NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
柚貴視点
「おい桜、お前またひとんちで何してんだ?」
「んがっ!?」
夕食を買ってきた俺は、断りも無くベッドの上でパソコンを広げて眉間に皺を寄せている桜に好物のスナック菓子を投げつける。
他に買ってきた水やシャーベットは冷蔵庫に手早くしまうと、ベッドの脇に座って買ってきたサンドイッチの封を開ける。その時に、桜が睨めっこしているパソコンの画面に目が行った。
「なんだそれ?」
「あ、これ? 気になる? 知りたい?」
「……勿体ぶるなバカ」
パソコンの画面には黒いウィンドウが一つ開かれており、よく分からないアルファベッドや数字の羅列が並んでいる。
機械に関してはほとんど触ってこなかった生活を送ってきた俺には皆目見当も付かない。
「これはね、ゲームのプログラムなんだ~。バイトが終わってから一人で作ってるの」
「ふーん」
中身の無いサンドイッチをついばみながら、桜の話を聞き流す。どうも最近まで通っていたアルバイトの影響か、自分でも作ってみたいと言い出したのだ。
「もーちゃんと聞いてよ~ほら、これ、ちゃんと動くんだから」
だが、俺が興味なさげなのが気に入らないのか、パソコンを持ち上げてこちらに向ける。随分と自信満々に見せるから相当な物かと画面を見る。
が、
「……おい、全然動かないぞ」
「あー、また止まってるー」
遅れて画面を見た桜はガッカリした声を出し、パソコンを持ったままベッドに倒れ込んだ。
「なんとか起動するまでいけるようになったんだけどなぁ」
どうやら、桜のゲーム作りとやらは随分と難航しているようだ。教本がそばに置かれているあたり、一から勉強を初めて、手探りで進めているのだろう。
随分と気の長い話だこと。
食事を終えた俺は、桜が持っていた教本を暇つぶしの雑誌代わりに手に取ってみることにした。
「あ、それ、読みやすいからオススメだよ」
「…おい。なんだこの染み」
表紙を見てすぐに違和感に気付く。多少は読み込んだのか端が削れているのは特に気にならない。問題なのは表紙の半分が茶色に染まっていることだ。
「何かこぼしたのか?」
「こ、ここでこぼしてないよ!?」
それを俺のベッドの上で、しかもスナック菓子とコーラを楽しみながら言われても説得力の彼らも無いのだが。ペットボトルに至っては蓋を閉めてすらいないじゃないか。
あとで取り上げておくか。
と、半ば道楽で俺は茶色に染まった教本のページを開いた。
そして……
「おい桜、それ、同じ処理繰り返してるぞ?」
「えぇ!? どこ!?」
「ほら。ここ」
話の流れで桜のパソコンを見ることになったのだが、気がつけば彼女のゲーム製作に口を出してしまっていた。知識として頭に入れたことを、目の前で不器用にこなされていては見てられなくなるのだ。
「ゆずっちすごいね。もうそこまでわかるようになったの?」
「その本に書いてることを覚えただけだよ」
俺がいくつか口を出すと、桜の作っていたゲームは多少はマシに動くようになった。要は、同じ処理を何度も繰り返してしまってパソコンが容量をオーバーしてしまっただけだ。おそらくまだ画面の動作が覚束ない辺り、まだそういうのが残っているのだろう。
それよりも気になることがあって俺は集中できなかった。
「というか、なんだよその絵。ただの落書きじゃないか」
「だって、絵かけないんだもん」
それは桜が開けているゲームの画面。
馬に乗った騎士のようなもの。なぜかその辺に置かれているにぎりめし。それと猪。黒い太字のペンで下書きもせずに書いたであろうそれは、ハッキリ言って子供の落書きと投げ捨てられても文句は言えないほどのお粗末な出来だった。
本人はグラフィックと呼んでいるそうだが、これをその枠組みに入れてしまうことすら失礼に当たるのでは無いかと思うほど。
「こんなんじゃ先が思いやられるな。俺が描いた方がマシなんじゃないのか?」
「むっ! そこまで言うなら描いてみてよ! このゲームに合うイラスト!」
「あぁ、いいぜ。やってやるよ」
売り言葉に買い言葉で引き受けた。
大学のレポートに使うために用意した紙とペンで俺は絵を描き始めた。
自分の気が済むまで、俺はペンを走らせる。
俺自身、口に出した以上舐められるのは癪だし、やり始めた以上は手を抜く気にもなれない。
――そして、2時間ほど掛かったが、俺が納得のいく出来の絵が完成した。
「ほらよ」
「なっ……なっ…なんでそんなにうまいの!?」
とりあえずレポート用紙に数枚のキャラクターを描いて見せた。
桜のゲームに合うという要望が絡んだため、あまりリアルな絵柄にはせず、2頭身から3頭身のデフォルメにした。
一人は和服にナイフを持つ女。もう一人は黒縁眼鏡をかけたひ弱そうな男、タバコをふかす赤髪の女。しかい、自分で描いておいてなんだが、2番目のこの男が妙に意識してしまうのは気のせいか?
