NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

16 / 91
俺はお前の…… 後編

 青葉視点

 

 昨日、佐藤さんが早退した。その埋め合わせは敦さんがなんとかしたんだけど……。敦さんすごく大変そうだったし。

 でもどうなっちゃうんだろ。佐藤さん、告白?したのは良いけどあのまま帰っちゃったし。りんさんも、昨日は定時で帰っちゃった。敦さんが埋め合わせのこと報告したがってたのに・・・・・・。

 

 いつもどおり出社してキャラ班のところに向かう途中、りんさんにあった。定時で帰ったはずなのにどこかやつれてるみたいでとても疲れがたまっていそうだ。普段きちんとまとめているセミロングの髪も所々、変なところではねていてアホ毛みたいになってるところもある。

 昨日のことがショックだったのかもしれない。

 

 「あ・・・・・・、おはよう。青葉ちゃん・・・・・・」

 

 「り、りんさん・・・・・・お、おはようございます」

 

 りんさんに気を遣ってできるかぎり普段どおりの挨拶を心がける。でもりんさんは元気がなさそうに返してくる。

 大丈夫なのかなぁ。こんな大事なときに・・・・・・。

 

 「青葉ちゃん、どうしよう私・・・・・・佐藤君の好きな人、まさか私だなんて・・・・・・私、そんな人の前であんなこと言ってたなんて・・・・・・」

 

 今にも泣きそうな顔で嘆くりんさんを見ていると、さすがに悲しくなる。でも佐藤さんも大変でしたよ。ヘタレといいますか、りんさんのこと気を遣ってましたし・・・・・・。

 多分それが昨日爆発しちゃったんでしょうね。

 

 「おはよ~って、りん・・・・・・どったの?」

 

 「あ・・・・・・コウちゃん・・・・・・」

 

 りんさんをなだめようとすると、キャラ班ブースの奥から八神さんがいつもどおりの格好で現れる。だから寝るときはスカート脱がないでください!

 昨日も佐藤さんに見られたって怒ってたくせに、それ完全に八神さんの自業自得じゃないですか!

 

 「何があったか知らないけどこれでも食べて元気出しなよ」

 

 と、八神さんは自分が食べていた朝ご飯のサンドイッチの1つをりんさんの口に入れる。するとりんさんはそれをそのまま食べて飲み込んでしまう。

 シュレッダーみたいだ。

 

 「・・・・・・コウちゃん、私もうだめ。これお父さんとお母さんに渡して・・・・・・」

 

 目にいっぱいの涙をためてりんさんが取り出したのは白い封筒。

 なんだろうと、見ていると表面に『遺書』と書かれていた。

 ・・・・・・遺書!? ちょっと待って! りんさん早まらないで!

 

 「いや落ち着きなって・・・・・・早まんないでよ」

 

 私が言う前に八神さんが止めてくれる。するとりんさんは溜めていた涙を一斉にこぼし始める。

 

 「ゴウ゛ぢゃ~ん゛」

 

 泣きつくように八神さんに抱きつくりんさんは、とりあえず八神さんに任せることにして、私は自分の仕事をするために今度こそキャラ班に向かう。

 

 しばらく歩いていると曲がり角にさしかかる。それに沿って曲がろうとすると、今度は大きな人影に足を止めてしまう。

 誰だろうと顔を上げると、そこに立っていたのはまさかの佐藤さんだった。

 

 「あ・・・・・・さ、佐藤さんっ。お・・・・・・おはようございます」

 

 「おう・・・・・・涼風か」

 

 困惑を隠しながら挨拶をするけど声が震えてしまう。佐藤さんの顔は、長い金髪の前髪のせいでよく見えないけど、確実に機嫌が悪いのは確かだ。

 まさか、この流れって・・・・・・。

 

 「・・・・・・」

 

 逃げようにも、前髪の隙間からちらりと覗く佐藤さんの目は、まるで獲物を狙う飢えた獣のように私をにらみつけている。恐怖に足がすくんで動くことができない。それは佐藤さんの手が迫ってきているのがわかるのにだ。

 

 そして、佐藤さんは私の頭をつかんだ。

 

