NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
うみこ視点
ようやく仕事に一段落ついた。
ひとまず家に帰れそうだ。
今日はバグが想像以上に多くててんてこまいだった。そのせいで宮本さんにも急遽助っ人に入ってもらったほどですし。
デバッグの桜さんは、旧作を知ってることなどもあって、細かく報告してくれて凄く助かっているのですが、素行が……。
まあ、今は私が隣で監視しているので余計なことはさせませんが。
にしても、うちの会社って基本的に男性に慣れている方が少ないのですね。初めて知りました。
今日は飯島さんの相談に乗ってみたのですが、恋愛そのものにウブな気がするといいますか。
……なんだか葉月さんがそういう人ばかり雇うからじゃないかと些か心配になってきました。
飯島さんの意中の相手とは一体どんな方でしょうか?
この会社の中なら、少なくとも『フェアリーズストーリー3』の開発チームでしょうし、そうなると……いやこれはありえない。
どう言うわけか、『フェアリーズストーリー3』の開発チームはサウンドの増田さん、何でも屋の宮本さん、背景班の佐藤さんしかいない。
……やはり葉月さんに問いただした方がいいんじゃないだろうか?
でも多分無駄でしょうしやめときましょう。
それにしても誰なのでしょう?
増田さんはどういう方かわかりませんが、とにかく控えめな方らしいので多分違うでしょうし、佐藤さんはもう好きな人がいるって言うかどうして気づいてあげないんでしょうか遠山さんは。
宮本さんは……まずありえないでしょう。
飯島さんがあんな人を好きになるとは──
と思った途端、飯島さんとの会話を思い出す。
「……そういえば、元々嫌っていたとおっしゃってましたよね」
これはひょっとしたら飯島さんは宮本さんのことを──いや、これはない。まずありえない。
人を苗字で呼ぶなとなんども言ってるのに苗字で呼んでくる人ですからあの人は。だとすると、他のチームの方と見るのが妥当でしょう。
そう思いながらオフィスを出ると、カバンの中から何かの振動する音が聞こえる。
携帯だ。
立ち止まった私は鞄からチカチカとランプの光を放つ携帯を取り出す。
画面を開いて、メッセージのアイコンをタップすると、少しだけ頬が緩んだ。
…あの人だ。
どうやら今日は雨が降っているようだから車で迎えにに来てくれると、メッセージには書かれていた。
傘くらい持ってきてると言うのに律儀な人だ。
もっとも、そういうところに惹かれたのだが。
エレベーターで一階まで降りて、ビルの出入り口まで歩く。
すると暗くて全身は見えないが手前の道路に車のライトが光っているのが確認できる。
近づいていくと車体がよりはっきりと見えていって、それがあの人のものだとわかる。こうして送り迎えしてもらえるのは女性としては少し嬉しいが、どこかもどかしい気もする。それでもせっかく来てくれたのだ。彼の厚意に甘んじたい。
車の向きから察するに、私が雨に濡れないよう助手席がすぐ開くようになっていた。細やかな気遣いができる彼らしさに胸が躍りながら、ためらいなく車のドアを開ける。
「お仕事、お疲れ様です。うみこさん」
運転席に座っていたのは薄い鼠色のスーツと紺色のカッターシャツ。それをヒョウ柄のネクタイで締めた七三に別れた金髪の男性が一人。
この人こそ、私の初めてできた大切な恋人。
名波賢人だ。
●
「お仕事の方はどうですか? 最近忙しいと聞きましたが」
「えぇ。まぁでも楽しいですよ。戦場みたいで」
「うみこさんらしいです」
隣を見ると、賢人さんがハンドルを握っている。
薄暗い車内の中、わずかに差し込む街の光が、少し変わった形の眼鏡から覗く細い目と少しやせ細った顔を照らしている。
普段この人は基本的に寡黙な人で基本的に表情が顔に出ない。そういうところも惹かれ会った要因の一つなのだろう。
この人には『フェアリーズストーリー3』のことは守秘義務があるので話せないのは少し残念だが、発売されたら詳しく聞いてもらおう。
しかし、仕事の話をしているとつい余計なことまで口が動いてしまうモノだ。
「とはいえ、あの人には本当に苦労します。ただでさえ忙しいのに、急な仕様変更といい、それで今日1日残業しなくてはならない社員達の気持ちも考えてほしいものです」
「うみこさんはとても部下想いなんですね」
「なっ……?!」
当然、思わぬ切り替えされてドキッとする。
「え……えぇ、まぁそうですね。あまり無理はしてほしくないので」
普段、葉月さんとかにからかわれるときはキツく言い返すところではあるけれど、この人にはそういう必要はない。むしろ彼にはこうしたいのに、咄嗟に否定しようとしてしまう自分がいる。
あまりこの人に甘えるのはよくないと、どうしても自制してしまうのだ。
それでも、普段よりも素直になれるこの時間はとても愛おしい。
穏やかな気持ちで賢人さんの横顔を眺めているとザバーンと車が水しぶきを上げた。
見たところ通行人はいなかったので、水にかかってしまった人はいないようだ。
「……やはり雨だと運転って気を使いますよね」
「そうですね……」
なぜか賢人さんも気まずそうな顔をしていた。
「賢人さん?」
「……いえ、実は、うみこさんを迎えにいく途中で、相合い傘をしていたカップルに水をかけてしまいまして……。先に気づいた彼氏さんのほうが彼女さんのほうを庇ってしまっていたのですが、多分びしょ濡れにしまったかと」
「そ、それは……なかなか災難ですね」
そのカップルたちも、賢人さんも。
でも、彼女さんのほうはもしかしたら彼氏のその身を挺した行動に惚れ直しているんじゃないだろうか。
なかなか粋なことをする彼氏さんだ。
「ちなみに、どんなカップルだったんですか?」
「そうですね、暗くてよく見えなかったのですが、紺のトレーナーをした男性と、背の低い……150㎝ほどのフリルなどがたくさんついた服を着た女性でした」
「……」
なんだろう。賢人さんの言葉にとてつもない既視感を感じる。
紺のトレーナーと、フリルのついた服?
