NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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なんか! 女の子多くないですか!?

 青葉視点

 

 仕事帰り、私は敦さんの家に向かっていた。日中は忙しくて持ち場を離れられなかったのもあるけれど、仕事のことをたくさん教えてもらってお世話になっている。

 家も会社の近くにあるなら、少し立ち寄ってみてもいいだろうと、葉月さんから住所を聞いたのだ。

 

 「ここ、か」

 

 行き掛かりのスーパーで買ったものを引き下げながら、私は敦さんの住居であろうところにたどり着いた。

 彼の家に行っていたゆん先輩にどんな場所か聞いてみたけど、本当に普通のマンションだ。

 というか、敦さんって本当に家あったんだと、内心ホッとしてしまう。それこそ八神さん以上に会社で寝泊まりしているのだ。失礼かもしれないけど、そう思われても仕方がない。

 

 敦さんの部屋の前までやってくると、私は呼び鈴を鳴らした。鳴らしたはいいけれど、少し緊張する。今まで男性の部屋に入ったことなどないからだ。

 お父さんにこのことを話したら卒倒されるかもしれないと思うとなおさらだ。

 呼び鈴の音がしてから数秒。玄関の向こう側から人の気配がする。

 きっと敦さんだろう。

 彼が玄関の前に来る前に、呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。はじめて出社したときも、こんな感じだったなぁ。

 と、3ヶ月も経っていないのに懐かしさを感じてしまううちに、玄関が開いた。

 

 「涼風? なんでお前が?」

 

 「えっと、あ…敦さんのお見舞いに来ましたっ」

 

 と、変に裏返ってしまう声と共に、両手で持っていたレジ袋を差し出す。

 現れたのは、いつものくたびれた顔。ちょっとボサボサになった髪の毛、どれも敦さんだと言うことが分かる。

 よかった。見たところ元気そうだ。まだ熱が残っているのか顔は赤いけれど、こうして出迎えてくれるということは順調に回復しているみたいだ。

 一日休んでいた割には、目のクマが取れていないのは少しきになるけれど。

 

 「あぁ、ありがとうな」

 

 少し申し訳なさそうにだけど、私の用意したモノを受け取ってくれた。

 

 「いえ、いつもお世話になってるので」

 

 思えば敦さんには助けてもらってばかりだ。だから、今日は自分も何かしてあげたいと思っていたから、こうしてお見舞いに行けて嬉しい。

 

 「敦さんは、もう夕飯は食べたんですか?」

 

 「いや、まだだけど」

 

 「じゃあ、私が用意します」

 

 「流石に悪いって、もしうつしちまったら面目がたたねぇよ」

 

 「ちゃんと手も洗います。マスクもしてます!」

 

 どうしても食い下がってしまった。私はあの屋上の時から、まだ敦さんに何もできていないのだ。未だに何をどうすればいいのか自分でもよく分かっていない。それだけ今の自分が実力不足だからだ。

 ならば、せめてこういう時くらい何かしてあげたい。

 私は敦さんの顔を見上げ、その目をジッと見つめる。しばらくすると、観念したのか小さくため息をついた。

 

 「じゃあ、お願いしようかな」

 

 「はいっ」

 

 私は敦さんの部屋の中に入った。

 敦さんの部屋は、思っていたより片付いていた。というか、何も無いと言う方が正しいかもしれない。

 確かに、クローゼットなどの最低限の家具やベッド、テーブルと背の高い本棚が一つ。それ以外は本当に何も無い部屋。特に、敦さんがここで住んでいるという形跡を感じる事ができない不思議な違和感があった。

 何が一番気になるかって、敦さんの趣味のモノがまったくないのだ。

 はじめ先輩のようなフィギュアやアニメグッズ、ゆん先輩のようなドクロや装飾の数々、うみこさんのようなモデルガン。

 そう言ったような、敦さんのモノを象徴する何かが無い。例に挙げた人たちが珍しいだけなのか、私の感覚が麻痺しているだけなのか、とても異様に感じた。

 敦さんのデスクと同じで、まるで空っぽと言っても差し支えない。

 

 「敦さんは寝ててください」

 

 と、いつまでの部屋の様子を見ていても仕方が無い。早く敦さんのご飯を作ってあげないと。

 慌てて支度に取りかかる。料理はそこまで自信はないけれど、今から作るモノなら簡単だから大丈夫……だと思う。

 

 「あの、すみません。少し、失敗しちゃいました」

 

 私はテーブルの席に、縮こまるように座っている。いつも佐藤さんにからかわれているけど、今日は本当に小さくなってしまいそうだ。

 少し、というにはあまりにもひどいのでは無いかという位の失敗をしてしまった。作ろうとしたのは鍋焼きうどん。向かい合っている敦さんの前に置かれている。

 それ自体はそれなりに上手くできたのだ。問題は、台所の方だ。

 今までは実家のキッチンを使っていたのだけど、ここは敦さんの家。料理中に調理器具の場所とかが分からなくなってバタバタしてしまい、調理器具やら鍋やらがぐちゃぐちゃになってしまっている。

