NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
純視点
「・・・・・・」
『フェアリーズストーリー3』がようやくマスターアップしてから、およそ三日が経った。会社からは、3週間の有給が与えられている僕は、その三日目の夜に、リョウさんの居酒屋に来ていた。
「おい増田、なんでこんなとこで油売ってんだよ。あ、リョウ、ウイスキーおかわり」
「も~敦君ったら~そんなに怖い顔しちゃだめでしょっ。あ、リョウちゃん、このカクテルおかわり」
・・・・・・そこにはなぜか先輩と花男さんもいる。
「は、は~い・・・・・・」
リョウさんは苦笑いで注文を聞いてから厨房の奥へ逃げていった。おそらく花男さんを避けてるんだろう。まぁ気持ちはわからなくも無いけど、ここを僕一人に押しつけられるのは厳しいのではやく帰ってきてくださいお願いします。
居酒屋のテーブル席の天井にぶら下がる照明に向かって、先輩はいつものタバコの煙を立ち上がらせながら空になったコップを弄んで僕に言う。
「てめぇはこの有給をなんだと思ってんだ? こちとら今日も仕事終わらせてきたってのに3週間なんてあっと言う間だろうが」
「敦君の場合、もう結構溜まってそうよね」
「お前が言うと、下ネタにしか聞こえないからやめろ」
「も~いけずぅ~」
と、身をくねらせながら先輩に身を寄せようとする花男さんを、全力で阻止する先輩。会社でもかなり見慣れた光景だ。うちの会社の女性に手を出した男を襲うという噂は本当のようで、僕もあのときはいろいろな物が失われそうな気がした。
そんな二人を眺めながらいつも飲んでいるワインを飲んでいると、先輩にじゃれつくのに飽きた花男さんがその矛先を僕に向けてくる。
「それで、ひふみちゃんとの近況は?」
「それは・・・・・・」
それだ。そのことについて相談をしたかったからここに来たんだ。そうしたら、まさか先輩と花男さんが飲んでいたとは。店に入った僕を見るなり、何か察した顔で僕をむりやりこのテーブル席に座らせられて現在に至る。
マスターアップの直前のあの日、僕は仕事中なのにもかかわらず滝本さんと・・・・・・その・・・まあいろいろあった訳で、また顔を合わせずらくなっているのだ。
あのとき、肩に触れた感触と温もりはいまでも肌に残っている……気がする。
「休みの夜にこんな居酒屋に入ってくる童貞が、できたばかりの彼女となにかあるわけねぇだろうが」
「悪かったね、こんな居酒屋で。じゃあこのウイスキーはなしと言うことで」
「あ! リョウ! それはねぇだろ!?」
あーまたこの人は墓穴掘ったよ。この人の憎まれ口は大概だけど、その後たいてい碌な目に遭わないから憎めないんだよなぁ。
そもそもこの人がいないと会社回んないし。
「そういえば、もうひふみちゃんとつきあって結構経つんだよね?」
結局、先輩にウイスキーを置いてあげたリョウさんは、自分のお酒を持って僕の隣に座ってきた。おそらく、もう営業時間は過ぎたのだろう。ここからはイーグルジャンプだけの夜になる。
よかった。やっとリョウさんとまともに話せる。この人には是非相談を受けてほしかったんだ。
「はい、でも最近は仕事も立て込んでたのであまり会うことは無かったんですけど・・・・・・」
言う途中で口ごもる。やっぱり言葉にするのはかなり恥ずかしかったことなので。でも、リョウさんは察してくれる。
「けどってことは、つまり何かうれしいことでもあったわけだね?」
「まぁ、そんなところです・・・・・」
詳しいことは恥ずかしいので伏せておくことにした。リョウさんもそこは根掘り葉掘り聞いてくるような人では無い。だからこの人を選んだんだ。
「うれしいことってあれか? 俺らが修羅場ってる最中に、滝本と乳繰りあ――」
「――そぉい!!」
