゃんのことが好きなの!?」

 

 「「「……」」」

 

 りんさんの言葉に、私も敦さんも佐藤さんも凍りついた。

 は、話が変な方向に!

 

 「もしそうなら……私、私……!」

 

 りんさんの目が明らかにおかしい。というか、今手にもってるそれ!

 前にはじめ先輩が見せてくれた鉄の剣ですよね!?

 ま、まさかそれで佐藤さんを?

 さっき佐藤さんが言ってたけど敦さんみたいに半殺しにはしちゃダメー!

 敦さんも目のハイライトが消えてるし!

 

 「……遠山お前、馬鹿だろ……!」

 

 「っ……えっと、割と……」

 

 体をはって止めようか迷う中、佐藤さんは顔に手を当て、その隙間からりんさんを睨み付ける。あまりの剣幕に押し返されたのか、先ほどまでの凄まじい殺意は完全に殺されてしまった。

 

 「はぁ……頭痛てぇ。ちょっとタバコ吸ってくる」

 

 佐藤さんは席を外してオフィスを後にした。残されたりんさんは、佐藤さんに睨まれたのがそんなに怖かったのかその場でひざを突く。

 

 「あ……青葉ちゃん、宮本さんも」

 

 「りんさん、大丈夫ですか?」

 

 「う……うん。でも佐藤君、怖かった」

 

 「はい、ホントに佐藤さんは良い人です」

 

 「あぁ、佐藤は多分このチームで一番良い奴だよ」

 

 「えっ……え……?」

 

 ●

 

 「今日の佐藤君、私がコウちゃんのことすきなのって聞いてから、なんか怖い」

 

 昼休みに入ってからもずっと、りんさんはさっきのことを引きずってるみたいだった。

 そんなわけで、私と敦さんを屋上に呼んで3人で相談したいと頼まれることになった。

 こんなことは、一番仲のいい八神さんには話せないので私と敦さんを呼んだみたい。

 

 「あのな、遠山。佐藤のヤツも一応好きな人がいるんだよ。八神じゃなくてさ」

 

 「そうなんですか!? なら本当に失礼なことしちゃったのね」

 

 りんさん、それを反省するくらいなら早く佐藤さんの事気づいてあげてください。

 

 「それで、佐藤君の好きな人って?」

 

 お前だよ。

 と、言いたげな目で敦さんはりんさんを見ている。りんさん、ホントに気づいてないんだなぁ。

 

 「えっとな、とりあえずヒント。なんで涼風にちょっかい出すのか考えてみな」

 

 敦さん!?

 それ聞き方によったら佐藤さんが好きな人は私ってことになりませんか!?

 

 「……! なるほど……」

 

 そう思ってるうちに、考えていたりんさんは何か閃いたようにみえた。そして一度私を見る。

 やっぱり!?

 

 敦さん。りんさん絶対勘違いしましたよ。だってなんか変に嬉しそうというか、男の子ねーみたいや母親のような表情だし。

 ソレを見た敦さんも、申しわけなさそうな顔をしてる。多分、心の中で佐藤さんに謝ってるのかも知れない。

 

 そのままりんさんは屋上から出て行って、そこで相談は終了。まだ昼休みは残ってると言うこともあって、敦さんはまた見に行こうとしたので私もついて行くことにした。

 きっとこのままじゃまたりんさんが失敗するだけになる。

 

 りんさんを追っていると、カフェテリアでりんさんと佐藤さんの姿を見た。

 佐藤さんは前と同じように自分で作ったお弁当をテーブルに置いて座っている。りんさんはそれに近づいているところだったり

 私と敦さんは前にひふみ先輩と一緒に隠れてた時のように入り口で身を隠す。

 人は結構いたけど、佐藤さんが座ってる席は入り口の近くだったから聞き耳を立てるのに問題はなかった。 

 

 「……あの、佐藤君?」

 

 「なんだよ?」

 

 おずおずと尋ねたりんさんに対して、佐藤さんはあまりキツくない口調で応えた。

 

 「さっきは、コウちゃんが好きなの? とか聞いちゃって、ごめんなさい」

 

 「別にいいよ。怒ってない」

 

 多分、ホントにあまり怒ってなかったのかもしれない。でもどうしよう。このままじゃ確実に怒らせてしまうんじゃ──

 

 「それで、佐藤君は青葉ちゃんのことが好きなのよね?」

 

 バキッ!