 最初から場所とか段取りを建てておけばこんなことにはならなかったのに、敦さんに何かしたいと思うあまり、周りが見えていなかった。

 

 「まぁ、気にするな。一応、ちゃんとできてるんだし」

 

 「うぅ、ありがとうございます」

 

 あぁ、寧ろ気を遣わせてしまった。これじゃあせっかくお見舞いに来た意味が無い。あとでちゃんと片付けてあげないと。

 敦さんは落ち込んでいる私を見て、テーブルにのっている鍋焼きうどんをゆっくりと食べ始めた。

 

 「うん。うまいじゃないか」

 

 「ホントですか?」

 

 「あぁ、本当だ」

 

 「あー、よかったぁ」

 

 彼のゆるんだ表情を見て、ようやく安堵できる。これで味まで失敗していたら本当に自分は何しにここに来たのか分からない。

 体調を悪くしただけになれば、それこそ面目が経たない。

 ……ゆん先輩はもっと上手にできたのかな?

 と、何故かそこで先に敦さんの家に来たであろう先輩の名前が頭に上る。あの人、私が入社したての頃は敦さんの事苦手って言ってたけど、最近敦さんの事を気にしていたような。今日だって、私に変わって自分から立候補したようなものだし。

 私の気にしすぎなのかな?

 と、尊敬する人に対して失礼な勘ぐりをしてしまう自分に恥ずかしくなる。それよりも、敦さんが食べ終わる前に台所を片付けないと。

 悲惨なことになっている台所と向き合った私は、片付けに取りかかった。

 

 「あれ、洗剤どこだろ。スポンジは? あぁっ!」

 

 「……なんか、ホントにすまんな」

 

 ●

 

 「まぁあれだ。来てくれてありがとうな」

 

 「……いえ」

 

 はい。なんとか片付きました。いやホントにもう、疲れました。

 慌てたせいで鍋を何回か落としてしまって、床に落ちた洗剤を踏んづけて転んだりして、もう踏んだり蹴ったり。お皿とか無くて本当に良かった。

 

 「今日は遅いし、タクシーでも使え。金は出してやるから」

 

 「だ、大丈夫ですよそんなの」

 

 「バカ言え。お前みたいなちっこいの、夜中に一人歩かせるたら不安で余計に具合が悪くなるわ」

 

 「そっ、それってどういう意味ですか!?」

 

 また子供扱いされて声を上げてしまう。佐藤さんと言い敦さんと言い、人をなんだと思っているんですか!?

 これでもれっきとした社会人だし、高校だって卒業してるんですよ!

 

 「いいから、受け取ってくれ。飯も作ってもらったしな」

 

 「……はい」

 

 でも、ベッドの上にいる敦さんの真剣な目に出てきた反論は押さえつけられてしまった。やっぱりこれじゃあ、どっちが気を遣っているのかわからない。

 自分でもちょっと嫌になってしまう。

 敦さんからお金を受け取って、タクシーを呼んでもらうのを了承せざるを得なかった。私が顔に出やすい性格なのは自分でも理解しているけれど、敦さんにもそれは悟られたようで、急にこんなことをいいだした。

 

 「まあ、あれだ。タクシーくるまでで少し時間あるし、俺が画いた絵でも見てみるか?」

 

 「えっ……いいんですか?」

 

 「八神と勝手は違うかもしれんが、勉強になるだろうしな」

 

 「いえ、お願いします」

 

 敦さんの絵。

 そう言えばキャラデザをしていると言っていたけどみたことが無い。どんな絵なのか興味がある。こんな機会なんてそうそう無いし、見せてもらいたい。

 

 「んじゃ、そこの本棚にあるファイルにまとめてあるから見てみろ」

 

 敦さんが指さす先にある本棚。そこにはクリアファイルぎっちりと詰まっていた。他に本棚に入っているのは、プログラミングやサウンドのソフトについて書かれた本と思われる。それ以外は、全てそのファイルだった。

 その中にある一冊を手にとって開いてみる。

 描かれてあったのはすごい魅力的なキャラクターばかりだった。

 可愛らしい女の子から、少し渋いおじさん、さわやかな少年に、ちょっとセクシーな女の人。ジャンルはファンタジーに寄っていたけど、本当に多岐にわたる。武器や衣装の装飾の繊細さ、鎧の質感、ある意味では八神さんよりも表現できているものがあるとすら思えた。

 でも少しだけ、眉間にしわが寄るのを感じる。

 というのも、

 金髪のボブカットに白ウサギを彷彿させるバニーガールのような衣装を着た女の子。

 長い水色の髪に白いワンピースの女の子。

 大きい角に紫色の三つ編みをしたおっぱいの大きいお姉さん。

 ネズミのようなカチューシャをした白髪で水着を着た少女。

 