「あら~なかなか良い雰囲気だしてるじゃな~い。さすが私が見込んだだけはあるわね」
「花男さんも黙ってください!」
先輩がまた余計なことを言う前におしぼりを投げつけてなんとか阻止した。
まあ、知られてるよな。写真とか撮られたし、結構騒ぎになっちゃったし。というか、今はそんな話はいいんだ。とにかく本題に入らないと。
「その・・・・・・この休みの間に、滝本さんと・・・デートできたらなぁと思ったんですけど・・・そもそも何をどうしたらいいのかわからなくて」
この三日間、滝本さんと直接会えてない。本当は、この前の時になにか約束でもできたらよかったんだけど、それどころの騒ぎじゃ無かったからなぁ。
だから、誘うタイミングを完全に見失ってしまったのだ。
「んなもん、付き合ってるんだからデートしたいからデートしようで済む話じゃねぇか」
すると、また先輩が割って入ってきた。いきなりハードルの高いことを言ってきたので思わず声を荒げてしまった。
「だっ・・・・・・だからそんな簡単にいかないんですってば!」
「なにがそんな簡単にいかないんだよ?」
「え・・・・・・いや、だってほら・・・滝本さんも都合が悪かったり忙しかったりするかもしれないじゃないですか?」
「滝本も有給で3週間休みだろうが」
「うっ・・・・・・!」
「ようするにお前がヘタレなだけじゃねぇか」
「グハッ・・・・・・!」
ズバズバと的確に僕の言い分を打ち破ってくる。この人の憎まれ口は、こういうところでは無類の強さを誇ると思う。
・・・・・・いや、多分これは僕がヘタレなだけだ。多分
あぁそうですよ。僕はどうしようもないヘタレですよぅ。
ヘタレという言葉をトドメとなり、テーブルに突っ伏してしまった僕にリョウさんは助け船を出してくれた。
「いずれにしても、聞くぐらいなら失礼じゃ無いと思うよ。君の人となりは知ってるし、敦達の見方からしても、嫌々付き合ってるようには見えないし」
「リョウさん・・・・・・」
うわ・・・・・・やっぱりこの人イケメンだ。この場にいる誰よりも聖人に見えてくる。いや、そもそも僕のいる会社にいる男性社員自体が結構おかしい方だと思うほどだ。
と、そこまで考えると少し不思議になる。
なんでリョウさんはイーグルジャンプを辞めたんだろう。こんなに人当たりのいい人なら、会社でも上手くやっていけそうだし。
気になるけど、さすがに今その会社で働いている僕が聞くのは少し失礼な気がしたので、僕はその疑問を腹の中に押し込んだ。
「でも、誘うにしてもどこに誘えばいいんでしょう? 遊園地とか?」
「はい、0点」
「ちょ、なんでですか先輩!」
考え得る範囲で妥当なものを上げたが、即座にだめ出しを食らってしまった。それにしても0点はないだろう。0点は。
「まずな、遊園地とかは止まっていることが多いんだよ。平日でも混んでることがあるし、アトラクションに乗るのだって長いこと待つから会話が持たない。その間に楽しませる術があるってのか?」
「うっ……」
確かに、なんとなく想像できる。確かに子連れとか他のカップルとかで並んで大変そうだ。その間に、お互い気まずくなったらデートどころの話じゃ無い。実際、初デートで遊園地に行ってすぐに別れたなんて話をよく聞く。
「じゃあ、どこならいいんですか?」
「水族館とか無難だがアリだな。天候に左右されないし、平日とかなら比較的に混んでないから移動がスムーズだ。色々見て回るだけでも楽しめるだろうぜ」
「ウィンドウショッピングってものアリね。パ●コとかOI●Iとか、家電量販店とか家具屋さんとかを色々見て回るだけでも楽しめるはずよ」
「あとは美術館もアリだね。落ち着いた雰囲気の場所だから、ゆったり過ごしたりするのにはちょうど良いし、色々見て回るだけでも楽しめると思うよ」
「……なんか色々見て回ってますね」
デートってそんなものなのだろうか?
