NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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とある夏の日

 柚貴視点

 

 俺にさしかかってくる日照りに目を細める。

 趣味の徘徊、家にいても落ち着かなかった俺は10分程度で先の自分の行動を後悔した。

 

 暑い……。

 

 家まで歩いてさほどの距離ではないが、ここまで暑いとそれすら憂鬱になる。だがいつまでたっても暑いままだ。暑さ寒さは苦手では無いが、ここまで来るとうっとうしい。早く家に帰って冷房のかかった部屋で寝よう。

 

 意を決して歩く足を動かす。

 薄手だが長袖の和服に今の湿った熱気は相性が悪いのか、すぐに汗がわきでてくる。そしてそれが和服と肌に張り付くのが気持ち悪い。

 帰ったら風呂に入ったほうがいいかもしれないな。和服はさすがに手入れしないといけないだろう。面倒だが、脱いで部屋のどこかに置いていれば名波の小言が出てくるに決まってる。

 と、帰ったあとのことを考えながら帰路を歩いていく。そのうちマンションの近くまでそろそろだなと思ったところ、見慣れない光景を目の当たりにした。

 道のすみにコンビニがあった。だが、このあたりでコンビニなんて見たことない。どうやらできたばかりのようだ。

 その証拠に、ただのコンビニにしてはずいぶんと派手な旗や横断幕が蒸し暑い風に煽られている。

 

 どういうわけか、ただのコンビニのはずなのにやけに気になる。コンビニの飯なんていつも食べてるのに。

 

 「……そういえば」

 

 そこまで考えて少し前のことを思い出した。

 アイツだ。あのやかましいアイツが、俺の部屋に持ってきたモノのこと。それもコンビニで買ってきたものだった。袋に印刷されていたロゴと、今目の前にあるコンビニの看板のロゴが一緒だったはずだ。

 結局アイツが全部食べちまった菓子類の中に混じってた、あのうまいのかまずいのかよくわからないあのシャーベット。

 冷たいものは基本的に好きではない俺は、興味本位で食べてみたが、どこが柚子なのかよくわからなかった。ただ、シャーベットの中に混じった柚子の皮から香る柑橘系のそれっぽい雰囲気と、変な甘さが妙に癖になった。

 

 「……」

 

 まぁ帰ってから寝ることしかやることがないから適当になにか買っておくか。

 駅から歩いて汗をかきすぎたこともあって、俺は少しコンビニで道草を食うことにした。コンビニの中も冷房はかかっているだろう。少し涼んでいくのも悪くない。

 

 コンビニの入り口まで歩いていくと、軽快な音楽とともに自動ドアが開く。店内は予想通り冷房がよく効いている。むしろ寒いくらいだ。

 

 レジに立っていた店員がこっちに向かってハキハキとした声で挨拶してくるが、受け答えする義理はないのでそのまま店の中を歩き回る。

 こういうのにはコンビニ側がどういう風に客を歩かせるか店の構造で決めているらしいが、この店はどういう風に客を歩かせるか知らん俺は適当に歩く。

 

 棚に陳列された商品を眺めていると、大きな長方形の箱が、棚の棚の間に空いたスペースにどっしりと構えてあるのが見えた。アイスクリームや冷凍食品の冷蔵庫のようだ。

 中身をよく見ると、あのときアイツが買ってきたシャーベットも入っている。

 

 ・・・・・・何を考えてるんだ俺は。別にこんなもんほしくてこの店に来たわけじゃないだろう。

 ここまできて自分の行動に疑問を持つ。まるでわざわざこれを買いに来たみたいじゃないか。別にこれがうまかったわけじゃない。あの時食べたのだって、アイツがバイトでうちに来なかったから、いつまでも冷凍庫に残っているそれが鬱陶しかっただけ。

 だから、そういうことは微塵もない。そんなの、俺らしくないだろう。

 

 「・・・・・・」

 

 冷蔵庫の中にあるシャーベットを見ながらふと思う。

 とは言っても、この店に買うものなんてないしな。別になにも買わずに帰ってもいいが、それも後味が悪い。

 俺はひとまずすぐ近くに重ねられてあるかごを手に取ると、いつも家の冷蔵庫に入れてあるのと同じ水を入れる。あと買うものなんて言ったってこれしかないか。

 俺は冷蔵庫の中に手を伸ばして、そのシャーベットを2つ手に取る。こんな暑い日だ。2つくらい買っておいたほうがいいだろう。

 

 2つのシャーベットをかごに入れてレジに向かう。

 レジにはさっき挨拶してきた店員が、愛想よく俺の持ってきた商品を受け取ってバーコードを読み取っている。天然水とラクトアイス2つだ。コンビニとはいえこれくらいなら別に高くもなんともない。

 俺は財布の中にある千円札を差し出す。それを受け取った店員は,釣り銭を俺に返したあと俺が持ってきた商品が入ったレジ袋を差し出す。

 受け取った俺は、愛想よい挨拶で俺を見送る店員を背にしてゆっくりとした歩調で店を出る。

 

