NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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サーバールームスパイラル 後編

 佐藤視点

 

 「もーっ! ひどいですよ佐藤さん!」

 

 「なんだよ。ちゃんと帰りに拾ってやったろ?」

 

 「それも最初はスルーしようとしてたでじゃないですか!」

 

 サーバールームに閉じ込められていた涼風を拾ってオフィスに戻る道中、涼風は俺ににさっきの仕返しをしようと手を振り回すが、俺に頭を抑えられて抑えられて絶妙に届かない。

 結局涼風は俺に一発も届かないまま戻ってくることになった。

 社員証でオフィスの扉を開けて、中に入るとちょうど遠山がいた。

 

 「あら、青葉ちゃん? コウちゃんが探してたわよ?」

 

 その言葉を聞いた涼風はまた、サーバールームから出てきたときのような顔をした。

 遠山の口から八神が探していると言うフレーズを聞いて、八神がブチキレながら私を探している光景が頭に浮かんでいるのだろう。

 敦さんは多分まだプログラムの方にいるだろうし、下手に事情を話そうとしても言い訳にしか聞こえない。

 ったく、しかたねぇな。

 

 「あぁ、なんかコイツ、敦さんに頼まれてサーバールームまで行ってたんだよ。それで、なんか閉じ込められてた」

 

 言葉を選んでいる涼風に変わって、俺が事情を簡単に話す。

 

 「えっ……そうなの? 青葉ちゃん」

 

 「はい、佐藤さんが来てくれなかったらずっと閉じ込められてたかも……」

 

 「っ……」

 

 涼風も俺に同調して事情を話すと、急に遠山の表情が目に見えて悪くなっていく。というか、本当に顔色が悪い。まるでさっきまで閉じ込められていた涼風みたいだ。

 だが、遠山はこれ以上何かを追求してくることは無かった。

 

 「あの、りんさん?」

 

 「ご、ごめんね。本当に、ごめんねっ!」

 

 本当に体調が悪くなったのか、あまりにも大げさに謝りながら背景班のブースへと走って行ってしまった。

 いつもの落ち着いた遠山に似合わないその様子に、俺と涼風は顔を見合わせて首を傾げた。

 

 「なんだったんでしょうか?」

 

 「さぁな。つーか、早く戻らなくて良いのか? 多分、八神のヤツキレてるぞ?」

 

 「あぁ! そうでした!」

 

 「ま、俺も一緒に事情話してやるよ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 慌てていた涼風の表情が一気に明るくなる。こういう風に表情と感情が豊かなところがコイツの美徳なのだろう。

 八神と対等に話せるヤツって、このチームの中だと遠山と敦さんと俺くらいしかいないからな。普段は髪の毛を弄ったり、子供扱いしてからかってるから、こういう時くらい先輩らしいコトしないとな。

 

 「んじゃ、さっさと八神のとこ行くか」

 

 「はい!」

 

 「閉じ込められて子供みたいに泣いてましたって」

 

 「っ! もー! 佐藤さんのバカー!!」

 

 しかし……

 

 「あれ? りんから何も聞いてないの?」

 

 「「?」」

 

 涼風が持ち場を離れたことに対する言い訳のため、俺も涼風と一緒に八神のところに話をしに来たのだが、八神は妙なことを話し出した。

 なんでそこで遠山の名前が出てくるのかわからず、俺と涼風はさっき同様顔を見合わせる。

 

 「まぁとりあえず事情は分かったし、サーバーも復旧したし青葉も作業に戻ってよ。ちゃんと遅れた分取り替えしてね」

 

 「がっ、がんばります!」

 

 あまり深く考えるのを辞めたのか、八神は涼風を仕事に戻した。

 どうやらそれなりの時間閉じ込められていたようで、涼風の今日の残業が確定したようだ。まぁ、今日は緊急事態だったし仕方ないか。

 涼風も仕事に戻ったし、サーバーも復旧した。あと気になることと言えば……。

 

 「そういえばさ、今日のりん、なんか変なんだけど、佐藤は心当たりある?」

 

 「いや、別に」

 

 「そっか。わかった」

 

 八神でさえ、峠を越えたばかりであるためか、そこまで追求する余裕は無いようだ。とはいえ、気になるといえば確かに気になる。

 遠山があそこまで動揺することと言えばなんだ?