もっとこう、楽しませるために趣向を凝らした方がいいのではと愚考してると、見透かされたかのように先輩に指摘される。
「デートってのはそこまで気張らなくてもいいんだよ。お前は気負いすぎ。寧ろ相手が萎縮するだろ?」
「でもそうだね、体験の共有がデートの醍醐味になるだろうから、一緒に何かをするってものいいとおもう。やっぱり、付き合って初めてのお出かけは思い出になるし」
「体験の共有……」
確かにリョウさんの言うとおり、一緒に何かをしたという経験は良い思い出になると思う。でも何がある?
滝本さんが喜びそうなことはなんだ?
今まで関わってきた上で、彼女が好きなモノや興味のあるモノが何かを探す。出会う前には何度かアニメのことをSNSで話していたし、初めてにあったのはライブ。その後は、僕の作った曲。それと、あぁ、コスプレも一緒にしたな。
と、そこまで考えて少し良い案が頭に過ぎった。
「何か思いついたのかい?」
「まぁ、まだ色々考えがまとまってはいないんですけど」
「とりあえず言ってみ」
「……コスプレ、とか?」
「「「は?」」」
テーブルに乗っているグラスの水面が揺れる。当の本人達からしたら考えもしないジャンルの話だからだ。とはいえ、僕にとって滝本さんが一番好ましいと言えるものがそれだったからだ。
ゲーム展のことは色々滅茶苦茶になっちゃったし、改めてちゃんとコスプレを楽しんでみたい。
「なんか、確かに涼風がそんなこと話してたな。コスプレが趣味だって」
「となると、コスプレのイベントとかかしら? でもこの前ゲーム展があったばかりだし、他にイベントあるかしら?」
「そうですよね」
花男さんは言うには、調べれば県外とかに色々あるかもしれないけど、初デートで県外までいくほど大がかりにしたくない。滝本さんも疲れてしまうだろうし、トラブルも多いはずだ。
やっぱり、コスプレって難しいのかな?
この前も衣装は滝本さんに用意してもらったし、ほとんどリードもしれもらえた。これじゃ僕が引っ張ってあげられない。
と、振り出しに戻ってしまいそうになった時、リョウさんは言い出した。
「スタジオで撮影するとかはどうかな?」
「そんなことできるんですか?」
「個人客でも貸してくれるスタジオはいっぱいあるらしいよ。衣装とか貸し出してくれるところにすれば、準備も簡単だし」
確かに、それができるなら調べてみよう。屋内のスタジオを貸し切りにできれば、比較的にトラブルも少ないし、なにより、一緒になにかしたっていう思い出を写真に残せる。
「んじゃ、それで決まりだな。あとは段取りきめっぞ」
「段取りですか」
「どこのスタジオにするかとか、集まる時間とか、そのあとどうするかとか、周辺を調べて退屈させないようにするんだ。こういうのは、男の仕事みたいなもんだしな」
先輩は具体的なプランを決めるため、僕にスマホでスタジオについて調べるように促した。先輩が言うには、アクセスしやすいこと、スタジオの設備や貸し出したりしてくれるもの、周辺に何かほかに食事とか楽しめる場所があるか、気にしだすときりがないほどたくさんある。
だけど、四人で話し合っていると、時間はかかるもののそれなりに良い立地にあるスタジオを見つけることができた。予約の方も、平日の日ならいい時間が空いている。終わった後は食事とか、楽しめる場所もたくさんある場所だ。
「まぁ、段取りっつっても、決めたことを必ずしなくちゃならんってわけじゃない。その場でやらなくていいって思ったことはしなくていい。その辺は相手の雰囲気を見て決めるんだ」
「先輩、なんでそんなに詳しいんですか」
と、話がまとまりつつあったとき、先輩はそんなことを言い出した。ここまで話して気になることができた。この人、妙に知識がある言い回しをする。
浮いた話なんて聞いたことない…あ、この前元カノがどうとか言ってたな。
「あれ、純君には話してなかったの? 敦君、しずくちゃんとできてたのよ」
「えっ!? そうだったんですか!?」
「花男! 余計な事いうな」
言われてみれば確かに葉月さんと一緒にいる機会は見かけるし、ある意味打ち解けた関係ではあるとは思っていたけど、恋仲だったなんて。
「あーそういえば、ひふみちゃんって、しずくちゃんのお気に入りよね。確か、面接の時にひふみちゃんを雇うか雇わないかで口論になって別れたんだっけ?」
「もうそんな昔の話はすんじゃねぇ!!」
ちょ・・・・・・なんで滝本さんを巡ってそんなことになってたの!?