ひとまずはこの程度にしておこう。一度手を付け始めると止まらなくなる性格なのは俺自身知っているのだ。
「むぅ~悔しい! これが才能ってヤツ!? 腹立つぅ~」
並べられたレポート用紙の前でのたうち回る桜。
どうやらよほど悔しいそうだ。それを見ていると少々申し訳なくなってくる。コイツなりに本気でやっているなによりの現れなのだ。
それを今ちょっと囓った程度の俺に抜かれたのがそれだけ堪えるのだろう。
「まぁあれだ。多少は手伝ってやるよ。いい暇つぶしになりそうだ」
「負けないからね!」
しばらくのたうち回った彼女はベッドの上によじ登ると、また教本を片手にパソコンと向き合い始めた。さて、本当に少しくらいは手を貸してやるか。
そこからまたしばらく時間が経った。夜はもう更け、時計の針は12時を超えていた。
桜は依然、パソコンの作業に没頭している。いつもの注意散漫な姿は見る影も無い。
「桜、お前、帰らないのか?」
「んー……」
返事はあるがこちらを向かない。
「明日は講義あるんだろ?」
「うー……」
今度は生返事。
「もう遅いぞ」
「……うん」
やはりこっちを見ずに返してくる。
「そろそろ帰れ」
「……」
さらに無視される。
そこでようやく気づいた。彼女が帰りたがっていないことに。
確かに、一人暮らしの部屋に誰かがいるというのは何とも言えない安心感がある。それは理解できる。だが、それではいけないのだ。それはきっと彼女の為にはならない。
「桜」
そう思って呼びかけると、パソコンの前で寝転んでいる桜は気だるげ答える。
「何ぃ?」
「このままだと終電逃すぞ」
「大丈夫だよ。私、歩いて帰るから」
「バカ。それでまた襲われたりしたらどうすんだよ。お前チビだし」
「チビじゃないもん! ゆずっちのいじわるっ!」
桜は頬を膨らませながら立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
「待て。駅まで送っていく。こんな時間に一人で返すわけにはいかないからな」
「えぇ、でも悪いよぉ」
「うるさい。ほら、さっさと行くぞ」
「…うんっ」
―――
――
駅の改札口前まで来た。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「あぁ、俺もいい暇つぶしになったよ」
「じゃあ私はもう行くねっ」
踵を返して家路へつこうとする彼女を引き止めるように声をかける。
「なぁ、桜」
「なに?」
桜は振り返り、首を傾げた。
「お前、なんでゲーム作ろうと思ったんだ?」
ずっと気になっていたことを訊いてみた。
コイツはどうしてここまでするのだろうか? ゲーム作りなんて大学の講義で習うことでもない。
ましてや、わざわざ自分で調べ、独学で学ぶ必要もない。
時間もかかるし、労力だって使うことになる。普通ならば避けるような事だと思う。なのになぜ……
「それはね、前に話したでしょ? あおっちのこと」
桜は前に俺に話した幼なじみのことについて話し出した。
「夢に向かって頑張ってるのを見てたらさ、私まで頑張らなくちゃって思ったの。私にも出来ることがあるんじゃないかってさ。だから少しでも力になりたいなって……それだけかな」
「それだけって……」
その言葉には彼女の決意が宿っていたように思えた。
他人の為にそこまでできる人間がこの世にどれだけいるのだろう。
「あとは、ただの自己満足かもね。なんか恥ずかしいなぁ」
照れくさそうに笑う彼女に俺はかける言葉を持ち合わせていなかった。
「……そっか。まぁ、あれだな。そういうことなら俺も協力しないこともないぜ」
結局出てきたのはそんな言葉だった。
「ホント!?」
桜は目を輝かせて顔を近づけてきた。近い。顔が近い。
「お、おう。まぁ暇つぶし程度だけどな」
思わず仰け反ってしまう。
「それでも嬉しいよっ。ありがとうね、ゆずっち」
満面の笑みを浮かべ、桜は礼を言った。
「べ、別にいいけどよ……」
不意打ちの笑顔にドキッとしてしまった。
こういうのは苦手だ。
「ところで、いつ完成する予定だ?」
「うーん。まだまだ先は長いと思う。でもいつか作れたらいいな」
「そうだな」
「うんっ」
その時、遠くの方から電車到着を知らせるアナウンスが流れた。
「あっ、ヤバい。電車来ちゃう!」
「おい走るな! 危ないぞ!」
「大丈夫大丈夫~」
「ちょ、待てって!!」
桜は改札を通り抜け、ホームへと走って行った。
相変わらず落ち着きの無い奴だ。
「じゃあ、また明日ねー」
桜は手を振りながら去っていき、すぐにその姿が見えなくなった。
一番面白いと思ったシーン
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敦さんと青葉の絡み
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敦さんとゆん先輩の絡み
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純君とひふみ先輩の絡み
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佐藤君とりんさんの絡み
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ゆずっちとねねっちの絡み
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ヨッシーと八神さんの絡み
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ななみんとうみこの絡み
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佐藤君と花男さんの絡み