 ――しばらくしたあと、私はふらつきながらようやくキャラ班にたどり着くことができた。

 すると通り道のはずなのに壁にぶつかってしまう。だけど私はまともに前を見ることすらできなかった。

 ぶつかったときに、かすかに甘い香りが混じったタバコの匂いが鼻を掠める。

 その匂いを私は知っている。

 

 「あ……わりぃ涼風。視界に入らなかっ──ってどうしたお前!?」

 

 顔を上げると、佐藤さんよりも背が低くく、目にクマができた男の人。

 敦さんが立っていた。

 

 「佐藤さんが……佐藤さんが……っ!」

 

 ようやくここまでこれたことの安堵で、りんさんのように涙があふれてしまう。

 佐藤さんにめちゃくちゃ八つ当たりされた。今回は髪ではなく、蛍光ペンで顔にたくさん落書きされた……。

 

 「これはひでぇ……」

 

 敦さんは布巾で私の顔を拭いてくれる。うれしいけど、なんで私やねねっちがこんな目に……。

 私を自分の背中に隠したまま、敦さんは背景班ブースに向かった。

 

 「おい佐藤! お前、遠山に振られたからっていくらなんでもやりすぎだ!」

 

 敦さん……前提がいろいろおかしいと思います。まだ振られてはいないはずです。まだ……。

 だけど敦さんの背中から背景班ブースを覗くと──

 

 「「!?」」

 

 「佐藤君! 手ぇ!! すぐに血を止めないと!!」

 

 「あー」

 

 そこは阿鼻叫喚としていた。

 佐藤さんの左手から噴水のように血が吹き出ていたからだ。近くにいた背景班の人は悲鳴を上げてたり、卒倒したりしている。

 そんな中、ピアスをした筋肉質の男性が必死に佐藤さんの手当をしている。

 ていうか、どうしてゲーム会社でそんな流血沙汰になっているんですか!?

 佐藤さんも自分の手からあんなに血を流しているのに全然反応してない。まるで魂そのものが抜けているようだ。

 

 止血をした佐藤さんは呆然として自分のイスで休んでいる。

 そして私たちは佐藤さんから隠れて作戦会議のようにお互いを囲んでいる。

 さっきまで佐藤さんと手当していた人は、よく見たら見覚えのある人だ。

 確かこの会社の面接の時に話した人だ。名前は確か、桜庭花男さん。特徴的な人だから覚えている。

 あの時は試験中にトイレに行かないように朝ご飯を抜いたせいでまさか面接にお腹が鳴るなんて。

 今思い出しても恥ずかしい。と考えてると、敦さんと花男さんは話を進めている。

 

 「……すごい動揺してるわね。返事もまだ聞いてないのに。まぁ、返事はわかりきってるけど」

 

 「正直、この時期に背景班で一番働く二人があぁだと、最悪グラフィックチームそのものが崩壊するぞ」

 

 なんだか本当にとんでもないことになってる。グラフィックチームが崩壊するのは確かに大変だ。

 なんとかしないといけないはずなんだけどどうしたら良いんだろう。

 

 いま下手に佐藤さんを刺激するわけにはいかないし、りんさんもどうすればいいかわからないし。

 でも就業時間が始まる前に早くなんとかしないと……。

 答えを出しあぐねている敦さんたちを見守っていると、後ろから誰かくる足音が聞こえた。

 

 「あ……青葉……ちゃん、どうしたの?」

 

 「ひふみ先輩っ」

 

 振り返るとひふみ先輩が気まずそうに私たちを見つめていた。どうしていいかわからずにしどろもどろしてる。

 やっぱり佐藤さんのことが騒ぎになりすぎたのかも。

 

 「佐藤君と……りんちゃん、ケンカ……しちゃった……の?」

 

 いつものようにたどたどしい口調で尋ねてくるけど、それは違います。

 ワケを説明しようとすると、敦さんたちはお互いの顔を見合わせていた。

 

 「「「……」」」

 

 見つめ合っている二人を、ひふみ先輩と一緒に不思議そうに眺めている。

 そして何か無言のやりとりを終えたあと、敦さんがひふみ先輩に近づいて、肩にポンッと手を置く。

 

 「よし、滝本。お前に決めた」

 

 「!?」

 

 目を丸くしてるひふみ先輩を見て私は理解する。

 もしかして……ひふみ先輩に押し付けた!?