 例に挙げるとすれば、この前の幽霊事件の話か。よくアイツあんな嘘信じたよな。

 よほど追い詰められていたのか、あるいは本当にただのバカなのか。

 まぁ、バカでよかった訳だが。

 あとはそうだな。八神に良い感じの男ができたとかか?

 これが一番信憑性がある説だが、これも少し根拠に欠ける。というのも、おそらく、今日の遠山の様子がおかしいのは、涼風の件と関係があるものだろう。

 それとこの説が繋がるシチュエーションを俺は想像できない。

 

 「こればっかりは本人に聞くしか無いか」

 

 背景班のブースを出た俺は、遠山を探して社内を歩き回る。少なくとも背景班のブースにいなかったから、ヤマを張るとなると、給湯室とか葉月さんのところかのどちらかだな。

 トイレに関してはもう仕方が無いと割り切るしかない。

 まずは給湯室からだな。

 向かってみるといた。

 遠山はコーヒーを淹れていた。

 自分の分ではない。こういう光景はいつも見る。遠山はポッドの中のコーヒーが無くなれば、いつも気にかけて新しく淹れるのだ。

 その行為自体は至って普通だ。だが様子が明らかにおかしいのは遠目で見ても明らかだった。

 

 「おい、遠山」

 

 「!? な、何? 佐藤君」

 

 完全に上の空だったのか、遠山は俺に声をかけられてようやく反応した。

 挙動不審で落ち着きがない様子で。

 

 「今日のお前、なんか変だけど、何かあったのか?」

 

 「な、なんでもないの」

 

 「……なんでもないように見えんのだが?」

 

 遠山の手元を見ると酷いことになっている。さっきからは絶えずお湯を流しているせいかもうポッドからコーヒーが溢れてしまっている。

 遠山がこんな状態になるなんて、よほどのことしかない。本人も自覚はあるのか、急に背中を見せた。

 

 「……佐藤君」

 

 「……何?」

 

 「私のこと…………好き?」

 

 「っ……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……まぁ…………まぁまあ」

 

 彼女の震えた声から出たその問いに対して、この十数秒以上の沈黙の末、俺が出した答えはそれだった。いや、語弊がある。

 それしか言えなかった。というのが正しい。

 俺の答えを聞いて、遠山は小さく肩が震え始めた。

 

 「わ……私は、佐藤君にまあまあ好かれる価値も無い子なのっ!」

 

 「っ!?」

 

 突然走り出した遠山は、俺の脇をすり抜けて給湯室から出て行った。そして去り際に、

 

 「私はダメな子なの!」

 

 と叫んで。

 

 「……はぁ」

 

 一人取り残された俺は、先ほどの答えが間違いであったことを知り、情けないため息をこぼすしかなかった。

 そして遠山とすれ違うように、給湯室から人影が入ってきた。遠山と比べて背が低く、クリーム色の髪をしたフリルの多いワンピースの女性。

 服装が派手だから見覚えがある。飯島ゆん。キャラ班の一人で、先日、八神が噂していた件の人物。

 俺はソイツと目が合った。

 

 「……なんだよ?」

 

 「い、いえっ!」

 

 半分八つ当たりだが、俺に睨まれてビビったのか、そさくさと給湯室へ用事を済ませて彼女も出て行った。

 あぁ、多分さっきの会話聞かれたな。

 最悪だ。バレてはいないと信じたいが。

 

 俺はまた一人残された給湯室の中で、小さくため息をこぼすのだった。

 

 ●

 

 ゆん視点

 

 佐藤さんから逃げるように急いで給湯室を飛び出した。

 情報が多すぎて整理が全然できひん。

 なんか変なタイミングで入ってしまったせいで会話の文脈がわからないまま、りんさんが急に飛び出してきて、佐藤さんが落ち込んで、その上、なぜか睨まれて。

 最後の絶対八つ当たりやろ。

 前も青葉ちゃんが良くターゲットにされてるし。

 だけど、途中に見せたあの落ち込んだ表情がひっかかる。

 

 「でもあの感じ。佐藤さんってもしかして、りんさんのこと好きなんじゃ」

 

 少なくとも、私が考え得る範囲で、逃げ出した女性と取り残された男性という状況というのはそういう、恋愛が上手くいかなかったときのこと。 

 というか、前々から佐藤さんって何かとりんさんに対して優しかったり、八神さんに対してキツかったり……。

 

