NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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面白い新人

 青葉視点

 

 私の名前は涼風青葉。

 ちょっと前まで普通の高校生だったけど、今日から1人の立派な社会人になる。

 勤める会社の名前はゲーム製作会社イーグルジャンプ。

 私が子供の頃に発売されたゲーム『フェアリーズストーリー』を作ったあこがれの会社だ。そして、私がキャラクタデザイナーになりたいと思えたきっかけである八神コウがいる場所。

 最初は本当にこの会社があるビルに入っていいか迷って、子供と勘違いされて注意されたり、あこがれの八神さんのあんなところを見てしまった。

 でも、無事イーグルジャンプの一員と認めてもらえることができた。そして――

 

 「それで青葉ちゃん、八神さんからもらった本、どこまですすんでんの?」

 

 「それが、まだ全然進んでなくて……」 

 

 「最初は皆そうだって、困ったことがあったら何でも聞いていいからさ」 

 

 午前中の仕事を終えて……仕事って、言っていいのかな? まだわからないところだらけだし。

 そんな不安の中、私、涼風青葉ははゆん先輩とはじめ先輩と一緒にお昼をしに一階のカフェテラスにきています。

 ゆん先輩は面倒見があるお姉さんみたいな人で、はじめ先輩はボーイッシュでカッコいい人です。

 最初は仲良くできるか心配だったけど、皆いい人で安心してます。ただ……

 

 「あーそう。ほんとにわからないことがあったら敦さんに聞けばいいよ。あの人頼りになるから」

 

 はじめ先輩が切り出してきた人の名前に、私はつい反応してしまう。

 そう。私がグラフィックチームに配属された時と同じタイミングでやってきたという人。

 宮本敦さん。

 少し縮れた黒い髪で、目にはクマが出来てる男の人です。

 最初はお化けかと勘違いして悲鳴を挙げてしまって失礼なことをしてしまいましたけど、優しそうな人でよかったです。

 

 「えー。うちあの人あんまり好きちゃうわ」

 

 彼の名前が出た途端、ゆん先輩は顔をしかめながらお弁当のおかずをほおばっています。

 

 「なんでさー。私、あの人と仕事したときに配布されたゲームの限定版のフィギュア、私たちには貰えなかったからくれたんだ」

 

 「んー、人がええってのはわかるんやけど、辛気くさいっちゅうか、だらしがないちゃうか、もっとシャキッとしたらええのに」

 

 「宮本さんって、そんなに働いてるんですか?」

 

 「えっとな、高卒で入ったらしいけど、今32歳やから、14年くらい?」

 

 「そんなに働いてるんですか?!」

 

 八神さんの二倍近くだと、つい感心してしまう。

 

 「私たちの会社がまだ大きくなる前から働いてたらしくて、グラフィックやキャラデザ以外にも、プログラミングとかサウンドとか色々できるんだって。今も3つくらい作品を掛け持ちしてるとか」

 

 「すごい……」

 

 「本人はあんまり仕事好きやないみたいやけどな。なのになんであんなに働いとるんやろ」

 

 ゆん先輩の話を聞いてると、一つ疑問が出来た。

 

 「あの、宮本さんって、そんなに働いてるし、人当たりもいいのに、なんで私のような新人と一緒に働いてるんでしょうか。八神さんよりも先輩なのに」

 

 「そう言えばそうだね。なんでだろ」 

 

 「生きとるのか死んどるのかようわからんゾンビみたいな人やから。出世したいとか思わんとちゃう?」

 

 「「ゾンビって……」」

 

 流石にそれは言い過ぎな気持ちになるんですけど。思わず苦笑いしてしまう。はじめ先輩もおなじで。

 確かに、デスクとかもディスプレイが三台くらいあっただけで殆ど片づいてたし、趣味とかないのか気になります。

 でも、嫌な人ではなかったのでまたわからないところがあったら聞いてみよう。

 

 ●

 

 敦視点

 

 昼休みが終わって、仕事を再開してからしばらくのこと、俺は違和感に気付いた。

 新人の涼風がいない。確か十分くらい前にデスクを立ってたな。トイレか?女だからか長いのか。 

 

 「……」

 

 あれ? そういやアイツ社員証持ってたっけ?うちはセキュリティーとして社員証がないとオフィスに入れない仕組みになっている。そしてトイレはオフィスの外だ。

 

 新人だし、社員証はまだ出来ていない可能性もある。

 

 八神の奴、ちゃんと社員証作ったのか? 遠山に頼まれてたはずだが。アイツ、まさか忘れて──

 

 なんとなくあり得そうだったので、俺はデスクを立って八神のところに行った。ここは本人に聞くことにしてみよう。

 

 「おーい、八神」

 

 「なんですか? 敦さん」

 

 「お前、涼風の社員証用の写真、ちゃんと撮ったか? ほら、遠山に頼ま──」

 

 「あ……」

 

 俺が言い終わる前に八神は青ざめた顔をしている。ビンゴかよ。呆れた。

 