自分の記憶の中にいるはずなのだが、情報が少なすぎてわからない。
考えているうちに、賢人さんの走らせる車は、私の部屋があるマンションにまでたどり着く。
もう賢人さんと別れなければならないと想うと、少し寂しく思えてくる。
マンションの前まで来ると、賢人さんは助手席のドアが雨除けの方に来るように駐車した。
こういうところは、ホントに頼もしいと思える。
すると、車を止めた賢人さんは何か思い出したかのように話し出した。
「あぁそうでした。うみこさんに渡したいものがあったんです」
「渡したいもの?」
「そこのトランクを開けてみてください」
「?」
助手席の目の前にある小さなトランクを開ける。
本来そこには地図なども必要な小物類を入れておく場所だが、そこには英語の文字が記された真空パックがある。
見慣れた包装のそれを見て私は好奇心でいっぱいになる。
もしやこれは──
「前に話していた『デザートバー』というものです。アメリカ軍の方から送って頂けたので」
「つまりこれは、現在軍が食料として配給されているものということですか!?」
「はい」
なんということだ。私も実物は始めてみる。
しかもアメリカの直送だなんてレア物すぎる。
自衛隊が配給しているレーションならすべて網羅したが、アメリカの、しかも砂漠でも溶けないチョコレートとして編み出されたこれは日本ではそう手には入らない。
「ですが、いいんですか? こんな貴重なもの」
「たくさん送られて来たので。それと、まだまだ興味深いものがありますので、今度私の家に来たときに見せましょうか?」
「おぉ……!」
まだあるというのか。素晴らしい。
とてつもない感動と好奇心で心が躍る。
しかし、ここまでされると何もできていない私が少しもどかしく感じる。
何か賢人さんにできることないだろうか。
と、思考したとき、あることを思い出した。
「それでしたら、この40㎜グレネードの空薬莢なんてとうですか? ペン立てにも、マトリョーショカにもなります」
ドーナツを差し入れて来てくれた涼風さんに渡し損ねたものだ。
賢人さんの車のフロントガラスの手前に、それを置いてみる。
「おぉ。これはすごいですね。この硝煙の残り香、そしてこの金属のテカリ。さらには優れた実用性。どれを取っても素晴らしい一品ですね」
「そうでしょう!」
表情は硬いけど、その瞳から見えるは確かな煌めきは賢人さんの興奮を感じる事ができた。
こんなに素晴らしいものなのに、前に涼風さんに渡そうとしたときはすごい遠慮がちだった。なぜなのだろう。
おっと、興奮してしまった。
せっかく賢人さんに送ってもらったのに、ここまで話し込むわけにもいかない。
私も明日もまた忙しいし、それは賢人さんも同じだ。
いつまでのこんなところに車を止めておくと、駐車違反になりかねない。
「それでは、今日はありがとうございます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
シートベルトを外した私は賢人さんに微笑むと、賢人さんも少しだけ微笑む。
といっても、口元が少しピクリとなるほどだけど。
振り返った私はドアのブに手をかける。そのとき胸が少し透くような感じがした。
「……」
これからしばらくは賢人さんとこうして話すこともなくなる。今日みたいに送ってもらうのもそう何度もしてもらうわけにもいかない。
となると、こうしてこの人と会えることができるのは今日くらいかもしれない。
そう思うと、やっぱり少し寂しい。
仕事ばかりしてたときは、こんなことを感じることもなかったのに……。
「……うみこさん?」
どこか不安そうな賢人さんの声が聞こえる。
ダメだ。速くしないと賢人さんに怪しまれる。
心配させたくない。だから私は大丈夫と言おうとした。
だけど、その言葉は口にはできなかった。
「っ……」
──私の口は、賢人さんの口で塞がれたがら。
触れるだけの口づけ。
目の前には目を閉じた愛おしい人の顔がすぐ近くにある。
自分のものとは異なる柔らさのそれが、自分ものと触れあっている。
一瞬強張った体はすぐに絆されて、私は目を閉じて両手を彼の胸板に置く。
「ん……」
一秒間にも満たない静寂、それは私が体験したどの銃撃戦よりも長く感じられた。
離れた後に気づく。
自分の胸の鼓動がおかしくなるほど速くなってることに。
だけど不思議といつもより落ち着いている。
「何かつらいことでもありましたか?」
「いえ……そうではないのですが、こうして話すのもしばらくできなくなると思うと、少し寂しいなと……」
「……そうですか」
変に落ち着いたせいか、思ったことがすんなりと口にできる。
やっぱり自分は寂しいのだと、改めて痛感させられる。それくらいこの人に惹かれているのだと。
「あの……もう少しここにいてもいいですか?」
ソッと賢人さんの胸に寄りかかると、賢人さんは何も言わず、ギュッと私を抱きしめてくる。
彼の独特の匂いと、服越しに感じる温もりが自然と肩の力を抜いてくれる。
これからきっとこんなことをしてる暇なんてないくらいに忙しくなる。
だけど、こうしていると不思議とうまくいきそうな気がした。
五人目の主人公
名前 名波賢人
職業 会社員
年齢 28歳
誕生日 7月3日
星座 蠍座
血液型 A型
身長 184cm
最終学歴 高専卒
好きなもの パン(割とグルメ)、アヒージョ
嫌いなもの 平麺
特技(趣味) 酒、自炊
バレてない……
バレてない……