NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
うみこ視点
『フェアリーズストーリー3』の開発が、無事完了した直後のことだ。貴重な3週間の有給をどう過ごすかというのは、ずっと前から決めていたことだった。
「長い間のお仕事、お疲れ様でした。うみこさん」
「ありがとうございます。賢人さん」
各々が始発の電車で家路につく中、私は賢人さんが走らせる車の助手席に腰をかけて東京の街のなかを走っている。彼はなんと、私が仕事を終えるまで、会社の近くで待ってくれていたのだ。
いつも夜にしか会えないこともあって、こうして平日の朝に会えることだけでも心が安らぐような気持ちになる。
私はこれから彼の自宅に向かって、二人で過ごす。三週間の有給のそのほとんどを私は賢人さんといることに費したい。今までの時間を取り戻すように。
何をするかはまだ決めあぐねている。買い物にも行きたい。来週に控えたサバゲーの装備の新調に、社員旅行へ向けた防寒装備も見に行きたい。今まで立て込んでいてやれていなかったFPSもやりたい。
リアルも臨場感があって楽しいのだが、ゲームでやりこむのも趣があっていい。なにより、それが好きな人と一緒というのが、なんかこう・・・ともに背中を預け合って戦場を駆け抜ける感覚はたまらない。
やはりサバゲーという存在そのものが素晴らしい。もっと多くの人に広めなくてはいけない。
特に涼風さんとかに。
と、今年入社してきて、サバゲーを進め損ねている涼風さんのことを考えていると運転席にいる賢人さんが声をかけてきた。
「あの、うみこさん、少し寄り道をしたいのですが、いいですか?」
「かまいませんよ」
申し出を受け入れると、彼はウィンカーを付けて進路を変え、彼の家路から少しずれる。
「・・・んっ」
手持ちぶさたにして不意にまぶたが重くなる。
マスターアップの直前の修羅場から今日にかけて、まだ落ち着けて睡眠をとれていなかったせいか、強烈な睡魔が私を包んでいく
・・・少しだけ、休んでおきましょうか。
彼の家に着くまでの間だけと、自分に言い訳をする。彼の香りがする車内だからか、これまでずっと張り詰めていた緊張が一気にほどけてしまったことを後押しして、抗うことをせず、ゆっくりと瞳を閉じた。
――――――
――――
――体が軽い。
まるで浮いているようだ。普段感じることのない感覚に私は目を覚ます。まだ重たい瞼をゆっくりと開けると、目の前に愛おしい人の顔があった。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「えっ? あの、賢人さん、これは……!?」
意識がハッキリした途端、彼の顔があることに違和感を覚えた。そして遅れて気付く。自分がどういう状況にあるのかを。
私は抱きかかえられてたまま、賢人さんの自宅に向かっているのだ。
俗にいうお姫様だっこ。女性であるのならば、一度は夢見たことのあるシチュエーションに、どう反応して良いか戸惑ってしまう。
「嫌でしたか?」
「い、いえ、決してそのようなことは……」
正直、自分が男勝りの性格である自覚はある。慎重だって職場の仲間と比べれば背の高い私が抱きかかえてもらえるなんて、夢にも思っていなかった。
一度身構えてしまうがやめた。彼の無骨な腕に身を預ける。きっと会社では恥ずかしくて、こんなところ見せることなどできないだろう。
「寧ろ、嬉しいです。職場ではこんな風に振る舞うことなどできないので」
「ならよかったです」
「あ、そろそろ降ろしていただいて大丈夫ですよ」
もう少しだけこのままでいたい。という私のわがままはどうやらここまでのようだ。流石に、彼の自宅に入るためには私を抱えたままでは難しいだろう。
彼の部屋がもう目と鼻の先にあるのは分かっていたから、あらかじめ降ろしてもらえるよう頼むと賢人さんは思わぬ事を言い出した。
「部屋までまだかかります。それまで、このままでいましょう」
「っ……はい」
あぁ、本当に、この人はどこまで、私の気持ちを汲んでくれるのだろう。彼の腕の中で完全に脱力する。あとほんの数分も満たない時間だけど、そのわずかな瞬間すらとてつもなく愛おしいのだから。
●
「今日は、ゆっくり過ごしましょう」
「……すみません」
賢人さんの部屋に上がると、彼はそんなことを言い出した。
ソレを聴いた私は少し申し訳ない気持ちになる。当然だ、せっかく二人を過ごせるというのに自分がこんなに疲れていては楽しめるはずが無い。
「謝らないでください。昨日は寝ていないのでしょう? まずは疲れを取らないと。そこで休んでいてください」
彼は私をベッドの上に座るように促す。ベッドの柔らかい誘惑に負けた私は、言われるがまま腰を下ろす。手で押すと優しく押し返してくる低反発の素材。
ここ最近布団で寝る機会すらなかった私にとって、無遠慮に横になることを我慢できるはずもなかった。
柔らかい。このベッドは普段、賢人さんが休んでいるのだと思うと一塩だ。枕元にある金髪の抜け毛が、彼の残り香を物語っていた。
「うみこさん」
「っ!?」
またまどろみの中に誘われようとしていたとき、彼の声の呼びかけが私の意識を現世に戻してくれた。賢人さんを見ると、両手にはマグカップ。
「とりあえず、温かいモノを。それと、さすがにシワになるのは困るので寝るのは少し待ってください」
「はい…」
渡してくれたマグカップの中身はココアだった。私はそれを口に運ぶ。
甘い。そしてとても落ち着く。
今日に至るまで、飲み物と言えば濃いコーヒーやエナジードリンク。どれもカフェインが多く入ったものばかりだったからか、こういう甘くて眠くなるようなモノを飲めるのは飲めなかったのだ。
淡々とした口調で打てど響かずの彼だけど、こういう温もりが今まで気が立っていた私の心をほどいていく。
「少し、後ろを向いてもらえませんか?」
「? えぇ、わかりました」
賢人さんい言われたとおり、私は彼に背中を向けた。普段なら、誰であろうと絶対に見せない背中を、私は彼に見せた。
「失礼します」
後ろから賢人さんの声が聞こえた途端、彼の両手が私の肩に触れる。
「んっ・・・」