 「ん?」

 

 そう言えば、確かりんさんって八神さんのこと気にかけてるって域じゃないほどに意識しているし。あれって、もうそう言う目で見ているとしか……。

 そこまで考えがまとまってきた途端、自分の脳内の相関図が更新される。

 

 「もしかしてこれ、三角関係……?」

 

 いやいやいやいや、流石にこれだけの情報だけで決めつけるのは早すぎや。

 冷静に考えてみれば、佐藤さんとりんさんの話している内容が全然わかっていない。完全に自分の憶測でしか無い。

 もしかしたら違うかも知れないし、勝手に思い込むのはよくない。

 

 「今日のりんちゃん、なんだか変ね」

 

 「そうすっね」

 

 一人、ブースの外れで思案していると、別の通路から佐藤さんともう一人、ガタイの良いピアスをした男性?が歩いているのを見つけた。

 確かこの人は花男さん。葉月さんとは仲の良い、他のチームのディレクター。

 なぜか彼と佐藤さんが一緒にいるのはよく見かけるのだ。

 ……やっぱり気になる。少し聞き耳を立ててみよう。決してやましい気持ちはない。事実確認もせずに憶測で考えを進めることこそ佐藤さんに失礼や。

 そうや。そうに決まっとる。

 

 「花男さん、何か知りませんか?」

 

 「あら、りんちゃんのことが心配? 相変わらず片思いは大変ね」

 

 「えーっ!?」

 

 「「?」」

 

 花男さんの口からではその単語は、私に声を上げさせるには十分な言葉だった。

 そして、声を出してしまったことにより、二人がこっちを見た。

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……っ」

 

 二人の視線に耐えられず、私はその場からまた逃げ出した。

 

 「チッ!」

 

 「ちょっと待って! わざとじゃないわ! ホントッ! ホントよぉ!!」

 

 逃げ出す後ろでは、何か騒いでいるけれど、今の私に振り返って実情を知る余力なんてなかった。ただ、さっきの疑惑が確定になったことの方がずっと大きかったのだから。

 

 しばらく逃げた先で立ち止まって息を整える。その間に、今までの情報が頭の中で整理され初めて行く。

 佐藤さん、りんさんのこと、好きなんや。

 しかも、恋敵はあの八神さん!

 佐藤さんに勝ち目無いやん。

 だって、八神さんとりんさんが仲良くしている光景はこの会社でも名物みたいなモノ。そんなのに佐藤さんが勝てるわけがない。

 それに、あの三人が同期だってことは、七年間もこの状況が続いているということになる。

 七年間も、勝ち目の無い戦いを強いられている佐藤さん。

 あかん、こういうの考えてしまうと、劣勢な佐藤さんの方に共感してしまう。佐藤さんの報われない思いに無意識に共感してしまう。

 あぁ、なんだか涙が出てきた。

 

 「ぅっ、あかん、佐藤さんが可哀想すぎるっ」

 

 「あれ? ゆんどうしたの?」

 

 「は、はじめぇ」

 

 涙のせいで前がよく見えなかったせいで反応が遅れてしまったけど、その声でハツラツなアニメ声ははじめのものだとわかった。

 涙を流している私の顔を見たはじめは慌てて駆け寄ってきた。

 

 「な、なんで泣いてるの?」

 

 「さ、佐藤さんが……」

 

 「佐藤さんが何かしたの!? 青葉ちゃんもそうだけどまさかゆんにまで! ゆるせない!」

 

 「ちゃ、ちゃうんよ。そうじゃなくて……行ってしもうた」

 

 訳を話す暇も与えてくれず、はじめは佐藤さんのところへ走り出してしまった。これじゃあ、私が佐藤さんに泣かされたみたいやん。実際はそうなんやけど。

 あと、佐藤さんの青葉ちゃんいじめが今まで野放しにされているのはノーカウントなんかい!

 という私のツッコミすら、口に出すことは叶わなかった。

 

 ●

 

 佐藤視点

 

 「佐藤さん!」

 

 花男さんを一頻り〆た直後のこと、なぜかモーション班の篠田が俺を訪ねてきた。しかも、かなりご立腹の様子で。

 しかし、彼女個人を怒らせた心当たりなどないので首を傾げるしか無い。

 

 「なんだよ?」

 

 「とぼけないでください! ゆんを泣かせるなんて最低です! ほら、これ!」

 

 何を思ったのか、篠田は自分の携帯電話を差し出した。

 

 「?」

 

 「それでゆんに電話かけて謝ってください!」

 

 「なんで電話だよ」

 

 「ゆんは泣いているんですよ! 直接会ったら怖がるじゃないですか!」

 

 待ってくれ。さっきから俺が飯島を泣かしたって事になっているのは何故なんだ。確かに飯島とはさっき色々あったが、それで泣くようなことがあるのか?

