NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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イーグルジャンプの警備室

 八神視点

 

 私には最近、少し変わった日課ができた。

 それは、いつも会社に泊まるときにスカートを脱いだりすることとかじゃない。

 深夜になって、今日一日気まずい思いをしたひふみんを見送った私はちょっとした荷物を持ってオフィスを出る。帰るためじゃない。そもそも、終電はさっき出たばかりだから帰れない。

 

 真っ暗なビルの廊下の中を進んでいく。

 暗くてよく見えないけど、土地勘があるから迷うこともない。

 だけどこうも暗いとなにか出てきそうでちょっと怖くなりそうだ。そんなところ、りんや青葉たちにはとても見られるわけにはいかないかな。

 と、青葉たちのことを考えていると、もう目的地に着いた。

 目の前には、『監視室』と書かれたプレートが貼り付けられている部屋がある。私はその扉を軽く叩いた。すると――

 

 「どうぞ」

 

 ドアの向こうから、低い、ていうか渋い声が聞こえると、私は扉を開ける。扉の向こうにいるのは、警備員の服の服に身を包んだ男性がモニター画面の前の椅子に座りながら私を待ってくれていた。

 

 「お疲れ様です、八神さん。今日も泊まりですか?」

 

 廃課金に疲れ切ったような三白眼の据えた目つき、ほとんど変わることのない無表情の彼は私を確認するたび、椅子を立って丁寧にお辞儀する。身長は佐藤よりもたかい。なにより私よりずっと年下なのに私よりしっかりしてる彼のその律儀なところは、最初は少しもどかしかったけど、最近は慣れてきた。

 

 「うん。お疲れ、ヨッシー」

 

 あだ名で呼んであげると、少し照れくさそうになる。どうやら少し困ってるようだ。

 その証拠に右手を首に当ててる。彼の癖だ。

 困ったり、何か考えてたり、人と話してたりすると、こういう癖が出る。これも、彼、吉田駿輔と夜にこうして話すようになってから気づいたことだ。

 強面な顔ではあるけど、年下だからか、それともこういう癖とかを見つけたからかと少し可愛く思えてくる。そういえば、青葉と同い年なんだっけ?

 やっぱりしっかりしてるなぁと感心していると、彼がさっきまで向かい合っていたにモニター画面の手前にあるテーブルに、2~3冊ほど参考書が開かれておかれているのに気づく。

 それを見ると、ちょっと意地悪したくなってしまった。

 

 「へー、仕事中なのに勉強とかしてていいんだ~」

 

 「す、すみません……」

 

 「いーよいーよ。別にこの時間帯ほとんど人いないし退屈でしょ?」

 

 ちょっとからかってみると、冗談を真に受ける彼を見て、少し青葉に似てるなと思うところがある。 

 彼は浪人生で、ここの警備員の仕事をしながら受験勉強をしてる。

 去年の冬あたりに、ひったくりから助けてもらったことがある。まさかここの警備員の仕事してるなんて……。

 その強面な顔で、ひったくりも腰を抜かしてたし、私も声あげちゃったし。

 そんなことがあって、私が会社に泊まる日にはこうして差し入れを持ってきてあげありするような仲になった。

 

 「それより、勉強捗ってる?」

 

 「はい。おかげさまで」

 

 私は彼の隣の椅子に座って持ってきた差し入れをテーブルの上に置く。

 ビニール袋の中には栄養ドリンクや軽食が入っているそれを、彼は丁寧に受け取ってくれる。

 

 「いつもすみません」

 

 「気にしないで、うちの会社こういうのケッコー常備してるから」

 

 「会社のものなんですか!?」

 

 「気にしない気にしない。でももう貰っちゃったんだから勉強頑張ってよね」

 

 「は……はい」

 

 「ふふっ、よろしい」

 

 「……」

 

 困った顔をした彼が、また右手を首に当てる癖が出てたのを見て少し笑ってしまう。

 すると、少し目を逸らしながら今度は私に話を振ってきた。

 