 俺が言えたものではないが、コイツもコイツで仕事一筋で他はズボラだからな。基本泊まってるし、そんときスカート脱いでるし。

 

 「あれ? コウちゃん、青葉ちゃんの社員証の写真、まだ撮ってなかったの!? 今朝ちゃんと頼んだのに」

 

 「あー、ごめん」

 

 「それより、先に涼風の方だ」

 

 と、俺達は慌ててオフィスの扉を開けるといた。

 

 「や、八神さ~ん」

 

 ビルの廊下で縮こまって、今にも泣きそうな涼風がそこにはいた。

 

 「お手洗いに行ったら社員証がなくて外から扉が開かなくて……」

 

 「あー、ここトイレがオフィスの外にあるからな」

 

 「ごめんね、青葉。すぐに撮るから」

 

 「んじゃ、俺は戻るぞ」

 

 俺は先に持ち場に戻って仕事にとりかかる。ここの仕事はもうすぐ片付く。今このキャラ班で作ってるのはうちの会社が有名になった作品、『フェアリーズストーリー』の3部作。

 俺は元々、背景と武器のモデリングをやってたんだが葉月がいきなりキャラ班の仕事までもってきやがった。

 アイツは人をなんだと思ってるのやら。 

 あとは『フェアリーズストーリー3』以外の作品のサウンドとモデリング。プログラミングはできるけど流石に一つに絞らないとキツいからやっていない。

 あそこには葉月の使い魔のアハゴンがいるし問題ないだろう。

 

 「あ……、あの、すみません」

 

 作業を続けてると、聞き慣れていないアニメ声が後ろから聞こえてくる。俺は作業を中止して振り返ってみると、そこには先ほど弾き出されてた涼風が申しわけなさそうに立っていた。

 

 「ん? なんだ涼風か。どうした?」

 

 「さっきはありがとうございます。あのままだれも来なかったらどうしようかと」

 

 「ハハハ、心配しなくてもうちはトイレは外にあるからそのうち誰か来るよ。それで、写真はちゃんと撮れたか」

 

 「はい。でも、八神さんに凄い子供っぽいって言われました……」

 

 そりゃそうだろうな。落ち着きのないところとか、しくじったときの慌てようとか、高校生のときはバイトとかしなかったのだろうか。

 それに身長に至っては150㎝ないんじゃないのか?

 

 「そういや、八神からもらった教本の進み具合はどうだ? 滝本あたりからよくしてもらったと聞いたが」

 

 俺はパソコン画面に映る社内メッセの履歴を見せながら訪ねてみることにした。正直期待はしていない。二週間である程度形のあるモデリングが出来れば上出来といったところだ。

 

 「えっと、この辺です」

 

 涼風が開いたページは、かなり進んでいた。早い。少なくとも、今日3Dの勉強を始めたトーシロとはおもえないほど。

 

 「君、確か3D経験ないんだよね?」

 

 「はい。高校生までは絵の練習はしてましたけど」

 

 「ふーん」

 

 芳文美術に受かった上でこれか。少し驚いたな。

 葉月の人を見る目は見るところは色々おかしいけど観るところはちゃんと観てるからな。

 

 「これなら、あと一週間もすれば仕事ふってもらえるかな。細かいところはやりながら覚えればいいし」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 「おおう、声大きい、もうちょっと小さく……」

 

 「あっ……すみません」

 

 「とりあえず、残りの時間も頑張ってね」

 

 「……はい」

 

  そう言うと、涼風は持ち場に戻っていった。

 この職場では色々とキャラの濃い奴を見てきたが、こういう……なんだ? 向上心はあるし、社内でも敵を作りにくそうで、その上技術やポテンシャルもそこそこ。

 向上心のある奴は孤立しやすいし、技術やポテンシャルのある奴は敵を作りやすい。

 涼風はそのタイプのいいところだけ取ったように見える。

 

 涼風青葉……ね。

 

 なかなか面白そうな奴だ。

 

 ●

 

 「八神、とりあえずここのは終わったからサウンドのとこ行ってくるわ。修正あれば帰るときにでも置いといてくれ」

 

 「また泊まり込むつもりですか? 体壊しても知りませんよ?」

 

 「ま、そんときゃ労基にでも駆け込むさ」

 

 「体壊してどうやっていくんですか」

 

 苦笑いする八神を尻目に、俺はサウンドチームのところへ向かう。まだ完成してない効果音が残っている。

 サウンドにいる増田に午前中は押し付けてしまったから、少なくともアイツは終電までには帰さなくては。

 

 「……ん?」

 

 キャラ班のデスクに一旦戻ったときに、ふと涼風のデスクが目に入る。

 

 デスクの上には涼風の顔がプリントされた社員証が置いてある。

 

 そしてその涼風はどこにもいない。

 

 おい、まさか……

 

 社員証をもってオフィスの入り口を開けてみると──

 

 「み、宮本さ~ん」

 

 さっきと同じように、廊下で捨て猫のように縮こまっている涼風がいた。

 

 「……はぁ」

 

 訂正、やっぱりちょっと不安だ。




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