 

 「ちゃんと電話して謝ってくださいね!」

 

 「……」

 

 俺に携帯を押しつけて、篠田はキャラ班のブースへと消えていった。渡されたそれを見て呆然としていると、いつの間にか生き返った花男さんが話しかけてきた。

 

 「まぁ、はじめちゃんのそういう思い切りの良いところ、私は好きよ」

 

 「ちゃんとウラ取ってほしいものですがね」

 

 元々、篠田と花男さんは顔見知りらしい。なんでも、入社する前にゲームで知り合ったとか。

 

 「それで、どうするの?」

 

 「かけますよ。釘は刺しておきたいので」

 

 篠田の携帯の電源を入れると、すぐに飯島と通話できるようになって……はいなかった。

 おいおい、マジで後先考えずに俺に携帯渡したのかよ。マジで不用心じゃねぇか。

 しょうがないな、余計なモノはなるべく見ないようにして飯島の番号を探すか。

 あまりの無鉄砲さに呆れつつも、飯島の電話番号を見つけ、通話ボタンを押す。数回のコールの後、端末越しから先ほど騒いでいた声が聞こえた。

 

 「も、もしもし」

 

 「佐藤だけど?」

 

 「は、はい」

 

 「お前何泣いてるんだよ。泣きたいのはこっちなんだが」

 

 好きな人にいきなり自分のことを好きと聞かれてにげられるわ、好きな人が職場の一人のバレるわ、なんか悪者扱いされるわ、正直踏んだり蹴ったりなのは自分のほうだ。

 

 「すみません。なんか、佐藤さんが可哀想で」

 

 「……」

 

 もし本当に可哀想だと思ってくれているのなら、それを本人の前で口にしないで欲しい。事故とは言え、泣かしてしまった手前、強く言い返せないが、一応釘は刺しておかないといけない。

 

 「余計な感情移入はするな。遠山にはもちろん、他人に言うなよ?」

 

 「言いませんっ」

 

 「もし言ったら、俺もお前が敦さんの事好きってこと、本人に言いかねないからな?」

 

 「っ!? ……な、ななっ、なんのことですか?」

 

 半分カマをかけたつもりでふっかけたのだが、この様子だとどうやら本当のようだ。先日の話を聞いておいて正解だった。

 これならお互い同じ弱みを握っているからこれ以上変に干渉し合う事もないだろう。

 さて、これで飯島の話は終わり。あとは遠山だけと思っていたが、飯島はまだ何か言いたげだった。

 

 「あ、あの、佐藤さん」

 

 「なんだ?」

 

 「頑張ってください!」

 

 「……お前もな!!」

 

 俺は通話を切った。

 

 「あ゛ぁ゛……」

 

 なんかもう、どこから出してるのかわからないため息が出てしまう。がんばれって、俺にこれ以上どうしろってんだよバカ。

 あとなんでお前の方が泣きそうになりながら言うんだよ。泣きたいのはこっちなんだよ!

 

 「まぁまぁ、聞いてたのが、りんちゃんじゃなくてよかったじゃない」

 

 「……そうすっね」

 

 隣で必死に笑いを堪えている花男さんの言うとおり、こんな形で遠山に俺の気持ちがバレたら死ねる自信がある。実際、失血死で死にかけたわけだし。

 しかし、これで本当に飯島の件は終り。あとは遠山だけか。一度は逃げられたけど、ちゃんと話を聞いてやらないと。

 その前に、さっき笑った花男さんに一発蹴りを入れておこう。

 

 結局、遠山が変になった理由は、本人から聞き出すしかなさそうだ。しかし、下手に問い詰めてもまた逃げられてしまうかも知れない。

 何か遠山を食い止めることができること。俺にそんな都合の良い物があるだろうか?