ていうか、やっぱり葉月さんもちょっと変態なんだよな。それを言い出したら葉月さんのおかげで滝本さんと今の関係を持つことができたと思うと、逆に感謝するべきかもしれない。
本人は多分うれしくないだろうな。
「ちなみに、先輩は葉月さんとの初デートはどうしたんですか?」
目の前にわかりやすい実例がいる以上、聞いてみたくなった。こういう話は成功体験も失敗談も両方聞いておきたいからだ。参考になるかはわからないけれど、聞いてみて損はないだろう。
「さぁー、どうだったかな~」
しかし、先輩はその話題を振られると少し顔をしかめてはぐらかそうとした。
「おい敦。お前が忘れるなんてことあるわけないだろ?」
「黙秘権を行使する」
「え~? 気になるぅ~、しずくちゃんとなにしたの~? ねぇ教えてよ~」
話の矢面が先輩に集中し始めた。しかし一向に喋ろうとしない。個人的に気になる話ではあるけれど、話が逸れてしまいつつあるような気もする。
それは先輩も気が付いたのか、話を戻そうと僕に声をかける。
「そうだ、今滝本に連絡してみろよ」
「えぇっ!?」
いきなり切り出してきた先輩の言葉に耳を疑う。
今? いくらなんでも遅すぎだろう。だってもう時計の針は11時を回っている。終電までにはまだ時間があるけど、こんな夜遅くに連絡するのはいくら恋人の仲とは言え失礼すぎるんじゃないか?
僕は慌てて、それは失礼じゃ無いかと先輩に訴えた。
「さすがに電話は迷惑かもしれないから、メールかSNSにしてみたら?」
「リョウさんも先輩に乗り気なんですね・・・・・・」
「攻めるときはちゃんと攻めないと」
「いつやるの? 今でしょ!」
「花男、それもう古い」
まさか信頼していたリョウさんも、先輩達について僕を囲んでくるとは思わなかった。このまま僕がヘタレていてもキリが無いだろう。
しばらく黙り込んだ僕は、観念してスマホを取り出した。
・・・・・・よし、こうなったら僕も覚悟を決めるしか無い。スマホの電源をつけて、SNSの画面を開く。
相手は当然滝本さん。マスターアップの直前のあの日の謝罪以降で、会話はもう途切れている。僕はキーボードを開いて文字を打ち込む。
MASUDA 『こんばんわ。夜分に突然すみません。起きていますか?』
いざ画面に向かい合うと緊張するし、ドキドキもする。心の片隅で失礼じゃ無いかなといった後ろめたさも残っているのに、皮肉にも、こうしてSNSで文字をうつときは自然と言葉が出てくる。ホントは直接会って、ちゃんとおしゃべりできたほうがうれしいんだけどなぁ。
胸の内で嘆きながら送信ボタンを押した。
「送りました」
「しばらく様子見だね」
「やっぱりもう寝てるんじゃ無い? 睡眠不足はお肌に悪いし」
「そうですよ――」
――言いかけた途端、僕のスマホが端的なメロディを発した。この音は間違いなくSNSの着信音だ。その上、送ってきてくれた人は滝本さんだ。
「き、来ました」
「相変わらず早いな」
「それで、どんな感じかしら?」