 店の外は相変わらずの気温だった。さっきの冷房の効いたコンビニの店内とはまるで別世界にきたみたいだ。

 この暑さだとせっかく買ってやったシャーベットが溶けてしまうと思ったが、気の利く店員だ。袋のなかをよく見たら保冷剤が入っている。この分なら家に着くまでにとけることはないだろう。

 袋の中にある天然水だけ取り出して、ペットボトルのふたを開ける。そして一口。

 さっきまで店の中で冷やされてたから、中の冷たい水分が炎天下にさらされている俺の体に染み渡っていく。だが、その程度でどうにかなるものでもなく、早く家に帰られねば本当に倒れてしまうだろう。

 さて、また歩くか。と、あきらめのこもったため息をつきながら俺はマンションを目指して歩く。

 

 結局、コンビニからマンションまではさほど距離はなかった。

 保冷剤はいらなかったかもしれないが、わざわざ察して入れてくれた厚意は受けてやらねば。

 暑い道の中、道中誰ともすれ違うことなく俺は部屋にたどり着いた。買ってきたシャーベットを冷凍庫に入れる。

 

 汗ばんだ和服を脱衣所で脱ぎ捨てた俺は、シャワーを浴びて煩わしい汗を洗い流す。部屋着代わりに着ているワイシャツに着替えた俺はエアコンのリモコンで冷房をかける。とはいっても、この空間が涼しくなるまでだいぶ時間がかかりそうだ。部屋はさっきまで冷房をかけてなかったから当然暑い。

 このままだと、冷房が効いてくる前にまた汗をかいてしまうかもしれない。それはいやだ。

 

 今更後悔しても仕方がない。ほかに涼む方法はないものか。

 あぁそうだ。そこまできて思い出す。

 あのシャーベットだ。先にシャワーを浴びてたから忘れてた。あれなら多少は時間を稼いでくれるだろう。

 俺は冷凍庫を開けて2つあるシャーベットのうち1つを取り出す。そしてリモコンをベッドに放り投げた俺はベッドに座った。自由になった手でシャーベットのふたを開ける。

 思い付きで買ったようなものだが、こういう時くらいしか食う機会なんてないだろうから、食べてやろう。

 

 保冷剤と一緒に袋に入れてもらった木のスプーンで、柚子の皮が混じったシャーベットを突きながら掬っていく。

 俺はそれを口に運ぶ。

 

 「……」

 

 これだ。このうまいのかまずいのかよくわからないこの味。

 容器には柚子とかいいながら果汁1%しか入ってない。それでどこか柚子なのだろうか。

 ただ、そのほのかに香るそれっぽい雰囲気と、甘酸っぱいシャーベット特有の食感、そして後味のスッキリさがこんな暑い日に食うと落ち着くんだ。

 

 俺は繰り返す。木のスプーンで突いて崩したそれを、掬っては口に入れる。

 妙に癪に触るのを堪えながら。

 

 ──食べ終わったころには、部屋の冷房は十分行き届いていた。

 さっき脱衣場で脱ぎ捨てた和服を一通り手入れしてから俺はベッドに寝っ転がる。やっぱり休むときは家で寝るに限る。

 そのうち体が脱力していき、心地よい睡魔が迫ってくる。いかに鍛錬しようとも抗えないその甘い囁きに身を委ねる。

 どういう時だって、寝ることはいいことだ。

 重くなるまぶたを閉じて、自身の状態を完全に寝る状態にシフトさせたその時だった。

 

 「──ゆずっちー! 遊びに来たよー!」

 

 俺はブチギレた。

 玄関が突然開く音がした途端、俺は寝転がっているベッドの上にあった枕を投げつけた。

 ヤツだ。最近暇があればうちに上がり込んでくるだ。俺はヤツのせいでここ最近のずっとイライラしている。

 さっき俺が食ってたシャーベットを持ってきた、最近暇があればうちに上がり込んでくるアイツだ。俺はアイツのせいでここ最近の睡眠を大分邪魔されている。

 投げ返してくる枕を細目で受け流す。

 

 

 「ちょっ! 何すんの! せっかくご飯とか買ってきたのに!」

 

 ヤツが投げ返してくる枕を細目で受け流す。

 

 「なんだ、この不法侵入者! そんなレトルト、頼まれたっているもんか!」

 

 ほんと何しにきたんだコイツは?

 人がゆっくり昼寝しようとしてこれから眠ろうという絶妙なタイミングでうちに来やがって。 

 

 「……ったく、何しに来たんだよ?」

 

 「ヒマかなーって思って」

 

 「……」

 

 ぶっきらぼうに尋ねると、大した理由なんて返ってこなかった。

 コイツ、前に俺をからかいやがったこと、もう忘れてんじゃねぇだろうな。そのあと悲鳴が聞こえてたけどそんなの知らん。どうせうみこあたりにシメられたんだろ。自業自得だ。

 

 眠気はないが相手にしたくないから俺は布団に潜り込む。

 すると布団の向こうから桜の声が聞こえてくる。申しわけなさそうな声だ。

 

 「一応、この前のお詫びも持ってきたのに」

 

 桜にしては妙にしおらしく話すので、布団から顔を出した俺は桜を見たとき変な箱を見た。

 