 そんなことを考えつつ、ビルの中で遠山を探していると、屋上にいた。

 涼風と帰ってきたときからずっとあの調子。

 ひどく落ち込んで、なにか考えを巡らして、ため息をついている。

 結局、彼女を引き留める決め手は無いが仕方が無い。少しは篠田の後先の考えなさも見習わないとと俺は屋上に身を出す。

 

 「おい、遠山」

 

 「っ!」

 

 俺に声をかけられて、また大きく肩を揺らし挙動不審な様子を見せる遠山。一体何がコイツをこんなに追い詰めたんだ。

 

 「お前、もしかして、涼風と八神になにかやましいことでもあるのか?」

 

 ここまで来る道中、遠山がここまで思い詰めることになった理由はおそらくこれだと断定できた。どう考えても、涼風が閉じ込められたと言い出した途端からおかしくなったのだ。

 なら、それについてなにか知っているはず。だとすれば、多分あの部屋のドアが壊れていたことを周知し忘れたってことになる。

 そしてそれを八神は知っていた。なら、遠山に伝えていてもおかしくはない。八神の性格だ。どうせまたコイツに押しつけたのだろう。

 

 「なっななななないわよっ」

 

 「本当かよ」

 

 「ほ、本当にないの。……あっても言えないの」

 

 「あるんじゃねぇかよ」

 

 まさか、ちょっと問い詰めただけでここまで簡単にボロを出すとは。若干呆れるが、話が早くて助かるが、ここまで先延ばしにされて正直イライラしている。

 

 「言えよ。鬱陶しい」

 

 「だって、こんなこと話したら私、嫌われちゃう……」

 

 彼女の目尻には、今にも涙が溢れてしまいそうになっていた。俺に問い詰められて、今まで抑えてきたものが爆発しそうになっているのだろう。

 

 「コウちゃんや佐藤君や、青葉ちゃん達に嫌われて……もうどうしたら・・・っ!」

 

 遠山は本当に泣き出してしまいそうだ。同じ日に二人も女の泣かせたとか普通にしんどい。

 だからこそ、なおさら放っておくわけにわいかなくなる。

 彼女の涙を止める方法はないか?

 なにか無いか・・・クソ、ああもうなんでもいい!!

 

 「落ち着け! 俺はお前のこと、嫌いになったりしない!!」

 

 「っ……!」

 

 「……あと八神も、涼風たちだって」

 

 勢いで言い過ぎたせいで、自分も言ったあとに恥ずかしくなってきて八神と涼風の名前を出した。そうだ。そんな簡単にお前に対して印象を変えたりするような奴らじゃ無い。

 だから、うん。きっとそうだと・・・思う。

 

 「やっぱりお前、知ってたんだな。あのドアが壊れてたって事」

 

 「……うん」

 

 結局、俺の見立てたとおりの話だった。それだけなら、遠山だって忙しいし、忘れることもあるだろう。でも話はそこで終わらなかった。

 

 「それでね、それを話してくれた男の人がコウちゃんと仲良く話してて動揺して」

 

 「……どんなシチュエーションだよ」

 

 「だってぇ……」

 

 要は、その警備員の男が八神と親しげだったのに動揺して話を忘れてしまったというのが、今回の原因らしい。コイツらしいと言えば、コイツらしいが。

 

 「俺はてっきり、八神と良い感じになった男をやっちまったのかと思った」

 

 「そ、そんなことしないわ! ちゃんと手加減するもの!」

 

 「手加減はするのかよ……」

 

 できれば、手加減だけで無く手を出すこと自体を辞めていただきたいのだが、これを言えるような状況では無いから今回は飲み込むしか無いようだ。

 とはいえ、これで解決の糸口は見えた。あとは話は早い。

 

 「ま、一応報告に行くぞ。ついでに、涼風にも謝っとけ」

 

 俺は遠山の手を握って、そのまま八神達がいるオフィスに戻る。意外な話かもしれないが、彼女と最低限触る事に対してはそこまで緊張しないのだ。

 これでも七年は一緒にいる。知らないことの方が多いのは確かだが、それでも、迷ったときにこうして彼女の手を引くことくらいはできるのだ。

 そして、オフィスに戻るといつもの二人が待っていた。

 

 「そうだったんですね」

 

 「りん。やっぱり話してなかったんだ。だから、青葉閉じ込められたんだね」

 

 「青葉ちゃん、コウちゃん、ごめんね。頼まれたのに」

 

 「めずらしいね。りんが忘れるなんて」

 