ここにいる全員にせかされるようにスマホの画面を目に向ける。メッセ―ジのアイコンは滝本さんのものだ。やっぱり起きてたんだ。
ひふみん☆ 『はーい(^^)/ 起きてるよ(*^_^*)』
機嫌がよさそうな顔文字が添えてあるのをみて安堵のため息が出る。ふと周囲を見ると、先輩達が見世物を見るような目で僕を見ているのがしゃくになって、意識を画面に集中させる。ついでに見えないように手で画面をガードしながら。
MASUDA 『今、なにやってたんですか?』
ひふみん☆ 『宗次郎と遊んでたんだ(^o^)』
ひふみん☆ 『最近忙しかったから、かまってあげられなかったの(-_-)』
なんとなく滝本さんらしくて少しだけ頬の筋肉が緩むのを感じる。
もっと話していたいと思い、周囲の視線も忘れてSNSの画面に意識が集まっていく。
MASUDA 『ちなみに、どうやって遊んでるんですか?』
ひふみん☆『えっとね、宗次郎の好きなりんごとかあげたり、爪を切ってあげたりしてるの。普段は臆病だけど、今日は撫でられるくらい懐いてるの(●´ω`●)』
返信が来るとすぐに、おそらく、パジャマ姿の滝本さんの太ももの上で心地よさそうにしている宗次郎君の写真が送られてくる。
今少し滝本さんの太ももにドキッとしたのは内緒だ。だけど、この三日間、滝本さんの顔を見れてないのがさみしかったので、できたら宗次郎のツーショットの方がうれしかったな。
「やっぱりひふみちゃんって、画面越しだとすごくおしゃべりなのよね」
「顔文字は安定なんだよな」
「先輩も花男さんもあんまり見ないでくださいよぉ」
これ以上、滝本さんの個人情報をいけ好かない二人にまでばらしたくない。僕は二人の正面を向いて、二人には画面が見えないように立ち回る。するとリョウさんも二人の蛮行に見てられなくなったのか、なんとか二人を邪魔してくれる。
リョウさんに止められてようやく観念したと思ったら、先輩は今度はヤジを飛ばしてきた。
「おしゃべりばっかしてねぇで、さっさと用件を言ったらどうなんだ?」
「用件とは?」
「デートの誘いだよ。そのために連絡したんだろうが」
「で、でも・・・いきなりそんなこと・・・・・・」
ホントに僕にはハードルが高すぎる。いくら画面越しとはいえ、デートしませんかだなんて恥ずかしすぎて遅れる訳が無い。
そ、それに・・・今じゃ無くても明日でも大丈夫だろうし。こうして連絡できるなら――いや、そんなことばかりしてるから先輩にいつもドヤされるんだろうが。ならどうすればいい。考えろ。
音楽ばかりしか勉強してこなかった足りない頭を必死に動かして考える。大丈夫だ。リアルの時とは違ってアガったりしていない。ある程度の冷静さは保ててる。ならあとは機転とちょっとの勇気だけ。
何かを思いつく語彙力とそれを行動に移すことだけだ。
「・・・・・・よしっ」
さっきまで話し合っていたことを、端的に伝えられるように文字を起こす。
MASUDA 『滝本さん、またコスプレしたくないですか?』
ひふみん☆ 『えっΣ(゜゜) 急にどうしたの?』
あ、やばいやらかしちゃった!?