 

 「ひぃっ!?」

 

 佐藤さんが右手で持っていた二本の箸が四本になった。あぁ、やっぱりこうなっちゃったか。

 

 「……遠山」

 

 佐藤さんは四本になった箸をテーブルに置いて、両手でりんさんの肩を掴む。

 

 「!?」

 

 「……お前はもう喋るな」

 

 「え……あの──」

 「喋るな」

 

 テーブルに置かれたお弁当と四本の箸を片付けて、ため息をつきながら佐藤さんはカフェテリアを出るためこっちに向かってくる。あれ、このパターンって。

 咄嗟に敦さんの方を向くと、敦さんがいた場所には誰もいなかった。

 

 見捨てられた!?

 

 「「あ……」」

 

 また佐藤さんと目が合う。

 佐藤さんは無言で私の頭を掴んだ。

 

 ──昼休みが終わって、キャラ班のデスクに座って仕事の準備をしていると敦さんが帰ってきた。

 

 「今度はヤシの木か。佐藤のヤツ器用だな」

 

 「敦さんのバカー!」

 

 誰か止めて、この負の連鎖を!

 

 ●

 

 佐藤視点

 

 最近、胃と頭が痛い。

 ここ最近、遠山が変なことばっか聞いてくるせいだ。お陰でこの一週間めちゃくちゃしんどい。

 まあ、だとしても言えるわけねぇしな。俺が八神に勝てるワケねぇし。

 アイツはこの会社を有名にしたある意味英雄だ。俺のような他の社員に良いように使われてるヤツとは違う。

 

 ──遠山りんは八神コウのことが好き(佐藤弘樹は遠山りんのことが好き)

 

 これはこの会社にいる人間でも、ほんの一部しか知らない事実。

 まぁ、前者の方はどうだか知らんが。

 葉月さんと裏で協定を結んでる花男さんは、葉月さんの部下の女性に手を出すヤツを裏で始末してるらしいが、そんな彼ですら俺を憐れんだ目で見るほどだ。

 会社の何でも屋の敦さんを除いて、俺がこのチームにいるのはおそらくこの二人のせめてもの温情なのだろう。

 

 「ちょっとりん、大丈夫? 顔赤いよ?」

 

 ふと、八神の声が聞こえた。俺のデスクは遠山と八神の近くに配置されてるせいで二人の声がよく聞こえる。

 もしかして、葉月さんと花男さん、嫌がらせで俺をここに置いてるんじゃないのか?

 

 「風邪じゃない? 帰ってた方がいいよ。皆に移したら大変だし」

 

 「大丈夫よ。少しクラクラするだけだし、それにこんなに忙しいのに休めないよ」

 

 「だーめ。余計悪くなったらどうするの?」

 

 ……あぁくそ。コイツ、イケメンすぎるだろ。なんで女に生まれたんだお前は。

 この前遠山に少しキツく当たりすぎたのもあって、気づいてはいたけど声をかけずらかった自分にイライラして、余計に胃と頭が痛くなる。

 あとで涼風の髪を弄ろう。前はパイナップルとヤシの木だったし、季節はずれだがクリスマスツリーにでもしてやろうか。

 髪がサラサラしてるけど、整髪料使えばなんとかなるだろう。

 

 「ねぇ佐藤」

 

 急に八神に声をかけられた。なんだ?

 遠山を連れて帰るんじゃないのか?

 

 「なんだよ?」

 

 振り返ると、八神はとんでもないことを言ってきた。

 

 「ちょっとりんが風邪引いてるみたいなんだ。家まで送って行ってよ」

 

 「はぁ!?」

 

 「ちょっとコウちゃん! 佐藤君は関係な……ぃ」

 

 八神はふらついた遠山を支える。よくここまでできるよお前は。

 

 「ほら、ふらついてるし。佐藤、アンタ車で出社してたよね。私がついて行けたら一番良いけど、運転できないし、りんを歩かせるワケにも行かないし、りんの家知ってるでしょ?」

 

 「おま──」

 

 俺は思わず断りそうになるが途中で踏みとどまる。

 あぁでも、いつもそうやってるからこんな生かさず殺さずの状況が続いてるのか。見たら本当に具合が悪そうだ。なら──

 俺はパソコンを閉じて席を立つ。

 

 「……いくぞ遠山」

 