 「つーか、本来ならお前も周知するべきもんだろうが。遠山だって忙しいんだ。少しは気を遣ってやれ」

 

 一応、八神にもツッコミは入れておく。そもそものことの発端はコイツなのだ。多少なりとも責任は負ってもらおう。

 

 「えー! なにさー、佐藤はいっつも私に対してだけキツいよね!」

 

 「日頃の行いだろ?」

 

 「なんだとー!」

 

 「……」

 

 そんな感じで、八神と涼風には簡単に事情を話した。とはいえ、遠山が今朝見たという、八神と親しげだった男の話は伏せて。

 話がまとまって、八神と涼風がいなくなったあと、遠山は俺に話しかけてきた。

 

 「あの、佐藤君。コウちゃんのこと」

 

 「あぁ、流石に八神や涼風にはあんなこと言えないだろ?」

 

 「佐藤君……」

 

 「なんかあるなら相談に乗る。俺も、同期だからな」

 

 「うん」

 

 やっと、遠山はいつもの笑顔を見せてくれる遠山に戻ってくれた。結局、今回の争点も八神だったし、コイツの中での一番は八神で決まっているのだろう。だけど、ようやく見ることができた今日初めての笑顔を見れただけで、この散々な一日が報われた気がする。

 

 「んじゃ、悩みも無くなったことだし、ちゃんと働こうぜ」

 

 俺は先に持ち場に戻ることにした。今日はかなり振り回されたから仕事が少し止まっている、多少は残業覚悟しないといかんなこれは。

 しかしまぁ、それにしても今日は疲れた。

 

 「はぁ」

 

 誰もいない通路に出て一人、頭を抱えてため息をつく。なんかもう、すでに胃痛と頭痛がひどい。遠山に対しても、あんなことよく言えたものだ。

 言えたところで俺の気持ちが伝わることはないのだろうが。

 

 「佐藤く~ん」

 

 知らない間にいなくなっていた花男さんがまた俺のところに来た。いつものことだがこの人は他のチームのヤツにちょっかいかけすぎだろうが。

 

 「疲れた顔してるけど大丈夫?」

 

 「……まぁ、なんとか」

 

 「それにしても、なんであそこで押し切らないのかしら」

 

 「……」

 

 「佐藤君?」

 

 俺は無言でハリセンを取り出す。しかも今回はスペシャルサービスで二刀流だ。そもそも、この人のせいで飯島にバレたし、普段からの恨みもある。

 それに今日の俺は、特段虫の居所が悪いのだ。

 

 「え…ちょ、佐藤君、なんでハリセン出してるの? ていうかダブル!? いやそれはマズいわ佐藤君! それは危ないわ佐藤くぅぅぅぅぅん!!」

 

 ●

 

 りん視点

 

 「ふぅ・・・」

 

 佐藤君に遅れてデスクに戻ってきた私は一息つく。今日はずっと悩んでいたせいで全然考えがまとまっていなかったこともあり、仕事が全然進んでいない。早く終わらせないと。

 

 「……」

 

 だけど、佐藤君には恥ずかしいところ見せちゃったわ。自分も気が動転していて、変な方向に考えを進めてしまった。

 依然、コウちゃんと話していた警備員の人のことは気になるけれど、今はそんなコトしている余裕はない。コウちゃんもこれから忙しいと思うから、変なことしないと思うし。

 

 それにして、私ってダメね。

 佐藤君が元気づけてくれたからよかったけど、こんなことで動揺して、頼まれたことを忘れてしまうなんて。これからはもっとちゃんとしないと。

 

 「……?」

 

 あれ…?

 どうしてかしら。、ちょっと顔が熱いわ。おかしいわね。

 

 佐藤君の名前が出てきたとき、一瞬だけ、あのときの佐藤君が頭をよぎった。

 

 ――俺はお前のこと、嫌いになったりしない!!

 

 まっすぐな目でそう言われた。

 さっきからずっと、私の胸は高鳴っている。

 私は……ときめいているのかな?

 って、なに考えてるの!?

 佐藤君にも好きな人がいるのに……!

 

 私は思わず手でほっぺを覆う。

 あのとき、私は、佐藤君にそう言われたことが嬉しく思えてしまったのだから。




佐藤:しかしそれからというもの……

ゆん:ジー……

佐藤:憐れみの視線が凄く鬱陶しい……
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