 「八神さんは、お仕事の方は捗ってられますか?」

 

 「私? まーね。思ったより順調だよ。この前β版が完成したとこ」

 

 思わず『フェアリーズストーリー3』の名前を出しそうになるのをこらえる。一応守秘義務があるから守らないと。

 

 「それにしてもすごいよね。仕事しながらこんな夜中まで勉強してるなんて」

 

 「いえ、そんなことは……」

 

 高卒で就職した私には、まるで別の世界にも見える話だから眩しく見える。

 浪人しても、働きながら受験勉強をするのはやっぱり立派だと思う。

 その証拠に、テーブルに置かれている参考書はとても使い込んである。開かれている部分には重要と思われる部分に蛍光ペンで色づけられている。

 

 「ちょっと気になったんだけど、どんな問題解いてんの?」

 

 「見てみますか?」

 

 そう言うと、ヨッシーは参考書の一つを私に差し出してくる。

 物の試しにと受けとって問題を眺める。

 どうやら数学の過去問のようだ。

 えーなになに? Xが……。

 

 「……」

 

 私は無言で参考書を返す。

 

 「ちょっとムズくない?」

 

 「一応、試験問題ですので」

 

 あーそっか。私は就職したから大学受験とかあんまり考えてなかったからよくわかんなかったけど、高校のとき、受験控えてたクラスメートが言ってたな。

 試験は生徒を落とすものだーって。

 それを差し引いても難しすぎるような気がするのは私の気のせいだろうか。

 これを毎日勉強してるのか。うん。私は就職してよかったな。下手に受験なんてしたら絶対浪人してた。

 

 「ていうか話込んでて大丈夫? さっきまで勉強してたみたいだけど」

 

 「ちょうど休憩しようと思ってたところなので」

 

 「そっか」

 

 でもちょっと気まずいな。まだ8月で、試験まではまだ時間はあるけど、そんな時間はあっという間だ。

 余裕こいてたらすぐに命取りになる。

 

 そう思って、本人の邪魔をするわけにも行かず、そろそろ戻ろうかと思ったとき──

 

 「っ……」

 

 ヨッシーが軽くふらついた。椅子に座ってたから倒れることこそなかったけど、みたとこ少し疲れたがたまってそうだ。

 

 「ちょっと、大丈夫?」

 

 「あ……いえ、大丈夫です。すみません」

 

 「大丈夫に見えないんだけど」

 

 いつも無表情な彼も、少し顔を歪めている。顔色もあまり良くないように見える。

 

 「なんか働き詰めすぎてない?」

 

 「……実は、他の方がぎっくり腰になってしまって自分しか入れる人がいなくて」

 

 「それってもしかして24時間ってこと?!」

 

 「はい」

 

 「ダメじゃんそんなの。勉強にも支障でるじゃん!」

 

 「す……すみません」

 

 申しわけなさそうにしてる彼を見て余計に見てられなくなる。

 

 「もう今日は休んだ方がいいよ」

 

 「ですが……」

 

 「ダーメっ。頑張るのはいいけど、体壊したら元も子もないでしょ?」

 

 ヨッシーに詰め寄って説得する。無理するのはダメだ。頑張るのはいいことだけど頑張りすぎるのは駄目だ。

 

 「……すみません」

 

 「謝るのも禁止。ほら、早く寝なさい」

 

 休憩室を指差して休むように促す。それでも彼はまだバツが悪そうにしている。

 まだ、押しが足りないみたいだ。不器用な彼は、自分を許すことができないんだろう。ならこれでどうだ。

 

 「ヨッシーがちゃんと寝るまで、私ここで見てるから」

 

 「それだと八神さんが休めないんじゃ」

 

 「私は明日日曜日だしいーの。それに、休ませたかったらほら、さっさと寝る!」

 

 「……」

 

 「……」

 

 しばらく見つめ合うと、ヨッシーはようやく観念したのか、諦めたような顔で椅子を立つ。

 

 「それではお言葉に甘えて……」

 

 「うん。よろしい」

 