 

 ●

 

 ここは会社の屋上。

 ひふみ先輩が何とか頑張ってりんさんと佐藤さんをここまで連れてきた。

 連れてきたけど……。

 

 「ケ……ケンカは……よく、ないよ……ちゃんと話し合って……仲直り……しよっ…ね?」

 

 「「……」」

 

 ひふみ先輩は懸命に佐藤さんとりんさんを説得するけど、二人は反応しない。うつむいて暗い表情をしている。

 

 「うっ……うぅ……」

 

 気まずくなってきてるひふみ先輩を、屋上の入り口で見守ってるけどそろそろひふみ先輩には限界みたい。

 

 そして、あの二人の空間に耐えられなくなったひふみ先輩はこっちに逃げ込んできた。

 ……目にいっぱいの涙を溜めながら。

 

 「……ダメだったっ」

 

 「ふ、二人を同じ場所に連れてきてくれただけで十分です。ひふみ先輩はもう仕事にもどってください……」

 

 りんさんが八神さんに泣きついたときみたいに泣きついてくるひふみ先輩を必至になだめて戦線離脱させてあげる。

 敦さんたちも人が悪いです。いくらなんでもひふみ先輩に任せるなんて。

 でもこれでなんとか佐藤さんもりんさんが2人でちゃんと話せる状況が作れた。

 私や敦さんたちがやったらさっきの二の舞だろうし。仕方がなかったのかもしれないけどやっぱり納得がいかない気がする。

 でも今はそれを気にしてる場合じゃないよね。ひふみ先輩にはあとでお詫びするとして。問題はこの二人だ。

 

 私たちは屋上の入り口から二人を覗く。ポジショニングはちょうどひふみ先輩の声が聞こえるくらいだったから二人の話し声も聞こえるはず。

 二人にバレないようにしていると、先に切り出したのは佐藤さんだった。

 

 「……遠山」

 

 「は、はいっ!」

 

 りんさん、やっぱり動揺してる。そうだよね、気づかなかったとしても、まさか好きだなんて謂われたら普通動揺する。私も今まで恋愛とかしかなかったけどわかる気がする。

 

 「俺はお前の……」

 

 「っ……」

 

 りんさんは少し怯えているように見えた。怒られると思ったのかな。いつも愚痴を言ってた訳だし。

 佐藤さんもそれに気づいて言葉を出しあぐねてる。でもこれじゃ昨日と変わらない。

 頑張って佐藤さん!

 

 「俺はお前の後ろに……幽霊が見えるんだ」

 

 「……ぇ?」

 

 (佐藤さんが壊れた!?)

 

 (遠山もさすがに動揺している!)

 

 小声で敦さんと一緒に声が出てしまうけど、多分二人には気づかれてないみたい。

 でも幽霊?

 何でそんな突拍子もないことをいきなり!?

 

 「……ゆ、幽霊?」

 

 突然切り出された予想外の言葉に、りんさんも思わず聞き返してしまう。

 だけど佐藤さんは迷わず口を動かす。

 

 「あぁ、その幽霊はな、ずっと1人の人にくっついてて、本人は今の関係がずっと続けばいいって想ってるみたいなんだが、少しは自分の夢とかやりたいことをちゃんと見つけた方がいいんじゃないかって気が気じゃ無かったんだ。そんなとこお前に言ってもどうしようもねえしよ」

 

 ここでようやく佐藤さんが狙ってることが理解できた。

 

 (佐藤さん、振られる前にうやむやにしようとしてる)

 

 (ていうかその幽霊って、そのまま遠山と八神の関係じゃねえか)

 

 敦さんもあきれてる。ていうかどこまでヘタレなんですか佐藤さん!

 

 「だから今まで言えなかったんだ(バカだと思われたらどうしよう)」

 

 佐藤さんの本音がひしひしとコッチに伝わってくる。うやむやにするにしてももっと他にやり方なかったんですか!?

 そんなの、りんさんだってバカじゃないんだしそんなこと通じるわけ──

 

 「…………………………………………………………そうだったのね」

 

 りんさんは涙ぐんでる。

 バカだったー!