 「あの佐藤君、大丈夫よ。仕事してていいから」

 

 「風邪なんだろ。どうせお前、家でも仕事する気だろ」

 

 「……」

 

 八神に手渡された遠山の手を握る。

 コイツほどじゃないにしても、俺だってお前を見てきたんだ。

 それくらい、わかる。

 

 ビルの裏の駐車場に止めてある俺の車に遠山を乗せて、俺は遠山の家まで車を走らせる。

 ナビゲートはいらない。

 俺はコイツの家を知っている。

 7年間も共に働いているのだ。残業で終電を逃したときとかにも、体よく足がわりに使われている。

 それでも、彼女といられる口実になるのなら、なんでもいいわけだが。

 遠山の家に着いたら、ひとまず遠山をベッドに寝かせた。

 

 「着替えは、あとでするから」

 

 「そうしてくれると助かる」

 

 流石にそれは男の俺には難しい。

 

 「……ごめんね、佐藤君。仕事中だったのに」

 

 流石に疲れてるのか、遠山は少し弱った目で俺を見る。

 こういうところ、やっぱり女性なんだなとつくづく思う。

 

 「別にいいさ。どうせ敦さんが勝手に徹夜して死にかけるだけだ」

 

 「フフっ、かもね」

 

 「……ちょっと待ってろ、台所と材料借りるぞ」

 

 悪戯めいた笑みを見せた遠山を見て、少し居心地が悪くなったら俺は遠山の部屋を出て台所に向かった。

 

 彼女のキッチンは整理されていて、はじめて使う俺にも使い勝手に困ることはなかった。

 土鍋と米、出汁と卵、鶏肉、生姜などの材料を揃えてから俺は粥を作り始める。

 洗ったまな板に鶏肉を置いて、きれいにした包丁で細かく刻む。

 生姜をすりおろして、水を多めに入れた土鍋に材料を全部入れてひと煮立ちさせてから蒸らす。

 粥なんてこんなもんだ。

 

 「さてと……」

 

 粥の入った土鍋と、小皿とレンゲをお盆に乗せて遠山の部屋に向かう。

 そして、部屋の前まで来ると、お盆を廊下に置いてドアの三回叩く。

 

 「俺だ」

 

 すると、ドアの向こうから声が聞こえた。

 

 「佐藤君!? ちょっと待って! 今着替えてるから」

 

 「──!?」

 

 俺は思いっきり咳き込んだ。

 落ち着け、この前の八神みたいにはならない。だから大丈夫だ。

 

 数分ほど待つと、またドアの向こうから声が聞こえる。

 

 「……もう大丈夫だよ」

 

 「……入るぞ」

 

 俺はドアを開けて、お盆を持って部屋に入った。そこには、パジャマに着替えた遠山がベッドに座っていた。

 いつも整えている髪の少し乱れてて、それが変な色気を出す。見てられない俺はあまり遠山の顔を見ずにベッドの近くにある小さなタンスにお盆を乗せた。

 

 「早いからびっくりしちゃった」

 

 「そうか? 粥なんてこんなもんだぞ?」

 

 「やっぱり料理上手いんだね。ソレと、さっきせき込んでたけど大丈夫?」

 

 「むせただけだ。うつってない」

 

 俺は粥を小皿に移す。こうして置いた方が程よく冷めて食べやすい。

 すると、遠山は目を細めて俺を見てくる。

 

 「ふーん」

 

 「……なんだよ?」

 

 「前にもそんなこと言ってなかった?」

 

 「……そんなことねぇよ」

 

 俺は遠山に小皿を押し付けて部屋を出ようとする。少なくとも台所は使わせてもらったから片づけくらいはしないと。

 そんな言い訳を自分の中でしていると──

 

 「──待って」

 

 呼び止められた。

 何かに後ろから刺されたような感覚になり、思わず足を止めて振り返る。

 振り返って見えた遠山は、どこか心細そそうだった。

 

 「……なんか、一人だと、心細いっていうか……」

 

 「熱で幻覚でも見えてるのか? 俺は八神じゃねぇよ」

 

 「わかってるよっ。でも……この前、佐藤君を怒らせた時のことまだ、ちゃんと謝れてないし」

 

 本人は否定してるが、熱のせいなのか割と素の遠山が出てきてしまってるように見えた。

 

 「別に怒ってないよ」

 

 「……本当?」

 

 「あーホントだ、ホント」

 