「やっぱり、デスクワークばかりだと肩に疲れが溜まっていますね」
彼の堅い手が、その指先が、連日からの疲れが溜まっている私の首から肩にかけた張り詰めた筋繊維の一本一本を、まるで髪の毛をとかすように丁寧に本来あるべき形に戻していく。
こういうのはテレビだとやたら痛がっている風に見えるときがあるが、それは賢人さんなりの配慮なのか、痛みはほとんど無い。
それ以上に、ふれあっているということも相まって、さっきまでの落ち込んでいた気持ちまでも綺麗に洗い流されているようだ。
「んっ・・・ふぅ・・・」
やがて、肩の力全体が抜けて、完全に彼に身を預けている状態になる。血の巡りがよくなってきているせいか、肩から全身にかけて少しずつポカポカとしてくる。
会社では絶対にならないこの状態は、慣れていない感覚ではあるが、不思議と受け入れてしまうのだ。
もっとも、こんなところ葉月さんとかに見られるわけには絶対にいかないのだが。
「肩、どうですか?」
「そうですね。やっぱり、マッサージというのは、自分でするより人にしてもらうほうがいい気がします」
「人肌に触れているだけでも心には余裕が生まれるものですから……さて」
そういいながら、肩のマッサージを終えた賢人さんは、今度は私の正面を向くように促す。
「うみこさん、顔に触れても大丈夫ですか?」
「え? えぇ…大丈夫です」
私は彼を信じて目をつむる。これも普段なら絶対にしないこと。特に葉月さんの前では何をされるかわかったものではない。
この間の雨の日のとき、車でキスをしてくれたときとはちがって、少し真剣みがある口調だったから、きっとそういうのでもないのだろう。
「っ……」
やがて、彼の両手が私の頬に触れる。太くて硬いその指先は、私の頬──いや、顎の筋肉辺りを刺激しているのが、目を閉じていてもわかる。
「やっぱりここも凝っていますね」
「賢人さん…これは?」
「うみこさんは普段、歯を食いしばったりしますか? 集中しているときとか、イライラしているときとかに」
「……後者には心当たりがあります」
「そうですか。デスクワークをしてるとどうしても前傾姿勢になるので顎関節に力がはいってしまうんです。そうなると、骨格がずれたりするんですよ。特に、20代から30代の女性は」
「なるほど……」
耳の下から首の付け根にかけて、先程のよう同様に丹念な手つきでマッサージを進めていく。
感覚は先ほどと同じで、痛みはほとんど感じない。顔全体が収まるところに収まっていくのを感じる。
……でも、この体勢を維持するのは少し、恥ずかしいですね。
つい目を開けてしまったのだが、びっくりするほど賢人さんの顔が近くて困る。
血の巡りがよくなったにしては、少し脈拍が早い気がする。
あぁ、でも嫌じゃ無い。むしろこうしているだけで心地が良い。
「――こんなところでしょうか。違和感が残るようでしたら、病院へ」
でも、そんな、永遠と続きそうな時間にも終わりが訪れる。時計が刻む時間と、体で感じる時間にズレが生じているみたいだ
「・・・そうですね」
言われてみれば、顔だけじゃなく、体全身もまるで風船のように軽くなっているのを感じる。
正直言えば、もう少しだけ、彼に触れてほしかったけど、あまりわがままを言うわけにはいかない。
「・・・」
それに、少しだけ情けない気がする。
賢人さんだって男の人なのだから、女性に対して甲斐性を見せたいという気持ちはわかる。だけど、こうしてされるがままというのも気が引ける。
思えば、初めて彼と出会ったときからずっと彼の背中を追いかけている。
だから、どうしても訪ねてしまいたくなった。
「あの、賢人さん。一ついいですか?」
「なんでしょう?」
「・・・私、その・・・ちゃんと貴方の彼女をできていますか?」
今の彼の目には私しか映っていないとしても、それはまるで、『恋人』という対等な立場ではなく、もっと違う物じゃ無いかと不安になる。私が彼にしてあげたことなんて、あっただろうかと。
怖くて仕方ないのだ。あまり目つきがよくない自覚はあるし、職場のせいか、性格のせいか、今まで恋人という関係を経験したことのない私は、どうしても怖くなってしまう。
「うみこさん・・・」
「すみません、聞き流して――」
「――そんなことはないですよ」
言い終わる前に、彼の声で口をつぐんでしまった。
彼のまっすぐな目に、言葉を無くしてしまったからだ。
「今日はたまたま、うみこさんが疲れていただけです。私は私のできることをうみこさんにしてあげただけです。私はうみこさんにもっとわたしのことを頼ってほしい。だから・・・」
賢人さんは私の手を取る。
「私が困ったときは、うみこさんに頼らせてほしいです」
「・・・っ」
胸の奥から、なにか熱いものがあふれてきそうになる。
あぁ、そんなこと言われたら、嬉しくなってしまうじゃないか。
私は、彼の大きくて堅い、そして何よりも優しいその手をギュッと握り返した。
一番面白いと思ったシーン
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敦さんと青葉の絡み
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敦さんとゆん先輩の絡み
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純君とひふみ先輩の絡み
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佐藤君とりんさんの絡み
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ゆずっちとねねっちの絡み
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ヨッシーと八神さんの絡み
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ななみんとうみこの絡み
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佐藤君と花男さんの絡み