 「……なんだそれ?」

 

 俺はそれを指差して聞いてみることにした。桜の手にはコンビニで買ってきたと思われるレトルト食品の入ったレジ袋の他に、他に取っ手のついた箱のようだ。

 輪っかのようなものがプリントされている。

 ドーナツか? ……なんでそんなもの。

 

 「あ……えっとね、この前からかって怒らせちゃったから……」

 

 「……」

 

 罰の悪そうに眉を八の字にしている桜を見ていると、なんだかこっちまで居心地が悪くなっていく。ここは俺の家なのに。

 あぁまたこれだ。コイツが来るたび追い出したくなるのにどういうわけか俺はコイツを追い出せない。

 だからこうしてイライラしてくるんだ。

 

 「……あがれ」

 

 「え?」

 

 「いいからあがれ!」

 

 「う……うん」

 

 ●

 

 部屋の真ん中にテーブルを置いて、桜と二人でドーナツを囲む。

 桜はドーナツを咀嚼している。

 ……喋りながら。

 

 「ほれれね、あほっちったらわたひがふぁいふぁにいふぇないのに──ムグッ…」

 

 「食いながら喋るな」

 

 俺は桜の口を手でふさぐ。行儀がなってない。もっと落ち着いて食べられないのか?

 まぁ、言っても無駄か。

 

 「んくっ……あおっちね、私が会社に行けないのに会社のみんなとドーナツ食べてたんだよ。そんなのずるいよー!」

 

 ようやくドーナツを飲み込んで話始める。

 桜が話しているのは自分の幼なじみのこと。聞くと本当に子供の頃からのつきあいらしい。今の子供みたいなものだが。

 

 「・・・・・・」

 

 「どうした?」

 

 その幼なじみについて話を始めた途端、桜の様子が少し変になる。さっきまではしゃいでたのに、その陰がまるでない。元々コイツは感情のテンションの差が大きいから別に今に始まった話ではないが、少し気になったので訪ねてしまった。

 

 「今日土曜日なのに、あおっちまた会社に行ってるから少し心配になって・・・・・・」

 

 「忙しけりゃどこの会社でも休日出勤くらいするだろ」

 

 いちいち心配することでもないだろ。と付け加えながら俺は言う。本人がやりたいと言ってやり始めたことなら、他人がいちいち口出しする義理もないだろう。

 

 「でもね、会社に泊まったりとかしてたし、あおっちの会社っておかしいんじゃないの?」

 

 「ふーん」

 

 俺はドーナツをほおばりながら適当に返す。

 会社に泊まるのか、確かにそれは少しやばいのかもな。最近いわゆるブラック企業なんて言葉をよく聞くし。確か、ゲームを作ってる会社だっけ?

 俺には全く縁の無い世界だから全くわからない。

 にしても、これ、うまいな。いや、本当にうまい。まるで宝石の指輪のようだ。

 

 「ちょっと~まじめに話してるのにちゃんと聞いてよ~」

 

 「そんなに心配なら、本人に言えよ。お前が心配して受け答えできるうちはまだ大丈夫だろうさ」

 

 「ゆずっちって友達いないのにそこまでわかるものなの?」

 

 「お前なぁ・・・・・・」

 

 桜の無神経な言葉が俺を苛立たせるが、一応真剣な顔で話しているから話は聞いてやる。

 桜は自分の幼なじみのことが心配であの会社のアルバイトを始めたと言うし、こればっかりは幼少期か道場の連中以外に人付き合いのなかった俺が言えたことではないか。

 

 それに対していちいちコイツにキレてても仕方がない。相変わらずイライラするが、今日はこのドーナツに免じて許してやろうじゃないか。俺だって高校の時はいろいろこの性格に矯正したせいでいろいろ言われたが鬼や悪魔じゃない。

 

 「・・・・・・」

 

 ドーナツを食べ終わったあと、桜は退屈になったのかせわしく部屋を見渡している。コイツがうちに来るようになってしばらく経つが、俺はコイツがじっとしてるところを見たことがない。

 常に周囲を見てるくせに、すぐ近くのことを忘れる。この前は暑いとか言って靴下脱いだまま帰っちまったこともあった。落ち着きがないんだよなコイツ。

 

 「ねぇゆずっち」

 

 「なに?」

 

 「あれなに?」

 

 桜が指さしたのは俺が大学に行くときに使っている鞄。その中にレポート用紙が挟まれたクリアファイルがはみ出ている。

 当然俺はそれが何か知っている。

 

 「なにって・・・・・・大学の課題に決まってるだろ? やらないと名波がうるさいからな。まだ全部できてないがこの分なら夏休みが終わる頃には――」

 

 「ぁ・・・・・・っ!」

 

 視界を桜の方に戻すと、桜の顔はどんどん青ざめていく。

 まるで、そんなもの今この瞬間知ったような顔だ。まさかコイツ・・・・・・。

 

 「桜・・・・・・お前、課題やってないのか?」

 

 「え・・・・・・えっと・・・・・・進捗ダメです!」

 

 「人の心配より自分の心配をしろお前は!」

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