NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
青葉視点
「ふーん、それでケンカしたわけ?」
「ひどくないですか? 私頑張ってるのに」
敦さんと一緒にお弁当屋さんを出た私は今朝起きたことを話していた。
昼休み、1人で会社を出た私は近くのお弁当屋さんで敦さんとばったり会った。
それでちょっとグチを聞いてもらっていたのだ。
……りんさんほどじゃないけど。
今朝、出社する途中、ねねっちとケンカした。
ケンカした理由は、ねねっちが余計なこと言うからだ。心配してくれるのは嬉しいけど、頑張ってるのをバカにされたように聞こえてつい売り言葉を買い言葉で返してしまったからこうなってしまった。
「ま、桜だって心配してるんだよ。お前マジメすぎるから」
「……それ、敦さんも似たような気がしますけど」
隣を歩いている敦さんを横目で見上げながら呟くと、敦さんはちょっと自嘲気味にひねくれてくる。
「俺がマジメに見えるってのか?」
「普通、不真面目な人なら何でも屋みたいなことしませんよ」
「仕事でやってるだけだよ。前にも話したが、ペース配分くらいしろ」
「……それはわかりますけど」
敦さんが言ってることもわかるし、ねねっちが心配してくれることもわかるけど、なんか納得できないっていうか、私が好きでやってることだからあまり口出しされたくない。
「ま、今は余裕がないからキツく当たっちまっただけだろ? すぐ仲直りできるだろうさ」
「……別に仲直りしたいわけじゃないですよっ」
「このまま桜のアルバイトが終わっちまったら、疎遠になるかもだぜ?」
……別にそんなの気にしないし。
私の夢のこと、ずっと前から知ってく癖にあんなこと言ってきたのはやっぱり許せない。
自分に言い聞かせるけど、そこでちょっと不安になる。
……でも、もしこのままずっと仲直りできなくなって、ねねっちとずっと離れ離れになったらどうなっちゃうんだろう。
ねねっちとケンカしてからずっとざわついてた胸が余計にざわつくのを感じる。
やっぱりイヤだ。
だって、私が八神さんに憧れてキャラクターデザイナーになりたいってことを一番最初に話したのは、ねねっちだもん。
『フェアリーズストーリー』だって、ねねっちと一緒に買いに行ったんだ。
あの時の約束もこのままじゃ果たせなくなってしまう。
それなのに、こんな風になるなんて。
そんなの……イヤだ。
「……っ」
「なんだよ…どうすりゃいいかわかってんじゃねぇか」
敦さんの言葉が、私の背中を押してくれるのを感じる。
そうだ。ちゃんとねねっちに謝ろう。ねねっちだって、私を心配してくれてたんだ。
それなのにあんな風に返しちゃったから怒ったんだ。
そう考えれば、不思議と胸の中にざわついてたものがキレイに吹っ切れたような気分にもなる。
「たまには先輩らしいこと言っておくが、友達に限った話じゃない。自分の周りの人間のことはちゃんと気にしとけ」
「はいっ」
やっぱり、敦さんって普段はだらしないけどしっかりしてる人なんだなと思うところはある。
だけど、こうしてると、敦さんのことが気になってつい聞いてしまう。
「……敦さんは、同期の人とケンカとかしたことあるんですか?」
「……まあな。ゲーム作ってると色々衝突するからな。あのころは毎日が戦争みたいなもんだったよ」
「……あの、それってもしかして──」
本当なら、そこでやめておけばよかったのかもしれない。
だけど、不思議と次の質問が出てしまった。
きっとこういうのを。魔が差したと言うのかもしれない。
「綠さんのことですか?」
……それだけ、昔の話をしているときの敦さんの顔が悲しげに見えたから。
「……」
ゲーム展の時、敦さんとその同期だったシンさんが話していた人の名前を私は口に出してしまった。
あの日、敦さんのお見舞いに行ったときからずっと気になっていた。
八神さんがいない間に作られていたフェアリーズストーリーという作品。
それはきっと、敦さんが作っていたはずだ。それについて、この人の過去について、聞かずにはいられなかった。
「あの、あの時は、盗み聞きしてたわけではなくて……」
「……」
「あ……敦さん?」
その静寂に耐えられなくなった私は思わず敦さんにに聞き直してしまう。
しばらく黙り込んでいる敦さんの顔は、怒っているのだろうか、驚いているのだろうか、正直、よくわからなかった。
だから、聞き直してもどうしていいかわからなくなってしまう。だけどそれを壊したのは私ではなく敦さんの方だった。
「……なぁ、涼風」
「は、はいっ。すみません! 変なこと聞いて!」
「いや、それはいい。別に怒ってないしな。だが、それはどうしても聞きたいことか?」
敦さんは頭を下げた私をなだめてくれる。私はかおをあげたけど、その時の敦さんの顔を、私は怖くて見ることができなかった。
「ぇ……? それは、敦さんが話したくないなら……」
「ならはっきり言ってやる。『話したくない』」
淡々と、敦さんは拒絶した。
端的に『話したくない』とただ一言。
ただ、そんなことはよかった。
「……」
あのとき頑張ると言っていながら、私は結局、この人にはその程度しかできないのだと、そんな自分の無力さを突きつけられたような気がしたから。
それが、たまらなく悲しかった。
「……ったく、道草なんて食ってないで昼飯くおうぜ? 昼休み終わっちまうぞ」
ため息をついた敦さんは、私よりも歩調を上げて会社の方へ歩き始める。
速い歩調で歩く敦さんの背中は、徐々に遠ざかって行く。
そのとき、その遠ざかって行く背中を見たとき、私は得体も知れない何かに煽られるような感覚になった。
「敦さんっ!」
考えるより先に動いた私は遠ざかって行く敦さんの手を掴んだ。
「っ……どうした?」
「えっ……ぁ、その、なんか…敦さんが、どこか遠くに行っちゃいそうな気がして…」
手をつかまれて驚いた様子の敦さんは、足を止めて私の方を振り返る。
衝動的に動いたはいいけど、これをどう説明すればいいかわからなくて、ひふみ先輩みたいなたどたどしい答え方になってしまう。
「…いや、遠くもなにも、これから飯食いに行くだけだが?」
「す……すみませんっ」
キョトンとした顔で返されて、自分が訳の分からないことをしてることに気付いて頬が暑くなる。
うわ、なにやってんだろ私っ!
というか、手!
慌てて私は掴んだ手を離す。
「……まあどうでもいいが、サッサと行こうぜ」
「あ……はい」
今度こそ歩き始めた敦さんを追いかけるように、私も会社に戻ることにした。
……あのとき、どうして私は敦さんの手を掴むようなことをしたんだろう?
それに、それが届いたことが…少しだけ安心した。
その背中に手が届いただけのこと。たったそれだけのことに、ホッとしたんだ。
だけど、私の前を歩いていた敦さんの背中は、やっぱりとこか寂しげで、今にも消えてしまいそうな儚さは、以前、私の焦燥感を煽っていた。