NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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今回はドラマCDのネタです


業界にあった怖い話+

 佐藤視点

 

 マスターアップが刻一刻と迫る中、残業として夜遅くまで会社に残ることも多くなっていた今日この頃。仕事を片付けた俺は敦さんと増田の三人で帰り支度を済ませているところだった。敦さんはどうだか知らんけど。

 俺達三人が共に行動すると言うことは、意外と珍しい話では無いのだ。というか、開発チームで数少ない男性社員である以上、肩身の狭い思いをしているのは同じなのだ。共に行動する仲としては、十分すぎるくらいの状況だ。

 

 「途中まではまだ降ってなかったのに…傘、持ってきてよかったですね」

 

 オフィスの中はただでさえ暗く、外では雷と大雨が降っていた。

 

 「あぁ、全くだ」

 

 「敦さん、また風邪なんてひかないでくださいよ」

 

 「わかってる。これ以上身内に迷惑かけるわけにはいかないしな」

 

 風邪が治ったばかりでまた風邪をひいたらシャレにならん。特に敦さんに関しては一日だって休んで欲しくないのがディレクター達の願いであろう。本人はどれだけ酷使されれば気が済むのか知らんが。

 

 「残っているのはもう僕たちだけなんですかね?」

 

 「いや、今日はフルバックアップがあるから、葉月とかリーダーとか、何人か残ってるはずだ」

 

 「雷で停電したらマズく無いっすか?」

 

 改めて窓から覗く景色を見る。さきほどまで雨は小ぶりだったが、いよいよ本降りになり始めた。雷も何度か大きいのが落ちてきている。もしこのビルに直撃でもしたら最悪サーバーのデータ吹っ飛ぶのではと恐ろしくなってきてしまう。

 だが、敦さんが言うには杞憂らしい。

 

 「それに関しては問題ねぇよ。無停電電源装置が作動してる。サーバールームの方もな」

 

 そういう部分の知識についてはこの人の右に出る者はいないのだろう。実際、停電でデータが破損したとなれば発売中止になるのだ。会社としては大打撃になるだろうから、当然の措置と言える。

 

 「問題があるとすれば、アクセス集中とかによるサーバーが一部ダウンとかだな。開発が佳境になればそれだけ発生しやすくなるぞ」

 

 「敦さん、変なフラグ立てるようなこと言わないでくださいよ」

 

 「んなこと言っても仕方ねえよ。起きたら起きたで対処するしかねぇんだ。ほら、さっさと帰ろうぜ」

 

 「って、会議室に誰かいるんでしょうか?」

 

 オフィスに入る道中、暗くなった廊下を歩いていると会議室のドアが一つ開きかけているのに、増田は気がついた。そこから光が差し込んでいる。おそらく中に誰かいるのだろうが、こんな時間に会議なんてやるか?

 それこそ、先ほど議題にあったバックアップの件ならば話は分かるのだが…。

 

 「ぎゃああああああああ!!」

 

 「「「!?」」」

 

 会議室の中から、甲高い悲鳴が聞こえた。

 夜のイーグルジャンプ。外はただでさえ雨雲で月明かりすら入ってこないこの薄暗い場所で、そんな悲鳴を聞いて驚かない人間がはたしているだろうか。

 どちらにせよ、確認しないわけにはいかない。

 俺達は駆け足で件の会議室へ向かう。すぐさま開きかけていたドアを全開にして、中の様子を伺うと

 

 「って、お前ら何やってんだ?」

 

 「うわぁ! ってなんだ佐藤達かぁ。びっくりさせないでよぉ」

 

 俺達が扉を開けたのに驚いた八神はとりあえず無視して状況を把握する。

 会議室の中にいたのは、キャラ班の面子、プログラムのうみこに、ディレクターの葉月さん。さらには、さっき帰ったはずの桜までもがいた。

 

 「おい葉月、お前また好みの女囲んで何してんだ?」

 

 「心外だねぇ敦君。私達は、夏恒例、男子禁制のこわ~い話大会の真っ最中なのさ」

 

 「うちにそんな恒例行事ねぇだろうが」

 