 「な、なんか! 女の子多くないですか!? それもちょっとエッチなの!」

 

 「あぁ!? よく見ろ! 他にもあんだろうが!」

 

 確かに、剣を持ったさわやかな少年とかライフルを構えた渋いおじさん、胸を大きく開いたタキシードのような衣装まとった色気のある男性。鎧に身を包んでキリッとしたお兄さん。神々しい男性等々。

 男性も色んなジャンルを描いているのはわかるけれど、それを差し引いても女の子が目に見えて多い。色々出ているところが出ている。大きい胸とか脇とが背中、太ももとかお尻とか!!

 特に一番最初に出た金髪のボブカットの女の子。衣装の種類が尋常では無い。

 これ、敦さんの趣味なのかな?

 あ、それにこの子結構胸大きい……って何考えてるの私!

 

 「……」

 

 ふと、自分の視線が胸元に行く。

 恐ろしいほどに真っ平ら。確かに、敦さんが描くキャラクターにもこんな子はいるけれど、なんだか負けた気になってしまう。

 い、イヤイヤ!

 あくまでこれはイラストであって、そんな邪なことなんてないはずだ。そうだ。そうに違いない。

 

 「あの、他のも見て良いですか?」

 

 「あぁ、いいぞ」

 

 一応、最低限の遠慮を取ってからまた本棚と向き合う。私の手じゃ届かないところがあるくらい高い本棚には、敦さんが画いた絵が記録されたファイルが最後まで並べられていた。

 

 「んっ……」

 

 私はそれに負けじとなるべく背伸びをして一番高いところのモノを取ろうとする。なんだかここでこれに手を出さないと本当の敗北者になってしまう気がする。

 

 「おいおい、危ないぞ」

 

 「いえっ…大丈夫です」

 

 賢明に手を伸ばすと、一番高い段にあるファイルに一つ触ることができた。爪先でなんとかたぐり寄せるとだんだん近づいてきた。

 

 「もう、ちょっと……っ」

 

 靴下のつま先立ちをなんとか伸ばし、ついにファイルを掴むことができた。

 が――

 

 「あっ!?」

 

 「涼風!」

 

 視界が回る。

 意識が点滅する。

 目の前に敦さんの顔が見えては暗転、それを何回か繰り返す。

 どうやら私は転んでしまったようだ。

 

 「大丈夫か? 涼風っ」

 

 「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと転んだだけ……あたっ」

 

 身を起こした時、上から何か振ってきた。敦さんの手にしては固いし軽い。私の頭の上ではねたソレは、乾いた音とともに床に落ちた。

 

 「これは……」

 

 私はそれを手にとって見る。それは、ディスク入っているケースだった。真っ白のソレは見覚えがある。それは、八神さんが見せてくれたフェアリーズストーリー3のβ版に使われていたディスクと似ていた。

 そして、そのディスクには油性のマジックで二つのことが書かれていた。

 

 『フェアリーズストーリー プロトタイプ版』

 

 『2008年10月15日』

 

 と。

 

 「おいっ!」

 「あっ」

 

 私が手に取ったそれを、敦さんに取り上げられた。

 

 「そろそろタクシー来るだろ。ここ片付けておくから」

 

 「あ、あの」

 「いいからっ」

 

 それはあまりに突然で、一瞬の出来事すぎて思考がついていけない。

 わかったことは、敦さんは私がそれを見た途端、異様な慌て方をしたこと。ただそれだけだった。

 

 「今日はありがとうな。ほら、さっさと帰れ」

 

 敦さんの不自然すぎるほど優しい口調でそう言われたわたしは追い返されるように部屋を出た。

 

 外ではタクシーが待っていた。帰るしか無い私は、運転手の人に挨拶してから車内にのり、家の住所を伝えた。

 タクシーにゆられながら、私はふと、先ほど目にしたディスクに書かれてあることを思い出した。あのディスクに書かれていることが少し気になったのだ。

 それは日付。

 2008年10月15日。

 今は2016年だから、あのディスクが作られたのは8年前のことになる。

 

 「ん?」

 

 そこで、私は決定的な違和感に気がついた。

 高卒だった八神さんがイーグルジャンプに入社したのは7年前。フェアリーズストーリーのキャラクターデザイナーになったのも七年前。つまり、開発が開始したのは7年前だという事になる。

 でも、あのディスクに書かれていた年数は、2008年、8年前のモノだった。それには確かに書いていた。

 『フェアリーズストーリー プロトタイプ版』

 と。

 

 タクシーに釣られて視界が揺れる。

 

 「あのディスクは…一体、なんなの?」

 

 窓ガラスの向こう側から覗くビルのまばらな光が、私をじっと睨んでいた。

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