 前から少し思ってたけどこの人結構バカだったー!

 見たところ完全に信じ込んでる。多分それだけ精神的に追い込まれてたのか、それとも佐藤さんに押し切られたのか。

 でも少なくとも、これで二人の関係が悪化することはなくなってホッとした。

 佐藤さんも安心したようで、ポケットからタバコを取り出して一服ついている。

 今気づいたけど佐藤さんもタバコ吸うんだ。

 

 「ごめんね佐藤君。私、勝手に勘違いしちゃって……」

 

 「そういうことだからサッサと仕事にもどれ。滝本にもよろしく言っといてくれ」

 

 「ありがとう佐藤君っ。私、男の子の中なら、佐藤君が一番好きっ」

 

 「!……」

 

 りんさんが放った言葉が、佐藤さんが吸い込んだタバコの煙をかきだしてしまう。

 むせた佐藤さんはせき込んでる。

 りんさんなんでそんなことを……。

 

 「佐藤君、大丈夫?」

 

 「あ……あぁ」

 

 「それじゃあ私、そろそろ仕事に戻るね」

 

 そう言い残したりんさんは屋上を後にする。

 私たち三人はなんとかドアの後ろに隠れてたからりんさんに気づかれることはなかった。でも三人であの空間は少し狭すぎた。

 

 そして敦さんはりんさんが行ったこと確認してから屋上に出る。

 葉月さんに捕まって私も連れてかれちゃうけど。

 

 「よかったわね一番で、『男の子』では」

 

 なぜか二人はすごく楽しそうな顔をしてるけど、少なくともこれは快挙なのかもしれない。

 少なくとも、『男の子』では一番好きなのだから。佐藤さんは顔色すごい悪いけど。

 私も刺激しないようにフォローに回る。

 

 「け、結果オーライですよ佐藤さん。これでまた、仕事頑張れますね……!」

 

 「あぁ……」

 

 すると、佐藤さんはタバコはもう吸ってるはずなのにもう一本のタバコを加えて火をつける。

 そして──

 

 「……今日はもう帰るがな!」

 

 佐藤は屋上をあとにした。

 

 「お、お疲れさまです!」

 

 「ちょっと待て佐藤! こんな朝っぱらから帰れると思うなよ! おいテメェふざけんじ──」

 

 佐藤さんを追いかける敦さんたちはおいといて、そろそろ私も仕事に戻らないといけない。

 あぁ、結構遅れてるのに……。

 

 ため息をつきながらオフィスに戻ると、ねねっちがキャラ班のところにいた。

 

 「あ、あおっち!」

 

 「もーねねっち、またここにいる」

 

 私もさっきまで実質サボってたようなものだからあまり責めたくないけど、とりあえず注意する。

 

 「なにか楽しそうなことしてたの?」

 

 「楽しくないよっ」

 

 自分のパソコンの電源を入れながら呆れたため息をつく。

 ねねっちは座ってる私の横でジタバタしてる。あぁもう、パソコンの近くなんだから暴れないで欲しいんだけどなぁ……。

 

 「ずるいずるーい! 私も混ぜてよー!」

 

 「そもそもねねっちが余計なこと言ったからあんなことになっ──」

 

 そして悲劇はまだ終わらなかった。

 

 「「あっ……」」

 

 ジタバタしてたねねっちの手がパソコンの電源コードに引っかかって抜けてしまう。

 起動中だったパソコンはプツンともその画面を真っ暗にしてしまった。

 え……ちょっと待って! こんな時に電源を急に切ったりしたら……!

 

 「あ……あおっち?」

 

 慌ててパソコンので電源コードをつないで電源を入れ直す。起動中の画面を凝視しながら必死に祈る。

 お願い、なにも起こらないで……!

 

 だけど私の願いは儚くも散ることになってしまった。

 パソコンの中にあった3Dのデータは、もうすぐ完成のはずだったキャラのデータがなくなっていた。

 

 「……!」

 

 得体も知れない感情が体から溢れてくる。これは、怒りだ。

 

 「あ……ご、ごめんあおっち!」

 

 振り返った私はその感情をぶちまけた。

 

 「ねねっちのバカー!!」




猫の背中を真似したい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。