 なるほど。

 さっきの悲鳴はそれか。

 おそらくこの中の誰かが特段良いネタをぶっ込んだのだろう。だから会議室の中を各々が囲い会うように座っているのか。

 それで、さっきの悲鳴の正体だが、それも見当が付いた。涼風の腕に抱きついている桜だ。元々そういうのが苦手な八神を覗いて、他の面々とは一線を画す怯え方をしている。

 ……どれ。

 

 「なぁ、桜」

 

 「えっ!? 私!?」

 

 「車のバックミラーを見たら、首の無い女が乗っていて――」

 「ぎゃああああああああ!!」

 

 「ちょっとアソビに行こうとしたらうみこに見つかって――」

 「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 「…ある日、森のクマさんが――」

 「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 「勢いで怖がってるだろ、お前」

 

 涼風と言い、桜といい、本当に面白い反応を返してくれる。

 が、少々やり過ぎたようだ。さっきのネタの余韻もあるのか今にも泣きそうになってしまっている。あぁ、スッキリした。

 

 「サトーさんのバカ。怖くて帰れないよぉ」

 

 「ねねっちを苛めないでください!」

 

 「もう、佐藤君。あんまりねねちゃんを怖がらせちゃだめよ」

 

 「…俺のせいかよ」

 

 遠山に叱られるが、正直これで怖いレベルに入るか?

 文脈なんてあったもんじゃ無いし、ちょっと深刻な雰囲気で話しただけだ。それに、思わぬ形で飛び入り参加してしまったのだ。何も話さないよりかはマシだろ。

 しかし、悪者扱いも気に喰わん。

 

 「ったく、しょうがねぇな。車で家まで送ってやんよ。夜遅いし、雨もしばらく止まないだろうし」

 

 「…佐藤さん、ありがと」

 

 「あと三人くらい乗れるけど、他に乗りたいヤツいるか?」

 

 「あ、佐藤君、私いい?」

 

 「うちもお願いします」

 

 「じゃあ私もお願いしていいですか?」

 

 この場で手を上げたのは、遠山と飯島、涼風でちょうど三人。

 どの道長丁場になる。多少増えても構わん。しかし、遠山の方は、まだフルバックアップを確認するまでは帰れないという。

 それまで、この怪談大会に興じる羽目になるわけだが、俺はもうネタを言ってしまったわけだし、見たところ、ここにいるのも全員話し終わった後のようだ。

 だとすると、他に話せる人と言えば……。

 

 「敦さん、なんかあります?」

 

 「俺か?」

 

 「敦君はホラーが苦手だからねぇ。そういうのできないんじゃないかなぁ?」

 

 「あぁ? ならやってやんよ。SANチェック失敗しても知らねぇぞ」

 

 葉月さんに発破をかけられた敦さんは、乗り気になっているのか饒舌に話始めた。

 

 「とあるゲーム会社に出向してきた親会社の役員が、その会社の経費削減のために一人のベテランデバッカーをクビにしたたんだ。おかげで人件費が少し減り、バグが減ったので大幅に人月が少なくなった。その役員は評価されて本社に出世して帰ったそうな。めでたしめでたし」

 

 「「「「「いやよくなーい!!」」」」」

 

 ある意味、この場所で一番恐ろしいことを抜かしやがったよこの人。

 

 「あ、敦さん、それって、バグが無くなったのではなく、見つからなくなったってことですか?」

 

 怯える涼風が言うとおり、バグが減ったってだけで、バグそのものが無くなったわけではない。つまり見つけることができなかったバグが放置され、そのまま発売されると言うことになる。何が質が悪いってそれをやった張本人がチャッカリ出世して、その会社から出て行ったことだ。

 挙げ句、その責任をおっ被せられるのは親会社では無くそのゲーム会社。普通にうちの会社でもあり得る話だ。

 実際、その場にいるうみこや葉月さん、遠山に関してはもう怖がるのを通り越して、今にも身体を壊してしまうそうなくらい青ざめている。

 

 「すみません、少し気分が悪くなって来ました」

 

 「私もちょっと目眩が…」

 

 「……敦君、その話は本当に具合が悪くなるから止めたまえ」

 

 「はっ、ざまあみろ」

 