 「そっか、よかった」

 

 念を押して言うと、遠山はようやく安心したのか、ため息を出す。

 

 「まあ、俺もキツく言い過ぎちまったのは、悪かったとは思ってるし」

 

 「そっか、青葉ちゃんや宮本さんも言ってたけど佐藤君ってホント良い人だよね」

 

 「……」

 

 何か騒がしいと思ったら、アイツラ、遠山に何か吹き込んでたな。

 涼風には明日クリスマスツリーをプレゼントしてやろう。

 宮本さんにはハリセンでいいか。

 

 「佐藤君? なんか凄く怖い顔になってるよ」

 

 「なんでもないからサッサと食え……いや、ゆっくりでいい」

 

 流石に急かすわけにもいかなくなったので、途中で言い直した。

 

 「わかった。それじゃいただきます」

 

 そういうと、遠山はようやくお粥を口に運び始める。

 風邪で弱ってるのもあるのか、やはり少しゆっくり食べている。

 

 「……おいしいよ、ありがと」

 

 「そりゃどうも」

 

 「……佐藤君、タバコ吸ったら?」

 

 「……なんで?」

 

 「なんか居心地悪そうだし、ソワソワしてるし」

 

 そりゃするだろうさ。

 そもそも異性の部屋で異性の看病してたら心が休まるわけがないだろう。

 

 「病人の前で吸えるかよ」

 

 「いいよ。巻き込んじゃったのは私だし」

 

 「……」

 

 「……」

 

 遠山の目が俺を見続ける。

 余計に居心地が悪くなるのを感じた俺は負けを認めるような舌打ちをする。

 

 「……チッ」

 

 俺は部屋の窓を少し開けて、ポケットからタバコとライター、携帯灰皿を取り出す。

 くわえたタバコに火を付け、煙を肺の中に押し込む。

 吐くときは遠山のところに煙が行かないように窓に向かって吐く。

 タバコは窓に出して。

 

 「これでいいか?」

 

 「うん」

 

 あぁくそ。本来なら俺が気を使わなくちゃいけないのになんで俺は逆に気を使わさせてんだよ。

 と、胸の中で複雑な感情が渦巻く。それでも、遠山が見せた笑顔に、少しだけ穏やかな気持ちになる。

 まあ、悪くないか。

 

 遠山が粥を食べ終えて、俺は土鍋と小皿を洗う。使った台所もできる限りきれいに片付ける。

 

 「さて、そろそろ帰るか」

 

 何も言わずに帰るわけにもいかず、もう一度遠山の部屋に入って様子を見に行く。

 ドアの前で三回ノックするが、返事はない。

 開けてみると、遠山もう寝ていた。

 電気はまだついてるのに、初めてのADで日頃の疲れが堪っていたのだろう。遠山をよく見ると、遠山の掛け布団は少し乱れて、肩がはみ出てる。

 このままじゃまた体が冷えてしまう。

 

 俺は黙って布団をかけ直す。その時、遠山の顔がものすごく近くなる。

 

 「……」

 

 近くに来るとスウスウと寝息を立てているのがわかる。

 随分熟睡してるものだ。

 

 しかし、これは一つ困ったことができた。それはこの部屋の施錠についてだ。

 流石に病人のいる部屋を鍵をかけずに出るわけにはいかない。

 このマンションはオートロックではない。つまり、鍵をかけるには内側からか、合い鍵がいる。

 合い鍵を勝手に持ち出すなんて俺にはできない。

 

 「ま、せっかくだし、起きるまでいてやるか」

 

 ちょっとした休日だと割り切って、今日は遠山が起きるまで待つことにしよう。

 

 「……」

 

 俺はちょっと悪戯したくなった。

 ポケットのなかにあるさっき吸っていたタバコの箱、それをそっと遠山のおでこの上に置く。

 

 ……起きない。

 

 「……佐藤君」

 

 「!?」

 

 起こしたか!?

 とは、慌てるが寝言のようだ。コイツ、いつもコウちゃんコウちゃん言ってる癖にどんな夢見てるんだ。

 すると、遠山は少し笑っていた。 

 

 「……………………………………コウちゃん」

 

 「……」

 

 「……コウちゃんはコウちゃんでコウちゃんをコウちゃんとコウちゃんにコウちゃんはコウちゃんで──」

 

 「……」

 

 頑張れ、夢の中の俺……。

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