 それを聞いて安心する。

 ヨッシーは休憩室に入っていく。当然私も着いていく。

 

 「えっと……着いてくるんですか?」

 

 「だから言ったでしょ、寝るまでいるって」

 

 寝たふりして、私が帰ったときにまた無理されたら意味がない。

 ちゃんと休むのも仕事のうちだ。それに、勉強もあるんだから休めるときにはちゃんと休まないと。

 私は休憩室の椅子に座って、ヨッシーが布団でちゃんと寝るまで動かない。

 ヨッシーも本当に降参のようで、しぶしぶ休憩室のすみにある畳の上に布団を敷く。

 

 「それでは……おやすみなさい」

 

 「うん、おやすみ」

 

 そう言うと布団に潜り込んで目を閉じる。でもまだちゃんと寝てないだろうからもう少しいるつもりだ。

 

 「……」

 

 目をつむっているヨッシーを見ていると、私も少し眠くなってくる。

 あくびが出そうになるけど、悟られないためになんとか押し殺す。

 マスターアップも近いから、残業することもいつもより多くなったからか、私も少し疲れが溜まってるみたいだ。

 でもダメだ。明日は日曜日だから帰ったらゆっくり休める。昼間も寝てたらりんが文句言ってくるだろうけど、今はそんなことはいい。

 私が寝なさいって言ったのに、その前に私が寝たら意味がない。なんとか堪えないと……。

 

 と、なんとか耐えようするけど、睡魔は私の想像以上に強かった。

 瞼が、どんどん重くなる。

 耐えなきゃと思えば思うほど、睡魔は私の思考を蝕んでいった。

 

 あ……もう……ダメ……。

 

 私の視界が、真っ暗になった。

 

 

 ●

 

 ……あれ? 私何してたっけ?

 

 意識がぼうっとして考えが纏まらない。まどろみの中、つぎはぎの記憶をなんとかつなぎ合わせる。

 確か、ヨッシーを寝るのを見守ってたような……。

 

 そこまで考えが纏まると、体がなんだか柔らかいものに包まれているような感触がするのに気づく。

 さわり慣れた感触だ。叶うなら一日中触っていたくなるそれは、布団だろうか。

 

 「ん……」

 

 重い瞼をこじ開けながら体を起こす。

 ぼやけた視界をなんとか広げて周囲を見渡すと、そこは私がいつも寝泊まりしてるオフィスの中じゃない。

 監視室の隣にある休憩室だ。

 

 そして自分が寝ているところはヨッシーが寝ているはずだった畳の上。

 そこでハッとする。

 なんで私がここで寝てるんだ?!

 

 布団から飛び出た私は慌てて監視室に入る。そこには、モニター画面に向き合っていたヨッシーがこっちに振り返る。

 

 「あ、おはようございます八神さん。疲れはとれましたか?」

 

 「……なんでヨッシーの方が起きてんの?」

 

 私は目を細めてヨッシーを問いただす。

 少なくとも安めと言ったのは私だ。なのに私が寝てるのはどう考えてもおかしい。

 

 「八神さん、私が布団に入ったあとすぐにお休みになられたので、椅子のままだと体によくないので」

 

 「それで私を布団で寝させたわけ?」

 

 不満げに私は返す。

 私は大丈夫だって言ったのに、自分を休めずに私を休ませたら意味がない。畳は一つしかないし、机やソファーで寝ても疲れなんか余計に溜まる決まってる。

 ヨッシーも私が機嫌が悪いのを見て何か気付いたように慌てる。

 

 「……あ、いえ! 布団は洗濯したばかりのものにしたので──」

 

 「もー! そうじゃなーい!!」




四人目の主人公

名前 吉田駿輔

年齢 19歳

最終学歴 高卒(浪人生)

身長 190㎝

体重 75㎏

好きなもの ハンバーグ

特技 太鼓の達人(鬼)

ヨッシー:育ち盛りなんで、食には関心があります。

アザラシ:俺はもう言い逃れできないとおもう()
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