性急に話を切り出したせいか、滝本さんを驚かせてしまった。確かにいきなりこんなこと言われても驚いちゃうのも無理もない。
言い出した自分が言えたものではないが、前回の件で大変なことになったのがまだ印象に残っているのだろう。でも送信した以上、話を続けないと。
MASUDA 『あの、せっかくのお休みですし、なにか二人でできないかなって思って』
ひふみん☆ 『それって』
ひふみん☆ 『つまり』
ひふみん☆ 『あれだよねョ゚Д゚;))))ドキドキ』
MASUDA 『一応、デートのお誘いのつもりです』
ひふみん☆ 『(///(エ)///) カーッ』
顔文字だけで照れてるのが十分わかるけど、メッセを小刻みにしてるあたり、本当に動揺してるように見える。申し訳ないことしたなぁ。もうちょっと滝本さんの出方を見ればもっとうまくできたかもしれないのに。
MAZUDA 『今回は、イベントじゃなくてスタジオを予約したんです。そこなら前みたいにならないかなって』
ひふみん☆ 『前って……ゲーム展の時のこと(///△///)』
MASUDA 『その、あの時は本当にすみません』
やばい、また墓穴を掘ってしまった。これじゃあ全然話が進んでくれない。ゲーム展の時を引き合いに出すんじゃなかった。でもそれ以外にどうすれば。
ひふみん☆ 『あのことは、私、嫌じゃなかったよ? それで純君の気持ちを知ることができたし〃`_´〃』
MASUDA 『ありがとうございます』
それだけわかっただけでも安心した。何度も確認したことだけど、あのことは今思い返しても恥ずかしいし、正直どうかしてたと思う。
とはいえ、早く本題に戻らないと。
MASUDA 『あの、それで、都合はどうですか? 場所はこういうところなんですけど日時は三日後で時間は午前10時くらいに』
ひふみん☆ 『うん。大丈夫だよ』
MASUDA 『それと、待ち合わせ場所は――』
少し話が逸れたりしたけれど、なんとかデートの約束を取り付けることができた。一時はどうなるかと思ったけど、案ずるよりも生むがやすしとはこのことなのだろう。
僕の感情は想像以上に高揚していた。学生時代から女性に縁が無かったからこうしてデートの待ち合わせの場所とかを相談するなんて未知の体験だった僕には、これだけでもう胸がいっぱいになる気持ちになってしまっていた。
MASUDA 『それじゃあ、今夜はもう遅いですし、この辺にしましょう。次はまた明後日で』
ひふみん☆ 『うんっ。お休みなさいξ・◇・ξ/~~~ オヤスミー』
MASUDA 『お休みなさい』
と、そこで滝本さんとのやりとりを終わらせた。スマホをスリープモードにして一息。だめだ。まだドキドキしてる。SNSでも、好きな女の人と話すって、ここまでドキドキするとは思わなかった。その上、三日後には滝本さん本人と話すことになると思うと余計にだ。
SNSでもこんなんだったのだ。リアルではどうなってしまうのだろう。
「「「・・・・・・・」」」
と、自分だけの世界に浸ってしまっていた僕は、しばらく、僕を物珍しそうに見つめてる先輩達に気づかなかった。
「うわっ・・・・・・」
思わず後ずさってしまうと、その空間を埋めるように花男さんがぐっと詰め寄ってくる。面白そうなおもちゃを眺める子供のような笑みで。
「その様子だと、うまくいったみたいね」
「やればできるじゃないか。でもここからが本番だよ」
「そ、そうですよね」
そうだ。本番はここからなんだ。そしてこれからずっとこれを続けていく。恋人とはそういう物だ。でもここまで来ると少し自信がわいてきた。だけどここで調子に乗るのは死亡フラグだ。三日後に向けて万全な準備をしないと。
「しかし、ゲーム展のときもそうだったが、コイツってやるときゃやるんだよな」
「そうよね。佐藤君も少しは見習ってほしいわ」
「増田も大概だが、佐藤は筋金入りだしよ」
「・・・・・・」
またこの二人はこんなことを話している。ほりゃその通りなんだから言い返せないけどもうちょっと気を遣ってくれてもいいだろう。そもそも、こんなこと、佐藤さんの前ではしばかれるのが怖いから話さないくせに。
と、ふとさっきからおとなしかったリョウさんがさっきの僕と同じようにスマホをいじっているのが見えた。
「あら? リョウちゃん、さっきから誰と話してるの?」
「あぁ、これはですね。さっきの会話を佐藤君にも知らせてあげようと思って」
「「おいーー!!」」
あぁ、明日のこの二人の悲惨な未来が目に浮かぶようだ。人の恋路を笑うと馬に引かれるなんて言われるけど、この際僕にはまったく関係ないので無視しよう。
それよりも大事なことが僕にはある。
――何せ三日後は人生で初めてのデートなのだから。
一番面白いと思ったシーン
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