 してやったり顔の敦さん。

 まぁ、葉月さんからは普段からの鬱憤があるのだから当然と言えば当然か。

 その点で言えば、桜は良くやれているほうなのだろうな。実際、うみこも敦さんも評価してたし。バグはない方がいいに決まってるが、見つからないと不安。

 なんとも歪なジレンマだ。

 

 「さて、あと話してないのはお前か、増田」

 

 「ぼ、僕ですか!?」

 

 俺に呼ばれて大げさに肩と白い髪を揺らす。

 落ち着きが無いのと、さっきまで黙っていたのはわかる。コイツ、あんまりこういう場所が苦手なのだ。特に、女性が多い場所。

 今この瞬間がまさにそうだ。正直、話の流れで声をかけてしまったのを後悔している。ただでさえ苦手な女性が多いのに、その中心で話をしなければならんのだ。

 

 「純…君、あの、無理…なら、話さなくても、いい…よ?」

 

 「あ、そうでしょうか」

 

 見かねたのか、滝本が助け船を出そうとする。

 が、

 

 「あ、よく見たらこの子、噂になってたひふみんの気になる人じゃーん」

 

 「「!?」」

 

 八神が突っかかってきた。そう言えば、この前、滝本に気になる男ができたと話していたな。

 あぁ、増田のことだったのか。サウンドとキャラ班って遠いからあんまり縁が無いと思っていたがそうでもないのだな。

 

 「!? そ、そんなこと…ない、よ」

 

 「ほんとにぃ?」

 

 「ひふみ先輩って、こういう人が好みなんですねぇ」

 

 「えっ…ぅ、その……あの…っ」

 

 戸惑う滝本を見るのが面白いのか、なぜか篠田まで便乗している。

 助け船を出したせいで、滝本に矢面が集中している。こう女性が多い場所だと色恋沙汰というのは話題やいじりのタネになるのは宿命なのだろうが、正直これは俺にも若干被害が出そうなのでなんとかせねば。

 

 「…あ、思い出しました」

 

 と、俺が何か言い出す前に増田が何かネタが浮かんだようだ。

 

 「へぇ、増田。なんだよ。言ってみろ」

 

 滝本を助けるためにも、あえて俺は増田の話に乗ることにした。おそらくコイツは滝本に気がある。本人が自覚してるかは定かでは無いが、ここは共同戦線と行こう。

 

 「えっと、ちょっとした噂なんですけど、この会社で女の子の幽霊が出るって聞いたことがあるんです」

 

 「「……え?」」

 

 滝本に迫っていた二人が固まる。

 増田も余裕が無いのか、たどたどしい口調で続けた。

 

 「なんか、夕方とかに出たって話を他のチームの人が話していたんです。場所はたしか…、滝本さんがいるキャラ班の近く」

 

 「「!?」」

 

 そのたどたどしい口調は、ある意味の現実味のある話し方となり、不思議と恐怖心の煽る形となった。つーか、俺の持ち場じゃねぇかそこ。

 

 「見たって人は2人ぐらいいて7月の中頃の夕方に忘れ物を取りに行った人そんな人影を見たとか」

 

 「ねぇ、一旦ストップ、ねっ!」

 

 「そ、そうですよ。一旦落ち着きましょう!」

 

 彼女たちが必死に止めようとする。当然だ、そこは彼女達も持ち場でもアリ、八神が寝床にしている場所でもある。そして、今が七月であることも、恐怖を増長しているのだろう。

 増田も話すので精一杯で、周囲の制止を聞いている余力が無い。

 

 「あと、10月の末にも」

 

 「ねぇ! ちょっと! 話聞いてよ!!」

 

 「窓からずっとこっちを見ている女の子がいるって通報が実際に――」

 「「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」」

 

 

 ●

 

 純視点

 

 その直後、雷がビルに落ちて停電が起こってパニックになったあげく、パソコンのデータやらサーバーのバックアップやらでてんやわんやになったわけだが、両名無事だったため、僕達は家路につくことができた。

 僕は滝本さんと一緒に最寄り駅まで向かっている最中だった。先ほどまで振っていた大雨も止み、濡れた歩道が街灯に照らされて小さく反射している。

 

 「……なんか、すみません」

 

 「え? どう、して?」

 

 僕は滝本さんに謝った。それは最後に話した女の子の幽霊の話。

 彼女が矢面に立ってしまうのをなんとかするためとはいえ、自分が働いている場所がそんな曰く付きであるという話をしてしまったわけだ。

 怖がらせてしまったかも知れない。

 

 「……別に、気にして…ない、よ?」

 

 そういう滝本さんは、怖がっているわけでも、気丈に振る舞っている訳でもない。普通にいつも通りの様子だった。

 

 「だって、お化けは…生きて、ない…から」

 

 「え?」

 

 「実体が無くて、見えないなら、別に…鬼とか、妖怪とか、ゾンビみたいな、生きてる…みたいな、襲ってきそうなのは…怖いけど」

 

 「……」

 

 滝本さんらしいと言えば、滝本さんらしい考えだ。幽霊なんかよりも人間の方が怖いって話はありきたりな話ではあるけど、ある意味心理だ。とはいえ、そう聞くと逆に申し訳なくなって来てしまう。

 

 「……なおさら、すみません」

 

 「え?」

 

 「だって、滝本さん、話すの苦手って言ってたから、あんまり話しかけない方がいいのかなっておもっちゃって」

 

 実際、今もこうして滝本さんと一緒に帰っているわけだ。帰り道が一緒だってこともあるけれど、男の人が得意じゃ無い滝本さんが気まずい思いはしてほしくない。

 

 「…そんなこと、ない。だって…純君は、怖く…ない、から」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 俯いているせいで顔はよく見えないけれど、確かにそう言ってくれた。

 

 「あ、そろそろ駅、着いちゃった、ね」

 

 「そうですね。じゃあ、僕は向こうの電車なので」

 

 どうやら滝本さんとは逆方向の電車らしい。彼女と一緒に帰れるのはここまでのようだ。

 

 「じゃあ、お疲れ様です」

 

 「うん、お疲れ」

 

 先に電車に乗った滝本さんを見送る形で、お互い帰路につく。

 別れ際、さっきまで見れなかった滝本さんの顔は、ちょっとだけ笑っていた。

 

 ●

 

 佐藤視点

 

 俺は夜の街を車で走らせる。まだまばらに降っている雨が車のボンネットを小さくたたく音が聞こえる。

 

 八神は会社に泊まるつもりで、篠田は雨が止んでから自転車で帰るはずだったのだが、増田の話を聞いて怖くなったのか、俺の車に乗せて欲しいとせがんできた。

 が。

 

 ――悪いな八神、この車四人までなんだ。

 

 と言って断ってやった。

 涼風と桜、飯島はもう家に帰して、車に乗っているのは助手席に座っている遠山だけ。

 

 「いいのか? 八神、置いて来ちまったけど」

 

 「うん。気にしないで。それに」

 

 「それに?」

 

 少々、遠山に悪い気がしたが彼女はそう思っていなかった。

 真意を聞くために話を聞くと、落ち着いた口調でゆっくりと話始める。まるで、我が子を寝かしつける様に優しい声で。

 

 「多分、その女の子の幽霊。悪い子じゃないかなって思って」

 

 「…なんで?」

 

 「だって、7月の中頃と10月の末。お盆の日とハロウィン。どれも、幽霊たちが現世に戻ってくる日」

 

 「ああ、確かに」

 

 この会社で働いていると季節感を忘れることがよくあるから、彼女に言われて初めてそれに気がついた。

 

 「だから、その子はちゃんと成仏してて、お盆の日だけじゃもの足りないから、ハロウィンの日にも来てくれたのかなって。確かにその子が死んじゃたのはとても悲しいことなのだけど」

 

 最後に彼女は笑いながら言って見せた。

 

 「その子がそれだけ大切にしてくれてた場所で、コウちゃんと佐藤君に出会えたんだなって思うと、素敵だなって」

 

 「……そうか」

 

 横目で覗くその笑顔を見ると、とても穏やかで優しい顔。それは、俺が確かに惚れた、遠山りんの一番の笑顔だった。




次回は新しい主人公が登場の予感!?
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